平坦極限

同義語:flat limit

概要

平坦極限(flat limit)とは、正則な 1 次元整スキーム $T$ から閉点 $P$ を除いた上で与えられた、射影空間の閉部分スキームの平坦族を、$T$ 全体の上の平坦族にただ 1 通りに延ばしたときの、$P$ でのファイバーのことである。延長は生成ファイバーの閉包として得られ、各座標近傍で剰余環が捩れをもたないようにイデアルを縮約して構成される。平坦極限は Hilbert 多項式を保つので、滑らかな曲線の族の極限に冪零元や埋め込み点が現れることがある。Noether スキームからこのような底への射が平坦であることは、随伴点がすべて生成点に写ることで判定できる。

$$\newcommand{C}[0]{\mathbb{C}} \newcommand{div}[0]{\mathbin{÷}} \newcommand{N}[0]{\mathbb{N}} \newcommand{Q}[0]{\mathbb{Q}} \newcommand{R}[0]{\mathbb{R}} \newcommand{Z}[0]{\mathbb{Z}} $$

前提知識: 平坦族, 平坦射, 離散付値環, 埋め込み点, 随伴素イデアル

曲線 $T$ から 1 点 $P$ を除いた上に射影空間の閉部分スキームの平坦族が与えられたとき、その族は $P$ の上までただ 1 通りに平坦に延びる。延ばした族の $P$ でのファイバーを平坦極限という。平坦極限は、もとのファイバーがすべて滑らかな曲線でも、冪零元や埋め込み点をもつスキームになることがある。それは Hilbert 多項式を保つために必要な付け足しである。この記事では、延長の存在と一意性を「捩れのない加群」と「生成ファイバーからの縮約」で証明し、随伴点による平坦性の判定と計算例を述べる。

定義

この記事では、底 $T$ について次の条件を考える。

条件 (*):$T$ は整スキームで、各点の局所環 $\mathcal O_{T,t}$ は体または離散付値環(離散付値環)である。
正則な 1 次元整スキーム(各局所環が正則局所環(正則局所環)である次元 $1$ の整スキーム。たとえば体上の滑らかな曲線や Dedekind 整域(Dedekind整域)のスペクトル)は (*) をみたす。実際、生成点の局所環は関数体であり、ほかの点 $t$ では $\dim\mathcal O_{T,t}=1$ なので、$\mathcal O_{T,t}$ は 1 次元の正則局所環、すなわち離散付値環である(離散付値環 の定理「離散付値環の特徴づけ」)。(*) をみたす $T$ の空でない開集合も (*) をみたす。$T$ の生成点を $\eta$、関数体を $K=\kappa(\eta)$ と書く。

平坦な延長と平坦極限

$T$ を正則な 1 次元整スキーム、$P\in T$ を閉点、$U=T\setminus\{P\}$ とし、$X_U\subset\mathbb P^n_U$ を $U$ 上平坦な閉部分スキームとする。$\mathbb P^n_T$ の閉部分スキーム $X$ で、$T$ 上平坦かつ $X\times_TU=X_U$ をみたすものを $X_U$ の平坦な延長という。そのファイバー $X_P\subset\mathbb P^n_{\kappa(P)}$ を、族 $X_U$ の $P$ での平坦極限(flat limit)という。

thm-flat-limit により平坦な延長はただ 1 つなので、平坦極限は族 $X_U$ だけで決まる。平坦族 の定理「平坦性と Hilbert 多項式の一定性」を、各点 $t$ の局所環 $\mathcal O_{T,t}$(体または離散付値環で、Noether 局所整域)のスペクトルへ底変換した族に当てると、どのファイバーの Hilbert 多項式も生成ファイバーのものに等しい。とくに平坦極限の Hilbert 多項式は $U$ の上のファイバーと同じである。

平坦な延長の存在と一意性

def-flat-limit の設定で、$X_U$ の平坦な延長 $X\subset\mathbb P^n_T$ がただ 1 つ存在する。

証明は 2 つの補題と、それを貼り合わせた thm-flat-limit-generic による(同じ主張は Har77 III 命題 9.8(p. 258)にあり、そこでは閉包と prop-flat-limit-associated にあたる判定で示されている)。

