接束

同義語:tangent bundle接バンドル

概要

接束(tangent bundle)とは、$n$ 次元の滑らかな多様体 $M$ のすべての接空間の非交和 $TM=\bigsqcup_pT_pM$ に、局所座標 $(x^1,\dots,x^n)$ と接ベクトルの成分 $(v^1,\dots,v^n)$ を合わせた自然な座標で $2n$ 次元の滑らかな多様体の構造を入れたものである。座標変換は $(x,v)\mapsto(g(x),Dg(x)v)$ で、推移関数は座標変換の Jacobi 行列であり、射影 $TM\to M$ は階数 $n$ の滑らかなベクトル束になる。写像の微分は滑らかな写像 $dF\colon TM\to TN$ となり、ベクトル場は接束の滑らかな切断である。$TM$ はつねに向き付け可能で、$TS^1$ は自明だが $TS^2$ は自明でない。

$$\newcommand{C}[0]{\mathbb{C}} \newcommand{div}[0]{\mathbin{÷}} \newcommand{N}[0]{\mathbb{N}} \newcommand{Q}[0]{\mathbb{Q}} \newcommand{R}[0]{\mathbb{R}} \newcommand{Z}[0]{\mathbb{Z}} $$

前提知識: 可微分多様体, 接空間, ベクトル束, 局所座標, Jacobi行列

滑らかな多様体 $M$ の各点 $p$ には接空間 $T_pM$ がある。$p$ を動かすと接空間も「滑らかに」動くはずだが、$T_pM$ は点ごとに別々のベクトル空間なので、その意味は自明でない。接束(tangent bundle)$TM$ は、すべての接空間を 1 つの集合に集め、そこに局所座標から $2n$ 次元の滑らかな多様体の構造を入れたものである。こうして「接ベクトルが点とともに滑らかに動く」ことが「$TM$ の中の滑らかな写像」として言えるようになり、ベクトル場は $M\to TM$ の滑らかな切断、写像 $F\colon M\to N$ の微分は滑らかな写像 $dF\colon TM\to TN$ として扱える。接束はベクトル束の最も基本的な例であり、その構造は局所自明化と推移関数(座標変換の Jacobi 行列)から貼り合わせで作られる。

接空間と座標ベクトル

以下、$M$ を $n$ 次元の滑らかな多様体(可微分多様体。Hausdorff かつ第 2 可算な位相多様体に $C^\infty$ 級の微分構造を与えたもの)とし、$C^\infty(M)$ を $M$ 上の $C^\infty$ 級実数値関数の全体とする。記事の中で使う接空間の定義と事実をまとめる。
点 $p\in M$ における接ベクトルとは、$\mathbb{R}$ 線形写像 $v\colon C^\infty(M)\to\mathbb{R}$ で、すべての $f,g\in C^\infty(M)$ について
$$ v(fg)=f(p)\,v(g)+g(p)\,v(f) $$
を満たすもの($p$ における導分)である。その全体 $T_pM$ は写像の和とスカラー倍で実ベクトル空間になり、$p$ における接空間という。これは接空間の記事の定義「導分による接ベクトル」であり、同じ記事の定理「3 つの定義の標準的な同型」により、曲線の速度ベクトルの類として定義した接空間と標準的に同型である($p$ を通る曲線 $\gamma$ の速度ベクトルは導分 $f\mapsto(f\circ\gamma)'(0)$ である)。
$p$ を含む滑らかな座標近傍 $(U,\varphi)$、$\varphi=(x^1,\dots,x^n)$ に対し、座標ベクトル
$$ \frac{\partial}{\partial x^i}\Big|_p\colon f\longmapsto\frac{\partial(f\circ\varphi^{-1})}{\partial x^i}(\varphi(p))\qquad(i=1,\dots,n) $$
は $T_pM$ の基底をなす(ベクトル場の記事の定理「座標ベクトルは接空間の基底をなす」)。したがって $\dim T_pM=n$ であり、$v\in T_pM$ は $v=\sum_iv^i\,\partial/\partial x^i|_p$ と一意に書ける。$(v^1,\dots,v^n)$ を $v$ の $(U,\varphi)$ に関する成分という。
別の座標近傍 $(V,\psi)$、$\psi=(y^1,\dots,y^n)$ で $p\in U\cap V$ のとき、座標ベクトルは
$$ \frac{\partial}{\partial x^i}\Big|_p=\sum_{j=1}^n\frac{\partial y^j}{\partial x^i}(p)\,\frac{\partial}{\partial y^j}\Big|_p,\qquad\frac{\partial y^j}{\partial x^i}(p):=\frac{\partial(y^j\circ\varphi^{-1})}{\partial x^i}(\varphi(p)) $$
と変換される(ベクトル場の記事の命題「座標変換に関する変換則」。両辺を関数 $f$ に作用させると、$f\circ\varphi^{-1}=(f\circ\psi^{-1})\circ(\psi\circ\varphi^{-1})$ に対する連鎖律そのものである)。係数の行列 $\bigl(\partial y^j/\partial x^i(p)\bigr)_{j,i}$ は座標変換 $\psi\circ\varphi^{-1}$ の点 $\varphi(p)$ におけるJacobi行列であり、正則である。成分で書けば、$v$ の 2 つの成分は
$$ w^j=\sum_{i=1}^n\frac{\partial y^j}{\partial x^i}(p)\,v^i\qquad\Bigl(v=\sum_iv^i\frac{\partial}{\partial x^i}\Big|_p=\sum_jw^j\frac{\partial}{\partial y^j}\Big|_p\Bigr) $$
で結ばれる。
滑らかな写像 $F\colon M\to N$ の点 $p$ における微分 $dF_p\colon T_pM\to T_{F(p)}N$ は $(dF_p\,v)(g):=v(g\circ F)$ で定まる線形写像であり(接空間の記事の定義「写像の微分」)、座標ベクトルに関する表現行列は $F$ の局所表示の Jacobi 行列である(同じ記事の命題「微分の局所座標表示」)。また連鎖律 $d(G\circ F)_p=dG_{F(p)}\circ dF_p$ が成り立つ(同じ記事の定理「連鎖律」)。

