Cauchy–Schwarzの不等式(高校数学)

同義語:Cauchy–Bunyakovsky–Schwarzの不等式(高校数学)Cauchy–Schwarz inequality (high school mathematics)

概要

Cauchy–Schwarzの不等式(Cauchy–Schwarz inequality)とは、実ベクトル空間の半内積(線形・対称で $\langle u,u\rangle\ge0$ を満たすもの)について $\langle u,v\rangle^2\le\langle u,u\rangle\langle v,v\rangle$ が成り立つという不等式である。$\langle tu-v,tu-v\rangle\ge0$ を $t$ の 2 次式とみて、判別式 $\le0$ から角を使わずに示す。内積(正定値)なら、等号は $u,v$ が 1 次従属のときに限る。ここから三角不等式と、内積で定める角 $\cos\theta=\frac{\langle u,v\rangle}{\|u\|\|v\|}$ が得られる。相関係数が $-1$ 以上 $1$ 以下であることもその例である。

$$\newcommand{C}[0]{\mathbb{C}} \newcommand{N}[0]{\mathbb{N}} \newcommand{Q}[0]{\mathbb{Q}} \newcommand{R}[0]{\mathbb{R}} \newcommand{Z}[0]{\mathbb{Z}} $$

前提知識: ベクトルの内積, 判別式で示す不等式, ベクトル空間

高校での出発点:内積は長さの積を超えない

高校では、平面や空間のベクトルの内積を $\vec a\cdot\vec b=|\vec a||\vec b|\cos\theta$($\theta$ はなす角)と定義する。$|\cos\theta|\le1$ なので、次の不等式が成り立つ。
$$ |\vec a\cdot\vec b|\le|\vec a||\vec b| $$

空間ベクトルで確かめる
  1. $\vec a=(1,2,2)$、$\vec b=(2,-1,3)$ とする。$\vec a\cdot\vec b=2-2+6=6$、$|\vec a|=\sqrt{1+4+4}=3$、$|\vec b|=\sqrt{4+1+9}=\sqrt{14}$ なので、右辺は $3\sqrt{14}=11.22\ldots$ であり、$6\le11.22\ldots$ となっている。2 乗した形では $36\le9\cdot14=126$ である。
  2. $\vec a=(1,2)$、$\vec b=(2,4)$ では $\vec b=2\vec a$ で、$\vec a\cdot\vec b=10$、$|\vec a||\vec b|=\sqrt5\cdot\sqrt{20}=10$ と等号になる。なす角が $0$ だからである。
  3. $\vec a=(1,2)$、$\vec b=(2,3)$ では $\vec a\cdot\vec b=8$、$|\vec a|^2|\vec b|^2=5\cdot13=65$ で、$64\le65$ とわずかに等号から外れる。

この不等式を高校では「$|\cos\theta|\le1$ だから」と読むが、判別式で示す不等式 で見たように、2 乗の和 $\sum(a_it-b_i)^2\ge0$ の判別式からも出る。判別式による証明は角 $\theta$ を一度も使わない。そのため、角が最初から与えられていない場面(関数の積分やデータの相関)にもそのまま使え、逆に「角」を定義する道具になる。
この記事で答える問いは次の 3 つである。

  1. 内積について、判別式の証明が使える最小限の条件は何か。等号はいつ成り立つか。→ def-csi-inner-product、thm-csi-main
  2. この不等式から何が出るか。→ cor-csi-triangle-angle
  3. 条件を外すと何が崩れるか。→ ex-csi-indefinite、ex-csi-semidefinite
    高校の計算この記事の言葉大学の言葉
    なす角の余弦は $-1$ 以上 $1$ 以下$\langle u,v\rangle^2\le\langle u,u\rangle\langle v,v\rangle$Cauchy–Schwarz の不等式
    判別式 $\le0$$\langle tu-v,tu-v\rangle\ge0$ の判別式半正定値性
    平行なら等号1 次従属なら等号1 次従属
    先に角があって内積を決める先に内積があって角を決める内積空間の角
    相関係数は $-1$ 以上 $1$ 以下偏差ベクトルの角の余弦共分散の Cauchy–Schwarz

内積と半内積

判別式の証明で使うのは、分配法則(双線形性)、$\vec a\cdot\vec b=\vec b\cdot\vec a$(対称性)、$|\vec x|^2\ge0$ の 3 つだけである。これを定義として取り出す。
和 $u+v$ と実数倍 $cu$ が定義され、ふつうの計算規則(結合法則・交換法則・分配法則、零ベクトル $0$ と逆ベクトル $-u$ があること)を満たす集まりを実ベクトル空間という。$n$ 個の実数の組の全体 $\mathbb{R}^n$ や、区間 $[p,q]$ 上の実数値連続関数の全体 $C([p,q])$ が例である。

