実閉体(real closed field)とは、$-1$ が平方の和として書けない体(実体)であって、真の代数拡大で実体であるものをもたない体のことである。これは、順序体であって正の元がすべて平方で奇数次の多項式がすべて根をもつこととも、$-1$ が平方でなく $\sqrt{-1}$ を添加した体が代数閉体であることとも同値である。実数体 $\mathbb{R}$ と実代数的数の体が代表例であり、有理数体や、正の元は平方根をもつが $x^3-2$ が根をもたない実作図可能数の体は実閉体でない。実閉体の順序は「正の元は $0$ でない平方」として体の構造から一意に決まり、多項式について中間値の定理が成り立つ。任意の順序体は実閉包をもち、Tarski の定理により実閉体の 1 階の理論は完全である。
前提知識: 体, 順序体, 代数拡大, 代数閉体
実閉体は、実数体 $\mathbb{R}$ の代数的な性質だけを取り出した体である。$\mathbb{R}$ では正の数が平方根をもち、奇数次の多項式は必ず根をもち、$\sqrt{-1}$ を添加すると代数閉体 $\mathbb{C}$ が得られる。一般の体について、これらの性質(順序体であって正の元が平方根をもち奇数次の多項式が根をもつこと、$-1$ が平方でなく $\sqrt{-1}$ の添加で代数閉体になること)は $\mathbb{R}$ の完備性(上限の存在)とは無関係に互いに同値であり、それらを満たす体が実閉体である。$\mathbb{R}$ のほかに、実数である代数的数全体のような可算な体や、無限小を含む体も実閉体になる。実閉体の理論は、実数の不等式や多項式についての性質を代数的に扱う実代数幾何や、モデル理論(Tarski の定理)の基礎になる。
体の上の順序と、順序を入れられる体を次のように定める。
順序体 $(F,\le)$ では、任意の $x$ について $x^2\ge0$ である。実際 $x\ge0$ なら積の条件から、$x\le0$ なら $-x\ge0$ で $x^2=(-x)^2\ge0$ である。特に $1=1^2>0$、$-1<0$ であり、平方の和はすべて $0$ 以上なので $-1$ は平方の和でない。よって、順序を入れられる体は実体である。逆に実体には順序が入ることが知られている(Artin–Schreier。Lan02 Chapter XI §2)が、本記事ではこの逆は使わない。また、標数 $p>0$ の体では $-1=(p-1)\cdot1=1^2+\cdots+1^2$($p-1$ 個の和)なので、実体の標数は $0$ である。
体 $R$ が 実閉体(real closed field)であるとは、$R$ が実体であり、かつ $R$ の真の代数拡大($R\subsetneq L$ となる代数拡大 $L$)で実体であるものが存在しないことをいう。
言い換えると、実閉体とは「実体であるという性質を保ったまま、代数拡大でこれ以上大きくできない体」である。これは代数閉体が「代数拡大でこれ以上大きくできない体」であることの類似である。次の thm-real-closed-field-equivalent により、実閉体は順序を使った条件でも、代数閉体を使った条件でも特徴づけられ、多くの文献はそのどちらかを定義に採る。
$\mathbb{R}$ に代数的な数を付け加えて大きくしようとすると、$\sqrt{-1}$ が入って順序が入らなくなるか、何も増えないかのどちらかになる。実閉体はこの「順序と両立する代数的な拡大の限界」に達した体である。順序の側から見れば、実閉体の順序は「元の平方が $0$ 以上」という条件だけで決まり(cor-real-closed-field-order)、正の元はすべて平方根をもつ。さらに、多項式の値の符号の変化について中間値の定理が成り立つ(prop-real-closed-field-ivt)。つまり、多項式の範囲では実閉体は $\mathbb{R}$ と同じようにふるまう。一方、一般の実閉体では上に有界な集合が上限をもつとは限らず(ex-real-closed-field-algebraic-numbers)、位相や極限についての性質までは $\mathbb{R}$ と同じとは限らない。
実閉体の定義から直接従う次の補題が、以下の議論の出発点である。
