局所体のノルム群

同義語:ノルム写像と局所体のノルム群ノルム群(局所体)norm group of a local field

概要

局所体のノルム群(norm group of a local field)とは、局所体 $K$ の有限次分離拡大 $L$ について、ノルム写像 $N_{L/K}\colon L^\times\to K^\times$ の像 $N_{L/K}(L^\times)$ のことである。$L/K$ が次数 $n$、分岐指数 $e$ の巡回拡大なら、指数は $(K^\times:N_{L/K}(L^\times))=n$、単数群については $(U_K:N_{L/K}(U_L))=e$ であり、これは Hilbert の定理 90 と Herbrand 商から類体論を使わずに示せる。Galois でない拡大や、剰余体が無限の完備離散付値体では、この等式が成り立たない例がある。局所類体論はノルム群によってアーベル拡大を分類する。

$$\newcommand{C}[0]{\mathbb{C}} \newcommand{div}[0]{\mathbin{÷}} \newcommand{N}[0]{\mathbb{N}} \newcommand{Q}[0]{\mathbb{Q}} \newcommand{R}[0]{\mathbb{R}} \newcommand{Z}[0]{\mathbb{Z}} $$

前提知識: 局所体, 不分岐拡大と完全分岐拡大, Hilbertの定理90, Herbrand商

局所体 $K$ の有限次分離拡大 $L$ について、ノルム写像 $N_{L/K}\colon L^\times\to K^\times$ の像 $N_{L/K}(L^\times)$ を $L/K$ のノルム群という。局所類体論 は、アーベル拡大 $L/K$ に対して商 $K^\times/N_{L/K}(L^\times)$ が Galois 群 $\operatorname{Gal}(L/K)$ に同型になることを主張する。その同型の手前にある「商の位数が拡大次数に等しい」という部分は、巡回拡大については類体論を使わずに示せる。
この記事では、局所体のノルム写像の基本性質を述べたあと、巡回拡大 $L/K$ について
$$ (K^\times:N_{L/K}(L^\times))=[L:K],\qquad (U_K:N_{L/K}(U_L))=e(L/K) $$
($U$ は単数群、$e$ は分岐指数)を、Hilbertの定理90 と Herbrand商 から証明する。さらに順分岐の完全分岐拡大で単数のノルムを具体的に決定し、Galois でない拡大や剰余体が無限の場合に指数の等式が崩れる例を挙げる。

設定と記号

$K$ を 局所体 の記事の定義「局所体」の意味の局所体とし、正規化された離散付値を $v_K$、整数環を $\mathcal{O}_K$、極大イデアルを $\mathfrak{m}_K$、素元を $\pi$、剰余体を $k$、その元の個数を $q$、$k$ の標数を $p$ とする。正規化された絶対値は $|x|=q^{-v_K(x)}$ である。単数群を $U_K:=\mathcal{O}_K^\times$、$m\ge1$ について $U_K^{(m)}:=1+\mathfrak{m}_K^m$ とおく。
$L/K$ を次数 $n$ の有限次分離拡大とする。局所体 の記事の定理「標数0の局所体と有限次拡大」の 1 により、$L$ の正規化された離散付値 $v_L$ で $v_L|_{K^\times}=e\,v_K$ となるものがただ 1 つあり、$L$ は局所体で、剰余次数を $f$ とすると $n=ef$ である($e=e(L/K)$、$f=f(L/K)$ の定義は 不分岐拡大と完全分岐拡大 の記事の定義「分岐指数と剰余次数」)。$L$ の記号 $\mathcal{O}_L$、$\mathfrak{m}_L$、$U_L$、$U_L^{(m)}$ も同様に定める。$K$ の絶対値の $L$ への延長を
$$ |x|:=q^{-v_L(x)/e}\qquad(x\in L^\times) $$
で定める。付値の一意性から、$L$ を含む任意の拡大体 $M$ への $K$ 上の体の埋め込み $\sigma\colon L\to M$($M$ も同じく延長した絶対値をもつ)について $|\sigma(x)|=|x|$ である($x\mapsto|\sigma(x)|$ も $K$ の絶対値の延長だから。局所類体論 の記事の注意「使う基本事実」の (F1))。
$M$ を $L$ の $K$ 上の Galois 閉包とし、$\sigma_1,\dots,\sigma_n$ を $L$ から $M$ への $K$ 上の埋め込みとする。$L$ の元のノルムを
$$ N_{L/K}(x):=\prod_{i=1}^n\sigma_i(x) $$
で定める。これは $\operatorname{Gal}(M/K)$ の元で埋め込みの並び替えを受けるだけなので $K$ に属する。$L/K$ が Galois なら $N_{L/K}(x)=\prod_{\sigma\in\operatorname{Gal}(L/K)}\sigma(x)$ である。

