ℓ進層(ℓ-adic sheaf)とは、素数 $\ell$ を固め、ネータースキームのエタール位相の上の $\mathbb Z/\ell^\nu$ 加群の構成可能層 $F_\nu$ を、$F_{\nu+1}/\ell^\nu F_{\nu+1}\cong F_\nu$ となるように並べた射影系である。茎は有限生成 $\mathbb Z_\ell$ 加群になり、連結なスキームの上では、各段が局所定数な lisse な ℓ 進層はエタール基本群の有限生成 $\mathbb Z_\ell$ 加群への連続表現と同じものである。ℓ 進コホモロジーの係数であり、Tate 捻りや Galois 表現の幾何的な構成、Weil 予想の証明で使われる。
ℓ 進層(ℓ-adic sheaf)は、素数 $\ell$ を固め、$\mathbb Z/\ell^\nu$ 加群の構成可能層を $\nu=1,2,\dots$ について両立するように並べた射影系である。エタール位相の上の層は、有限係数(捩れ係数)では有限性や比較定理といった良い性質をもつが、係数環 $\mathbb Z/\ell^\nu$ は標数 $0$ ではない。ℓ 進層はその極限として $\ell$ 進整数環 $\mathbb Z_\ell$ を係数とする「層」を与え、$\mathbb Q_\ell$ に係数を広げれば標数 $0$ の係数の理論になる。Grothendieck が導入し、ℓ進コホモロジー の係数、Weil予想 の証明、Galois 表現の幾何的な構成で中心的な役割を果たす。
連結なスキーム $X$ の上で、各段が局所定数な ℓ 進層(lisse な ℓ 進層)は、エタール基本群 $\pi_1(X,\bar x)$ の有限生成 $\mathbb Z_\ell$ 加群への連続表現と同じものである(thm-l-adic-sheaf-monodromy)。これは位相空間の上の局所系が基本群の表現と対応すること(局所定数層)の ℓ 進版である。体のスペクトルの上では、lisse な ℓ 進層は絶対 Galois 群の $\ell$ 進表現にほかならない。
この記事では $X$ はネータースキーム、$\ell$ は素数とし、層はすべて $X$ の小エタール景の上で考える。$\mathbb Z_\ell=\varprojlim_\nu\mathbb Z/\ell^\nu$ は $\ell$ 進整数環である。
$\Lambda$ を有限環とする。$X$ の上の $\Lambda$ 加群の層 $G$ が局所定数構成可能であるとは、エタール被覆 $\{U_i\to X\}$ があって、各 $G|_{U_i}$ が有限 $\Lambda$ 加群の定数層に同型であることをいう。$G$ が構成可能であるとは、$X$ を有限個の局所閉部分スキーム $X_1,\dots,X_r$ の非交和に分けて、各 $G|_{X_j}$ が局所定数構成可能になるようにできることをいう。
$X$ の上の ℓ 進層(構成可能 $\mathbb Z_\ell$ 層)とは、各 $\nu\ge1$ についての $\mathbb Z/\ell^\nu$ 加群の構成可能層 $F_\nu$ と、$\mathbb Z/\ell^{\nu+1}$ 加群の層の射 $\pi_\nu\colon F_{\nu+1}\to F_\nu$ の組 $F=(F_\nu,\pi_\nu)_{\nu\ge1}$ であって、各 $\pi_\nu$ が同型
$$
F_{\nu+1}\otimes_{\mathbb Z/\ell^{\nu+1}}\mathbb Z/\ell^\nu=F_{\nu+1}/\ell^\nu F_{\nu+1}\xrightarrow{\ \sim\ }F_\nu
$$
を引き起こすものをいう。ℓ 進層 $F$ から $G$ への射は、層の射 $u_\nu\colon F_\nu\to G_\nu$ の族で遷移写像と可換なものとする。すべての $F_\nu$ が局所定数構成可能なとき、$F$ は lisse(滑らか)であるという。
$\mathbb Q_\ell$ 層は、ℓ 進層と同じ対象をもち、射の集合を $\operatorname{Hom}(F,G)\otimes_{\mathbb Z_\ell}\mathbb Q_\ell$ に取り替えた圏の対象である。$F$ の $\mathbb Q_\ell$ 層としての像を $F\otimes\mathbb Q_\ell$ と書く。