内積と半内積

$V$ を実ベクトル空間とする。$V$ の 2 元 $u,v$ に実数 $\langle u,v\rangle$ を対応させる規則が次の 1〜3 を満たすとき、これを $V$ 上の半内積という。

  1. 線形性:すべての $u,v,w\in V$ と実数 $s,t$ について $\langle su+tv,w\rangle=s\langle u,w\rangle+t\langle v,w\rangle$。
  2. 対称性:すべての $u,v\in V$ について $\langle u,v\rangle=\langle v,u\rangle$。
  3. 半正値性:すべての $u\in V$ について $\langle u,u\rangle\ge0$。
    さらに次の 4 も満たすとき、内積という。
  4. 正定値性:$\langle u,u\rangle=0$ となるのは $u=0$ のときに限る。
    $\|u\|:=\sqrt{\langle u,u\rangle}$ を $u$ の長さ(ノルム)という。内積を備えた実ベクトル空間を内積空間という。

1 と 2 から第 2 成分についても線形であり(2 で左右を入れかえて 1 を使う)、両方の成分について線形であることを双線形性という。また $\langle0,v\rangle=\langle0\cdot0,v\rangle=0\cdot\langle0,v\rangle=0$ である。半内積という中間の段階を置くのは、次の節の不等式の証明が 1〜3 だけを使い、4 は等号の条件にしか使わないからである。

内積と半内積の例
  1. 標準内積:$\mathbb{R}^n$ で $\langle a,b\rangle:=a_1b_1+\cdots+a_nb_n$。$\langle a,a\rangle=a_1^2+\cdots+a_n^2$ は $0$ 以上で、$0$ になるのは $a=0$ のときだけなので内積である。$n=2,3$ が高校のベクトルの内積である。
  2. 重み付き内積:正の数 $w_1,\dots,w_n$ を決めて $\langle a,b\rangle_w:=w_1a_1b_1+\cdots+w_na_nb_n$。$\langle a,a\rangle_w=\sum w_ia_i^2$ で $w_i>0$ なので内積である。たとえば $w=(1,2)$、$a=(1,1)$、$b=(1,-1)$ なら $\langle a,b\rangle_w=1\cdot1\cdot1+2\cdot1\cdot(-1)=-1$、$\langle a,a\rangle_w=1+2=3$ である。
  3. 積分による内積:$C([p,q])$($p< q$)で $\langle f,g\rangle:=\int_p^qf(x)g(x)\,dx$。1・2 は積分の線形性から、3 は $f(x)^2\ge0$ から従う。4 も成り立つが、その証明には $f$ の連続性が要る(積分で定める内積)。
  4. 半内積だが内積でない例:$\mathbb{R}^2$ で $\langle a,b\rangle:=a_1b_1$。1〜3 は成り立つが、$a=(0,1)$ は $0$ でないのに $\langle a,a\rangle=0$ なので、4 が成り立たない。

主定理:Cauchy–Schwarz の不等式

Cauchy–Schwarz の不等式

$V$ を実ベクトル空間、$\langle\cdot,\cdot\rangle$ を $V$ 上の半内積とする。

  1. すべての $u,v\in V$ について
    $$ \langle u,v\rangle^2\le\langle u,u\rangle\langle v,v\rangle,\qquad\text{すなわち}\qquad|\langle u,v\rangle|\le\|u\|\,\|v\| $$
    が成り立つ。
  2. $\langle\cdot,\cdot\rangle$ が内積ならば、1 で等号が成り立つのは、$u,v$ が 1 次従属であるとき(一方が他方の実数倍であるとき)に限る。
判別式による証明