ノルム群

$L/K$ を局所体の有限次分離拡大とする。$N_{L/K}(L^\times)\subset K^\times$ を $L/K$ のノルム群という。

$N_{L/K}$ は群準同型なので、ノルム群は $K^\times$ の部分群である(この定義は 局所類体論 の記事の定義「ノルム群」と同じである)。

ノルムの基本性質

$L/K$ を次数 $n$ の有限次分離拡大とする。
(i) $a\in K^\times$ なら $N_{L/K}(a)=a^n$ である。
(ii) $x\in L^\times$ について $|N_{L/K}(x)|=|x|^n$、すなわち $v_K(N_{L/K}(x))=f\,v_L(x)$ である。
(iii) $N_{L/K}(U_L)\subset U_K$、$N_{L/K}(U_L^{(1)})\subset U_K^{(1)}$ であり、$N_{L/K}(L^\times)\cap U_K=N_{L/K}(U_L)$ である。
(iv) $v_K(N_{L/K}(L^\times))=f\mathbb{Z}$ である。

(i):各 $\sigma_i$ は $K$ の元を固定する。
(ii):$|\sigma_i(x)|=|x|$ なので $|N_{L/K}(x)|=|x|^n=q^{-nv_L(x)/e}=q^{-fv_L(x)}$ である。
(iii):$u\in U_L$ なら $|N_{L/K}(u)|=1$ なので $N_{L/K}(u)\in U_K$ である。$u\in U_L^{(1)}$ なら $|\sigma_i(u)-1|=|\sigma_i(u-1)|=|u-1|<1$ なので、$\sigma_i(u)$ は $M$ の $1$ に近い単数であり、その積 $N_{L/K}(u)$ も $|N_{L/K}(u)-1|<1$ を満たす($|xy-1|\le\max\{|x|\,|y-1|,|x-1|\}$)。よって $N_{L/K}(u)\in U_K^{(1)}$ である。最後の等式は、(ii) により $N_{L/K}(x)\in U_K$ が $v_L(x)=0$、すなわち $x\in U_L$ と同値であることから従う。
(iv):(ii) と $v_L(L^\times)=\mathbb{Z}$ から従う。$\square$

(iii) と (iv) から、$v_K$ が誘導する完全列
$$ 1\to U_K/N_{L/K}(U_L)\to K^\times/N_{L/K}(L^\times)\xrightarrow{\ v_K\ }\mathbb{Z}/f\mathbb{Z}\to0 $$
が得られる。左の写像が単射であることが (iii) の等式、右の写像の核が $U_K$ の像であることが $K^\times=\pi^{\mathbb{Z}}U_K$ から従う。したがって
$$ (K^\times:N_{L/K}(L^\times))=f\cdot(U_K:N_{L/K}(U_L)) $$
であり(両辺の一方が有限なら他方も有限。以下この等式を指数の等式と呼ぶ)、ノルム群の指数を求めることは単数のノルムの指数を求めることに帰着する。

主定理

巡回拡大のノルム群の指数

$L/K$ を局所体の次数 $n$ の巡回拡大とし、$e=e(L/K)$ とする。このとき
$$ (U_K:N_{L/K}(U_L))=e,\qquad (K^\times:N_{L/K}(L^\times))=n $$
である。

