部分多様体(submanifold)とは、多様体 $N$ の部分集合 $S$ で、各点の近くで $N$ の座標近傍により座標平面 $\mathbb{R}^k\times\{0\}$ の一部に写せるもののことであり、部分空間位相とスライス座標から多様体の構造が一意に定まる。部分多様体であることは、局所的に沈め込みの零点集合であること、座標の一部の関数のグラフであること、埋め込みの像であることと同値である。部分多様体はつねに局所閉集合であり、閉集合であることは包含写像が固有であることと同値で、閉部分多様体の上の滑らかな関数は全体へ延長できる。正則値の逆像、グラフ、対角線、球面や行列群など、幾何学の多くの図形がこの形で与えられる。
前提知識: 可微分多様体, 接空間, はめ込みと埋め込み(可微分多様体), 正則値定理
球面 $S^2$ は $\mathbb{R}^3$ の中の曲面であり、各点の近くで $\mathbb{R}^3$ の座標をうまく取り替えると、平面 $\{z=0\}$ の一部のように見える。多様体 $N$ の部分集合 $S$ で、各点の近くで $N$ の座標により「座標平面の一部」にできるものを部分多様体という。部分多様体は自動的に多様体の構造をもち、方程式の解の集合、写像のグラフ、埋め込みの像など、幾何学に現れる図形の多くがこの形をしている。この記事では、部分多様体を局所的に言い換える 4 つの条件が同値であることを示し、部分多様体がつねに局所閉集合であること、閉部分多様体の上の滑らかな関数が全体へ延長できることを証明する。
この記事では、多様体は Hausdorff かつ第 2 可算な $C^\infty$ 級多様体(可微分多様体)とし、写像は $C^\infty$ 級とする。$N$ を $n$ 次元の多様体とし、$\mathbb{R}^k\times\{0\}:=\{(y^1,\dots,y^n)\in\mathbb{R}^n\mid y^{k+1}=\dots=y^n=0\}$ と書く。$\pi\colon\mathbb{R}^n\to\mathbb{R}^k$ は最初の $k$ 成分への射影とする。
$0\le k\le n$ とする。部分集合 $S\subset N$ が $N$ の $k$ 次元部分多様体(submanifold、埋め込まれた部分多様体、正則部分多様体)であるとは、各点 $p\in S$ に対し、$p$ を含む $N$ の座標近傍 $(V,\psi)$ で
$$
\psi(V\cap S)=\psi(V)\cap(\mathbb{R}^k\times\{0\})
$$
を満たすものが存在することをいう。このような座標近傍を $S$ の $k$ スライス座標(slice chart)という。$n-k$ を $S$ の余次元(codimension)という。部分多様体 $S$ が $N$ の閉集合であるとき、$S$ を閉部分多様体(closed submanifold)という。
スライス座標 $(V,\psi)$ を $\psi=(y^1,\dots,y^n)$ と書けば、条件は「$V$ の点が $S$ に属するのは、$y^{k+1}=\dots=y^n=0$ のときに限る」ということである。$N$ の開集合は $n$ 次元部分多様体($k=n$ ではスライス座標の条件は $V\subset S$ と同じ)であり、1 点 $\{p\}$ は $0$ 次元部分多様体($p$ を原点に写す座標近傍がスライス座標になる)である。
$S$ に $N$ からの部分空間位相を入れ、スライス座標 $(V,\psi)$ ごとに $(V\cap S,\ \pi\circ\psi|_{V\cap S})$ を座標近傍とすると、$S$ は $k$ 次元の多様体になり、包含写像 $\iota\colon S\hookrightarrow N$ は埋め込み(埋め込み(可微分多様体))になる。包含写像が埋め込みとなる $S$ 上の多様体の構造はこれ一つだけである。これらは はめ込みと埋め込み(可微分多様体) の記事の命題(部分多様体の微分構造)と系(部分多様体の微分構造は一意)が証明している。以下、部分多様体にはつねにこの構造を入れる。$(V\cap S,\pi\circ\psi)$ の逆写像は $u\mapsto\psi^{-1}(u,0)$ である。
