格子点の正多角形(regular lattice polygons)とは、座標平面の格子点(2 つの座標がともに整数の点)だけを頂点とする正多角形である。この正 $n$ 角形($n\ge3$)は正方形しかない。正三角形は、面積が靴ひも公式では有理数になり、1 辺の長さの 2 乗 $s^2$(正の整数)を使うと $\frac{\sqrt3}4s^2$ で無理数になるので存在しない。正六角形は 1 つおきの頂点が正三角形をなすので存在しない。正五角形と $n\ge7$ の正 $n$ 角形は、各頂点に次の辺のベクトルを足すと 1 辺が $\lvert2\cos\frac{360^\circ}n-1\rvert$ 倍($1$ より小さい)の格子正 $n$ 角形ができるので、無限降下法で否定される。三角格子では正三角形と正六角形が、空間の格子点では正三角形・正方形・正六角形が作れる。
前提知識: 靴ひも公式, 数学的帰納法と整列性, 実数とは何か:無理数の証明, 回転・鏡映と行列の群
方眼紙の交点だけを頂点に使って、正多角形を描いてみる。座標平面でいえば、$x$ 座標と $y$ 座標がともに整数の点だけを頂点にする。正方形なら、方眼に沿って描けばよい。方眼に対して傾いた正方形も描ける。では正三角形や正六角形はどうか。
格子点 (0,0)、(2,1)、(1,3)、(−1,2) を頂点とする、方眼に対して傾いた正方形
格子点 (0,0)、(4,1)、(1,4) の三角形は 2 辺の長さが √17 で、残りの 1 辺だけが √18 になる
図 2 の三角形は正三角形に近いが、正三角形ではない。どんなに探しても、格子点を頂点とする正三角形は見つからない。この記事で答える問いは次の 3 つである。
| 高校の計算 | この記事の言葉 | 大学の言葉 |
|---|---|---|
| 靴ひも公式で面積が $\dfrac12\times$ 整数 | 格子三角形の面積は有理数 | 格子の基本領域の体積 |
| $\sqrt3$ は無理数 | 格子正三角形はない | 数の体 $\mathbb{Q}(\sqrt3)$ と $\mathbb{Q}$ の違い |
| 辺のベクトルを平行移動して足す | 小さな格子正 $n$ 角形を作る | 無限降下法 |
| $2\cos\dfrac{360^\circ}n-1$ の値 | 縮む比 | 回転行列のトレース $2\cos\theta$ から $1$ を引いた値 |
座標平面の点 $(x,y)$ で、$x$ と $y$ がともに整数であるものを 格子点 という。すべての頂点が格子点である正 $n$ 角形($n\ge3$)を 格子正 $n$ 角形 という。
格子点の差は成分が整数のベクトルで、格子点に成分が整数のベクトルを足すとまた格子点になる。以下、成分が整数のベクトルを 整数ベクトル とよぶ。整数ベクトル $(a,b)$ の長さの 2 乗 $a^2+b^2$ は $0$ 以上の整数で、$(a,b)\ne(0,0)$ なら正の整数である。
整数ベクトル $(a,b)\ne(0,0)$ と格子点 $A$ について、$A$、$A+(a,b)$、$A+(a-b,a+b)$、$A+(-b,a)$ は格子正方形の頂点である。逆に、どの格子正方形も、ある頂点 $A$ から出る辺のベクトルを $(a,b)$ とすると、この形に書ける(頂点を回る向きは反時計回りとする)。
原点のまわりの $90^\circ$ の回転は、ベクトル $(a,b)$ を $(-b,a)$ に移す(回転・鏡映と行列の群 の回転の行列 $\begin{pmatrix}0&-1\\ 1&0\end{pmatrix}$)。反時計回りの正方形 $ABCD$ では、$\overrightarrow{BC}$ は $\overrightarrow{AB}$ を $90^\circ$ 回したベクトルで、$\overrightarrow{AD}=\overrightarrow{BC}$ である。$\overrightarrow{AB}=(a,b)$ なら $\overrightarrow{BC}=\overrightarrow{AD}=(-b,a)$ で、
$$
B=A+(a,b),\qquad C=B+(-b,a)=A+(a-b,a+b),\qquad D=A+(-b,a)
$$
