等積変形

同義語:多角形の求積area-preserving shear

概要

等積変形(area-preserving shear)とは、三角形の頂点を底辺に平行な直線に沿って動かし、面積を変えずに形を変える操作である。平行な 2 直線の一方の上の 2 点を底辺とし、他方の上に頂点をもつ三角形はどれも等積で、同じ底辺と同じ平行線の間の平行四辺形も等積である。逆に、底辺の同じ側にある等積な 2 つの三角形では、異なる 2 頂点を結ぶ直線は底辺に平行である(Euclid『原論』第 I 巻 命題 35〜39)。凸四角形は頂点を 1 つ動かして等積な三角形に直せる。どの多角形も、三角形に分け、長方形、正方形の順に直して正方形を足し合わせれば、等積な正方形を定規とコンパスで作図できる。座標では、頂点の動きはずらし $(x,y)\mapsto(x+ky,\ y)$(行列式 $1$)で書ける。

$$\newcommand{C}[0]{\mathbb{C}} \newcommand{div}[0]{\mathbin{÷}} \newcommand{N}[0]{\mathbb{N}} \newcommand{Q}[0]{\mathbb{Q}} \newcommand{R}[0]{\mathbb{R}} \newcommand{Z}[0]{\mathbb{Z}} $$

前提知識: 三角形の面積の公式, 平行四辺形の条件, 定規とコンパスによる作図, 三平方の定理(高校数学)

高校での出発点:頂点を平行線に沿って動かす

三角形の面積は $\dfrac12\times(\text{底辺})\times(\text{高さ})$ である。底辺を動かさずに、頂点を底辺に平行な直線に沿って動かすと、高さは変わらない。だから面積も変わらない。形はどんどん変わるのに面積だけが変わらない、というこの動かし方を、ここでは等積変形と呼ぶ。まず数で確かめる。

頂点を直線 $y=4$ の上で動かす

底辺を $B(0,0)$、$C(6,0)$ とし、頂点 $A$ を直線 $y=4$ の上にとる。直線 $y=4$ は底辺 $BC$($x$ 軸)に平行である。
(1) $A(2,4)$ のとき:底辺 $BC=6$、高さは $A$ の $y$ 座標の $4$ なので、面積は $\dfrac12\cdot6\cdot4=12$ である。
(2) $A(5,4)$、$A(9,4)$、$A(-2,4)$ のとき:どれも底辺は $6$、高さは $4$ なので、面積は $12$ である。$A(9,4)$ のとき $\angle C$ は約 $126.9^\circ$、$A(-2,4)$ のとき $\angle B$ は約 $116.6^\circ$ の鈍角で、頂点から $x$ 軸に下ろした垂線の足は辺 $BC$ の外にくる。それでも高さは頂点と直線 $BC$ の距離の $4$ である。

(3) 座標の面積の公式による確かめを開く

確かめに、$A(9,4)$ の場合を座標の面積の公式(三角形の面積の公式)で計算する。$\overrightarrow{BC}=(6,0)$、$\overrightarrow{BA}=(9,4)$ から$$\frac12\lvert 6\cdot4-0\cdot9\rvert=\frac12\cdot24=12$$である。


(4) 一方、4 つの三角形の周の長さは、およそ $16.13$、$16.53$、$20.85$、$19.42$ でばらばらである。等積変形は面積を保つが、周の長さは保たない。

底辺 BC を固定し、頂点を BC に平行な直線 y = 4 の上の 4 点に置いた三角形。どれも面積は 12 で、右端と左端の 2 つは鈍角三角形である 底辺 BC を固定し、頂点を BC に平行な直線 y = 4 の上の 4 点に置いた三角形。どれも面積は 12 で、右端と左端の 2 つは鈍角三角形である
同じ考え方で、四角形を面積の等しい三角形に直すことができる。

