素数定理(prime number theorem)とは、$x$ 以下の素数の個数 $\pi(x)$ が $x\to\infty$ で $x/\log x$ に漸近同値である、すなわち $\pi(x)\log x/x\to1$ であるという定理である。1896 年に Hadamard と de la Vallée Poussin が証明し、1949 年に Selberg と Erdős が初等的な証明を与えた。$\theta(x)=\sum_{p\leq x}\log p$ について $\theta(x)\sim x$ と同値であり、$n$ 番目の素数は $n\log n$ に漸近同値になる。$\pi(x)$ が $x/\log x$ の正の定数倍で上下から挟まれるという弱い形(Chebyshev の評価)は、$\binom{2n}{n}$ の素因数から初等的に示せる。
素数は大きくなるにつれてまばらになる。連続する $1000$ 個の整数に含まれる素数を数えると、$1$ から $1000$ までには $168$ 個あるが、$1000001$ から $1001000$ までには $75$ 個、$1000000001$ から $1000001000$ までには $49$ 個しかない。一方、自然対数で $1000/\log(10^6)\approx72.4$、$1000/\log(10^9)\approx48.3$ である。つまり $x$ の近くでは、整数のおよそ $\log x$ 個に 1 個が素数であるように見える。Gauss は 1792 年ごろ、長さ $1000$ の区間ごとに素数を数えてこの規則に気づいたと伝えられる(Clark の講義ノートの第 11 章 §1.1、p. 143 Cla)。
密度が $1/\log t$ なら、$x$ 以下の素数の個数はおよそ $\int_2^x\frac{dt}{\log t}$、さらに粗くは $x/\log x$ になるはずである。これが正しいこと、すなわち $x$ 以下の素数の個数と $x/\log x$ の比が $1$ に近づくことを述べるのが素数定理である。本記事では、定理の主張と同値な言い換え、帰結を述べ、比が正の定数で上下から挟まれること(Chebyshev の評価)を二項係数だけを使って完全に証明する。定理そのものの証明は複素解析か長い初等的議論を要するので、出典を示すにとどめる。小さい $x$ での $\pi(x)$ の値の表は 素数 の記事にある。
以下、$\log$ は自然対数、$p$ はつねに素数を表す。
実数 $x$ に対し、$x$ 以下の素数の個数を
$$
\pi(x):=\#\{p\mid p\leq x\}
$$
と書き、素数計数関数(prime-counting function)という。また $x\geq1$ に対し $\theta(x):=\sum_{p\leq x}\log p$ とおく(Chebyshev の関数)。
正の値をとる関数 $f,g$ について、$\lim_{x\to\infty}f(x)/g(x)=1$ であることを $f(x)\sim g(x)$ と書き、$f$ と $g$ は漸近同値であるという。
たとえば $\pi(10)=4$($2,3,5,7$)、$\theta(10)=\log(2\cdot3\cdot5\cdot7)=\log210$ である。
$x\to\infty$ のとき
$$
\pi(x)\sim\frac{x}{\log x},\qquad\text{すなわち}\qquad\lim_{x\to\infty}\frac{\pi(x)\log x}{x}=1
$$
が成り立つ。
素数定理は 18 世紀の終わりに Legendre と Gauss が独立に予想した。1896 年に Hadamard Had96 と de la Vallée Poussin VP96 が独立に証明した。どちらの証明も、Riemannゼータ関数 $\zeta(s)$ が $\operatorname{Re}s=1$ の直線上で $0$ にならないことが鍵である。1949 年には Selberg Sel49 と Erdős Erd49 が、複素関数論を使わない初等的な証明を与えた。短い複素解析的な証明として Newman New80 によるものが知られ、Zagier Zag97 が 4 頁の解説にまとめている。1896 年と 1949 年の経緯は Clark の講義ノートの第 11 章 §1、pp. 143–146 Cla による。本記事の thm-prime-number-theorem-chebyshev は定理の証明の一部ではなく、素数定理を使わずに示せるより弱い評価である。
$\operatorname{Li}(x):=\int_2^x\frac{dt}{\log t}$($x\geq2$)とおくと、$\operatorname{Li}(x)\sim x/\log x$ である(部分積分で $\operatorname{Li}(x)=\frac{x}{\log x}-\frac{2}{\log2}+\int_2^x\frac{dt}{\log^2t}$ となり、最後の積分は $x/\log x$ に比べて小さい)。したがって素数定理は $\pi(x)\sim\operatorname{Li}(x)$ とも書ける。$\operatorname{li}(x)$($0$ からの主値積分)とは定数 $\operatorname{li}(2)\approx1.045$ だけ異なる。