である。$a,b$ が整数なら 4 点とも格子点なので、前半が成り立つ。逆に格子正方形なら $\overrightarrow{AB}=B-A$ は整数ベクトルなので、後半が成り立つ。$\square$
ex-lrp-start (2) で見たように、格子三角形の面積は $\dfrac12\times$ 整数になる。一方、正三角形の面積には $\sqrt3$ が入る。この食い違いを使う。
格子点を頂点とする正三角形はない。
方針:格子正三角形があると仮定し、面積を靴ひも公式と正三角形の面積の公式の 2 通りで求めて、$\sqrt3$ が有理数になるという矛盾を導く。
段 1(靴ひも公式)。格子正三角形 $ABC$ があるとし、$\overrightarrow{AB}=(a,b)$、$\overrightarrow{AC}=(c,d)$ とおく。$A,B,C$ は格子点なので $a,b,c,d$ は整数である。靴ひも公式 により、三角形 $ABC$ の面積 $S$ は
$$
S=\frac12\lvert ad-bc\rvert
$$
である。$ad-bc$ は整数なので、$S$ は有理数である。$A,B,C$ は一直線上にないので $S>0$ である。
段 2(正三角形の面積)。1 辺の長さを $s$ とすると $s^2=a^2+b^2$ で、これは正の整数である。1 辺 $s$ の正三角形の高さは $\dfrac{\sqrt3}2s$ なので
$$
S=\frac12\cdot s\cdot\frac{\sqrt3}2s=\frac{\sqrt3}4s^2
$$
である。
段 3(矛盾)。段 1 と段 2 から $\dfrac{\sqrt3}4s^2=\dfrac12\lvert ad-bc\rvert$ で、$s^2>0$ なので
$$
\sqrt3=\frac{2\lvert ad-bc\rvert}{s^2}
$$
である。右辺は整数を正の整数で割ったものなので有理数である。しかし $\sqrt3$ は無理数である(実数とは何か:無理数の証明)。これは矛盾なので、格子正三角形はない。$\square$
ex-lrp-start (2) の三角形 $O(0,0)$、$P(4,1)$、$Q(1,4)$ では、$(a,b)=(4,1)$、$(c,d)=(1,4)$ で $ad-bc=16-1=15$、面積は $\dfrac{15}2$ である。もしこれが 1 辺の 2 乗 $s^2=17$ の正三角形なら、prf-lrp-triangle の段 3 の式から $\sqrt3=\dfrac{30}{17}=1.7647\cdots$ となるはずだが、$\sqrt3=1.7320\cdots$ である。辺 $PQ$ の 2 乗が $18$ で $17$ でないことが、ちょうどこのずれを生んでいる。
$\overrightarrow{AC}$ は $\overrightarrow{AB}$ を $60^\circ$ か $-60^\circ$ 回したベクトルである。$60^\circ$ の場合、回転の行列(回転・鏡映と行列の群)の成分 $\cos60^\circ=\dfrac12$、$\sin60^\circ=\dfrac{\sqrt3}2$ を使うと
$$\overrightarrow{AC}=\left(\frac12a-\frac{\sqrt3}2b,\ \frac{\sqrt3}2a+\frac12b\right)=\left(\frac{a-\sqrt3\,b}2,\ \frac{\sqrt3\,a+b}2\right)$$
である。これが整数ベクトル $(c,d)$ なら、$\sqrt3\,b=a-2c$ と $\sqrt3\,a=2d-b$ はどちらも整数である。$b\ne0$ なら $\sqrt3=\dfrac{a-2c}b$ が有理数になって矛盾するので $b=0$、同じく $a=0$ である。しかし $(a,b)\ne(0,0)$ なので矛盾する。$-60^\circ$ の場合も $\sqrt3$ の符号が変わるだけで同じである。
正六角形は、1 つおきの頂点を結ぶと正三角形になる。これで正六角形も片づく。
格子点を頂点とする正六角形はない。