$R$ を実閉体とする。
まず、平方の和どうしの積は平方の和であることに注意する($\bigl(\sum_iu_i^2\bigr)\bigl(\sum_jv_j^2\bigr)=\sum_{i,j}(u_iv_j)^2$)。また $t\neq0$ が平方の和なら、$1/t=t\cdot(1/t)^2$ も平方の和である。
$(\ast)$ $a\in R$ が平方でなければ、$-a$ は平方の和であることを示す。$x^2-a$ は $R$ に根をもたない 2 次式なので既約多項式であり、$L:=R[x]/(x^2-a)=R(\sqrt a)$ は $R$ の 2 次の拡大体、特に真の代数拡大である。実閉体の定義により $L$ は実体でなく、$-1=\sum_{j=1}^k(x_j+y_j\sqrt a)^2$($x_j,y_j\in R$)と書ける。$1,\sqrt a$ は $L$ の $R$ 上の基底なので、両辺の $1$ の係数を比べて $-1=\sum_jx_j^2+a\sum_jy_j^2$ を得る。$t:=\sum_jy_j^2$ が $0$ なら $-1=\sum_jx_j^2$ となって $R$ が実体であることに反するので、$t\neq0$ であり、
$$
-a=\Bigl(1+\sum_jx_j^2\Bigr)\cdot\frac1t
$$
は平方の和の積として平方の和である。
2 を示す。$s$ を平方の和とする。$s=0$ なら $s=0^2$ である。$s\neq0$ で $s$ が平方でないとすると、$(\ast)$ により $-s$ は平方の和であり、$-1=(-s)\cdot\frac1s$ も平方の和になって、$R$ が実体であることに反する。よって $s$ は平方である。
1 を示す。$a$ が平方でなければ、$(\ast)$ により $-a$ は平方の和であり、2 により平方である。$\square$
体 $R$ について、次の 3 条件は同値である。
1 ⇒ 2。$P:=\{x^2:x\in R,\ x\neq0\}$ とおく。$P$ は積で閉じる。$P$ は和でも閉じる。実際 $x,y\neq0$ について $x^2+y^2$ は lem-real-closed-field-squares の 2 により平方であり、$x^2+y^2=0$ なら $-1=(y/x)^2$ となって $R$ が実体であることに反するので、$0$ でない。$P\cap(-P)=\emptyset$ である($x^2=-y^2\neq0$ なら $-1=(x/y)^2$)。lem-real-closed-field-squares の 1 により $R=P\sqcup\{0\}\sqcup(-P)$ である。$a\le b$ を $b-a\in P\cup\{0\}$ で定めると、$P\cup\{0\}$ が和で閉じることから推移律が、$P\cap(-P)=\emptyset$ から反対称律が、$R=P\cup\{0\}\cup(-P)$ から全順序性が従い、$P$ が和と積で閉じることから $(R,\le)$ は順序体である。この順序の正の元の集合は $P$ なので、正の元は平方である。
奇数次の多項式が根をもつことを、奇数 $n=\deg f$ についての帰納法で示す。$n=1$ なら明らかである。$n\ge3$ とし、$n$ 未満の奇数次の多項式は根をもつとする。$f$ の既約因子の次数の和は奇数 $n$ なので、奇数次の既約因子 $g$ がある。$\deg g< n$ なら帰納法の仮定により $g$、したがって $f$ は根をもつ。$\deg g=n$ とすると、$L:=R[x]/(g)$ は $R$ 上 $n$ 次の拡大体で、実閉体の定義により実体でない。$x$ の類を $\xi$ とすると、$L$ の元は次数 $n-1$ 以下の多項式 $h$ により $h(\xi)$ と書けるので、$-1=\sum_jh_j(\xi)^2$($\deg h_j\le n-1$)となり、$R[x]$ において
$$
1+\sum_jh_j(x)^2=g(x)k(x)
$$
