Diophantus近似(Diophantine approximation)とは、実数 $\alpha$ を有理数 $p/q$ で近似するときの誤差 $|\alpha-p/q|$ を分母 $q$ の大きさと比べて調べる数論の分野である。どの無理数にも $|\alpha-p/q|<1/(\sqrt5\,q^2)$ を満たす分数が無限にあり(Hurwitz の定理)、定数 $\sqrt5$ は黄金比のために改善できない。連分数の収束子は分母を制限したときの最良の近似であり、部分商が有界であることは $|\alpha-p/q|\ge c/q^2$ がつねに成り立つことと同値である。また $\sum_q q\psi(q)<\infty$ なら $|\alpha-p/q|<\psi(q)$ の解を無限にもつ実数は測度 $0$ なので、ほとんどすべての実数の近似指数は $2$ である。
実数を有理数で近似するとき、分母を大きくすれば誤差はいくらでも小さくできる。Diophantus 近似(Diophantine approximation)は、誤差を分母の大きさと比べて、「分母 $q$ の有理数でどこまでよく近似できるか」を調べる数論の分野である。どの無理数 $\alpha$ にも $|\alpha-p/q|<1/q^2$ を満たす有理数 $p/q$ が無限にあり、指数 $2$ はほとんどすべての実数についてそれ以上改善できない。一方、どこまでよく近似できるかは数の算術的な性質を反映し、代数的な数はあまりよく近似できず、極端によく近似できる数は超越数になる。
この記事では、Diophantus 近似の基本用語を定めたあと、連分数の収束子が最良の近似を与えること(thm-da-best)、定数 $\sqrt5$ を付けた Hurwitz の定理(thm-da-hurwitz)、部分商が有界であることと「悪く近似される」ことの同値性(prop-da-badly)、ほとんどすべての実数について指数 $2$ が最良であること(thm-da-measure)を証明する。最後に、複数の数を同じ分母で近似する同時近似と、$n\alpha$ の小数部分の稠密性(thm-da-kronecker)を扱う。
実数 $t$ について、$t$ から最も近い整数までの距離を $\|t\|:=\min_{n\in\mathbb{Z}}|t-n|$ と書く。分数 $p/q$ はつねに $p,q\in\mathbb{Z}$、$q\ge1$ を意味する。$|\alpha-p/q|=|q\alpha-p|/q$ であり、$|q\alpha-p|\ge\|q\alpha\|$ である。
$\alpha$ を実数とする。
最良近似は、誤差を $|\alpha-p/q|$ ではなく $|q\alpha-p|$ で測っている。$|q'\alpha-p'|>|q\alpha-p|$ で $q'\le q$ なら $|\alpha-p'/q'|>|\alpha-p/q|$ なので、最良近似 $p/q$ は、分母が $q$ 以下の分数のなかで $\alpha$ に最も近い。
以下、無理数 $\alpha$ の連分数展開を $\alpha=[a_0;a_1,a_2,\dots]$、完全商を $x_k$、収束子を $p_n/q_n$ とし、記号は 連分数 の記事に従う($p_{-1}=1$、$q_{-1}=0$、$p_n=a_np_{n-1}+p_{n-2}$、$q_n=a_nq_{n-1}+q_{n-2}$、$q_0=1$)。とくに次の事実を使う。
分母 $q$ の分数は間隔 $1/q$ で並んでいるので、何も工夫しなければ誤差は $1/(2q)$ 程度までしか保証されない。ところが分母を $1$ から $N$ まで動かせば、$N$ 種類の間隔の網を重ねることになり、誤差 $1/(qN)\le1/q^2$ の分数が必ず見つかる。誤差を分母の何乗で測れるかが、数ごとの「近似されやすさ」を表す。連分数は、この意味で最もよい分数を順に取り出す仕組みであり、部分商 $a_{n+1}$ が大きいほど $p_n/q_n$ はよい近似になる。黄金比のように部分商がすべて $1$ の数は最も近似されにくい。
主な結果を並べると次のようになる。
| 結果 | 主張 | 対象 | 扱う記事 |
|---|---|---|---|
| Dirichlet | $\lvert\alpha-p/q\rvert<1/q^2$ が無限個 | すべての無理数 | 鳩の巣原理、連分数 |
| Hurwitz | $\lvert\alpha-p/q\rvert<1/(\sqrt5q^2)$ が無限個、$\sqrt5$ は改善できない | すべての無理数 | この記事、黄金比 |