正六角形 $P_1P_2P_3P_4P_5P_6$ の中心を $O$ とすると、$O$ のまわりの $120^\circ$ の回転は $P_1\to P_3\to P_5\to P_1$ と移す($60^\circ$ の回転で 1 つ先の頂点に移るので、$120^\circ$ で 2 つ先に移る)。回転は長さを変えないので、$P_1P_3=P_3P_5=P_5P_1$ で、三角形 $P_1P_3P_5$ は正三角形である。格子正六角形があれば、$P_1,P_3,P_5$ は格子点なので、格子正三角形ができて thm-lrp-triangle に反する。$\square$
正五角形や正七角形では、面積の議論はうまくいかない(面積の式に入る無理数の形が変わる)。代わりに、格子正 $n$ 角形から もっと小さい 格子正 $n$ 角形を作る方法を使う。
以下、正 $n$ 角形の頂点を反時計回りに $P_1,P_2,\dots,P_n$ とし、中心を $O$、$\theta=\dfrac{360^\circ}n$ とする。番号は $n$ ごとにくり返す($P_{n+1}=P_1$、$P_{n+2}=P_2$)。$O$ のまわりの角 $\theta$ の回転は、$P_k$ を $P_{k+1}$ に移す。
各 $k$ について、頂点 $P_k$ に、次の辺のベクトル $\overrightarrow{P_{k+1}P_{k+2}}$ を足した点を $Q_k$ とする:
$$
Q_k=P_k+\overrightarrow{P_{k+1}P_{k+2}}.
$$
このとき
$$
\overrightarrow{OQ_k}=(2\cos\theta-1)\,\overrightarrow{OP_{k+1}}
$$
である。したがって $2\cos\theta-1\ne0$ なら、$Q_1,Q_2,\dots,Q_n$ は中心 $O$ の正 $n$ 角形の頂点で、その 1 辺の長さはもとの正 $n$ 角形の 1 辺の長さの $\lvert2\cos\theta-1\rvert$ 倍である。
方針:中心から頂点へのベクトルについて、両隣の和がまん中の $2\cos\theta$ 倍になることを、回転の行列で示す。
段 1(両隣の和)。$\vec a_k=\overrightarrow{OP_k}$ とおく。角 $\theta$ の回転の行列を $R(\theta)$ とすると、$\vec a_{k+2}=R(\theta)\vec a_{k+1}$、$\vec a_k=R(-\theta)\vec a_{k+1}$ である($\vec a_{k+1}$ を $\theta$ 回すと $\vec a_{k+2}$、$-\theta$ 回すと $\vec a_k$)。
$$
R(\theta)+R(-\theta)=\begin{pmatrix}\cos\theta&-\sin\theta\\\sin\theta&\cos\theta\end{pmatrix}+\begin{pmatrix}\cos\theta&\sin\theta\\-\sin\theta&\cos\theta\end{pmatrix}=\begin{pmatrix}2\cos\theta&0\\ 0&2\cos\theta\end{pmatrix}
$$
なので
$$
\vec a_k+\vec a_{k+2}=\bigl(R(-\theta)+R(\theta)\bigr)\vec a_{k+1}=2\cos\theta\,\vec a_{k+1}
$$
である。
段 2($Q_k$ の位置)。$\overrightarrow{P_{k+1}P_{k+2}}=\vec a_{k+2}-\vec a_{k+1}$ なので
$$
\overrightarrow{OQ_k}=\vec a_k+\vec a_{k+2}-\vec a_{k+1}=2\cos\theta\,\vec a_{k+1}-\vec a_{k+1}=(2\cos\theta-1)\,\vec a_{k+1}
$$
である。
段 3(正 $n$ 角形になる)。$c=2\cos\theta-1\ne0$ とする。段 2 より、$Q_k$ は $P_{k+1}$ を、$O$ を中心に $c$ 倍に移した点である($c<0$ なら、$\lvert c\rvert$ 倍に縮めてから $O$ について点対称に移した点)。この移し方は、どの 2 点の距離も $\lvert c\rvert$ 倍にし、角の大きさを変えない。よって正 $n$ 角形 $P_2P_3\cdots P_nP_1$ は、正 $n$ 角形 $Q_1Q_2\cdots Q_n$ に移り、1 辺の長さは $\lvert c\rvert$ 倍になる。$\square$
