Bakerの定理(対数の一次形式)

同義語:Bakerの定理(対数の1次形式)Baker's theorem on linear forms in logarithms

概要

Bakerの定理(対数の一次形式)(Baker's theorem on linear forms in logarithms)とは、$0$ でない代数的数 $\alpha_i$ の対数が有理数体上 1 次独立なら、$1,\log\alpha_1,\dots,\log\alpha_n$ は代数的数全体の体上も 1 次独立であるという Baker の定理と、代数的数を係数とする一次形式 $\beta_0+\sum\beta_i\log\alpha_i$ の絶対値の具体的な下界の総称である。系として、Gelfond–Schneider の定理を $\alpha_1^{\beta_1}\cdots\alpha_n^{\beta_n}$ の超越性に一般化した定理が従う。下界は Thue 方程式の解の上界や類数 $1$ の虚 2 次体の決定など、Diophantus 問題を有効に解く道具になった。

$$\newcommand{C}[0]{\mathbb{C}} \newcommand{div}[0]{\mathbin{÷}} \newcommand{N}[0]{\mathbb{N}} \newcommand{Q}[0]{\mathbb{Q}} \newcommand{R}[0]{\mathbb{R}} \newcommand{Z}[0]{\mathbb{Z}} $$

前提知識: 超越数, 代数的数, 対数関数, Thue–Siegel–Rothの定理

Baker の定理(Baker's theorem on linear forms in logarithms)とは、$0$ でない代数的数 $\alpha_1,\dots,\alpha_n$ の対数と代数的数 $\beta_0,\dots,\beta_n$ で作った式
$$ \Lambda=\beta_0+\beta_1\log\alpha_1+\dots+\beta_n\log\alpha_n $$
(対数の一次形式)についての定理の総称である。質的な形は「$\log\alpha_1,\dots,\log\alpha_n$ が有理数体上 1 次独立なら、$1,\log\alpha_1,\dots,\log\alpha_n$ は代数的数全体の体の上でも 1 次独立」と述べ、量的な形は $\Lambda\ne0$ のときの $\lvert\Lambda\rvert$ の具体的な下界を与える。A. Baker が 1966 年以降に証明した。
質的な形は、$2^{\sqrt2}$ の超越性を含む Gelfond–Schneider の定理($n=2$ にあたる)を、任意個の対数に広げたものである。量的な形は、それまで「解は有限個」としか言えなかった Diophantus 方程式の多くについて、解の大きさの上界を具体的に計算できる形で与えた。Thue 方程式の解法、類数 $1$ の虚 2 次体の決定への応用が代表的である。
主定理の証明は長大なので、この記事では主張と所在を述べるにとどめ、証明しない。主定理から導かれる超越性の系(Gelfond–Schneider の定理の一般化)と、量的な形の応用の 1 つ($2^a-3^b$ の大きさ)は、記事の中で完全に証明する。Gelfond–Schneider の定理そのものは Gelfond–Schneiderの定理、指数関数の値の超越性は Lindemann–Weierstrassの定理 で扱う。

定義と記号

$0$ でない複素数 $\alpha$ について、$e^w=\alpha$ をみたす複素数 $w$ を $\alpha$ の 対数 といい、$\log\alpha$ と書く。対数は $2\pi i$ の整数倍の違いを除いて決まり、この記事では各 $\alpha_i$ について対数を 1 つ固定して考える(主値である必要はない。対数関数 の定義「対数の主値」も参照)。$\alpha\ne1$ なら、どの対数も $0$ でない。$\alpha$ と対数 $\log\alpha$、複素数 $\beta$ について $\alpha^\beta:=e^{\beta\log\alpha}$ と定める。

対数の一次形式と高さ

$\alpha_1,\dots,\alpha_n$ を $0$ でない代数的数、$\log\alpha_1,\dots,\log\alpha_n$ をその対数、$\beta_0,\beta_1,\dots,\beta_n$ を代数的数とする。複素数
$$ \Lambda=\beta_0+\beta_1\log\alpha_1+\dots+\beta_n\log\alpha_n $$
を、代数的数の 対数の一次形式(linear form in logarithms)という。代数的数 $\beta$ の 高さ $H(\beta)$ を、$\beta$ の最小多項式の定数倍で係数が互いに素な整数のものをとったときの、係数の絶対値の最大値と定める。