| Liouville | $\lvert\alpha-p/q\rvert\ge c/q^d$ | 次数 $d$ の代数的数 | 超越数 |
| Roth | $\lvert\alpha-p/q\rvert<1/q^{2+\varepsilon}$ は有限個 | 代数的な無理数 | Rothの定理 |
| 測度 | $\lvert\alpha-p/q\rvert<1/q^{2+\varepsilon}$ は有限個 | ほとんどすべての実数 | この記事 |
$\alpha$ を無理数とする。
1:$p_{n+1}q_n-p_nq_{n+1}=(-1)^n$ なので、連立 1 次方程式
$$
p=\mu p_n+\nu p_{n+1},\qquad q=\mu q_n+\nu q_{n+1}
$$
は整数の解 $\mu=(-1)^n(qp_{n+1}-pq_{n+1})$、$\nu=(-1)^n(pq_n-qp_n)$ をもつ(代入すると、たとえば第 1 式の右辺は $(-1)^np(p_{n+1}q_n-p_nq_{n+1})=p$ になる)。
$\nu=0$ のとき:$(p,q)=\mu(p_n,q_n)$ であり、$q\ge1$、$q_n\ge1$ から $\mu\ge1$、$(p,q)\ne(p_n,q_n)$ から $\mu\ge2$ である。$\alpha$ は無理数なので $q_n\alpha-p_n\ne0$ であり、$|q\alpha-p|=\mu|q_n\alpha-p_n|>|q_n\alpha-p_n|$ である。
$\mu=0$ のとき:$q=\nu q_{n+1}$ で $q\ge1$ から $\nu\ge1$ となり、$q\ge q_{n+1}$ に反する。
$\mu\ne0$、$\nu\ne0$ のとき:$\nu>0$ なら $\mu q_n=q-\nu q_{n+1}< q_{n+1}-q_{n+1}=0$ で $\mu<0$ であり、$\nu<0$ なら $\mu q_n=q-\nu q_{n+1}>0$ で $\mu>0$ である。したがって $\mu$ と $\nu$ は符号が逆である。一方、$q_n\alpha-p_n$ と $q_{n+1}\alpha-p_{n+1}$ の符号は $(-1)^n$ と $(-1)^{n+1}$ で逆である。よって $\mu(q_n\alpha-p_n)$ と $\nu(q_{n+1}\alpha-p_{n+1})$ は同じ符号の $0$ でない数であり、
$$
|q\alpha-p|=\bigl|\mu(q_n\alpha-p_n)+\nu(q_{n+1}\alpha-p_{n+1})\bigr|=|\mu||q_n\alpha-p_n|+|\nu||q_{n+1}\alpha-p_{n+1}|>|q_n\alpha-p_n|
$$
である。
2:$|q_n\alpha-p_n|=1/(x_{n+1}q_n+q_{n-1})$ で、$x_{n+1}< a_{n+1}+1$ から分母は $q_{n+1}+q_n$ より小さい。また $|q_{n+1}\alpha-p_{n+1}|=1/(x_{n+2}q_{n+1}+q_n)$ で、$x_{n+2}>1$ から分母は $q_{n+1}+q_n$ より大きい。よって $|q_{n+1}\alpha-p_{n+1}|<1/(q_{n+1}+q_n)<|q_n\alpha-p_n|$ である。
3:$n\ge1$ では $q_{n-1}\ge1$ なので $q_{n+1}=a_{n+1}q_n+q_{n-1}>q_n$ である。$(p',q')\ne(p_n,q_n)$、$1\le q'\le q_n$ なら $q'< q_{n+1}$ なので、1 から $|q'\alpha-p'|>|q_n\alpha-p_n|$ であり、$(p_n,q_n)$ は最良近似である。逆に $(p,q)$ を最良近似とする。$q_0=1\le q$ かつ $q_n\to\infty$ なので、$q_n\le q$ を満たす最大の $n\ge0$ がとれ、$q_n\le q< q_{n+1}$ である。$(p,q)\ne(p_n,q_n)$ とすると、1 から $|q\alpha-p|>|q_n\alpha-p_n|$ となるが、$q_n\le q$ なので $(p,q)$ が最良近似であることに反する。よって $(p,q)=(p_n,q_n)$ である。$\square$
1 と同じ型の評価は HW60 Theorem 182(p. 151)にある。連分数 の記事の反例「よい近似がすべて収束子とは限らない」が示すように、$|\alpha-p/q|<1/q^2$ を満たすだけでは収束子とは限らないが、最良近似という強い意味では収束子だけがよい近似である。$|\alpha-p/q|<1/(2q^2)$ なら $p/q$ は収束子である(Pell方程式 の記事の補題「収束子であるための十分条件」)。