漸近同値は比についての主張であり、差 $\pi(x)-\operatorname{Li}(x)$ の大きさは別の問題である。Hadamard と de la Vallée Poussin の方法からは、正の定数 $C,a$ があって $|\pi(x)-\operatorname{Li}(x)|\leq Cx\,e^{-a\sqrt{\log x}}$ となることが分かる。また Riemann予想は、$x\geq2657$ で $|\pi(x)-\operatorname{li}(x)|\leq\frac{1}{8\pi}\sqrt x\log x$ が成り立つことと同値である(Sch76。Clark の講義ノートの第 11 章、Theorem 11.4 と Theorem 11.9、pp. 145–148 Cla も参照。同所は $\operatorname{Li}$ で書いている)。
$x=10^9$ では $\pi(x)=50847534$、$x/\log x\approx48254942.4$ で、比は約 $1.054$ であるが、差は約 $259$ 万もある。一方 $\operatorname{Li}(10^9)\approx50849233.9$ で、$\pi(10^9)$ との差は約 $1700$ にすぎない。$\pi(x)\sim x/\log x$ は「差 $\pi(x)-x/\log x$ が小さい」ことを意味しない。実際、rem-prime-number-theorem-li の部分積分の式から $\operatorname{Li}(x)-x/\log x$ は $x/\log^2x$ 程度の大きさで $\infty$ に発散し、同じ注意の誤差項の評価と合わせると $\pi(x)-x/\log x$ も $\infty$ に発散する。主張「$f\sim g$ なら $f-g\to0$」は $f=\pi$、$g=x/\log x$ で破れる。
素数定理の証明は難しいが、「$\pi(x)$ は $x/\log x$ の定数倍で上下から挟まれる」という弱い形は、二項係数 $\binom{2n}{n}$ の素因数分解を調べるだけで証明できる。これは Chebyshev が 1850 年ごろに得た結果である(Clark の講義ノートの第 11 章、Theorem 11.3、p. 144 Cla)。
正の整数 $n$ と素数 $p$ について、$n!$ の素因数分解における $p$ の指数 $v_p(n!)$ は
$$
v_p(n!)=\sum_{k\geq1}\left\lfloor\frac{n}{p^k}\right\rfloor
$$
である($p^k>n$ の項は $0$ なので有限和)。
$v_p(n!)=\sum_{j=1}^nv_p(j)$ であり、$v_p(j)=\#\{k\geq1\mid p^k\text{ が }j\text{ を割り切る}\}$ である。和の順序を入れ替えると
$$
v_p(n!)=\sum_{k\geq1}\#\{j\mid 1\leq j\leq n,\ p^k\text{ が }j\text{ を割り切る}\}=\sum_{k\geq1}\left\lfloor\frac{n}{p^k}\right\rfloor
$$
である。$1$ から $n$ までの $p^k$ の倍数はちょうど $\lfloor n/p^k\rfloor$ 個だからである。
正の整数 $n$ について $N:=\binom{2n}{n}$ とおく。
1:$N=\prod_{k=1}^n\frac{n+k}{k}$ で各因子は $2$ 以上なので $N\geq2^n$ である。二項定理により $\sum_{j=0}^{2n}\binom{2n}{j}=2^{2n}=4^n$ で、$N$ はその 1 項なので $N\leq4^n$ である。$\binom{2n}{j+1}/\binom{2n}{j}=\frac{2n-j}{j+1}$ は $j< n$ で $1$ より大きく $j\geq n$ で $1$ より小さいので、$N$ は $2n+1$ 個の項のうち最大であり、$4^n\leq(2n+1)N$ である。
2:lem-prime-number-theorem-legendre により
$$
v_p(N)=v_p((2n)!)-2v_p(n!)=\sum_{k\geq1}\left(\left\lfloor\frac{2n}{p^k}\right\rfloor-2\left\lfloor\frac{n}{p^k}\right\rfloor\right)
$$
である。実数 $y$ について $\lfloor2y\rfloor-2\lfloor y\rfloor$ は $0$ か $1$ であり($y$ の小数部分が $1/2$ 未満なら $0$、以上なら $1$)、$p^k>2n$ の項は $0$ である。よって $p^K\leq2n< p^{K+1}$ となる $K$ をとると $v_p(N)\leq K$ で、$p^{v_p(N)}\leq p^K\leq2n$ である。$p>2n$ なら $K=0$ で $p\nmid N$ である。
3:$n< p\leq2n$ なら、$p$ は $(2n)!=N\cdot(n!)^2$ を割り切るが、$n!$ の因子 $1,\dots,n$ はどれも $p$ より小さいので $p\nmid(n!)^2$ である。$p$ は素数なので $p\mid N$ である。
たとえば $n=5$ では $N=\binom{10}{5}=252=2^2\cdot3^2\cdot7$ である。$2^2=4$、$3^2=9$ はどちらも $10$ 以下であり、$5< p\leq10$ の素数 $7$ は $N$ を割り切る。$2^5=32\leq252\leq4^5=1024$ である。