2 つの等式の関係

2 つの等式は互いに整合している。$K^\times/U_K\cong\mathbb{Z}$(付値による)で、$x\in L^\times$ のノルムの付値は $f\,v_L(x)$($f$ は剰余次数)であり、$N_{L/K}(x)$ が単数になるのは $x$ が単数のときに限る。したがって $(K^\times:N_{L/K}(L^\times))=f\cdot(U_K:N_{L/K}(U_L))$ となり、$ef=n$ のもとで 2 つの等式は同値である。指数 $e$ は $L/K$ の分岐の大きさを表し、不分岐なら単数はすべてノルムになる。

$L/K$ がアーベル拡大なら、局所相互法則(局所類体論 の記事の定理「局所相互法則」の (ii))から $(K^\times:N_{L/K}(L^\times))=n$ が従う。thm-norm-cyclic-index は、巡回拡大に限ってこの指数の等式を相互写像の存在なしに示すものであり、類体論の証明の中では「類体の公理」と呼ばれる段階にあたる(NSW20 第 VII 章 Theorem (7.1.1), pp. 371–372)。不分岐拡大では $e=1$ なので $N_{L/K}(U_L)=U_K$ となり、局所類体論 の記事の命題「不分岐拡大のノルム」の (a) と一致する。

直感

単数群 $U_L$ は、剰余体が有限であるおかげで、ほとんど「自由な」部分($1$ に十分近い単数の群)と有限な部分とに分かれる。自由な部分は Galois 群の作用について誘導加群のように振る舞い、Tate コホモロジーが消える。有限な部分は Herbrand 商に効かない。こうして単数群では $\hat H^0$ と $\hat H^{-1}$ の大きさが等しくなる。一方 $\hat H^{-1}$ は、Hilbert の定理 90 により「$L^\times$ の元のずれ $\sigma(y)/y$ のうち、単数のずれで書けないもの」を数えており、それは $y$ の付値を $e$ を法として見ることで測られる。$\hat H^0(G,U_L)=U_K/N_{L/K}(U_L)$ なので、単数のノルムの指数は $e$ になる。

主定理の証明

以下この節では、$L/K$ を次数 $n$ の巡回拡大、$G=\operatorname{Gal}(L/K)$、$\sigma$ をその生成元とする。$G$ は $L^\times$ と $U_L$ に作用し(prop-norm-basic の証明で見たとおり $|\tau(x)|=|x|$ なので $\tau(U_L)=U_L$)、乗法的に書いた $G$ 加群になる。Tate コホモロジーは Tateコホモロジー の記事の定義「Tateコホモロジー」に従う。巡回群では $I_GA=(\sigma-1)A$ なので(同じ記事の節「巡回群での周期性」の冒頭)、乗法的に書くと
$$ \hat H^0(G,A)=A^G/N_G(A),\qquad \hat H^{-1}(G,A)=\{a\in A\mid N_G(a)=1\}\big/\{\sigma(b)/b\mid b\in A\} $$
である。$A=U_L$ なら $U_L^G=U_K$、$N_G=N_{L/K}$ なので $\hat H^0(G,U_L)=U_K/N_{L/K}(U_L)$ である。

巡回拡大の正規底

巡回拡大の正規底

$L/K$ を任意の体の次数 $n$ の巡回拡大、$\sigma$ を Galois 群の生成元とする。$\alpha,\sigma(\alpha),\dots,\sigma^{n-1}(\alpha)$ が $L$ の $K$ 上の基底になる $\alpha\in L$ がある。

最小多項式が $X^n-1$ になることを使う

要点:$\sigma$ を $K$ 線形写像 $T\colon L\to L$ とみると、Dedekind の補題から最小多項式は $X^n-1$ になり、最小多項式と同じ零化多項式をもつベクトル $\alpha$ が巡回ベクトルになる。

詳しい証明を開く

$T:=\sigma$ を $n$ 次元 $K$ ベクトル空間 $L$ の $K$ 線形変換とみる。$\mathrm{id},T,\dots,T^{n-1}$ は Galois 群の相異なる元なので、Hilbertの定理90 の記事の補題「指標の一次独立性(Dedekindの補題)」により $L$ 上で、したがって $K$ 上で一次独立である。よって次数が $n$ 未満の $0$ でない多項式 $g\in K[X]$ について $g(T)\ne0$ であり、$T^n=\mathrm{id}$ から $T$ の最小多項式(最小多項式(線形代数) の記事の定義「線形写像の最小多項式」)は $m_T=X^n-1$ である。