たとえば有理数 $a/b$(既約分数、$b\ge1$)の最小多項式の整数化は $bx-a$ なので、$H(a/b)=\max(\lvert a\rvert,b)$ であり、整数 $a$ では $H(a)=\max(\lvert a\rvert,1)$ である。$H(\sqrt2)=2$(最小多項式 $x^2-2$)である。

主定理

Baker の定理(質的な形)

$\alpha_1,\dots,\alpha_n$ を $0$ でない代数的数とし、その対数 $\log\alpha_1,\dots,\log\alpha_n$ が $\mathbb{Q}$ 上 1 次独立であるとする。このとき $1,\log\alpha_1,\dots,\log\alpha_n$ は、代数的数全体の体 $\overline{\mathbb{Q}}$ 上 1 次独立である。

出典

この定理はこの記事では証明しない。主張は Bak71 §2、p. 20 にあり、原論文は Baker, Mathematika 13 (1966), 204–216 である(同論文の文献 [4])。証明は長く、記事に収まらない。$1,\log\alpha_1,\dots,\log\alpha_n$ が $\overline{\mathbb{Q}}$ 上 1 次独立であるとは、代数的数 $\beta_0,\dots,\beta_n$ が $\beta_0+\beta_1\log\alpha_1+\dots+\beta_n\log\alpha_n=0$ をみたすなら、すべて $0$ であることをいう。

証明の考え方を、Bak71 §2(pp. 20–21)の概説に沿って述べる(証明ではない)。

証明の考え方を開く

簡単のため、乗法的に独立な $0$ でない代数的数 $\alpha_1,\dots,\alpha_n$ と $0$ でない代数的数 $\beta_1,\dots,\beta_{n-1}$ について $\alpha_1^{\beta_1}\cdots\alpha_{n-1}^{\beta_{n-1}}=\alpha_n$ がありえないことを示す場合を考える。そうなったと仮定し、大きな $L$ について、$n-1$ 個の複素変数の補助関数 $\Phi(z_1,\dots,z_{n-1})=\sum_{\lambda_1=0}^{L}\cdots\sum_{\lambda_n=0}^{L}p(\lambda_1,\dots,\lambda_n)\,\alpha_1^{(\lambda_1+\lambda_n\beta_1)z_1}\cdots\alpha_{n-1}^{(\lambda_{n-1}+\lambda_n\beta_{n-1})z_{n-1}}$ を、整数係数 $p(\lambda)$(すべては $0$ でない)で作る。仮定から、$z_1=\dots=z_{n-1}=l$($l$ は正の整数)での値と偏導関数の値は、対数の冪の因子を除いて一定の代数体の元になる。線形方程式の解の存在の補題で、小さい $l$ と低い階数の偏導関数がすべて $0$ になるように $p(\lambda)$ を選ぶ。次に、最大値の原理と代数的整数のノルムが $1$ 以上であることを使って、$0$ になる点 $l$ の範囲を、偏導関数の階数を少し犠牲にして広げていく(外挿)。これを有限回繰り返すと $\Phi(l,\dots,l)=0$ が $(L+1)^n$ 個の $l$ について成り立ち、係数行列が Vandermonde 型で行列式が $0$ でないことと矛盾する。量的な形は、最大値の原理を Hermite の補間公式に替えて得られる(同 p. 22)。

Baker の定理(量的な形)

