Möbius変換

同義語:メビウス変換Möbius transformation

概要

Möbius変換(Möbius transformation)とは、$ad-bc\neq0$ を満たす複素数 $a,b,c,d$ により $z\mapsto\frac{az+b}{cz+d}$ で与えられる、Riemann 球面 $\hat{\mathbb{C}}=\mathbb{C}\cup\{\infty\}$ の変換である。合成が係数の行列の積に対応し、Möbius 変換の全体は群 $PGL_2(\mathbb{C})\cong PSL_2(\mathbb{C})$ と同型で、$\hat{\mathbb{C}}$ の双正則な自己同型全体と一致する。円と直線を円と直線に移し、相異なる 3 点を相異なる 3 点に移すものがただ 1 つあるので 4 点の複比を保つ。恒等写像でないものは不動点の個数と跡の 2 乗により放物型・楕円型・双曲型・斜航型に分かれる。

$$\newcommand{C}[0]{\mathbb{C}} \newcommand{div}[0]{\mathbin{÷}} \newcommand{N}[0]{\mathbb{N}} \newcommand{Q}[0]{\mathbb{Q}} \newcommand{R}[0]{\mathbb{R}} \newcommand{Z}[0]{\mathbb{Z}} $$

前提知識: 複素数, 群, Riemann球面

何を捉える概念か

複素数平面で $w=1/z$ を考えると、原点を通らない直線は原点を通る円に、原点を通らない円は円に移る(w=1/z による図形の変換)。平行移動 $z\mapsto z+b$ や回転と拡大 $z\mapsto az$ も円を円に、直線を直線に移すから、これらを組み合わせた $z\mapsto\dfrac{az+b}{cz+d}$ も「円と直線」の全体を保つ。無限遠点 $\infty$ を加えた Riemann球面 $\hat{\mathbb{C}}$ の上では直線も「$\infty$ を通る円」になり、この変換は $\hat{\mathbb{C}}$ の全単射になる。これが Möbius 変換である。
Möbius 変換は 3 つの顔をもつ。1 つ目は $\hat{\mathbb{C}}$ の円を円に移す幾何的な変換、2 つ目は $2\times2$ 行列の積と合成が対応する群 $PGL_2(\mathbb{C})$、3 つ目は Riemann 球面の双正則な自己同型である。相異なる 3 点を相異なる 3 点に移す Möbius 変換がただ 1 つあることから、4 点の複比が不変量になり、恒等写像でない変換は不動点の個数と跡の値で 4 つの型に分かれる。高校数学の 1次分数変換(高校数学) は同じ変換を平面の計算として扱っており、この記事はその群の構造・自己同型としての意味・分類を扱う。
左:縦線(赤)・横線(青)・円 |z−2|=1(緑)。右:w=1/z による像。直線は原点を通る円に、原点を通らない円は円に移る 左:縦線(赤)・横線(青)・円 |z−2|=1(緑)。右:w=1/z による像。直線は原点を通る円に、原点を通らない円は円に移る
図の右では、縦線 $\operatorname{Re}z=x_0$ が中心 $\frac{1}{2x_0}$、半径 $\frac{1}{2\lvert x_0\rvert}$ の円に、横線 $\operatorname{Im}z=y_0$ が中心 $-\frac{i}{2y_0}$、半径 $\frac{1}{2\lvert y_0\rvert}$ の円に移っている(どちらも原点を除く)。緑の円 $\lvert z-2\rvert=1$ の像は中心 $\frac23$、半径 $\frac13$ の円で、もとの円の中心 $2$ の像 $\frac12$(緑の点)は像の円の中心ではない。

定義

以下、$\hat{\mathbb{C}}=\mathbb{C}\cup\{\infty\}$ は Riemann球面 を表す。

Möbius変換

複素数 $a,b,c,d$ が $ad-bc\neq0$ を満たすとき、写像 $T\colon\hat{\mathbb{C}}\to\hat{\mathbb{C}}$ を
$$ T(z)=\frac{az+b}{cz+d}\quad(z\in\mathbb{C},\ cz+d\neq0),\qquad T\Bigl(-\frac dc\Bigr)=\infty\quad(c\neq0\text{ のとき}),\qquad T(\infty)=\begin{cases}a/c&(c\neq0)\\ \infty&(c=0)\end{cases} $$
で定め、Möbius 変換(Möbius transformation)という。行列 $A=\begin{pmatrix}a&b\\c&d\end{pmatrix}$ はその係数の行列で、$T$ を $T_A$ と書く。

$z=-d/c$ と $z=\infty$ での値は、$z$ をそこへ近づけたときの $\frac{az+b}{cz+d}$ の極限である。$ad-bc\neq0$ なので、$cz+d=0$ となる $z$ では $az+b\neq0$ であり、分子と分母が同時に $0$ になることはない。$ad-bc=0$ の場合を除くのは、そのとき式が定数になって全単射にならないからである(ex-mobius-degenerate)。同じ変換を 1 次分数変換(linear fractional transformation)とも呼ぶ。ただし Bec25 Definition 3.1.1 は $ad-bc=0$ の場合も含めて「linear fractional transformation」と呼び、$ad-bc\neq0$ のものを Möbius 変換と呼んでいる。
基本的な例は次の 3 種類である。

