野性分岐とSwan導手(wild ramification and the Swan conductor)とは、剰余標数 $p$ の完備離散付値体の Galois 拡大で惰性群の Sylow $p$ 部分群 $G_1$ が自明でないこと(野性分岐)と、表現 $V$ に対し $G_i$($i\ge1$)の固定部分空間の余次元を重み $\lvert G_i\rvert/\lvert G_0\rvert$ で足した数 $\operatorname{sw}(V)$(Swan 導手)である。Swan 導手は Artin 導手の野性分岐の部分で、$0$ になることと $G_1$ が $V$ に自明に作用することは同値である。$1$ 次元の指標では上付き番号の飛びに等しい。曲線の上の層の Euler 標数は Swan 導手の分だけ減る(Grothendieck–Ogg–Shafarevich の公式)。
前提知識: 分解群と惰性群, Herbrand関数と上付き番号, Artin導手, 群の表現
野性分岐(wild ramification)とは、剰余体の標数が $p$ の完備離散付値体の Galois 拡大で、分岐指数が $p$ で割り切れること、すなわち惰性群の中の $p$ 群 $G_1$(野性惰性群)が自明でないことをいう。Swan導手(Swan conductor)は、Galois 群の表現 $V$ ごとに、$V$ に $G_1$ 以下の高次分岐群がどれだけ非自明に作用するかを重み付きで足した数
$$
\operatorname{sw}(V)=\sum_{i\ge1}\frac{\lvert G_i\rvert}{\lvert G_0\rvert}\dim\bigl(V/V^{G_i}\bigr)
$$
である。Artin導手 $f(V)$ から順分岐の部分 $\dim(V/V^{G_0})$ を引いたものに等しく、野性分岐の分だけを測る。
Swan 導手は、正標数の曲線の上の層のコホモロジーで本質的に現れる。複素数体の上の曲線(Riemann 面)では、有限個の点を除いた曲線の上の局所系の Euler 標数は、階数と底空間の Euler 標数の積で決まる。標数 $p$ では、野性分岐する点ごとに Swan 導手の分だけ Euler 標数が減る(Grothendieck–Ogg–Shafarevich の公式)。この記事では、Swan 導手を定義し、基本性質(非負性、順分岐の判定、Swan 指標による表示)、1 次元の指標での上付き番号の飛びとの一致と整数性、Artin–Schreier拡大 の Swan 導手を完全に証明する。そのうえで、Grothendieck–Ogg–Shafarevich の公式から Artin–Schreier 曲線の種数を計算する。
この記事では、$K$ を完備離散付値体でその剰余体 $k$ が標数 $p>0$ の完全体であるもの(局所体 や $\mathbb F_q((t))$、$k$ が代数閉体の $k((t))$ など)とする。$L/K$ を有限次 Galois 拡大、$G:=\operatorname{Gal}(L/K)$ とし、$L$ の正規化された付値を $v_L$ とする。$L$ の付値環の $\mathcal O_K$ 代数としての生成元 $x$ について $i_G(s):=v_L(s(x)-x)$ とおき、
$$
G_i:=\{s\in G\mid i_G(s)\ge i+1\}\qquad(i\ge-1)
$$
を第 $i$ 分岐群とする(Ser79 Chapter IV, §1, pp. 62–63。分解群と惰性群 の定義「高次分岐群」と同じもの)。$G_0$ は惰性群、$g_i:=\lvert G_i\rvert$ とおき、$g_0=e_{L/K}$ は分岐指数である。
$G_0/G_1$ は位数が $p$ と素な巡回群で、$G_1$ は $G_0$ のただ 1 つの Sylow $p$ 部分群である(Ser79 Chapter IV, §2, Corollaries 1 と 3 of Proposition 7, p. 67。数体の場合は 分解群と惰性群 の系「惰性群の構造」)。
$G_1=1$ のとき $L/K$ は順分岐(tamely ramified)であるといい、$G_1\neq1$ のとき野性分岐(wildly ramified)するという。$G_1$ を野性惰性群(wild inertia group)という。
$\lvert G_0\rvert=\lvert G_0/G_1\rvert\cdot\lvert G_1\rvert$ で、第 1 因子は $p$ と素、第 2 因子は $p$ の冪なので、野性分岐は $p\mid e_{L/K}$ と同値である。これは 不分岐拡大と完全分岐拡大 の定義「不分岐拡大と完全分岐拡大」の暴分岐と同じ条件である。剰余体の標数 $p$ と素な次数の拡大は順分岐である。野性分岐は剰余体の標数と関係する現象で、標数 $0$ の剰余体をもつ体(たとえば $\mathbb C((t))$)では起きない。