$\bar x$ を $X$ の幾何学的点とする。茎をとる関手は完全なので、$F_{\nu+1,\bar x}/\ell^\nu F_{\nu+1,\bar x}\cong F_{\nu,\bar x}$ であり、構成可能性から $F_{\nu,\bar x}$ は有限群である。$F$ の茎を
$$
F_{\bar x}:=\varprojlim_\nu F_{\nu,\bar x}
$$
と定める。lem-l-adic-sheaf-modules により、これは有限生成 $\mathbb Z_\ell$ 加群で、$F_{\bar x}/\ell^\nu F_{\bar x}\cong F_{\nu,\bar x}$ を満たす。
SGA5 VI(定義 1.1.1)は添字を $0$ から始め、$F_n$ を $\mathbb Z/\ell^{n+1}$ 加群とする。射は Artin–Rees 圏の射として定義されるが、この記事では射影系の射に限る。ほかに、エタール景を pro-étale 景に取り替えて $\mathbb Z_\ell$ 係数の層を直接扱う流儀もある。この記事ではそれらを扱わない。
ℓ 進層の茎の計算と、表現との対応の証明は、次の補題に帰着する。
1. $\mathbb Z_\ell$ は単項イデアル整域なので、$M\cong\mathbb Z_\ell^r\oplus\bigoplus_{i}\mathbb Z/\ell^{e_i}$(有限和)である。直和成分ごとに確かめればよい。$\mathbb Z_\ell$ では $\mathbb Z_\ell/\ell^\nu=\mathbb Z/\ell^\nu$ で、極限は $\mathbb Z_\ell$ そのものである。$\mathbb Z/\ell^e$ では $\nu\ge e$ で $M_\nu=\mathbb Z/\ell^e$ となり遷移写像は恒等写像なので、極限は $\mathbb Z/\ell^e$ である。$M_{\nu+1}/\ell^\nu M_{\nu+1}\cong M_\nu$ は定義から明らかである。
2. まず、$\nu\le\mu$ について合成 $M_\mu\to M_\nu$ は全射で、その核は $\ell^\nu M_\mu$ である。$\mu$ についての帰納法による。$\mu=\nu$ は明らかで、$M_{\mu+1}\to M_\mu$ は仮定から全射で核は $\ell^\mu M_{\mu+1}\subseteq\ell^\nu M_{\mu+1}$ である。帰納法の仮定とあわせると、$M_{\mu+1}\to M_\nu$ は全射で、核は $\ell^\nu M_\mu$ の逆像 $\ell^\nu M_{\mu+1}+\ell^\mu M_{\mu+1}=\ell^\nu M_{\mu+1}$ である。
$M\to M_\nu$ は全射である。実際、$x_\nu\in M_\nu$ の逆像を $M_{\nu+1}$ から選び、さらにその逆像を $M_{\nu+2}$ から選ぶ、と続ければ($\mu<\nu$ の成分は像で定める)$M$ の元が得られる。
$M\to M_\nu$ の核は $\ell^\nu M$ である。$\ell^\nu M_\nu=0$ なので核は $\ell^\nu M$ を含む。逆に $x=(x_\mu)\in M$ が $x_\nu=0$ を満たすとする。$\mu\ge\nu$ について $x_\mu$ は $M_\mu\to M_\nu$ の核に入るので、$S_\mu:=\{y\in M_\mu\mid\ell^\nu y=x_\mu\}$ は空でない有限集合であり、遷移写像は $S_{\mu+1}$ を $S_\mu$ に移す。空でない有限集合の射影系の極限は空でない(ℓ進コホモロジー の補題「有限群の逆系の極限の完全性」の証明と同じく、安定像を順にたどる)。よって $y\in M$ で $\ell^\nu y=x$ となるものがある。以上で $M/\ell^\nu M\cong M_\nu$ が示された。
最後に $M$ が有限生成であることを示す。$M/\ell M\cong M_1$ は有限なので、$m_1,\dots,m_r\in M$ をその像が $M/\ell M$ を生成するようにとる。$m_i$ の $M_\nu$ での像は $M_\nu/\ell M_\nu\cong M_1$ を生成するので、それらが生成する部分加群を $N_\nu$ とすると $M_\nu=N_\nu+\ell M_\nu$ である。これを繰り返し代入すると $M_\nu=N_\nu+\ell^\nu M_\nu=N_\nu$ となる。よって $(\mathbb Z/\ell^\nu)^r\to M_\nu$、$e_i\mapsto(m_i\text{ の像})$ は全射であり、核 $K_\nu$ は有限である。短完全列 $0\to K_\nu\to(\mathbb Z/\ell^\nu)^r\to M_\nu\to0$ は $\nu$ について射影系をなし、有限群の短完全列の射影系の極限は完全なので(ℓ進コホモロジー の補題「有限群の逆系の極限の完全性」)、$\mathbb Z_\ell^r\to M$ は全射である。$\square$