となる $k\in R[x]$ がある。$m:=\max_j\deg h_j$ とおく。$R$ では $0$ でない元の平方の和は $0$ でない($c_1\neq0$ で $\sum_jc_j^2=0$ なら $-1$ が平方の和になる)ので、左辺は $m=0$ なら $0$ でない定数、$m\ge1$ なら $x^{2m}$ の係数が $0$ でない次数 $2m$ の多項式である。前者は次数 $n\ge3$ の $g$ で割り切れないので $m\ge1$ であり、$\deg k=2m-n$ は奇数で $2m-n\le n-2$ である。帰納法の仮定により $k$ は根 $c\in R$ をもち、$1+\sum_jh_j(c)^2=g(c)k(c)=0$ となって $R$ が実体であることに反する。よって $\deg g=n$ の場合は起こらない。
2 ⇒ 3。順序体では $x^2\ge0>-1$ なので $-1$ は平方でなく、$x^2+1$ は既約で、$C$ は $R$ 上 2 次の拡大体である。$R$ は順序体なので標数 $0$ である。$C$ の任意の元 $w=a+bi$($a,b\in R$)が $C$ に平方根をもつことを示す。$a^2+b^2\ge0$ なので、$r\ge0$ で $r^2=a^2+b^2$ となる $r\in R$ がある。$r^2\ge a^2$ と $r\ge0$ から $r\ge|a|$ であり($0\le r<|a|$ なら $r^2< a^2$)、$(r+a)/2\ge0$、$(r-a)/2\ge0$ である。$x,y'\ge0$ を $x^2=(r+a)/2$、$y'^2=(r-a)/2$ となるようにとり、$b\ge0$ なら $y:=y'$、$b<0$ なら $y:=-y'$ とおく。$x^2-y^2=a$ であり、$(2xy)^2=4x^2y'^2=r^2-a^2=b^2$ で $2xy$ と $b$ の符号は一致するので $2xy=b$ である。よって $(x+yi)^2=w$ である。したがって $C$ 係数の 2 次多項式は平方完成により $C$ に根をもつ。
ここで 代数学の基本定理 の記事の証明「Galois理論による代数学の基本定理の証明」を見ると、そこで $\mathbb{R}$ と $\mathbb{C}$ について使われているのは、同記事の補題「実数と複素数についての 2 つの事実」(奇数次の実係数多項式が実数の根をもつこと、複素係数の 2 次多項式が $\mathbb{C}$ に根をもつこと)と、$[\mathbb{C}:\mathbb{R}]=2$、標数が $0$ であること、および体によらない Galois理論 の一般論と群論の Sylowの定理 だけである。$R$ と $C$ はこれらをすべて満たすので、同じ証明により $C$ の有限次拡大は $C$ 自身である。定数でない $p\in C[x]$ の既約因子 $q$ について $C[x]/(q)$ は $C$ の $\deg q$ 次の拡大なので $\deg q=1$ であり、$p$ は $C$ に根をもつ。よって $C$ は代数閉体である。
3 ⇒ 2。(a) $R$ 上の既約多項式 $g$ の次数は $2$ 以下である。$C$ は代数閉体なので $g$ は根 $\alpha\in C$ をもち、$\deg g=[R(\alpha):R]\le[C:R]=2$ だからである(拡大次数)。(b) 任意の $a\in R$ について、$w^2=a$ となる $w=x+yi\in C$($x,y\in R$)をとると $x^2-y^2=a$、$2xy=0$ である。$R$ の標数は $2$ でない(標数 $2$ なら $x^2+1=(x+1)^2$ は既約でなく $C$ は体でない)ので $x=0$ または $y=0$ であり、$a=-y^2$ または $a=x^2$ である。(c) $a,b\in R$ について、$(c+di)^2=a+bi$ となる $c,d\in R$ をとると $c^2-d^2=a$、$2cd=b$ なので $a^2+b^2=(c^2-d^2)^2+4c^2d^2=(c^2+d^2)^2$ である。帰納的に、平方の和は平方である。(d) $-1$ は平方でないので、(c) により平方の和でもなく、$R$ は実体である。すると (b) と (c) は lem-real-closed-field-squares の 1・2 と同じ主張なので、1 ⇒ 2 の前半と同じ議論で、正の元が平方であるような順序が入る。(e) 奇数次の多項式 $f$ の既約因子は (a) により 1 次か 2 次であり、次数の和が奇数なので 1 次の因子があり、$f$ は $R$ に根をもつ。