$E$ を標数が $p$ でない体とする。$G$ の有限次元の $E$ 上の表現 $V$ と部分群 $H$ について、$V^H$ を $H$ の固定部分空間とする。
$$
\operatorname{sw}(V):=\sum_{i\ge1}\frac{g_i}{g_0}\dim\bigl(V/V^{G_i}\bigr)
$$
を $V$ の Swan 導手という。十分大きい $i$ で $G_i=1$ なので和は有限和である。$E=\mathbb C$ で $V$ の指標が $\chi$ のときは $\operatorname{sw}(\chi)$ とも書く。
$E=\mathbb C$ なら $\dim V^H=\chi(H):=\frac1{\lvert H\rvert}\sum_{h\in H}\chi(h)$ である(Artin導手 の補題「不変部分空間の次元」)。したがって
$$
\operatorname{sw}(\chi)=\sum_{i\ge1}\frac{g_i}{g_0}\bigl(\chi(1)-\chi(G_i)\bigr)
$$
であり、Artin導手 の定義「Artin導手」の和から $i=0$ の項を除いたものである。
1。 各項は $0$ 以上である。$(V\oplus V')^{H}=V^H\oplus V'^H$ なので $\dim\bigl((V\oplus V')/(V\oplus V')^H\bigr)$ は和になる。
2。 $i\ge1$ で $G_i\subset G_1$ なので、$G_1$ が自明に作用すれば $V^{G_i}=V$ で、すべての項が $0$ である。逆に $\operatorname{sw}(V)=0$ なら、$i=1$ の項 $\frac{g_1}{g_0}\dim(V/V^{G_1})$ は $0$ で、$g_1\ge1$ なので $V^{G_1}=V$ である。
3。 $f(V)=\sum_{i\ge0}\frac{g_i}{g_0}\dim(V/V^{G_i})$ であり(Artin導手 の補題「不変部分空間の次元」の後の式)、$i=0$ の項は $\dim(V/V^{G_0})$ である。
4。 順分岐なら $G_1=1$ なので、2 により $\operatorname{sw}(V)=0$ である。逆に $G_1\neq1$ なら、正則表現 $V=\mathbb C[G]$($G$ が左からの積で作用する)では、$V^{G_1}$ は係数が剰余類 $G_1g$ の上で一定な元 $\sum_ga_gg$ の空間なので、$\dim V^{G_1}=\lvert G\rvert/g_1< \dim V$ なので、2 により $\operatorname{sw}(V)>0$ である。$\square$
3 は、Artin 導手を「順分岐の部分」と「野性分岐の部分」に分ける式である。順分岐の部分 $\dim(V/V^{G_0})$ は惰性群の作用だけで決まり、階数を超えない。野性分岐の部分 $\operatorname{sw}(V)$ は高次分岐群の番号の重みがかかるので、いくらでも大きくなりうる(prop-sw-artin-schreier)。
$H$ を $G$ の部分群とする。$H$ の正則表現の指標を $r_H$、$u_H:=r_H-1_H$ を $H$ の添加表現(augmentation)の指標とし、$u_H^*$ を $u_H$ から誘導した $G$ の指標とする。
$G$ 上の関数
$$
b_G:=\sum_{i\ge1}\frac{g_i}{g_0}\,u_{G_i}^*
$$
を Swan 指標という。$G$ の指標 $\chi$ について $\operatorname{sw}(\chi)=(\chi,b_G)$ であり、Artin導手 の Artin 指標 $a_G$ について $a_G=u_{G_0}^*+b_G$ である。
要点:Frobenius の相互律で $(\chi,u_H^*)=\chi(1)-\chi(H)$ となる。
Frobenius の相互律 $(\chi,\psi^*)_G=(\chi|_H,\psi)_H$(Ser79 Chapter VI, §1, p. 98)により $(\chi,u_H^*)=(\chi|_H,r_H)_H-(\chi|_H,1_H)_H$ である。$r_H$ は $1$ で $\lvert H\rvert$、ほかで $0$ なので $(\chi|_H,r_H)_H=\chi(1)$ であり、$(\chi|_H,1_H)_H=\chi(H)$ である。よって $(\chi,u_H^*)=\chi(1)-\chi(H)$ で、$b_G$ の定義と内積の線形性から $(\chi,b_G)=\sum_{i\ge1}\frac{g_i}{g_0}(\chi(1)-\chi(G_i))=\operatorname{sw}(\chi)$ である。
