Harnackの不等式(Harnack's inequality)とは、連結な開集合 $\Omega\subset\mathbb{R}^n$ のコンパクト集合 $K$ ごとに定数 $C\ge1$ があり、$\Omega$ 上の負にならない調和関数 $u$ がすべて $\sup_Ku\le C\inf_Ku$ を満たすという定理である。$C$ は $\Omega$ と $K$ だけで決まり $u$ によらない。平均値の性質から球の上の評価 $\sup\le2^n\inf$ を示し、球を鎖でつないで証明できる。帰結として、全空間で下に有界な調和関数は定数であること、調和関数の単調増加列は 1 点で有界なら広義一様に収束すること(Harnack の原理)が得られる。
Harnackの不等式(Harnack's inequality)とは、連結な開集合 $\Omega\subset\mathbb{R}^n$ の中のコンパクト集合 $K$ ごとに定数 $C\ge1$ があって、$\Omega$ 上の 負にならない 調和関数 $u$ がすべて
$$
\sup_Ku\le C\inf_Ku
$$
を満たす、という定理である。定数 $C$ は $\Omega$ と $K$ だけで決まり、$u$ にはよらない。つまり、負にならない調和関数は、境界から離れた所では「どこでもほぼ同じ大きさ」であり、ある点で小さければ $K$ 全体で小さく、ある点で大きければ $K$ 全体で大きい。
調和関数一般にはこのような評価はない。$u(x)=x_1$ は $0$ をまたいで符号を変えるので、最大値と最小値の比は意味をもたない。負にならないという一方向の制限を付けただけで、値の比が一様に抑えられることがこの定理の要点である。熱の分布で言えば、温度が負にならない定常状態では、内部のある点が冷たければ近くも冷たい。
この記事では、平均値の性質だけを使って $\sup\le2^n\inf$ という球の上の評価を示し、そこから一般の連結開集合での Harnack の不等式を証明する。続いて Poisson 核を使った最良の評価、全空間で下に有界な調和関数が定数であること(Liouville の定理の強い形)、単調増加列の収束定理(Harnack の原理)を導く。これらは Dirichlet問題 を解く Perron の方法や、調和関数の列の収束を調べるときの基本的な道具である。
以下、$n\ge2$ とし、$\Omega$ は $\mathbb{R}^n$ の空でない開集合とする($n=1$ の場合は例で触れる)。$|x|$ は Euclid ノルム、$B(a,r):=\{x\mid|x-a|< r\}$ は開球、$\overline B(a,r)$ は閉球、$V(B)$ は単位球 $B(0,1)$ の体積であり、$B(a,r)$ の体積は $V(B)r^n$ である。
$\Omega$ 上の実数値関数 $u$ が 調和 であるとは、$u$ が $\Omega$ 上 $C^2$ 級で
$$
\Delta u:=\frac{\partial^2u}{\partial x_1^2}+\dots+\frac{\partial^2u}{\partial x_n^2}=0
$$
が $\Omega$ の各点で成り立つことをいう。$\Omega$ の各点で $u\ge0$ となる調和関数を 負にならない調和関数、各点で $u>0$ となるものを 正の調和関数 という。
この記事で使う調和関数の性質は、調和関数 の記事の定理「平均値の性質」の球上の平均の形だけである:$u$ が $\Omega$ 上で調和で $\overline B(a,r)\subset\Omega$ なら
$$
u(a)=\frac{1}{V(B)r^n}\int_{B(a,r)}u\,dV
$$
が成り立つ。最良の評価の節では、これに加えて球の Poisson 積分の公式(Green関数 の記事の系「球の Poisson 積分の公式」)を使う。
$\Omega\subset\mathbb{R}^n$ を連結な開集合とし、$K\subset\Omega$ を空でないコンパクト集合とする。このとき、定数 $C\ge1$ があって、$\Omega$ 上の負にならない調和関数 $u$ がすべて
$$
u(x)\le C\,u(y)\qquad(x,y\in K)
$$
を満たす。特に $\sup_Ku\le C\inf_Ku$ である。定数 $C$ は $\Omega$ と $K$ だけで決まる。
