準正規部分群(quasinormal subgroup)とは、群 $G$ の部分群 $H$ であって、$G$ の任意の部分群 $K$ に対して集合としての積が $HK=KH$ を満たすもののことである。置換可能部分群(permutable subgroup)ともいう。正規部分群は元ごとに $gH=Hg$ を要求するのに対し、準正規部分群は部分群ごとの条件だけを課すので、正規部分群は準正規部分群であるが逆は成り立たず、位数 $8$ の巡回群 $\langle a\rangle$ に $bab^{-1}=a^5$ で作用する位数 $2$ の元 $b$ を添加した位数 $16$ の非アーベル群では、$\langle b\rangle$ が準正規だが正規でない例を与える。有限群では準正規部分群は副正規部分群である(Ore)。すべての部分群が準正規である群を岩澤群といい、アーベル群はその例である。
$G$ を群とし、部分集合 $A,B\subset G$ に対して積を $AB:=\{ab\mid a\in A,\ b\in B\}$ と定める。$H,K$ が部分群であっても $HK$ は一般には部分群にならない。
群 $G$ の部分群 $H$ と $K$ が交換する(permute)とは、$HK=KH$ が成り立つことをいう。
群 $G$ の部分群 $H$ が $G$ の準正規部分群(quasinormal subgroup)または置換可能部分群(permutable subgroup)であるとは、$G$ の任意の部分群 $K$ に対して $H$ と $K$ が交換する、すなわち $HK=KH$ が成り立つことをいう。
関連して、次の二つの概念を本記事で使う。
群 $G$ の部分群 $H$ が副正規部分群(subnormal subgroup)であるとは、有限個の部分群の列
$$
H=H_0\trianglelefteq H_1\trianglelefteq\cdots\trianglelefteq H_n=G
$$
で、各 $H_{i}$ が $H_{i+1}$ の正規部分群となるものが存在することをいう。
群 $G$ のすべての部分群が準正規部分群であるとき、$G$ を岩澤群(Iwasawa group)という。
正規部分群 $N$ は「どの元 $g$ についても $gN=Ng$」という、元ごとの条件で定義される。準正規部分群はこれを緩め、「どの部分群 $K$ についても $HK=KH$」という、部分群ごとの条件だけを課したものである。$HK=KH$ は集合としての一致であって、個々の元が $hk=kh$ を満たすことは要求しない。この緩め方のため、正規ではないが準正規な部分群が存在し、有限群では準正規部分群は正規部分群と副正規部分群の中間に位置する。
群 $G$ の正規部分群はすべて準正規部分群である(prop-quasinormal-subgroup-normal)。特に自明部分群 $\{1\}$ と $G$ 自身は準正規部分群である。
アーベル群 $G$ ではすべての部分群が正規であるから、すべての部分群が準正規である。したがってアーベル群は岩澤群である。
位数 $8$ の巡回群 $\langle a\rangle$ に、$bab^{-1}=a^5$ で作用する位数 $2$ の元 $b$ を添加した位数 $16$ の群 $G$(lem-quasinormal-subgroup-semidirect で $n=8$、$u=5$ として構成される群)は非アーベル群である($ba=a^5b\neq ab$)。部分群 $H=\langle b\rangle=\{1,b\}$ は $G$ の準正規部分群だが正規部分群ではない(prop-quasinormal-subgroup-m16)。準正規部分群であって正規部分群でないものが存在する。
次の二つの例は、それぞれ「部分群 ⇒ 準正規部分群」「副正規部分群 ⇒ 準正規部分群」が成り立たないことを示す。
群 $G$ の部分群 $H,K$ について、$HK=KH$ であることと $HK$ が $G$ の部分群であることは同値である。
$HK=KH$ とする。$1=1\cdot1\in HK$ である。$h_1k_1,h_2k_2\in HK$ に対し、$k_1h_2\in KH=HK$ なので $k_1h_2=h'k'$($h'\in H$、$k'\in K$)と書け、$(h_1k_1)(h_2k_2)=(h_1h')(k'k_2)\in HK$ である。また $(hk)^{-1}=k^{-1}h^{-1}\in KH=HK$ である。よって $HK$ は部分群である。
逆に $HK$ が部分群とする。$kh\in KH$ に対し $(kh)^{-1}=h^{-1}k^{-1}\in HK$ であり、$HK$ は部分群なので逆元を取って $kh\in HK$、すなわち $KH\subset HK$。また $hk\in HK$ に対し $(hk)^{-1}\in HK$ なので $(hk)^{-1}=h'k'$ と書け、$hk=(k')^{-1}(h')^{-1}\in KH$、すなわち $HK\subset KH$。よって $HK=KH$ である。$\square$
群 $G$ の正規部分群 $N$ は準正規部分群である。
