Diophantus近似

同義語:ディオファントス近似Diophantine approximation

概要

Diophantus近似(Diophantine approximation)とは、実数 $\alpha$ を有理数 $p/q$ で近似するときの誤差 $|\alpha-p/q|$ を分母 $q$ の大きさと比べて調べる数論の分野である。どの無理数にも $|\alpha-p/q|<1/(\sqrt5\,q^2)$ を満たす分数が無限にあり(Hurwitz の定理)、定数 $\sqrt5$ は黄金比のために改善できない。連分数の収束子は分母を制限したときの最良の近似であり、部分商が有界であることは $|\alpha-p/q|\ge c/q^2$ がつねに成り立つことと同値である。また $\sum_q q\psi(q)<\infty$ なら $|\alpha-p/q|<\psi(q)$ の解を無限にもつ実数は測度 $0$ なので、ほとんどすべての実数の近似指数は $2$ である。

$$\newcommand{C}[0]{\mathbb{C}} \newcommand{div}[0]{\mathbin{÷}} \newcommand{N}[0]{\mathbb{N}} \newcommand{Q}[0]{\mathbb{Q}} \newcommand{R}[0]{\mathbb{R}} \newcommand{Z}[0]{\mathbb{Z}} $$

前提知識: 有理数, 無理数, 連分数

実数を有理数で近似するとき、分母を大きくすれば誤差はいくらでも小さくできる。Diophantus 近似(Diophantine approximation)は、誤差を分母の大きさと比べて、「分母 $q$ の有理数でどこまでよく近似できるか」を調べる数論の分野である。どの無理数 $\alpha$ にも $|\alpha-p/q|<1/q^2$ を満たす有理数 $p/q$ が無限にあり、指数 $2$ はほとんどすべての実数についてそれ以上改善できない。一方、どこまでよく近似できるかは数の算術的な性質を反映し、代数的な数はあまりよく近似できず、極端によく近似できる数は超越数になる。
この記事では、Diophantus 近似の基本用語を定めたあと、連分数の収束子が最良の近似を与えること(thm-da-best)、定数 $\sqrt5$ を付けた Hurwitz の定理(thm-da-hurwitz)、部分商が有界であることと「悪く近似される」ことの同値性(prop-da-badly)、ほとんどすべての実数について指数 $2$ が最良であること(thm-da-measure)を証明する。最後に、複数の数を同じ分母で近似する同時近似と、$n\alpha$ の小数部分の稠密性(thm-da-kronecker)を扱う。

定義

実数 $t$ について、$t$ から最も近い整数までの距離を $\|t\|:=\min_{n\in\mathbb{Z}}|t-n|$ と書く。分数 $p/q$ はつねに $p,q\in\mathbb{Z}$、$q\ge1$ を意味する。$|\alpha-p/q|=|q\alpha-p|/q$ であり、$|q\alpha-p|\ge\|q\alpha\|$ である。

Diophantus 近似の基本用語

$\alpha$ を実数とする。

  1. $\psi$ を正の整数全体から正の実数への関数とする。$|\alpha-p/q|<\psi(q)$ を満たす整数の組 $(p,q)$($q\ge1$)が無限個あるとき、$\alpha$ は $\psi$ で近似できる という。
  2. 整数の組 $(p,q)$($q\ge1$)が $\alpha$ の 最良近似 であるとは、$1\le q'\le q$ を満たす整数の組 $(p',q')\neq(p,q)$ すべてについて $|q'\alpha-p'|>|q\alpha-p|$ となることをいう。
  3. 無理数 $\alpha$ が 悪く近似される(badly approximable)とは、定数 $c>0$ があって、すべての分数 $p/q$ について $|\alpha-p/q|\ge c/q^2$ となることをいう。

最良近似は、誤差を $|\alpha-p/q|$ ではなく $|q\alpha-p|$ で測っている。$|q'\alpha-p'|>|q\alpha-p|$ で $q'\le q$ なら $|\alpha-p'/q'|>|\alpha-p/q|$ なので、最良近似 $p/q$ は、分母が $q$ 以下の分数のなかで $\alpha$ に最も近い。
以下、無理数 $\alpha$ の連分数展開を $\alpha=[a_0;a_1,a_2,\dots]$、完全商を $x_k$、収束子を $p_n/q_n$ とし、記号は 連分数 の記事に従う($p_{-1}=1$、$q_{-1}=0$、$p_n=a_np_{n-1}+p_{n-2}$、$q_n=a_nq_{n-1}+q_{n-2}$、$q_0=1$)。とくに次の事実を使う。