連結なスキームの上の局所定数構成可能層は、エタール基本群の有限な表現と対応する(局所定数層 の定理「エタール局所系」の 1)。
$X$ を連結なネータースキーム、$\bar x$ を幾何学的点、$\Lambda$ を有限環とする。$G\mapsto G_{\bar x}$ は、$X$ の上の局所定数構成可能な $\Lambda$ 加群の層の圏から、$\pi_1(X,\bar x)$ が連続に作用する有限 $\Lambda$ 加群の圏への、完全な圏同値である。
この記事では証明しない。局所定数構成可能層は有限エタール被覆で表現され、有限エタール被覆の圏は $\pi_1(X,\bar x)$ の連続作用をもつ有限集合の圏と同値である(エタール基本群 の定理「Galois圏の主定理の適用」)。加群の構造はこの同値で保たれる。完全性は茎をとる関手が完全であることによる。局所定数構成可能層の射の余核は、局所的には定数層の射の余核なので、再び局所定数構成可能である。
$\mathbb Z_\ell$ 加群 $M$ への副有限群 $\Gamma$ の作用 $\Gamma\times M\to M$ が連続であるとは、$M$ に $\ell$ 進位相($\ell^\nu M$ を $0$ の基本近傍系とする位相)を入れたとき、作用が直積位相について連続であることをいう。$M$ が有限生成なら、これは「各 $\nu$ で $\Gamma$ の $M/\ell^\nu M$ への作用の核が開部分群である」ことと同値である。実際、$M/\ell^\nu M$ は有限なので、作用が連続なら各元の固定部分群は開部分群で、核はその有限個の共通部分である。逆に核 $\Gamma_\nu$ が開なら、$(g,m)$ の近傍 $g\Gamma_\nu\times(m+\ell^\nu M)$ は $gm+\ell^\nu M$ の中へ移る。
$X$ を連結なネータースキーム、$\bar x$ を幾何学的点とする。$F\mapsto F_{\bar x}$ は、$X$ の上の lisse な ℓ 進層の圏から、$\pi_1(X,\bar x)$ が連続に作用する有限生成 $\mathbb Z_\ell$ 加群の圏への圏同値を与える。逆向きの関手は、$M$ に $M/\ell^\nu M$ に対応する局所定数構成可能層の系を対応させる。
$\Gamma:=\pi_1(X,\bar x)$ とおく。
関手が定まること。 $F$ を lisse な ℓ 進層とし、$M_\nu:=F_{\nu,\bar x}$ とおく。thm-l-adic-sheaf-finite-level により $\Gamma$ は有限加群 $M_\nu$ に連続に作用し、遷移写像は $\Gamma$ 同変である。茎の関手は完全なので $M_{\nu+1}/\ell^\nu M_{\nu+1}\cong M_\nu$ であり、lem-l-adic-sheaf-modules の 2 から $M:=F_{\bar x}$ は有限生成で $M/\ell^\nu M\cong M_\nu$ である。$\Gamma$ は $M=\varprojlim M_\nu$ に成分ごとに作用し、$M/\ell^\nu M$ への作用の核は $M_\nu$ への作用の核なので開である。よって作用は連続である。射 $u=(u_\nu)$ には $\varprojlim u_{\nu,\bar x}$ を対応させる。