$Q_k$ は、辺 $P_{k+1}P_{k+2}$ を、始点が $P_k$ にくるように平行移動したときの終点である。図 3・図 4 の青い矢印がこの平行移動した辺で、矢印の先が赤い小さな正多角形の頂点になる。
正五角形の各頂点から次の辺のベクトルを伸ばすと、矢印の先が、上下が逆になった(中心について点対称に移った)小さな正五角形をつくる
正七角形でも同じ操作で、矢印の先が小さな正七角形をつくる
| $n$ | $\theta$ | $c=2\cos\theta-1$ | $\lvert c\rvert$ と $1$ の大小 | 何が起こるか |
|---|---|---|---|---|
| $3$ | $120^\circ$ | $-2$ | 大きい | 2 倍に広がる |
| $4$ | $90^\circ$ | $-1$ | 等しい | 同じ正方形にもどる |
| $5$ | $72^\circ$ | $\dfrac{\sqrt5-3}2\approx-0.382$ | 小さい | 縮んで点対称に移る |
| $6$ | $60^\circ$ | $0$ | — | 全部が中心 $O$ に集まる |
| $7$ | $51.4\cdots^\circ$ | $\approx0.247$ | 小さい | 縮む |
| $8$ | $45^\circ$ | $\sqrt2-1\approx0.414$ | 小さい | 縮む |
lem-lrp-shrink の $Q_k$ は、格子点 $P_k$ に整数ベクトル $\overrightarrow{P_{k+1}P_{k+2}}$ を足した点なので、$P_1,\dots,P_n$ が格子点なら $Q_k$ も格子点である。つまり格子正 $n$ 角形から、比 $\lvert c\rvert$ の格子正 $n$ 角形が作れる。$\lvert c\rvert<1$ なら、いくらでも小さい格子正 $n$ 角形ができてしまう。
$n\ge3$ とする。格子正 $n$ 角形があるのは $n=4$ のときだけである。
方針:$n=4$ は prop-lrp-square で例がある。$n=3,6$ はすでに示した。$n=5$ と $n\ge7$ は、1 辺の長さの 2 乗が最小の格子正 $n$ 角形をとり、lem-lrp-shrink でもっと小さいものを作って矛盾を導く(無限降下法)。
段 1($n=3,4,6$)。$n=4$ では、たとえば $(0,0)$、$(1,0)$、$(1,1)$、$(0,1)$ が格子正方形である。$n=3$ は thm-lrp-triangle、$n=6$ は cor-lrp-hexagon により格子正 $n$ 角形はない。
段 2(最小のものをとる)。$n=5$ または $n\ge7$ とし、格子正 $n$ 角形があると仮定する。格子正 $n$ 角形の 1 辺の長さの 2 乗は、隣り合う 2 つの格子点の差の整数ベクトル $(a,b)\ne(0,0)$ の $a^2+b^2$ なので、正の整数である。正の整数の集まりには最小のものがある(数学的帰納法と整列性 の整列性)。そこで、1 辺の長さの 2 乗 $s^2$ が最小の格子正 $n$ 角形 $P_1P_2\cdots P_n$ をとる。
段 3(比 $c$ の範囲)。$\theta=\dfrac{360^\circ}n$、$c=2\cos\theta-1$ とする。$n=5$ なら $\theta=72^\circ$ で、$0<\cos72^\circ<\dfrac12$ から $-1< c<0$ である。$n\ge7$ なら $0^\circ<\theta<60^\circ$ で、$\dfrac12<\cos\theta<1$ から $0< c<1$ である。どちらの場合も $c\ne0$ かつ $\lvert c\rvert<1$ である。