  • $n\ge1$ で $q_n\ge q_{n-1}$、$n\ge2$ で $q_n>q_{n-1}$ であり、$q_n\to\infty$ である。
  • $p_{n+1}q_n-p_nq_{n+1}=(-1)^n$(連分数 の記事の命題「隣り合う収束子の行列式」)。
  • $q_n\alpha-p_n=\dfrac{(-1)^n}{x_{n+1}q_n+q_{n-1}}$ であり、$a_{n+1}< x_{n+1}< a_{n+1}+1$ である(連分数 の記事の定理「無理数の連分数展開」とその証明)。とくに $q_n\alpha-p_n$ の符号は $(-1)^n$ で、$|\alpha-p_n/q_n|<1/(q_nq_{n+1})\le1/q_n^2$ である。
    最後の事実から、どの無理数もすべての収束子について $|\alpha-p_n/q_n|<1/q_n^2$ を満たし、関数 $\psi(q)=1/q^2$ で近似できる。同じことは鳩の巣原理からも分かる(鳩の巣原理 の定理「Dirichlet の近似定理」)。

直感

分母 $q$ の分数は間隔 $1/q$ で並んでいるので、何も工夫しなければ誤差は $1/(2q)$ 程度までしか保証されない。ところが分母を $1$ から $N$ まで動かせば、$N$ 種類の間隔の網を重ねることになり、誤差 $1/(qN)\le1/q^2$ の分数が必ず見つかる。誤差を分母の何乗で測れるかが、数ごとの「近似されやすさ」を表す。連分数は、この意味で最もよい分数を順に取り出す仕組みであり、部分商 $a_{n+1}$ が大きいほど $p_n/q_n$ はよい近似になる。黄金比のように部分商がすべて $1$ の数は最も近似されにくい。
主な結果を並べると次のようになる。

結果主張対象扱う記事
Dirichlet$\lvert\alpha-p/q\rvert<1/q^2$ が無限個すべての無理数鳩の巣原理、連分数
Hurwitz$\lvert\alpha-p/q\rvert<1/(\sqrt5q^2)$ が無限個、$\sqrt5$ は改善できないすべての無理数この記事、黄金比
Liouville$\lvert\alpha-p/q\rvert\ge c/q^d$次数 $d$ の代数的数超越数
Roth$\lvert\alpha-p/q\rvert<1/q^{2+\varepsilon}$ は有限個代数的な無理数Rothの定理
測度$\lvert\alpha-p/q\rvert<1/q^{2+\varepsilon}$ は有限個ほとんどすべての実数この記事

収束子と最良近似

収束子は最良近似である

$\alpha$ を無理数とする。

  1. $n\ge0$ とし、整数 $p,q$ が $1\le q< q_{n+1}$、$(p,q)\neq(p_n,q_n)$ を満たすならば、$|q\alpha-p|>|q_n\alpha-p_n|$ である。
  2. $|q_n\alpha-p_n|$ は $n\ge0$ について狭義に減少する。
  3. $n\ge1$ について $(p_n,q_n)$ は $\alpha$ の最良近似である。逆に、$\alpha$ の最良近似はすべて、ある $n\ge0$ についての $(p_n,q_n)$ である。
隣り合う 2 つの収束子の整数係数の組み合わせで表す