忠実充満であること。 $F,G$ を lisse な ℓ 進層とし、$M,N$ をその茎とする。thm-l-adic-sheaf-finite-level により、射 $u_\nu\colon F_\nu\to G_\nu$ は $\Gamma$ 同変な $\mathbb Z/\ell^\nu$ 線形写像 $M/\ell^\nu M\to N/\ell^\nu N$ と一対一に対応し、遷移写像との可換性も対応する。よって $\operatorname{Hom}(F,G)$ は、$\Gamma$ 同変な写像 $\varphi_\nu\colon M/\ell^\nu M\to N/\ell^\nu N$ の両立する族の集合と一対一に対応する。そのような族は lem-l-adic-sheaf-modules の 1 の同型 $M\cong\varprojlim M/\ell^\nu M$、$N\cong\varprojlim N/\ell^\nu N$ によって $\Gamma$ 同変な $\mathbb Z_\ell$ 線形写像 $\varprojlim\varphi_\nu\colon M\to N$ を与える。逆に $\Gamma$ 同変な $\varphi\colon M\to N$ は $\ell^\nu M$ を $\ell^\nu N$ に移すので族 $(\varphi\bmod\ell^\nu)$ を与え、2 つの対応は互いに逆である。
本質的に全射であること。 $M$ を $\Gamma$ が連続に作用する有限生成 $\mathbb Z_\ell$ 加群とし、$M_\nu:=M/\ell^\nu M$ とおく。$\Gamma$ は有限加群 $M_\nu$ に、核が開部分群であるように作用する。thm-l-adic-sheaf-finite-level により、局所定数構成可能な $\mathbb Z/\ell^\nu$ 加群の層 $F_\nu$ で $F_{\nu,\bar x}\cong M_\nu$ となるものと、射影 $M_{\nu+1}\to M_\nu$ に対応する射 $\pi_\nu\colon F_{\nu+1}\to F_\nu$ がある。$\pi_\nu$ が引き起こす $F_{\nu+1}/\ell^\nu F_{\nu+1}\to F_\nu$ は局所定数構成可能層の射で、その茎は同型 $M_{\nu+1}/\ell^\nu M_{\nu+1}\to M_\nu$ である。圏同値は同型を反映するので、これは同型である。よって $F=(F_\nu,\pi_\nu)$ は lisse な ℓ 進層で、lem-l-adic-sheaf-modules の 1 から $F_{\bar x}\cong\varprojlim M_\nu\cong M$($\Gamma$ 同変)である。$\square$
$M$ が階数 $r$ の自由 $\mathbb Z_\ell$ 加群のとき、対応する lisse な ℓ 進層 $F$ は各 $F_\nu$ が階数 $r$ の局所自由な $\mathbb Z/\ell^\nu$ 加群の層であり、階数 $r$ の lisse な ℓ 進層と呼ばれる。$X=\operatorname{Spec}K$($K$ は体)では $\pi_1(X,\bar x)$ は絶対 Galois 群 $G_K=\operatorname{Gal}(K^{\mathrm{s}}/K)$ なので(エタール基本群 の命題「体のエタール基本群」)、lisse な ℓ 進層は $G_K$ の連続な $\ell$ 進表現と同じものである。
$\mathbb Q_\ell$ 係数の表現は、安定な格子をとることで lisse な ℓ 進層から得られる。
$\Gamma$ を副有限群、$V$ を有限次元 $\mathbb Q_\ell$ ベクトル空間、$\rho\colon\Gamma\to\operatorname{GL}(V)$ を連続な準同型とする($\operatorname{GL}(V)$ には $\mathbb Q_\ell$ の位相から定まる位相を入れる)。このとき $V$ の $\mathbb Z_\ell$ 格子($V$ の $\mathbb Q_\ell$ 基底で生成される $\mathbb Z_\ell$ 部分加群)$L$ で、$\rho(\Gamma)L=L$ を満たすものがある。
格子 $L_0$ を 1 つ選ぶ。$\operatorname{GL}(L_0):=\{g\in\operatorname{GL}(V)\mid gL_0=L_0\}$ は、$L_0$ の基底について成分も逆行列の成分も $\mathbb Z_\ell$ に入る行列の全体であり、単位行列を含む $\operatorname{GL}(V)$ の開部分群である。よって $H:=\rho^{-1}(\operatorname{GL}(L_0))$ は $\Gamma$ の開部分群であり、$\Gamma$ はコンパクトなので指数 $[\Gamma:H]$ は有限である。$g_1,\dots,g_s$ を $\Gamma/H$ の代表系とし、$L:=\sum_{i=1}^s\rho(g_i)L_0$ とおく。