部分多様体の定義は、「図形を外側の空間ごと座標変換して平らにできる」という条件である。曲線 $y=x^2$ は、平面の座標を $(x,\,y-x^2)$ に取り替えれば $x$ 軸になる。これに対し、十字 $\{xy=0\}$ の原点や、尖点 $\{y^2=x^3\}$ の原点では、どう座標を取り替えても座標平面の一部にはならない(正則値定理 の記事の例(反例:十字)、はめ込みと埋め込み(可微分多様体) の記事の例(反例:尖点をもつ曲線))。
平らにする座標の作り方は場面ごとに違う。方程式で与えられた図形なら、方程式の左辺を座標の一部に使う(thm-submfd-local-char の (b))。パラメータ表示された図形なら、パラメータを座標の一部に使う(同じく (d))。座標のどれかを他の座標の関数として解けるなら、グラフとして表す(同じく (c))。次の定理は、これらがすべて同じ条件であることを述べる。
$S\subset N$ を部分集合、$0\le k\le n$ とする。次の 4 条件は同値である。
(a) ⇒ (b):$p$ のまわりのスライス座標 $(V,\psi)$、$\psi=(y^1,\dots,y^n)$ をとり、$U:=V$、$\Phi:=(y^{k+1},\dots,y^n)\colon V\to\mathbb{R}^{n-k}$ とおく。座標近傍 $\psi$ に関する $\Phi$ の局所表示は最後の $n-k$ 成分への射影であり、その Jacobi 行列 $\begin{pmatrix}0&I_{n-k}\end{pmatrix}$ の階数は $n-k$ なので、$\Phi$ は沈め込みである。スライス座標の条件により、$q\in V$ が $S$ に属することと $\Phi(q)=0$ は同値であり、$V\cap S=\Phi^{-1}(0)$ である。
(b) ⇒ (a):$U$ は $N$ の開部分多様体であり、$\Phi$ は沈め込みなので $0$ は $\Phi$ の正則値である。正則値定理 の記事の定理(正則値定理)により、$\Phi^{-1}(0)=U\cap S$($p$ を含むので空でない)は $U$ の $n-(n-k)=k$ 次元部分多様体である。$p$ のまわりの $U\cap S$ の $k$ スライス座標 $(V,\psi)$ をとると、$V\subset U$ は $N$ の開集合で、$V\cap S=V\cap(U\cap S)$ なので、$(V,\psi)$ は $S$ の $k$ スライス座標でもある。最後の主張の $T_qS=\ker d\Phi_q$ も同じ定理の 2 である(部分多様体の構造は一意なので、$U\cap S$ の構造は $S$ の構造の開集合への制限と一致する)。
(a) ⇒ (d):$p$ のまわりのスライス座標 $(V,\psi)$ をとり、$U:=V$、$W:=\{u\in\mathbb{R}^k\mid(u,0)\in\psi(V)\}$、$\varphi(u):=\psi^{-1}(u,0)$ とおく。$W$ は連続写像 $u\mapsto(u,0)$ による開集合 $\psi(V)$ の逆像なので開集合である。$\varphi(W)=\psi^{-1}\bigl(\psi(V)\cap(\mathbb{R}^k\times\{0\})\bigr)=V\cap S$ である。$\varphi$ の $\psi$ に関する局所表示は $u\mapsto(u,0)$ で、Jacobi 行列の階数は $k$ なので $\varphi$ ははめ込みであり、$\varphi$ は単射で、$V\cap S$ の上の逆写像 $\pi\circ\psi$ は連続である。よって $\varphi$ は像への同相写像であり、埋め込みである。
(d) ⇒ (a):はめ込みと埋め込み(可微分多様体) の記事の定理(埋め込みの像は部分多様体)により、$\varphi(W)$ は $N$ の $k$ 次元部分多様体である。$p$ のまわりの $\varphi(W)$ のスライス座標 $(V',\psi')$ をとり、$V:=V'\cap U$、$\psi:=\psi'|_V$ とおく。$\varphi(W)=U\cap S$ なので $V\cap S=V'\cap(U\cap S)=V'\cap\varphi(W)$ であり、
$$