$\pi=[3;7,15,1,292,1,\dots]$ の収束子は $3,\frac{22}7,\frac{333}{106},\frac{355}{113},\frac{103993}{33102},\dots$ である(連分数 の例「円周率とネイピア数」)。$|113\pi-355|=3.014\ldots\times10^{-5}$ であり、thm-da-best の 1($n=3$、$q_4=33102$)により、$1\le q<33102$ で $(p,q)\ne(355,113)$ ならば $|q\pi-p|>|113\pi-355|$ である。とくに $q\le113$ なら
$$
\Bigl|\pi-\frac pq\Bigr|=\frac{|q\pi-p|}q>\frac{|113\pi-355|}{q}\ge\frac{|113\pi-355|}{113}=\Bigl|\pi-\frac{355}{113}\Bigr|
$$
なので、分母が $113$ 以下の分数のうち $\pi$ に最も近いのは $\frac{355}{113}$ である。$\frac{355}{113}$ がこれほどよいのは、次の部分商 $292$ が大きく、$|\pi-\frac{355}{113}|<1/(113\cdot33102)$ となるからである。
すべての無理数について $|\alpha-p/q|<1/q^2$ の解は無限にあるが、右辺の定数はどこまで小さくできるだろうか。答えは $1/\sqrt5$ である。
$\alpha$ を無理数とする。$n\ge1$ について、連続する 3 つの収束子 $p_{n-1}/q_{n-1}$、$p_n/q_n$、$p_{n+1}/q_{n+1}$ の少なくとも 1 つは
$$
\Bigl|\alpha-\frac pq\Bigr|<\frac1{\sqrt5\,q^2}
$$
を満たす。したがって、この不等式を満たす有理数 $p/q$ は無限にある。
$\varphi:=\frac{1+\sqrt5}2$ とおくと $\frac1\varphi=\frac{\sqrt5-1}2$ であり、$\varphi+\frac1\varphi=\sqrt5$、$1+\frac1\varphi=\varphi$ である。
3 つの収束子のどれも不等式を満たさない、すなわち $k=n-1,n,n+1$ について $|\alpha-p_k/q_k|\ge1/(\sqrt5q_k^2)$ と仮定する。$k=n-1,n$ について、$\alpha-p_k/q_k$ と $\alpha-p_{k+1}/q_{k+1}$ は符号が逆なので $\alpha$ は 2 つの収束子の間にあり、連分数 の記事の命題「隣り合う収束子の行列式」から
$$
\frac1{q_kq_{k+1}}=\Bigl|\frac{p_{k+1}}{q_{k+1}}-\frac{p_k}{q_k}\Bigr|=\Bigl|\alpha-\frac{p_k}{q_k}\Bigr|+\Bigl|\alpha-\frac{p_{k+1}}{q_{k+1}}\Bigr|\ge\frac1{\sqrt5}\Bigl(\frac1{q_k^2}+\frac1{q_{k+1}^2}\Bigr)
$$
である。両辺に $\sqrt5\,q_kq_{k+1}$ を掛けると、$t_k:=q_{k+1}/q_k$ について $t_k+1/t_k\le\sqrt5$、すなわち
$$
t_k^2-\sqrt5\,t_k+1=(t_k-\varphi)\Bigl(t_k-\frac1\varphi\Bigr)\le0
$$
であり、$\frac1\varphi\le t_k\le\varphi$ である。$t_k$ は有理数で $\varphi,\frac1\varphi$ は無理数なので、$\frac1\varphi< t_k<\varphi$ である。
$k=n-1$ から $q_n/q_{n-1}<\varphi$、すなわち $q_{n-1}/q_n>1/\varphi$ である。$k=n$ から $q_{n+1}/q_n<\varphi$ である。ところが $a_{n+1}\ge1$ なので
$$
\frac{q_{n+1}}{q_n}=a_{n+1}+\frac{q_{n-1}}{q_n}>1+\frac1\varphi=\varphi
$$
となり、矛盾する。よって 3 つのうち少なくとも 1 つは不等式を満たす。$n=1,4,7,\dots$ について 3 つずつの組は互いに重ならず、$k\ge1$ で $q_k$ は狭義に増加するので、得られる分数は互いに異なり、無限にある。$\square$