接束の定義

接束

$n$ 次元の滑らかな多様体 $M$ の接束とは、接空間の非交和
$$ TM:=\bigsqcup_{p\in M}T_pM=\{(p,v)\mid p\in M,\ v\in T_pM\} $$
と、射影 $\pi\colon TM\to M$、$\pi(p,v):=p$ の組である。$(p,v)$ を単に $v$ と書くことが多い。$\pi^{-1}(p)=T_pM$ を $p$ 上のファイバーという。$M$ の滑らかな座標近傍 $(U,\varphi)$、$\varphi=(x^1,\dots,x^n)$ に対し、写像
$$ \Phi_U\colon\pi^{-1}(U)\to U\times\mathbb{R}^n,\qquad\Bigl(p,\ \sum_iv^i\frac{\partial}{\partial x^i}\Big|_p\Bigr)\longmapsto\bigl(p,\ (v^1,\dots,v^n)\bigr) $$
を $(U,\varphi)$ が定める局所自明化といい、$\tilde\varphi:=(\varphi\times\mathrm{id}_{\mathbb{R}^n})\circ\Phi_U$、すなわち
$$ \tilde\varphi\colon\pi^{-1}(U)\to\varphi(U)\times\mathbb{R}^n\subset\mathbb{R}^{2n},\qquad\Bigl(p,\ \sum_iv^i\frac{\partial}{\partial x^i}\Big|_p\Bigr)\longmapsto\bigl(x^1(p),\dots,x^n(p),\,v^1,\dots,v^n\bigr) $$
を $TM$ の自然な座標(標準座標)という。

$\Phi_U$ は全単射で、各ファイバー $T_pM$ 上では成分をとる写像なので線形同型である。2 つの座標近傍 $(U,\varphi)$、$(V,\psi)$ について、$U\cap V$ 上で
$$ \Phi_V\circ\Phi_U^{-1}(p,v)=\bigl(p,\ J_{VU}(p)\,v\bigr),\qquad J_{VU}(p):=\Bigl(\frac{\partial y^j}{\partial x^i}(p)\Bigr)_{j,i}\in\mathrm{GL}(n,\mathbb{R}) $$
となる。これは前節の成分の変換則を言い換えたものである。行列値の写像 $J_{VU}\colon U\cap V\to\mathrm{GL}(n,\mathbb{R})$ を推移関数(変換関数)という。自然な座標どうしの座標変換は、$g:=\psi\circ\varphi^{-1}$ とおくと
$$ \tilde\psi\circ\tilde\varphi^{-1}(x,v)=\bigl(g(x),\ Dg(x)\,v\bigr)\qquad\bigl(x\in\varphi(U\cap V),\ v\in\mathbb{R}^n\bigr) $$
である。$J_{VU}(p)=Dg(\varphi(p))$ だからである。
以下の 3 つの節の目標は、これらのデータから $TM$ に滑らかな多様体の構造と滑らかなベクトル束の構造がただ 1 つ定まることの証明である。$TM$ には最初は位相がないので、位相も含めて一から作る必要がある。証明は 2 段に分ける。まず「集合に座標を貼って滑らかな多様体を作る」一般的な補題を示し、次に「局所自明化と推移関数から滑らかなベクトル束を作る」定理を示して、それを $TM$ に当てる。

集合に座標を貼って多様体を作る

座標の貼り合わせによる多様体の構成

$S$ を集合、$N\ge0$ を整数とし、$S$ の部分集合 $W_\alpha$ と単射 $\chi_\alpha\colon W_\alpha\to\mathbb{R}^N$ の族 $\{(W_\alpha,\chi_\alpha)\}_{\alpha\in A}$ が次を満たすとする。

  1. 各 $\alpha$ について $\chi_\alpha(W_\alpha)$ は $\mathbb{R}^N$ の開集合である。
  2. 各 $\alpha,\beta$ について $\chi_\alpha(W_\alpha\cap W_\beta)$ は $\mathbb{R}^N$ の開集合である。
  3. 各 $\alpha,\beta$ について $\chi_\beta\circ\chi_\alpha^{-1}\colon\chi_\alpha(W_\alpha\cap W_\beta)\to\chi_\beta(W_\alpha\cap W_\beta)$ は $C^\infty$ 級である。
  4. 可算個の $W_\alpha$ で $S$ が覆われる。
  5. $S$ の相異なる 2 点 $s,t$ について、$s,t\in W_\alpha$ となる $\alpha$ があるか、$s\in W_\alpha$、$t\in W_\beta$、$W_\alpha\cap W_\beta=\emptyset$ となる $\alpha,\beta$ がある。
    このとき $S$ の位相で、各 $W_\alpha$ が開集合で各 $\chi_\alpha$ が $W_\alpha$ から $\chi_\alpha(W_\alpha)$ への同相写像になるものがただ 1 つある。この位相で $S$ は $N$ 次元の位相多様体(Hausdorff かつ第 2 可算)であり、$\{(W_\alpha,\chi_\alpha)\}$ は $C^\infty$ 級アトラスである。