  • 平行移動 $z\mapsto z+b$(行列 $\begin{pmatrix}1&b\\0&1\end{pmatrix}$)。$\infty$ を動かさない。
  • 回転と拡大 $z\mapsto kz$($k\neq0$、行列 $\begin{pmatrix}k&0\\0&1\end{pmatrix}$)。$0$ と $\infty$ を動かさない。
  • 逆数 $J(z)=1/z$(行列 $\begin{pmatrix}0&1\\1&0\end{pmatrix}$)。$0$ と $\infty$ を入れ替える。
    Möbius 変換の性質は、$\hat{\mathbb{C}}$ の点を $\mathbb{C}^2$ の $0$ でないベクトルで表すと見通しよく扱える。写像 $\pi\colon\mathbb{C}^2\setminus\{0\}\to\hat{\mathbb{C}}$ を、$\pi(x,y):=x/y$($y\neq0$)、$\pi(x,0):=\infty$ で定める。$\pi$ は全射で、$\pi(v)=\pi(v')$ となるのは $v'=\lambda v$($\lambda\in\mathbb{C}\setminus\{0\}$)のときに限る。つまり $\hat{\mathbb{C}}$ は複素射影直線と同一視されている(Riemann球面 の記事の定理「Riemann 面としての構造と射影直線との一致」は座標の順序を入れ替えた同一視 $[a_0:a_1]\mapsto a_1/a_0$ を使っている)。
斉次座標で見た Möbius 変換

$A\in GL_2(\mathbb{C})$ と $v\in\mathbb{C}^2\setminus\{0\}$(列ベクトル)について $T_A(\pi(v))=\pi(Av)$ が成り立つ。すなわち次の図式は可換である。
$$ \xymatrix{ \mathbb{C}^2\setminus\{0\} \ar[r]^{A} \ar@{->>}[d]_{\pi} & \mathbb{C}^2\setminus\{0\} \ar@{->>}[d]^{\pi} \\ \hat{\mathbb{C}} \ar[r]_{T_A} & \hat{\mathbb{C}} } $$
等式で書けば $T_A\circ\pi=\pi\circ A$ である。

要点:$v$ を $(z,1)$ または $(1,0)$ の定数倍にとり、両辺を直接計算する。

詳しい証明を開く

$A$ は可逆だから $Av\neq0$ である。$\pi$ の値は $v$ を $0$ でない数倍しても変わらないので、$v=(z,1)$($z\in\mathbb{C}$)と $v=(1,0)$ の場合を確かめればよい。$v=(z,1)$ なら $Av=(az+b,\ cz+d)$ で、$cz+d\neq0$ なら $\pi(Av)=\frac{az+b}{cz+d}=T_A(z)$、$cz+d=0$ なら $\pi(Av)=\infty=T_A(z)$ である。$v=(1,0)$ なら $\pi(v)=\infty$、$Av=(a,c)$ で、$\pi(Av)$ は $c\neq0$ なら $a/c$、$c=0$ なら $\infty$ であり、どちらも $T_A(\infty)$ に等しい。

群としての構造

Möbius 変換の群と行列の群
  1. $A,B\in GL_2(\mathbb{C})$ について $T_{AB}=T_A\circ T_B$、$T_I=\mathrm{id}$ である。とくに $T_A$ は全単射で $T_A^{-1}=T_{A^{-1}}$ であり、Möbius 変換の全体 $\mathrm{M\ddot{o}b}$ は合成について群をなし、$A\mapsto T_A$ は全射な群準同型 $GL_2(\mathbb{C})\to\mathrm{M\ddot{o}b}$ である。
  2. $T_A=\mathrm{id}$ となるのは、$A$ がスカラー行列 $\lambda I$($\lambda\neq0$)のときに限る。したがって $\mathrm{M\ddot{o}b}\cong PGL_2(\mathbb{C}):=GL_2(\mathbb{C})/\{\lambda I\mid\lambda\in\mathbb{C}\setminus\{0\}\}$ である。
  3. $A\mapsto T_A$ を $SL_2(\mathbb{C})=\{A\mid\det A=1\}$ に制限しても全射で、核は $\{\pm I\}$ である。したがって $\mathrm{M\ddot{o}b}\cong PSL_2(\mathbb{C}):=SL_2(\mathbb{C})/\{\pm I\}$ である。

(i):$v\in\mathbb{C}^2\setminus\{0\}$ について、lem-mobius-homogeneous を 3 回使うと
$$ T_{AB}(\pi(v))=\pi(ABv)=T_A(\pi(Bv))=T_A(T_B(\pi(v))) $$
である。$\pi$ は全射だから $T_{AB}=T_A\circ T_B$ を得る。$T_I=\mathrm{id}$ は定義から明らかである。よって $T_A\circ T_{A^{-1}}=T_{A^{-1}}\circ T_A=T_I=\mathrm{id}$ となり、$T_A$ は全単射で逆写像も Möbius 変換である。Möbius 変換の合成も Möbius 変換だから、$\mathrm{M\ddot{o}b}$ は写像の合成について群をなし、$A\mapsto T_A$ は定義から全射な群準同型である。
(ii):スカラー行列 $\lambda I$ では $T_{\lambda I}(z)=\lambda z/\lambda=z$ である。逆に $T_A=\mathrm{id}$ とする。$T_A(\infty)=\infty$ から $c=0$、$T_A(0)=b/d=0$ から $b=0$、$T_A(1)=a/d=1$ から $a=d$ となり、$A=aI$ である。よって準同型 $A\mapsto T_A$ の核はスカラー行列全体で、剰余群 の記事の定理「剰余群の普遍性」により、全射な準同型は核による剰余群からの同型を引き起こす。
(iii):$A\in GL_2(\mathbb{C})$ に対し $s^2=\det A$ となる $s\in\mathbb{C}$ をとると、$\det(s^{-1}A)=1$ で、(i) と (ii) より $T_{s^{-1}A}=T_{s^{-1}I}\circ T_A=T_A$ である。よって制限も全射である。$SL_2(\mathbb{C})$ の中の核は、スカラー行列 $\lambda I$ で $\det(\lambda I)=\lambda^2=1$ のもの、すなわち $\pm I$ である。