定数 $\sqrt5$ はこれ以上大きくできない。$c>\sqrt5$ なら、黄金比 $\varphi$ について $|\varphi-p/q|<1/(cq^2)$ を満たす分数は有限個しかない(黄金比 の記事の定理「黄金比の近似の限界」)。この 2 つは HW60 Theorem 193・194(p. 164)、3 つの収束子についての主張は Theorem 195(p. 164)である。$\varphi=[1;1,1,1,\dots]$ は部分商がすべて $1$ で、thm-da-hurwitz の証明が示すように、分母の比 $q_{k+1}/q_k$ が $\varphi$ を超えにくい数ほど近似しにくい。
無理数 $\alpha$ について、次は同値である。
2 ⇒ 1(と最後の主張):$n\ge0$ について $q_{n-1}\le q_n$ なので $q_{n+1}=a_{n+1}q_n+q_{n-1}\le(M+1)q_n$ であり、thm-da-best の 2 の証明で見たように
$$
|q_n\alpha-p_n|>\frac1{q_{n+1}+q_n}\ge\frac1{(M+2)q_n}
$$
である。分数 $p/q$ を任意にとり、$q_n\le q< q_{n+1}$ となる $n\ge0$ をとる($q_n\le q$ を満たす最大の $n$)。thm-da-best の 1($(p,q)=(p_n,q_n)$ なら等号)により
$$
|q\alpha-p|\ge|q_n\alpha-p_n|>\frac1{(M+2)q_n}\ge\frac1{(M+2)q}
$$
であり、$q$ で割って $|\alpha-p/q|>1/((M+2)q^2)$ を得る。
1 ⇒ 2:対偶を示す。部分商が有界でないとする。$q_{n+1}\ge a_{n+1}q_n$ なので $|\alpha-p_n/q_n|<1/(q_nq_{n+1})\le1/(a_{n+1}q_n^2)$ である。どんな $c>0$ についても $a_{n+1}>1/c$ となる $n$ があり、そのとき $|\alpha-p_n/q_n|< c/q_n^2$ となるので、$\alpha$ は悪く近似されない。$\square$
2 次の無理数(整数係数の 2 次方程式の根である無理数)は、連分数展開が途中から循環する(連分数 の記事の定理「循環連分数と2次無理数」)ので部分商が有界であり、悪く近似される。たとえば $\sqrt2=[1;2,2,2,\dots]$ では $M=2$ で、すべての分数について $|\sqrt2-p/q|>1/(4q^2)$ である。実際、収束子 $\frac32,\frac75,\frac{17}{12},\frac{41}{29}$ で $q^2|\sqrt2-p/q|$ は $0.343,0.355,0.353,0.354$ であり、$1/(2\sqrt2)=0.3535\ldots$ に近づく。一方 $e=[2;1,2,1,1,4,1,1,6,\dots]$ は部分商が有界でないので悪く近似されない。部分商が有界な実数全体は Lebesgue 測度 $0$ の集合である(HW60 Theorem 196、p. 166。この記事では証明しない)。
$\psi$ を正の整数全体から正の実数への関数とし、$\sum_{q=1}^\infty q\psi(q)<\infty$ とする。このとき、$\psi$ で近似できる実数全体の集合 $E(\psi)$ は Lebesgue 測度 $0$ である。
$m$ を Lebesgue測度 とする。整数 $q\ge1$ について
$$
E_q:=\Bigl\{\alpha\in[0,1)\ \Bigm|\ \text{ある整数 }p\text{ で }\Bigl|\alpha-\frac pq\Bigr|<\psi(q)\Bigr\}
$$
とおき、$m(E_q)\le2q\psi(q)$ を示す。$2q\psi(q)\ge1$ なら $E_q\subset[0,1)$ から明らかである。$\psi(q)<1/(2q)$ なら、$\alpha\in E_q$ に対応する $p$ は $-1/q< p/q<1+1/q$、すなわち $0\le p\le q$ を満たす。$p=0$ の区間と $[0,1)$ の共通部分の長さは $\psi(q)$ 以下、$p=q$ についても同様であり、$1\le p\le q-1$ の区間の長さは $2\psi(q)$ である。よって $m(E_q)\le2\psi(q)+2(q-1)\psi(q)=2q\psi(q)$ である。