各 $\rho(g_i)L_0$ は格子なので、$L$ は有限生成で $L_0$ を含む($g_1\in H$ と選べる)。$L$ は捩れのない有限生成 $\mathbb Z_\ell$ 加群で $V$ を張るので、$V$ の格子である。$g\in\Gamma$ について $gg_i=g_{\sigma(i)}h_i$($h_i\in H$、$\sigma$ は置換)と書けるので、$\rho(g)\rho(g_i)L_0=\rho(g_{\sigma(i)})L_0$ であり、$\rho(g)L=L$ である。$\square$
$X$ を連結なネータースキームとする。$\pi_1(X,\bar x)$ の有限次元 $\mathbb Q_\ell$ ベクトル空間 $V$ への連続表現は、ある lisse な ℓ 進層 $F$ について $F_{\bar x}\otimes_{\mathbb Z_\ell}\mathbb Q_\ell\cong V$ となる。
prop-l-adic-sheaf-lattice の安定な格子 $L$ をとる。$\Gamma$ の $L$ への作用は、$V$ への作用の制限であり、$L$ の $\ell$ 進位相は $V$ の位相の制限なので連続である。thm-l-adic-sheaf-monodromy により $L$ に対応する lisse な ℓ 進層 $F$ があり、$F_{\bar x}\otimes\mathbb Q_\ell=L\otimes\mathbb Q_\ell=V$ である。$\square$
ℓ 進層 $F$ のコホモロジーを
$$
H^i(X,F):=\varprojlim_\nu H^i(X,F_\nu),\qquad H^i(X,F\otimes\mathbb Q_\ell):=H^i(X,F)\otimes_{\mathbb Z_\ell}\mathbb Q_\ell
$$
と定める。遷移写像は $\pi_\nu$ が引き起こす写像である。$F=\mathbb Z_\ell(n)$(Tate捻り。$n=1$ の場合は ex-l-adic-sheaf-tate)のときは ℓ進コホモロジー の定義と同じである。各段のコホモロジーが有限なら、次のように有限生成性と各段との関係が従う。ℓ 進層 $F$ が平坦であるとは、各 $F_\nu$ が $\mathbb Z/\ell^\nu$ 加群の層として平坦であること、すなわちすべての茎 $F_{\nu,\bar x}$ が自由 $\mathbb Z/\ell^\nu$ 加群であることをいう。
$F$ を平坦な ℓ 進層とし、すべての $i$ で $H^i(X,F_1)$ が有限であるとする。このとき次が成り立つ。
短完全列。 $\kappa,\nu\ge1$ とする。$F_{\kappa+\nu}$ の茎は自由 $\mathbb Z/\ell^{\kappa+\nu}$ 加群なので、$\ell^\nu$ 倍写像 $F_{\kappa+\nu}\to F_{\kappa+\nu}$ の核は $\ell^\kappa F_{\kappa+\nu}$、像は $\ell^\nu F_{\kappa+\nu}$ である(茎で $(\mathbb Z/\ell^m)^r$ について確かめればよい)。よって $\ell^\nu$ 倍は単射 $\iota\colon F_\kappa\cong F_{\kappa+\nu}/\ell^\kappa F_{\kappa+\nu}\to F_{\kappa+\nu}$ を引き起こし、その余核は $F_{\kappa+\nu}/\ell^\nu F_{\kappa+\nu}\cong F_\nu$ である。ここで同型は遷移写像の合成による(lem-l-adic-sheaf-modules の 2 の証明の最初の段落と同じ議論)。こうして短完全列 $0\to F_\kappa\xrightarrow{\iota}F_{\kappa+\nu}\to F_\nu\to0$ を得る。$\iota$ と遷移写像は可換である。合成 $F_\kappa\xrightarrow{\iota}F_{\kappa+\nu}\to F_\kappa$(後者は遷移写像の合成)は $\ell^\nu$ 倍である。
1. $\nu=1$ の列の長完全列の一部 $H^i(X,F_\kappa)\to H^i(X,F_{\kappa+1})\to H^i(X,F_1)$ から、$\kappa$ についての帰納法で $H^i(X,F_{\kappa+1})$ は有限である。