四角形を三角形に直す

四角形 $ABCD$ を $A(0,0)$、$B(6,0)$、$C(7,4)$、$D(2,5)$ とする。
(1) 対角線 $AC$ で 2 つの三角形に分ける。$\triangle ABC$ は底辺 $AB=6$、高さ $4$ で面積 $12$ である。$\triangle ACD$ は $\overrightarrow{AC}=(7,4)$、$\overrightarrow{AD}=(2,5)$ から面積 $\dfrac12\lvert 7\cdot5-4\cdot2\rvert=\dfrac{27}2$ である。四角形の面積は $12+\dfrac{27}2=\dfrac{51}2$ である。
(2) $D$ を通り $AC$ に平行な直線を引き、直線 $BC$ との交点を $E$ とする。$AC$ の傾きは $\dfrac47$ なので、この直線は $y-5=\dfrac47(x-2)$ である。直線 $BC$ は $B(6,0)$ と $C(7,4)$ を通るので $y=4(x-6)$ である。連立すると $4(x-6)-5=\dfrac47(x-2)$、両辺を $7$ 倍して $28x-203=4x-8$、$24x=195$ より
$$ x=\frac{65}8,\qquad y=4\left(\frac{65}8-6\right)=\frac{17}2,\qquad E\left(\frac{65}8,\frac{17}2\right) $$
である。
(3) $\triangle ACE$ は $\triangle ACD$ と底辺 $AC$ が同じで、頂点 $D$ を $AC$ に平行な直線に沿って $E$ に動かしたものなので、面積は $\dfrac{27}2$ のままである。したがって、$\triangle ABC$ と $\triangle ACE$ を合わせた $\triangle ABE$ の面積は $\dfrac{51}2$ で、四角形 $ABCD$ と等しい。実際、$\triangle ABE$ は底辺 $AB=6$、高さ $\dfrac{17}2$ なので、面積は $\dfrac12\cdot6\cdot\dfrac{17}2=\dfrac{51}2$ である。
(4) $E$ は定規とコンパスで作図できる。$D$ を通り $AC$ に平行な直線は 定規とコンパスによる作図 の補題「垂直二等分線・垂線・平行線」で引け、$E$ はその直線と直線 $BC$ の交点である。

この記事で答える問いは次の 3 つである。

  1. 「同じ底辺・同じ平行線の間にある三角形は面積が等しい」の正確な形と、その逆は何か。→ thm-aps-main
  2. 頂点の多い多角形も、等積変形をくり返して三角形にできるか。→ prop-aps-quad、ex-aps-pentagon
  3. どの多角形も、面積の等しい正方形に作図できるか。→ thm-aps-square
    高校の計算この記事の言葉大学の言葉
    底辺と高さが同じなら面積が同じ等積変形せん断 $(x,y)\mapsto(x+ky,\ y)$
    頂点を平行線に沿って動かして角を 1 つ減らす頂点を減らす等積変形行列式 $1$ の 1 次変換を部分ごとに使う
    長方形の 2 辺の相乗平均 $\sqrt{ab}$長方形と等積な正方形平方根の作図
    正方形を 2 つ合わせる三平方の定理$\sqrt{s^2+t^2}$ の作図

言葉の準備:等積と等積変形

この記事で 多角形 とは、有限個の線分をつないだ閉じた折れ線で、自分自身と交わらないもので囲まれた図形のことで、周も含める(Bolyai–Gerwienの定理 と同じ約束)。凸でなくてもよい。多角形の内角がどれも $180^\circ$ より小さいとき、凸多角形 という。

等積と等積変形

2 つの図形の面積が等しいとき、2 つの図形は 等積 であるという。
三角形 $ABC$ の頂点 $A$ を、底辺 $BC$ に平行で $A$ を通る直線の上の点 $A'$ に移して三角形 $A'BC$ を作ることを、三角形の 等積変形 という。多角形の一部の三角形にこの操作をして、面積を変えずに多角形の形を変えることも等積変形という。

「底辺に平行な直線」を使うのは、その直線の上ではどの点も直線 $BC$ からの距離が同じだからである。2 本の平行な直線 $\ell$、$m$ について、$\ell$ の上のどの点から $m$ に下ろした垂線の長さも同じで、これを 2 直線の 距離 という(平行四辺形の条件 で扱う平行四辺形の対辺の性質から、2 本の垂線と 2 直線でできる長方形の対辺が等しいことによる)。

等積変形の例と、等積変形でない例
  1. ex-aps-start の $A(2,4)$ を $A'(5,4)$ に移すのは等積変形である。$y$ 座標が変わらないので、$A'$ は $A$ を通り $BC$ に平行な直線 $y=4$ の上にある。
  2. $A(2,4)$ を $(2,5)$ に移すのは等積変形ではない。面積は $12$ から $\dfrac12\cdot6\cdot5=15$ に変わる。$(5,6)$ に移すと面積は $18$ になる。どちらも移す向きが $BC$ に平行でない。
  3. ex-aps-quad の (2)〜(3) は、四角形 $ABCD$ の一部の $\triangle ACD$ に等積変形をしたものである。

主定理 1:同じ底辺と同じ平行線

Euclid『原論』第 I 巻は、命題 35〜39 で「同じ底辺の上にあり、同じ平行線の間にある」図形の面積を扱っている(Hea56、pp. 326–336)。命題 35 は平行四辺形、命題 37 は三角形、命題 38 は長さの等しい底辺、命題 39 はその逆である。ここでは座標を使って、まとめて証明する。