\psi(V\cap S)=\psi'(V'\cap\varphi(W))\subset\psi(V)\cap(\mathbb{R}^k\times\{0\})\subset\psi'(V')\cap(\mathbb{R}^k\times\{0\})=\psi'(V'\cap\varphi(W))
$$
となる(最初の包含は $V'\cap\varphi(W)\subset V$ による)。両端が等しいので $(V,\psi)$ は $S$ の $k$ スライス座標である。
(a) ⇒ (c) と (c) ⇒ (a):要点は、(a) ⇒ (c) では埋め込み $\varphi$ を座標で表した $h=\chi_0\circ\varphi$ の $k$ 個の成分に逆関数定理を当ててパラメータを座標の一部に取り替えること、(c) ⇒ (a) ではグラフを $(x,y)\mapsto(x,\,y-g(x))$ で平らにすることである。
(a) ⇒ (c):(a) ⇒ (d) の証明のとおり、スライス座標から埋め込み $\varphi\colon W_1\to N$ で $\varphi(W_1)$ が $S$ の開集合となるもの($\varphi(W_1)=V_1\cap S$)をとり、$\varphi(u_0)=p$ とする。$W_1':=\varphi^{-1}(V_0)$ は $u_0$ を含む開集合であり、$h:=\chi_0\circ\varphi\colon W_1'\to\mathbb{R}^n$ の Jacobi 行列 $Dh(u_0)$ は $n\times k$ で階数 $k$ である($\varphi$ ははめ込みで、$\chi_0$ は微分同相写像)。正則な $k\times k$ 小行列を与える $k$ 本の行が最初の $k$ 行になるように、$\chi_0$ の成分の番号を付け替える。$P\colon\mathbb{R}^n\to\mathbb{R}^k$、$Q\colon\mathbb{R}^n\to\mathbb{R}^{n-k}$ をそれぞれ最初の $k$ 成分、最後の $n-k$ 成分への射影とすると、$D(P\circ h)(u_0)$ は正則である。逆関数定理 により、$u_0$ を含む開集合 $W_2\subset W_1'$ で、$P\circ h$ が $W_2$ から $\mathbb{R}^k$ の開集合 $W:=P\circ h(W_2)$ への微分同相写像となるものがある。その逆写像を $\theta\colon W\to W_2$ とし、$g:=Q\circ h\circ\theta\colon W\to\mathbb{R}^{n-k}$ とおくと、$g$ は $C^\infty$ 級で、$x\in W$ に対し $h(\theta(x))=(x,g(x))$ である。
$\varphi$ は $W_1$ から $S$ の開集合 $V_1\cap S$ への同相写像なので、$\varphi(W_2)$ は $S$ の開集合であり、$N$ の開集合 $O$ で $\varphi(W_2)=O\cap S$ となるものがある。$V:=V_0\cap O\cap\chi_0^{-1}(W\times\mathbb{R}^{n-k})$、$\chi:=\chi_0|_V$ とおく。$p=\varphi(u_0)$ は $V$ に属する。$\varphi(W_2)\subset V_0$ であり、$u\in W_2$ なら $P(\chi_0(\varphi(u)))=P(h(u))\in W$ なので、$\varphi(W_2)\subset\chi_0^{-1}(W\times\mathbb{R}^{n-k})$ である。よって $V\cap S=\varphi(W_2)\cap V_0\cap\chi_0^{-1}(W\times\mathbb{R}^{n-k})=\varphi(W_2)$ であり、$\chi(V\cap S)=h(W_2)=\{h(\theta(x))\mid x\in W\}=\{(x,g(x))\mid x\in W\}$ である。
