尖点形式

同義語:カスプ形式cusp form

概要

尖点形式(cusp form)とは、モジュラー群 $\operatorname{SL}_2(\mathbb{Z})$ の指数有限の部分群 $\Gamma$ に関する保型形式のうち、すべての尖点での展開の定数項が $0$ になるもののことである。レベル $1$ では $q$ 展開の定数項が $0$ であることが条件で、重さ $12$ の空間は判別式関数 $\Delta$ で張られる。重さ $k$ の尖点形式 $f$ では $y^{k/2}\lvert f(z)\rvert$ が上半平面で有界になり、そこから空間に正定値の Petersson 内積が入り、Fourier 係数について Hecke の評価 $a_n=O(n^{k/2})$ が成り立つ。レベル $1$ では Eisenstein 級数と直交し、Hecke 作用素と L 関数の理論の土台になる。

$$\newcommand{C}[0]{\mathbb{C}} \newcommand{div}[0]{\mathbin{÷}} \newcommand{N}[0]{\mathbb{N}} \newcommand{Q}[0]{\mathbb{Q}} \newcommand{R}[0]{\mathbb{R}} \newcommand{Z}[0]{\mathbb{Z}} $$

前提知識: モジュラー形式, 保型形式, モジュラー群, 上半平面

尖点形式(cusp form)は、保型形式のうち、上半平面 $\mathfrak{H}$ の「無限の彼方」にあたるすべての点(尖点)で $0$ になるものである。モジュラー群 $\operatorname{SL}_2(\mathbb{Z})$ に関する重さ $k$ のモジュラー形式 $f$ は $q=e^{2\pi iz}$ の級数 $\sum_{n\ge0}a_nq^n$ に展開され、定数項 $a_0$ が $0$ であることが尖点形式の条件になる。最初の例は重さ $12$ の判別式関数 $\Delta=q-24q^2+252q^3-\cdots$ で、その係数が Ramanujan の $\tau$ 関数である。
尖点形式は二つの点でモジュラー形式全体より扱いやすい。一つは大きさで、$\operatorname{Im}z=y$ について $y^{k/2}\lvert f(z)\rvert$ が $\mathfrak{H}$ 全体で有界になる(prop-cf-equivalent)。そのおかげで $f\bar g\,y^k$ を基本領域の上で積分でき、尖点形式の空間に正定値の内積(Petersson 内積)が入る(thm-cf-petersson)。もう一つは係数の大きさで、$a_n=O(n^{k/2})$ という Hecke の評価が成り立つ(thm-cf-hecke-bound)。Eisenstein 級数の係数は $n^{k-1}$ の速さで増えるので、この評価は尖点形式を特徴づける(cor-cf-growth)。これらは Hecke作用素 の理論の土台になる。
語の注意.ここでの「尖点」は、$\mathfrak{H}$ に有理数と $\infty$ を付け加えたときの境界の点、およびその群の作用による軌道を指す。基本領域がこれらの点に向かって細く尖ることからこう呼ばれる。平面曲線 $y^2=x^3$ の原点のような特異点を指す 尖点(特異点) とは別の概念である。

定義

$\Gamma(1):=\operatorname{SL}_2(\mathbb{Z})$ とし、整数 $k$、$M=\begin{pmatrix}a&b\\c&d\end{pmatrix}\in\operatorname{GL}_2^+(\mathbb{R})$、$\mathfrak{H}$ 上の関数 $f$ について、保型形式 の記事の定義「保型因子とスラッシュ作用」のとおり
$$ j(M,z):=cz+d,\qquad (f|_kM)(z):=j(M,z)^{-k}f(Mz) $$
とおく。$k$ が明らかなときは $f|M$ と書く。$(f|M)|M'=f|(MM')$ である(同記事の補題「保型因子の積の公式」)。$\Gamma\subset\Gamma(1)$ を指数有限の部分群とし、$\Gamma$ に関する重さ $k$ の保型形式の空間を $M_k(\Gamma)$ と書く。$f\in M_k(\Gamma)$ と $\delta\in\Gamma(1)$ について $f|\delta\in M_k(\delta^{-1}\Gamma\delta)$ であり、$\delta^{-1}\Gamma\delta$ の無限遠での幅を $h_\delta$ とすると
$$ (f|\delta)(z)=\sum_{n\ge0}a_n(f,\delta)\,q_{h_\delta}^n,\qquad q_h:=e^{2\pi iz/h} $$
と展開される(同記事の補題「幅と展開」)。
$\mathbb{P}^1(\mathbb{Q})=\mathbb{Q}\cup\{\infty\}$ にも $\Gamma(1)$ は 1 次分数変換で作用する($\gamma\infty=a/c$)。$\Gamma$ によるこの作用の軌道を $\Gamma$ の尖点(cusp)という。$\Gamma(1)$ の作用は推移的で、$\infty$ の固定部分群は $\Gamma(1)_\infty:=\{\pm T^m\mid m\in\mathbb{Z}\}$($T=\begin{pmatrix}1&1\\0&1\end{pmatrix}$)なので、$\delta\mapsto\delta\infty$ により
$$ \Gamma\backslash\mathbb{P}^1(\mathbb{Q})\ \cong\ \Gamma\backslash\Gamma(1)/\Gamma(1)_\infty $$
となる。右辺は有限集合 $\Gamma\backslash\Gamma(1)$ の商なので、尖点は有限個である。推移性は、既約分数 $a/c$ について Bézoutの等式 で $ad-bc=1$ となる $b,d$ をとれば $\begin{pmatrix}a&b\\c&d\end{pmatrix}\infty=a/c$ となることからわかる。固定部分群は $c=0$ の行列 $\pm T^m$ である。

