Brauer群(Brauer group)とは、体 $k$ については $k$ 上の中心単純環を、行列代数 $M_n(A) \cong M_m(B)$ となるものどうし同一視した類の集合に、テンソル積で演算を入れたアーベル群 $\mathrm{Br}(k)$ のことであり、スキーム $X$ については Azumaya 代数を $\mathcal{E}nd(E)$ とのテンソル積を除いて同一視した類の群 $\mathrm{Br}(X)$ のことである。体の場合は $H^2(k, \mathbb{G}_m)$ と同型で、各類は中心斜体でただ一つ代表される。スキームの場合は(準コンパクトなら)$H^2(X, \mathbb{G}_m)$ の捩れ部分群(コホモロジー的 Brauer 群)に単射に写り、多くの場合に両者は一致する。
前提知識: 中心単純環, Azumaya代数, Galoisコホモロジー, エタールコホモロジー
レベル: 大学院
Brauer 群は、体の上では中心単純環の、スキームの上では Azumaya 代数の「行列代数を除いた類」のなす群である。体の場合を先に定義し、スキームの場合がその一般化であることを述べる。
$k$ を体とする。中心単純環 $A$ は、中心斜体 $D$ と $n \ge 1$ によって $A \cong M_n(D)$ と書け、$D$ は同型を除いて一意に定まる(Wedderburn の構造定理)。
$k$ 上の中心単純環 $A, B$ が Brauer 同値であるとは、ある $m, n \ge 1$ について $M_m(A) \cong M_n(B)$ となることをいう。Brauer 同値類 $[A]$ の集合に
$$
[A] + [B] := [A \otimes_k B]
$$
で演算を入れたアーベル群を、$k$ の Brauer 群(Brauer group)といい、$\mathrm{Br}(k)$ と書く。単位元は $[k]$、$[A]$ の逆元は反対代数の類 $[A^{\mathrm{op}}]$ である。
$M_m(A) \otimes_k M_{m'}(B) \cong M_{mm'}(A \otimes_k B)$ なので演算は同値類の上で定まり、$A \otimes_k B \cong B \otimes_k A$ なので可換である。逆元の主張は、$A \otimes_k A^{\mathrm{op}} \cong \operatorname{End}_k(A) \cong M_{\dim A}(k)$ による(中心単純環 の基本性質)。
$X$ をスキームとする。$X$ 上の Azumaya代数 とは、有限局所自由(階数は正)な $\mathcal{O}_X$ 代数 $A$ で、各点 $x$ でのファイバー $A \otimes \kappa(x)$ が剰余体 $\kappa(x)$ 上の中心単純環であるもののことである。
$X$ 上の Azumaya 代数 $A, B$ が Brauer 同値であるとは、各点での階数が $1$ 以上の有限局所自由 $\mathcal{O}_X$ 加群 $E, E'$ があって
$$
A \otimes_{\mathcal{O}_X} \mathcal{E}nd(E) \cong B \otimes_{\mathcal{O}_X} \mathcal{E}nd(E')
$$
となることをいう。Brauer 同値類の集合に $[A] + [B] := [A \otimes_{\mathcal{O}_X} B]$ で演算を入れたアーベル群を、$X$ の Brauer 群といい、$\mathrm{Br}(X)$ と書く。単位元は $[\mathcal{O}_X]$、逆元は $-[A] = [A^{\mathrm{op}}]$ である。可換環 $R$ については $\mathrm{Br}(R) := \mathrm{Br}(\operatorname{Spec} R)$ とおく。
群であることの確認は Azumaya代数 の記事にある。$X = \operatorname{Spec} k$ のとき、Azumaya 代数は中心単純環であり、有限局所自由加群は有限次元ベクトル空間 $k^n$ で $\mathcal{E}nd(k^n) = M_n(k)$ だから、$\mathrm{Br}(\operatorname{Spec} k) = \mathrm{Br}(k)$ である。