したがって、Möbius 変換の合成は係数の行列の積で計算でき、逆変換は逆行列(またはその定数倍 $\begin{pmatrix}d&-b\\-c&a\end{pmatrix}$)で与えられる。逆変換の式 $T^{-1}(z)=\frac{dz-b}{-cz+a}$ は Bec25 Proposition 3.1.2、Hit18 Theorem 3.4.2 にある。高校数学の 1次分数変換(高校数学) では合成と行列の積の対応を $\infty$ を除いた平面の計算で確かめており、この定理は $\infty$ まで込めて群の同型を与える。行列を行列式 $1$ にそろえても $\pm$ の違いが残るので、$SL_2(\mathbb{C})\to\mathrm{M\ddot{o}b}$ は 2 対 1 の全射準同型である。$SL_2(\mathbb{C})$ と Lorentz 群の関係(SL(2,C)とSO^+(1,3))にも同じ形の 2 対 1 の写像が現れる。

Riemann 球面の自己同型

$\hat{\mathbb{C}}$ から自身への双正則写像は、ちょうど Möbius 変換である。すなわち $\operatorname{Aut}(\hat{\mathbb{C}})=\mathrm{M\ddot{o}b}\cong PGL_2(\mathbb{C})$ である。

Riemann球面 の記事の系「Riemann 球面の自己同型」により、双正則写像 $F\colon\hat{\mathbb{C}}\to\hat{\mathbb{C}}$ であることと、$ad-bc\neq0$ となる $a,b,c,d$ で $F$ が def-mobius-main の形に書けることは同値である。その証明の要点は、定数でない正則写像 $\hat{\mathbb{C}}\to\hat{\mathbb{C}}$ が有理関数で、次数 $k$ の有理関数はすべての値を重複度込みで $k$ 回とることであり、全単射なら $k=1$ になる。群の同型は thm-mobius-group による。

生成元

3 種類の変換による分解

すべての Möbius 変換は、平行移動 $z\mapsto z+b$、回転と拡大 $z\mapsto kz$($k\neq0$)、逆数 $J(z)=1/z$ の合成で書ける。具体的には、$T(z)=\frac{az+b}{cz+d}$、$\Delta:=ad-bc$ とすると、$c=0$ なら $T(z)=\frac adz+\frac bd$、$c\neq0$ なら
$$ T(z)=\frac ac-\frac{\Delta}{c^2}\cdot\frac{1}{z+d/c} $$
であり、$T$ は「$d/c$ だけ平行移動、$J$、$-\Delta/c^2$ 倍、$a/c$ だけ平行移動」の順の合成に等しい($\infty$ と $-d/c$ でも等しい)。

$c=0$ なら $ad\neq0$ で、式は明らかである。$c\neq0$ のとき、行列の積を計算すると
$$ \begin{pmatrix}1&a/c\\0&1\end{pmatrix}\begin{pmatrix}-\Delta/c^2&0\\0&1\end{pmatrix}\begin{pmatrix}0&1\\1&0\end{pmatrix}\begin{pmatrix}1&d/c\\0&1\end{pmatrix}=\frac1c\begin{pmatrix}a&b\\c&d\end{pmatrix} $$
となる。thm-mobius-group により、左辺の 4 つの行列の Möbius 変換の合成は右辺の行列の Möbius 変換 $T_{c^{-1}A}=T_A$ に $\hat{\mathbb{C}}$ 全体で等しい。

この分解は Bec25 Proposition 3.1.4 と同じである。平行移動と回転・拡大は $\mathbb{C}$ の相似変換で、円を円に、直線を直線に移す。したがって円についての問題は $J$ についての問題に帰着する。

円を円に移すこと

$\hat{\mathbb{C}}$ の円とは、$\mathbb{C}$ の円、または $\mathbb{C}$ の直線に $\infty$ を付け加えたもののことをいう(Riemann球面 の記事での呼び方)。実数 $A_0,D_0$ と複素数 $\beta$ で $\lvert\beta\rvert^2>A_0D_0$ を満たすものに対し、
$$ C(A_0,\beta,D_0):=\{z\in\mathbb{C}\mid A_0z\bar z+\bar\beta z+\beta\bar z+D_0=0\}\ \cup\ (\text{$A_0=0$ なら }\{\infty\}) $$
とおくと、$\hat{\mathbb{C}}$ の円はちょうどこの形の集合である。実際 $z=u+iv$ とすると $\bar\beta z+\beta\bar z=2(\operatorname{Re}\beta)u+2(\operatorname{Im}\beta)v$ だから、$A_0\neq0$ なら中心 $-\beta/A_0$、半径 $\sqrt{\lvert\beta\rvert^2-A_0D_0}/\lvert A_0\rvert$ の円、$A_0=0$ なら $\beta\neq0$ で直線(と $\infty$)であり、逆にどの円・直線もこの形に書ける。