$K$ を任意の部分群とする。$n\in N$、$k\in K$ に対し、$N$ の正規性から $k^{-1}nk\in N$ なので $nk=k(k^{-1}nk)\in KN$ であり、$NK\subset KN$ を得る。同様に $knk^{-1}\in N$ から $kn=(knk^{-1})k\in NK$ であり、$KN\subset NK$ を得る。よって $NK=KN$ である。$\square$
以下の二つの例で使う群を、次の補題で具体的に構成する。
$n\ge1$ を整数、$u$ を $u^2\equiv1\pmod n$ を満たす整数とする。記号 $a^ib^j$($i\in\mathbb{Z}/n\mathbb{Z}$、$j\in\mathbb{Z}/2\mathbb{Z}$)で表される $2n$ 個の元からなる集合に、積を
$$
(a^ib^j)(a^kb^l):=a^{\,i+u^jk}\,b^{\,j+l}
$$
で定めると($a$ の指数は $n$ を法、$b$ の指数は $2$ を法とし、$u^j$ は $j\in\{0,1\}$ の代表で計算する)、これは位数 $2n$ の群である。$a:=a^1b^0$、$b:=a^0b^1$ とおくと $a^k=a^kb^0$、$a^n=1$、$b^2=1$、$bab^{-1}=a^u$ が成り立ち、任意の $k$ について $ba^k=a^{uk}b$ である。
$u^2\equiv1\pmod n$ なので $u^j$ の値($n$ を法)は $j$ を $2$ を法として見たときに定まり、積は well-defined である。結合律は
$$
\bigl((a^ib^j)(a^kb^l)\bigr)(a^mb^p)=a^{\,i+u^jk+u^{j+l}m}\,b^{\,j+l+p},\qquad
(a^ib^j)\bigl((a^kb^l)(a^mb^p)\bigr)=a^{\,i+u^j(k+u^lm)}\,b^{\,j+l+p}
$$
の両者が $u^{j+l}=u^ju^l$ により一致することから従う。$a^0b^0$ は単位元である。$a^ib^j$ の逆元は $a^{-u^ji}b^j$ である。実際 $(a^{-u^ji}b^j)(a^ib^j)=a^{-u^ji+u^ji}b^{2j}=a^0b^0$、$(a^ib^j)(a^{-u^ji}b^j)=a^{i-u^{2j}i}b^{2j}=a^0b^0$ である。よって群であり、元の個数は $2n$ である。$a^kb^0\cdot a^1b^0=a^{k+1}b^0$ から帰納的に $a^k=a^kb^0$、特に $a^n=a^0b^0=1$。$b^2=a^0b^2=1$。$ba^k=(a^0b^1)(a^kb^0)=a^{uk}b$ であり、$b^{-1}=b$ なので $bab^{-1}=a^ub\cdot b=a^u$ である。$\square$
$G$ を lem-quasinormal-subgroup-semidirect で $n=8$、$u=5$ として得られる位数 $16$ の群とし($5^2=25\equiv1\pmod8$)、$H=\langle b\rangle=\{1,b\}$ とする。$H$ は $G$ の準正規部分群であるが、正規部分群ではない。
以下、補題により $a^8=b^2=1$、$ba^k=a^{5k}b$、$bab^{-1}=a^5$ であり、$G$ の元は $a^ib^j$($0\le i\le7$、$j\in\{0,1\}$)と一意に書ける。
正規でないこと。 $ba^{-1}=a^{-5}b$ なので $aba^{-1}=a\cdot a^{-5}b=a^{-4}b=a^4b\notin H$ である。
$z:=a^4$ の性質。 $bzb^{-1}=a^{20}=a^4=z$ なので $z$ は $a$ とも $b$ とも交換し、$G$ の中心に属する。また $aba^{-1}b^{-1}=a^4b\cdot b^{-1}=z$ である。剰余群 $G/\langle z\rangle$ は $a,b$ の像で生成され、その像は交換するので $G/\langle z\rangle$ はアーベル群である。したがって任意の $x,y\in G$ に対し $xyx^{-1}y^{-1}\in\langle z\rangle=\{1,z\}$ である。
$z\in K$ の場合。 $K$ を $z$ を含む部分群とする。$k\in K$ に対し $bkb^{-1}k^{-1}\in\{1,z\}\subset K$ なので $bkb^{-1}=(bkb^{-1}k^{-1})k\in K$ である。したがって $bk=(bkb^{-1})b\in Kb$ で $bK\subset Kb$ である。また $b^{-1}=b$ なので $kb=b(bkb^{-1})\in bK$ で $Kb\subset bK$ である。よって $bK=Kb$ であり、$HK=K\cup bK=K\cup Kb=KH$ である。
$z\notin K$ の場合。 まず $G$ の元の位数を調べる。$\langle a\rangle$ は位数 $8$ の巡回群で、その部分群は $\langle a\rangle,\langle a^2\rangle,\langle a^4\rangle,\{1\}$ の四つであり、自明でない部分群はすべて $z=a^4$ を含む。よって $a^m\neq1$ なら $z\in\langle a^m\rangle$ である。特に $a^i$($i\neq0$)が位数 $2$ になるのは $i=4$ のときに限る。$a^ib$ については $(a^ib)^2=a^i\cdot a^{5i}=a^{6i}$ であり、これが $1$ になるのは $8\mid6i$、すなわち $i\in\{0,4\}$ のときに限る。$i\notin\{0,4\}$ なら $a^{6i}\neq1$ なので $z\in\langle a^{6i}\rangle\subset\langle a^ib\rangle$ である。以上から、位数 $2$ の元は $z$、$b$、$a^4b$ の三つであり、位数 $4$ 以上の元 $x$ は必ず $z\in\langle x\rangle$ を満たす。