条件 3 で $\alpha$、$\beta$ を入れ替えれば、$\chi_\beta\circ\chi_\alpha^{-1}$ は $C^\infty$ 級の逆写像 $\chi_\alpha\circ\chi_\beta^{-1}$ をもつ全単射、すなわち開集合の間の $C^\infty$ 級微分同相写像である。

開基。 $\mathcal{B}:=\{\chi_\alpha^{-1}(O)\mid\alpha\in A,\ O\subset\chi_\alpha(W_\alpha)\text{ は }\mathbb{R}^N\text{ の開集合}\}$ とおく。条件 1 により $W_\alpha=\chi_\alpha^{-1}(\chi_\alpha(W_\alpha))\in\mathcal{B}$ で、条件 4 により $\mathcal{B}$ の元で $S$ が覆われる。$B_1=\chi_\alpha^{-1}(O)$、$B_2=\chi_\beta^{-1}(O')$ について、$x\in B_1\cap B_2$ は「$x\in W_\alpha\cap W_\beta$、$\chi_\alpha(x)\in O$、$\chi_\beta(x)\in O'$」と同値なので
$$ \chi_\alpha(B_1\cap B_2)=O\cap(\chi_\beta\circ\chi_\alpha^{-1})^{-1}(O') $$
である。右辺の第 2 項は、開集合 $\chi_\alpha(W_\alpha\cap W_\beta)$(条件 2)の上の連続写像 $\chi_\beta\circ\chi_\alpha^{-1}$(条件 3)による開集合の逆像なので $\mathbb{R}^N$ の開集合である。よって $B_1\cap B_2=\chi_\alpha^{-1}(\text{開集合})\in\mathcal{B}$ であり、$\mathcal{B}$ は開基の条件を満たす。$\mathcal{B}$ の元の和で表される集合を開集合とする位相を $S$ に入れる。
$\chi_\alpha$ は同相写像。 $W_\alpha\in\mathcal{B}$ は開集合である。$O\subset\chi_\alpha(W_\alpha)$ が開なら $\chi_\alpha^{-1}(O)\in\mathcal{B}$ なので $\chi_\alpha$ は連続である。$W_\alpha$ の開集合は $W_\alpha$ に含まれる $\mathcal{B}$ の元 $\chi_\beta^{-1}(O')$ の和であり、そのような元について $O'\subset\chi_\beta(W_\alpha\cap W_\beta)$ なので $\chi_\alpha(\chi_\beta^{-1}(O'))=(\chi_\alpha\circ\chi_\beta^{-1})(O')$ は微分同相写像による開集合の像として開である。よって $\chi_\alpha$ は開写像であり、同相写像である。
位相の一意性。 別の位相 $\mathcal{T}$ で各 $W_\alpha$ が開かつ各 $\chi_\alpha$ が同相写像なら、$\chi_\alpha^{-1}(O)$ は $W_\alpha$ の開集合なので $\mathcal{T}$ の開集合であり、$\mathcal{B}\subset\mathcal{T}$ である。逆に $G\in\mathcal{T}$ なら $\chi_\alpha(G\cap W_\alpha)$ は開で $G=\bigcup_\alpha\chi_\alpha^{-1}(\chi_\alpha(G\cap W_\alpha))$ は $\mathcal{B}$ の元の和である。よって $\mathcal{T}$ は上の位相に等しい。
Hausdorff 性。 $s\ne t$ とする。条件 5 の前者なら、$\chi_\alpha(s)\ne\chi_\alpha(t)$ を $\mathbb{R}^N$ の交わらない開集合 $O_1,O_2\subset\chi_\alpha(W_\alpha)$ で分け、$\chi_\alpha^{-1}(O_1)$、$\chi_\alpha^{-1}(O_2)$ をとる。後者なら $W_\alpha$、$W_\beta$ が交わらない開集合である。
第 2 可算性。 条件 4 の可算個の $W_{\alpha_k}$ をとる。$\chi_{\alpha_k}(W_{\alpha_k})$ は $\mathbb{R}^N$ の開集合なので可算開基(中心と半径が有理数の開球で含まれるもの)をもち、同相写像で引き戻して $W_{\alpha_k}$ の可算開基 $\mathcal{B}_k$ を得る。$S$ の開集合 $G$ は $G=\bigcup_k(G\cap W_{\alpha_k})$ で、各 $G\cap W_{\alpha_k}$ は $\mathcal{B}_k$ の元の和なので、$\bigcup_k\mathcal{B}_k$ が $S$ の可算開基である。
アトラス。 各点は同相写像 $\chi_\alpha$ により $\mathbb{R}^N$ の開集合と同相な開近傍 $W_\alpha$ をもつので、$S$ は $N$ 次元位相多様体であり、$\{(W_\alpha,\chi_\alpha)\}$ はそのアトラスである。条件 3 により座標変換はすべて $C^\infty$ 級なので、$C^\infty$ 級アトラスである。$\square$

局所自明化と推移関数から滑らかなベクトル束を作る

ベクトル束の記事の定義「ベクトル束」に従い、滑らかな多様体 $E$、$M$ と滑らかな全射 $\pi\colon E\to M$ の組が階数 $r$ の滑らかなベクトル束であるとは、各ファイバー $E_p:=\pi^{-1}(p)$ に $r$ 次元の実ベクトル空間の構造が与えられ、各点 $p$ の開近傍 $U$ と微分同相写像 $\Phi\colon\pi^{-1}(U)\to U\times\mathbb{R}^r$ で、$\mathrm{pr}_1\circ\Phi=\pi$ を満たし、各 $q\in U$ で $E_q\to\{q\}\times\mathbb{R}^r$ が線形同型になるもの(滑らかな局所自明化)があることをいう。