段 4(小さい格子正 $n$ 角形)。lem-lrp-shrink の点 $Q_k=P_k+\overrightarrow{P_{k+1}P_{k+2}}$ は、格子点に整数ベクトルを足した点なので格子点である。段 3 より $c\ne0$ なので、lem-lrp-shrink により $Q_1Q_2\cdots Q_n$ は正 $n$ 角形で、格子正 $n$ 角形である。その 1 辺の長さの 2 乗は $c^2s^2$ で、$0< c^2<1$ から $0< c^2s^2< s^2$ である。
段 5(矛盾)。段 4 の格子正 $n$ 角形は、1 辺の長さの 2 乗が $s^2$ より小さい。これは段 2 の $s^2$ の最小性に反する。よって $n=5$ と $n\ge7$ では格子正 $n$ 角形はない。段 1 と合わせて、格子正 $n$ 角形があるのは $n=4$ のときだけである。$\square$
段 2 で「最小のもの」をとる代わりに、次のように言ってもよい。格子正五角形が 1 つあれば、lem-lrp-shrink をくり返して、1 辺の長さの 2 乗が $s^2>c^2s^2>c^4s^2>\cdots$ の格子正五角形が次々にできる。これらはどれも正の整数なので、正の整数が限りなく減り続けることになり、ありえない。これが Fermat の 無限降下法 である(数学的帰納法と整列性)。
(2) 正三角形では $c=-2$ で、作った正三角形は 1 辺が 2 倍になる。大きくなる向きなので、無限降下法は使えない。正三角形には thm-lrp-triangle の面積の議論が必要だった。
(3) 正六角形では $c=0$ で、6 つの $Q_k$ がすべて中心 $O$ に集まる。格子正六角形があれば中心 $O$ も格子点になるが、それだけでは矛盾しない。正六角形には cor-lrp-hexagon が必要だった。
thm-lrp-main は「座標がともに整数の点」という、正方形を並べた格子についての定理である。格子の形を変えたり、空間の格子点を使ったりすると、答えが変わる。
正多角形の敷き詰め の正三角形の敷き詰めの頂点、つまり $\vec u=(1,0)$、$\vec w=\left(\dfrac12,\dfrac{\sqrt3}2\right)$ を使って $m\vec u+n\vec w$($m,n$ は整数)と書ける点の全体を 三角格子 という。
(1) $60^\circ$ の回転で、$\vec u$ は $\vec w$ に、$\vec w$ は $\left(-\dfrac12,\dfrac{\sqrt3}2\right)=\vec w-\vec u$ に移る。よって $m\vec u+n\vec w$ は
$$
m\vec w+n(\vec w-\vec u)=-n\vec u+(m+n)\vec w
$$
に移り、係数はまた整数である。三角格子の 2 点を結ぶベクトルを $60^\circ$ 回してもまた三角格子の点を結ぶベクトルなので、正三角形はいくらでも描ける。たとえば $0$、$2\vec u+\vec w$、$-\vec u+3\vec w$ は、1 辺の長さの 2 乗が $2^2+2\cdot1+1^2=7$ の正三角形である($\lvert m\vec u+n\vec w\rvert^2=m^2+mn+n^2$)。1 辺 $1$ の正六角形も、中心 $4\vec u+\vec w$ のまわりの 6 点 $4\vec u$、$5\vec u$、$5\vec u+\vec w$、$4\vec u+2\vec w$、$3\vec u+2\vec w$、$3\vec u+\vec w$ としてとれる(図 5)。
(2) 一方、三角格子には正方形がない。三角格子の点を頂点とする三角形の面積は、thm-lrp-triangle と同じく $\vec u,\vec w$ を使った靴ひも公式で、$\dfrac{\sqrt3}4\times$ 整数になる($\vec u$ と $\vec w$ の作る平行四辺形の面積が $\dfrac{\sqrt3}2$ だから)。三角格子の正方形 $ABCD$ があれば、1 辺の長さの 2 乗 $s^2=m^2+mn+n^2$ は正の整数で、三角形 $ABD$ の面積は $\dfrac{s^2}2$ である。$\dfrac{s^2}2=\dfrac{\sqrt3}4k$($k$ は正の整数)から $\sqrt3=\dfrac{2s^2}k$ が有理数になり、矛盾する。