同じ底辺と同じ平行線の定理

平行な 2 直線 $\ell$、$m$ があり、$m$ の上に相異なる 2 点 $B$、$C$ をとる。
(R1) $\ell$ の上のどの 2 点 $A$、$D$ についても、$\triangle ABC$ と $\triangle DBC$ は等積である。
(R1) 辺 $BC$ を 1 辺とし、向かい合う辺が $\ell$ の上にある平行四辺形は、どれも等積である。
(R1) 逆に、2 点 $A$、$D$ が直線 $BC$ について同じ側にあり、$\triangle ABC$ と $\triangle DBC$ が等積ならば、$A=D$ であるか、直線 $AD$ は $BC$ に平行である。

底辺を $x$ 軸に置いて面積を座標で書く

方針:直線 $m$ を $x$ 軸に置くと、三角形の面積は「底辺の長さ」と「頂点の $y$ 座標の絶対値」だけで決まる。
段 1(座標を置く)。$m$ を $x$ 軸にとり、$B(b,0)$、$C(c,0)$ とする($b\ne c$)。$\ell$ は $m$ に平行なので、ある $h\ne0$ で $y=h$ と書ける。
段 2(面積の式)。点 $P(x,y)$ について、$\overrightarrow{BC}=(c-b,\ 0)$、$\overrightarrow{BP}=(x-b,\ y)$ なので、座標の面積の公式(三角形の面積の公式)から
$$ \triangle PBC=\frac12\bigl\lvert (c-b)\,y-0\cdot(x-b)\bigr\rvert=\frac12\lvert c-b\rvert\,\lvert y\rvert $$
である。右辺には $x$ が入っていない。つまり $\triangle PBC$ の面積は、$P$ の $y$ 座標の絶対値だけで決まる。この式は、$\angle B$ や $\angle C$ が鈍角で、垂線の足が辺 $BC$ の外にくる場合も含めて成り立つ。
段 3(条件 (i) の証明)。$A$、$D$ は $\ell$ の上にあるので $y$ 座標はどちらも $h$ である。段 2 より $\triangle ABC=\triangle DBC=\dfrac12\lvert c-b\rvert\,\lvert h\rvert$ である。
段 4(条件 (ii) の証明)。平行四辺形の 4 頂点を $B$、$C$、$F$、$E$ の順とし、$E$、$F$ が $\ell$ の上にあるとする。平行四辺形では $\overrightarrow{EF}=\overrightarrow{BC}$ なので、辺 $EF$ の長さは $\lvert c-b\rvert$ である。対角線 $BF$ で 2 つの三角形 $\triangle BCF$ と $\triangle BFE$ に分ける。$\triangle BCF$ は、段 2 で $P=F$ として $\dfrac12\lvert c-b\rvert\,\lvert h\rvert$ である。$\triangle BFE$ は、辺 $EF$(長さ $\lvert c-b\rvert$、直線 $\ell$ の上)を底辺と見ると、頂点 $B$ と $\ell$ の距離は $\lvert h\rvert$ なので、段 2 と同じ計算($\ell$ を $x$ 軸に置き直す)で $\dfrac12\lvert c-b\rvert\,\lvert h\rvert$ である。合わせて、平行四辺形の面積は $\lvert c-b\rvert\,\lvert h\rvert$ で、$E$、$F$ の位置によらない。
段 5(条件 (iii) の証明)。$A(x_1,y_1)$、$D(x_2,y_2)$ とする。段 2 より、$\triangle ABC=\triangle DBC$ は $\lvert y_1\rvert=\lvert y_2\rvert$ と同じである。$A$、$D$ が直線 $BC$($x$ 軸)について同じ側にあるので、$y_1$ と $y_2$ は同じ符号で、$0$ ではない。よって $y_1=y_2$ である。$x_1=x_2$ なら $A=D$ である。$x_1\ne x_2$ なら、直線 $AD$ は $y=y_1$ という $x$ 軸に平行な直線で、$BC$ に平行である。$\square$

段 5 で「同じ側」を使ったのは、$\lvert y_1\rvert=\lvert y_2\rvert$ から $y_1=y_2$ を導く所だけである。反対側にあると $y_2=-y_1$ になり、結論は成り立たない(ex-aps-cx-side)。