1:正の整数 $m$ について、$m< p\leq2m$ の素数の積は lem-prime-number-theorem-central-binomial の 3 により $\binom{2m}{m}$ を割り切るので、同じ補題の 1 から
$$
\theta(2m)-\theta(m)=\log\prod_{m< p\leq2m}p\leq\log\binom{2m}{m}\leq m\log4
$$
である。$m=2^{j-1}$($j=1,\dots,k$)として足し合わせると、$\theta(1)=0$ なので
$$
\theta(2^k)\leq\sum_{j=1}^k2^{j-1}\log4<2^k\log4
$$
である。実数 $x\geq1$ に対し $2^{k-1}\leq x<2^k$ となる $k\geq1$ をとると、$\theta$ は増加関数なので $\theta(x)\leq\theta(2^k)<2^k\log4\leq2x\log4=(4\log2)x$ である。
2 の上からの評価:$x\geq2$ とする。$\sqrt x< p\leq x$ の素数 $p$ は $\log p>\frac12\log x$ を満たすので、その個数を $A$ とすると $A\cdot\frac12\log x<\sum_{\sqrt x< p\leq x}\log p\leq\theta(x)$、すなわち $A<2\theta(x)/\log x$ である($A=0$ のときも成り立つ)。$\sqrt x$ 以下の素数は $\sqrt x$ 個以下なので、1 と合わせて
$$
\pi(x)\leq\sqrt x+A<\sqrt x+(8\log2)\frac{x}{\log x}
$$
である。関数 $t\mapsto\log t/\sqrt t$($t>1$)は $t=e^2$ で最大値 $2/e$ をとるので $\sqrt x=\frac{\log x}{\sqrt x}\cdot\frac{x}{\log x}\leq\frac2e\cdot\frac{x}{\log x}$ であり、
$$
\pi(x)<\left(8\log2+\frac2e\right)\frac{x}{\log x}<6.3\cdot\frac{x}{\log x}<7\cdot\frac{x}{\log x}
$$
である。
2 の下からの評価:$x\geq2$ とし、$n:=\lfloor x/2\rfloor\geq1$、$N:=\binom{2n}{n}$ とおく。lem-prime-number-theorem-central-binomial の 2 により $N$ の素因数はすべて $2n$ 以下で、各素因数の冪 $p^{v_p(N)}$ は $2n$ 以下なので
$$
2^n\leq N=\prod_{p\leq2n}p^{v_p(N)}\leq(2n)^{\pi(2n)}
$$
である。対数をとって $\pi(2n)\geq\frac{n\log2}{\log(2n)}$ を得る。$2n\leq x$ なので $\pi(x)\geq\pi(2n)$、$\log(2n)\leq\log x$ である。また $n\geq x/4$ である($2\leq x<4$ なら $n=1$ で $x/4<1$、$x\geq4$ なら $n>x/2-1\geq x/4$)。よって
$$
\pi(x)\geq\frac{n\log2}{\log x}\geq\frac{\log2}{4}\cdot\frac{x}{\log x}
$$
である。
同じ議論で、lem-prime-number-theorem-central-binomial の 1 の $4^n\leq(2n+1)N$ を使えば $\liminf_{x\to\infty}\pi(x)\log x/x\geq\log2\approx0.69$ が得られる。計算を工夫すると、十分大きい $x$ について下の定数 $0.92$、上の定数 $1.7$ が得られる版もある(Clark の講義ノートの第 11 章、Theorem 11.3 の後の注意、p. 144 Cla)。Crisman の PDF 版の Proposition 21.3.7(pp. 377–378 Cri24)は $\pi(x)<2x/\log x$ を同じ種類の議論で示している(細部の一部は演習に回されている)。Moser の PDF 版の第 3 章、Lemma 1–9 と Theorem 1–3(pp. 20–24 Mos11)も同じ筋で、$\prod_{p\leq n}p<4^n$ から上の評価を導いている。
Chebyshev はさらに、「極限 $\lim_{x\to\infty}\pi(x)\log x/x$ が存在するならば、その値は $1$ である」ことも示した(Clark の講義ノートの第 11 章、Theorem 11.3 (b)、p. 144 Cla。Moser の PDF 版の第 3 章、Theorem 5、pp. 24–25 Mos11 に証明の概略がある)。したがって素数定理の難しさは、極限が存在することを示す点にある。
素数を数える代わりに、素数に重み $\log p$ を付けて足した $\theta(x)$ を使うと、素数定理はより扱いやすい形になる。
$\pi(x)\sim x/\log x$ であることと、$\theta(x)\sim x$ であることは同値である。