スキームの射 $f \colon Y \to X$ は、引き戻し $[A] \mapsto [f^*A]$ によって群準同型 $f^* \colon \mathrm{Br}(X) \to \mathrm{Br}(Y)$ を与える。$\mathrm{Br}$ はスキームの反変関手である。とくに体の拡大 $K/k$ は $\mathrm{Br}(k) \to \mathrm{Br}(K)$、$[A] \mapsto [A \otimes_k K]$ を与え、その核を相対 Brauer 群 $\mathrm{Br}(K/k)$ という。これは $K$ を分裂体とする類の群である。
行列代数 $M_n(k)$ はどれも「自明」とみなし、それ以外の中心単純環がどれだけ行列代数から隔たっているかを測るのが Brauer 群である。各類はちょうど 1 つの中心斜体で代表されるので、体の Brauer 群は「$k$ 上の有限次元中心斜体の同型類の集合」に群構造を入れたものと見ることもできる。
中心単純環は分離閉包の上では行列代数になるので、その「捻れ方」は Galois 群のコホモロジーで測られる。この見方をスキームへ広げると、Azumaya 代数の捻れ方はエタール位相の $\mathrm{PGL}_r$ トーサーで測られ、Brauer 群はエタールコホモロジー群 $H^2(X, \mathbb{G}_m)$ の中に入る。
$\mathrm{Br}(k)$ の各類は、$k$ 上の中心斜体をちょうど 1 つ(同型を除いて)含む。2 つの中心単純環が Brauer 同値であることと、それらに対応する中心斜体が同型であることは同値である。
$A \cong M_n(D)$ なら $M_m(A) \cong M_{mn}(D)$ である。したがって $M_m(A) \cong M_{m'}(B)$ かつ $B \cong M_{n'}(D')$ なら、$M_{mn}(D) \cong M_{m'n'}(D')$ であり、構造定理の一意性から $D \cong D'$ である。逆に $D \cong D'$ なら $M_{n'}(A) \cong M_{nn'}(D) \cong M_n(B)$ である。$A$ の類は $D = M_1(D)$ を含み、中心斜体どうしが Brauer 同値なら今示したことにより同型である。$\square$
次の定理は、体の Brauer 群を Galois コホモロジーで表す。本記事では証明しない(GS06 第 4 章、Ser79 第 X 章)。
$k^{\mathrm{s}}$ を $k$ の分離閉包、$G_k = \operatorname{Gal}(k^{\mathrm{s}}/k)$ とする。
1 の同型は、次数 $r$ の中心単純環が分離閉包の上で $M_r$ になり、その自己同型群が $\mathrm{PGL}_r$ であることから、$H^1(G_k, \mathrm{PGL}_r(k^{\mathrm{s}}))$ を経由して作られる。エタールコホモロジー の言葉では $\mathrm{Br}(k) = H^2(\operatorname{Spec} k_{\mathrm{\acute{e}t}}, \mathbb{G}_m)$ である。
$\mathrm{Br}(k)$ は捩れ群である。より詳しく、次数 $r$ の中心単純環の類は $r$ 倍で $0$ になる。
前半は、射有限群の正の次数のコホモロジーが捩れ群であること(Galoisコホモロジー)と定理
Galoisコホモロジーによる記述
から従う。後半は標準的である(GS06 第 4 章。本記事では証明しない)。
中心単純環 $A \cong M_n(D)$ について、$D$ の次数を $A$ の指数、$[A]$ の $\mathrm{Br}(k)$ における位数を周期という。周期は指数を割り切り、両者は同じ素因数をもつ(GS06 第 4 章。本記事では証明しない)。
次数 $r$ の Azumaya 代数は $\mathrm{PGL}_r$ トーサーで分類され、中心拡大 $1 \to \mathbb{G}_m \to \mathrm{GL}_r \to \mathrm{PGL}_r \to 1$ の余境界によって $H^2(X, \mathbb{G}_m)$ の元を定める。以下、$H^i(X, -)$ はエタールコホモロジーを表す。
余境界は単射な群準同型
$$