Euclid の証明の仕方を開く

Euclid は座標を使わず、命題 35 を「合同な 2 つの三角形から共通の三角形を引き、残りの台形に同じ三角形を加える」方法で証明している(Hea56、pp. 326–327)。Heath はその注で、ここで初めて「等しい」が合同ではなく面積が等しいという新しい意味で使われていると指摘している(同 p. 327)。命題 37 は、三角形を平行四辺形の半分と見て命題 35 に帰着している(同 p. 332)。命題 39 は背理法で、「$AD$ が平行でないなら、$A$ を通る平行線の上に等積な三角形の頂点がもう 1 つでき、全体と部分が等しくなる」と矛盾を導く(Hea56、p. 336)。

同じ底辺の平行四辺形

$B(0,0)$、$C(6,0)$ を 1 辺とし、向かい合う辺が直線 $y=4$ の上にある平行四辺形を 2 つ作る。
(1) $E(1,4)$、$F(7,4)$:$\overrightarrow{EF}=(6,0)=\overrightarrow{BC}$ なので平行四辺形 $BCFE$ である。面積は $6\cdot4=24$ である。
(2) $E'(5,4)$、$F'(11,4)$:同じく平行四辺形で、面積は $24$ である。2 つの平行四辺形は形が違い、周の長さは $2(6+\sqrt{17})\fallingdotseq20.25$ と $2(6+\sqrt{41})\fallingdotseq24.81$ で異なるが、面積は等しい。
(3) 対角線 $BF'$ で (2) を 2 つに分けると、$\triangle BCF'$ の面積は $\dfrac12\cdot6\cdot4=12$ で、ex-aps-start の三角形と等しい。三角形は平行四辺形のちょうど半分である。

辺 BC を共有し、向かい合う辺が同じ平行線の上にある 2 つの平行四辺形。重なりの部分を除いた残りの 2 つの三角形は合同で、どちらの平行四辺形も面積は 24 である 辺 BC を共有し、向かい合う辺が同じ平行線の上にある 2 つの平行四辺形。重なりの部分を除いた残りの 2 つの三角形は合同で、どちらの平行四辺形も面積は 24 である
1 次変換で見ると、頂点を $x$ 軸に平行に動かす操作は、1次変換と行列式:面積の拡大率 の「ずらし」
$$ (x,y)\longmapsto(x+ky,\ y) $$
である。点の $y$ 座標は変わらず、$y$ 座標に比例した量 $ky$ だけ横にずれる。$x$ 軸の上の点($y=0$)は動かないので、底辺 $BC$ は動かない。直線 $y=4$ の上の点はどれも $4k$ だけずれるので、$k=\dfrac34$ とすると $A(2,4)$ が $(5,4)$ に移る。この変換の行列式は $1$ で、図形の面積を変えない。ただし thm-aps-main の証明には 1 次変換を使っていない。

多角形の頂点を減らす

ex-aps-quad では、四角形の頂点 $D$ を動かして、頂点 $C$ を消した。この操作を命題にしておく。

凸四角形を等積な三角形に直す

凸四角形 $ABCD$ で、$D$ を通り対角線 $AC$ に平行な直線を $g$ とし、$g$ と直線 $BC$ の交点を $E$ とする。このとき、$C$ は線分 $BE$ の上にあり、$\triangle ABE$ は四角形 $ABCD$ と等積である。$A$、$B$、$C$、$D$ が作図できる点なら、$E$ も定規とコンパスで作図できる。

対角線 $AC$ の両側に分ける

方針:四角形も三角形も対角線 $AC$ で 2 つに分け、$AC$ の片側の三角形だけを thm-aps-main で取りかえる。
段 1($B$ と $D$ は $AC$ の反対側)。凸四角形の 2 本の対角線 $AC$、$BD$ は四角形の内部で交わる(凸四角形の基本的な性質として、証明せずに使う)。線分 $BD$ が直線 $AC$ と交わるので、$B$ と $D$ は直線 $AC$ について反対側にある。
段 2($E$ がただ 1 つ決まる)。直線 $BC$ は直線 $AC$ と $C$ だけで交わるので、$AC$ に平行ではない。$g$ は $AC$ に平行なので、直線 $BC$ は $g$ にも平行でなく、$g$ とただ 1 点 $E$ で交わる。
段 3($C$ は $B$ と $E$ の間)。$g$ は $AC$ に平行で $D$ を通るので、$g$ 全体が直線 $AC$ について $D$ と同じ側にある。よって $E$ は $D$ の側、$B$ は段 1 より反対側にある。直線 $BC$ の上を $B$ から進むと、直線 $AC$ を $C$ で横切ってから $E$ に着くので、$C$ は線分 $BE$ の上にある。
段 4(面積)。$C$ が辺 $BE$ の上にあるので、線分 $AC$ は $\triangle ABE$ を $\triangle ABC$ と $\triangle ACE$ に分ける。一方、対角線 $AC$ は四角形 $ABCD$ を $\triangle ABC$ と $\triangle ACD$ に分ける。$D$ と $E$ は $AC$ に平行な直線 $g$ の上にあるので、thm-aps-main の条件 (i)($m$ を直線 $AC$、$\ell$ を $g$ とする)より $\triangle ACD=\triangle ACE$ である。したがって
$$ \triangle ABE=\triangle ABC+\triangle ACE=\triangle ABC+\triangle ACD=(\text{四角形 }ABCD) $$
である。
段 5(作図)。$g$ は、$D$ を通り直線 $AC$ に平行な直線として定規とコンパスで引ける(定規とコンパスによる作図 の補題「垂直二等分線・垂線・平行線」)。$E$ は $g$ と直線 $BC$ の交点である。$\square$