ベクトル $v$ を零化するモニック多項式のうち次数最小のものを $m_{T,v}$ と書く($g(T)v=0$ と $m_{T,v}\mid g$ は同値である)。$m_{T,\alpha}=m_T$ となる $\alpha$ があることを示す。$m_T=\prod_{i=1}^sp_i^{a_i}$($p_i$ は相異なるモニック既約多項式)と分解し、$r_i:=m_T/p_i$、$s_i:=m_T/p_i^{a_i}$ とおく。$r_i$ は $m_T$ より次数が小さいので $r_i(T)\ne0$ で、$r_i(T)w_i\ne0$ となる $w_i$ がとれる。$v_i:=s_i(T)w_i$ とおくと $p_i^{a_i}(T)v_i=m_T(T)w_i=0$、$p_i^{a_i-1}(T)v_i=r_i(T)w_i\ne0$ なので $m_{T,v_i}=p_i^{a_i}$ である。$\alpha:=\sum_iv_i$ とし、$g(T)\alpha=0$ とする。$j$ を固定して $s_j(T)$ を施すと、$i\ne j$ では $p_i^{a_i}\mid s_j$ なので $s_j(T)v_i=0$ であり、$g(T)s_j(T)v_j=0$、すなわち $p_j^{a_j}\mid gs_j$ である。$p_j$ と $s_j$ は互いに素なので $p_j^{a_j}\mid g$ である。$j$ は任意なので $m_T\mid g$ であり、$m_{T,\alpha}=m_T=X^n-1$ である。

$\sum_{i< n}c_iT^i\alpha=0$($c_i\in K$)なら、次数 $n$ 未満の多項式 $\sum_ic_iX^i$ が $\alpha$ を零化するので、すべての $c_i$ が $0$ である。よって $\alpha,T\alpha,\dots,T^{n-1}\alpha$ は一次独立な $n$ 個のベクトルであり、$L$ の基底である。$\square$

コホモロジーが消える単数の開部分群

コホモロジーが消える開部分群

$L/K$ を局所体の巡回拡大とする。$U_L$ の $G$ で安定な部分群 $V$ で、$U_L$ での指数が有限であり、$\hat H^0(G,V)=\hat H^{-1}(G,V)=1$ となるものがある。

$1$ に近い単数を正規底で表す

要点:正規底から $G$ で安定な格子 $\Lambda=\bigoplus_\tau\mathcal{O}_K\tau(\alpha)\subset\mathcal{O}_L$ を作り、$V_i:=1+\pi^{c+i}\Lambda$ とおく。隣り合う商 $V_i/V_{i+1}$ は誘導加群 $\operatorname{Map}(G,k)$ に同型なので Tate コホモロジーが消え、$L$ の完備性から $V:=V_1$ でも消える。