後半:Ser79 Chapter VI, §2, Proposition 2(p. 100)は $a_G=\sum_{i\ge0}\frac{1}{(G_0:G_i)}u_{G_i}^*$ を示しており、$\frac{1}{(G_0:G_i)}=\frac{g_i}{g_0}$ なので、$i=0$ の項を分けると $a_G=u_{G_0}^*+b_G$ である。この等式は、両辺と任意の既約指標 $\chi$ との内積を比べても確かめられる:Artin導手 の定理「内積による表示」により左辺は $f(\chi)$、右辺は前半により $(\chi(1)-\chi(G_0))+\operatorname{sw}(\chi)$ で、prop-sw-basic の 3 により一致する。既約指標は類関数の基底なので、両辺は等しい。$\square$
$b_G$ は $\frac1{g_0}$ の分母をもつ指標の 1 次結合に見えるが、剰余体が代数閉体($G=G_0$)のとき、実際にはある表現の指標であり、$\ell\neq p$ について $\mathbb Z_\ell[G]$ 上の射影加群として実現される(Swan による。Ray65 §1, p. 130 は、$a_G-u_G$ を指標にもつ射影加群 $P_G$ を用いて局所の量を定義している。Lau81 Théorème 1.1.2.1, p. 175 も同じ主張を引く。この記事では証明しない)。これを Swan 表現という。
1 次元の指標 $\chi$(準同型 $G\to\mathbb C^\times$)について、$\chi$ が $G_c$ 上で自明でない最大の整数 $c$ を $c_\chi$ とする($\chi$ が $G_0$ 上で自明なら $c_\chi:=-1$)。$\varphi_{L/K}$ を Herbrand 関数とする(Herbrand関数と上付き番号 の定義「Herbrand関数」)。
1。 1 次元の指標は準同型なので、部分群 $H$ の上で自明なら $\chi(H)=1$、自明でなければ $\chi(H)=0$ である(自明でない準同型の値の和は $0$)。$i\le c_\chi$ なら $G_i\supset G_{c_\chi}$ の上で $\chi$ は自明でなく、$i>c_\chi$ なら自明なので、
$$
\operatorname{sw}(\chi)=\sum_{i=1}^{c_\chi}\frac{g_i}{g_0}
$$
である($c_\chi\le0$ なら空和で $0$)。$c_\chi\ge1$ のとき、Herbrand 関数は整数 $m\ge1$ について $\varphi_{L/K}(m)=\frac1{g_0}(g_1+\cdots+g_m)$ を満たすので(Ser79 Chapter IV, §3, p. 73 の式 $\varphi(m)+1=\frac1{g_0}\sum_{i=0}^mg_i$)、$\operatorname{sw}(\chi)=\varphi_{L/K}(c_\chi)$ である。上付き番号は $G^{\varphi(u)}=G_u$ で定まり(Herbrand関数と上付き番号 の定義「上付き番号の分岐群」)、$\varphi$ は増加関数なので、$\chi$ が $G^v$ で自明でない最大の $v$ は $\varphi(c_\chi)$ である。
2。 prop-sw-basic の 3 により $\operatorname{sw}(\chi)=f(\chi)-\chi(1)+\chi(G_0)$ である。$f(\chi)$ は Artin の定理により $0$ 以上の整数であり(Artin導手 の定理「Artinの定理」)、$\chi(G_0)=\dim V^{G_0}$ は整数である。よって $\operatorname{sw}(\chi)$ は整数で、prop-sw-basic の 1 により $0$ 以上である。$\square$
1 次元の指標では、2 の整数性は「上付き番号の飛び $\varphi(c_\chi)$ が整数」ということで、核の固定体の上のアーベル拡大についての Hasse–Arfの定理 の言い換えである(Artin導手 の定理「1次元の指標の導手」は、核の固定体に移ってから Hasse–Arf の定理を使って整数性を示している)。一般の指標の整数性は、Artin の定理(Brauer の誘導定理と誘導の公式による)に依存している。