捩れのない加群と縮約

平坦性と捩れ

$T$ を (*) をみたすスキーム、$g\colon Z\to T$ を射とし、$\operatorname{Spec}R\subset T$ をアフィン開集合、$\operatorname{Spec}C\subset g^{-1}(\operatorname{Spec}R)$ をアフィン開集合とする。$g$ が $\operatorname{Spec}C$ の各点で平坦であることと、$C$ が捩れのない $R$ 加群(捩れ(加群))であることは同値である。

離散付値環の上では平坦と捩れなしが同値

$R$ は整域である。$g$ が $\operatorname{Spec}C$ の各点で平坦なら、平坦射 の記事の命題「平坦性の局所性」により $C$ は平坦 $R$ 加群であり、同記事の命題「整域上の平坦加群と捩れ」により捩れをもたない。
逆に $C$ が捩れをもたないとする。$\mathfrak q\subset C$ を素イデアル、$\mathfrak p\subset R$ をその引き戻しとする。$C_{\mathfrak q}$ も捩れをもたない $R_{\mathfrak p}$ 加群である。実際、$a\in R\setminus\{0\}$、$c\in C$、$s\notin\mathfrak q$ について $a\cdot(c/s)=0$ なら、ある $u\notin\mathfrak q$ で $uac=0$、よって $a(uc)=0$ から $uc=0$、すなわち $c/s=0$ である($R_{\mathfrak p}$ の $0$ でない元は $a/b$ の形で、$1/b$ は可逆である)。$R_{\mathfrak p}$ は体か離散付値環で、どちらも単項イデアル整域なので、同記事の命題「整域上の平坦加群と捩れ」の後半により $C_{\mathfrak q}$ は平坦 $R_{\mathfrak p}$ 加群である。これは $g$ が $\mathfrak q$ で平坦であることにほかならない。$\square$

生成ファイバーからの縮約

$R$ を整域、$K$ をその商体、$C$ を $R$ 代数、$C_K=C\otimes_RK$ とし、$\pi\colon C\to C_K$ を自然な写像とする。

  1. イデアル $H\subset C$ について、$C/H$ が捩れのない $R$ 加群であることと、$H=\pi^{-1}(HC_K)$ であることは同値である。
  2. イデアル $J\subset C_K$ について $H=\pi^{-1}(J)$ とおくと、$C/H$ は捩れのない $R$ 加群で、$HC_K=J$ である。
  3. 2 の $H$ の形成は局所化と交換する。すなわち $g\in C$ について、$C_g$ のイデアルとして $\pi_g^{-1}(J_g)=\pi^{-1}(J)_g$ である($\pi_g\colon C_g\to(C_K)_g$)。
捩れは $K$ へのテンソルの核

$\Sigma=R\setminus\{0\}$ とおくと $C_K=\Sigma^{-1}C$ であり、$R$ 加群 $N$ について $N\to N\otimes_RK=\Sigma^{-1}N$ の核は捩れ元全体である。
1:$(C/H)\otimes_RK=C_K/HC_K$ なので、$C/H$ が捩れをもたないことは $C/H\to C_K/HC_K$ が単射であること、すなわち $\pi^{-1}(HC_K)=H$ であることと同値である。
2:定義から $C/H\to C_K/J$ は単射で、$C_K/J$ は $K$ 上のベクトル空間だから捩れをもたず、その部分加群 $C/H$ も捩れをもたない。$\pi(H)\subset J$ なので $HC_K\subset J$ である。逆に $x\in J$ を $x=\pi(c)/a$($c\in C$、$a\in\Sigma$)と書くと、$\pi(c)=ax\in J$ より $c\in H$ で、$x\in HC_K$ である。
3:$\pi^{-1}(J)_g\subset\pi_g^{-1}(J_g)$ は明らかである。$c/g^e\in C_g$ が $\pi_g^{-1}(J_g)$ に属すれば、ある $f\ge0$ で $g^f\pi(c)\in J$ となり、$g^fc\in\pi^{-1}(J)$ だから $c/g^e=g^fc/g^{e+f}\in\pi^{-1}(J)_g$ である。$\square$

生成ファイバーとの対応

平坦な閉部分スキームと生成ファイバー

$T$ を (*) をみたすスキームとする。$\mathbb P^n_T$ の閉部分スキームで $T$ 上平坦なものに、その生成ファイバー $X_\eta\subset\mathbb P^n_K$ を対応させる写像
$$ \{X\subset\mathbb P^n_T\ \text{閉部分スキーム},\ T\text{ 上平坦}\}\longrightarrow\{Z\subset\mathbb P^n_K\ \text{閉部分スキーム}\},\qquad X\longmapsto X_\eta $$
は全単射である。逆写像は、各座標近傍で $Z$ のイデアルの縮約をとる操作で与えられる。