方針:実数 $t$ について $\langle tu-v,tu-v\rangle\ge0$ を $t$ の 2 次式として展開し、その「判別式が $0$ 以下」を示す。判別式で示す不等式 の補題を、ここで必要な向きだけ示し直しながら使う。以下 $A:=\langle u,u\rangle$、$B:=\langle u,v\rangle$、$C:=\langle v,v\rangle$ とおく。3 から $A\ge0$、$C\ge0$ である。
段 1(2 次式を作る):双線形性と対称性で展開すると、すべての実数 $t$ について
$$ 0\le\langle tu-v,\,tu-v\rangle=t^2\langle u,u\rangle-t\langle u,v\rangle-t\langle v,u\rangle+\langle v,v\rangle=At^2-2Bt+C $$
である(左の不等号は半正値性 3)。
段 2($A>0$ の場合):段 1 の式に $t=\frac BA$ を代入すると
$$ 0\le A\cdot\frac{B^2}{A^2}-2B\cdot\frac BA+C=\frac{B^2}A-\frac{2B^2}A+C=C-\frac{B^2}A $$
である。両辺に $A>0$ を掛けて $B^2\le AC$ を得る。
段 3($A=0$ の場合):段 1 の式は $0\le-2Bt+C$(すべての $t$)となる。$B\ne0$ と仮定して $t:=\frac{C+1}{2B}$ とおくと、右辺は $-(C+1)+C=-1<0$ となり矛盾する。よって $B=0$ で、$B^2=0=AC$ である。
段 4(平方根):段 2・段 3 から $\langle u,v\rangle^2\le\langle u,u\rangle\langle v,v\rangle$ である。両辺は $0$ 以上なので平方根をとって $|\langle u,v\rangle|\le\|u\|\|v\|$ を得る。これで 1 が示された。
段 5(2 の「1 次従属なら等号」):内積とする。$v=su$ なら $\langle u,v\rangle^2=s^2\langle u,u\rangle^2$、$\langle u,u\rangle\langle v,v\rangle=\langle u,u\rangle\cdot s^2\langle u,u\rangle$ で等しい。$u=sv$ でも同様である。
段 6(2 の「等号なら 1 次従属」):等号 $B^2=AC$ が成り立つとする。$u=0$ なら $u=0\cdot v$ で 1 次従属である。$u\ne0$ なら正定値性 4 から $A>0$ である。$t_0:=\frac BA$ とおくと、段 2 の計算から
$$ \langle t_0u-v,\,t_0u-v\rangle=C-\frac{B^2}A=\frac{AC-B^2}A=0 $$
である。正定値性 4 から $t_0u-v=0$、すなわち $v=t_0u$ であり、1 次従属である。$\square$

段 2 で代入した $t_0=\frac{\langle u,v\rangle}{\langle u,u\rangle}$ は、$\|tu-v\|^2$ をいちばん小さくする $t$ であり、$t_0u$ は $v$ を $u$ の向きに正射影した点である(図 1、図 2)。ここで、$\langle u,u\rangle>0$ のとき、$u$ の向きの直線上の点 $tu$ のうち、$v-tu$ が $u$ と直交する($\langle v-tu,u\rangle=0$ となる)ものを、$v$ の $u$ の向きへの正射影という。$\langle v-t_0u,u\rangle=\langle u,v\rangle-t_0\langle u,u\rangle=0$ なので、$t_0u$ はこの条件を満たす。判別式の計算は、「$v$ から $u$ の向きの直線までの距離の 2 乗
$$ \min_t\|tu-v\|^2=\frac{\langle u,u\rangle\langle v,v\rangle-\langle u,v\rangle^2}{\langle u,u\rangle} $$
が $0$ 以上」という図形の事実を式にしたものである($\langle u,u\rangle>0$ のとき)。正射影については Fourier係数と最良近似 でさらに詳しく扱う。
v から u の向きの直線までの最短距離。t₀u は正射影で、v − t₀u は u と直交する v から u の向きの直線までの最短距離。t₀u は正射影で、v − t₀u は u と直交する

正射影と最短距離を数で確かめる

$\mathbb{R}^2$ の標準内積で $u=(2,1)$、$v=(1,3)$ とする。$A=\langle u,u\rangle=5$、$B=\langle u,v\rangle=2+3=5$、$C=\langle v,v\rangle=10$ である。

  1. 不等式:$B^2=25\le AC=50$。
  2. $\|tu-v\|^2=5t^2-10t+10=5(t-1)^2+5$ なので、$t_0=\frac BA=1$ で最小値 $5$ をとる(図 2)。$\frac{AC-B^2}A=\frac{50-25}5=5$ と一致する。
  3. $t_0u=(2,1)$、$v-t_0u=(-1,2)$ で、$\langle v-t_0u,u\rangle=-2+2=0$ なので直交する。$\|v-t_0u\|^2=1+4=5$ である。
  4. 直線上の別の点、たとえば $1.6u=(3.2,1.6)$ までの距離の 2 乗は $2.2^2+1.4^2=6.8$ で、$5$ より大きい。