$x\geq2$ とする。各 $\log p$ は $\log x$ 以下なので $\theta(x)\leq\pi(x)\log x$ である。また $0<\varepsilon<1$ について、$x^{1-\varepsilon}< p\leq x$ の素数は $\log p>(1-\varepsilon)\log x$ を満たし、$x^{1-\varepsilon}$ 以下の素数は $x^{1-\varepsilon}$ 個以下なので
$$
\theta(x)\geq\sum_{x^{1-\varepsilon}< p\leq x}\log p\geq(1-\varepsilon)\log x\,\bigl(\pi(x)-x^{1-\varepsilon}\bigr)
$$
である。$u(x):=\pi(x)\log x/x$、$w(x):=\theta(x)/x$ とおくと、2 つの不等式は
$$
w(x)\leq u(x),\qquad u(x)\leq\frac{w(x)}{1-\varepsilon}+\frac{\log x}{x^{\varepsilon}}
$$
となる。$\log x/x^{\varepsilon}\to0$($x\to\infty$)である。
$u(x)\to1$ なら、$\limsup w\leq1$ であり、第 2 式から $1=\lim u\leq\liminf w/(1-\varepsilon)$ なので $\liminf w\geq1-\varepsilon$ である。$\varepsilon$ は任意なので $w(x)\to1$ である。逆に $w(x)\to1$ なら、$\liminf u\geq1$ であり、第 2 式から $\limsup u\leq1/(1-\varepsilon)$ なので、$\varepsilon\to0$ として $u(x)\to1$ である。
$n$ 番目の素数を $p_n$ と書く($p_1=2,\ p_2=3,\ \dots$)。素数定理から $p_n\sim n\log n$ が従う。
$\pi(p_n)=n$ なので、素数定理を $x=p_n\to\infty$ に適用すると $n\log p_n/p_n\to1$ である。対数をとると
$$
\log n+\log\log p_n-\log p_n\to0
$$
であり、両辺を $\log p_n$ で割ると、$\log\log p_n/\log p_n\to0$ なので $\log n/\log p_n\to1$ である。したがって
$$
\frac{p_n}{n\log n}=\frac{p_n}{n\log p_n}\cdot\frac{\log p_n}{\log n}\to1\cdot1=1
$$
である。
たとえば $p_{1000}=7919$ で、$1000\log1000\approx6907.8$ である。比は約 $1.15$ で、$1$ への近づき方は遅い。
素数定理から、任意の $\varepsilon>0$ に対し、十分大きいすべての $x$ について $x< p\leq(1+\varepsilon)x$ を満たす素数 $p$ が存在することが従う。さらにその個数は $x\to\infty$ で $\infty$ に発散する。
$y=(1+\varepsilon)x$ とおくと $\log y/\log x=1+\log(1+\varepsilon)/\log x\to1$ なので、素数定理から $\pi(y)\log x/x=\frac{\pi(y)\log y}{y}\cdot\frac{y}{x}\cdot\frac{\log x}{\log y}\to1+\varepsilon$ である。よって
$$
\bigl(\pi((1+\varepsilon)x)-\pi(x)\bigr)\cdot\frac{\log x}{x}\to(1+\varepsilon)-1=\varepsilon>0
$$
であり、$x/\log x\to\infty$ なので $\pi((1+\varepsilon)x)-\pi(x)\to\infty$ である。
$\varepsilon=1$ の場合、すなわち $n$ と $2n$ の間に素数があることは、素数定理を使わずに、しかも十分大きい $n$ だけでなくすべての $n\geq1$ について成り立つ。これが Bertrandの仮説 であり、Chebyshev が初めて証明した。その証明には上の lem-prime-number-theorem-central-binomial と同じ種類の二項係数の評価が使われる。cor-prime-number-theorem-short-interval は、素数定理が Bertrand の仮説よりずっと強い情報を含むことを示している。
$a$ と $N$ が互いに素な正の整数のとき、$x$ 以下で $N$ で割って $a$ 余る素数の個数は $\frac{1}{\varphi(N)}\cdot\frac{x}{\log x}$ に漸近同値である(算術級数の素数定理。$\varphi$ は Eulerのφ関数)。すなわち素数は、$N$ と互いに素な $\varphi(N)$ 個の剰余類に均等に分布する。これは Dirichletの算術級数定理を量的にしたものである(Clark の講義ノートの第 17 章、Theorem 17.10、p. 219 Cla)。
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