座標近傍ごとの縮約を貼り合わせる

$\operatorname{Spec}R\subset T$ をアフィン開集合、$0\le i\le n$ とし、$\mathbb P^n_R$ の標準アフィン開集合 $D_+(x_i)=\operatorname{Spec}C$、$C=R[x_0/x_i,\dots,x_n/x_i]$ を考える。生成ファイバー上の対応する開集合は $\operatorname{Spec}C_K$ である。
単射:$X$ が $T$ 上平坦で、$X\cap\operatorname{Spec}C=\operatorname{Spec}C/H$ とする。lem-flat-limit-torsion-free により $C/H$ は捩れをもたず、lem-flat-limit-contraction の 1 により $H=\pi^{-1}(HC_K)$ である。$HC_K$ は $X_\eta$ のこの開集合でのイデアルなので、$H$ は $X_\eta$ で決まる。閉部分スキームはアフィン開被覆の上のイデアルで決まるから、$X$ は $X_\eta$ で決まる。
全射:$Z\subset\mathbb P^n_K$ を閉部分スキームとし、$Z\cap\operatorname{Spec}C_K$ のイデアルを $J$ として $H_{R,i}=\pi^{-1}(J)\subset C$ とおく。これらは重なりで一致する。実際、$D_+(x_i)\cap D_+(x_j)$ は $\operatorname{Spec}C$ の $x_j/x_i$ による局所化であり、$\operatorname{Spec}R$ と別のアフィン開集合 $\operatorname{Spec}R'$ の共通部分は、両方で主開集合になる開集合 $\operatorname{Spec}R_a=\operatorname{Spec}R'_{a'}$ で覆われる。どちらの局所化でも $Z$ のイデアルは局所化したもので与えられ、lem-flat-limit-contraction の 3 により縮約は局所化と交換する。よって $H_{R,i}$ は準連接なイデアル層 $\mathcal I\subset\mathcal O_{\mathbb P^n_T}$ に貼り合い、閉部分スキーム $X=V(\mathcal I)$ が定まる。lem-flat-limit-contraction の 2 により各 $C/H_{R,i}$ は捩れをもたないので、lem-flat-limit-torsion-free により $X$ は $T$ 上平坦であり、$H_{R,i}C_K=J$ だから $X_\eta=Z$ である。$\square$

逆写像で得られる $X$ を $Z$ の $\mathbb P^n_T$ での閉包と呼ぶ。$X$ は、生成ファイバーが $Z$ を含む閉部分スキームのうち最小のものでもある。実際、閉部分スキーム $X'$ のイデアルが座標近傍で $H'$ で、$X'_\eta\supset Z$(すなわち $H'C_K\subset J$)なら、$H'\subset\pi^{-1}(H'C_K)\subset\pi^{-1}(J)$ なので $X\subset X'$ である。

主定理の証明

閉包をとり単射性で比べる

$U$ は空でない開集合なので (*) をみたし、生成点 $\eta$ を $T$ と共有する。$Z=(X_U)_\eta\subset\mathbb P^n_K$ とおき、thm-flat-limit-generic により $Z$ を生成ファイバーとする $T$ 上平坦な閉部分スキーム $X\subset\mathbb P^n_T$ をとる。$X\times_TU$ は $U$ 上平坦で生成ファイバーが $Z$ であり、$X_U$ も同じ性質をもつので、thm-flat-limit-generic の単射性を $U$ に当てて $X\times_TU=X_U$ を得る。これで存在がいえた。$X'$ を別の平坦な延長とすると $X'_\eta=(X_U)_\eta=Z=X_\eta$ なので、thm-flat-limit-generic の単射性を $T$ に当てて $X'=X$ である。$\square$

随伴点による判定

平坦な延長は、底の閉点の上に随伴点(埋め込み点 の記事の定義「随伴点と埋め込み点」:$\mathfrak m_x=\operatorname{Ann}(s)$ となる芽 $s\in\mathcal O_{X,x}$ がある点)をもたない閉包として特徴づけられる。

随伴点による平坦性の判定

$T$ を正則な 1 次元整スキーム、$X$ を Noether スキーム、$f\colon X\to T$ を射とする。$f$ が平坦であることと、$X$ のすべての随伴点が $T$ の生成点 $\eta$ に写ることは同値である。とくに $X$ が被約なら、$f$ が平坦であることと、$X$ の各既約成分が $T$ を支配する(像が稠密である)ことは同値である。