円は円に移る

Möbius 変換は $\hat{\mathbb{C}}$ の円を $\hat{\mathbb{C}}$ の円に移す。とくに $\hat{\mathbb{C}}$ の円全体の上の全単射を引き起こす。

prop-mobius-generators により、平行移動・回転と拡大・$J$ について示せば十分である(全単射であることは、逆変換も Möbius 変換であることから従う)。$J$ について、$z\neq0,\infty$ に対し $w=1/z$ とおくと、$A_0z\bar z+\bar\beta z+\beta\bar z+D_0=0$ に $z=1/w$ を代入して $w\bar w$ を掛ければ
$$ D_0w\bar w+\beta w+\bar\beta\bar w+A_0=0 $$
となる。これは $C(D_0,\bar\beta,A_0)$ の式で、条件 $\lvert\bar\beta\rvert^2>D_0A_0$ も満たす。さらに $0\in C(A_0,\beta,D_0)$ は $D_0=0$、すなわち $\infty\in C(D_0,\bar\beta,A_0)$ と同値であり、$\infty$ と $0$ についても同様だから、$J(C(A_0,\beta,D_0))=C(D_0,\bar\beta,A_0)$ である。平行移動と回転・拡大も式の形を保つ。

詳細

$w=z+b$ なら $z=w-b$ を代入して整理すると、$A_0w\bar w+\overline{(\beta-A_0b)}\,w+(\beta-A_0b)\bar w+D_0'=0$、$D_0'=A_0\lvert b\rvert^2-\bar\beta b-\beta\bar b+D_0$ となり、$\lvert\beta-A_0b\rvert^2-A_0D_0'=\lvert\beta\rvert^2-A_0D_0>0$ である。$w=kz$($k\neq0$)なら $z=w/k$ を代入して $\lvert k\rvert^2$ を掛けると、$A_0w\bar w+\overline{\beta k}\,w+\beta k\,\bar w+D_0\lvert k\rvert^2=0$ となり、$\lvert\beta k\rvert^2-A_0D_0\lvert k\rvert^2=\lvert k\rvert^2(\lvert\beta\rvert^2-A_0D_0)>0$ である。どちらも $\infty$ を動かさず、$A_0=0$ は保たれる。

この定理は Bec25 Theorem 3.1.5、Hit18 Theorem 3.4.5 にあたる。立体射影で $\hat{\mathbb{C}}$ を球面とみると、$J$ は球面の回転であり、円を円に移すことは回転が球面上の円を保つことからも分かる(Riemann球面 の記事の例「$z\mapsto1/z$ は球面の半回転」)。

不動点・3 点・複比

不動点の個数

恒等写像でない Möbius 変換の $\hat{\mathbb{C}}$ における不動点は、1 個または 2 個である。

$T(z)=\frac{az+b}{cz+d}$ とする。$c\neq0$ のとき、$T(\infty)=a/c\neq\infty$ だから $\infty$ は不動点でなく、$z\in\mathbb{C}$ が不動点であることは $cz^2+(d-a)z-b=0$ と同値である(このとき $cz+d\neq0$ である。$cz+d=0$ なら $T(z)=\infty\neq z$)。これは 2 次方程式なので、根は 1 個か 2 個である。$c=0$ のとき、$\infty$ は不動点で、$z\in\mathbb{C}$ が不動点であることは $(d-a)z=b$ と同値である。$a\neq d$ なら不動点はもう 1 個 $b/(d-a)$ あり、$a=d$ なら $T$ が恒等写像でないことから $b\neq0$ で、$\infty$ 以外に不動点はない。

3 点の行き先で決まる

$z_1,z_2,z_3$ を $\hat{\mathbb{C}}$ の相異なる 3 点、$w_1,w_2,w_3$ を $\hat{\mathbb{C}}$ の相異なる 3 点とする。$T(z_j)=w_j$($j=1,2,3$)を満たす Möbius 変換 $T$ がただ 1 つ存在する。

一意性:$T,T'$ がどちらも条件を満たせば、$T'^{-1}\circ T$ は $z_1,z_2,z_3$ の 3 点を動かさない Möbius 変換なので、prop-mobius-fixed-points により恒等写像であり、$T=T'$ である。
存在:$z_1,z_2,z_3$ を順に $1,0,\infty$ に移す Möbius 変換 $S$ があれば十分である。実際、同じように $w_1,w_2,w_3$ を $1,0,\infty$ に移す $S'$ をとれば、$T:=S'^{-1}\circ S$ が求めるものである。$z_1,z_2,z_3$ がすべて $\mathbb{C}$ の点なら
$$ S(z)=\frac{(z-z_2)(z_1-z_3)}{(z-z_3)(z_1-z_2)} $$
とおけばよい。

詳細

これは行列 $\begin{pmatrix}z_1-z_3&-z_2(z_1-z_3)\\z_1-z_2&-z_3(z_1-z_2)\end{pmatrix}$ の Möbius 変換で、その行列式は $(z_1-z_3)(z_1-z_2)(z_2-z_3)\neq0$ であり、$S(z_1)=1$、$S(z_2)=0$、$S(z_3)=\infty$ を満たす。$z_j$ の 1 つが $\infty$ のときは、$\infty$ を含む 2 つの因子を消した式 $z_1=\infty$ なら $\frac{z-z_2}{z-z_3}$、$z_2=\infty$ なら $\frac{z_1-z_3}{z-z_3}$、$z_3=\infty$ なら $\frac{z-z_2}{z_1-z_2}$ が同じ性質をもつ。