尖点で消える保型形式

$f\in M_k(\Gamma)$ が、すべての $\delta\in\Gamma(1)$ について $a_0(f,\delta)=0$ を満たすとき、$f$ を $\Gamma$ に関する重さ $k$ の 尖点形式(cusp form)という。その全体を $S_k(\Gamma)$ と書く。$\Gamma=\Gamma(1)$ のときは $S_k:=S_k(\Gamma(1))$ と書く。

$\Gamma=\Gamma(1)$ では $f|\delta=f$ なので、条件は $f$ の $q$ 展開の定数項が $0$ であることだけになり、モジュラー形式 の記事の $S_k$ と一致する。一般の $\Gamma$ でも、条件は尖点ごとに 1 回確かめればよい。実際、$\delta'=\gamma\delta t$($\gamma\in\Gamma$、$t=\pm T^m$)なら $f|\delta'=\bigl((f|\delta)|t\bigr)$ で、$(f|\delta)|T^m$ は $(f|\delta)(z+m)$、$(f|\delta)|(-I)=(-1)^k f|\delta$ なので、定数項が $0$ かどうかは変わらない。$\delta\infty$ と $\delta'\infty$ が同じ尖点に属することは $\delta'\in\Gamma\delta\Gamma(1)_\infty$ と同値である。$S_k(\Gamma)$ は $M_k(\Gamma)$ の部分空間で、$f\in S_k(\Gamma)$、$g\in M_l(\Gamma)$ なら $fg\in S_{k+l}(\Gamma)$ である。

尖点形式の言い換え

$k\ge1$、$f\in M_k(\Gamma)$ とする。次の 3 条件は同値である。

  1. $f\in S_k(\Gamma)$ である。
  2. すべての $\delta\in\Gamma(1)$ について、$(f|\delta)(z)$ は $\operatorname{Im}z\to\infty$ のとき $\operatorname{Re}z$ について一様に $0$ に近づく。
  3. 関数 $y^{k/2}\lvert f(z)\rvert$($y=\operatorname{Im}z$)は $\mathfrak{H}$ 上で有界である。
    さらにこのとき、各 $\delta$ について定数 $C_\delta$ があり、$\operatorname{Im}z\ge1$ で $\lvert(f|\delta)(z)\rvert\le C_\delta e^{-2\pi\operatorname{Im}z/h_\delta}$ である。

要点:$\varphi(z):=y^{k/2}\lvert f(z)\rvert$ は $\Gamma$ で不変で、$\varphi(\delta z)=y^{k/2}\lvert(f|\delta)(z)\rvert$ である。$\mathfrak{H}$ は有限個の $\delta\mathcal{F}$($\mathcal{F}$ は $\Gamma(1)$ の基本領域)で覆われるので、各 $f|\delta$ の $\mathcal{F}$ の上での大きさを見ればよい。

詳しい証明を開く

まず二つの式を確かめる。$M\in\operatorname{GL}_2^+(\mathbb{R})$ について $\operatorname{Im}(Mz)=\det M\cdot y/\lvert j(M,z)\rvert^2$ である(上半平面 の記事の命題「作用の基本性質」)。$\gamma\in\Gamma$ なら $f(\gamma z)=j(\gamma,z)^kf(z)$ なので $\varphi(\gamma z)=y^{k/2}\lvert j\rvert^{-k}\lvert j\rvert^k\lvert f(z)\rvert=\varphi(z)$。同様に $\delta\in\Gamma(1)$ について $\varphi(\delta z)=y^{k/2}\lvert j(\delta,z)\rvert^{-k}\lvert f(\delta z)\rvert=y^{k/2}\lvert(f|\delta)(z)\rvert$ である。

1 ⇔ 2.$f|\delta=\sum_{n\ge0}a_nq_h^n$($h=h_\delta$)で、$\operatorname{Im}z\to\infty$ は $q_h\to0$ と同値である。$a_0=0$ なら $f|\delta=q_h\,G(q_h)$ で $G$ は $\lvert q_h\rvert\le e^{-2\pi/h}$ で正則かつ有界なので、$\operatorname{Im}z\ge1$ で $\lvert(f|\delta)(z)\rvert\le C_\delta\lvert q_h\rvert=C_\delta e^{-2\pi y/h}$ となり(最後の主張)、一様に $0$ に近づく。逆に一様に $0$ に近づけば、$a_0=\lim_{q_h\to0}(f|\delta)$ は $0$ である。

1 ⇒ 3.$\Gamma(1)=\bigsqcup_{i=1}^{\mu}\Gamma\delta_i$ と分ける。上半平面 の記事の定理「基本領域」の 1 により $\mathfrak{H}=\bigcup_{g\in\Gamma(1)}g\mathcal{F}$ で、$g=\gamma\delta_i$ と書けるので $\varphi$ の $\mathfrak{H}$ 上の値の集合は $\bigcup_i\varphi(\delta_i\mathcal{F})$ に等しい。各 $i$ について、$\mathcal{F}\cap\{y\le1\}$ はコンパクトなので $\varphi(\delta_iz)$ はそこで有界であり、$\mathcal{F}\cap\{y\ge1\}$ では $\varphi(\delta_iz)\le C_{\delta_i}y^{k/2}e^{-2\pi y/h}$ で、右辺は $y\ge1$ で有界である。

3 ⇒ 2.$\lvert(f|\delta)(z)\rvert=y^{-k/2}\varphi(\delta z)\le(\sup\varphi)\,y^{-k/2}$ で、$k\ge1$ なので右辺は $y\to\infty$ で $\operatorname{Re}z$ によらず $0$ に近づく。$\square$