(c) ⇒ (a):$\Gamma:=\{(x,g(x))\mid x\in W\}=\chi(V\cap S)$ とおく。写像 $\tau(x,y):=(x,\,y-g(x))$ は $W\times\mathbb{R}^{n-k}$ からそれ自身への微分同相写像である(逆写像は $(x,z)\mapsto(x,\,z+g(x))$)。$O:=\chi(V)\cap(W\times\mathbb{R}^{n-k})$、$V':=\chi^{-1}(O)$、$\psi:=\tau\circ\chi|_{V'}$ とおくと、$(V',\psi)$ は $N$ の座標近傍で、$\chi(p)\in\Gamma\subset O$ より $p\in V'$ である。$\Gamma\subset O$ なので $\psi(V'\cap S)=\tau(\Gamma)=W\times\{0\}$ であり、一方 $\psi(V')\cap(\mathbb{R}^k\times\{0\})=\{(x,0)\mid x\in W,\ (x,g(x))\in O\}=W\times\{0\}$ である。よって $(V',\psi)$ は $k$ スライス座標である。$\square$
(c) の座標の番号の付け替えは省けない。円周 $S^1\subset\mathbb{R}^2$ は点 $(1,0)$ の近くで $x$ を $y$ の関数として $x=\sqrt{1-y^2}$ と表せるが、$y$ を $x$ の関数としては表せない($x<1$ の各値に $y=\pm\sqrt{1-x^2}$ の 2 点が対応する)。
(b) の言い換えにより、部分多様体の接空間は局所的な定義関数の微分の核として計算できる。たとえば $S^n=\{\|x\|^2=1\}$ では $\Phi(x)=\|x\|^2-1$ が大域的な定義関数で、$T_pS^n=\ker d\Phi_p=\{v\mid\langle p,v\rangle=0\}$ である。Lee13 Proposition 5.16(p. 106)は (a) と (b) の同値を、Proposition 5.38(p. 117)は接空間の等式を述べている。
写像 $F\colon M\to\mathbb{R}^{l}$ の正則値 $c$ の逆像 $F^{-1}(c)$ は、空でなければ $\dim M-l$ 次元の閉部分多様体である(正則値定理 の記事の定理(正則値定理))。これは thm-submfd-local-char の (b) で $\Phi:=F-c$ を全体でとれる場合にあたる。球面 $S^n=\{\|x\|^2=1\}\subset\mathbb{R}^{n+1}$、特殊線形群 $SL(n,\mathbb{R})=\{\det A=1\}$、直交群 $O(n)=\{A^{\mathsf T}A=I\}$ はこの形の閉部分多様体である(同記事の例(特殊線形群)、接空間 の記事の例(直交群と特殊直交群))。
$U\subset\mathbb{R}^k$ を開集合、$g\colon U\to\mathbb{R}^{n-k}$ を $C^\infty$ 級写像とすると、グラフ $\{(x,g(x))\mid x\in U\}$ は $\mathbb{R}^n$ の $k$ 次元部分多様体である((c) で $\chi$ を恒等写像にとった場合。はめ込みと埋め込み(可微分多様体) の記事の例(座標平面への包含とグラフ)も参照)。$U=\mathbb{R}^k$ なら、グラフは連続写像 $(x,y)\mapsto y-g(x)$ の零点集合なので閉部分多様体である。
$S_i\subset N_i$ を $k_i$ 次元部分多様体($i=1,2$、$n_i:=\dim N_i$)とすると、$S_1\times S_2$ は $N_1\times N_2$ の $k_1+k_2$ 次元部分多様体である。実際、$p_i\in S_i$ のまわりのスライス座標 $(V_i,\psi_i)$ に対し、直積の座標近傍 $\psi_1\times\psi_2$ の成分を
$$
(y_1^1,\dots,y_1^{k_1},\ y_2^1,\dots,y_2^{k_2},\ y_1^{k_1+1},\dots,y_1^{n_1},\ y_2^{k_2+1},\dots,y_2^{n_2})
$$
の順に並べ替えたものは、$(V_1\times V_2)\cap(S_1\times S_2)=(V_1\cap S_1)\times(V_2\cap S_2)$ を座標平面 $\mathbb{R}^{k_1+k_2}\times\{0\}$ の一部に写すので、$k_1+k_2$ スライス座標である。たとえばトーラス $T^2=S^1\times S^1$ は $\mathbb{R}^2\times\mathbb{R}^2=\mathbb{R}^4$ の 2 次元閉部分多様体である。