\delta \colon \mathrm{Br}(X) \hookrightarrow H^2(X, \mathbb{G}_m)
$$
を与え、$X$ が準コンパクトなら、その像は捩れ部分群 $H^2(X,\mathbb{G}_m)_{\mathrm{tors}}$ に含まれる(次数 $r$ の類は $r$ 倍で $0$ になり、準コンパクトなら次数は有界だから)。
この定理は標準的である(Gro68a、Mil80 第 IV 章 §2。本記事では証明しない)。$X = \operatorname{Spec} k$ では、定理 Galoisコホモロジーによる記述 の 1 と一致する。
$R$ を Hensel 局所環、$k$ をその剰余体とすると、$\mathrm{Br}(R) \to \mathrm{Br}(k)$ は同型である。
これは Azumaya による(Gro68a §6、Mil80 第 IV 章 §1。本記事では証明しない)。とくに狭義 Hensel 局所環の Brauer 群は $0$ である。
$X$ を正則なネーター整スキーム、$K$ をその関数体とする。このとき $H^2(X, \mathbb{G}_m)$ は捩れ群であり、制限写像 $H^2(X, \mathbb{G}_m) \to \mathrm{Br}(K)$ は単射である。とくに $\mathrm{Br}(X) \to \mathrm{Br}(K)$ は単射である。
これは Grothendieck による(Gro68b §1、Mil80 第 IV 章 §2。本記事では証明しない)。証明は、$\mathbb{G}_m$ を有理関数の層と因子の層の差として書く完全列による。正則性は、局所環の狭義 Hensel 化が一意分解整域であることを通して使われる(下の
反例:正規でない曲線での非単射性
を参照)。
この単射性により、正則な整スキーム $X$ の Brauer 群は関数体の Brauer 群の部分群とみなせる。どの部分群になるかを余次元 $1$ の点ごとに判定するのが Brauer群の純性 であり、滑らかで固有な多様体についてこの部分群が双有理不変であることが Brauer群の双有理不変性 である。
スキーム $X$ について、
$$
\mathrm{Br}'(X) := H^2(X, \mathbb{G}_m)_{\mathrm{tors}}
$$
を $X$ の コホモロジー的Brauer群 という。
Grothendieck Gro68b は $H^2(X, \mathbb{G}_m)$ 全体を $\mathrm{Br}'(X)$ と書いた。今日の多くの文献は上の定義のように捩れ部分群を $\mathrm{Br}'(X)$ と書く。両者の違いは捩れでない部分だけなので、$n$ 捩れ部分や $\ell$ 準素部分はどちらの定義でも同じである。また、定理 正則な整スキームの生成点への制限 により、$X$ が正則なネーター整スキームなら両者は一致する。
定理 余境界による単射 により、$X$ が準コンパクトなら $\mathrm{Br}(X) \subset \mathrm{Br}'(X)$ である。この包含がいつ等号になるかは、Grothendieck が問うた基本問題である。
次の場合に $\mathrm{Br}(X) = \mathrm{Br}'(X)$ が成り立つ。
1 の体の場合は定理
Galoisコホモロジーによる記述
の 1 であり、Hensel 局所環はアフィンなので、この場合は 3 の特別な場合でもある。2 は Gro68b §2 による。3 は dJ による。いずれも本記事では証明しない。3 はとくに、体上の準射影多様体や、アフィンスキームに適用できる。
一方、分離的でないスキームで $\mathrm{Br}(X) \ne \mathrm{Br}'(X)$ となる例が知られている(EHKV01。本記事では確かめない)。分離的なスキーム一般で等号が成り立つかどうかは、本記事の範囲では扱わない。
$n \ge 1$ が $X$ 上可逆なら、完全列
$$
0 \to \mathrm{Pic}(X)/n \to H^2(X, \mu_n) \to \mathrm{Br}'(X)[n] \to 0
$$
がある。ここで $M[n]$ はアーベル群 $M$ の $n$ 倍で消える元の部分群を表す。