2 ⇒ 1。$R$ は順序体なので実体である。$L$ を $R$ の真の代数拡大とし、$\alpha\in L\setminus R$ をとり、その $R$ 上の最小多項式を $h$ とする($\deg h\ge2$)。2 ⇒ 3 により $C=R(i)$ は代数閉体なので $h$ は根 $\beta\in C$ をもち、$R(\alpha)\cong R[x]/(h)\cong R(\beta)\subset C$ である。$[R(\beta):R]=\deg h\ge2=[C:R]$ なので $R(\beta)=C$ であり、$R(\alpha)$、したがって $L$ は平方が $-1$ になる元を含む。よって $L$ は実体でない。したがって $R$ は実閉体である。$\square$
$R$ を実閉体とする。$R$ を順序体にする順序はただ 1 つであり、その正の元の全体は $0$ でない平方の全体と一致する。正の元 $a$ は正の平方根 $\sqrt a$ をただ 1 つもつ。
存在は thm-real-closed-field-equivalent の 1 ⇒ 2 による。$\le'$ を $R$ を順序体にする任意の順序とする。定義の節で見たように、$x\neq0$ なら $x^2>'0$ である。lem-real-closed-field-squares の 1 により、$0$ でない元 $a$ は $0$ でない平方 $x^2$ か、その符号を変えた $-x^2<'0$ である。よって $\le'$ の正の元は $0$ でない平方の全体であり、順序は $a\le'b\iff b-a$ が正または $0$、によって正の元の全体から決まるので、順序はただ 1 つである。$a=x^2>0$ なら、$y^2=a$ の解は $(y-x)(y+x)=0$ から $y=\pm x$ だけであり、そのちょうど一方が正である。$\square$
したがって thm-real-closed-field-equivalent の 2 の順序は、実閉体の上に付け加える構造ではなく、体の構造から「$a\ge0\iff a$ は平方」として決まる。
$\mathbb{R}$ は実閉体である。$\mathbb{R}$ の通常の順序で正の数は平方根をもち、奇数次の実係数多項式は実数の根をもつ(代数学の基本定理 の記事の補題「実数と複素数についての 2 つの事実」の 1。中間値の定理による)ので、thm-real-closed-field-equivalent の 2 が成り立つ。同じ定理の 3 は、$\mathbb{C}=\mathbb{R}(i)$ が代数閉体であるという代数学の基本定理そのものである。
$\overline{\mathbb{Q}}\subset\mathbb{C}$ を代数的数全体のなす体とし、$A:=\overline{\mathbb{Q}}\cap\mathbb{R}$(実数である代数的数の全体)とおく。$A$ は実閉体である。
thm-real-closed-field-equivalent の 3 を確かめる。$A\subset\mathbb{R}$ なので $-1$ は $A$ の平方でない。$\overline{\mathbb{Q}}$ は代数閉体である(代数閉体 の記事の例「代数的数全体のなす体」)。$z\in\overline{\mathbb{Q}}$ が有理数係数の多項式 $g$ の根なら、複素共役 $\bar z$ も $g(\bar z)=\overline{g(z)}=0$ により $g$ の根なので $\bar z\in\overline{\mathbb{Q}}$ である。よって $z$ の実部 $(z+\bar z)/2$ と虚部 $(z-\bar z)/(2i)$ は $A$ に属し、$\overline{\mathbb{Q}}=A(i)$ である。$A(i)\cong A[x]/(x^2+1)$ なので条件 3 が成り立つ。