‖tu − v‖² = 5t² − 10t + 10 のグラフ。t = 1 で最小値 5 をとり、つねに 0 以上である ‖tu − v‖² = 5t² − 10t + 10 のグラフ。t = 1 で最小値 5 をとり、つねに 0 以上である
$v$ を $u$ の向きの成分とそれに直交する成分に分ける操作(正射影)は 正射影と射影行列 で扱う。

三角不等式と内積で定める角

長さの三角不等式と角

$V$ 上の半内積について、次が成り立つ。

  1. すべての $u,v\in V$ について $\|u+v\|\le\|u\|+\|v\|$。
  2. $\|u\|\ne0$、$\|v\|\ne0$ ならば $-1\le\dfrac{\langle u,v\rangle}{\|u\|\|v\|}\le1$ であり、したがって $\cos\theta=\dfrac{\langle u,v\rangle}{\|u\|\|v\|}$ となる $\theta$ が $0\le\theta\le\pi$ の範囲にただ 1 つある。
展開して Cauchy–Schwarz を使う

1:双線形性と対称性で展開し、thm-csi-main の $\langle u,v\rangle\le|\langle u,v\rangle|\le\|u\|\|v\|$ を使うと
$$ \|u+v\|^2=\|u\|^2+2\langle u,v\rangle+\|v\|^2\le\|u\|^2+2\|u\|\|v\|+\|v\|^2=(\|u\|+\|v\|)^2 $$
である。両辺は $0$ 以上の数の 2 乗なので、平方根をとって $\|u+v\|\le\|u\|+\|v\|$ を得る。
2:thm-csi-main の $|\langle u,v\rangle|\le\|u\|\|v\|$ の両辺を正の数 $\|u\|\|v\|$ で割ると $\Bigl|\dfrac{\langle u,v\rangle}{\|u\|\|v\|}\Bigr|\le1$ である。$\cos$ は $[0,\pi]$ で狭義に減少し、$1$ から $-1$ までのすべての値をとるので、$\theta$ はただ 1 つ定まる。$\square$

三角不等式と角の例
  1. $\mathbb{R}^3$:$u=(1,2,2)$、$v=(2,-1,3)$ では $u+v=(3,1,5)$、$\|u+v\|=\sqrt{35}=5.91\ldots$、$\|u\|+\|v\|=3+\sqrt{14}=6.74\ldots$ で、三角不等式が成り立つ。
  2. $\mathbb{R}^2$:ex-csi-projection の $u=(2,1)$、$v=(1,3)$ では $\cos\theta=\frac5{\sqrt5\sqrt{10}}=\frac1{\sqrt2}$ なので $\theta=\frac\pi4$ である。図 1 でも $45^\circ$ になっている。
  3. 関数:区間 $[0,1]$ の積分による内積で、$1$ と $x$ のなす角は $\cos\theta=\frac{\int_0^1x\,dx}{\sqrt{\int_0^11\,dx}\sqrt{\int_0^1x^2dx}}=\frac{1/2}{\sqrt{1/3}}=\frac{\sqrt3}2$ から $\theta=\frac\pi6$($30^\circ$)である。
  4. 関数:同じ内積で $x$ と $x^2$ のなす角は $\cos\theta=\frac{1/4}{\sqrt{1/3}\sqrt{1/5}}=\frac{\sqrt{15}}4=0.968\ldots$ で、$\theta=14.47\ldots^\circ$ である。判別式で示す不等式 の積分の例 $\frac1{16}\le\frac1{15}$ は、この $\cos^2\theta=\frac{15}{16}<1$ と同じことである。等号にならないのは、$x$ と $x^2$ が比例しない(1 次独立である)からである(thm-csi-main の 2)。

高校では、角 $\theta$ が先にあって内積を $|\vec a||\vec b|\cos\theta$ で定めた。一般の内積空間では順序が逆で、内積が先にあり、thm-csi-main が保証する $[-1,1]$ の値から角を定める。2 つの定義は $\mathbb{R}^2$・$\mathbb{R}^3$ では一致する(高校の成分計算の公式 $\vec a\cdot\vec b=a_1b_1+a_2b_2+a_3b_3$ がその一致を述べている)。
実数の絶対値についての三角不等式は 絶対値と三角不等式 で扱う。