$\alpha_1,\dots,\alpha_n$ を $0$ でない代数的数とし、その対数 $\log\alpha_1,\dots,\log\alpha_n$ が $\mathbb{Q}$ 上 1 次独立であるとする。$d\ge1$、$\kappa>n+1$ とする。定数 $C>0$($n$、$\log\alpha_1,\dots,\log\alpha_n$、$\kappa$、$d$ だけで決まる)があって、次数が $d$ 以下、高さが $H$ 以下で、すべては $0$ でない代数的数 $\beta_0,\dots,\beta_n$ について
$$ \lvert\beta_0+\beta_1\log\alpha_1+\dots+\beta_n\log\alpha_n\rvert> C\,e^{-(\log H)^\kappa} $$
が成り立つ。

出典と改良

この定理はこの記事では証明しない(Bak71 §3、p. 22。原論文は Mathematika 14–15 (1967–68) の続編 II–IV で、同論文の文献 [5])。左辺が $0$ でないことは thm-baker-qualitative から従う。右辺は Feldman により $CH^{-\kappa}$($\kappa>0$ は $C$ と同じものだけで決まる)の形に改良され、定数 $C$ を具体的に計算した形も与えられている(同 p. 22)。Sil09 Theorem IX.5.2(p. 286)は、高さの対数を使ったこの種の下界の形を、証明なしに引いている。

量的な形で大事なのは、右辺が $H$ について「指数関数よりずっとゆっくり」減ることである。$\kappa$ を固定すると、どんな $\delta>0$ についても $H$ が大きければ $e^{-(\log H)^\kappa}>e^{-\delta H}$ である。下の節の応用は、この遅さだけを使う。

超越性への系

質的な形から、超越性についての次の系が従う。どれも thm-baker-qualitative だけを使って証明する。証明では、有限個の対数 $\log\alpha_1,\dots,\log\alpha_n$ が張る $\mathbb{Q}$ 上のベクトル空間から、$\mathbb{Q}$ 上 1 次独立な極大な部分族 $\log\alpha_{i_1},\dots,\log\alpha_{i_r}$ を選ぶと、すべての $\log\alpha_j$ がその有理数係数の 1 次結合で書けることを使う(線形代数の基本事項)。

対数の一次形式は $0$ か超越数

$\alpha_1,\dots,\alpha_n$ を $0$ でない代数的数、$\beta_1,\dots,\beta_n$ を代数的数とする。$\Lambda=\beta_1\log\alpha_1+\dots+\beta_n\log\alpha_n$ は、$0$ であるか超越数である。

$\log\alpha_1,\dots,\log\alpha_n$ から $\mathbb{Q}$ 上 1 次独立な極大な部分族を選び、番号を付け替えて $\log\alpha_1,\dots,\log\alpha_r$ とする(すべての対数が $0$ なら $r=0$ で、$\Lambda=0$ である)。各 $j$ について有理数 $c_{j1},\dots,c_{jr}$ があって $\log\alpha_j=\sum_{k=1}^rc_{jk}\log\alpha_k$ なので、
$$ \Lambda=\sum_{k=1}^r\gamma_k\log\alpha_k,\qquad\gamma_k:=\sum_{j=1}^n\beta_jc_{jk} $$
であり、$\gamma_k$ は代数的数である。$\Lambda$ が代数的数 $\lambda$ に等しいとすると、$(-\lambda)\cdot1+\sum_k\gamma_k\log\alpha_k=0$ は $1,\log\alpha_1,\dots,\log\alpha_r$ の代数的数係数の 1 次関係である。thm-baker-qualitative により $\lambda=0$ かつすべての $\gamma_k=0$ なので、$\Lambda=\lambda=0$ である。よって $\Lambda$ は $0$ でなければ代数的数でなく、超越数である。$\square$

指数関数の値の超越性

$\alpha_1,\dots,\alpha_n$ を $0$ でない代数的数、$\beta_0,\beta_1,\dots,\beta_n$ を代数的数とし、$\beta_0\ne0$ とする。$e^{\beta_0}\alpha_1^{\beta_1}\cdots\alpha_n^{\beta_n}=e^{\beta_0+\beta_1\log\alpha_1+\dots+\beta_n\log\alpha_n}$ は超越数である。