$K$ が $z$ を含まない部分群なら、$K$ の元はすべて位数 $2$ 以下で $K\subset\{1,b,a^4b\}$ である。$b\cdot a^4b=a^{20}b^2=a^4=z\notin K$ なので $b$ と $a^4b$ を同時には含めず、$K\in\{\{1\},\ \langle b\rangle,\ \langle a^4b\rangle\}$ である。$K=\{1\}$ と $K=H$ では明らかに $HK=KH$。$K=\langle a^4b\rangle=\{1,a^4b\}$ では $HK=\{1,b,a^4b,b\cdot a^4b\}=\{1,b,a^4b,z\}$、$KH=\{1,a^4b,b,a^4b\cdot b\}=\{1,a^4b,b,z\}$ で一致する。
以上により、任意の部分群 $K$ に対して $HK=KH$ であり、$H$ は準正規部分群である。$\square$
$D_8$ を lem-quasinormal-subgroup-semidirect で $n=4$、$u=-1$ として得られる位数 $8$ の群とし、その生成元を $r:=a$、$s:=b$ と書く($r^4=s^2=1$、$srs^{-1}=r^{-1}$)。$H=\langle s\rangle=\{1,s\}$ は $D_8$ の副正規部分群であるが、準正規部分群ではない。
副正規性。 $sr^2s^{-1}=r^{-2}=r^2$ なので $r^2$ は $s$ と交換し、$r$ とも交換するから中心に属する。$M:=\{1,s,r^2,r^2s\}$ は、$s^2=1$、$(r^2)^2=1$、$r^2s=sr^2$、$(r^2s)^2=r^2sr^2s=r^4s^2=1$ により積で閉じ、逆元でも閉じる(各元が自分自身の逆元)ので、位数 $4$ の部分群である。指数 $2$ の部分群は正規である:$[G:M]=2$ なら $g\notin M$ に対し左剰余類は $M$ と $gM=G\setminus M$、右剰余類は $M$ と $Mg=G\setminus M$ なので $gM=Mg$、$g\in M$ なら $gM=M=Mg$。よって $[D_8:M]=2$、$[M:H]=2$ から $H\trianglelefteq M\trianglelefteq D_8$ であり、$H$ は副正規部分群である。
準正規でないこと。 $K:=\langle rs\rangle$ とする。$(rs)^2=rsrs=r(srs^{-1})s^2=r\cdot r^{-1}=1$ なので $K=\{1,rs\}$ である。$HK=\{1,s,rs,s\cdot rs\}$ であり、$s\cdot rs=(srs^{-1})s^2=r^{-1}$ なので $HK=\{1,s,rs,r^{-1}\}$ である。$HK$ は $r^{-1}$ を含むが $(r^{-1})^2=r^2$ を含まない($r^2\notin\{1,s,rs,r^{-1}\}$ は元の一意な表示から分かる)ので部分群でなく、prop-quasinormal-subgroup-criterion により $HK\neq KH$ である。よって $H$ は準正規部分群ではない。$\square$
有限群 $G$ の準正規部分群 $H$ は $G$ の副正規部分群である。
この定理は Ore39 による。本記事では証明を与えず、引用にとどめる。逆は成り立たない(prop-quasinormal-subgroup-d8 の $D_8$ の例)。
有限群では次の含意が成り立ち、いずれの逆も一般には成り立たない。
| 性質 | 定義の形 | 一段強い性質からの含意 | 逆が破れる例 |
|---|---|---|---|
| 正規部分群 | 任意の元 $g$ で $gH=Hg$ | — | — |
| 準正規部分群 | 任意の部分群 $K$ で $HK=KH$ | 正規 ⇒ 準正規(prop-quasinormal-subgroup-normal) | prop-quasinormal-subgroup-m16 の $\langle b\rangle$(準正規だが正規でない) |
| 副正規部分群 | 正規部分群の有限列で $G$ に至る | 準正規 ⇒ 副正規(有限群、thm-quasinormal-subgroup-ore) | prop-quasinormal-subgroup-d8 の $\langle s\rangle$(副正規だが準正規でない) |
「準正規部分群」と「置換可能部分群」は同じ概念の二つの名称で、英語文献では permutable subgroup の呼称も広く使われる。
Mathpediaは寄付と、参考文献の書籍リンク(Amazonアソシエイト)の紹介料で運営されています。 支援について / 寄付する