一意化元が零因子かどうか

$x\in X$、$y=f(x)$、$B=\mathcal O_{X,x}$ とする。$y\ne\eta$ なら $y$ は閉点で、$\mathcal O_{T,y}$ は離散付値環である。その一意化元を $\tau$、$B$ での像を $\tau'=f^\sharp(\tau)$ とすると、局所準同型なので $\tau'\in\mathfrak m_x$ である。
平坦 ⇒ 判定:$x$ を随伴点とし、$y\ne\eta$ と仮定する。$\mathfrak m_x=\operatorname{Ann}(s)$($s\ne0$)とすると $\tau's=0$ である。一方、$\tau$ 倍は $\mathcal O_{T,y}$ で単射なので、平坦性からその $B$ へのテンソル、すなわち $\tau'$ 倍も $B$ で単射であり、矛盾する。
判定 ⇒ 平坦:$y=\eta$ なら $\mathcal O_{T,y}$ は体なので平坦である。$y\ne\eta$ とする。$\mathcal O_{T,y}$ の $0$ でない元は単元と $\tau$ の冪の積なので、$B$ が捩れをもたないことは $\tau'$ が $B$ の零因子でないことと同値であり、そのとき $B$ は平坦である(平坦射 の記事の命題「整域上の平坦加群と捩れ」)。$\tau'$ が零因子だとする。$B$ は Noether なので、随伴素イデアル の定理「零因子を検出する和集合」により、$\tau'$ はある $\mathfrak p\in\operatorname{Ass}_B(B)$ に属する。$\mathfrak p$ は $x$ の一般化 $x'$ に対応し、$\mathcal O_{X,x'}=B_{\mathfrak p}$ であり、同記事の定理「随伴素の局所化」により $\mathfrak pB_{\mathfrak p}\in\operatorname{Ass}(B_{\mathfrak p})$、すなわち $x'$ は $X$ の随伴点である。$f(x')$ は $\mathfrak p$ の $\mathcal O_{T,y}$ への引き戻しに対応し、これは $\tau$ を含むので極大イデアルである。よって $f(x')=y\ne\eta$ となり、仮定に反する。
被約な場合:局所 Noether スキームの既約成分の生成点は随伴点であり(埋め込み点 の記事の命題「随伴点の基本性質」)、被約なら埋め込み点はない(同記事の命題「埋め込み点をもたない十分条件」)ので、随伴点は既約成分の生成点に限る。既約成分 $W$ の生成点を $\xi$ とすると $f(W)\subset\overline{\{f(\xi)\}}$ なので、$f(\xi)=\eta$ であることと $f(W)$ が稠密であることは同値である。$\square$

Noether でないとき

prop-flat-limit-associated の「判定 ⇒ 平坦」は、$X$ が Noether でないと成り立たないことがある。体 $k$ 上、$V_m=k[u_m]_{(u_m)}$ を $u_m=u_{m+1}^2$ でつないだ合併 $V=\bigcup_mV_m$ と、$A=V/(u_0)$ を考える。$X=\operatorname{Spec}A$ は 1 点からなり、随伴点をもたないが、$T=\operatorname{Spec}k[\tau]_{(\tau)}$ への射 $\tau\mapsto0$ は平坦でない。この $A$ では $\mathfrak m_A$ のすべての元が零因子なので、「$\mathfrak m_x$ のすべての元が零因子」を随伴点の言い換えとして使うと $X$ の点は随伴点になる。この言い換えが定義と同値になるのは Noether の場合である(埋め込み点 の記事の定義の後の「深さ零」の言い換え)。

確かめ

$V_m$ の $0$ でない元 $f$ に $v(f)=\operatorname{ord}_{u_m}(f)/2^m$ を対応させると、$V_m\subset V_{m+1}$ で $\operatorname{ord}$ が 2 倍になるので $V$ 上で矛盾なく定まり、$v(fg)=v(f)+v(g)$、$v(f)=0$ と $f$ が $V$ の単元であることは同値で、$(u_0)=\{f\mid v(f)\ge1\}\cup\{0\}$ である($v(f)\ge1$ なら $f\in V_m$ は $u_m^{2^m}=u_0$ と単元の積)。よって $A\ne0$ で、$A$ の $0$ でない元は $0\le v<1$ をもち、$v>0$ の元は冪をとると $0$ になるので、$A$ の素イデアルは $\mathfrak m_A=\{v>0\}$ だけである。$a\in A\setminus\{0\}$ について $v(a)+2^{-m}<1$ となる $m$ をとると $u_m\in\mathfrak m_A$ で $u_ma\ne0$ なので、$\operatorname{Ann}(a)\ne\mathfrak m_A$ である。$\tau$ 倍は $k[\tau]_{(\tau)}$ で単射だが、$A$ へテンソルすると $0$ 倍になり、$A\ne0$ なので単射でない。