この定理は Hit18 Theorem 3.4.8(Fundamental Theorem of Möbius Transformations)、Bec25 Corollary 3.2.11 にある。証明の $S$ が 4 点の複比を与える。

複比

$z_2,z_3,z_4$ を $\hat{\mathbb{C}}$ の相異なる 3 点、$z_1\in\hat{\mathbb{C}}$ とする。$z_2,z_3,z_4$ を順に $1,0,\infty$ に移すただ 1 つの Möbius 変換を $S$ とし、$(z_1,z_2;z_3,z_4):=S(z_1)$ を 4 点の複比(cross ratio)という。4 点がすべて $\mathbb{C}$ の点なら
$$ (z_1,z_2;z_3,z_4)=\frac{(z_1-z_3)(z_2-z_4)}{(z_1-z_4)(z_2-z_3)} $$
である。

この式と並べ方は Hit18 Definition 3.4.10 と 1次分数変換(高校数学) の定義「4 点の複比」に一致する。Bec25 Definition 3.2.8 は $z_1,z_2,z_3$ を $0,1,\infty$ に移す順に並べるので、文献によって複比の並べ方が違うことに注意する。

複比の不変性

$z_2,z_3,z_4$ が相異なるとき、任意の Möbius 変換 $T$ について $(Tz_1,Tz_2;Tz_3,Tz_4)=(z_1,z_2;z_3,z_4)$ である。

$S$ を $z_2,z_3,z_4$ を $1,0,\infty$ に移す Möbius 変換とすると、$S\circ T^{-1}$ は $Tz_2,Tz_3,Tz_4$ を $1,0,\infty$ に移す Möbius 変換である。thm-mobius-three-points の一意性により、これが $(\,\cdot\,,Tz_2;Tz_3,Tz_4)$ を与える変換だから、$(Tz_1,Tz_2;Tz_3,Tz_4)=S\circ T^{-1}(Tz_1)=S(z_1)=(z_1,z_2;z_3,z_4)$ である。

4 点が同じ円に乗る条件
  1. 相異なる 3 点を通る $\hat{\mathbb{C}}$ の円はただ 1 つある。
  2. $\hat{\mathbb{C}}$ の相異なる 4 点 $z_1,z_2,z_3,z_4$ が同じ円に乗ることは、複比 $(z_1,z_2;z_3,z_4)$ が実数であることと同値である。

$S$ を $z_2,z_3,z_4$ を $1,0,\infty$ に移す Möbius 変換とする。thm-mobius-circles により、$S$ は $z_2,z_3,z_4$ を通る円と $1,0,\infty$ を通る円を 1 対 1 に対応させる。$\infty$ を通る $\hat{\mathbb{C}}$ の円は直線に $\infty$ を加えたもので、$0$ と $1$ を通る直線は実軸だけだから、$1,0,\infty$ を通る円は $\mathbb{R}\cup\{\infty\}$ ただ 1 つである。よって $z_2,z_3,z_4$ を通る円は $S^{-1}(\mathbb{R}\cup\{\infty\})$ ただ 1 つであり、(i) が従う。$z_1$ がこの円に乗ることは $S(z_1)\in\mathbb{R}\cup\{\infty\}$ と同値で、$z_1\neq z_4$ より $S(z_1)\neq\infty$ だから、これは $(z_1,z_2;z_3,z_4)=S(z_1)$ が実数であることと同値である。

たとえば単位円上の 4 点では $(-i,i;1,-1)=-1$ は実数であり、単位円上にない $0$ を入れると $(0,i;1,-1)=i$ は実数でない。単位円上の 4 点の複比が実数になることは、高校数学の 円周上の4点の複比 や 円周角の定理 とも関係している。

例

Cayley 変換

$C(z)=\dfrac{z-i}{z+i}$ は上半平面 $H:=\{z\in\mathbb{C}\mid\operatorname{Im}z>0\}$ を単位円板 $D:=\{w\in\mathbb{C}\mid\lvert w\rvert<1\}$ の上へ全単射に移し、$\mathbb{R}\cup\{\infty\}$ を単位円に移す。
実際、$\lvert C(z)\rvert<1$ は $\lvert z-i\rvert<\lvert z+i\rvert$、すなわち「$z$ が $-i$ より $i$ に近い」ことと同値で、これは $\operatorname{Im}z>0$ と同値である。同様に $\lvert C(z)\rvert=1$ は $z\in\mathbb{R}$ と同値で、$C(\infty)=1$ である。$C$ は $\hat{\mathbb{C}}$ の全単射で、$\hat{\mathbb{C}}$ を $H$、$\mathbb{R}\cup\{\infty\}$、下半平面に分けると、それぞれが $D$、単位円、$\lvert w\rvert>1$ と $\infty$ からなる部分に移るので、$C(H)=D$ である。たとえば $C(i)=0$、$C(0)=-1$、$C(1)=-i$、$C(-1)=i$ である。