詳しい証明を開く

格子。lem-norm-normal-basis の $\alpha$ に $\pi$ の冪を掛けて $\alpha\in\mathcal{O}_L$ としてよい($\tau(\pi^s\alpha)=\pi^s\tau(\alpha)$ なので正規底のままである)。$\beta_\tau:=\tau(\alpha)$、$\Lambda:=\sum_{\tau\in G}\mathcal{O}_K\beta_\tau\subset\mathcal{O}_L$ とおくと、$\Lambda$ は $G$ で安定である。$\Lambda\supset\pi^c\mathcal{O}_L$ となる $c\ge0$ があることを示す。$\mathcal{O}_L$ の元の共役は絶対値が $1$ 以下なので $\operatorname{Tr}_{L/K}(\mathcal{O}_L)\subset\mathcal{O}_K$ であり、行列 $D:=(\operatorname{Tr}_{L/K}(\beta_\tau\beta_\rho))_{\tau,\rho}$ の成分は $\mathcal{O}_K$ に属する。$D$ は可逆である:$Dc=0$ なら $y:=\sum_\rho c_\rho\beta_\rho$ はすべての $\tau$ で $\operatorname{Tr}_{L/K}(\beta_\tau y)=0$、したがってすべての $z\in L$ で $\operatorname{Tr}_{L/K}(zy)=0$ を満たし、$y\ne0$ なら Hilbertの定理90 の記事の系「トレースの全射性」に反する。$x\in\mathcal{O}_L$ を $x=\sum_\rho c_\rho\beta_\rho$($c_\rho\in K$)と書くと $(\operatorname{Tr}_{L/K}(\beta_\tau x))_\tau=Dc$ の成分は $\mathcal{O}_K$ に属するので、$d:=\det D$ について $dc=d\,D^{-1}(Dc)$ の成分は $\mathcal{O}_K$ に属する($dD^{-1}$ は余因子行列)。よって $d\,\mathcal{O}_L\subset\Lambda$ であり、$c:=v_K(d)$ とすればよい。$\Lambda$ は開部分群 $\pi^c\mathcal{O}_L$ を含むので開集合であり、したがって閉集合でもある。

部分群の列。$i\ge1$ について $V_i:=1+\pi^{c+i}\Lambda$ とおく。$a:=c+i$ とすると、$x,y\in\Lambda$ について$$ (1+\pi^ax)(1+\pi^ay)=1+\pi^a(x+y+\pi^axy),\qquad \pi^axy\in\pi^a\mathcal{O}_L\subset\pi^{a-c}\Lambda\subset\pi\Lambda $$なので $V_i$ は積で閉じる。$u:=(1+\pi^ax)^{-1}$ は $u=1-\pi^ax+\pi^{2a}x^2u$ を満たし、$\pi^{2a}x^2u\in\pi^{2a-c}\Lambda\subset\pi^a\Lambda$ なので $u\in V_i$ である。$\tau(1+\pi^ax)=1+\pi^a\tau(x)$ なので $V_i$ は $G$ で安定である。$V_1\supset1+\pi^{2c+1}\mathcal{O}_L=U_L^{(e(2c+1))}$ であり、$U_L/U_L^{(m)}$ は有限環 $\mathcal{O}_L/\mathfrak{m}_L^m$ の単数群に単射するので有限である。よって $(U_L:V_1)$ は有限である。

隣り合う商。写像 $V_i\to\Lambda/\pi\Lambda$、$1+\pi^ax\mapsto x\bmod\pi\Lambda$ は、上の積の式と $\pi^axy\in\pi\Lambda$ から群準同型であり、全射で、核は $V_{i+1}$ であり、$G$ の作用と可換である。$\Lambda/\pi\Lambda=\bigoplus_\tau k\,\bar\beta_\tau$ で $G$ は基底 $\bar\beta_\tau$ を単純推移的に並べ替えるので、$\xi\mapsto\sum_\rho\xi(\rho)\bar\beta_{\rho^{-1}}$ は $G$ 加群の同型 $\operatorname{Map}(G,k)\cong\Lambda/\pi\Lambda$ を与える($(\tau\xi)(\rho)=\xi(\rho\tau)$ として $\sum_\rho\xi(\rho\tau)\bar\beta_{\rho^{-1}}=\tau\bigl(\sum_\rho\xi(\rho)\bar\beta_{\rho^{-1}}\bigr)$)。Tateコホモロジー の記事の命題「誘導加群のTateコホモロジーの消滅」により $\hat H^0$ と $\hat H^{-1}$ は $V_i/V_{i+1}$ で消える。

$\hat H^0(G,V_1)=1$。$x\in V_1^G$ とする。$x_1:=x$ とし、$x_i\in V_i^G$ が得られたとする。$x_i$ の $V_i/V_{i+1}$ での類は $G$ で固定され、$\hat H^0(G,V_i/V_{i+1})=1$ なので、ある $y_i\in V_i$ のノルムの類に等しい(射影は $G$ 準同型なのでノルムと可換)。$x_{i+1}:=x_i/N_{L/K}(y_i)$ は $V_{i+1}$ に属し $G$ で固定される。$w_m:=y_1\cdots y_m$ とおくと $|w_{m+1}-w_m|=|y_{m+1}-1|\le|\pi|^{c+m+1}$ なので $(w_m)$ は Cauchy 列で、$L$ の完備性と $V_1$ が閉であることから極限 $w\in V_1$ がある。$x=N_{L/K}(w_m)\,x_{m+1}$ で $x_{m+1}\to1$、$N_{L/K}$ は連続(各 $\tau$ は距離を保つ)なので $x=N_{L/K}(w)$ である。