1:$p_{n+1}q_n-p_nq_{n+1}=(-1)^n$ なので、連立 1 次方程式
$$ p=\mu p_n+\nu p_{n+1},\qquad q=\mu q_n+\nu q_{n+1} $$
は整数の解 $\mu=(-1)^n(qp_{n+1}-pq_{n+1})$、$\nu=(-1)^n(pq_n-qp_n)$ をもつ(代入すると、たとえば第 1 式の右辺は $(-1)^np(p_{n+1}q_n-p_nq_{n+1})=p$ になる)。
$\nu=0$ のとき:$(p,q)=\mu(p_n,q_n)$ であり、$q\ge1$、$q_n\ge1$ から $\mu\ge1$、$(p,q)\ne(p_n,q_n)$ から $\mu\ge2$ である。$\alpha$ は無理数なので $q_n\alpha-p_n\ne0$ であり、$|q\alpha-p|=\mu|q_n\alpha-p_n|>|q_n\alpha-p_n|$ である。
$\mu=0$ のとき:$q=\nu q_{n+1}$ で $q\ge1$ から $\nu\ge1$ となり、$q\ge q_{n+1}$ に反する。
$\mu\ne0$、$\nu\ne0$ のとき:$\nu>0$ なら $\mu q_n=q-\nu q_{n+1}< q_{n+1}-q_{n+1}=0$ で $\mu<0$ であり、$\nu<0$ なら $\mu q_n=q-\nu q_{n+1}>0$ で $\mu>0$ である。したがって $\mu$ と $\nu$ は符号が逆である。一方、$q_n\alpha-p_n$ と $q_{n+1}\alpha-p_{n+1}$ の符号は $(-1)^n$ と $(-1)^{n+1}$ で逆である。よって $\mu(q_n\alpha-p_n)$ と $\nu(q_{n+1}\alpha-p_{n+1})$ は同じ符号の $0$ でない数であり、
$$ |q\alpha-p|=\bigl|\mu(q_n\alpha-p_n)+\nu(q_{n+1}\alpha-p_{n+1})\bigr|=|\mu||q_n\alpha-p_n|+|\nu||q_{n+1}\alpha-p_{n+1}|>|q_n\alpha-p_n| $$
である。
2:$|q_n\alpha-p_n|=1/(x_{n+1}q_n+q_{n-1})$ で、$x_{n+1}< a_{n+1}+1$ から分母は $q_{n+1}+q_n$ より小さい。また $|q_{n+1}\alpha-p_{n+1}|=1/(x_{n+2}q_{n+1}+q_n)$ で、$x_{n+2}>1$ から分母は $q_{n+1}+q_n$ より大きい。よって $|q_{n+1}\alpha-p_{n+1}|<1/(q_{n+1}+q_n)<|q_n\alpha-p_n|$ である。
3:$n\ge1$ では $q_{n-1}\ge1$ なので $q_{n+1}=a_{n+1}q_n+q_{n-1}>q_n$ である。$(p',q')\ne(p_n,q_n)$、$1\le q'\le q_n$ なら $q'< q_{n+1}$ なので、1 から $|q'\alpha-p'|>|q_n\alpha-p_n|$ であり、$(p_n,q_n)$ は最良近似である。逆に $(p,q)$ を最良近似とする。$q_0=1\le q$ かつ $q_n\to\infty$ なので、$q_n\le q$ を満たす最大の $n\ge0$ がとれ、$q_n\le q< q_{n+1}$ である。$(p,q)\ne(p_n,q_n)$ とすると、1 から $|q\alpha-p|>|q_n\alpha-p_n|$ となるが、$q_n\le q$ なので $(p,q)$ が最良近似であることに反する。よって $(p,q)=(p_n,q_n)$ である。$\square$

1 と同じ型の評価は HW60 Theorem 182(p. 151)にある。連分数 の記事の反例「よい近似がすべて収束子とは限らない」が示すように、$|\alpha-p/q|<1/q^2$ を満たすだけでは収束子とは限らないが、最良近似という強い意味では収束子だけがよい近似である。$|\alpha-p/q|<1/(2q^2)$ なら $p/q$ は収束子である(Pell方程式 の記事の補題「収束子であるための十分条件」)。

円周率の近似 $\frac{355}{113}$

$\pi=[3;7,15,1,292,1,\dots]$ の収束子は $3,\frac{22}7,\frac{333}{106},\frac{355}{113},\frac{103993}{33102},\dots$ である(連分数 の例「円周率とネイピア数」)。$|113\pi-355|=3.014\ldots\times10^{-5}$ であり、thm-da-best の 1($n=3$、$q_4=33102$)により、$1\le q<33102$ で $(p,q)\ne(355,113)$ ならば $|q\pi-p|>|113\pi-355|$ である。とくに $q\le113$ なら
$$ \Bigl|\pi-\frac pq\Bigr|=\frac{|q\pi-p|}q>\frac{|113\pi-355|}{q}\ge\frac{|113\pi-355|}{113}=\Bigl|\pi-\frac{355}{113}\Bigr| $$
なので、分母が $113$ 以下の分数のうち $\pi$ に最も近いのは $\frac{355}{113}$ である。$\frac{355}{113}$ がこれほどよいのは、次の部分商 $292$ が大きく、$|\pi-\frac{355}{113}|<1/(113\cdot33102)$ となるからである。