頂点が 5 個以上の凸多角形でも、1 つの頂点の両隣を結ぶ対角線に平行に、その頂点を動かすと、頂点を 1 つずつ減らしていける。次の例で、五角形を 2 回の等積変形で三角形にする。

五角形を 2 回の等積変形で三角形にする

五角形 $ABCDE$ を $A(0,0)$、$B(6,0)$、$C(5,2)$、$D(1,4)$、$E(-1,2)$ とする。
(1) 面積。座標の面積の公式(靴ひも公式、三角形の面積の公式)で
$$ \frac12\bigl\lvert(0\cdot0-6\cdot0)+(6\cdot2-5\cdot0)+(5\cdot4-1\cdot2)+(1\cdot2-(-1)\cdot4)+((-1)\cdot0-0\cdot2)\bigr\rvert=\frac12(0+12+18+6+0)=18 $$
である。
(2) 1 回目:頂点 $D$ を消す。$D$ の両隣は $C(5,2)$ と $E(-1,2)$ で、対角線 $CE$ は直線 $y=2$、つまり $x$ 軸に平行である。$D$ を通り $CE$ に平行な直線は $y=4$ である。直線 $BC$ は $B(6,0)$、$C(5,2)$ を通るので $y=-2x+12$ で、$y=4$ とすると $x=4$ である。$D$ を $Q(4,4)$ に動かす。$\triangle CDE$ と $\triangle CQE$ は底辺 $CE$ が同じで、頂点がどちらも直線 $y=4$ の上にあるので等積である(どちらも $\dfrac12\cdot6\cdot2=6$)。$C(5,2)$ は線分 $BQ$ の中点で、$B$、$C$、$Q$ は一直線に並ぶので、五角形は四角形 $ABQE$ になる。
(3) 2 回目:四角形 $ABQE$ の頂点 $E$ を消す。$E$ の両隣は $Q(4,4)$ と $A(0,0)$ で、対角線 $QA$ は直線 $y=x$ である。$E(-1,2)$ を通り $QA$ に平行な直線は $y=x+3$ で、直線 $AB$($x$ 軸)と $R(-3,0)$ で交わる。$\triangle QEA$ と $\triangle QRA$ は等積である。$A$ は線分 $RB$ の上にあるので、四角形は三角形 $RBQ$ になる。これは prop-aps-quad と同じ操作である。
(4) 確かめ。$\triangle RBQ$ は底辺 $RB=6-(-3)=9$、高さは $Q$ の $y$ 座標の $4$ なので、面積は
$$ \frac12\cdot9\cdot4=\boxed{18} $$
で、(1) と一致する。

五角形 ABCDE の頂点 D を CE に平行に Q まで動かして四角形 ABQE にし、さらに頂点 E を QA に平行に R まで動かして三角形 RBQ にする。3 つの図形の面積はどれも 18 である 五角形 ABCDE の頂点 D を CE に平行に Q まで動かして四角形 ABQE にし、さらに頂点 E を QA に平行に R まで動かして三角形 RBQ にする。3 つの図形の面積はどれも 18 である
凸でない多角形や、頂点の多い凸多角形では、動かした頂点のせいで図形が自分自身と交わったり、へこんだりしないように、どの頂点をどちらへ動かすかを選ぶ必要がある。一般の場合にいつでもうまく選べることは、この記事では証明しない。どの多角形でも正方形にできることは、次の節で、三角形に分ける別の方法で証明する。

主定理 2:多角形の求積

多角形と等積な正方形を作図することを、多角形の 求積 という。『原論』では、第 I 巻 命題 45 で「与えられた多角形と等積な平行四辺形」を作図し(多角形を三角形に分けて 1 つずつ平行四辺形に直す)、第 II 巻 命題 14 で「与えられた多角形と等積な正方形」を作図している(Hea56、pp. 345–346、409–410)。ここでは、同じ筋を 3 つの補題に分けて示す。