多様体 $N$ の対角線 $\Delta:=\{(x,x)\mid x\in N\}$ は $N\times N$ の $n$ 次元閉部分多様体である。$N$ は Hausdorff なので $\Delta$ は閉集合である。$p\in N$ のまわりの座標近傍 $(V,\chi)$ をとり、$\varphi(u):=(\chi^{-1}(u),\chi^{-1}(u))$($u\in\chi(V)$)とおくと、$\varphi(\chi(V))=\Delta\cap(V\times V)$ である。$\varphi$ の座標近傍 $\chi\times\chi$ に関する局所表示は $u\mapsto(u,u)$ で階数 $n$ なので、$\varphi$ ははめ込みであり、像の上の逆写像 $(x,x)\mapsto\chi(x)$ は連続なので埋め込みである。thm-submfd-local-char の (d) により $\Delta$ は部分多様体である。写像 $f\colon N\to N$ のグラフ $\Gamma_f:=\{(x,f(x))\}$ も、$\varphi(u):=(\chi^{-1}(u),f(\chi^{-1}(u)))$ (像は $\Gamma_f\cap(V\times N)$)を同じように使えば $N\times N$ の $n$ 次元部分多様体であり、$\Gamma_f$ は連続写像 $(x,y)\mapsto(f(x),y)$ による $\Delta$ の逆像なので閉集合である。$\Delta\cap\Gamma_f$ は $f$ の不動点 $x$ の組 $(x,x)$ の全体であり、Lefschetz不動点定理 はこの 2 つの閉部分多様体の交わりを数える定理として述べられる。
$S\subset N$ を部分多様体とする。$S$ のスライス座標の定義域 $V$ の全体の和集合を $W$ とすると、$W$ は $S$ を含む $N$ の開集合で、$S$ は $W$ の閉集合である。とくに $S$ は $N$ の局所閉集合(開集合と閉集合の共通部分)であり、その閉包 $\overline S$ の中で開集合である。
各点 $p\in S$ はあるスライス座標の定義域に属するので、$S\subset W$ である。スライス座標 $(V,\psi)$ について $V\setminus S=\psi^{-1}\bigl(\psi(V)\setminus(\mathbb{R}^k\times\{0\})\bigr)$ であり、$\mathbb{R}^k\times\{0\}$ は $\mathbb{R}^n$ の閉集合なので、$V\setminus S$ は開集合である。よって $W\setminus S=\bigcup_V(V\setminus S)$ は開集合であり、$S=W\setminus(W\setminus S)$ は $W$ の閉集合である。したがって $S=W\cap C$($C:=N\setminus(W\setminus S)$ は閉集合)と書ける。$\overline S\subset C$ なので $S=W\cap\overline S$ であり、$S$ は $\overline S$ の開集合である。$\square$
この命題により、局所閉でない集合は、どの次元の部分多様体でもない。単射なはめ込みの像はこの理由で部分多様体にならないことがある。
$\alpha$ を無理数とし、$F\colon\mathbb{R}\to T^2:=S^1\times S^1\subset\mathbb{C}^2$、$F(t):=(e^{it},e^{i\alpha t})$ とする。$F$ は単射なはめ込みである(はめ込みと埋め込み(可微分多様体) の記事の例(反例:無理数の傾きの直線))。像 $L:=F(\mathbb{R})$ は $T^2$ で稠密であり、$\mathbb{C}^2=\mathbb{R}^4$ のどの次元の部分多様体でもない。満たす性質は「単射なはめ込みの像」、満たさない性質は「局所閉」であり、破る含意は「単射なはめ込みの像は部分多様体である」である。