Hurwitz の定理

すべての無理数について $|\alpha-p/q|<1/q^2$ の解は無限にあるが、右辺の定数はどこまで小さくできるだろうか。答えは $1/\sqrt5$ である。

Hurwitz の定理

$\alpha$ を無理数とする。$n\ge1$ について、連続する 3 つの収束子 $p_{n-1}/q_{n-1}$、$p_n/q_n$、$p_{n+1}/q_{n+1}$ の少なくとも 1 つは
$$ \Bigl|\alpha-\frac pq\Bigr|<\frac1{\sqrt5\,q^2} $$
を満たす。したがって、この不等式を満たす有理数 $p/q$ は無限にある。

隣り合う分母の比を黄金比と比べる

$\varphi:=\frac{1+\sqrt5}2$ とおくと $\frac1\varphi=\frac{\sqrt5-1}2$ であり、$\varphi+\frac1\varphi=\sqrt5$、$1+\frac1\varphi=\varphi$ である。
3 つの収束子のどれも不等式を満たさない、すなわち $k=n-1,n,n+1$ について $|\alpha-p_k/q_k|\ge1/(\sqrt5q_k^2)$ と仮定する。$k=n-1,n$ について、$\alpha-p_k/q_k$ と $\alpha-p_{k+1}/q_{k+1}$ は符号が逆なので $\alpha$ は 2 つの収束子の間にあり、連分数 の記事の命題「隣り合う収束子の行列式」から
$$ \frac1{q_kq_{k+1}}=\Bigl|\frac{p_{k+1}}{q_{k+1}}-\frac{p_k}{q_k}\Bigr|=\Bigl|\alpha-\frac{p_k}{q_k}\Bigr|+\Bigl|\alpha-\frac{p_{k+1}}{q_{k+1}}\Bigr|\ge\frac1{\sqrt5}\Bigl(\frac1{q_k^2}+\frac1{q_{k+1}^2}\Bigr) $$
である。両辺に $\sqrt5\,q_kq_{k+1}$ を掛けると、$t_k:=q_{k+1}/q_k$ について $t_k+1/t_k\le\sqrt5$、すなわち
$$ t_k^2-\sqrt5\,t_k+1=(t_k-\varphi)\Bigl(t_k-\frac1\varphi\Bigr)\le0 $$
であり、$\frac1\varphi\le t_k\le\varphi$ である。$t_k$ は有理数で $\varphi,\frac1\varphi$ は無理数なので、$\frac1\varphi< t_k<\varphi$ である。
$k=n-1$ から $q_n/q_{n-1}<\varphi$、すなわち $q_{n-1}/q_n>1/\varphi$ である。$k=n$ から $q_{n+1}/q_n<\varphi$ である。ところが $a_{n+1}\ge1$ なので
$$ \frac{q_{n+1}}{q_n}=a_{n+1}+\frac{q_{n-1}}{q_n}>1+\frac1\varphi=\varphi $$
となり、矛盾する。よって 3 つのうち少なくとも 1 つは不等式を満たす。$n=1,4,7,\dots$ について 3 つずつの組は互いに重ならず、$k\ge1$ で $q_k$ は狭義に増加するので、得られる分数は互いに異なり、無限にある。$\square$

定数 $\sqrt5$ はこれ以上大きくできない。$c>\sqrt5$ なら、黄金比 $\varphi$ について $|\varphi-p/q|<1/(cq^2)$ を満たす分数は有限個しかない(黄金比 の記事の定理「黄金比の近似の限界」)。この 2 つは HW60 Theorem 193・194(p. 164)、3 つの収束子についての主張は Theorem 195(p. 164)である。$\varphi=[1;1,1,1,\dots]$ は部分商がすべて $1$ で、thm-da-hurwitz の証明が示すように、分母の比 $q_{k+1}/q_k$ が $\varphi$ を超えにくい数ほど近似しにくい。

悪く近似される数

悪く近似される数と部分商

無理数 $\alpha$ について、次は同値である。

  1. $\alpha$ は悪く近似される。
  2. 部分商の列 $a_1,a_2,a_3,\dots$ は有界である。
    さらに、すべての $n\ge1$ で $a_n\le M$ ならば、すべての分数 $p/q$ について $|\alpha-p/q|>1/((M+2)q^2)$ である。
収束子での誤差の大きさと、最良近似