三角形と等積な長方形

三角形 $ABC$ の頂点が作図できる点なら、底辺 $BC$ と高さの半分を 2 辺とする長方形で、$\triangle ABC$ と等積なものが定規とコンパスで作図できる。

中点を結ぶ線で高さを半分にする

段 1(高さの半分の線)。辺 $AB$、$AC$ の中点 $M$、$N$ を作図する(定規とコンパスによる作図 の補題「垂直二等分線・垂線・平行線」)。中点連結定理 により $MN\parallel BC$ で、直線 $MN$ と直線 $BC$ の距離は、$A$ と直線 $BC$ の距離 $h$ の半分 $\dfrac h2$ である($A$ から $BC$ に下ろした垂線も、$MN$ によって中点で切られる)。
段 2(長方形)。$B$、$C$ を通り $BC$ に垂直な直線を引き、直線 $MN$ との交点を $B'$、$C'$ とする。四角形 $BCC'B'$ は長方形で、面積は
$$ BC\cdot\frac h2=\frac12\cdot BC\cdot h=\triangle ABC $$
である。$\square$

長方形と等積な正方形

2 辺の長さが $a$、$b$ の長方形があり、その頂点が作図できる点なら、1 辺が $\sqrt{ab}$ の正方形が定規とコンパスで作図できる。

直径の上に立てた垂線

段 1(作図)。直線の上に、$PQ=a$、$QR=b$ となる点 $P$、$Q$、$R$ をこの順にとる(コンパスで長さを写す)。線分 $PR$ の中点 $O$ を中心とし、$PR$ を直径とする円を描く。$Q$ を通り $PR$ に垂直な直線と円の交点の 1 つを $H$ とする。
段 2($QH=\sqrt{ab}$)。$Q$ を原点、直線 $PR$ を $x$ 軸にとると、$P(-a,0)$、$R(b,0)$、中心 $O\left(\dfrac{b-a}2,0\right)$、半径 $\dfrac{a+b}2$ である。$H(0,y)$ が円の上にあるので
$$ \left(0-\frac{b-a}2\right)^2+y^2=\left(\frac{a+b}2\right)^2,\qquad y^2=\frac{(a+b)^2-(b-a)^2}4=\frac{4ab}4=ab $$
である。よって $QH=\sqrt{ab}$ である。
段 3(正方形)。線分 $QH$ を 1 辺とする正方形は、$Q$、$H$ で $QH$ に垂直な直線を引き、コンパスで長さ $QH$ を写せば作図できる。$\square$

同じ作図は、定規とコンパスによる作図 で平方根 $\sqrt a$ を作る作図($b=1$ の場合)と同じもので、図形の言葉では 方べきの定理(高校数学) の $QH^2=QP\cdot QR$ である。

2 つの正方形を 1 つにする

1 辺が $s$、$t$ の 2 つの正方形の辺が作図できているなら、面積がその和 $s^2+t^2$ に等しい正方形が定規とコンパスで作図できる。

直角をはさむ 2 辺

点 $U$ で直交する 2 直線を引き、一方の上に $UV=s$、他方の上に $UW=t$ となる点をとる(コンパスで長さを写す)。三平方の定理(高校数学) により $VW^2=s^2+t^2$ なので、$VW$ を 1 辺とする正方形が求めるものである。$\square$

多角形の求積

頂点がすべて作図できる点である多角形 $F$ について、$F$ と等積な正方形が定規とコンパスで作図できる。

三角形に分けて、正方形を足していく

方針:多角形を三角形に分け、1 つずつ正方形に直してから、正方形を 1 つにまとめる。
段 1(三角形に分ける)。Bolyai–Gerwienの定理 の補題「三角形分割」により、$F$ は有限個の三角形 $T_1,\dots,T_k$ に分割できる。その証明では、2 つの頂点を結ぶ対角線で切ることをくり返すので、$T_1,\dots,T_k$ の頂点はどれも $F$ の頂点で、作図できる点である。$T_i$ の面積を $S_i$ とすると、$F$ の面積 $S$ は $S=S_1+\cdots+S_k$ である(多角形を分割すると面積は和になる)。
段 2(三角形を正方形に)。各 $T_i$ について、lem-aps-rect で等積な長方形を作図し、lem-aps-sqrt で 1 辺 $s_i=\sqrt{S_i}$ の正方形を作図する。
段 3(正方形を 1 つに)。lem-aps-pyth で、1 辺 $s_1$ と $s_2$ の正方形から 1 辺 $u_2$、$u_2^2=s_1^2+s_2^2$ の正方形を作る。次に $u_2$ と $s_3$ から $u_3^2=u_2^2+s_3^2$ の正方形を作る。これを $k-1$ 回くり返すと、
$$ u_k^2=s_1^2+s_2^2+\cdots+s_k^2=S_1+S_2+\cdots+S_k=S $$
となる 1 辺 $u_k$ の正方形が得られる($k=1$ なら段 2 の正方形そのもの)。これが $F$ と等積な正方形である。$\square$