使い方の例

球面上での 1 次式の最大値

$x^2+y^2+z^2=1$ を満たす実数 $x,y,z$ について、$2x+3y+6z$ の最大値と最小値を求める。$u=(2,3,6)$、$v=(x,y,z)$ に標準内積の thm-csi-main を使うと
$$ (2x+3y+6z)^2\le(2^2+3^2+6^2)(x^2+y^2+z^2)=49 $$
なので $-7\le2x+3y+6z\le7$ である。等号は $v$ が $u$ の実数倍のとき、すなわち $(x,y,z)=\pm\frac17(2,3,6)$ のときに成り立ち、実際 $\frac17(4+9+36)=7$ である。よって最大値は $7$、最小値は $-7$ である。「1 次式の最大値は係数ベクトルの長さ」という形で、微分を使わずに答えが出る。

相関係数が $-1$ 以上 1 以下であること

$n$ 組のデータ $(x_1,y_1),\dots,(x_n,y_n)$ の平均を $\bar x,\bar y$ とし、偏差のベクトルを $X:=(x_1-\bar x,\dots,x_n-\bar x)$、$Y:=(y_1-\bar y,\dots,y_n-\bar y)$ とする。$X\ne0$、$Y\ne0$ のとき、相関係数は
$$ r:=\frac{\sum_i(x_i-\bar x)(y_i-\bar y)}{\sqrt{\sum_i(x_i-\bar x)^2}\sqrt{\sum_i(y_i-\bar y)^2}}=\frac{\langle X,Y\rangle}{\|X\|\|Y\|} $$
である。cor-csi-triangle-angle の 2 から $-1\le r\le1$ であり、$r$ は偏差ベクトルのなす角の余弦である。thm-csi-main の 2 から、$|r|=1$ となるのは $Y=sX$、すなわちすべての点が 1 本の直線 $y-\bar y=s(x-\bar x)$ の上にあるときに限る。
数値例:$x=(1,2,3,4,5)$、$y=(2,4,5,4,5)$ では $\bar x=3$、$\bar y=4$、$\langle X,Y\rangle=6$、$\|X\|^2=10$、$\|Y\|^2=6$ であり、$r=\frac6{\sqrt{60}}=\frac{\sqrt{15}}5=0.7745\ldots$ である。相関係数の詳しいことは 相関係数(高校数学) にある。

Gram 行列で見る

2 つのベクトル $u,v$ の内積を並べた行列 $G(u,v):=\begin{pmatrix}\langle u,u\rangle&\langle u,v\rangle\\\langle v,u\rangle&\langle v,v\rangle\end{pmatrix}$ を Gram 行列という。thm-csi-main の 1 は $\det G(u,v)=\langle u,u\rangle\langle v,v\rangle-\langle u,v\rangle^2\ge0$ と同じことである。ex-csi-projection では $\det G=5\cdot10-5^2=25$ である。実数 $s,t$ について $\|su+tv\|^2=\langle u,u\rangle s^2+2\langle u,v\rangle st+\langle v,v\rangle t^2\ge0$ なので、主定理は「Gram 行列を係数とする 2 変数の 2 次式は $0$ 以上」という事実(判別式で示す不等式 の 2 変数の場合)を言い直したものである。

反例

外した条件崩れる主張ボックス
半正値性 3($\langle u,u\rangle\ge0$)不等式そのものex-csi-indefinite
正定値性 4「等号なら 1 次従属」ex-csi-semidefinite
反例:半正値でない対称双線形形式

$\mathbb{R}^2$ で $\langle a,b\rangle:=a_1b_1-a_2b_2$ とする。これは双線形で対称である(def-csi-inner-product の 1・2 を満たす)が、$\langle(0,1),(0,1)\rangle=-1<0$ なので半正値性 3 を満たさない。$u=(1,0)$、$v=(1,1)$ とすると
$$ \langle u,v\rangle^2=1,\qquad\langle u,u\rangle\langle v,v\rangle=1\cdot(1-1)=0 $$
なので、Cauchy–Schwarz の不等式は成り立たない。証明の段 1 の 2 次式は $\langle tu-v,tu-v\rangle=(t-1)^2-1=t^2-2t$ となり、$0< t<2$ で負になる。「すべての $t$ で $0$ 以上」という出発点が崩れるので、結論も崩れる。含意「双線形で対称なら Cauchy–Schwarz の不等式が成り立つ」は成り立たず、半正値性が欠かせない。