2 ⇒ 1(と最後の主張):$n\ge0$ について $q_{n-1}\le q_n$ なので $q_{n+1}=a_{n+1}q_n+q_{n-1}\le(M+1)q_n$ であり、thm-da-best の 2 の証明で見たように
$$ |q_n\alpha-p_n|>\frac1{q_{n+1}+q_n}\ge\frac1{(M+2)q_n} $$
である。分数 $p/q$ を任意にとり、$q_n\le q< q_{n+1}$ となる $n\ge0$ をとる($q_n\le q$ を満たす最大の $n$)。thm-da-best の 1($(p,q)=(p_n,q_n)$ なら等号)により
$$ |q\alpha-p|\ge|q_n\alpha-p_n|>\frac1{(M+2)q_n}\ge\frac1{(M+2)q} $$
であり、$q$ で割って $|\alpha-p/q|>1/((M+2)q^2)$ を得る。
1 ⇒ 2:対偶を示す。部分商が有界でないとする。$q_{n+1}\ge a_{n+1}q_n$ なので $|\alpha-p_n/q_n|<1/(q_nq_{n+1})\le1/(a_{n+1}q_n^2)$ である。どんな $c>0$ についても $a_{n+1}>1/c$ となる $n$ があり、そのとき $|\alpha-p_n/q_n|< c/q_n^2$ となるので、$\alpha$ は悪く近似されない。$\square$

2 次の無理数(整数係数の 2 次方程式の根である無理数)は、連分数展開が途中から循環する(連分数 の記事の定理「循環連分数と2次無理数」)ので部分商が有界であり、悪く近似される。たとえば $\sqrt2=[1;2,2,2,\dots]$ では $M=2$ で、すべての分数について $|\sqrt2-p/q|>1/(4q^2)$ である。実際、収束子 $\frac32,\frac75,\frac{17}{12},\frac{41}{29}$ で $q^2|\sqrt2-p/q|$ は $0.343,0.355,0.353,0.354$ であり、$1/(2\sqrt2)=0.3535\ldots$ に近づく。一方 $e=[2;1,2,1,1,4,1,1,6,\dots]$ は部分商が有界でないので悪く近似されない。部分商が有界な実数全体は Lebesgue 測度 $0$ の集合である(HW60 Theorem 196、p. 166。この記事では証明しない)。

ほとんどすべての実数の近似

ほとんどすべての実数は指数 2 より良く近似できない

$\psi$ を正の整数全体から正の実数への関数とし、$\sum_{q=1}^\infty q\psi(q)<\infty$ とする。このとき、$\psi$ で近似できる実数全体の集合 $E(\psi)$ は Lebesgue 測度 $0$ である。

分母ごとの区間の長さの和を評価する

$m$ を Lebesgue測度 とする。整数 $q\ge1$ について
$$ E_q:=\Bigl\{\alpha\in[0,1)\ \Bigm|\ \text{ある整数 }p\text{ で }\Bigl|\alpha-\frac pq\Bigr|<\psi(q)\Bigr\} $$
とおき、$m(E_q)\le2q\psi(q)$ を示す。$2q\psi(q)\ge1$ なら $E_q\subset[0,1)$ から明らかである。$\psi(q)<1/(2q)$ なら、$\alpha\in E_q$ に対応する $p$ は $-1/q< p/q<1+1/q$、すなわち $0\le p\le q$ を満たす。$p=0$ の区間と $[0,1)$ の共通部分の長さは $\psi(q)$ 以下、$p=q$ についても同様であり、$1\le p\le q-1$ の区間の長さは $2\psi(q)$ である。よって $m(E_q)\le2\psi(q)+2(q-1)\psi(q)=2q\psi(q)$ である。
$\alpha\in E(\psi)\cap[0,1)$ とする。1 つの $q$ について $|\alpha-p/q|<\psi(q)$ を満たす $p$ は有限個なので、そのような組 $(p,q)$ が無限個あれば $q$ も無限に多くの値をとる。したがってどの $Q$ についても $\alpha\in\bigcup_{q\ge Q}E_q$ であり、
$$ m\bigl(E(\psi)\cap[0,1)\bigr)\le\sum_{q\ge Q}m(E_q)\le2\sum_{q\ge Q}q\psi(q) $$
である。右辺は収束する級数の残りなので $Q\to\infty$ で $0$ に近づき、$E(\psi)\cap[0,1)$ は測度 $0$ である。最後に、$|\alpha-p/q|=|(\alpha+1)-(p+q)/q|$ なので $\alpha\in E(\psi)$ と $\alpha+1\in E(\psi)$ は同値であり、$E(\psi)=\bigcup_{k\in\mathbb{Z}}\bigl((E(\psi)\cap[0,1))+k\bigr)$ は測度 $0$ の集合の可算個の和集合として測度 $0$ である。$\square$