2. $\nu$ を固め、$\kappa$ を動かすと、長完全列 $H^i(X,F_\kappa)\xrightarrow{\iota}H^i(X,F_{\kappa+\nu})\to H^i(X,F_\nu)\to H^{i+1}(X,F_\kappa)\xrightarrow{\iota}H^{i+1}(X,F_{\kappa+\nu})$ は $\kappa$ についての射影系をなす(中央の項は定数の系)。1 によりすべての項は有限群であり、有限群の完全列の射影系の極限は完全である(像と核で短完全列に分けて ℓ進コホモロジー の補題「有限群の逆系の極限の完全性」を使う)。$\varprojlim_\kappa H^i(X,F_{\kappa+\nu})=H^i(X,F)$ と同一視すると、合成 $F_\kappa\to F_{\kappa+\nu}\to F_\kappa$ が $\ell^\nu$ 倍であることから、極限の $\iota$ は $H^i(X,F)$ の $\ell^\nu$ 倍になる。よって $H^i(X,F)\xrightarrow{\ell^\nu}H^i(X,F)\to H^i(X,F_\nu)\to H^{i+1}(X,F)\xrightarrow{\ell^\nu}H^{i+1}(X,F)$ は完全であり、2 が従う。
3. $M:=H^i(X,F)$、$M_\kappa:=H^i(X,F_\kappa)$ とおく。2 から $M/\ell M\hookrightarrow M_1$ は有限なので、$m_1,\dots,m_r\in M$ をその像が $M/\ell M$ を生成するようにとり、$\varphi\colon\mathbb Z_\ell^r\to M$ を対応する写像とする。$M=\varphi(\mathbb Z_\ell^r)+\ell M$ を繰り返し代入すると $M=\varphi(\mathbb Z_\ell^r)+\ell^\kappa M$ である。$\ell^\kappa M_\kappa=0$ なので、$M\to M_\kappa$ の像は $\varphi(\mathbb Z_\ell^r)$ の像に等しい。$x\in M$ について、$S_\kappa:=\{a\in(\mathbb Z/\ell^\kappa)^r\mid a\text{ の }M_\kappa\text{ での像が }x\text{ の像に等しい}\}$ は空でない有限集合で、遷移写像は $S_{\kappa+1}$ を $S_\kappa$ に移す。極限の元 $a\in\mathbb Z_\ell^r$ は、すべての $\kappa$ で $\varphi(a)$ と $x$ の $M_\kappa$ での像が等しいので $\varphi(a)=x$ を満たす。よって $\varphi$ は全射である。$\square$
prop-l-adic-sheaf-cohomology の仮定は、たとえば $X$ が分離閉体の上の固有なスキームのとき(SGA4 XIV 系 1.2、p. 145)、または $X$ が分離閉体の上で有限型で $\ell$ が標数と異なるとき(SGA4h [Th. finitude] 定理 1.1、p. 233)に満たされる。このとき $H^i(X,F_1)$ は構成可能層のコホモロジーとして有限である。
定数層 $\mathbb Z/\ell^\nu$ と自然な射影からなる系 $\mathbb Z_\ell:=(\mathbb Z/\ell^\nu)_\nu$ は階数 $1$ の lisse な ℓ 進層で、thm-l-adic-sheaf-monodromy では自明な作用をもつ $\mathbb Z_\ell$ に対応する。そのコホモロジー $H^i(X,\mathbb Z_\ell)$ は ℓ進コホモロジー である。