左:上半平面の横線(青)と縦線(赤)。右:Cayley 変換による像。横線は点 1 で単位円に内側から接する円に、縦線は点 1 を通る円の弧に移る 左:上半平面の横線(青)と縦線(赤)。右:Cayley 変換による像。横線は点 1 で単位円に内側から接する円に、縦線は点 1 を通る円の弧に移る
図では、上半平面の横線 $\operatorname{Im}z=y_0$ は点 $1$ で単位円に内側から接する円に、縦線 $\operatorname{Re}z=x_0$ は点 $1$ と $C(x_0)$ を通る円の弧に移っている。どちらも $\infty$ を通る「円」なので、像は $C(\infty)=1$ を通る。

単位円板の自己同型

$\lvert a\rvert<1$、$\theta\in\mathbb{R}$ とし、$\varphi(z)=e^{i\theta}\dfrac{z-a}{1-\bar az}$ とおく。係数の行列 $\begin{pmatrix}e^{i\theta}&-e^{i\theta}a\\-\bar a&1\end{pmatrix}$ の行列式は $e^{i\theta}(1-\lvert a\rvert^2)\neq0$ なので $\varphi$ は Möbius 変換である。恒等式
$$ \lvert z-a\rvert^2-\lvert1-\bar az\rvert^2=(\lvert z\rvert^2-1)(1-\lvert a\rvert^2) $$
により、$\lvert z\rvert<1$ なら $\lvert\varphi(z)\rvert<1$、$\lvert z\rvert=1$ なら $\lvert\varphi(z)\rvert=1$ である。逆変換 $\varphi^{-1}(w)=e^{-i\theta}\dfrac{w+ae^{i\theta}}{1+\bar ae^{-i\theta}w}$ も $a$ を $-ae^{i\theta}$(絶対値は $1$ より小さい)、$\theta$ を $-\theta$ に取り替えた同じ形だから、$\varphi$ は単位円板 $D$ の上への全単射で、$\varphi(a)=0$ である。$D$ のどの点も、この形の変換で $0$ に移せる。

実係数の変換と上半平面

$a,b,c,d$ が実数で $ad-bc>0$ なら、$T(z)=\frac{az+b}{cz+d}$ は上半平面 $H$ を $H$ の上へ移す。実際、$z\in H$ なら $cz+d\neq0$ で、
$$ \operatorname{Im}T(z)=\frac{(ad-bc)\operatorname{Im}z}{\lvert cz+d\rvert^2}>0 $$
である(分子と分母に $\overline{cz+d}$ を掛けて虚部をとる)。逆変換も実係数で行列式が正だから、$T$ は $H$ の全単射である。この形の変換は上半平面を舞台にする双曲幾何学のモデルで合同変換の役割を果たすが、この記事ではそこへ立ち入らない。

型の分類の例

次の変換の係数を行列式 $1$ にそろえた行列の跡の 2 乗(下の thm-mobius-classification の不変量)は次のとおりである。

  • $z\mapsto z+1$:$\begin{pmatrix}1&1\\0&1\end{pmatrix}$、跡の 2 乗は $4$。不動点は $\infty$ だけ。
  • $z\mapsto-1/z$:$\begin{pmatrix}0&-1\\1&0\end{pmatrix}$、跡の 2 乗は $0$。不動点は $\pm i$ で、2 回続けると恒等写像になる。
  • $z\mapsto\frac{z+1}{z+2}$:$\begin{pmatrix}1&1\\1&2\end{pmatrix}$、跡の 2 乗は $9$。不動点は $z^2+z-1=0$ の根 $\frac{-1\pm\sqrt5}{2}$。
  • $z\mapsto-4z$:$\begin{pmatrix}2i&0\\0&-i/2\end{pmatrix}$、跡の 2 乗は $-\frac94$。不動点は $0$ と $\infty$。

共役と 4 つの型

Möbius 変換 $S$ で座標を取り替えると、$T$ は $STS^{-1}$ に変わる。これを $T$ と共役な変換という。共役な変換は不動点の個数が同じで($S$ が $T$ の不動点を $STS^{-1}$ の不動点に移す)、点の動き方も $S$ で移り合う。そこで、共役で変わらない量で Möbius 変換を分類する。
$T\neq\mathrm{id}$ に対し、$T=T_A$ となる $A\in SL_2(\mathbb{C})$ は thm-mobius-group の (iii) により $\pm A$ の 2 つだけだから、跡の 2 乗
$$ \tau(T):=(\operatorname{tr}A)^2 $$
は $T$ だけで決まる。$STS^{-1}$ には $BAB^{-1}$($S=T_B$、$B\in SL_2(\mathbb{C})$)が対応し、$\operatorname{tr}(BAB^{-1})=\operatorname{tr}A$ だから、$\tau$ は共役で変わらない。

Möbius 変換の分類

$T$ を恒等写像でない Möbius 変換とする。
(R1) $\tau(T)=4$ であることと、$T$ の不動点がちょうど 1 個であることは同値で、このとき $T$ は $z\mapsto z+1$ と共役である。
(R2) $\tau(T)\neq4$ であることと、$T$ の不動点がちょうど 2 個であることは同値で、このとき $T$ は $\lambda\neq0,1$ を満たすある $\lambda$ について $z\mapsto\lambda z$ と共役であり、$\tau(T)=\lambda+2+\lambda^{-1}$ である。$\lambda$ は $\lambda$ と $\lambda^{-1}$ の入れ替えを除いて $T$ で決まる。
(R3) 恒等写像でない 2 つの Möbius 変換が共役であることと、$\tau$ の値が等しいことは同値である。