例

2 点の衝突

$T=\mathbb A^1_k=\operatorname{Spec}k[s]$、$P=\{s=0\}$ とし、$s\ne0$ の上で 2 点 $(0:1)$、$(s:1)$ からなる $X_U=V_+(x_0(x_0-sx_1))\subset\mathbb P^1_U$ を考える。$X=V_+(x_0(x_0-sx_1))\subset\mathbb P^1_T$ は平坦な延長である。実際、$x_1\ne0$ の座標近傍の座標環 $k[s][u]/(u(u-s))$($u=x_0/x_1$)は基底 $1,u$ をもつ自由 $k[s]$ 加群、$x_0\ne0$ の座標近傍の座標環 $k[s][v]/(1-sv)\cong k[s,s^{-1}]$ は捩れをもたないので、lem-flat-limit-torsion-free により $X$ は平坦である。平坦極限は $V_+(x_0^2)$、すなわち被約でない 1 点 $\operatorname{Spec}k[u]/(u^2)$ であり、Hilbert 多項式 $2$ を保つ。

尖点 3 次曲線と埋め込み点

$k$ を体とし、$\mathbb A^3$ の曲線 $t\mapsto(t^3,t^2,t)$ の $z$ 座標を $a$ 倍した曲線 $t\mapsto(t^3,t^2,at)$ の族を $a\in\mathbb A^1$ について考える。$a\ne0$ ではもとの曲線と同型で、$a=0$ では平面曲線 $x^2=y^3$(原点を尖点とする 3 次曲線)への射影である。$\varphi\colon k[a,x,y,z]\to k[a,t]$、$x\mapsto t^3$、$y\mapsto t^2$、$z\mapsto at$ の核を $H$ とする。
主張:$H=(a^2y-z^2,\ ax-yz,\ xz-ay^2,\ x^2-y^3)$ であり、$k[a,x,y,z]/H$ は $y^i,\ xy^i\ (i\ge0),\ z$ を基底とする自由 $k[a]$ 加群である。
4 つの元が $\varphi$ で $0$ に写ることは代入で確かめられる。それらが生成するイデアルを $H_0$ とすると、$H_0$ を法として $z^2\equiv a^2y$、$yz\equiv ax$、$xz\equiv ay^2$、$x^2\equiv y^3$ なので、どの単項式も $y^i$、$xy^i$、$z$ の $k[a]$ 係数の 1 次結合に合同である。それらの像 $t^{2i}$、$t^{2i+3}$、$at$ は、$k[a,t]=\bigoplus_jk[a]t^j$ で相異なる $t$ の冪に $k[a]$ の $0$ でない元を掛けたものなので、$k[a]$ 上 1 次独立である。よって $h\in H$ を $H_0$ を法として基底で書くと係数はすべて $0$ で、$h\in H_0$ である。
$k[a,x,y,z]/H$ は $k[a,t]$ の部分環で捩れをもたず、$a\ne0$ の上では族と一致するので、thm-flat-limit-generic の閉包、すなわち平坦な延長である。$a=0$ のファイバーは $k[x,y,z]/(z^2,yz,xz,x^2-y^3)$ で、基底は $y^i,xy^i,z$ である。尖点 3 次曲線の座標環 $k[x,y]/(x^2-y^3)$ の基底 $y^i,xy^i$ に比べて $z$ が余分にあり、$xz=yz=z^2=0$ なので $\operatorname{Ann}(z)=(x,y,z)$、すなわち原点は随伴点である。台は 1 次元の曲線なので、原点は埋め込み点(埋め込み点)である。原点の外では $x$ か $y$ が可逆で $z=0$ となり、ファイバーは尖点 3 次曲線そのものである。
射影空間で見ると、これはねじれ 3 次曲線 $(t^3:t^2u:tu^2:u^3)$ を点 $(0:0:1:0)$ から平面 $x_2=0$ へ射影する族である(Har77 III 演習 9.2。節点の場合は例 9.8.4)。もう一方の座標近傍 $x_0\ne0$ では族は $(s,as^2,s^3)$ で、イデアル $(X_2-aX_1^2,X_3-X_1^3)$ の剰余環は $k[a][X_1]$ と同型なので余分な冪零元は出ない。族の上で恒等的に成り立つ $x_1^3=x_0^2x_3$ と $x_2^3=a^3x_0x_3^2$ により、$a=0$ のファイバーには $x_0=x_3=0$ となる点がなく、ファイバーは 2 つの座標近傍に収まる。平坦極限の Hilbert 多項式はねじれ 3 次曲線と同じ $3m+1$(Hilbert多項式 の例「3 次の Veronese 環」)で、平面 3 次曲線の $3m$ より $1$ 大きい。この差が原点の埋め込み点の長さ $1$ にあたる。原点を節点とする 3 次曲線への射影の族の極限は 埋め込み点 の例「平坦な族の極限に現れる埋め込み点」にあり、同じ議論でその族の平坦性も確かめられる。