$\alpha\in E(\psi)\cap[0,1)$ とする。1 つの $q$ について $|\alpha-p/q|<\psi(q)$ を満たす $p$ は有限個なので、そのような組 $(p,q)$ が無限個あれば $q$ も無限に多くの値をとる。したがってどの $Q$ についても $\alpha\in\bigcup_{q\ge Q}E_q$ であり、
$$
m\bigl(E(\psi)\cap[0,1)\bigr)\le\sum_{q\ge Q}m(E_q)\le2\sum_{q\ge Q}q\psi(q)
$$
である。右辺は収束する級数の残りなので $Q\to\infty$ で $0$ に近づき、$E(\psi)\cap[0,1)$ は測度 $0$ である。最後に、$|\alpha-p/q|=|(\alpha+1)-(p+q)/q|$ なので $\alpha\in E(\psi)$ と $\alpha+1\in E(\psi)$ は同値であり、$E(\psi)=\bigcup_{k\in\mathbb{Z}}\bigl((E(\psi)\cap[0,1))+k\bigr)$ は測度 $0$ の集合の可算個の和集合として測度 $0$ である。$\square$
ほとんどすべての実数 $\alpha$ について、どんな $\varepsilon>0$ についても $|\alpha-p/q|<1/q^{2+\varepsilon}$ を満たす分数は有限個しかない。したがって、ほとんどすべての実数 $\alpha$ の近似指数(Rothの定理 の記事の定義「近似指数」)は $2$ である。
$\psi_k(q):=q^{-2-1/k}$ とすると $\sum_qq\psi_k(q)=\sum_qq^{-1-1/k}<\infty$ なので、thm-da-measure により $E(\psi_k)$ は測度 $0$ であり、可算個の和 $E:=\bigcup_{k\ge1}E(\psi_k)$ も測度 $0$ である。有理数全体も測度 $0$ である。$\alpha$ が $E$ にも有理数全体にも属さないとし、$\varepsilon>0$ をとって $1/k<\varepsilon$ とすると、$|\alpha-p/q|<1/q^{2+\varepsilon}\le\psi_k(q)$ を満たす組 $(p,q)$ は有限個なので、近似指数は $2+\varepsilon$ 以下である。一方、無理数 $\alpha$ はすべての収束子について $|\alpha-p_n/q_n|<1/q_n^2$ を満たすので、近似指数は $2$ 以上である。よって近似指数は $2$ である。$\square$
代数的な無理数の近似指数も $2$ である(Rothの定理)が、それを示すのははるかに難しい。thm-da-measure の逆向きとして、$\chi(q)/q$ が単調増加で $\sum_q1/\chi(q)$ が発散すれば、ほとんどすべての $\alpha$ について $|\alpha-p/q|<1/(q\chi(q))$ の解が無限にあることが知られている(Khintchine の定理。HW60 Theorem 199、p. 169。この記事では証明しない)。たとえば $q\ge2$ で $\chi(q)=q\log q$ とおくと、ほとんどすべての実数について $|\alpha-p/q|<1/(q^2\log q)$ の解が無限にある。
$\alpha_1,\dots,\alpha_k$ を実数、$N\ge1$ を整数とする。整数 $q$ と $p_1,\dots,p_k$ で
$$
1\le q\le N^k,\qquad |q\alpha_i-p_i|<\frac1N\quad(i=1,\dots,k)
$$
を満たすものがある。さらに $\alpha_1,\dots,\alpha_k$ のどれかが無理数なら、すべての $i$ について $|\alpha_i-p_i/q|<1/q^{1+1/k}$ となる $q\ge1$ と $p_1,\dots,p_k$ の組が無限にある。
要点:$[0,1)^k$ を $N^k$ 個の小さな箱に分けると、$N^k+1$ 個の点 $(\{j\alpha_1\},\dots,\{j\alpha_k\})$($j=0,\dots,N^k$、$\{t\}$ は小数部分)のうち 2 つは同じ箱に入り、その番号の差が $q$ になる。