近似指数はほとんどすべての実数で 2

ほとんどすべての実数 $\alpha$ について、どんな $\varepsilon>0$ についても $|\alpha-p/q|<1/q^{2+\varepsilon}$ を満たす分数は有限個しかない。したがって、ほとんどすべての実数 $\alpha$ の近似指数(Rothの定理 の記事の定義「近似指数」)は $2$ である。

$\varepsilon=1/k$ について合わせる

$\psi_k(q):=q^{-2-1/k}$ とすると $\sum_qq\psi_k(q)=\sum_qq^{-1-1/k}<\infty$ なので、thm-da-measure により $E(\psi_k)$ は測度 $0$ であり、可算個の和 $E:=\bigcup_{k\ge1}E(\psi_k)$ も測度 $0$ である。有理数全体も測度 $0$ である。$\alpha$ が $E$ にも有理数全体にも属さないとし、$\varepsilon>0$ をとって $1/k<\varepsilon$ とすると、$|\alpha-p/q|<1/q^{2+\varepsilon}\le\psi_k(q)$ を満たす組 $(p,q)$ は有限個なので、近似指数は $2+\varepsilon$ 以下である。一方、無理数 $\alpha$ はすべての収束子について $|\alpha-p_n/q_n|<1/q_n^2$ を満たすので、近似指数は $2$ 以上である。よって近似指数は $2$ である。$\square$

代数的な無理数の近似指数も $2$ である(Rothの定理)が、それを示すのははるかに難しい。thm-da-measure の逆向きとして、$\chi(q)/q$ が単調増加で $\sum_q1/\chi(q)$ が発散すれば、ほとんどすべての $\alpha$ について $|\alpha-p/q|<1/(q\chi(q))$ の解が無限にあることが知られている(Khintchine の定理。HW60 Theorem 199、p. 169。この記事では証明しない)。たとえば $q\ge2$ で $\chi(q)=q\log q$ とおくと、ほとんどすべての実数について $|\alpha-p/q|<1/(q^2\log q)$ の解が無限にある。

同時近似と Kronecker の定理

同時近似

$\alpha_1,\dots,\alpha_k$ を実数、$N\ge1$ を整数とする。整数 $q$ と $p_1,\dots,p_k$ で
$$ 1\le q\le N^k,\qquad |q\alpha_i-p_i|<\frac1N\quad(i=1,\dots,k) $$
を満たすものがある。さらに $\alpha_1,\dots,\alpha_k$ のどれかが無理数なら、すべての $i$ について $|\alpha_i-p_i/q|<1/q^{1+1/k}$ となる $q\ge1$ と $p_1,\dots,p_k$ の組が無限にある。

立方体を小さな箱に分ける鳩の巣原理

要点:$[0,1)^k$ を $N^k$ 個の小さな箱に分けると、$N^k+1$ 個の点 $(\{j\alpha_1\},\dots,\{j\alpha_k\})$($j=0,\dots,N^k$、$\{t\}$ は小数部分)のうち 2 つは同じ箱に入り、その番号の差が $q$ になる。

詳しい証明を開く

実数 $t$ の小数部分を $\{t\}:=t-\lfloor t\rfloor\in[0,1)$ と書く。$[0,1)^k$ を、各辺を $N$ 等分した $N^k$ 個の箱 $\prod_{i=1}^k[t_i/N,(t_i+1)/N)$($t_i\in\{0,\dots,N-1\}$)に分ける。$N^k+1$ 個の点 $(\{j\alpha_1\},\dots,\{j\alpha_k\})$($j=0,1,\dots,N^k$)のうち 2 つ、$j< j'$ に対応するものが同じ箱に入る(鳩の巣原理 の定理「鳩の巣原理の基本形」)。$q:=j'-j$、$p_i:=\lfloor j'\alpha_i\rfloor-\lfloor j\alpha_i\rfloor$ とおくと $1\le q\le N^k$ であり、$q\alpha_i-p_i=\{j'\alpha_i\}-\{j\alpha_i\}$ なので $|q\alpha_i-p_i|< 1/N$ である。