$k$ を標数 $p$ の完全体、$K=k((t))$ とする。Artin–Schreier拡大 の定理「Artin–Schreier拡大の分岐」により、$v(a)=-m$($m\ge1$、$p\nmid m$)となる $a\in K$ について、$L=K(\wp^{-1}a)$ は次数 $p$ の完全分岐な巡回拡大で、$G=G_0=\cdots=G_m$、$G_{m+1}=1$ である。
上の $L/K$ と、$G\cong\mathbb Z/p\mathbb Z$ の標数 $p$ でない体上の表現 $V$ について
$$
\operatorname{sw}(V)=m\dim\bigl(V/V^G\bigr)
$$
である。とくに、
$1\le i\le m$ で $G_i=G$、$i\ge m+1$ で $G_i=1$ であり、$g_i/g_0=1$($i\le m$)なので、定義から $\operatorname{sw}(V)=\sum_{i=1}^m\dim(V/V^G)=m\dim(V/V^G)$ である。
1:$\chi$ は自明でないので $V^G=0$、$\dim(V/V^G)=1$ で $\operatorname{sw}(\chi)=m$ である。prop-sw-basic の 3 により $f(\chi)=\dim(V/V^{G_0})+\operatorname{sw}(\chi)=1+m$ である。
2:$E[G]$ の $G$ 不変な元は係数がすべて等しい元 $c\sum_{g}g$ なので $\dim V^G=1$ で、$\dim(V/V^G)=p-1$ である。
3:Hilbert の公式 $v_L(\mathfrak D_{L/K})=\sum_{i\ge0}(g_i-1)$(Ser79 Chapter IV, §1, Proposition 4, p. 64。Artin導手 の定理「Hilbertの差積公式」)により、$i=0,\dots,m$ の $m+1$ 個の項がそれぞれ $p-1$ で、$(p-1)(m+1)$ である。$\square$
$k$ が有限体なら $f_{L/K}=1$ なので判別式の指数も $(p-1)(m+1)$ であり、Artin導手 の定理「導手判別式公式」の右辺 $\sum_\chi f(\chi)=0+(p-1)(m+1)$ と一致する。$m$ は $p$ と素な任意の正の整数をとれるので、次数 $p$ の拡大でも Swan 導手はいくらでも大きくなる。$[L:K]$ が剰余体の標数と素なら Swan 導手は $0$ なので、これは野性分岐に特有の現象である。この計算は Lau81 1.1.7(pp. 178–179)にもあり、そこでは $x^{-m}$($m=dp^r$、$p\nmid d$)の Artin–Schreier 被覆の Swan 導手が $d$ と計算されている。
$k$ を代数閉体、$n\ge2$ を $p$ と素な整数、$L=K(t^{1/n})$ とする。$G=G_0$ は位数 $n$ の巡回群で、$n$ は $p$ と素なので $G_1=1$($G_1$ は $p$ 群)であり、$L/K$ は順分岐である。忠実な 1 次元の指標 $\chi$ について $f(\chi)=1$、$\operatorname{sw}(\chi)=0$ である。
$K=\mathbb Q_3$、$L=\mathbb Q_3(\zeta_3,\sqrt[3]{2})$、$G\cong S_3$ では、$G_0=S_3$、$G_1=A_3$、$G_2=1$ である(Herbrand関数と上付き番号 の例「上付き番号の飛びが整数でない例」)。自明な指標 $1$、符号 $\varepsilon$、2 次元の既約指標 $\rho$ について
$$
\operatorname{sw}(1)=0,\qquad\operatorname{sw}(\varepsilon)=0,\qquad\operatorname{sw}(\rho)=\frac{3}{6}\cdot2=1
$$
である。$\varepsilon$ は $A_3$ の上で自明なので野性分岐の部分がない。$\rho$ を $A_3$ に制限すると自明でない 2 つの指標の和なので $\rho^{A_3}=0$ である。Artin導手 の例「$S_3$ 拡大」の $f(\rho)=3$ は、順分岐の部分 $2$ と Swan 導手 $1$ の和に分かれる。上付き番号の飛びは $\varphi(1)=\frac12$ で整数でないが、$\operatorname{sw}(\rho)=1$ は整数である。