この定理の要点は、定数 $C$ が $\Omega$ と $K$ だけで決まり、調和関数 $u$ によらないことである。個々の $u>0$ について $K$ 上で比 $u(x)/u(y)$ が有界になることは連続性からすぐわかるが、すべての $u$ に共通の定数が取れることは自明ではない。「負にならない」という仮定は外せない。たとえば $u(x)=x_1$ は調和だが、$K$ が $x_1=0$ の点と $x_1>0$ の点を含めば $u(x)\le Cu(y)$ は成り立たない。連結性も必要で、$\Omega$ が非連結なら成分ごとに別の正の定数倍を取れるので、成分をまたぐ $K$ では共通の $C$ は存在しない。
$u(x)\le Cu(y)$ を $x$ と $y$ を入れ替えて使うと $C^{-1}u(y)\le u(x)$ も成り立つので、正の調和関数については
$$
\frac1C\le\frac{u(x)}{u(y)}\le C\qquad(x,y\in K)
$$
と言ってもよい。定数 $C$ の大きさは $K$ が $\Omega$ の境界にどれだけ近いかで決まり、$K$ が境界に近づくと $C$ はいくらでも大きくなりうる(下の反例の表の 3 行目)。
証明の筋は次のとおりである。まず平均値の性質から、1 つの球の中では $\sup\le2^n\inf$ が成り立つことを示す(lem-harnack-ball)。次に、$K$ を有限個の小さな球でおおい、連結性を使って球どうしを鎖でつなぐ。1 つの球の中の比較を鎖に沿って有限回つなげば、$K$ 全体の比較が得られる。
$u$ を $\Omega$ 上の負にならない調和関数とし、$B(a,R)\subset\Omega$ とする。$x\in B(a,R)$、$r:=|x-a|$ とおく。
3 の定数 $2^n$ は、球の中心 $a$ と半径 $R$ によらない。どんな大きさの球でも、半径を $4$ 分の $1$ に縮めた球の上では同じ定数で比較できる。これを 尺度によらない(scale invariant)評価という。1 と 2 は、中心から離れるほど比の上限が大きくなることを量的に述べている。
この補題からすぐに、負にならない調和関数は $0$ になるなら恒等的に $0$ であることが分かる(強い最小値原理)。
$\Omega$ を連結な開集合とし、$u$ を $\Omega$ 上の負にならない調和関数とする。$u$ が $\Omega$ のどこかで $0$ になるなら、$\Omega$ 上で $u\equiv0$ である。すなわち、$u\equiv0$ でなければ $u$ は正の調和関数である。
$Z:=\{x\in\Omega\mid u(x)=0\}$ とおく。$u$ は連続なので $Z$ は $\Omega$ の閉集合である。$y\in Z$ とし、$B(y,R)\subset\Omega$ となる $R>0$ をとる。$x\in B(y,R/4)$ なら lem-harnack-ball の 3($a=y$)により $0\le u(x)\le2^nu(y)=0$ なので $x\in Z$ である。よって $Z$ は開集合でもある。$\Omega$ は連結なので $Z=\emptyset$ または $Z=\Omega$ である。$\square$
これは 調和関数 の記事の定理「最大値原理」を $-u$ に当てはめても得られるが、上の証明は Harnack の評価の使い方の最も簡単な例になっている。
cor-harnack-positivity により、$\Omega$ 上の負にならない調和関数は $u\equiv0$ か正の調和関数である。$u\equiv0$ なら主張は明らかなので、正の調和関数について示せばよい。$\Omega$ 上の正の調和関数全体を $\mathcal P$ と書く(定数 $1$ が属するので空でない)。
段 1(2 点の比較). $x,y\in\Omega$ に対し
$$
s(x,y):=\sup\Bigl\{\frac{u(y)}{u(x)}\Bigm|u\in\mathcal P\Bigr\}\in[1,\infty]
$$
とおく。$s(x,y)$ がつねに有限であることを示す。$x\in\Omega$ を固定し、$E:=\{y\in\Omega\mid s(x,y)<\infty\}$ とおく。$s(x,x)=1$ なので $x\in E$ である。
段 2(コンパクト性). 各 $a\in K$ について $B(a,R_a)\subset\Omega$ となる $R_a>0$ をとる。開球 $B(a,R_a/4)$($a\in K$)は $K$ をおおうので、コンパクト性から有限個 $B(a_1,R_1/4),\dots,B(a_m,R_m/4)$ で $K$ がおおえる。