稠密性。$T^2$ の点 $(e^{is},e^{iu})$ と $\varepsilon>0$ をとる。整数 $k$ について $F(s+2\pi k)=(e^{is},\ e^{i\alpha s}e^{2\pi i\alpha k})$ なので、$\{e^{2\pi i\alpha k}\mid k\in\mathbb{Z}\}$ が $S^1$ で稠密であることを示せばよい。Dirichlet の近似定理(同記事の例の中で証明されている)により、整数 $k_1\ge1$、$l_1$ で $\delta:=k_1\alpha-l_1$ が $0<\lvert\delta\rvert<\varepsilon$ を満たすものがある($\alpha$ は無理数なので $\delta\neq0$)。任意の実数 $\theta$ に対し、整数 $m$ を $\lvert m\delta-\theta\rvert\le\lvert\delta\rvert/2$ となるようにとれる。$ml_1$ は整数なので $e^{2\pi i\alpha mk_1}=e^{2\pi im\delta}$ であり、$\lvert e^{2\pi im\delta}-e^{2\pi i\theta}\rvert\le2\pi\lvert m\delta-\theta\rvert<2\pi\varepsilon$ である。
局所閉でないこと。$L$ が $T^2$ の局所閉集合なら、$L$ は閉包 $\overline L=T^2$ の開集合である。連続写像 $E\colon\mathbb{R}^2\to T^2$、$E(s,u):=(e^{is},e^{iu})$ による逆像 $E^{-1}(L)$ は空でない開集合になる。一方 $(s,u)\in E^{-1}(L)$ は、ある実数 $t$ について $e^{is}=e^{it}$、$e^{iu}=e^{i\alpha t}$ となることであり、$s=t+2\pi k$ と書き直すと $u=\alpha t+2\pi l'$($k,l'$ は整数)となる。よって $E^{-1}(L)=\bigcup_{k,l'\in\mathbb{Z}}\{(t+2\pi k,\ \alpha t+2\pi l')\mid t\in\mathbb{R}\}$ は可算個の直線の和集合である。直線は内部が空な閉集合なので、Baireの範疇定理により $E^{-1}(L)$ の内部は空であり、矛盾する。したがって $L$ は $T^2$ の局所閉集合でない。
部分多様体でないこと。$L$ が $\mathbb{C}^2$ の部分多様体なら、prop-submfd-locally-closed により $L=W\cap C$($W$ は開集合、$C$ は閉集合)と書け、$L=(W\cap T^2)\cap(C\cap T^2)$ は $T^2$ の局所閉集合になる。これは上に反する。$\square$
部分多様体 $S\subset N$ について、$S$ が $N$ の閉集合であることと、包含写像 $\iota\colon S\hookrightarrow N$ が固有写像(コンパクト集合の逆像がコンパクト)であることは同値である。
$S$ が閉集合とする。$K\subset N$ がコンパクトなら、$\iota^{-1}(K)=K\cap S$ はコンパクト集合 $K$ の閉部分集合なのでコンパクトである($S$ には部分空間位相が入っているので、$S$ の部分集合としてもコンパクトである)。
逆に $\iota$ が固有であるとし、$x\in\overline S$ をとる。$N$ は局所 Euclid なので、$x$ はコンパクトな近傍 $K$ をもつ。$K\cap S=\iota^{-1}(K)$ はコンパクトであり、$N$ は Hausdorff なので閉集合である。$x$ の任意の近傍 $U$ について、$U\cap\operatorname{int}K$ は $x$ の近傍なので $S$ と交わり、したがって $U$ は $K\cap S$ と交わる。よって $x\in\overline{K\cap S}=K\cap S\subset S$ であり、$S$ は閉集合である。$\square$
コンパクトな部分多様体は閉部分多様体である。$N$ がコンパクトなら、$N$ の閉部分多様体はコンパクトである。