$n$ が可逆なので、エタール層の Kummer完全列 $1 \to \mu_n \to \mathbb{G}_m \xrightarrow{\,n\,} \mathbb{G}_m \to 1$ がある。その長完全列の一部
$$
H^1(X, \mathbb{G}_m) \xrightarrow{\,n\,} H^1(X, \mathbb{G}_m) \to H^2(X, \mu_n) \to H^2(X, \mathbb{G}_m) \xrightarrow{\,n\,} H^2(X, \mathbb{G}_m)
$$
において、$H^1(X, \mathbb{G}_m) = \mathrm{Pic}(X)$ である(エタールコホモロジー)。したがって $0 \to \mathrm{Pic}(X)/n \to H^2(X, \mu_n) \to H^2(X, \mathbb{G}_m)[n] \to 0$ が完全である。$n$ 倍で消える元は捩れ元なので $H^2(X, \mathbb{G}_m)[n] = \mathrm{Br}'(X)[n]$ である。$\square$
この完全列により、Brauer 群の $n$ 捩れは、有限係数のエタールコホモロジーと Picard 群から計算できる。$n$ が可逆でない場合には、エタール位相の代わりに fppf位相 で同じ形の完全列を使う。
$k$ を代数閉体、$X$ を $k$ 上の滑らかで固有な連結多様体、$\ell$ を $k$ の標数と異なる素数とする。次の事実を前提とする(いずれも標準的であり、本記事では証明しない)。
命題
n捩れ部分の完全列
を $n = \ell^\nu$ に適用する。
第 1 項。完全列 $0 \to \mathrm{Pic}^0(X) \to \mathrm{Pic}(X) \to \mathrm{NS}(X) \to 0$ に $\mathbb{Z}/\ell^\nu$ をテンソルすると、右完全性と (b) の $\mathrm{Pic}^0(X)/\ell^\nu = 0$ から、$\mathrm{Pic}(X)/\ell^\nu \to \mathrm{NS}(X)/\ell^\nu$ は全射である。その核は $\mathrm{Pic}^0(X)$ の像であり、これは $\mathrm{Pic}^0(X)/(\mathrm{Pic}^0(X) \cap \ell^\nu \mathrm{Pic}(X))$ と同型で、$\mathrm{Pic}^0(X)/\ell^\nu \mathrm{Pic}^0(X) = 0$ の商だから $0$ である。よって $\mathrm{Pic}(X)/\ell^\nu \cong \mathrm{NS}(X)/\ell^\nu$ である。
逆極限。$\nu$ を動かすと、$\mu_{\ell^{\nu+1}} \to \mu_{\ell^\nu}$($\ell$ 乗)、$\mathrm{NS}(X)/\ell^{\nu+1} \to \mathrm{NS}(X)/\ell^\nu$(自然な射影)、$\mathrm{Br}'(X)[\ell^{\nu+1}] \to \mathrm{Br}'(X)[\ell^\nu]$($\ell$ 倍)によって、完全列の逆系が得られる。(a) により中央の項は有限群なので、両端も有限群であり、有限群の逆系の逆極限は完全性を保つ(Mittag-Leffler 条件)。(b) により $\varprojlim_\nu \mathrm{NS}(X)/\ell^\nu = \mathrm{NS}(X) \otimes \mathbb{Z}_\ell$ であり、右端の極限は定義により $T_\ell \mathrm{Br}'(X)$ である。これで完全列を得る。
階数。Tate 加群は捩れを持たない(Tate加群)。(c) により $H^2(X, \mathbb{Z}_\ell(1))$ は有限生成なので、その商 $T_\ell \mathrm{Br}'(X)$ も有限生成で捩れがなく、自由である。$\mathrm{NS}(X) \otimes \mathbb{Z}_\ell$ の階数は $\rho$ なので、$T_\ell \mathrm{Br}'(X)$ の階数は $b_2 - \rho$ である。$\square$