$\gamma:=e^{\beta_0}\alpha_1^{\beta_1}\cdots\alpha_n^{\beta_n}$ は $0$ でない。$\gamma$ が代数的数だとする。$w:=\beta_0+\sum_i\beta_i\log\alpha_i$ は $e^w=\gamma$ をみたすので、$\gamma$ の対数の 1 つであり、これを $\log\gamma$ として固定する。すると
$$ \beta_0=1\cdot\log\gamma-\beta_1\log\alpha_1-\dots-\beta_n\log\alpha_n $$
は $0$ でない代数的数 $\gamma,\alpha_1,\dots,\alpha_n$ の対数の、代数的数係数の一次形式で、$0$ でない代数的数 $\beta_0$ に等しい。これは cor-baker-zero-or-transcendental に反する。$\square$

$n=0$ の場合は「$0$ でない代数的数 $\beta_0$ について $e^{\beta_0}$ は超越数」で、Hermite–Lindemann の定理にあたる(Lindemann–Weierstrassの定理)。

Gelfond–Schneider の定理の一般化

$\alpha_1,\dots,\alpha_n$ を $0$ でも $1$ でもない代数的数、$\beta_1,\dots,\beta_n$ を代数的数とし、$1,\beta_1,\dots,\beta_n$ が $\mathbb{Q}$ 上 1 次独立であるとする。このとき、対数をどう選んでも、$\alpha_1^{\beta_1}\cdots\alpha_n^{\beta_n}=e^{\beta_1\log\alpha_1+\dots+\beta_n\log\alpha_n}$ は超越数である。

$\gamma:=\alpha_1^{\beta_1}\cdots\alpha_n^{\beta_n}$ が代数的数だとし、$\log\gamma:=\sum_i\beta_i\log\alpha_i$ とおく($e^{\log\gamma}=\gamma$)。前の証明と同じく、$\log\alpha_1,\dots,\log\alpha_n$ から $\mathbb{Q}$ 上 1 次独立な極大な部分族 $\lambda_1,\dots,\lambda_r$ を選び、$\log\alpha_j=\sum_kc_{jk}\lambda_k$($c_{jk}\in\mathbb{Q}$)と書く。$\alpha_j\ne1$ なので $\log\alpha_j\ne0$ で、$r\ge1$ である。
$\log\gamma$ が $\lambda_1,\dots,\lambda_r$ の有理数係数の 1 次結合でないとき.$\lambda_1,\dots,\lambda_r,\log\gamma$ は $\mathbb{Q}$ 上 1 次独立である。一方
$$ \sum_{k=1}^r\Bigl(\sum_{j=1}^n\beta_jc_{jk}\Bigr)\lambda_k-1\cdot\log\gamma=0 $$
は代数的数係数の 1 次関係で、$\log\gamma$ の係数 $-1$ は $0$ でない。これは thm-baker-qualitative に反する。
$\log\gamma=\sum_kd_k\lambda_k$($d_k\in\mathbb{Q}$)のとき.$\sum_k\bigl(\sum_j\beta_jc_{jk}-d_k\bigr)\lambda_k=0$ であり、$\lambda_1,\dots,\lambda_r$ は $\mathbb{Q}$ 上 1 次独立なので、thm-baker-qualitative によりすべての $k$ で $\sum_jc_{jk}\beta_j-d_k\cdot1=0$ である。これは $1,\beta_1,\dots,\beta_n$ の有理数係数の 1 次関係なので、仮定によりすべての $c_{jk}=0$ である。すると $\log\alpha_j=0$ となり、$\alpha_j\ne1$ に反する。
いずれの場合も矛盾するので、$\gamma$ は超越数である。$\square$

$n=1$ では「$1,\beta$ が $\mathbb{Q}$ 上 1 次独立」は「$\beta$ が有理数でない」ことなので、この系は Gelfond–Schneider の定理「$\alpha\ne0,1$ と有理数でない $\beta$ が代数的数なら $\alpha^\beta$ は超越数」になる(Gelfond–Schneiderの定理、超越数 の定理「Gelfond–Schneider の定理(冪の超越性)」)。