滑らかなベクトル束の構成

$M$ を $n$ 次元の滑らかな多様体、$E$ を集合、$\pi\colon E\to M$ を全射とし、各 $p\in M$ について $E_p:=\pi^{-1}(p)$ に $r$ 次元の実ベクトル空間の構造が与えられているとする。$M$ の開被覆 $\{U_\alpha\}_{\alpha\in A}$ と全単射 $\Phi_\alpha\colon\pi^{-1}(U_\alpha)\to U_\alpha\times\mathbb{R}^r$ が次を満たすとする。

  1. (局所自明化)$\mathrm{pr}_1\circ\Phi_\alpha=\pi$ であり、各 $p\in U_\alpha$ について $\Phi_\alpha$ の制限 $E_p\to\{p\}\times\mathbb{R}^r=\mathbb{R}^r$ は線形同型である。
  2. (推移関数)$U_\alpha\cap U_\beta\ne\emptyset$ となる $\alpha,\beta$ について、$C^\infty$ 級写像 $\tau_{\beta\alpha}\colon U_\alpha\cap U_\beta\to\mathrm{GL}(r,\mathbb{R})$ があって
    $$ \Phi_\beta\circ\Phi_\alpha^{-1}(p,v)=\bigl(p,\ \tau_{\beta\alpha}(p)\,v\bigr)\qquad\bigl(p\in U_\alpha\cap U_\beta,\ v\in\mathbb{R}^r\bigr) $$
    が成り立つ。
    このとき $E$ には、$\pi\colon E\to M$ が階数 $r$ の滑らかなベクトル束となり、各 $\Phi_\alpha$ がその滑らかな局所自明化(微分同相写像)となるような、$(n+r)$ 次元の滑らかな多様体の構造(位相を含む)がただ 1 つある。

条件 1 だけから、$\Phi_\beta\circ\Phi_\alpha^{-1}$ は第 1 成分を保ちファイバーごとに線形同型なので、$\tau_{\beta\alpha}(p)\in\mathrm{GL}(r,\mathbb{R})$ で上の式を満たすものは自動的に定まる。条件 2 が要求しているのは、それが $p$ について $C^\infty$ 級であることである。推移関数は $\tau_{\alpha\alpha}=I$、$\tau_{\gamma\beta}\tau_{\beta\alpha}=\tau_{\gamma\alpha}$(コサイクル条件)を満たす。

段 1(座標の候補)。 $\alpha\in A$ と、$V\subset U_\alpha$ を満たす $M$ の滑らかな座標近傍 $(V,\psi)$ の組ごとに、
$$ W_{\alpha,V,\psi}:=\pi^{-1}(V),\qquad\chi_{\alpha,V,\psi}:=(\psi\times\mathrm{id}_{\mathbb{R}^r})\circ\Phi_\alpha|_{\pi^{-1}(V)}\colon\pi^{-1}(V)\to\psi(V)\times\mathbb{R}^r\subset\mathbb{R}^{n+r} $$
とおく。条件 1 により $\Phi_\alpha$ は $\pi^{-1}(V)$ を $V\times\mathbb{R}^r$ の上へ全単射に写すので、$\chi_{\alpha,V,\psi}$ は $\psi(V)\times\mathbb{R}^r$ への全単射である。この族が lem-tb-chart-lemma の条件 1〜5 を $N=n+r$ で満たすことを確かめる。以下、2 つの候補を $(\alpha,V,\psi)$、$(\beta,V',\psi')$ とし、$\chi:=\chi_{\alpha,V,\psi}$、$\chi':=\chi_{\beta,V',\psi'}$ と略す。
段 2(条件 1〜3)。 条件 1:$\chi(\pi^{-1}(V))=\psi(V)\times\mathbb{R}^r$ は開集合である。条件 2:$\pi^{-1}(V)\cap\pi^{-1}(V')=\pi^{-1}(V\cap V')$ であり、$\chi(\pi^{-1}(V\cap V'))=\psi(V\cap V')\times\mathbb{R}^r$ は開集合である。条件 3:$x\in\psi(V\cap V')$、$v\in\mathbb{R}^r$ について、$p:=\psi^{-1}(x)\in U_\alpha\cap U_\beta$ とおくと、条件 2(推移関数)により
$$ \chi'\circ\chi^{-1}(x,v)=(\psi'\times\mathrm{id})\circ\Phi_\beta\circ\Phi_\alpha^{-1}(p,v)=\Bigl(\psi'\circ\psi^{-1}(x),\ \tau_{\beta\alpha}\bigl(\psi^{-1}(x)\bigr)\,v\Bigr) $$
である($\alpha=\beta$ なら $\tau_{\alpha\alpha}=I$)。第 1 成分は $M$ の座標変換なので $C^\infty$ 級、第 2 成分は $C^\infty$ 級の行列値関数 $\tau_{\beta\alpha}\circ\psi^{-1}$ とベクトル $v$ の積で、各成分が「$x$ の $C^\infty$ 級関数と $v$ の成分の積の和」なので $C^\infty$ 級である。
段 3(条件 4・5)。 条件 4 は $M$ の第 2 可算性から、条件 5 は $M$ の Hausdorff 性から従う。