$\hat H^{-1}(G,V_1)=1$。$x\in V_1$、$N_{L/K}(x)=1$ とする。同様に、$\hat H^{-1}(G,V_i/V_{i+1})=1$ から $x_i\equiv\sigma(y_i)/y_i\pmod{V_{i+1}}$ となる $y_i\in V_i$ をとり、$x_{i+1}:=x_i\,y_i/\sigma(y_i)$ とおく(ノルムは $1$ のまま)。極限 $w=\prod_iy_i$ について $x=\sigma(w)/w$ である。$\square$

単数群の $\hat H^{-1}$

単数群の $\hat H^{-1}$

$L/K$ を局所体の巡回拡大、$e=e(L/K)$ とする。$\hat H^{-1}(G,U_L)\cong\mathbb{Z}/e\mathbb{Z}$ である。

比 $\sigma(y)/y$ の形に書く

$Z:=\{x\in L^\times\mid N_{L/K}(x)=1\}$ とおく。prop-norm-basic の (ii) により $Z\subset U_L$ なので、$\hat H^{-1}(G,U_L)=Z/\{\sigma(w)/w\mid w\in U_L\}$ である。準同型 $\phi\colon L^\times\to Z$、$y\mapsto\sigma(y)/y$ は、Hilbertの定理90 の記事の定理「Hilbertの定理90(巡回版)」により全射で、核は $\sigma$ で固定される元の全体 $K^\times$ である。よって $\phi$ は同型 $L^\times/K^\times\cong Z$ を誘導し、$\{\sigma(w)/w\mid w\in U_L\}=\phi(U_L)$ はその下で $K^\times U_L/K^\times$ に対応する。したがって
$$ \hat H^{-1}(G,U_L)\cong L^\times/K^\times U_L $$
である。$v_L\colon L^\times\to\mathbb{Z}$ は全射で核は $U_L$、$v_L(K^\times U_L)=v_L(K^\times)=e\mathbb{Z}$ なので、右辺は $\mathbb{Z}/e\mathbb{Z}$ に同型である。$\square$

主定理の証明

Herbrand商の比較

lem-norm-open-subgroup の $V$ について、$\hat H^0(G,V)$ と $\hat H^{-1}(G,V)$ はともに自明なので、Herbrand 商(Herbrand商 の記事の定義「巡回群のHerbrand商」)は $h(G,V)=1/1=1$ と定義される。$V$ は $U_L$ の指数有限な $G$ 部分加群なので、同じ記事の系「有限指数の部分加群」により $h(G,U_L)$ も定義されて
$$ h(G,U_L)=\frac{|\hat H^0(G,U_L)|}{|\hat H^{-1}(G,U_L)|}=1 $$
である。$\hat H^0(G,U_L)=U_K/N_{L/K}(U_L)$ と lem-norm-h-minus-one から、$(U_K:N_{L/K}(U_L))=|\hat H^{-1}(G,U_L)|=e$ である。上の指数の等式により $(K^\times:N_{L/K}(L^\times))=f\cdot e=n$ である。$\square$

証明から、$\hat H^{-1}(G,L^\times)=1$(Hilbert の定理 90)と $|\hat H^0(G,L^\times)|=n$ が従うので、$h(G,L^\times)=n$ である。これは、完全列 $1\to U_L\to L^\times\xrightarrow{v_L}\mathbb{Z}\to0$($G$ は $\mathbb{Z}$ に自明に作用する)と Herbrand商 の記事の定理「Herbrand商の乗法性」・例「有限生成アーベル群の $q_{0,n}$」から得られる $h(G,L^\times)=h(G,U_L)\,h(G,\mathbb{Z})=1\cdot n$ とも一致する。NSW20 第 VII 章 Theorem (7.1.1) の証明はこちらの順序で進む。