三角格子の点を頂点とする、1 辺の長さが √7 の正三角形(赤)と 1 辺 1 の正六角形(青)
正方形の格子と三角格子で、ちょうど役割が入れかわる。正方形の格子は $90^\circ$ の回転で自分に重なるが $60^\circ$ の回転では重ならず、三角格子はその逆である。
空間の点 $(x,y,z)$ で $x,y,z$ がすべて整数のものを、空間の格子点という。
(1) 3 点 $(1,0,0)$、$(0,1,0)$、$(0,0,1)$ は、どの 2 点の距離の 2 乗も $1+1=2$ なので、正三角形の頂点である(立方体の 3 つの面の対角線)。
(2) 座標が $0,1,2$ の並べかえになる 6 点を、$(2,0,1)$、$(2,1,0)$、$(1,2,0)$、$(0,2,1)$、$(0,1,2)$、$(1,0,2)$ の順にとる。隣り合う 2 点の差は $(0,1,-1)$ のように $1,-1,0$ の並べかえなので、6 辺の長さの 2 乗はどれも $2$ である。6 点はどれも平面 $x+y+z=3$ の上にあり、点 $(1,1,1)$ からの距離の 2 乗はどれも $1+1+0=2$ で、1 辺の長さに等しい。6 点は中心 $(1,1,1)$、半径 $\sqrt2$ の円の上に、隣どうしの距離 $\sqrt2$(半径と同じ)で並ぶ。隣どうしは中心から見て $60^\circ$ 離れ、6 点はどれも異なるので、この順に同じ向きに $60^\circ$ ずつ進んで円を 1 周する。よって正六角形の頂点である。
空間の格子点で作った正三角形(左、立方体の 3 つの面の対角線)と正六角形(右、座標が 0, 1, 2 の並べかえになる 6 点)
一方、正五角形と $n\ge7$ の正 $n$ 角形は、空間の格子点でも作れない。lem-lrp-shrink は、正 $n$ 角形の載っている平面の中だけで行う計算なので、空間の中の正 $n$ 角形でもそのまま成り立つ。$Q_k=P_k+\overrightarrow{P_{k+1}P_{k+2}}$ は空間の格子点で、prf-lrp-main の段 2〜5 がそのまま使える(1 辺の長さの 2 乗は $a^2+b^2+c^2$ の形の正の整数)。この議論は何次元の空間の格子点でもそのまま使えるので、整数の座標をもつ点の正 $n$ 角形は、何次元の空間でも $n=3,4,6$ に限る($n=3,6$ は 3 次元以上で現れる)。格子点を頂点とする正 $n$ 角形が $n=3,4,6$ に限ることは Wei26 にもある。
| 正三角形 | 正方形 | 正五角形 | 正六角形 | 正 $n$ 角形($n\ge7$) | |
|---|---|---|---|---|---|
| 平面の格子点 | ない | ある | ない | ない | ない |
| 三角格子 | ある | ない | ない | ある | ない |
| 空間の格子点 | ある | ある | ない | ある | ない |
三角格子で正五角形・$n\ge7$ の正 $n$ 角形がないことも、prf-lrp-main と同じ無限降下法で示せる(1 辺の長さの 2 乗 $m^2+mn+n^2$ が正の整数であることを使う)。
thm-lrp-main の仮定を外すと何が変わるかを並べる。
| 外す条件 | 反例 | 成り立たなくなること |
|---|---|---|
| 正方形の格子(座標が整数) | 三角格子の正三角形・正六角形 | 正三角形・正六角形は作れない |
| 平面の中の点 | 空間の格子点 $(1,0,0)$、$(0,1,0)$、$(0,0,1)$ | 正三角形は作れない |
| 辺の長さがすべて等しい | 角がすべて $135^\circ$ の八角形 | 角がそろった八角形は格子点に乗らない |
| 3 辺が等しい | 2 辺が等しい三角形 $(0,0)$、$(4,1)$、$(1,4)$ | 面積と 1 辺の長さの 2 乗の比が無理数 |
1 行目と 2 行目の確認は ex-lrp-tri-lattice と ex-lrp-space、4 行目は ex-lrp-near である。4 行目の三角形では、面積 $\dfrac{15}2$ と辺の長さの 2 乗 $17$ の比 $\dfrac{15}{34}$ は有理数で、prf-lrp-triangle の矛盾は起こらない。