$\overline{\mathbb{Q}}$ は可算集合なので $A$ も可算であり、$A\neq\mathbb{R}$ である。したがって $A$ は $\mathbb{R}$ と異なる実閉体である。$A$ では上に有界な集合が上限をもつとは限らない。実際 $x_0\in\mathbb{R}\setminus A$ をとり、$S:=\{a\in A:a< x_0\}$ とおくと、$S$ は上に有界だが、$s\in A$ が $S$ の上限だとすると、$s< x_0$ なら $s< r< x_0$ となる有理数 $r\in S$ があって $s$ が上界であることに反し、$s>x_0$ なら $x_0< r< s$ となる有理数 $r$ が $s$ より小さい上界になって反する($\mathbb{Q}$ は $\mathbb{R}$ で稠密)。
$\mathbb{Q}$ は通常の順序で順序体であり、実体である。しかし正の元 $2$ は $\mathbb{Q}$ の平方でなく、奇数次の多項式 $x^3-2$ は $\mathbb{Q}$ に根をもたない($\sqrt[3]2$ は無理数である)。よって thm-real-closed-field-equivalent の 2 の 2 つの条件をどちらも満たさず、$\mathbb{Q}$ は実閉体でない。実際、真の代数拡大 $\mathbb{Q}(\sqrt2)\subset\mathbb{R}$ は実体である。
作図可能数(作図可能数)のうち実数であるもの全体を $K$ とする。$K$ は $\mathbb{R}$ の部分体で、正の元はすべて $K$ に平方根をもつ(作図可能数 の記事の命題「平方根で閉じた体」とその証明の (c))。しかし $x^3-2$ の実数の根は $\sqrt[3]2$ だけで、これは作図可能でない(同記事の例「反例:古典的な 3 つの作図問題」の 1)ので、$x^3-2$ は $K$ に根をもたない。この体は thm-real-closed-field-equivalent の 2 のうち「正の元は平方」を満たし「奇数次の多項式は根をもつ」を満たさないので、実閉体でない。「正の元がすべて平方なら奇数次の多項式は根をもつ」という含意を破る例であり、2 の後半の条件は前半から従わない。
実数係数の有理関数体 $\mathbb{R}(t)$ は実体である。実際 $-1=\sum_jf_j(t)^2$ とすると、分母を払って $-g(t)^2=\sum_jh_j(t)^2$($g\neq0$、$g,h_j\in\mathbb{R}[t]$)となり、$g(c)\neq0$ となる実数 $c$ を代入すると左辺は負、右辺は $0$ 以上で矛盾する。一方 $t$ も $-t$ も $\mathbb{R}(t)$ の平方でない。$\pm t=(p/q)^2$ なら $\pm tq^2=p^2$ となるが、左辺の次数は奇数、右辺の次数は偶数だからである。よって lem-real-closed-field-squares の 1 により $\mathbb{R}(t)$ は実閉体でない。実際、真の代数拡大 $\mathbb{R}(t)(\sqrt t)$ は $s=\sqrt t$ の有理関数体 $\mathbb{R}(s)$ と同型で、やはり実体である。この例は「実体である」を満たし、「真の代数拡大で実体のものがない」を満たさない。
$\mathbb{C}$ では $-1=i^2$ であり、標数 $p>0$ の体では $-1$ は $1^2$ の $p-1$ 個の和なので、これらは実体でなく、したがって実閉体でも順序体でもない。特に有限体と代数閉体は実閉体でない(代数閉体では $-1$ が平方である)。実閉体 $R$ に対する $R(i)$ は代数閉体であって実閉体ではなく、実閉体と代数閉体は $[R(i):R]=2$ だけ離れている。
$R$ を実閉体、$f\in R[x]$、$a< b$ とし、$f(a)<0< f(b)$ または $f(a)>0>f(b)$ とする。このとき $a< c< b$ かつ $f(c)=0$ を満たす $c\in R$ が存在する。