保型形式 の記事では、2 の条件で尖点形式を定義している。この命題により二つの定義は同じものである。3 の $y^{k/2}\lvert f\rvert$ は、重さ $k$ の変換則と虚部の変換 $\operatorname{Im}(\gamma z)=y/\lvert cz+d\rvert^2$ が打ち消しあってできる $\Gamma$ 不変な量で、以下の評価はすべてこの有界性から出てくる。

直感

$\Gamma(1)$ の基本領域 $\mathcal{F}=\{\lvert\operatorname{Re}z\rvert\le\frac12,\ \lvert z\rvert\ge1\}$ は上に無限に延びるが、双曲的な面積 $\int_{\mathcal{F}} y^{-2}dx\,dy$ は有限である。$q=e^{2\pi iz}$ で見ると、$\mathcal{F}$ の上の方は $q=0$ のまわりの小さな穴あき円板になり、$\Gamma(1)\backslash\mathfrak{H}$ に 1 点 $q=0$ を加えるとコンパクトな Riemann 面ができる。加えた点が尖点 $\infty$ である。モジュラー形式はこの点でも正則なもの(重さ $k$ に応じた微分形式とみなされる)であり、尖点形式はそこで $0$ になるものである。一般の $\Gamma$ では加える点が尖点の個数だけあり、そのすべてで $0$ になることを要求する。
定数項 $a_0$ は「尖点での値」なので、商 $M_k(\Gamma)/S_k(\Gamma)$ は尖点ごとの値を並べた空間の部分空間とみなせる。レベル $1$ では尖点は $\infty$ だけで、その値をとる役目を Eisenstein 級数 $G_k$ が受け持ち、$M_k=\mathbb{C}G_k\oplus S_k$ となる(モジュラー形式 の記事の定理「モジュラー形式の空間の構造」)。後で見るように、この分解は Petersson 内積について直交している(thm-cf-orthogonal)。

レベル 1 の尖点形式

モジュラー形式 の記事の命題「判別式関数」の関数を $(2\pi)^{12}$ で割ったものを
$$ \Delta(z):=(2\pi)^{-12}\bigl(g_2(z)^3-27g_3(z)^2\bigr)=\sum_{n\ge1}\tau(n)\,q^n=q-24q^2+252q^3-1472q^4+\cdots $$
と書き、係数 $\tau(n)$ を Ramanujan の $\tau$ 関数という。同命題により $\Delta\in S_{12}$ であり、$\Delta$ は $\mathfrak{H}$ のどの点でも $0$ にならず、$q$ 展開は $q$ の 1 次から始まる。Jacobi の積公式 $\Delta=q\prod_{n\ge1}(1-q^n)^{24}$ も成り立つ(Zag08 §2.4, Proposition 7, pp. 20–21、Sil09 Appendix C, Theorem 12.5 (a), p. 433。この記事では証明しない)。

レベル 1 の空間と次元

$k$ を偶数とする。

  1. $k<12$ なら $S_k=0$ である。$k\ge12$ なら $g\mapsto\Delta g$ は線形同型 $M_{k-12}\to S_k$ である。
  2. $k\ge4$ なら $\dim S_k=\lfloor k/12\rfloor-1$($k\equiv2\pmod{12}$ のとき)、$\dim S_k=\lfloor k/12\rfloor$(それ以外のとき)である。
  3. $S_{12}=\mathbb{C}\Delta$ であり、$k\in\{16,18,20,22,26\}$ なら $S_k=\mathbb{C}\,\Delta E_{k-12}$ である。ここで $E_l$ は正規化された Eisenstein 級数(定数項 $1$)である。

要点:1 は モジュラー形式 の記事の定理「モジュラー形式の空間の構造」の 1 を、$\Delta$ の定数倍で言い直したものである。あとは同定理の 3 の次元公式に $k-12$ を入れる。

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1.同定理の 1 は、$g\mapsto(2\pi)^{12}\Delta g$ が同型 $M_{k-12}\to S_k$ であることを述べている($k<0$ では $M_k=0$ とみる)。$0$ でない定数倍を除けば同じ写像なので主張が従い、$k<12$ では $M_{k-12}=0$ から $S_k=0$ である。

2.$k\ge12$ のとき、1 により $\dim S_k=\dim M_{k-12}$ である。同定理の 3 により、$\dim M_{k-12}$ は $k-12\equiv2\pmod{12}$ なら $\lfloor(k-12)/12\rfloor=\lfloor k/12\rfloor-1$、そうでなければ $\lfloor k/12\rfloor-1+1$ である。$k-12\equiv k\pmod{12}$ なので主張の式になる。$4\le k\le10$ では $S_k=0$ で、$k\not\equiv2$ かつ $\lfloor k/12\rfloor=0$ なので式も $0$ を与える。

3.2 により、$k=12,16,18,20,22,26$ では $\dim S_k=1$ である。$\Delta\neq0$ と、$\Delta E_{k-12}\in S_k$($E_{k-12}\in M_{k-12}$ と 1)で $q$ 展開が $q+\cdots$ から始まり $0$ でないことから主張が従う。$\square$

$k$$12$$14$$16$$18$$20$$22$$24$$26$$28$
$\dim S_k$$1$$0$$1$$1$$1$$1$$2$$1$$2$

$S_k$ が $2$ 次元以上になる最初の重さは $24$ で、$S_{24}$ は $\Delta E_4^3=q+696q^2+\cdots$ と $\Delta^2=q^2-48q^3+\cdots$ で張られる($E_4^3\in M_{12}$ と 1 から両方とも $S_{24}$ の元で、$q$ 展開の最初の項が違うので 1 次独立である)。