前半は Hausdorff 空間のコンパクト集合が閉集合であることから、後半はコンパクト空間の閉集合がコンパクトであることから従う。たとえばEhresmannの補題では、固有な沈め込み $f$ のファイバー $f^{-1}(q)$ が閉部分多様体であり、固有性によりコンパクトであることが使われる。
$S\subset N$ を部分多様体、$f\colon S\to\mathbb{R}$ を $C^\infty$ 級関数とする。
局所的な延長。$p\in S$ のまわりの $k$ スライス座標 $(V,\psi)$ をとり、$W_V:=\{u\in\mathbb{R}^k\mid(u,0)\in\psi(V)\}$(開集合)とおく。$(V\cap S,\ \pi\circ\psi)$ は $S$ の座標近傍で、その逆写像は $u\mapsto\psi^{-1}(u,0)$ なので、$f_V(u):=f(\psi^{-1}(u,0))$ は $W_V$ 上の $C^\infty$ 級関数である($f$ の局所表示)。$V_p:=V\cap(\pi\circ\psi)^{-1}(W_V)$ は $p$ を含む開集合であり($\psi(p)=(\pi\psi(p),0)\in\psi(V)$ より $\pi\psi(p)\in W_V$)、
$$
\tilde f_p(y):=f_V\bigl(\pi(\psi(y))\bigr)\qquad(y\in V_p)
$$
は $C^\infty$ 級関数の合成なので $C^\infty$ 級である。$y\in V_p\cap S$ なら $\psi(y)=(\pi\psi(y),0)$ なので $\psi^{-1}(\pi\psi(y),0)=y$ であり、$\tilde f_p(y)=f(y)$ である。
貼り合わせ。1 を示す。$W:=\bigcup_{p\in S}V_p$ とおくと、$W$ は $S$ を含む開集合である。prf-submfd-locally-closed と同じく、$V_p\setminus S=V_p\cap(V\setminus S)$ は開集合なので、$S$ は $W$ の閉集合である。開部分多様体 $W$、その閉集合 $S$、関数 $f$、各点 $p$ の開近傍 $V_p$ とその上の延長 $\tilde f_p$ に 1の分割 の記事の定理(滑らかな関数の延長)を当てると、$C^\infty$ 級関数 $\tilde f\colon W\to\mathbb{R}$ で $\tilde f|_S=f$ となるものが得られる。2 では $S$ は $N$ の閉集合なので、同じ定理を $N$ そのものに当てればよい。$\square$
延長の局所的な部分ではスライス座標が使われ、大域的な部分では 1の分割 の和が各点の近くで有限和になること、すなわち台の族が局所有限(位相)であることが使われる。2 で閉集合の仮定は外せない。
$S:=\{(x,0)\mid0< x< 1\}\subset\mathbb{R}^2$ は 1 次元部分多様体である($V:=(0,1)\times\mathbb{R}$ 上の恒等写像がスライス座標)。$f(x,0):=\sin(1/x)$ は $S$ 上の $C^\infty$ 級関数である。$\mathbb{R}^2$ 上の連続関数 $F$ で $F|_S=f$ となるものがあれば、$x\to0+$ のとき $f(x,0)=F(x,0)\to F(0,0)$ となるが、$\sin(1/x)$ は $x\to0+$ で極限をもたない。よって $f$ は $\mathbb{R}^2$ 全体への $C^\infty$ 級関数(連続関数でさえ)に延長できない。満たす性質は「部分多様体の上の $C^\infty$ 級関数」、満たさない性質は「$S$ が閉集合」であり、破る含意は thm-submfd-extension の 2 の結論である。1 のとおり、開集合 $W=(0,1)\times\mathbb{R}$ 上には $\tilde f(x,y):=\sin(1/x)$ という延長がある。
Lee13 Proposition 5.5(p. 100)は閉部分多様体と固有な包含の同値を、Lemma 5.34(p. 115)は関数の延長を述べている(延長の証明は同書では演習とされている)。