詳細

条件 4:$M$ は第 2 可算なので、$M$ の任意の開被覆は可算な部分被覆をもつ(Lindelöf 性)。$V\subset U_\alpha$ となる座標近傍 $(V,\psi)$ の定義域全体は $M$ を覆う(各点で、$U_\alpha$ に含まれる座標近傍をとる。滑らかな座標近傍を開集合に制限したものも滑らかな座標近傍である)ので、そのうち可算個 $V_1,V_2,\dots$ で $M$ が覆われ、対応する $\pi^{-1}(V_k)$ で $E$ が覆われる。条件 5:$e\ne e'$ とする。$\pi(e)=\pi(e')=:p$ なら、$p$ を含む候補 $\pi^{-1}(V)$ が両方を含む。$\pi(e)\ne\pi(e')$ なら、$M$ は Hausdorff なので $\pi(e)$、$\pi(e')$ を交わらない開集合 $O$、$O'$ で分け、$\pi(e)\in V\subset O\cap U_\alpha$、$\pi(e')\in V'\subset O'\cap U_\beta$ となる候補をとると、$\pi^{-1}(V)$、$\pi^{-1}(V')$ は交わらない。


段 4(結論)。 lem-tb-chart-lemma により、$E$ は $(n+r)$ 次元の滑らかな多様体になり、$\chi_{\alpha,V,\psi}$ は滑らかな座標近傍である。$\pi$ はこれらの座標と $(V,\psi)$ に関する局所表示が $\psi\circ\pi\circ\chi^{-1}(x,v)=x$ なので $C^\infty$ 級である。$\pi^{-1}(U_\alpha)$ は $V\subset U_\alpha$ となる $\pi^{-1}(V)$ の和なので開集合であり、$\Phi_\alpha\colon\pi^{-1}(U_\alpha)\to U_\alpha\times\mathbb{R}^r$ の局所表示は
$$ (\psi\times\mathrm{id})\circ\Phi_\alpha\circ\chi^{-1}=\mathrm{id}_{\psi(V)\times\mathbb{R}^r} $$
である。よって $\Phi_\alpha$ も $\Phi_\alpha^{-1}$ も $C^\infty$ 級で、$\Phi_\alpha$ は微分同相写像である。条件 1 とあわせて、$\pi\colon E\to M$ は階数 $r$ の滑らかなベクトル束で、$\Phi_\alpha$ はその滑らかな局所自明化である。
段 5(一意性)。 別の構造でも各 $\Phi_\alpha$ が微分同相写像なら、$\chi_{\alpha,V,\psi}$ はその構造の滑らかな座標近傍になるので、構造は一致する。
詳細

$\chi_{\alpha,V,\psi}=(\psi\times\mathrm{id})\circ\Phi_\alpha|_{\pi^{-1}(V)}$ は開集合 $\pi^{-1}(V)$ から $\mathbb{R}^{n+r}$ の開集合への微分同相写像の合成なので、別の構造の滑らかな座標近傍である。lem-tb-chart-lemma の位相の一意性により位相は一致し、同じアトラス $\{\chi_{\alpha,V,\psi}\}$ を含む極大アトラスはただ 1 つなので(可微分多様体の記事の命題「極大アトラスの存在と一意性」)、滑らかな構造も一致する。$\square$

位相空間の上の(連続な)ベクトル束については、同じ貼り合わせを商空間として行う構成がベクトル束の記事の命題「変換関数の連続性・コサイクル条件と束の再構成」にある。上の定理は、全空間の集合と局所自明化がはじめから与えられている場合に、滑らかな構造まで含めて作るものである。Nic26 Exercise 2.1.24(p. 37)はコサイクルからの構成を演習としている。

接束の滑らかな構造

接束の滑らかな構造

$M$ を $n$ 次元の滑らかな多様体とする。$TM$ には、$\pi\colon TM\to M$ が階数 $n$ の滑らかなベクトル束となり、すべての滑らかな座標近傍 $(U,\varphi)$ について def-tb-main の $\Phi_U$ が滑らかな局所自明化となるような、$2n$ 次元の滑らかな多様体の構造がただ 1 つある。この構造で、自然な座標 $(\pi^{-1}(U),\tilde\varphi)$ は滑らかな座標近傍であり、その座標変換は
$$ \tilde\psi\circ\tilde\varphi^{-1}(x,v)=\bigl(g(x),\ Dg(x)\,v\bigr)\qquad(g:=\psi\circ\varphi^{-1}) $$
である。