反例:1 点で交わる 2 平面

$k$ を体、$Y=\mathbb A^2_k=\operatorname{Spec}A$($A=k[x,y]$)とし、$\mathbb A^4$ の 2 平面 $\{z=w=0\}$、$\{z=-x,\ w=-y\}$ の和 $X=\operatorname{Spec}B$($B=k[x,y,z,w]/I$、$I=(z,w)\cap(x+z,y+w)$)から $(x,y)$ への射影 $f\colon X\to Y$ を考える。各平面は $Y$ と同型に写り、$X$ は被約な Noether スキームで、各既約成分は $Y$ を支配するが、$f$ は平坦でない。
$B$ は各平面への制限で $A\times A$ に埋め込まれるので有限 $A$ 加群である。$x+z$ と $y+w$ の像は $(x,0)$、$(y,0)$ なので $(x,y)(A\times A)\subset B$ であり、生成点の上のファイバーは $K\times K$($K=k(x,y)$)、2 次元である。原点の上のファイバー $B/(x,y)B=k[z,w]/\bar I$ を調べる。$g\in I$ を $g=z\alpha+w\beta$ と書くと、$g$ は第 2 の平面で消えるので $-x\alpha(x,y,-x,-y)-y\beta(x,y,-x,-y)=0$ であり、1 次の項を比べて $\alpha$、$\beta$ の定数項は $0$ である。よって $\bar I\subset(z,w)^2$ で、$\dim_kB/(x,y)B\ge3$ である。$f$ が平坦なら $B$ は有限生成平坦、すなわち局所自由で(平坦射 の記事の注意「イデアルによる判定と局所判定」)、$Y$ は連結なのでファイバーの次元は一定のはずだが、そうなっていない。

反例の表

外す条件反例成り立たなくなること
判定の「底が 1 次元」ex-flat-limit-two-planes(底は正則な 2 次元整スキーム $\mathbb A^2$)判定 ⇒ 平坦(各既約成分が底を支配するのに平坦でない)
判定の「底が正則」標数が $2$ でない体の上の節点 3 次曲線 $y^2=x^2(x+1)$ の正規化 $\mathbb A^1\to Y$判定 ⇒ 平坦
判定の「$X$ が Noether」rem-flat-limit-non-noetherian判定 ⇒ 平坦
一意性の「延長が平坦」$X_U=\emptyset$ に対し、$P$ の上のファイバー全体 $\mathbb P^n_{\kappa(P)}$延長の一意性($\emptyset$ も $\mathbb P^n_{\kappa(P)}$ も $U$ の上では $\emptyset$)

2 行目:正規化は $t\mapsto(t^2-1,t^3-t)$ で、$B=k[t]$ は $A=k[t^2-1,t^3-t]$ 上有限、$\mathbb A^1$ は整で $Y$ を支配する。平坦なら $B$ は局所自由で、階数は生成点で $1$(商体が等しい)だが、節点の上のファイバー $k[t]/(t^2-1)$ は 2 次元なので、平坦でない。

関連項目

参考文献

[1]
Robin Hartshorne, Algebraic Geometry, Springer, 1977, III 命題 9.7・例 9.7.1(pp. 257–258)、命題 9.8(p. 258)、例 9.8.4(pp. 259–260)、演習 9.2・9.3(p. 266)

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