後半:$q\le N^k$ から $1/N\le q^{-1/k}$ なので、$|\alpha_i-p_i/q|< 1/(Nq)\le1/q^{1+1/k}$ である。$\alpha_1$ が無理数だとして、得られる $q$ が有限個の値しかとらなかったとする。$\alpha_1$ は無理数なのでそれらの有限個の $q$ について $\|q\alpha_1\|>0$ であり、その最小値を $\delta>0$ とする。$N>1/\delta$ として前半を使うと、得られる $q$ は $\|q\alpha_1\|\le|q\alpha_1-p_1|< 1/N< \delta$ を満たし、$\delta$ が最小値であることに反する。$\square$

$k=1$ の場合が 鳩の巣原理 の記事の定理「Dirichlet の近似定理」であり、全体は HW60 Theorem 200(p. 170)である。同時近似の指数 $1+1/k$ は $k$ が増えると $1$ に近づくが、$k$ 個の数を同じ分母で近似するのだから、1 つずつ別の分母を使う場合より条件が厳しいのは自然である。

Kronecker の定理(1 次元)

$\alpha$ を無理数とする。$n=1,2,3,\dots$ についての小数部分 $\{n\alpha\}$ 全体は、区間 $[0,1]$ で稠密である。

小さい刻みで区間を渡る

要点:$0<|q\alpha-p|<\varepsilon$ となる $q$ をとると、$q,2q,3q,\dots$ の倍数での小数部分は刻み $|q\alpha-p|$ で $[0,1]$ を端から端まで渡る。

詳しい証明を開く

$\varepsilon>0$ と $y\in[0,1]$ をとる。prop-da-simultaneous($k=1$、$N>1/\varepsilon$)により $q\ge1$ と $p$ で $|q\alpha-p|< \varepsilon$ となるものがあり、$\alpha$ は無理数なので $\delta:=q\alpha-p\neq0$ である。

$\delta>0$ のとき:$K$ を $K\delta< 1$ を満たす最大の整数とすると、$1\le k\le K$ について $kq\alpha=kp+k\delta$ で $0< k\delta< 1$ なので $\{kq\alpha\}=k\delta$ である。点 $\delta,2\delta,\dots,K\delta$ は間隔 $\delta< \varepsilon$ で並び、$\delta< \varepsilon$、$K\delta>1-\delta>1-\varepsilon$ なので、$[0,1]$ のどの点 $y$ からも距離 $\varepsilon$ 未満のところにこれらの点のどれかがある。

$\delta< 0$ のとき:同様に $k|\delta|< 1$ なら $\{kq\alpha\}=1-k|\delta|$ であり、点 $1-|\delta|,1-2|\delta|,\dots$ が間隔 $|\delta|< \varepsilon$ で $[0,1]$ を渡る。

いずれの場合も、$n=kq$ について $|\{n\alpha\}-y|< \varepsilon$ となる。$\square$

これは HW60 Theorem 439(p. 376)である。$\alpha$ が有理数 $a/b$(既約、$b\ge1$)なら $\{n\alpha\}$ は $0,1/b,\dots,(b-1)/b$ の $b$ 個の値しかとらず、稠密でない。$\{n\alpha\}$ が単に稠密であるだけでなく $[0,1)$ の各区間に長さに比例した割合で入ること(一様分布)も成り立つ(HW60 §23.10、Theorem 445、p. 390。この記事では証明しない)。

反例:条件を外すと崩れること

外す条件反例成り立たなくなること
$\alpha$ が無理数(thm-da-hurwitz)$\alpha=\frac12$$\alpha$ と異なる分数 $p/q$ で $\lvert\alpha-p/q\rvert<1/(\sqrt5q^2)$ のものが無限にある
定数が $\sqrt5$ 以下(thm-da-hurwitz)黄金比 $\varphi$、定数 $c>\sqrt5$不等式を満たす分数が無限にある
$\sum_qq\psi(q)<\infty$(thm-da-measure)$\psi(q)=1/q^2$$E(\psi)$ は測度 $0$
「ほとんどすべて」(cor-da-exponent)Liouville 数近似指数は $2$
部分商が有界(prop-da-badly)$e$悪く近似される
反例の確認