順分岐の完全分岐拡大

分岐指数が $p$ と互いに素な完全分岐拡大では、Galois でなくても単数のノルムを完全に決められる。まず $1$ に近い単数の冪根をとる。

1に近い単数の冪根

$e\ge1$ を $p$ と互いに素な整数とする。$U_K^{(1)}$ の各元は $U_K^{(1)}$ のある元の $e$ 乗である。

1 桁ずつ持ち上げる

$p\nmid e$ なので $e$ は $\mathcal{O}_K$ の単数である。$u\in U_K^{(1)}$ とし、$w_1:=1$ とする。$m\ge1$ で $w_m\in U_K^{(1)}$、$w_m^e=u(1+c\pi^m)$($c\in\mathcal{O}_K$)が得られたとする($m=1$ では $u^{-1}\in U_K^{(1)}$ から成り立つ)。$ed\equiv-c\pmod{\pi}$ となる $d\in\mathcal{O}_K$ をとり $w_{m+1}:=w_m(1+d\pi^m)$ とおくと、二項展開で $(1+d\pi^m)^e\equiv1+ed\pi^m\pmod{\pi^{m+1}}$ なので
$$ w_{m+1}^e\equiv u(1+c\pi^m)(1+ed\pi^m)\equiv u\bigl(1+(c+ed)\pi^m\bigr)\equiv u\pmod{\pi^{m+1}} $$
であり、$w_{m+1}^e=u(1+c'\pi^{m+1})$ と書ける。$|w_{m+1}-w_m|\le q^{-m}$ なので $(w_m)$ は収束し、極限 $w\in U_K^{(1)}$(閉集合)は $w^e=u$ を満たす。$\square$

順分岐の完全分岐拡大の単数のノルム

$L/K$ を次数 $e$ の完全分岐拡大とし、$p\nmid e$ とする(このとき $L/K$ は分離的である)。$u\in U_K$ の $k^\times$ での類を $\bar u$ と書くと
$$ N_{L/K}(U_L)=\{u\in U_K\mid \bar u\in(k^\times)^e\} $$
であり、$(U_K:N_{L/K}(U_L))=\gcd(e,q-1)$ である。とくに $N_{L/K}(U_L)\supset U_K^{(1)}$ である。

剰余体でのノルムは $e$ 乗

$L/K$ の次数 $e$ は $p$ と互いに素なので、非分離次数($p$ の冪)は $1$ であり、$L/K$ は分離的である。完全分岐なので $L$ の剰余体は $k$ に等しい。
$\subset$:$u\in U_L$ について、$\bar u\in k^\times$ の持ち上げ $a\in U_K$ をとると $u_1:=u/a\in U_L^{(1)}$ である。prop-norm-basic の (i)(iii) により $N_{L/K}(u)=a^eN_{L/K}(u_1)$、$N_{L/K}(u_1)\in U_K^{(1)}$ なので、$N_{L/K}(u)$ の類は $\bar a^e\in(k^\times)^e$ である。
$\supset$:$u\in U_K$ で $\bar u=\bar b^e$($b\in U_K$)とする。$u/b^e\in U_K^{(1)}$ なので、lem-norm-tame-roots により $u/b^e=w^e$($w\in U_K^{(1)}$)と書ける。$bw\in U_K\subset U_L$ で、prop-norm-basic の (i) により $N_{L/K}(bw)=(bw)^e=u$ である。
指数:還元 $U_K\to k^\times$ は全射なので $U_K/N_{L/K}(U_L)\cong k^\times/(k^\times)^e$ である。$k^\times$ は位数 $q-1$ の巡回群(有限体 の記事の定理「有限体の乗法群の構造」)なので、$e$ 乗の像の指数は $\gcd(e,q-1)$ である。$\square$