Petersson 内積

$\mathfrak{H}$ 上の測度 $d\mu:=y^{-2}\,dx\,dy$($z=x+iy$)は $\operatorname{GL}_2^+(\mathbb{R})$ の作用で不変である。実際、$z\mapsto gz$ は正則で導関数が $\det g/j(g,z)^2$ なので、Cauchy–Riemann の方程式により面積を $\lvert\det g\rvert^2/\lvert j(g,z)\rvert^4$ 倍し、$\operatorname{Im}(gz)^{-2}=\lvert j(g,z)\rvert^4/(\det g\cdot y)^2$ と打ち消しあう。また
$$ \mu(\mathcal{F})=\int_{-1/2}^{1/2}\int_{\sqrt{1-x^2}}^{\infty}\frac{dy}{y^2}\,dx=\int_{-1/2}^{1/2}\frac{dx}{\sqrt{1-x^2}}=\frac\pi3 $$
は有限である。以下、部分群 $G\subset\Gamma(1)$ について $G^{\pm}:=G\cup(-G)$ とおく。$-I$ は $\mathfrak{H}$ に自明に作用する。

基本集合

$G\subset\Gamma(1)$ を部分群とする。可測集合 $D\subset\mathfrak{H}$ が $G$ の 基本集合であるとは、$\bigcup_{\gamma\in G}\gamma D=\mathfrak{H}$ であり、$\gamma'\neq\pm\gamma$ となる $\gamma,\gamma'\in G$ について $\mu(\gamma D\cap\gamma'D)=0$ であることをいう。

基本集合の取り替え

$G\subset\Gamma(1)$ を部分群とする。

  1. $R\subset\Gamma(1)$ を右剰余類 $G^{\pm}\delta$ の代表の集合とすると、$D_R:=\bigcup_{\delta\in R}\delta\mathcal{F}$ は $G$ の基本集合である。
  2. $D,D'$ を $G$ の基本集合、$\varphi\colon\mathfrak{H}\to[0,\infty]$ を可測で $G$ の作用で不変な関数とすると、$\int_D\varphi\,d\mu=\int_{D'}\varphi\,d\mu$ である。$\varphi$ が複素数値で $\int_D\lvert\varphi\rvert\,d\mu<\infty$ のときも同じである。

要点:1 は $\Gamma(1)$ の像 $g\mathcal{F}$ が境界だけで重なることから、2 は $D=\bigcup_\gamma(D\cap\gamma D')$ と分けて各片を $\gamma^{-1}$ で動かすことから従う。

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まず、$g\in\Gamma(1)$、$g\neq\pm I$ なら $\mathcal{F}\cap g\mathcal{F}\subset\partial\mathcal{F}$ である。$z\in\mathcal{F}\cap g\mathcal{F}$ を $z=gw$($w\in\mathcal{F}$)と書く。$z\neq w$ なら 上半平面 の記事の定理「基本領域」の 2 により $z$ は境界にある。$z=w$ なら $g$ は $z$ を固定するので、同定理の 3 により $z\in\{i,\rho,-\bar\rho\}\subset\partial\mathcal{F}$ である。$\partial\mathcal{F}$ は 2 本の半直線と円弧の和なので測度 $0$ である。

1.同定理の 1 により $\mathfrak{H}=\bigcup_{g\in\Gamma(1)}g\mathcal{F}$ で、$\Gamma(1)=\bigcup_{\delta\in R}G^{\pm}\delta$ と $-I$ の作用が自明なことから $\mathfrak{H}=\bigcup_{\gamma\in G}\gamma D_R$ である。$\gamma\delta\mathcal{F}\cap\gamma'\delta'\mathcal{F}$($\gamma,\gamma'\in G$、$\delta,\delta'\in R$)は、$\gamma\delta\neq\pm\gamma'\delta'$ なら前段により測度 $0$ である($\gamma\delta$ を掛けて戻すと $\mathcal{F}\cap g\mathcal{F}$ の形になり、作用は測度を保つ)。$\gamma\delta=\pm\gamma'\delta'$ なら $\delta'\in G^{\pm}\delta$ から $\delta=\delta'$、したがって $\gamma'=\pm\gamma$ である。よって $\gamma'\neq\pm\gamma$ なら $\gamma D_R\cap\gamma'D_R$ は測度 $0$ の集合の可算和で、測度 $0$ である。

2.$\bar G:=G^{\pm}/\{\pm I\}$ は可算で、その元は $\mathfrak{H}$ に well-defined に作用する。$\{\gamma D'\}_{\gamma\in\bar G}$ は $\mathfrak{H}$ を覆い、重なりは測度 $0$ なので、ほとんどいたるところで $\mathbf 1_D=\sum_{\gamma\in\bar G}\mathbf 1_{D\cap\gamma D'}$ である。単調収束定理と、$z=\gamma w$ の変数変換($\mu$ の不変性)と $\varphi(\gamma w)=\varphi(w)$ により $$\int_D\varphi\,d\mu=\sum_{\gamma\in\bar G}\int_{D\cap\gamma D'}\varphi\,d\mu=\sum_{\gamma\in\bar G}\int_{\gamma^{-1}D\cap D'}\varphi\,d\mu=\int_{D'}\varphi\,d\mu$$ である。最後の等号は、$\{\gamma^{-1}D\}$ が同じく $\mathfrak{H}$ を覆い重なりが測度 $0$ であることによる。複素数値のときは、まず $\lvert\varphi\rvert$ に当てて $\int_{D'}\lvert\varphi\rvert<\infty$ を得てから、同じ計算を優収束定理で行う。$\square$