$k$ を標数 $p$ の代数閉体、$X$ を $k$ 上の射影的で滑らかな連結曲線、$U\subset X$ を空でない開集合、$S:=X\setminus U$ とする。$\ell\neq p$ を素数とし、$\mathcal F$ を $U$ の上の局所定数な構成可能層(有限次元 $\mathbb F_\ell$ ベクトル空間の層)とする。$x\in S$ で完備化した関数体 $K_x\cong k((t_x))$ の絶対 Galois 群は $\mathcal F$ の幾何的生成点での茎 $M$ に有限商 $G$ を通して作用し、$k$ は代数閉体なので $G=G_0$ である。$\mathbb F_\ell$ の標数は $p$ でないので def-sw-conductor が使え、$\operatorname{Sw}_x(\mathcal F):=\operatorname{sw}(M)$ とおく(Lau81 1.1.5–1.1.6, pp. 177–178 の定義と同じ)。
$$
\chi_c(U,\mathcal F)=\operatorname{rank}(\mathcal F)\cdot\chi_c(U)-\sum_{x\in S}\operatorname{Sw}_x(\mathcal F)
$$
である。ここで $\chi_c(U,\mathcal F)=\sum_i(-1)^i\dim H^i_c(U,\mathcal F)$、$\chi_c(U)=2-2g-\lvert S\rvert$($g$ は $X$ の種数)である。
右辺の第 1 項は、位相空間の上の局所系の Euler 標数と同じ形で、第 2 項が野性分岐による補正である。$\mathcal F$ の係数の標数 $\ell$ が $p$ と異なるという仮定は、Swan 導手を定義するために使われる。$\mathcal F$ が定数層なら、すべての $x$ で $\operatorname{Sw}_x(\mathcal F)=0$ なので、補正は現れない。
これは Grothendieck による公式で、Lau81 1.2, 式 (1.2.1)(pp. 179–180)の形で述べた。Ray65 Théorème 1 の式 (2)・(2 ter)(p. 133)は同じ公式を $X$ の上の層について述べている。Mathpedia では 特性サイクル の系「曲線の Euler 標数」が、斎藤の指数公式からこの公式を導いている。この記事では証明しない。
すべての $x$ で $\operatorname{Sw}_x(\mathcal F)=0$(順分岐)なら、$\chi_c(U,\mathcal F)=\operatorname{rank}(\mathcal F)\cdot\chi_c(U)$ となり、位相空間の上の局所系と同じ式になる。Swan 導手は、この乗法性からのずれを測る。
$f\in k[x]$ を次数 $m$ が $p$ と素な多項式とし、$C$ を $y^p-y=f(x)$ で定まる曲線 $C_0\subset\mathbb A^2$ を完備化した射影的で滑らかな曲線とする。$C$ の種数は
$$
g(C)=\frac{(p-1)(m-1)}{2}
$$
である。
被覆。 Artin–Schreier拡大 の例「アフィン直線の Artin–Schreier 被覆」により、$\pi\colon C_0\to\mathbb A^1$ は Galois 群 $G\cong\mathbb F_p$ の有限エタール被覆で、無限遠点 $\infty$ で完全分岐し、$G=G_0=\cdots=G_m$、$G_{m+1}=1$ である。完全分岐なので $\infty$ の上の $C$ の点はただ 1 つであり、$C=C_0\cup\{\infty'\}$ である。
GOS の公式の右辺。 $\mathcal F:=\pi_*\mathbb F_\ell$ は $\mathbb A^1$ の上の階数 $p$ の局所定数な層である。幾何的生成点での茎 $M$ はファイバーの $p$ 点の上の関数の空間で、$G$ は平行移動で作用するので、$M$ は正則表現 $\mathbb F_\ell[G]$ である。prop-sw-artin-schreier の 2 により $\operatorname{Sw}_\infty(\mathcal F)=m(p-1)$ である。$\chi_c(\mathbb A^1)=2-0-1=1$ なので、thm-sw-gos により
$$
\chi_c(\mathbb A^1,\mathcal F)=p\cdot1-m(p-1)
$$
である。
左辺。 $\pi$ は有限射なので $\pi_*=\pi_!$ は完全で、$H^i_c(\mathbb A^1,\pi_*\mathbb F_\ell)=H^i_c(C_0,\mathbb F_\ell)$ である。開集合 $C_0$ と閉点 $\infty'$ の完全列
$$
\cdots\to H^i_c(C_0,\mathbb F_\ell)\to H^i(C,\mathbb F_\ell)\to H^i(\infty',\mathbb F_\ell)\to\cdots
$$