不動点の個数と $\tau$

。$T=T_A$、$A=\begin{pmatrix}a&b\\c&d\end{pmatrix}\in SL_2(\mathbb{C})$ とする。$c\neq0$ のとき、prop-mobius-fixed-points の証明のとおり不動点は $cz^2+(d-a)z-b=0$ の根で、判別式は $(d-a)^2+4bc=(a+d)^2-4(ad-bc)=\tau(T)-4$ だから、不動点が 1 個であることは $\tau(T)=4$ と同値である。$c=0$ のときも、不動点が $\infty$ だけであることは $\tau(T)=4$ と同値である。

詳細

$c=0$ のとき、$ad=1$ で、$\infty$ は不動点であり、prop-mobius-fixed-points の証明のとおり、もう 1 つの不動点があることは $a\neq d$ と同値である。$ad=1$ のもとで $a=d$ は $a=d=\pm1$、すなわち $\tau(T)=(a+d)^2=4$ と同値である($(a+a^{-1})^2=4$ は $a=\pm1$ と同値)。


不動点が 1 個のとき。不動点を $p$ とし、$p$ を $\infty$ に移す Möbius 変換 $S$ をとる(thm-mobius-three-points)。$U:=STS^{-1}$ は $\infty$ だけを動かさない。$U(\infty)=\infty$ だから $U(z)=\alpha z+\beta$ の形で、$\alpha\neq1$ なら $\beta/(1-\alpha)$ がもう 1 つの不動点になるので $\alpha=1$ であり、$U\neq\mathrm{id}$ より $\beta\neq0$ である。$R(z):=z/\beta$ とすると $RUR^{-1}(z)=z+1$ である。
不動点が 2 個のとき。不動点を $p\neq q$ とし、$p$ を $0$ に、$q$ を $\infty$ に移す Möbius 変換 $S$ をとる。$U:=STS^{-1}$ は $0$ と $\infty$ を動かさないので、行列は $b=c=0$ の形で $U(z)=\lambda z$、$\lambda:=a/d$ である。$U\neq\mathrm{id}$ より $\lambda\neq1$ である。$ad=1$ なので $\lambda=a^2$ で、$\tau(T)=\tau(U)=(a+a^{-1})^2=\lambda+2+\lambda^{-1}$ である。$p$ と $q$ の役割を入れ替えると $\lambda$ は $\lambda^{-1}$ に変わる。
(iii)。共役なら $\tau$ が等しいことは上で見た。逆に $\tau$ が等しければ、どちらも同じ標準形と共役になる。
詳細

$\tau(T)=\tau(T')$ とする。$\tau=4$ なら両方とも $z+1$ と共役である。$\tau\neq4$ なら、$T,T'$ はそれぞれ $\lambda z$、$\lambda'z$ と共役で、$\lambda$ と $\lambda'$ はどちらも 2 次方程式 $x^2+(2-\tau)x+1=0$ の根である。その 2 根は互いに逆数だから $\lambda'=\lambda$ または $\lambda'=\lambda^{-1}$ で、$J(z)=1/z$ について $J\circ(\lambda z)\circ J^{-1}=\lambda^{-1}z$ だから、$T$ と $T'$ は共役である。

不動点が 2 個の場合は、$\lambda$ の値によってさらに 3 つに分かれる。$\lambda$ は $x^2+(2-\tau)x+1=0$ の根なので、$\tau$ の値だけで判定できる。

型$\tau(T)$不動点標準形標準形での点の動き
放物型(parabolic)$4$1 個$z+1$平行移動(不動点を $0$ に置くと、$0$ で接する円の上を $0$ に近づく)
楕円型(elliptic)$[0,4)$2 個$e^{i\theta}z$($e^{i\theta}\neq1$)不動点を中心とする円の上を回る
双曲型(hyperbolic)$(4,\infty)$2 個$kz$($k>0$、$k\neq1$)半直線に沿って一方の不動点から他方へ
斜航型(loxodromic)$\mathbb{C}\setminus[0,\infty)$2 個$\lambda z$($\lvert\lambda\rvert\neq1$、$\lambda\notin(0,\infty)$)らせんを描いて($\lambda$ が負の実数なら直線の上を左右に跳びながら)一方の不動点から他方へ
型と $\tau$ の値

$\lambda\neq0,1$、$\tau=\lambda+2+\lambda^{-1}$ とする。$\lvert\lambda\rvert=1$ であることは $\tau\in[0,4)$ と、$\lambda\in(0,\infty)$ であることは $\tau\in(4,\infty)$ と、それ以外であることは $\tau\in\mathbb{C}\setminus[0,\infty)$ と同値である。

要点:$\lambda=e^{i\theta}$ なら $\tau=2+2\cos\theta$、$\lambda>0$ なら $\tau=(\sqrt\lambda+1/\sqrt\lambda)^2$ で、逆向きは $x^2+(2-\tau)x+1=0$ の判別式 $\tau(\tau-4)$ の符号で分かる。