$\ell$ が $X$ 上で可逆なとき、1 の冪根の層 $\mu_{\ell^\nu}$ と $\ell$ 乗写像 $\mu_{\ell^{\nu+1}}\to\mu_{\ell^\nu}$ の系を $\mathbb Z_\ell(1)$ と書く(Tate捻り)。$\ell$ 乗写像は全射で(ℓ進コホモロジー の補題「冪根の層の完全列」)、加法的に書くと核 $\mu_\ell$ は $\ell^\nu\mu_{\ell^{\nu+1}}$($\ell^\nu$ 乗の像)に等しいので、$\mu_{\ell^{\nu+1}}/\ell^\nu\mu_{\ell^{\nu+1}}\cong\mu_{\ell^\nu}$ である。$\mu_{\ell^\nu}$ はエタール局所的に定数層 $\mathbb Z/\ell^\nu$ に同型なので、$\mathbb Z_\ell(1)$ は階数 $1$ の lisse な ℓ 進層である。$X=\operatorname{Spec}K$ では、$\mathbb Z_\ell(1)$ は $T_\ell\mu:=\varprojlim_\nu\mu_{\ell^\nu}(K^{\mathrm s})\cong\mathbb Z_\ell$ への $G_K$ の作用、すなわち $\ell$ 進円分指標 $\chi_\ell\colon G_K\to\mathbb Z_\ell^\times$ に対応する(Tate捻り の定義「円分指標」)。$K=\mathbb F_q$ では算術的 Frobenius が $q$ 倍で作用する(Tate捻り の命題「Frobeniusの捻りへの作用」)。$K$ が分離閉なら作用は自明で、$\mathbb Z_\ell(1)\cong\mathbb Z_\ell$ であるが、この同型は 1 の冪根の両立する系の選び方による。
| 外す条件 | 反例 | 成り立たなくなること |
|---|---|---|
| $M_{\nu+1}/\ell^\nu M_{\nu+1}\cong M_\nu$(lem-l-adic-sheaf-modules の 2) | $M_\nu=\mathbb Z/\ell^\nu$、遷移写像はすべて $0$ | $M/\ell M\cong M_1$ |
| $M_\nu$ が有限(同じく 2) | $M_\nu=\bigoplus_{\mathbb N}\mathbb Z/\ell^\nu$、遷移写像は成分ごとの射影 | $\varprojlim M_\nu$ が有限生成 |
| $F$ が lisse(thm-l-adic-sheaf-monodromy) | $X$ 連結、$j\colon U\hookrightarrow X$ を空でない真の開集合、$F=j_!\mathbb Z_\ell:=(j_!\mathbb Z/\ell^\nu)_\nu$、$\bar x$ は $U$ の上の点 | $F_{\bar x}$ が $F$ を同型を除いて決めること |
1 行目:極限 $M$ の元 $(x_\nu)$ は $x_\nu=\pi_\nu(x_{\nu+1})=0$ を満たすので $M=0$ であり、$M/\ell M=0\ne\mathbb Z/\ell=M_1$ である。遷移写像 $0$ は $M_{\nu+1}/\ell^\nu M_{\nu+1}=\mathbb Z/\ell^\nu\to M_\nu$ の同型を引き起こさない。
2 行目:$M_{\nu+1}/\ell^\nu M_{\nu+1}\cong M_\nu$ は満たされる。遷移写像は全射なので、lem-l-adic-sheaf-modules の証明と同じく逆像を順に選べば $M\to M_1$ は全射であり、$\ell M$ は $M_1$ で $0$ に移るので、$M/\ell M$ は無限群 $M_1=\bigoplus_{\mathbb N}\mathbb Z/\ell$ に全射する。有限生成 $\mathbb Z_\ell$ 加群 $M$ なら $M/\ell M$ は有限なので、$M$ は有限生成でない。
3 行目:$j_!\mathbb Z/\ell^\nu$ は $U$ と $X\setminus U$ の上で局所定数構成可能なので構成可能で、$F$ は ℓ 進層である。$\bar x$ は $U$ の上にあるので $F_{\bar x}=\mathbb Z_\ell$ であり、これは定数 ℓ 進層 $\mathbb Z_\ell$ の茎と同じ $\mathbb Z_\ell$ 加群である(lisse でない $F$ の茎には、$\pi_1(X,\bar x)$ の作用は一般には定まらない)。しかし $X\setminus U$ の上の幾何学的点 $\bar y$ では $(j_!\mathbb Z/\ell)_{\bar y}=0$、$(\mathbb Z/\ell)_{\bar y}=\mathbb Z/\ell$ なので、$F$ と $\mathbb Z_\ell$ は同型でない。とくに $F$ は lisse でない。
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