$$
C:=4^n\max_{1\le i,j\le m}s(a_j,a_i)
$$
とおく。段 1 により $C<\infty$ であり、$s\ge1$ なので $C\ge1$ である。$x,y\in K$ とし、$x\in B(a_i,R_i/4)$、$y\in B(a_j,R_j/4)$ とする。$u\in\mathcal P$ について、lem-harnack-ball の 3 を球 $B(a_i,R_i)$ と球 $B(a_j,R_j)$ で使い、途中で $s$ の定義を使うと
$$
u(x)\le2^nu(a_i)\le2^ns(a_j,a_i)\,u(a_j)\le4^ns(a_j,a_i)\,u(y)\le C\,u(y)
$$
となる。$C$ は $a_1,\dots,a_m$ と $R_1,\dots,R_m$、すなわち $\Omega$ と $K$ から決まり、$u$ によらない。$\square$
段 1 の関数 $s(x,y)$ は、$x$ での値を知ったときに $y$ での値がどこまで大きくなりうるかの上限である。段 1 は「有限の鎖でつなげる点の集合は開かつ閉」という連結性の典型的な使い方で、段 2 は有限個の球で $K$ をおおうことで点ごとの有限性を一様な定数に変えている。$K$ を 1 つの鎖の球でおおって隣り合う球の比較を順につなぐと考えてもよい(ABR20 Theorem 3.6 とその後の図 3.7、pp. 48–49 の証明もこの形である)。
球の上では、平均値の性質の代わりに Poisson 積分の公式を使うと、最良の定数が得られる。
$u$ を $B(a,R)$ 上の負にならない調和関数とする。$x\in B(a,R)$、$r:=|x-a|$ について
$$
\frac{R^{n-2}(R-r)}{(R+r)^{n-1}}\,u(a)\le u(x)\le\frac{R^{n-2}(R+r)}{(R-r)^{n-1}}\,u(a)
$$
が成り立つ。
$r<\rho< R$ となる $\rho$ をとる。$u$ は $\overline B(a,\rho)$ を含む開集合 $B(a,R)$ 上で調和なので、Green関数 の記事の系「球の Poisson 積分の公式」により
$$
u(x)=\int_{\partial B(a,\rho)}\frac{\rho^2-r^2}{nV(B)\,\rho\,|x-y|^n}\,u(y)\,dS(y)
$$
である($dS$ は球面の表面積測度)。$y\in\partial B(a,\rho)$ なら三角不等式から $\rho-r\le|x-y|\le\rho+r$ である。$u\ge0$ なので、分母の $|x-y|^n$ を $(\rho-r)^n$ に置き換えると積分は小さくならず、$(\rho+r)^n$ に置き換えると大きくならない。また平均値の性質(球面の形)と球面の面積 $nV(B)\rho^{n-1}$ から $\int_{\partial B(a,\rho)}u\,dS=nV(B)\rho^{n-1}u(a)$ である。よって
$$
u(x)\le\frac{\rho^2-r^2}{nV(B)\,\rho\,(\rho-r)^n}\,nV(B)\rho^{n-1}u(a)=\frac{\rho^{n-2}(\rho+r)}{(\rho-r)^{n-1}}\,u(a)
$$
であり、同様に $u(x)\ge\rho^{n-2}(\rho-r)(\rho+r)^{-(n-1)}u(a)$ である。$\rho\to R$ とすればよい。$\square$
$a=0$、$R=1$ のとき、これは $\dfrac{1-|x|}{(1+|x|)^{n-1}}u(0)\le u(x)\le\dfrac{1+|x|}{(1-|x|)^{n-1}}u(0)$ となる(ABR20 Theorem 3.4、p. 47、DV25 Theorem 2.15.1、p. 378)。lem-harnack-ball の 1 の定数 $\bigl(R/(R-r)\bigr)^n$ と比べると、$R^{n-2}(R+r)/(R-r)^{n-1}=\bigl(R/(R-r)\bigr)^n\cdot(R^2-r^2)/R^2$ なので、Poisson 核による評価のほうが良い。定数は次の例で等号が成り立つという意味で最良である。