thm-tb-bundle-construction を、$E:=TM$、$r:=n$、各ファイバー $T_pM$ のベクトル空間の構造、$M$ の滑らかな座標近傍 $(U,\varphi)$ の全体を添字とする開被覆 $\{U\}$、局所自明化 $\Phi_U$ に当てる。
条件 1:$\pi$ は全射であり(各 $T_pM$ は零ベクトルを含む)、$\mathrm{pr}_1\circ\Phi_U=\pi$ は定義から明らかである。$T_pM$ 上で $\Phi_U$ は、基底 $\partial/\partial x^1|_p,\dots,\partial/\partial x^n|_p$ に関する成分をとる写像なので線形同型である。$\Phi_U$ が全単射であることも、座標ベクトルが各 $T_pM$ の基底であることから従う。
条件 2:前節までに見たとおり、$U\cap V$ 上で $\Phi_V\circ\Phi_U^{-1}(p,v)=(p,J_{VU}(p)v)$ であり、$J_{VU}(p)=Dg(\varphi(p))$、$g=\psi\circ\varphi^{-1}$ である。$g$ は $C^\infty$ 級なので、その Jacobi 行列の成分 $\partial g^j/\partial x^i$ は $C^\infty$ 級関数であり、$J_{VU}=Dg\circ\varphi$ は $C^\infty$ 級写像 $U\cap V\to\mathbb{R}^{n\times n}$ である。$g$ は $C^\infty$ 級の逆写像 $\varphi\circ\psi^{-1}$ をもつので、連鎖律により $Dg(x)$ は正則であり、$J_{VU}$ の値は $\mathrm{GL}(n,\mathbb{R})$ に入る。
よって thm-tb-bundle-construction が適用でき、主張の構造がただ 1 つ存在する。自然な座標 $\tilde\varphi=(\varphi\times\mathrm{id})\circ\Phi_U$ は、同定理の証明の段 1 で $\alpha=U$、$(V,\psi)=(U,\varphi)$ とした座標そのものなので滑らかな座標近傍であり、座標変換の式は段 2 の計算で $\tau_{VU}\circ\varphi^{-1}=Dg$ としたものである。$\square$

座標変換 $(x,v)\mapsto(g(x),Dg(x)v)$ の第 2 成分は $v$ について線形で、係数が $x$ の滑らかな関数である。この「底空間の座標は $M$ の座標変換で、ファイバーの座標は Jacobi 行列で変わる」という形が接束の構造のすべてである。同じ構成は Nic26 §2.1.2(pp. 29–30、Definition 2.1.12)にある。

写像の微分は接束の間の滑らかな写像

写像の微分は滑らかな束写像

$M$、$N$ を滑らかな多様体、$F\colon M\to N$ を $C^\infty$ 級写像とし、
$$ dF\colon TM\to TN,\qquad dF(p,v):=\bigl(F(p),\ dF_p\,v\bigr) $$
と定める。このとき $dF$ は $C^\infty$ 級であり、$\pi_N\circ dF=F\circ\pi_M$ を満たし、各ファイバー上で線形である。さらに $C^\infty$ 級写像 $G\colon N\to P$ について $d(G\circ F)=dG\circ dF$、$d(\mathrm{id}_M)=\mathrm{id}_{TM}$ が成り立つ。とくに $F$ が微分同相写像なら $dF$ も微分同相写像である。

$\pi_N\circ dF=F\circ\pi_M$ は次の図式が可換であることを言っている。
$$ \begin{CD} TM @>{dF}>> TN\\ @V{\pi_M}VV @VV{\pi_N}V\\ M @>{F}>> N \end{CD} $$

$\pi_N\circ dF=F\circ\pi_M$ とファイバーごとの線形性は定義から明らかである。滑らかさを示す。$p\in M$ とし、$p$ のまわりの座標近傍 $(U,\varphi)$ と $F(p)$ のまわりの座標近傍 $(V,\psi)$ をとり、$U$ を $U\cap F^{-1}(V)$ に取り替えて $F(U)\subset V$ としておく。$\hat F:=\psi\circ F\circ\varphi^{-1}$ とおく。接空間の記事の命題「微分の局所座標表示」により、$dF_q$ の座標ベクトルに関する表現行列は $D\hat F(\varphi(q))$ なので、自然な座標で
$$ \tilde\psi\circ dF\circ\tilde\varphi^{-1}(x,v)=\bigl(\hat F(x),\ D\hat F(x)\,v\bigr)\qquad\bigl(x\in\varphi(U),\ v\in\mathbb{R}^m\bigr) $$
である($m=\dim M$)。$\hat F$ は $C^\infty$ 級なので $D\hat F$ の成分も $C^\infty$ 級であり、右辺は $C^\infty$ 級である。自然な座標の定義域 $\pi_M^{-1}(U)$ は $TM$ を覆うので、$dF$ は $C^\infty$ 級である。
合成と恒等写像については、各点で $d(G\circ F)_p=dG_{F(p)}\circ dF_p$、$d(\mathrm{id}_M)_p=\mathrm{id}$(接空間の記事の定理「連鎖律」)なので従う。$F$ が微分同相写像なら、$dF\circ d(F^{-1})=d(\mathrm{id}_N)=\mathrm{id}_{TN}$ と $d(F^{-1})\circ dF=\mathrm{id}_{TM}$ により、$dF$ は $C^\infty$ 級の逆写像 $d(F^{-1})$ をもつ。$\square$

ここから、滑らかなベクトル場(ベクトル場)を「$\pi\circ X=\mathrm{id}_M$ を満たす $C^\infty$ 級写像 $X\colon M\to TM$」、すなわち接束の滑らかな切断として定義できる。座標近傍の上では $X$ の自然な座標による局所表示は $x\mapsto(x,X^1(x),\dots,X^n(x))$ なので、$X$ が滑らかであることは成分関数 $X^i$ が滑らかであることと同値である。

接束はつねに向き付け可能である

多様体 $M$ が向き付け可能であるとは、座標変換の Jacobi 行列式がすべての点で正である $C^\infty$ 級アトラスをもつことをいう。

接束の向き付け可能性

任意の滑らかな多様体 $M$ について、$TM$ の自然な座標の全体は、座標変換の Jacobi 行列式がすべての点で正であるアトラスである。とくに $TM$ は向き付け可能である。