三角形と五角形の求積
  1. ex-aps-start の三角形(底辺 $6$、高さ $4$、面積 $12$)。lem-aps-rect で $6\times2$ の長方形にする。lem-aps-sqrt で $a=6$、$b=2$ とし、長さ $6+2=8$ の直径の上の円を描く。中心から $Q$ までの距離は $6-4=2$、半径は $4$ なので、$QH^2=4^2-2^2=12$ である。1 辺 $QH=\sqrt{12}=2\sqrt3\fallingdotseq3.46$ の正方形が得られ、面積は $12$ である。
  2. ex-aps-pentagon の五角形(面積 $18$)。三角形 $RBQ$(底辺 $9$、高さ $4$)まで直したので、$9\times2$ の長方形にし、$a=9$、$b=2$ とすると、lem-aps-sqrt の作図の点 $Q$、$H$(三角形の頂点 $Q$ とは別の点)について $QH^2=9\cdot2=18$ となり、1 辺 $\sqrt{18}=3\sqrt2\fallingdotseq4.24$ の正方形になる。
  3. lem-aps-pyth の例。面積 $9$ と $16$ の正方形(1 辺 $3$、$4$)を合わせると、1 辺 $\sqrt{9+16}=5$ の正方形になる。

三角形 RBQ を、中点を結ぶ線で高さを半分にした 9 × 2 の長方形に直し、長さ 11 の直径の上の半円と垂線で 1 辺 √18 の正方形を作る。右の図の P、Q、R は補題の作図の点で、左の三角形の頂点 Q、R とは別の点 三角形 RBQ を、中点を結ぶ線で高さを半分にした 9 × 2 の長方形に直し、長さ 11 の直径の上の半円と垂線で 1 辺 √18 の正方形を作る。右の図の P、Q、R は補題の作図の点で、左の三角形の頂点 Q、R とは別の点
thm-aps-square の証明では、多角形を三角形に分けたが、切った片を動かしてはいない。面積を足し合わせる所は、正方形を lem-aps-pyth で合わせる作図が受け持っている。この点が、次の節で比べる切り貼りの方法との違いである。

等積変形と切り貼りの比較

面積の等しい図形どうしを結ぶ方法には、この記事の等積変形と作図のほかに、図形を有限個の片に切って並べ直す方法がある(Bolyai–Gerwienの定理)。

等積変形と作図(この記事)切り貼り(Bolyai–Gerwien の定理)
すること頂点を平行線に沿って動かす。正方形は作図で作る有限個の多角形の片に切り、片を動かして並べ直す
保たれるもの面積面積。片の 1 つ 1 つは合同なまま
結論どの多角形にも等積な正方形が作図できる等積な 2 つの多角形は、切って並べ直すと移り合う
形の対応もとの図形と正方形の点の対応はない片ごとに合同変換で対応する
道具定規とコンパスの作図の手順切り方があることを示す(作図の手順かどうかは問わない)

Bolyai–Gerwienの定理 では、平行四辺形を帯に切って長方形に直している。等積変形は同じ平行四辺形を切らずに「傾きを変える」だけで長方形にする(thm-aps-main の条件 (ii))。どちらも、平行四辺形の面積が底辺と高さだけで決まることを別の形で使っている。

大学数学で見る:ずらしの行列と行列式

等積変形で三角形の頂点を動かすことは、座標では 1 次変換 $(x,y)\mapsto(x+ky,\ y)$ で書け、その行列
$$ U_k=\begin{pmatrix}1&k\\ 0&1\end{pmatrix} $$
は行列式が $1$ である。大学では、この形の行列を ずらし(せん断、shear)の行列という。行列式が $1$ の 1 次変換は面積を変えない(1次変換と行列式:面積の拡大率)。逆に、行列式が $1$ の $2\times2$ 行列は、ずらしをいくつか続けたものとして書ける。

行列式が 1 の行列をずらしの積に分ける式を開く

$U_kU_l=U_{k+l}$ で、$x$ 軸方向のずらしどうしを続けると、ずらしの量が足される。$y$ 軸方向のずらしを $L_c=\begin{pmatrix}1&0\\c&1\end{pmatrix}$($(x,y)\mapsto(x,\ cx+y)$)とする。