系の使い方
  1. $\pi+\log2$ は超越数である。$\log(-1):=i\pi$ と選ぶと $\pi+\log2=(-i)\log(-1)+1\cdot\log2$ は代数的数係数の一次形式で、正の実数なので $0$ でない。cor-baker-zero-or-transcendental による。
  2. $e\cdot2^{\sqrt2}$ は超越数である。cor-baker-exp で $\beta_0=1$、$\alpha_1=2$、$\beta_1=\sqrt2$ とする。
  3. $2^{\sqrt2}\,3^{\sqrt3}$(実の対数)は超越数である。$1,\sqrt2,\sqrt3$ は $\mathbb{Q}$ 上 1 次独立なので、cor-baker-gelfond-schneider-general による。独立性は、有理数 $a,b,c$ で $a+b\sqrt2=-c\sqrt3$ なら、2 乗して $2ab\sqrt2=3c^2-a^2-2b^2$ となり、$\sqrt2$ が無理数なので $ab=0$、さらに $b=0$ なら $a^2=3c^2$、$a=0$ なら $2b^2=3c^2$ で、$\sqrt3$ と $\sqrt{3/2}$ が無理数なのですべて $0$ になることから分かる。
  4. $\log3/\log2$ は超越数である。$\beta:=\log3/\log2$ は有理数でない($\beta=q/p$ なら $3^p=2^q$ で、偶奇が合わない)。$\beta$ が代数的数なら、Gelfond–Schneider の定理により $2^\beta=e^{\beta\log2}=3$ が超越数となって矛盾する。
  5. $e^\pi$ は超越数である。$\log(-1):=i\pi$ とすると $(-1)^{-i}=e^{-i\cdot i\pi}=e^\pi$ で、$-i$ は有理数でない代数的数である。

量的な形の応用:$2$ の冪と $3$ の冪の差

量的な形が Diophantus 方程式に効く仕組みを、いちばん簡単な例で見る。$2^a$ と $3^b$ が近いと $a\log2-b\log3$ が $0$ に近くなるが、量的な形はそれが近づきすぎることを禁じる。

$2^a-3^b$ の下界

定数 $c>0$ があって、$a\ge3$ と $b\ge0$ の整数について
$$ \lvert2^a-3^b\rvert\ge c\,2^a e^{-(\log a)^4} $$
が成り立つ。とくに、どの整数 $k$ についても、$2^a-3^b=k$ をみたす $0$ 以上の整数の組 $(a,b)$ は有限個である。

$\log2,\log3$ は実の対数とする。これらは $\mathbb{Q}$ 上 1 次独立である。整数 $p,q$ で $p\log2=q\log3$ なら $2^p=3^q$ である。$p,q$ の一方だけが $0$ なら他方の冪が $1$ に等しくなって矛盾し、$p,q$ がどちらも $0$ でなければ(符号をそろえて正の冪の等式にすると)偶数と奇数が等しくなるからである。
$\Lambda:=a\log2-b\log3$ とおくと $2^a-3^b=2^a(1-e^{-\Lambda})$ である。実数 $\Lambda$ について
$$ \lvert1-e^{-\Lambda}\rvert\ge e^{-1}\min(1,\lvert\Lambda\rvert) $$
が成り立つ。$\lvert\Lambda\rvert\le1$ なら平均値の定理により $\lvert1-e^{-\Lambda}\rvert=e^{-\xi}\lvert\Lambda\rvert$($\xi$ は $0$ と $\Lambda$ の間)で $e^{-\xi}\ge e^{-1}$、$\Lambda>1$ なら $1-e^{-\Lambda}\ge1-e^{-1}>e^{-1}$、$\Lambda<-1$ なら $e^{\lvert\Lambda\rvert}-1\ge e-1>e^{-1}$ だからである。
$\lvert\Lambda\rvert>1$ なら $\lvert2^a-3^b\rvert\ge e^{-1}2^a$ である。$\lvert\Lambda\rvert\le1$ とする。$b\log3\le a\log2+1$ なので、$a\ge3$ では $a(\log3-\log2)\ge3\cdot0.40>1$ より $b< a$ で、$H:=\max(a,b,1)=a$ である。thm-baker-lower-bound を $n=2$、$\alpha_1=2$、$\alpha_2=3$、$d=1$、$\kappa=4$($>n+1=3$)、$\beta_0=0$、$\beta_1=a$、$\beta_2=-b$ に当てる。整数の次数は $1$、高さは $\max(\lvert a\rvert,1)$ なので、$\beta_i$ の高さは $H=a$ 以下であり、得られる定数を $C$ とすると $\lvert\Lambda\rvert> C\,e^{-(\log a)^4}$ である。よって
$$ \lvert2^a-3^b\rvert\ge e^{-1}2^a\min\bigl(1,C\,e^{-(\log a)^4}\bigr)\ge e^{-1}\min(1,C)\,2^ae^{-(\log a)^4}. $$
$c:=e^{-1}\min(1,C)$ とおけば、どちらの場合も主張の不等式が成り立つ。
有限性:$(\log a)^4/a\to0$ なので $a\log2-(\log a)^4\to\infty$ であり、右辺は $a\to\infty$ で $\infty$ に発散する。したがって $\lvert2^a-3^b\rvert=\lvert k\rvert$ となる $a$ は有界である。$a$ が有界なら $3^b=2^a-k$ も有界で、$b$ も有界である。$\square$