2 つの自然な座標の座標変換は thm-tb-smooth-structure により $\Theta(x,v):=(g(x),Dg(x)v)$、$g=\psi\circ\varphi^{-1}$ である。$\Theta$ の $(x,v)$ における Jacobi 行列は、$x$ についての微分と $v$ についての微分に分けて
$$ D\Theta(x,v)=\begin{pmatrix}Dg(x)&0\\ \ast&Dg(x)\end{pmatrix} $$
の形になる。第 1 成分 $g(x)$ は $v$ によらないので右上は $0$、第 2 成分 $Dg(x)v$ は $v$ について線形なので右下は $Dg(x)$ である(左下の $\ast$ は $g$ の 2 階の偏微分と $v$ からなる)。ブロック三角行列の行列式は対角ブロックの行列式の積なので
$$ \det D\Theta(x,v)=\bigl(\det Dg(x)\bigr)^2 $$
であり、$Dg(x)$ は正則なのでこれは正である。$\square$

$M$ 自身が向き付け可能でなくても、$TM$ は向き付け可能である。たとえば実射影平面 $\mathbb{R}P^2$ は向き付け可能でないが(この記事では証明しない。射影空間の記事の定理「ホモロジー群と向き付け」)、$T\mathbb{R}P^2$ は 4 次元の向き付け可能な多様体である。

例

Euclid 空間の開集合

$U\subset\mathbb{R}^n$ を開集合とし、恒等写像 $\mathrm{id}_U$ を 1 枚の座標近傍とする。自然な座標 $\widetilde{\mathrm{id}}\colon TU\to U\times\mathbb{R}^n$ は $TU$ 全体で定義された滑らかな座標近傍で、全単射なので、$TU$ から $U\times\mathbb{R}^n$ への微分同相写像である。したがって $TU\cong U\times\mathbb{R}^n$ であり、接束は自明束(ベクトル束の記事の例「自明束」)である。この同一視で $v=\sum_iv^i\,\partial/\partial x^i|_p$ は成分の組 $(v^1,\dots,v^n)$、すなわち $p$ を通る曲線の速度ベクトル $(\varphi\circ\gamma)'(0)$ に対応する。$F\colon U\to\mathbb{R}^m$ の微分 $dF\colon TU\to T\mathbb{R}^m$ は $(p,v)\mapsto(F(p),DF(p)v)$ であり、Jacobi行列をそのまま束写像とみたものである。

円周の接束は自明

$S^1\subset\mathbb{R}^2$ の上で、開区間 $I$ の長さが $2\pi$ 以下のとき $t\mapsto(\cos t,\sin t)$ の $I$ への制限の逆写像を角度座標 $\theta$ という($S^1$ の滑らかな座標近傍である)。2 つの角度座標 $\theta$、$\theta'$ の座標変換は、定義域の各連結成分の上で $\theta'=\theta+2\pi k$($k$ は整数)の形なので、Jacobi 行列は $1$ であり、変換則により共通の点で $\partial/\partial\theta|_p=\partial/\partial\theta'|_p$ である。よって $X_p:=\partial/\partial\theta|_p$ は角度座標の選び方によらず $S^1$ の各点で定まり、$0$ でない。
$$ \Psi\colon S^1\times\mathbb{R}\to TS^1,\qquad(p,t)\longmapsto(p,\ tX_p) $$
とおくと、$\Psi$ はファイバーごとに線形同型な微分同相写像である。

詳細

$T_pS^1$ は 1 次元で $X_p$ が基底なので $\Psi$ は全単射で、ファイバーごとに線形同型である。角度座標 $\theta$ と、それが定める $TS^1$ の自然な座標で表すと $\Psi$ は $(\theta,t)\mapsto(\theta,t)$、すなわち恒等写像なので、$\Psi$ とその逆写像は $C^\infty$ 級である。


したがって $TS^1$ は自明束 $S^1\times\mathbb{R}$ と同型で、全空間は円柱と微分同相である。$\mathbb{R}^2$ の中では、$X_p$ は $p=(\cos t,\sin t)$ での速度ベクトル $(-\sin t,\cos t)$ にあたる。

球面の接束

包含写像 $\iota\colon S^n\to\mathbb{R}^{n+1}$ の微分 $d\iota\colon TS^n\to T\mathbb{R}^{n+1}=\mathbb{R}^{n+1}\times\mathbb{R}^{n+1}$(ex-tb-euclid)は、prop-tb-differential により $C^\infty$ 級である。接空間の記事の補題「部分多様体の接空間は速度ベクトルの全体」により各 $d\iota_p$ は単射で、同じ記事の定理「等位集合の接空間」($F(x)=\|x\|^2$ に当てる)によりその像は $\{v\mid\langle p,v\rangle=0\}$ である。したがって $d\iota$ は $TS^n$ から
$$ \{(x,v)\in\mathbb{R}^{n+1}\times\mathbb{R}^{n+1}\mid\|x\|=1,\ \langle x,v\rangle=0\} $$
の上への $C^\infty$ 級の全単射で、ファイバーごとに線形同型である。ベクトル束の記事の例「球面の接束」は、この集合を $TS^n$ と呼んでいる。

反例

外す条件反例成り立たなくなること
推移関数が $C^\infty$ 級$\mathbb{R}$ 上の $\mathbb{R}\times\mathbb{R}$ に、推移関数 $1+\lvert t\rvert$ の 2 枚の局所自明化与えられた局所自明化を微分同相写像にする滑らかな構造の存在
底空間が Hausdorff(lem-tb-chart-lemma の条件 5)2 つの原点をもつ直線 $X$ の上の $X\times\mathbb{R}$全空間が Hausdorff であること
(結論は局所自明性だけ)$TS^2$大域的な自明性($TS^1$ は自明だが $TS^2$ は自明でない)
($M$ の向き付け可能性は不要)$T\mathbb{R}P^2$「$TM$ が向き付け可能なら $M$ も向き付け可能」
反例の確かめ