反例:半内積では等号から 1 次従属が従わない

ex-csi-examples の 4 の半内積 $\langle a,b\rangle=a_1b_1$ で、$u=(0,1)$、$v=(1,0)$ とする。$\langle u,v\rangle=0$、$\langle u,u\rangle=0$ なので、不等式は $0\le0$ として等号で成り立つが、$u$ と $v$ は 1 次独立である。半内積は正定値性 4 を満たさず、prf-thm-csi-main の段 6($\langle t_0u-v,t_0u-v\rangle=0$ から $t_0u=v$ を出す所)が使えない。同じことは、区間上の連続とは限らない関数に積分の「内積」を考えたときにも起こる。たとえば $[0,1]$ で $x=\frac12$ だけで値 $1$、他で $0$ をとる関数 $h$ は $0$ でないが $\int_0^1h^2\,dx=0$ である。

さらに先へ

  • 大学での扱い:この記事は高校生向けに、実ベクトル空間の半内積について判別式で証明した。複素内積の場合や、Hilbert 空間での使い方など大学での扱いは、大学向けの記事 Cauchy–Schwarzの不等式 で扱う。
  • 複素内積:複素ベクトル空間の内積(第 2 成分について共役線形で、$\langle v,u\rangle=\overline{\langle u,v\rangle}$ を満たすもの)でも $|\langle u,v\rangle|\le\|u\|\|v\|$ が成り立ち、等号の条件も同じである。$\langle u,v\rangle$ が複素数になるので、判別式の議論の前に $u$ に絶対値 $1$ の複素数を掛けて $\langle u,v\rangle$ を実数にしておく工夫が要る。本記事では証明しない(直交分解による証明が Axl24 の 6.14 にある)。
  • 確率変数:分散が有限な確率変数 $X,Y$ について $\mathrm{Cov}(X,Y)^2\le\mathrm{Var}(X)\mathrm{Var}(Y)$ が成り立ち、相関係数は $-1$ 以上 $1$ 以下である。$\mathrm{Cov}$ は半内積であり(定数の確率変数 $X$ で $\mathrm{Var}(X)=0$)、証明は thm-csi-main と同じ判別式の議論である。標本空間が有限の場合は、確率を重みとする重み付き内積(ex-csi-examples の 2。確率 $0$ の点は除く)での計算になり、$n$ 個の標本点がそれぞれ確率 $\frac1n$ をもつ場合は ex-csi-correlation と同じ計算になる。一般の場合の期待値の扱いは本記事では述べない。
  • 無限次元:$\sum a_n^2<\infty$ となる数列の全体や、2 乗が積分可能な関数の全体(の適当な同一視)は内積空間になり(本記事では証明しない)、そこでも thm-csi-main がそのまま使える。たとえば $\sum a_n^2$ と $\sum b_n^2$ が収束するとき、$|a_n|$ と $|b_n|$ の有限個の和に thm-csi-main を使うと、$\sum_{n=1}^N|a_nb_n|\le\sqrt{\sum_{n=1}^\infty a_n^2}\sqrt{\sum_{n=1}^\infty b_n^2}$ が $N$ によらず成り立つ。上に有界な増加数列は収束するので $\sum|a_nb_n|$ は収束し、絶対収束する級数は収束するので $\sum a_nb_n$ も収束する(この 2 つの事実は本記事では証明しない)。完備な内積空間を Hilbert空間 という。
  • Gram の不等式:$k$ 個のベクトル $u_1,\dots,u_k$ の Gram 行列 $\bigl(\langle u_i,u_j\rangle\bigr)_{i,j}$ の行列式は $0$ 以上である。$k=2$ が本記事の不等式である。本記事では $k\ge3$ の場合を証明しない(Gram行列)。
  • Hölder の不等式:$p,q>1$、$\frac1p+\frac1q=1$ のとき $\sum|a_ib_i|\le\bigl(\sum|a_i|^p\bigr)^{1/p}\bigl(\sum|b_i|^q\bigr)^{1/q}$ が成り立ち、$p=q=2$ が本記事の不等式(標準内積の場合)である。これは内積からではなく凸関数の性質から導かれる(Hölderの不等式。本記事では証明しない)。
  • 名前の由来:Axl24 の 6.14 の傍注によれば、和の形($\mathbb{R}^n$ の場合)は Cauchy が 1821 年に証明し、積分の形は Bunyakovsky が 1859 年に証明した。数十年後の Schwarz による同様の発見が注目を集め、この名がついた。Cauchy–Bunyakovsky–Schwarz の不等式とも呼ばれる(Leb26 の Lemma 7.1.4 の脚注)。

関連項目

参考文献

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