量的な形の定数 $C$ は具体的に計算できる形でも与えられているので(rem-baker-lower-bound-source)、この証明から $a$ の上界も具体的に計算でき、有限個の場合を調べれば解をすべて求められる。たとえば $\lvert k\rvert\le10$ で解をもつのは、$a<200$ の範囲の探索では $2^1-3^1=-1$、$2^3-3^2=-1$、$2^1-3^0=1$、$2^2-3^1=1$、$2^3-3^1=5$、$2^5-3^3=5$、$2^3-3^0=7$、$2^4-3^2=7$ などである(計算機による探索)。Roth の定理のような有効でない近似定理からは有限性しか出ず、解をすべて求める手続きは得られない。

Diophantus 方程式と類数への応用

以下はこの記事では証明しない。

Thue 方程式の有効な解法

$F(x,y)$ を整数係数の既約な二元形式で次数 $3$ 以上のもの、$m$ を整数とする。$F(x,y)=m$ のすべての整数解は $\max(\lvert x\rvert,\lvert y\rvert)\le B$ をみたす。ここで $B$ は $F$ と $m$ から具体的に計算できる数である。

出典と仕組み

この定理はこの記事では証明しない(Bak71 §4、pp. 22–23。原論文は Baker, Philos. Trans. Roy. Soc. London A 263 (1968)、同論文の文献 [6])。解が有限個であることは Thueの定理(ディオファントス方程式) で証明するが、その証明は解の大きさを抑えない。

仕組みを Bak71 §4 の概説に沿って述べる(証明ではない)。

仕組みを開く

$F(x,y)=a_0\prod_j(x-\alpha_jy)$ と根で分解し、$\beta_j:=x-\alpha_jy$ とおく。$\beta_1\cdots\beta_n$ は $m/a_0$ に等しいので、根を含む代数体 $K$ の中で、各 $\beta_j$ は有限個の候補のどれかと単数の積になる。単数を基本単数 $\eta_1,\dots,\eta_r$ の冪で $\eta_1^{b_1}\cdots\eta_r^{b_r}$ と書く。解が大きいと、ある $\beta_l$ が非常に小さくなる。添字 $j,k,l$ が相異なるとき恒等式 $(\alpha_k-\alpha_l)\beta_j-(\alpha_j-\alpha_l)\beta_k=(\alpha_k-\alpha_j)\beta_l$(左辺を展開して確かめられる)の両辺を $(\alpha_j-\alpha_l)\beta_k$ で割ると、$\eta_1^{b_1'}\cdots\eta_r^{b_r'}\cdot\alpha'$($\alpha'$ は有限個の候補)が $1$ に非常に近いことになる。その対数は対数の一次形式 $b_1'\log\eta_1+\dots+b_r'\log\eta_r+\log\alpha'$ で、$0$ でなく、指数 $b'$ の大きさの指数関数程度に小さい。量的な形の下界はそれより遅くしか減らないので、指数 $b'$ が抑えられ、$\beta_j$ が、したがって $x,y$ が抑えられる。