$\zeta\in\mathbb{R}^n$、$|\zeta|=R$ を固定し、
$$
P_\zeta(x):=\frac{R^2-|x|^2}{|x-\zeta|^n}\qquad(x\in B(0,R))
$$
とおく。$P_\zeta$ は $B(0,R)$ 上の正の調和関数で、$P_\zeta(0)=R^{2-n}$ である。$0\le r< R$ について、$\zeta$ の方向の点 $x=(r/R)\zeta$ では $|x-\zeta|=R-r$ なので
$$
P_\zeta(x)=\frac{R^2-r^2}{(R-r)^n}=\frac{R+r}{(R-r)^{n-1}}=\frac{R^{n-2}(R+r)}{(R-r)^{n-1}}\,P_\zeta(0)
$$
となり、thm-harnack-ball-sharp の上からの評価で等号が成り立つ。反対の方向の点 $x=-(r/R)\zeta$ では $|x-\zeta|=R+r$ で、下からの評価で等号が成り立つ。
$w:=x-\zeta$ とおくと $|\zeta|^2=R^2$ から $R^2-|x|^2=R^2-|w+\zeta|^2=-|w|^2-2\,w\cdot\zeta$ なので $P_\zeta=-|w|^{2-n}-2(w\cdot\zeta)|w|^{-n}$ である。$\partial_i|w|^t=t\,w_i|w|^{t-2}$ から $\Delta|w|^t=t(t+n-2)|w|^{t-2}$ であり(調和関数 の記事の例「基本解の形の関数」)、$t=2-n$ で $0$ になる。$n\ge3$ なら $(w\cdot\zeta)|w|^{-n}=-\frac{1}{n-2}\sum_i\zeta_i\,\partial_i|w|^{2-n}$ であり、調和関数の偏導関数は調和($\Delta$ と $\partial_i$ は交換する)なのでこれも調和である。$n=2$ なら $|w|^0=1$ は調和で、$(w\cdot\zeta)|w|^{-2}=\sum_i\zeta_i\,\partial_i\log|w|$ は調和関数 $\log|w|$ の偏導関数の和なので調和である。よって $P_\zeta$ は $\mathbb{R}^n\setminus\{\zeta\}$ 上で調和である。$|x|< R$ で分子が正なので $P_\zeta>0$ である。
この例は、$u(x)/u(0)$ が $x\to\zeta$ で限りなく大きくなりうることも示している。$K$ が境界に近づくと Harnack の定数が大きくなるのは避けられない。
$n=1$ では調和関数は 1 次関数 $u(x)=px+q$ である。開区間 $\Omega=(0,2)$ 上で負にならない 1 次関数は、端点での極限 $u(0^+)=q$ と $u(2^-)=2p+q$ がともに $0$ 以上のものである。$K=[1/2,3/2]$ とすると、$K$ の各点の値は $u(1/2)=\tfrac34u(0^+)+\tfrac14u(2^-)$ と $u(3/2)=\tfrac14u(0^+)+\tfrac34u(2^-)$ の間にある。$A:=u(0^+)\ge0$、$B:=u(2^-)\ge0$ とおくと $3A+B\le3(A+3B)$ と $A+3B\le3(3A+B)$ が成り立つので、$\max_Ku\le3\min_Ku$ である。$u(x)=x$ では $\max_Ku/\min_Ku=3$ となるので、この $K$ の最良の定数は $3$ である。$K=[\varepsilon,2-\varepsilon]$ とすると、$u(x)=x$ の比は $(2-\varepsilon)/\varepsilon$ となり、$\varepsilon\to0$ で限りなく大きくなる。
$n=2$ で $\mathbb{R}^2$ を複素平面 $\mathbb{C}$ とみる。単位円板 $\mathbb{D}=B(0,1)$ 上で
$$
u(z):=\operatorname{Re}\frac{1+z}{1-z}=\frac{1-|z|^2}{|1-z|^2}
$$