$S\subset N$ を部分多様体、$T\subset S$ を部分集合とする。
包含写像を $j\colon T\hookrightarrow S$、$\iota\colon S\hookrightarrow N$ とする。$T$ の位相は、$S$ からの部分空間位相としても $N$ からの部分空間位相としても同じである(部分空間の部分空間は部分空間)。
1:$j$ と $\iota$ は埋め込みである。連鎖律により $d(\iota\circ j)_q=d\iota_q\circ dj_q$ は単射の合成なので単射であり、$\iota\circ j$ は $T$ からその像 $T$ への同相写像である。よって $\iota\circ j$ は埋め込みであり、はめ込みと埋め込み(可微分多様体) の記事の定理(埋め込みの像は部分多様体)により $T$ は $N$ の部分多様体である。同じ記事の系(部分多様体の微分構造は一意)により、包含写像が埋め込みとなる $T$ の構造は一つなので、2 つの構造は一致する。
2:$T$ に $N$ の部分多様体としての構造を入れる。包含写像 $T\hookrightarrow N$ は $C^\infty$ 級で像は $S$ に含まれるので、はめ込みと埋め込み(可微分多様体) の記事の命題(終域を部分多様体に制限する)により $j\colon T\to S$ は $C^\infty$ 級である。$d\iota\circ dj$ は $T\hookrightarrow N$ の微分なので単射であり、$dj$ も単射である。$j$ は $T$ から部分空間 $T\subset S$ への恒等写像として同相写像なので、$j$ は埋め込みであり、$T$ は $S$ の部分多様体である。$\square$
たとえば $S^1\times\{1\}\subset T^2\subset\mathbb{R}^4$ のように、部分多様体の中の部分多様体は外側の空間の部分多様体として扱ってよい。
| 外す条件 | 反例 | 成り立たなくなること |
|---|---|---|
| (b) の $\Phi$ が沈め込み | $\Phi(x,y)=xy$ の零点集合(十字)。$d\Phi$ は原点で $0$ | 零点集合が部分多様体であること |
| パラメータ表示の微分が単射 | 尖点 $t\mapsto(t^2,t^3)$ の像 | 像への同相写像の像が部分多様体であること |
| パラメータ表示が像への同相写像 | 無理数の傾きの直線の像 | 単射なはめ込みの像が部分多様体であること |
| $S$ が閉集合 | $(0,1)\times\{0\}$ 上の $\sin(1/x)$ | 関数が $N$ 全体に延長できること |
| (c) で座標の番号を付け替えてよい | 円周の点 $(1,0)$ | $y$ を $x$ の関数とするグラフで表せること |
最初の 2 行は 正則値定理 の記事の例(反例:十字)と はめ込みと埋め込み(可微分多様体) の記事の例(反例:尖点をもつ曲線)が証明している。3 行目は ex-submfd-dense-line、4 行目は ex-submfd-no-extension、5 行目は thm-submfd-local-char の後の注意である。
部分多様体に リーマン多様体 の計量を制限したもの(包含写像による計量の引き戻し、テンソル場)を誘導計量といい、リーマン幾何学 の部分多様体論(第 2 基本形式、全測地的部分多様体)はこの設定で展開される。$\mathbb{R}^N$ の部分多様体の各点の接空間の直交補空間を集めると法束ができ、部分多様体はそのまわりに管状近傍をもつ(同記事の定理(管状近傍定理))。写像 $f\colon M\to N$ が部分多様体 $Z\subset N$ に横断的なら $f^{-1}(Z)$ は部分多様体であり(横断性 の記事の定理(横断的な逆像は部分多様体))、$f$ を部分多様体の包含写像にとると、2 つの部分多様体の横断的な交わりが部分多様体になることがわかる。抽象的に与えられた多様体はどれかの $\mathbb{R}^N$ の閉部分多様体と微分同相である(可微分多様体 の記事の定理(Whitney の埋め込み定理))。
Mathpediaは寄付と、参考文献の書籍リンク(Amazonアソシエイト)の紹介料で運営されています。 支援について / 寄付する