$\Gamma\subset\Gamma(1)$ を指数有限の部分群とし、$\bar\mu_\Gamma:=[\Gamma(1):\Gamma^{\pm}]$ とおく。$f,g\in M_k(\Gamma)$ について $\varphi_{f,g}(z):=f(z)\overline{g(z)}\,y^k$ は $\Gamma$ で不変である($f(\gamma z)=j^kf(z)$、$\overline{g(\gamma z)}=\bar j^k\,\overline{g(z)}$、$\operatorname{Im}(\gamma z)^k=y^k\lvert j\rvert^{-2k}$)。

Petersson 内積

$f\in S_k(\Gamma)$、$g\in M_k(\Gamma)$ について
$$ \langle f,g\rangle:=\frac1{\bar\mu_\Gamma}\int_D f(z)\overline{g(z)}\,y^k\,d\mu(z) $$
とおく。$D$ は $\Gamma$ の基本集合である。$\langle g,f\rangle:=\overline{\langle f,g\rangle}$ と定める。これを Petersson 内積(Petersson inner product)という。

Petersson 内積の基本性質
  1. def-cf-petersson の積分は絶対収束し、値は基本集合 $D$ の取り方によらない。
  2. $\langle\ ,\ \rangle$ は $S_k(\Gamma)$ 上の正定値な Hermite 内積である。
  3. $\Gamma'\subset\Gamma$ が指数有限の部分群なら、$\Gamma'$ について定めた値は $\Gamma$ について定めた値と等しい。

要点:$D=\bigcup_\delta\delta\mathcal{F}$ の上で $\varphi_{f,g}(\delta z)=(f|\delta)(z)\overline{(g|\delta)(z)}y^k$ であり、$\mathcal{F}$ の上の方では $f|\delta$ が指数関数的に小さく、$g|\delta$ は有界である。

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1.$\Gamma(1)=\bigsqcup_{i=1}^{\bar\mu_\Gamma}\Gamma^{\pm}\delta_i$ とし、lem-cf-fundamental-set の 1 の $D_R$ をとる。prf-cf-equivalent の最初の段落と同じ計算で $\varphi_{f,g}(\delta_iz)=(f|\delta_i)(z)\overline{(g|\delta_i)(z)}\,y^k$ なので、$\mu$ の不変性により $\int_{D_R}\lvert\varphi_{f,g}\rvert d\mu\le\sum_i\int_{\mathcal{F}}\lvert f|\delta_i\rvert\lvert g|\delta_i\rvert y^k\,d\mu$ である。$\mathcal{F}\cap\{y\le1\}$ はコンパクトで被積分関数は連続である。$\mathcal{F}\cap\{y\ge1\}$ では prop-cf-equivalent の最後の主張により $\lvert f|\delta_i\rvert\le Ce^{-2\pi y/h}$、保型形式 の記事の定義「保型形式」の条件 2 により $\lvert g|\delta_i\rvert\le C'$ で、$\int_1^\infty e^{-2\pi y/h}y^{k-2}dy<\infty$ である。よって $D_R$ の上で絶対可積分で、lem-cf-fundamental-set の 2 により任意の基本集合で同じ値になる。

2.$f\mapsto\langle f,g\rangle$ は線形で、$\langle g,f\rangle=\overline{\langle f,g\rangle}$ は定義から成り立つ($f,g\in S_k(\Gamma)$ では両方の積分が定義され、互いに共役である)。$\langle f,f\rangle=\bar\mu_\Gamma^{-1}\int_D\lvert f\rvert^2y^kd\mu\ge0$ で、$0$ なら $\lvert f\rvert^2y^k$ は $D_R$ の上でほとんどいたるところ $0$ であり、連続なので空でない開集合 $\delta_1(\mathcal{F}^\circ)$($\mathcal{F}^\circ$ は $\mathcal{F}$ の内部)の上で $f=0$、一致の定理 により $f=0$ である。

3.$\Gamma^{\pm}=\bigsqcup_j\Gamma'^{\pm}\varepsilon_j$($[\Gamma^{\pm}:\Gamma'^{\pm}]$ 個)とすると、$\{\varepsilon_j\delta_i\}$ は $\Gamma'^{\pm}\backslash\Gamma(1)$ の代表になり、$\bar\mu_{\Gamma'}=[\Gamma^{\pm}:\Gamma'^{\pm}]\,\bar\mu_\Gamma$ である。$\varphi_{f,g}$ は $\varepsilon_j\in\Gamma$ で不変なので $\int_{\varepsilon_jD_R}\varphi_{f,g}=\int_{D_R}\varphi_{f,g}$ で、$\Gamma'$ の基本集合 $\bigcup_j\varepsilon_jD_R$ の上の積分は $[\Gamma^{\pm}:\Gamma'^{\pm}]$ 倍になる。正規化の因子と打ち消しあう。$\square$

$\Gamma=\Gamma(1)$ では $\bar\mu_\Gamma=1$、$D=\mathcal{F}$ ととれて、$\langle f,g\rangle=\int_{\mathcal{F}}f\bar g\,y^k\,d\mu$ である。どちらも尖点形式でないと積分は一般に発散する。たとえば $G_4\to2\zeta(4)$($y\to\infty$)なので、ある $Y\ge1$ より上で $\lvert G_4\rvert\ge\zeta(4)$ となり、$\int_{\mathcal{F}\cap\{y\ge Y\}}\lvert G_4\rvert^2y^4d\mu\ge\zeta(4)^2\int_Y^\infty y^2dy=\infty$ である。