は ex-harnack-poisson-kernel の $P_\zeta$($R=1$、$\zeta=1$)であり、正の調和関数である(正則関数の実部としても調和)。$|z|\le r<1$ の範囲では、$z=r$ で最大値 $(1+r)/(1-r)$、$z=-r$ で最小値 $(1-r)/(1+r)$ をとる。したがって $K=\overline B(0,r)$ の最良の Harnack 定数は少なくとも $\bigl((1+r)/(1-r)\bigr)^2$ であり、thm-harnack-ball-sharp から $\max_Ku\le\frac{1+r}{1-r}u(0)$、$\min_Ku\ge\frac{1-r}{1+r}u(0)$ なので、ちょうど $\bigl((1+r)/(1-r)\bigr)^2$ である。$r=1/4$ なら $(5/3)^2\approx2.78$ で、lem-harnack-ball の 3 の定数 $2^2=4$ より小さい。
$n\ge3$ とし、$\Omega:=\mathbb{R}^n\setminus\{0\}$、$u(x):=|x|^{2-n}$ とする。$u$ は $\Omega$ 上の正の調和関数である(調和関数 の記事の例「基本解の形の関数」)。$\Omega$ は連結で、$K:=\{x\mid1\le|x|\le2\}$ はコンパクトである。$K$ 上で $u$ は $|x|=1$ で最大値 $1$、$|x|=2$ で最小値 $2^{2-n}$ をとるので、$K$ の Harnack 定数は少なくとも $2^{n-2}$ である。定理は定数の存在だけを主張し、その値は一般には具体的に分からない。
調和関数 の記事の定理「Liouvilleの定理(調和関数)」は、$\mathbb{R}^n$ 全体で調和で 有界 な関数は定数であることを述べる。Harnack の評価を使うと、片側だけの有界性で足りることが分かる。
$u$ が $\mathbb{R}^n$ 全体で調和で、下に有界(ある定数 $M$ について $u\ge-M$)なら、$u$ は定数である。上に有界な場合も同じである。
$v:=u+M$ は $\mathbb{R}^n$ 上の負にならない調和関数である。$x,y\in\mathbb{R}^n$ を固定し、$R>|x-y|$ とする。$B(x,R)\subset\mathbb{R}^n$ なので、lem-harnack-ball の 1($a=x$)により
$$
v(y)\le\Bigl(\frac{R}{R-|x-y|}\Bigr)^nv(x)
$$
である。$R\to\infty$ とすると右辺の係数は $1$ に近づくので $v(y)\le v(x)$ である。$x$ と $y$ を入れ替えれば $v(x)\le v(y)$ なので $v(x)=v(y)$ であり、$u$ は定数である。上に有界な場合は $-u$ に当てはめればよい。$\square$
$\mathbb{R}^n$ 全体という仮定は外せない。ex-harnack-annulus の $|x|^{2-n}$ は $\mathbb{R}^n\setminus\{0\}$($n\ge3$)上の正の調和関数で、定数ではない(ABR20 Theorem 3.1 と p. 47 の注意)。
調和関数の単調な列は、1 点で有界なら全体で広義一様に収束する。連続関数の単調列一般にはこのようなことは起こらない(各点では収束しても一様には収束しないことがある)ので、これは調和関数に特有の性質である。
$\Omega$ を連結な開集合とし、$u_1\le u_2\le\cdots$ を $\Omega$ 上の調和関数の単調増加列とする。このとき次のどちらか一方が成り立つ。
$m>k$ なら $u_m-u_k$ は $\Omega$ 上の負にならない調和関数である。
ある点 $y\in\Omega$ で $u_m(y)\to+\infty$ とする。任意の $x\in\Omega$ について、コンパクト集合 $\{x,y\}$ に thm-harnack-main を使うと、定数 $C$ があって $u_m(y)-u_1(y)\le C\bigl(u_m(x)-u_1(x)\bigr)$ がすべての $m$ で成り立つ。左辺は $+\infty$ に発散するので $u_m(x)\to+\infty$ であり、1 が成り立つ。
そうでなければ、ある点 $y$ で $(u_m(y))$ は上に有界な単調増加列なので収束する。$K\subset\Omega$ をコンパクト集合とし、$K':=K\cup\{y\}$ に thm-harnack-main を使って定数 $C$ をとる。$m>k$ と $x\in K$ について
$$
0\le u_m(x)-u_k(x)\le C\bigl(u_m(y)-u_k(y)\bigr)
$$