詳しい証明を開く

$\lambda=e^{i\theta}$($e^{i\theta}\neq1$)なら $\tau=2+2\cos\theta\in[0,4)$、$\lambda>0$($\lambda\neq1$)なら $\tau=(\sqrt\lambda+1/\sqrt\lambda)^2>4$ である(相加平均と相乗平均の関係で等号は $\lambda=1$ のときだけ)。逆に $\tau$ が実数のとき、$\lambda$ と $\lambda^{-1}$ は実係数の 2 次方程式 $x^2+(2-\tau)x+1=0$ の根で、判別式は $(2-\tau)^2-4=\tau(\tau-4)$ である。$0\leq\tau<4$ なら判別式は $0$ 以下で、根は互いに共役な複素数(または重根 $-1$)で積が $1$ だから $\lvert\lambda\rvert=1$ である。$\tau>4$ なら 2 根は相異なる実数で、積 $1$、和 $\tau-2>2$ だからどちらも正である。$\tau<0$ なら 2 根は相異なる実数で、積 $1$、和 $\tau-2<-2$ だからどちらも負で、$-1$ ではない($-1$ なら和は $-2$)ので $\lvert\lambda\rvert\neq1$ かつ $\lambda\notin(0,\infty)$ である。$\tau$ が実数でなければ、上の 2 つの場合(どちらも $\tau$ は実数)に当たらない。以上で 3 つの同値が示された。

4 つの型の標準形と点の軌道(赤い点は変換を繰り返した点の列、黒い点は不動点 0)。楕円型は円の上を回り、双曲型は半直線に沿って進み、斜航型はらせんを描き、放物型 z/(z+1) は 0 で実軸に接する円の上を 0 に近づく 4 つの型の標準形と点の軌道(赤い点は変換を繰り返した点の列、黒い点は不動点 0)。楕円型は円の上を回り、双曲型は半直線に沿って進み、斜航型はらせんを描き、放物型 z/(z+1) は 0 で実軸に接する円の上を 0 に近づく
図の放物型は $z+1$ を $J(z)=1/z$ で共役にした $J\circ(z+1)\circ J^{-1}(z)=\frac{z}{z+1}$ で、不動点は $0$ だけである。$z+1$ の軌道が横線の上を進むことに対応して、$\frac{z}{z+1}$ の軌道は横線の $J$ による像、すなわち $0$ で実軸に接する円の上を進む。文献によっては双曲型を斜航型に含めて、「$\lvert\lambda\rvert\neq1$ なら斜航型」と呼ぶこともある。

反例と注意

外す条件反例成り立たなくなること
$ad-bc\neq0$$\dfrac{2z+4}{z+2}$全単射である
正則であること$z\mapsto\bar z$「円を円に移す全単射は Möbius 変換である」
3 点の行き先を指定すること$0,\infty$ を動かさない $z\mapsto kz$行き先で変換がただ 1 つに決まる
なし(Möbius 変換でも成り立たない)$1/z$ と円 $\lvert z-2\rvert=1$円の中心は像の円の中心に移る
行列式が $0$ の場合

$\frac{2z+4}{z+2}$ は $ad-bc=2\cdot2-4\cdot1=0$ で、$z\neq-2$ では値がつねに $2$ である。$z=-2$ では分子も分母も $0$ になり、極限としての値も $2$ である。よってこの式は $\hat{\mathbb{C}}$ の全単射を定めない。一般に $ad-bc=0$ なら $(a,b)$ と $(c,d)$ は比例するので、式は(定義できる所では)定数になる。

複素共役は Möbius 変換でない

$\sigma(z)=\bar z$($\sigma(\infty)=\infty$)は $\hat{\mathbb{C}}$ の全単射で、$\lvert\bar z-\bar c\rvert=\lvert z-c\rvert$ だから円を円に、直線を直線に移す。しかし Möbius 変換ではない。もし Möbius 変換なら、$0,1,\infty$ を動かさないので prop-mobius-fixed-points により恒等写像になるが、$\sigma(i)=-i\neq i$ である。$\sigma$ は「円を円に移す全単射」という性質を満たすが「Möbius 変換である」を満たさない。円に関する反転(円に関する反転)も同じく円を円に移すが Möbius 変換ではなく、Möbius 変換は反転(直線に関する鏡映を含む)を偶数個合成したものとちょうど一致する(Hit18 Theorem 3.4.4)。

2 点では決まらない

$k\neq0$ ごとに $z\mapsto kz$ は $0$ と $\infty$ を動かさない。したがって「$0\mapsto0$、$\infty\mapsto\infty$」を満たす Möbius 変換は無数にあり、thm-mobius-three-points の一意性は 2 点の指定では成り立たない。

中心は中心に移らない

$J(z)=1/z$ で円 $\lvert z-2\rvert=1$ を移すと、実軸上の直径の両端 $1,3$ が $1,\frac13$ に移り、像は中心 $\frac23$、半径 $\frac13$ の円である(円の各点で $\lvert\frac1z-\frac23\rvert=\frac13$ が成り立つ)。一方、もとの中心 $2$ の像は $\frac12$ で、像の円の中心 $\frac23$ とは異なる。Möbius 変換は円を円に移すが、円の中心を像の円の中心に移すとは限らない。

実係数の場合と射影変換

$a,b,c,d$ が実数なら、$T$ は $\mathbb{R}\cup\{\infty\}$ をそれ自身に移し、実射影直線の射影変換になる。直線上の 4 点の複比がこの変換で変わらないことは 射影変換と複比 で、透視(中心射影)と結びつけて扱われている。複素数の Möbius 変換はこれを $\hat{\mathbb{C}}$ に広げたもので、cor-mobius-cross-ratio-invariance はその複素版である。

関連項目

参考文献

Mathpediaは寄付と、参考文献の書籍リンク(Amazonアソシエイト)の紹介料で運営されています。 支援について / 寄付する