  • Liouville の評価の有効な改良.次数 $n\ge3$ の代数的数 $\alpha$ と $\kappa>n$ について、具体的に計算できる $c=c(\alpha,\kappa)>0$ があって、すべての有理数 $p/q$($q>0$)で $\lvert\alpha-p/q\rvert> c\,q^{-n}e^{(\log q)^{1/\kappa}}$ が成り立つ(Bak71 §5、pp. 23–24)。Liouville の評価からの改良は、$q$ のどの正の冪よりも遅く増える因子 $e^{(\log q)^{1/\kappa}}$ だけで、指数 $n$ そのものは下がらないが、定数が計算できる点で、指数 $2+\varepsilon$ の Roth の定理(Thue–Siegel–Rothの定理)とは性格が違う。
  • 類数 $1$ の虚 2 次体.類数が $1$ の虚 2 次体は、平方因子をもたない正の整数 $d$ について $\mathbb{Q}(\sqrt{-d})$ で $d\in\{1,2,3,7,11,19,43,67,163\}$ のものに限る(Sil09 Appendix C の Example 11.3.1、p. 427。類数 の注意「類数 1 の 2 次体」)。類数 $1$ の虚 2 次体が有限個であることは 1934 年に知られていたが、その証明は有効でなかった。Gelfond と Linnik が問題を対数の一次形式の不等式に結びつけており、Baker は 1966 年の結果から 10 個目がないことを判定する有効な手続きを得た。同じころ Stark が Heegner の論文に始まる別の方法で同じ結論を得た(Bak71 §1、p. 19 と §5、p. 23)。類数 $2$ の虚 2 次体を決める手続きも、3 個の対数の一次形式の新しい評価から得られた(同 p. 23)。
  • 楕円曲線の整数点.整数 $A,B,C,D$ の絶対値が $H$ 以下で $Y^2=AX^3+BX^2+CX+D$ が楕円曲線を定めるとき、その整数点 $(x,y)$ は $\max(\lvert x\rvert,\lvert y\rvert)<\exp\bigl((10^6H)^{10^6}\bigr)$ をみたす(Baker。Sil09 Theorem IX.5.8 (a)、p. 291)。S 単数方程式 $a\alpha+b\beta=1$ の解の高さの有効な上界も、対数の一次形式から得られる(同 Theorem IX.5.5、p. 289。Schmidtの部分空間定理 の定理「S 単数定理」の 2 項の場合の有効版にあたる)。
  • $p$ 進の類似.Brumer は 1967 年に thm-baker-qualitative の $p$ 進版($p$ 進対数についての同じ形の 1 次独立性)を証明し、Ax の仕事と合わせて、アーベル体について Leopoldt の予想($p$ 進単数規準が $0$ でないこと)を解決した(Bak71 §5、p. 24。Leopoldt予想)。

反例と注意

主定理と系の仮定を 1 つずつ外すと、結論は成り立たなくなる。対数はすべて実の対数とする($\log1=0$)。

外す条件反例成り立たなくなること
主定理:対数が $\mathbb{Q}$ 上 1 次独立$\alpha_1=2$、$\alpha_2=4$$1,\log\alpha_1,\log\alpha_2$ は $\overline{\mathbb{Q}}$ 上 1 次独立
主定理:$\alpha_i$ が代数的数$\alpha_1=e$$1,\log\alpha_1$ は $\overline{\mathbb{Q}}$ 上 1 次独立
cor-baker-zero-or-transcendental:$\beta_i$ が代数的数$\alpha_1=2$、$\beta_1=1/\log2$$\Lambda$ は $0$ か超越数
cor-baker-exp:$\beta_0\ne0$$\beta_0=0$、$\alpha_1=2$、$\beta_1=1$値は超越数
cor-baker-gelfond-schneider-general:$1,\beta_i$ が $\mathbb{Q}$ 上 1 次独立$\alpha_1=4$、$\beta_1=1/2$値は超越数
cor-baker-gelfond-schneider-general:$\alpha_i\ne1$$\alpha_1=1$、$\beta_1=\sqrt2$値は超越数