推移関数が滑らかでない場合。 $M=\mathbb{R}$、$E=\mathbb{R}\times\mathbb{R}$、$\pi(t,v)=t$ とし、$U_1=(-\infty,1)$、$U_2=(-1,\infty)$ の上の局所自明化を $\Phi_1(t,v):=(t,v)$、$\Phi_2(t,v):=\bigl(t,(1+\lvert t\rvert)v\bigr)$ とする。どちらも thm-tb-bundle-construction の条件 1 を満たし、推移関数 $\tau_{21}(t)=1+\lvert t\rvert$ は連続だが $t=0$ で微分できない。このとき $\Phi_1$、$\Phi_2$ をともに微分同相写像にする滑らかな構造は $E$ にない。

詳細

そのような構造があるとすると、$\Phi_2\circ\Phi_1^{-1}(t,v)=(t,(1+\lvert t\rvert)v)$ は $(-1,1)\times\mathbb{R}$ の微分同相写像になるはずだが、第 2 成分は $v=1$ のとき $t=0$ で $t$ について微分できない。


満たす性質は「局所自明化が全単射でファイバーごとに線形」、満たさない性質は「推移関数が $C^\infty$ 級」であり、破る含意は「局所自明化の族からは常に滑らかなベクトル束の構造が定まる」である。
2 つの原点をもつ直線。 $X:=(\mathbb{R}\times\{a,b\})/\sim$($t\ne0$ のとき $(t,a)\sim(t,b)$)とし、$0_a$、$0_b$ を 2 つの原点とする。$S:=X\times\mathbb{R}$ に $W_a:=(X\setminus\{0_b\})\times\mathbb{R}$、$W_b:=(X\setminus\{0_a\})\times\mathbb{R}$ と、$\mathbb{R}$ の座標をそのまま使う $\chi_a$、$\chi_b\colon W\to\mathbb{R}^2$ を与えると、lem-tb-chart-lemma の条件 1〜4 は成り立つ(座標変換は $(\mathbb{R}\setminus\{0\})\times\mathbb{R}$ 上の恒等写像)。しかし $s=(0_a,0)$、$t=(0_b,0)$ は同じ $W$ に入らず、それぞれを含む $W_a$、$W_b$ は交わるので条件 5 が成り立たず、得られる空間の中で $s$ と $t$ は分離できない。
詳細

$W_a$、$W_b$ が開で $\chi_a$、$\chi_b$ が同相写像となる位相では、$s$ の近傍も $t$ の近傍も、十分小さい $x\ne0$ について点 $([x,a],0)=([x,b],0)$ を含む。


$X$ は Hausdorff でないので、そもそも滑らかな多様体ではない。この例は、全空間の Hausdorff 性が底空間の Hausdorff 性から来ていることを示す。
$TS^2$。 $TS^2$ が自明束と同型なら、同型写像 $\Phi\colon TS^2\to S^2\times\mathbb{R}^2$ を用いて $X_p:=\Phi^{-1}(p,e_1)$ とおくと、$X$ は $S^2$ 上の至る所 $0$ でない連続(実際には $C^\infty$ 級)なベクトル場になる。これはベクトル場の記事の注意「反例:球面上の至る所非零なベクトル場」(毛玉の定理)に反する。よって $TS^2$ は自明でない。一方 $TS^1$ は自明である(ex-tb-circle)。どちらも局所自明であり、局所自明性から大域的な自明性は従わない。
$T\mathbb{R}P^2$。 prop-tb-orientable により $T\mathbb{R}P^2$ は向き付け可能だが、$\mathbb{R}P^2$ は向き付け可能でない(この記事では証明しない。射影空間の記事の定理「ホモロジー群と向き付け」)。

補足

余接束。 同じ構成を余接空間 $T_p^*M=(T_pM)^*$(余接空間)に当てると、推移関数 $\bigl(J_{VU}(p)^{-1}\bigr)^{\mathsf T}$ をもつ階数 $n$ の滑らかなベクトル束 $T^*M$(余接束)が得られる。その切断が 1 次微分形式(微分形式)である。推移関数が $\mathrm{GL}(n,\mathbb{R})$ の表現を通して $J_{VU}$ から作られる束として、テンソル束も同様に作られる。
平行化可能な多様体。 $TM$ が自明束と同型な多様体を平行化可能という。$TS^1$ は自明だが $TS^2$ は自明でない。Lie群は、単位元の接空間の基底を右移動(左移動でもよい)で運んだ枠により、つねに平行化可能である(この記事では証明しない。Nic26 Example 2.1.48、pp. 42–43)。
Whitney の定理への役割。 $M$ が $n$ 次元なら $TM$ は $2n$ 次元であり、Whitneyのはめ込み定理の次元 $2n$ はここから来る。

はめ込み定理での使い方を開く

$\mathbb{R}^N$ にはめ込まれた $M$ を射影で次元を下げるとき、射影の核(方向 $a$ の直線)が $0$ でない接ベクトルの像 $df_p(v)$ を含まないような方向 $a$ を選ぶ。そのために $2n$ 次元の多様体 $TM$ から $\mathbb{R}^N$ への $C^\infty$ 級写像 $(p,v)\mapsto df_p(v)$ にSardの定理(またはその易しい場合)を当て、$N>2n$ ならその像が測度 $0$ であることを使う。

関連項目

参考文献

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