Eisenstein 級数との直交性

$k\ge4$ を偶数とする。すべての $f\in S_k$ について $\langle f,G_k\rangle=0$ である。すなわち、分解 $M_k=\mathbb{C}G_k\oplus S_k$ の 2 つの成分は Petersson 内積について直交する。

要点:$G_k$ を $\Gamma(1)_\infty\backslash\Gamma(1)$ にわたる和 $2\zeta(k)\sum_\gamma j(\gamma,z)^{-k}$ に書き、積分を帯 $\{0\le x<1\}$ の上の積分に「広げる」。帯の上で $x$ について先に積分すると $f$ の定数項 $a_0=0$ が出る。

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段 1(和の書き換え).$G_k=\sum_{(m,n)\neq(0,0)}(mz+n)^{-k}$(モジュラー形式 の記事の定理「Eisenstein 級数はモジュラー形式」、絶対収束)で $(m,n)=g(c,d)$($g\ge1$、$\gcd(c,d)=1$)と書くと $G_k=\zeta(k)\sum_{\gcd(c,d)=1}(cz+d)^{-k}$ である。互いに素な $(c,d)$ はちょうど $\Gamma(1)$ の元の下の行で(Bézoutの等式)、$\gamma,\gamma'$ の下の行が等しいのは $\gamma'\gamma^{-1}$ の下の行が $(0,1)$、すなわち $\gamma'\in\{T^m\}\gamma$ のときに限る。$(c,d)$ と $(-c,-d)$ は $k$ が偶数なので同じ項を与えるから、$R_\infty$ を $\Gamma(1)_\infty\backslash\Gamma(1)$ の代表の集合として $$G_k(z)=2\zeta(k)E_k(z),\qquad E_k(z)=\sum_{\gamma\in R_\infty}j(\gamma,z)^{-k}$$ を得る($E_k$ は正規化された Eisenstein 級数である)。

段 2(広げる).$\psi(z):=f(z)y^k$ は $T$ で不変である。$\gamma\in\Gamma(1)$ について $\psi(\gamma z)=j^kf(z)\,y^k\lvert j\rvert^{-2k}=\overline{j(\gamma,z)}^{\,-k}\psi(z)$ である。帯 $B:=\{0\le x<1,\ y>0\}$ と $D_{R_\infty}=\bigcup_{\gamma\in R_\infty}\gamma\mathcal{F}$ はともに $G=\{T^m\}$ の基本集合である(後者は lem-cf-fundamental-set の 1)。$B$ の上で $\lvert\psi\rvert$ は可積分である。実際、prop-cf-equivalent により $y\ge1$ で $\lvert f\rvert\le Ce^{-2\pi y}$、$y<1$ で $\lvert f\rvert\le C'y^{-k/2}$ であり、$\int_1^\infty e^{-2\pi y}y^{k-2}dy$ と $\int_0^1y^{k/2-2}dy$($k\ge4$)は有限である。lem-cf-fundamental-set の 2 と $\mu$ の不変性により $$\int_B\psi\,d\mu=\int_{D_{R_\infty}}\psi\,d\mu=\sum_{\gamma\in R_\infty}\int_{\mathcal{F}}\psi(\gamma z)\,d\mu=\int_{\mathcal{F}}f(z)\,\overline{E_k(z)}\,y^k\,d\mu=\frac{\langle f,G_k\rangle}{2\zeta(k)}$$ である。和と積分の交換は、同じ計算を $\lvert\psi\rvert$ に当てた $\sum_\gamma\int_{\mathcal{F}}\lvert\psi(\gamma z)\rvert d\mu=\int_B\lvert\psi\rvert d\mu<\infty$ で正当化される。

段 3.Fubini の定理により $\int_B\psi\,d\mu=\int_0^\infty\Bigl(\int_0^1f(x+iy)\,dx\Bigr)y^{k-2}\,dy$ で、$f=\sum_{n\ge1}a_ne^{2\pi in(x+iy)}$ を項別に積分すると内側の積分は $a_0=0$ である。よって $\langle f,G_k\rangle=0$ である。後半は $M_k=\mathbb{C}G_k\oplus S_k$(モジュラー形式 の記事の定理「モジュラー形式の空間の構造」の 2)から従う。$\square$

この「広げる」計算(unfolding)は、Eisenstein 級数が $\Gamma(1)_\infty\backslash\Gamma(1)$ にわたる和であることを使う典型的な手法である。

Fourier 係数の大きさ

Hecke の評価

$k\ge1$、$f\in S_k(\Gamma)$ とし、$\Gamma$ の無限遠での幅を $h$、$f=\sum_{n\ge1}a_nq_h^n$ とする。$f$ だけによる定数 $C$ があって、すべての $n\ge1$ について
$$ \lvert a_n\rvert\le C\,n^{k/2} $$
である。

要点:係数を $a_n=\frac1h\int_0^hf(x+iy)e^{-2\pi in(x+iy)/h}dx$ と積分で書き、$\lvert f\rvert\le c\,y^{-k/2}$ を当てて $y=h/n$ とする。

詳しい証明を開く

prop-cf-equivalent により $\lvert f(z)\rvert\le c\,y^{-k/2}$($z\in\mathfrak{H}$)となる $c$ がある。$y>0$ を固定すると $x\mapsto f(x+iy)$ は周期 $h$ の関数で、級数 $\sum a_nq_h^n$ は $x$ について一様収束するので項別に積分でき、$\int_0^he^{2\pi i(m-n)x/h}dx=h\,\delta_{mn}$ から上の積分の式を得る。よって $\lvert a_n\rvert\le c\,y^{-k/2}e^{2\pi ny/h}$ がすべての $y>0$ で成り立つ。$y=h/n$ とおくと $\lvert a_n\rvert\le c\,e^{2\pi}h^{-k/2}\,n^{k/2}$ である。$\square$