1 行目:$\alpha=a/b$($b\ge1$)と異なる分数 $p/q$ では $|a/b-p/q|=|aq-bp|/(bq)\ge1/(bq)$ である。これが $1/(\sqrt5q^2)$ より小さいなら $q< b/\sqrt5$ であり、そのような $q$ は有限個、各 $q$ について $p$ も有限個なので、解は有限個である。無理数であることは thm-da-hurwitz の証明で連分数が無限に続くことに使われている。
2 行目:黄金比 の記事の定理「黄金比の近似の限界」による。$\sqrt5$ はすべての無理数に通用する定数としては最良である。
3 行目:$\sum_qq\cdot q^{-2}=\sum_q1/q$ は発散する。すべての無理数はすべての収束子について $|\alpha-p_n/q_n|<1/q_n^2$ を満たすので $E(\psi)$ に属し、$E(\psi)$ は無理数全体を含んで測度 $0$ ではない。
4 行目:超越数 の記事の定義「Liouville数の定義」により、Liouville 数 $\alpha$ には各 $n$ について $0<|\alpha-p/q|<1/q^n$($q\ge2$)となる分数がある。$|\alpha-p/q|<2^{-n}\to0$ かつ $\alpha$ は有理数でない(同じ記事の系「Liouville数の超越性」)ので、これらの分数は無限に多くの異なる値をとり、どの $\mu$ についても $n\ge\mu$ のものが $|\alpha-p/q|<1/q^\mu$ を満たす。よって近似指数は $\infty$ である。cor-da-exponent の結論は測度 $0$ の例外を除いてしか成り立たない。
5 行目:$e$ の部分商 $1,2k,1$ の $2k$ は限りなく大きくなるので、prop-da-badly により $e$ は悪く近似されない。$e$ は無理数なので Hurwitz の定理は成り立つが、それより強い定数 $c/q^2$ の下からの評価はない。

補足

Hurwitz の定数の先と、Markov 数

ある番号から先の部分商がすべて $1$ であるような無理数(黄金比と同値な数)を除けば、thm-da-hurwitz の $\sqrt5$ を $\sqrt8$ に改善できる(HW60 §11.10、pp. 165–166。この記事では証明しない)。HW60 は §24.6 の注(p. 412)で、2 元 2 次形式の最小値について、例外を順に除くごとに改善される定数の列が Markov 数 $1,2,5,13,29,\dots$ で表される一連の定理を挙げ、有理数による近似にも同様の一連の定理があって、その最初が thm-da-hurwitz(Theorem 193)であると述べている。Markov 数は Markov 方程式 $x^2+y^2+z^2=3xyz$ の正の整数解に現れる数で、その解はすべて無限降下によって求められる(無限降下法 の記事の定理「$x^2+y^2+z^2=kxyz$ の正の整数解」)。

代数的数の近似と応用

次数 $d$ の代数的数は $|\alpha-p/q|\ge c/q^d$ を満たす(超越数 の記事の定理「Liouville の近似定理」)。これを使うと、Liouville 数のように非常によく近似できる数が超越数であることが分かる。指数 $d$ を $2+\varepsilon$ まで下げたのが Rothの定理 であり、その帰結として、$x^3-2y^3=11$ のような Thue 方程式の整数解は有限個である(Rothの定理 の記事の定理「Thue 方程式の解の有限性」)。2 次の無理数については Liouville の評価がすでに最良で、prop-da-badly はそれを連分数の言葉で言い直したものになっている。Pell方程式 の解が $\sqrt d$ の収束子として現れるのも、$p^2-dq^2=1$ の解が $|\sqrt d-p/q|<1/(2q^2)$ を満たす非常によい近似だからである。

関連項目

参考文献

[1]
G. H. Hardy and E. M. Wright, An Introduction to the Theory of Numbers, 4th ed., Oxford, Clarendon Press, 1960, §10.15 Theorem 182 p. 151、§11.8–11.9 Theorem 193–195 p. 164、§11.10 pp. 165–166・Theorem 196 p. 166、§11.11 Theorem 199 p. 169、§11.12 Theorem 200 p. 170、§23.1 Theorem 439 p. 376、§23.10 Theorem 445 p. 390、§24.6 の注 p. 412

Mathpediaは寄付と、参考文献の書籍リンク(Amazonアソシエイト)の紹介料で運営されています。 支援について / 寄付する