実数 $t$ の小数部分を $\{t\}:=t-\lfloor t\rfloor\in[0,1)$ と書く。$[0,1)^k$ を、各辺を $N$ 等分した $N^k$ 個の箱 $\prod_{i=1}^k[t_i/N,(t_i+1)/N)$($t_i\in\{0,\dots,N-1\}$)に分ける。$N^k+1$ 個の点 $(\{j\alpha_1\},\dots,\{j\alpha_k\})$($j=0,1,\dots,N^k$)のうち 2 つ、$j< j'$ に対応するものが同じ箱に入る(鳩の巣原理 の定理「鳩の巣原理の基本形」)。$q:=j'-j$、$p_i:=\lfloor j'\alpha_i\rfloor-\lfloor j\alpha_i\rfloor$ とおくと $1\le q\le N^k$ であり、$q\alpha_i-p_i=\{j'\alpha_i\}-\{j\alpha_i\}$ なので $|q\alpha_i-p_i|< 1/N$ である。
後半:$q\le N^k$ から $1/N\le q^{-1/k}$ なので、$|\alpha_i-p_i/q|< 1/(Nq)\le1/q^{1+1/k}$ である。$\alpha_1$ が無理数だとして、得られる $q$ が有限個の値しかとらなかったとする。$\alpha_1$ は無理数なのでそれらの有限個の $q$ について $\|q\alpha_1\|>0$ であり、その最小値を $\delta>0$ とする。$N>1/\delta$ として前半を使うと、得られる $q$ は $\|q\alpha_1\|\le|q\alpha_1-p_1|< 1/N< \delta$ を満たし、$\delta$ が最小値であることに反する。$\square$
$k=1$ の場合が 鳩の巣原理 の記事の定理「Dirichlet の近似定理」であり、全体は HW60 Theorem 200(p. 170)である。同時近似の指数 $1+1/k$ は $k$ が増えると $1$ に近づくが、$k$ 個の数を同じ分母で近似するのだから、1 つずつ別の分母を使う場合より条件が厳しいのは自然である。
$\alpha$ を無理数とする。$n=1,2,3,\dots$ についての小数部分 $\{n\alpha\}$ 全体は、区間 $[0,1]$ で稠密である。
要点:$0<|q\alpha-p|<\varepsilon$ となる $q$ をとると、$q,2q,3q,\dots$ の倍数での小数部分は刻み $|q\alpha-p|$ で $[0,1]$ を端から端まで渡る。
$\varepsilon>0$ と $y\in[0,1]$ をとる。prop-da-simultaneous($k=1$、$N>1/\varepsilon$)により $q\ge1$ と $p$ で $|q\alpha-p|< \varepsilon$ となるものがあり、$\alpha$ は無理数なので $\delta:=q\alpha-p\neq0$ である。
$\delta>0$ のとき:$K$ を $K\delta< 1$ を満たす最大の整数とすると、$1\le k\le K$ について $kq\alpha=kp+k\delta$ で $0< k\delta< 1$ なので $\{kq\alpha\}=k\delta$ である。点 $\delta,2\delta,\dots,K\delta$ は間隔 $\delta< \varepsilon$ で並び、$\delta< \varepsilon$、$K\delta>1-\delta>1-\varepsilon$ なので、$[0,1]$ のどの点 $y$ からも距離 $\varepsilon$ 未満のところにこれらの点のどれかがある。
$\delta< 0$ のとき:同様に $k|\delta|< 1$ なら $\{kq\alpha\}=1-k|\delta|$ であり、点 $1-|\delta|,1-2|\delta|,\dots$ が間隔 $|\delta|< \varepsilon$ で $[0,1]$ を渡る。
いずれの場合も、$n=kq$ について $|\{n\alpha\}-y|< \varepsilon$ となる。$\square$
これは HW60 Theorem 439(p. 376)である。$\alpha$ が有理数 $a/b$(既約、$b\ge1$)なら $\{n\alpha\}$ は $0,1/b,\dots,(b-1)/b$ の $b$ 個の値しかとらず、稠密でない。$\{n\alpha\}$ が単に稠密であるだけでなく $[0,1)$ の各区間に長さに比例した割合で入ること(一様分布)も成り立つ(HW60 §23.10、Theorem 445、p. 390。この記事では証明しない)。
| 外す条件 | 反例 | 成り立たなくなること |
|---|---|---|
| $\alpha$ が無理数(thm-da-hurwitz) | $\alpha=\frac12$ | $\alpha$ と異なる分数 $p/q$ で $\lvert\alpha-p/q\rvert<1/(\sqrt5q^2)$ のものが無限にある |