とくに $\mathrm{Br}'(X)$ の $\ell$ 準素部分は、$(\mathbb{Q}_\ell/\mathbb{Z}_\ell)^{b_2 - \rho}$ と有限群の直和に同型である($\mathrm{Br}'(X)[\ell]$ が有限であることと Tate加群 の構造定理による)。$X$ が射影的なら、定理 等号が成り立つ場合 の 3 により $\mathrm{Br}(X) = \mathrm{Br}'(X)$ であり、上の記述は $\mathrm{Br}(X)$ そのものの記述になる。有限体 $\mathbb{F}_q$ 上の多様体について、$\rho$ が 2 次コホモロジーでの Frobenius の固有値 $q$ の重複度に等しいか(曲面では $\mathrm{Br}(X)$ の $\ell$ 準素部分が有限かどうかと同値)という問いが、因子についての Tate予想 である。
次の体 $k$ では $\mathrm{Br}(k) = 0$ である。
$\mathrm{Br}(\mathbb{R}) \cong \mathbb{Z}/2$ であり、$0$ でない元は Hamilton の四元数 $\mathbb{H}$ の類である。これは、$\mathbb{R}$ 上の有限次元中心斜体が $\mathbb{R}$ と $\mathbb{H}$ だけであること(Frobenius の定理。引用)と命題
斜体による代表
から従う。Galois コホモロジーでは、位数 $2$ の巡回群のコホモロジーの計算により
$$
H^2(\operatorname{Gal}(\mathbb{C}/\mathbb{R}), \mathbb{C}^\times) \cong \mathbb{R}^\times / N(\mathbb{C}^\times) = \mathbb{R}^\times / \mathbb{R}_{>0} \cong \mathbb{Z}/2
$$
となり($N$ はノルム写像)、定理
Galoisコホモロジーによる記述
と合う。
$K$ を非アルキメデス局所体とすると、局所類体論により不変量と呼ばれる同型 $\operatorname{inv}_K \colon \mathrm{Br}(K) \xrightarrow{\sim} \mathbb{Q}/\mathbb{Z}$ がある(Ser79 第 XII 章。本記事では証明しない)。
$K$ を大域体とし、$v$ が素点を動くとき、完全列
$$
0 \to \mathrm{Br}(K) \to \bigoplus_v \mathrm{Br}(K_v) \xrightarrow{\ \sum_v \operatorname{inv}_v\ } \mathbb{Q}/\mathbb{Z} \to 0
$$
がある(Albert–Brauer–Hasse–Noether の定理と大域類体論。CF67 第 VII 章。本記事では証明しない)。ここで実素点では $\operatorname{inv}_v$ は $\mathrm{Br}(\mathbb{R}) \cong \frac{1}{2}\mathbb{Z}/\mathbb{Z}$ への同型、複素素点では $\mathrm{Br}(\mathbb{C}) = 0$ である。
$\mathrm{Br}(\mathbb{Z}) = 0$ である。上の 2 つの例の事実を認めて示す。
$\alpha \in \mathrm{Br}(\mathbb{Z})$ とし、$\alpha_{\mathbb{Q}}$ をその $\mathrm{Br}(\mathbb{Q})$ への像とする。$\mathbb{Z}$ は正則な整スキームなので、定理
正則な整スキームの生成点への制限
により $\alpha_{\mathbb{Q}} = 0$ を示せばよい。各素数 $p$ について、$\alpha_{\mathbb{Q}}$ の $\mathbb{Q}_p$ への制限は $\mathrm{Br}(\mathbb{Z}_p)$ の元から来る。$\mathbb{Z}_p$ は Hensel 局所環なので、定理
Hensel局所環のBrauer群
により $\mathrm{Br}(\mathbb{Z}_p) \cong \mathrm{Br}(\mathbb{F}_p) = 0$ である。よってすべての $p$ で $\operatorname{inv}_p(\alpha_{\mathbb{Q}}) = 0$ であり、不変量の和が $0$ であることから実素点での不変量も $0$ である。大域体の完全列の単射性により $\alpha_{\mathbb{Q}} = 0$ となる。