から $\chi_c(C_0,\mathbb F_\ell)=\chi(C,\mathbb F_\ell)-1$ である。代数閉体上の種数 $g$ の射影的で滑らかな曲線では $\dim H^0=\dim H^2=1$、$\dim H^1=2g$ なので(エタールコホモロジー の例「代数閉体上の曲線」)、$\chi(C,\mathbb F_\ell)=2-2g$ である。
比較。 $1-2g=p-m(p-1)$ から $2g=(p-1)m-(p-1)=(p-1)(m-1)$ である。$\square$
たとえば $p=2$、$m=3$ の $y^2+y=x^3$ は種数 $1$(楕円曲線)、$p=3$、$m=2$ の $y^3-y=x^2$ も種数 $1$ である。$f=x^{m}$ で $m=m_0p^e$($p\nmid m_0$)のときは、$s:=x^{m_0p^{e-1}}+x^{m_0p^{e-2}}+\cdots+x^{m_0}$ とおくと $s^p-s=x^m-x^{m_0}$ なので、新しい変数 $z:=y-s$ について方程式は $z^p-z=x^{m_0}$ になり(アフィン曲線として同型)、種数は $(p-1)(m_0-1)/2$ である。この形の種数の公式は NSW20 Chapter X, §1, Exercise 1(p. 617)に演習として載っており、上の証明はその解答になっている。
順分岐な被覆なら、GOS の公式から $\chi_c(C_0)=p\,\chi_c(\mathbb A^1)=p$ となるはずである。実際には $\chi_c(C_0)=p-m(p-1)$ で、野性分岐の Swan 導手 $m(p-1)$ だけ小さい。$\mathbb F_\ell$ が $1$ の原始 $p$ 乗根を含むなら($\ell\equiv1\pmod p$)、$\pi_*\mathbb F_\ell$ は $G$ の $p$ 個の指標 $\psi$ に対応する階数 $1$ の層 $\mathcal L_\psi$ の直和に分かれ、自明でない $\psi$ については $\operatorname{Sw}_\infty(\mathcal L_\psi)=m$、$\chi_c(\mathbb A^1,\mathcal L_\psi)=1-m$ である。
| 外す条件 | 反例 | 成り立たなくなること |
|---|---|---|
| 順分岐($G_1=1$) | Artin–Schreier 拡大の自明でない指標 | $\operatorname{sw}(\chi)=0$ |
| 不分岐($G_0=1$) | 順分岐な拡大 $k((t))(t^{1/n})$($n\ge2$)の忠実な指標 | $\operatorname{sw}(\chi)=0$ なら $f(\chi)=0$ |
| 指標が 1 次元 | $S_3$ 拡大の 2 次元の指標 $\rho$ | $\operatorname{sw}(\chi)=\varphi_{L/K}(c_\chi)$ |
| Galois 群がアーベル | $\mathbb Q_3(\zeta_3,\sqrt[3]2)/\mathbb Q_3$ | 上付き番号の飛びが整数 |
| 野性分岐がない | Artin–Schreier 被覆 $C_0\to\mathbb A^1$ | $\chi_c(C_0)=p\,\chi_c(\mathbb A^1)$ |
各行を確かめる。1 行目は prop-sw-artin-schreier の 1 で $\operatorname{sw}(\chi)=m\ge1$ である。prop-sw-basic の 4 の「順分岐 $\Rightarrow$ $\operatorname{sw}=0$」は $G_1=1$ を使っており、$G_1=G$ ではこれが崩れる。2 行目は ex-sw-tame で $\operatorname{sw}(\chi)=0$ だが $f(\chi)=1$ である。Swan 導手は順分岐を検出しないので、「$\operatorname{sw}=0$」は「不分岐」より弱い条件である。3 行目は ex-sw-s3 で $c_\rho=1$、$\varphi(1)=\frac12$ だが $\operatorname{sw}(\rho)=1$ である。thm-sw-integral の 1 の証明で「$\chi(G_i)$ は $0$ か $1$」を使ったところが、$\rho(1)=2$ では成り立たない。4 行目も ex-sw-s3 で、飛び $\frac12$ は Hasse–Arfの定理 の結論を破る。Galois 群 $S_3$ はアーベル群でないので、定理に反しない。5 行目は prop-sw-genus の証明のとおり $\chi_c(C_0)=p-m(p-1)< p$ である。
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