$R$ 上の既約多項式は、1 次式か、判別式が負の 2 次式 $x^2+\beta x+\gamma$($\beta^2-4\gamma<0$)の定数倍である。実際、prf-real-closed-field-equivalent の 3 ⇒ 2 の (a) により既約多項式の次数は $2$ 以下であり、$\beta^2-4\gamma\ge0$ なら $\beta^2-4\gamma$ は平方根 $\delta\in R$ をもち(cor-real-closed-field-order)、$(-\beta\pm\delta)/2$ が根になって既約でないからである。判別式が負なら、すべての $x\in R$ で
$$
x^2+\beta x+\gamma=\Bigl(x+\frac\beta2\Bigr)^2+\frac{4\gamma-\beta^2}4>0
$$
である。$R[x]$ は一意分解整域なので、$f=u\prod_{j}(x-r_j)\prod_kq_k(x)$($u\in R$、$u\neq0$、$r_j\in R$、$q_k$ は判別式が負のモニックな 2 次式)と書ける。$f(a),f(b)\neq0$ なので $r_j\neq a,b$ である。$a< r_j< b$ となる $r_j$ がないとすると、各 $j$ で $r_j< a$ か $r_j>b$ であり、$a-r_j$ と $b-r_j$ の符号は一致する。$q_k(a),q_k(b)>0$ なので、$f(a)$ と $f(b)$ の符号も一致し、仮定に反する。よって $a< r_j< b$ となる根 $c=r_j$ がある。$\square$
$\mathbb{R}$ ではこれは中間値の定理の特別な場合だが、一般の実閉体では多項式に限った主張であり、$\mathbb{R}$ と(順序体として)同型でない実閉体では連続関数については成り立たない。たとえば ex-real-closed-field-algebraic-numbers の $A$ と $x_0\in\mathbb{R}\setminus A$ について、$x< x_0$ で $-1$、$x>x_0$ で $1$ をとる関数 $A\to A$ は、各点の近くで定数なので順序位相について連続(連続写像)だが、零点をもたない。
$R,R'$ を実閉体、$\sigma\colon R\to R'$ を体の準同型(環準同型)とする。
実閉体であるという仮定は 1 で本質的に使われている。$\mathbb{Q}(\sqrt2)$ は $\mathbb{R}$ の部分体として順序体だが、自己同型 $\sqrt2\mapsto-\sqrt2$ は正の元 $\sqrt2$ を負の元に送るので順序を保たない。$\mathbb{Q}(\sqrt2)$ では $\sqrt2$ は平方でないので、順序が体の構造から決まらないのである。
実閉体は、順序体を代数的に「閉じる」ことで得られる。また、代数閉包との次数が有限であるという性質で特徴づけられる。
順序体の言語 $\{+,-,\cdot,0,1,<\}$ で、順序体の公理と thm-real-closed-field-equivalent の 2 の条件(正の元は平方、各奇数 $n$ について $n$ 次多項式は根をもつ)を並べた理論を実閉体の理論という。Tarski は、この理論が量化記号消去をもち、完全であることを示した(Mar02 Chapter 3)。その帰結として、この言語の 1 階の文が $\mathbb{R}$ で成り立つことと、ある(したがってすべての)実閉体で成り立つことは同値であり、実数についての多項式の不等式の問題は原理的に機械的に判定できる。幾何学的には、多項式の等式と不等式で定まる集合(半代数的集合)の射影がまた半代数的集合になるという Tarski–Seidenberg の定理にあたる。
また Artin は、実閉体 $R$ 上の多項式 $f\in R[x_1,\dots,x_n]$ が $R^n$ のすべての点で $0$ 以上の値をとるなら、$f$ は有理関数体 $R(x_1,\dots,x_n)$ の元の平方の和であることを示し、Hilbert の第 17 問題を解決した(Lan02 Chapter XI §3)。その証明で実閉体と実閉包が本質的に使われる。
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