各行の反例が、どの条件を破り、他の条件をみたすかを確かめる。

各行の確認を開く

1 行目:$2,4$ は $0$ でない代数的数だが、$\log4=2\log2$ なので対数は $\mathbb{Q}$ 上 1 次従属で、$2\cdot\log\alpha_1-1\cdot\log\alpha_2=0$ は $\overline{\mathbb{Q}}$ 上の自明でない関係である。

2 行目:$\log e=1$ は $0$ でないので、1 個の対数として $\mathbb{Q}$ 上 1 次独立だが、$e$ は代数的数でない(超越数)。$1\cdot1-1\cdot\log\alpha_1=0$ が自明でない関係である。

3 行目:$\beta_1=1/\log2$ は超越数である($\log2$ が超越数であることは 超越数 の例「超越数の例」)。$\Lambda=\beta_1\log2=1$ は $0$ でない代数的数である。

4 行目:$\beta_0=0$ のほかは条件をみたし、値 $e^0\cdot2^1=2$ は代数的数である。

5 行目:$4\ne0,1$ は代数的数、$\beta_1=1/2$ も代数的数だが、$1,1/2$ は $\mathbb{Q}$ 上 1 次従属である。値 $4^{1/2}=e^{(\log4)/2}=2$ は代数的数である。

6 行目:$1,\sqrt2$ は $\mathbb{Q}$ 上 1 次独立で、$\alpha_1=1$ は代数的数だが $1$ に等しい。$\log1=0$ なので値は $e^0=1$ で代数的数である。証明では $\log\alpha_j\ne0$ を使った。


注意を 2 つ挙げる。

  • 質的な形と量的な形の違い.質的な形は $\Lambda\ne0$ を言うだけで、$\Lambda$ がどれほど小さくなりうるかは述べない。Diophantus 方程式への応用には、$\Lambda$ の大きさの下界を係数の高さで表した量的な形が要る。
  • 有効性.量的な形の定数が計算できることが、解を求める手続きの源である。Thue の近似定理や Roth の定理から得られる有限性は、例外の大きさを抑えないので、それだけでは解を求められない(Thueの定理(ディオファントス方程式) の節「一般化と有効性」)。

関連項目

参考文献

[1]
Alan Baker, Effective methods in the theory of numbers, Actes du Congrès International des Mathématiciens (Nice, 1970), Tome 1, Gauthier-Villars, Paris, 1971, pp. 19–26, 1971, §1(Thue–Siegel の理論と類数の有限性の非有効性)p. 19、§2(質的な形と $e^{\beta_0}\alpha_1^{\beta_1}\cdots\alpha_n^{\beta_n}$ の超越性、補助関数による証明の概説)pp. 20–21、§3(量的な形の下界、Feldman の改良)p. 22、§4(Thue 方程式の有効な解法)pp. 22–23、§5(類数 1・2 の虚 2 次体、Liouville の評価の有効な改良、Brumer の $p$ 進版)pp. 23–24
[2]
Joseph H. Silverman, The Arithmetic of Elliptic Curves, 2nd ed., Graduate Texts in Mathematics 106, Springer, 2009, §IX.5:Theorem IX.5.2(Baker の下界の一つの形)p. 286、Theorem IX.5.5(S 単数方程式の有効な上界)p. 289、Theorem IX.5.8 (a)(楕円曲線の整数点の上界)p. 291。Appendix C の Example 11.3.1(類数 1 の虚 2 次体)p. 427

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