8 点 $(1,0)$、$(2,0)$、$(3,1)$、$(3,2)$、$(2,3)$、$(1,3)$、$(0,2)$、$(0,1)$ をこの順に結ぶと、辺のベクトルは $(1,0)$、$(1,1)$、$(0,1)$、$(-1,1)$、$(-1,0)$、$(-1,-1)$、$(0,-1)$、$(1,-1)$ で、向きが $45^\circ$ ずつ回る。したがってどの頂点でも曲がる角は $45^\circ$、内角は $180^\circ-45^\circ=135^\circ$ で、正八角形と同じである。しかし辺の長さは $1$ と $\sqrt2$ が交互に並び、正八角形ではない(図 7)。
lem-lrp-shrink の構成は、辺の長さがすべて等しいこと(中心からの距離がそろっていること)を使っている。この八角形に同じ操作をしても、正八角形にはならない。角だけをそろえた格子八角形はあるが、辺の長さまでそろえることはできない。
角がすべて 135° の格子八角形。辺の長さは 1 と √2 が交互に並ぶ
lem-lrp-shrink の段 1 の関係「両隣の和はまん中の $2\cos\theta$ 倍」は、辺のベクトルについても成り立つ。格子正 $n$ 角形では辺のベクトルは整数ベクトルなので、$2\cos\theta$ が有理数でなければならない。
格子正 $n$ 角形の辺のベクトルを $\vec v_k=\overrightarrow{P_kP_{k+1}}$ とすると、$\vec v_{k+1}=R(\theta)\vec v_k$、$\vec v_{k-1}=R(-\theta)\vec v_k$ なので、prf-lrp-shrink の段 1 と同じ計算で
$$
\vec v_{k-1}+\vec v_{k+1}=2\cos\theta\,\vec v_k
$$
である。$\vec v_k$ は $\vec 0$ でない整数ベクトルなので、$0$ でない成分がある。その成分で両辺を比べると、$2\cos\theta$ は整数を $0$ でない整数で割ったもの、つまり有理数である。
一方、Niven の定理(証明は Chebyshev多項式 にある)によると、角が $180^\circ$ の有理数倍で余弦が有理数になるのは、余弦が $0$、$\pm\dfrac12$、$\pm1$ のときだけである。$\theta=\dfrac{360^\circ}n$($n\ge3$)でこれを満たすのは $\theta=120^\circ$、$90^\circ$、$60^\circ$、つまり $n=3,4,6$ だけである。
この議論だけで、$n=5$ と $n\ge7$ の格子正 $n$ 角形がないことが、無限降下法を使わずに示せる(ただし Niven の定理の証明に整数係数の多項式の有理数の根を使う)。一方 $n=3$ では $2\cos120^\circ=-1$、$n=6$ では $2\cos60^\circ=1$ が有理数なので、この議論では $n=3,6$ を除けない。実際、三角格子や空間の格子点には正三角形・正六角形がある(ex-lrp-tri-lattice、ex-lrp-space)。$n=3,6$ を平面の格子点から除くには、thm-lrp-triangle のように、平面の格子点に特有の性質(面積が有理数)が要る。
$n$ ごとの $2\cos\theta$ の値は、$n=3,4,5,6,8$ で $-1$、$0$、$\dfrac{\sqrt5-1}2$、$1$、$\sqrt2$ である。有理数になるのは $n=3,4,6$ だけで、Niven の定理と合っている。
$2\cos\theta$ は、角 $\theta$ の回転の行列 $R(\theta)$ の対角成分の和(トレース)でもある。格子を自分自身に重ねる回転では、トレース $2\cos\theta$ が整数になることが示せる。そこから「平面の周期的な模様の回転の対称性は 2 回・3 回・4 回・6 回だけ」という結晶学的制限が導かれる。これは次の 壁紙模様の対称性 の主定理である。
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