であり、右辺は $x$ によらず、$k,m\to\infty$ で $0$ に近づく。よって $(u_m)$ は $K$ 上で一様 Cauchy 列であり、一様に収束する。$K$ は任意なので、$(u_m)$ は各コンパクト集合上で一様に極限 $u$ に収束し、調和関数 の記事の系「局所一様収束極限」により $u$ は調和である。$\square$
ABR20 Theorem 3.8(pp. 49–50)、DV25 Corollary 2.15.4(p. 383)も同じ内容である。Harnack の原理は、Dirichlet問題 を解く Perron の方法で、劣調和関数の族の上限が調和であることを示すときに使われる。
| 外す条件 | 反例 | 成り立たなくなること |
|---|---|---|
| $u\ge0$ | $\Omega=B(0,1)$、$u(x)=x_1$、$K=\overline B(0,1/2)$ | $\sup_Ku\le C\inf_Ku$($\inf_Ku<0<\sup_Ku$) |
| $\Omega$ が連結 | $\Omega=B(-3e_1,1)\cup B(3e_1,1)$、$u=1$ と $u=\varepsilon$、$K=\{-3e_1,3e_1\}$ | $u$ によらない定数 $C$ の存在 |
| $K$ がコンパクト | $\Omega=K=B(0,1)$、$u=P_\zeta$($R=1$) | $\sup_Ku<\infty$ と $\sup_Ku\le C\inf_Ku$ |
| $u$ が調和 | $\Omega=B(0,1)$、$u(x)=\lvert x\rvert^2$、$K=\overline B(0,1/2)$ | $\sup_Ku\le C\inf_Ku$($\inf_Ku=0$) |
| 全空間 $\mathbb{R}^n$(Liouville) | $\mathbb{R}^n\setminus\{0\}$ 上の $\lvert x\rvert^{2-n}$($n\ge3$) | 下に有界な調和関数が定数であること |
1 行目:$x_1$ は $\Delta x_1=0$ なので調和で、$K$ 上で $-1/2$ から $1/2$ までの値をとる。満たす性質は「$\Omega$ が連結、$K$ がコンパクト、$u$ が調和」、満たさない性質は「$u\ge0$」で、$C\ge1$ に対して $\sup_Ku=1/2>0>C\inf_Ku$ となり結論が破れる。
2 行目:$\Omega$ は交わらない 2 つの開球の和で連結でない。各開球の上で定数である関数は $\Omega$ 上の正の調和関数である。$u(3e_1)/u(-3e_1)=\varepsilon$ は $\varepsilon\to0$ でいくらでも小さくなるので、$u$ によらない定数 $C$ で $u(-3e_1)\le Cu(3e_1)$ とすることはできない。満たさない性質は「$\Omega$ が連結」である。
3 行目:$K=B(0,1)$ は $\Omega$ の部分集合だがコンパクトでない。ex-harnack-poisson-kernel の $P_\zeta$ は正の調和関数で、$x=r\zeta\to\zeta$ のとき $P_\zeta(x)=(1+r)/(1-r)^{n-1}\to\infty$ なので $\sup_KP_\zeta=\infty$ であり、有限の $C$ で $\sup_K\le C\inf_K$ とすることはできない。
4 行目:$\Delta|x|^2=2n>0$ なので $|x|^2$ は調和でない(劣調和である)。$u\ge0$ で、$\inf_Ku=u(0)=0$、$\sup_Ku=1/4$ なので、どんな $C$ でも $\sup_Ku\le C\inf_Ku$ は成り立たない。零点が孤立しているので cor-harnack-positivity の結論も破れる。満たさない性質は「$u$ が調和」である。なお、平均値の性質の不等式版(劣調和なら中心の値は平均以下)だけでは、lem-harnack-ball の 2 の下からの評価が出ないことがこの例から分かる。
5 行目:ex-harnack-annulus のとおり $|x|^{2-n}$ は正で調和だが定数でない。定義域 $\mathbb{R}^n\setminus\{0\}$ が $\mathbb{R}^n$ でないので、thm-harnack-liouville の証明で $R\to\infty$ とする球がとれない。
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