行列 $A=\begin{pmatrix}a&b\\c&d\end{pmatrix}$ が $ad-bc=1$、$c\ne0$ を満たすとき、$$U_{\frac{a-1}c}\,L_c\,U_{\frac{d-1}c}=\begin{pmatrix}a&\dfrac{ad-1}c\\c&d\end{pmatrix}=\begin{pmatrix}a&b\\c&d\end{pmatrix}$$である(左辺を掛け算すると真ん中の行列になり、$ad-1=bc$ から右端の行列になる)。たとえば $\begin{pmatrix}2&1\\ 3&2\end{pmatrix}=U_{\frac13}\,L_3\,U_{\frac13}$ である。

$c=0$ のときは $ad=1$ なので $a\ne0$ で、$L_1A=\begin{pmatrix}a&b\\a&b+d\end{pmatrix}$ は左下の成分が $a\ne0$、行列式が $1$ なので、上の式で 3 つのずらしの積になる。$A=L_{-1}(L_1A)$ なので、$A$ は 4 つのずらしの積である。

行列式が $1$ の $2\times2$ 行列の全体は、掛け算について群をなし、特殊線形群 $SL_2(\mathbb{R})$ と呼ばれる。上の計算は、この群がずらしの行列で生成されることを示している。

例と反例

外す条件反例成り立たなくなること
頂点を底辺に平行に動かす$A(2,4)$ を $(2,5)$ に動かす(ex-aps-def)面積が変わらない($12$ が $15$ になる)
逆の「直線 $BC$ について同じ側」$A(1,4)$ と $D(2,-4)$(ex-aps-cx-side)等積なら $AD\parallel BC$
図形が線分で囲まれている円板(ex-aps-cx-circle)等積な正方形が有限回の作図で得られる
保たれる量が面積である周の長さ(ex-aps-start の (4))等積変形で変わらない
反例:底辺の反対側にある等積な三角形

$B(0,0)$、$C(6,0)$ と、$A(1,4)$、$D(2,-4)$ をとる。$\triangle ABC=\dfrac12\cdot6\cdot\lvert4\rvert=12$、$\triangle DBC=\dfrac12\cdot6\cdot\lvert-4\rvert=12$ で等積である。しかし直線 $AD$ の傾きは $\dfrac{-4-4}{2-1}=-8$ で、$BC$($x$ 軸)に平行ではない。
満たす性質:同じ底辺の上にあり、面積が等しい。満たさない性質:$A$ と $D$ が直線 $BC$ について同じ側にある。破る含意:thm-aps-main の条件 (iii)「等積なら $AD\parallel BC$」。反対側にある場合は、$D$ を $x$ 軸について折り返した点 $(2,4)$ が $A$ と同じ平行線の上にくる。

反例:円は有限回の作図で正方形にできない

半径 $1$ の円の面積は $\pi$ で、等積な正方形の 1 辺は $\sqrt\pi$ である。$\sqrt\pi$ は定規とコンパスで作図できる数ではない(円積問題。3大作図問題の不可能性 で、$\pi$ が代数的数でないことを引いて示している。この記事では証明しない)。
円に内接する正 $n$ 角形は thm-aps-square で正方形にでき、$n$ を大きくすると面積は $\pi$ に近づく。しかし有限回の作図では、ちょうど $\pi$ の面積の正方形には届かない。満たす性質:面積をもつ平面の図形。満たさない性質:有限個の線分で囲まれている。破る含意:thm-aps-square の「等積な正方形が作図できる」。

さらに先へ

  • 作図の道具を減らすと何ができるかを、定規だけの作図 で考える。定規だけでは線分の中点さえ作図できないが、平行線が 1 本あれば中点が作れる。
  • 切って並べ直す方法では、等積な多角形どうしがいつも移り合う(Bolyai–Gerwienの定理)。空間の多面体では同じことが成り立たない(錐体の体積とHilbertの第3問題)。
  • 三角形の面積の比を、底辺の比と高さの比に分けて計算する方法は 三角形の面積比 で扱う。等積変形は、その「高さが同じ」場合である。

関連項目

参考文献

[1]
Euclid, translated with introduction and commentary by Thomas L. Heath, The Thirteen Books of Euclid's Elements, translated with introduction and commentary by T. L. Heath, Vol. I (Introduction and Books I–II), Dover Publications, 1956, 第 I 巻 命題 35(pp. 326–327。「等しい」の新しい意味についての注は p. 327)、命題 37(p. 332)、命題 38・39(pp. 333–336)、命題 45(pp. 345–346)、第 II 巻 命題 14(pp. 409–410)

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