| 定数が $\sqrt5$ 以下(thm-da-hurwitz) | 黄金比 $\varphi$、定数 $c>\sqrt5$ | 不等式を満たす分数が無限にある |
| $\sum_qq\psi(q)<\infty$(thm-da-measure) | $\psi(q)=1/q^2$ | $E(\psi)$ は測度 $0$ |
| 「ほとんどすべて」(cor-da-exponent) | Liouville 数 | 近似指数は $2$ |
| 部分商が有界(prop-da-badly) | $e$ | 悪く近似される |
1 行目:$\alpha=a/b$($b\ge1$)と異なる分数 $p/q$ では $|a/b-p/q|=|aq-bp|/(bq)\ge1/(bq)$ である。これが $1/(\sqrt5q^2)$ より小さいなら $q< b/\sqrt5$ であり、そのような $q$ は有限個、各 $q$ について $p$ も有限個なので、解は有限個である。無理数であることは thm-da-hurwitz の証明で連分数が無限に続くことに使われている。
2 行目:黄金比 の記事の定理「黄金比の近似の限界」による。$\sqrt5$ はすべての無理数に通用する定数としては最良である。
3 行目:$\sum_qq\cdot q^{-2}=\sum_q1/q$ は発散する。すべての無理数はすべての収束子について $|\alpha-p_n/q_n|<1/q_n^2$ を満たすので $E(\psi)$ に属し、$E(\psi)$ は無理数全体を含んで測度 $0$ ではない。
4 行目:超越数 の記事の定義「Liouville数の定義」により、Liouville 数 $\alpha$ には各 $n$ について $0<|\alpha-p/q|<1/q^n$($q\ge2$)となる分数がある。$|\alpha-p/q|<2^{-n}\to0$ かつ $\alpha$ は有理数でない(同じ記事の系「Liouville数の超越性」)ので、これらの分数は無限に多くの異なる値をとり、どの $\mu$ についても $n\ge\mu$ のものが $|\alpha-p/q|<1/q^\mu$ を満たす。よって近似指数は $\infty$ である。cor-da-exponent の結論は測度 $0$ の例外を除いてしか成り立たない。
5 行目:$e$ の部分商 $1,2k,1$ の $2k$ は限りなく大きくなるので、prop-da-badly により $e$ は悪く近似されない。$e$ は無理数なので Hurwitz の定理は成り立つが、それより強い定数 $c/q^2$ の下からの評価はない。
ある番号から先の部分商がすべて $1$ であるような無理数(黄金比と同値な数)を除けば、thm-da-hurwitz の $\sqrt5$ を $\sqrt8$ に改善できる(HW60 §11.10、pp. 165–166。この記事では証明しない)。HW60 は §24.6 の注(p. 412)で、2 元 2 次形式の最小値について、例外を順に除くごとに改善される定数の列が Markov 数 $1,2,5,13,29,\dots$ で表される一連の定理を挙げ、有理数による近似にも同様の一連の定理があって、その最初が thm-da-hurwitz(Theorem 193)であると述べている。Markov 数は Markov 方程式 $x^2+y^2+z^2=3xyz$ の正の整数解に現れる数で、その解はすべて無限降下によって求められる(無限降下法 の記事の定理「$x^2+y^2+z^2=kxyz$ の正の整数解」)。
次数 $d$ の代数的数は $|\alpha-p/q|\ge c/q^d$ を満たす(超越数 の記事の定理「Liouville の近似定理」)。これを使うと、Liouville 数のように非常によく近似できる数が超越数であることが分かる。指数 $d$ を $2+\varepsilon$ まで下げたのが Rothの定理 であり、その帰結として、$x^3-2y^3=11$ のような Thue 方程式の整数解は有限個である(Rothの定理 の記事の定理「Thue 方程式の解の有限性」)。2 次の無理数については Liouville の評価がすでに最良で、prop-da-badly はそれを連分数の言葉で言い直したものになっている。Pell方程式 の解が $\sqrt d$ の収束子として現れるのも、$p^2-dq^2=1$ の解が $|\sqrt d-p/q|<1/(2q^2)$ を満たす非常によい近似だからである。
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