この評価は Zag08 §2.4, Proposition 8(p. 23)にレベル $1$ の場合として同じ証明とともにある。Eisenstein 級数の係数はもっと速く増える(モジュラー形式 の記事の定理「Eisenstein 級数はモジュラー形式」の 3 と $\sigma_{k-1}(n)\ge n^{k-1}$)。

係数の増え方による特徴づけ

$k\ge4$ を偶数、$f=\sum_{n\ge0}a_nq^n\in M_k$ とする。$f\in S_k$ であることと、$a_n=O(n^{k/2})$($n\to\infty$)であることは同値である。

要点:$f=cG_k+g$($g\in S_k$)と分けると、$c\neq0$ なら $G_k$ の係数 $\frac{2(2\pi i)^k}{(k-1)!}\sigma_{k-1}(n)$ が $n^{k-1}$ 以上の速さで増え、$k-1>k/2$ なので評価が崩れる。

詳しい証明を開く

$f\in S_k$ なら thm-cf-hecke-bound による。逆に $f=cG_k+g$($c\in\mathbb{C}$、$g\in S_k$)と分け、$c\neq0$ とする。$g$ の係数は $O(n^{k/2})$ なので、$\lvert a_n\rvert\ge\lvert c\rvert\frac{2(2\pi)^k}{(k-1)!}n^{k-1}-C\,n^{k/2}$ である。$k\ge4$ では $k-1>k/2$ なので右辺は $n^{k/2}$ のどの定数倍よりも大きくなり、$a_n=O(n^{k/2})$ に反する。よって $c=0$、$f=g\in S_k$ である。$\square$

指数 $k/2$ は最良ではない。Deligne は Weil予想 の証明を使って $\lvert\tau(p)\rvert\le2p^{11/2}$($p$ は素数)を示した(Sil09 Appendix C, Example 12.10.1, p. 436。この記事では証明しない)。より一般に、Hecke作用素 の正規化された同時固有形式 $f\in S_k$ では $\lvert a_p\rvert\le2p^{(k-1)/2}$ が成り立つ(Ramanujan–Petersson 予想。Deligne の定理として Mil21 Remark V.4.21, p. 207 にある。同書の重さ $2k$ はこの記事の $k$ にあたる。この記事では証明しない)。

例

Ramanujan の $\tau$ 関数の最初の値

$\Delta=\sum\tau(n)q^n$ の係数は次のとおりである(Zag08 §2.4, p. 22。$E_4^3-E_6^2=1728\Delta$ を展開しても得られる)。

$n$$1$$2$$3$$4$$5$$6$$7$$8$$9$$10$
$\tau(n)$$1$$-24$$252$$-1472$$4830$$-6048$$-16744$$84480$$-113643$$-115920$

$\lvert\tau(n)\rvert/n^{6}$ は $n=2,3,5$ で $0.375$、$0.346\ldots$、$0.309\ldots$ であり、thm-cf-hecke-bound の評価 $\lvert\tau(n)\rvert\le Cn^6$ と矛盾しない。表から $\tau(6)=\tau(2)\tau(3)$、$\tau(4)=\tau(2)^2-2^{11}$ が読み取れる。これらが一般に成り立つことは Hecke作用素 の記事で示される。

$\Gamma_0(p)$ の尖点

$p$ を素数とする。$\Gamma_0(p)$ の尖点はちょうど 2 つで、$\infty$ と $0$ で代表される(Sil09 Appendix C, Example 12.12, p. 438)。したがって $f\in M_k(\Gamma_0(p))$ が尖点形式であるのは、$f$ と $f|S$($S=\begin{pmatrix}0&-1\\1&0\end{pmatrix}$)の展開の定数項がともに $0$ のときである。

確認を開く

$\gamma\in\Gamma(1)$ にその下の行 $(c,d)$ の法 $p$ での比 $(c:d)\in\mathbb{P}^1(\mathbb{F}_p)$ を対応させる。$u\in\Gamma_0(p)$ の左下は $p$ の倍数で右下は $p$ と素なので、$u\gamma$ の下の行は $(c,d)$ の $0$ でない定数倍に法 $p$ で合同であり、写像は $\Gamma_0(p)\backslash\Gamma(1)$ の上で定まる。$\gamma_2\gamma_1^{-1}$ の左下の成分は $c_2d_1-d_2c_1$ なので、比が等しいことと同じ剰余類に属することは同値である。全射であることは モジュラー群 の記事の定理「法 $N$ への還元の全射性」による。右から $T$ を掛けると下の行は $(c,c+d)$ になるので、$\Gamma(1)_\infty$ の右からの作用は $\mathbb{P}^1(\mathbb{F}_p)$ の上で $(0:1)$ を固定し、残りの $p$ 点 $(1:d)$ を $d\mapsto d+1$ で巡回させる。軌道は 2 つで、代表は $I$($(0:1)$、尖点 $I\infty=\infty$)と $S$($(1:0)$、尖点 $S\infty=0$)である。あとは def-cf-main の直後の注意による。