任意の体 $k$ について、構造射による引き戻し $\mathrm{Br}(k) \to \mathrm{Br}(\mathbb{P}^n_k)$ は同型である(CTS21。本記事では証明しない)。
$X = \operatorname{Spec} \mathbb{R}[x, y]/(x^2 + y^2)$ とする。$x^2 + y^2$ は $\mathbb{R}$ 上既約なので $X$ は整な曲線であり、原点 $o$(剰余体 $\mathbb{R}$)で正規でない。$t = y/x$ は $t^2 = -1$ をみたし、$y = tx$ なので、関数体は $K = \mathbb{R}(x)(t) \cong \mathbb{C}(x)$ である。Tsen の定理により $\mathrm{Br}(K) = 0$ である。
一方、$A := \mathbb{H} \otimes_{\mathbb{R}} \mathcal{O}_X$ は $X$ 上の Azumaya 代数であり、原点への制限は $\mathbb{H}$ なので、その類は $\mathrm{Br}(\mathbb{R})$ で $0$ でない。制限は群準同型なので $[A] \ne 0 \in \mathrm{Br}(X)$ である。よって $\mathrm{Br}(X) \to \mathrm{Br}(K)$ は単射でない。
この $X$ は正則でなく、定理
正則な整スキームの生成点への制限
の「正則」という仮定を満たさない。原点での狭義 Hensel 化は、$\mathbb{C}$ 上で交わる 2 本の直線の局所環であり、整域ですらない。
$U = \operatorname{Spec} \mathbb{R}[t, t^{-1}]$($\mathbb{R}$ 上の乗法群)とし、$\beta := [(t, -1)]$ を四元数代数 $(t, -1)_{\mathbb{R}[t, t^{-1}]}$ の類とする。$2 \cdot t \cdot (-1)$ は単元なので、これは Azumaya 代数である(Azumaya代数 の四元数代数の例)。
$t = -1$ での制限は $(-1, -1)_{\mathbb{R}} = \mathbb{H}$ で、$0$ でない。$t = 1$ での制限は $(1, -1)_{\mathbb{R}}$ で、ノルム形式 $x^2 - y^2 + z^2 - w^2$ が自明でない零点 $(1,1,0,0)$ をもつので分裂し、$0$ である。もし $\beta$ が $\mathrm{Br}(\mathbb{R})$ から来ていれば、どの実点での制限も同じ元になるはずなので、$\beta$ は $\mathrm{Br}(\mathbb{R})$ の像に入らない。
$U$ は $\mathbb{P}^1_{\mathbb{R}}$ の稠密開集合で、両者は双有理である。一方、例
射影空間
により $\mathrm{Br}(\mathbb{P}^1_{\mathbb{R}}) = \mathrm{Br}(\mathbb{R})$ なので、制限 $\mathrm{Br}(\mathbb{P}^1_{\mathbb{R}}) \to \mathrm{Br}(U)$ は全射でない。群としても、$\mathrm{Br}(U)$ は $0$、$[\mathbb{H}]$、$\beta$、$\beta + [\mathbb{H}]$ という相異なる $4$ 元を含むので、位数 $2$ の $\mathrm{Br}(\mathbb{P}^1_{\mathbb{R}})$ と同型でない。$U$ は固有でないので、Brauer群の双有理不変性 の「滑らかで固有」という仮定を満たさず、その結論が崩れている。
定理 正則な整スキームの生成点への制限 の「$H^2(X, \mathbb{G}_m)$ は捩れ群」という結論は、正則性を外すと崩れうる。Grothendieck Gro68b §1 は、Mumford の構成した正規曲面で $H^2(X, \mathbb{G}_m)$ が捩れ群でないものがあると述べている(講演者自身の留保つき)。本記事はこの例を確かめず、引用にとどめる。
Mathpediaは寄付と、参考文献の書籍リンク(Amazonアソシエイト)の紹介料で運営されています。 支援について / 寄付する