高いレベルの尖点形式

$N\ge2$ なら $\Delta(Nz)$ は $\Gamma_0(N)$ に関する重さ $12$ の尖点形式である(保型形式 の記事の例「判別式関数をずらしたもの」)。Dedekind のイータ関数 $\eta(z)=q^{1/24}\prod_{n\ge1}(1-q^n)$ による $\eta(z)^2\eta(11z)^2=q\prod_{n\ge1}(1-q^n)^2(1-q^{11n})^2$ は $\Gamma_0(11)$ に関する重さ $2$ の尖点形式で、$S_2(\Gamma_0(11))$ は 1 次元である(Sil09 Appendix C, Example 12.13, p. 438、Remark 12.17, p. 439。この記事では証明しない)。この関数の係数は 楕円曲線のL関数 の記事の例で、導手 $11$ の楕円曲線の $a_p$ と比べられている(導手の定義と計算例は 楕円曲線の導手)。

反例

次の表の各行は、記事の主張の仮定を 1 つだけ外したときに主張が崩れる例である。

外す条件反例成り立たなくなること
すべての尖点で定数項が $0$($\infty$ だけで確かめる)$E_4(z)-E_4(2z)\in M_4(\Gamma_0(2))$$y^{2}\lvert f\rvert$ が有界(prop-cf-equivalent)
定数項が $0$$G_k$($k\ge4$)$a_n=O(n^{k/2})$(thm-cf-hecke-bound)
$\mathfrak{H}$ 上で正則(有理型に替える)$\Delta^2/G_4^3$(重さ $12$)$S_{12}=\mathbb{C}\Delta$(thm-cf-level-one)
$k\ge1$(prop-cf-equivalent)定数関数 $1\in M_0$$y^{k/2}\lvert f\rvert$ が有界なら尖点形式
反例の確認

各行で、外した条件以外は満たされている。

各行の確認を開く

1 行目:$E_4(z)$ と $E_4(2z)$ は $M_4(\Gamma_0(2))$ に属する(保型形式 の記事の例「重さ 4・レベル 2 の空間」)。$f:=E_4(z)-E_4(2z)$ の $\infty$ での定数項は $1-1=0$ である。一方 $E_4(-1/z)=z^4E_4(z)$ と $E_4(-2/z)=E_4\bigl(-1/(z/2)\bigr)=(z/2)^4E_4(z/2)$ から $(f|S)(z)=z^{-4}f(-1/z)=E_4(z)-2^{-4}E_4(z/2)$ で、$y\to\infty$ で $1-\frac1{16}=\frac{15}{16}\neq0$ に近づく。よって尖点 $0$ で消えず尖点形式でない。prf-cf-equivalent の最初の段落の式により $\operatorname{Im}(Sz)^2\lvert f(Sz)\rvert=y^2\lvert(f|S)(z)\rvert$ で、これは $y\to\infty$ で限りなく大きくなるので、$y^2\lvert f\rvert$ は有界でない。

2 行目:$G_k\in M_k$ の係数は $\frac{2(2\pi)^k}{(k-1)!}\sigma_{k-1}(n)\ge\frac{2(2\pi)^k}{(k-1)!}n^{k-1}$ の絶対値をもち、$k-1>k/2$ である。

3 行目:$G_4$ は $\rho$ の軌道だけに 1 位の零点をもち(モジュラー形式 の記事の系「低い重さのモジュラー形式」)、$\Delta$ は $0$ にならないので、$\Delta^2/G_4^3$ は $\mathfrak{H}$ 上の有理型関数で $\rho$ に極をもつ。重さ $24-12=12$ の変換則を満たし、$q$ 展開は $q^2$ の定数倍から始まるので無限遠で有界で定数項は $0$ である。$q$ の 1 次の項がないので、$0$ でない $\Delta$ の定数倍ではない。

4 行目:$1$ は重さ $0$ のモジュラー形式で $y^0\cdot1$ は有界だが、定数項は $1$ である。

補足

重さ $2$ の尖点形式 $f$ について $f(z)\,dz$ は $\Gamma$ で不変で、$S_2(\Gamma)$ は モジュラー曲線 $X(\Gamma)$ 上の正則 1 形式の空間と同型になり、その次元は $X(\Gamma)$ の種数に等しい(Sil09 Appendix C, Proposition 12.14 と Remark 12.15, p. 438。この記事では証明しない)。たとえば $X_0(2)$ の種数は $0$ なので $S_2(\Gamma_0(2))=0$ であり、これは Fermatの最終定理 の証明の最後の段で使われる。
尖点形式の空間は Hecke作用素 で保たれ、Petersson 内積について Hecke 作用素は自己随伴になる。そのため $S_k$ は Hecke 作用素の同時固有形式からなる直交基底をもち、その係数は乗法的で、L 関数は Euler 積をもつ。表現論の言葉では、尖点形式は $\operatorname{GL}_2$ のアデール群の 尖点表現 に対応し、尖点での定数項が消える条件が、放物型部分群の冪単根基に沿う定数項が消える条件に一般化される。

文献

尖点形式の定義と Hecke の評価は Zag08 §2.4(p. 23)、レベル $N$ の尖点と尖点形式の定義は Sil09 Appendix C, §C.12(pp. 437–438)にある。Petersson 内積は Mil21 §V.4(Proposition 4.17 と Theorem 4.19, pp. 205–206)にあり、そこでは積分が基本領域によらないこと、正定値であることが述べられている。

関連項目

参考文献

[2]
Joseph H. Silverman, The Arithmetic of Elliptic Curves, 2nd ed., Graduate Texts in Mathematics 106, Springer, 2009, Appendix C, §C.12:Theorem 12.5 (a)(Jacobi の積公式、p. 433)、Example 12.10.1(Deligne の評価、p. 436)、合同部分群の尖点と尖点形式の定義・Example 12.12・Example 12.13・Proposition 12.14・Remark 12.15(p. 438)、Remark 12.17(p. 439)

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