$L/K$ が順分岐で完全分岐の巡回拡大なら、thm-norm-cyclic-index と比べて $\gcd(e,q-1)=e$、すなわち $e\mid q-1$ でなければならない。Galois でない拡大では $\gcd(e,q-1)< e$ となりうる(下の ex-norm-q5-cube-root)。

例

$\mathbb{Q}_2(i)$ のノルム群

$L=\mathbb{Q}_2(i)$ は $\mathbb{Q}_2$ の完全分岐の 2 次巡回拡大で、$\mathcal{O}_L=\mathbb{Z}_2[i]$、$1+i$ が素元である(不分岐拡大と完全分岐拡大 の記事の例「$\mathbb{Q}_2(i)$」)。このとき
$$ N_{L/\mathbb{Q}_2}(U_L)=1+4\mathbb{Z}_2,\qquad N_{L/\mathbb{Q}_2}(L^\times)=2^{\mathbb{Z}}\times(1+4\mathbb{Z}_2) $$
である。
単数 $a+bi$ は $a+b$ が奇数のもの(Hilbertの定理90 の記事の「反例:体を整数環の単数群に替える」)なので、$a,b$ の一方が偶数で他方が奇数であり、$N(a+bi)=a^2+b^2\equiv1\pmod4$ である。よって $N(U_L)\subset1+4\mathbb{Z}_2$ で、右辺の $\mathbb{Z}_2^\times$ での指数は $|(\mathbb{Z}/4\mathbb{Z})^\times|=2$ である。一方 thm-norm-cyclic-index により $(\mathbb{Z}_2^\times:N(U_L))=e=2$ なので等号が成り立つ。$L^\times=(1+i)^{\mathbb{Z}}U_L$ と $N(1+i)=2$ から後半が従う。
たとえば $5=N(1+2i)$ はノルムだが、$3\equiv-1\pmod4$ はノルムでない。すなわち $x^2+y^2=3$ は $\mathbb{Q}_2$ に解をもたない。

$\mathbb{Q}_p(\zeta_p)$ の指数

$p$ を奇素数とし、$L=\mathbb{Q}_p(\zeta_p)$ とする。$L/\mathbb{Q}_p$ は次数 $p-1$ の完全分岐拡大で、Galois 群は $(\mathbb{Z}/p\mathbb{Z})^\times$ に同型な巡回群である(局所類体論 の記事の例「$\mathbb{Q}_p(\zeta_p)$ のノルム群」)。thm-norm-cyclic-index により $(\mathbb{Q}_p^\times:N(L^\times))=p-1$ である。その例では $p^{\mathbb{Z}}\times(1+p\mathbb{Z}_p)\subset N(L^\times)$ を直接示し、指数の比較に局所相互法則を使っていたが、この指数の等式だけなら相互法則なしに得られる。単数については $(\mathbb{Z}_p^\times:N(U_L))=e=p-1$ で、$e=p-1\mid q-1=p-1$ は prop-norm-tame とも一致する。

Galois でない拡大 $\mathbb{Q}_5(\sqrt[3]{5})$

$L=\mathbb{Q}_5(\sqrt[3]{5})$ は $\mathbb{Q}_5$ の次数 $3$ の拡大だが、$N_{L/\mathbb{Q}_5}(L^\times)=\mathbb{Q}_5^\times$ であり、ノルム群の指数は $1\ne3$ である。

確認を開く

$X^3-5$ は Eisenstein 多項式なので、不分岐拡大と完全分岐拡大 の記事の定理「Eisenstein多項式が定める拡大」により $L/\mathbb{Q}_5$ は次数 $3$ の完全分岐拡大で、$\sqrt[3]{5}$ は素元である。$e=3$ は $p=5$ と互いに素で $\gcd(3,5-1)=1$ なので、prop-norm-tame により $N(U_L)=\mathbb{Z}_5^\times$ である。$\sqrt[3]{5}$ の最小多項式 $X^3-5$ から $N(\sqrt[3]{5})=(-1)^3\cdot(-5)=5$ である。よって $N(L^\times)\supset5^{\mathbb{Z}}\mathbb{Z}_5^\times=\mathbb{Q}_5^\times$ である。

$L/\mathbb{Q}_5$ は Galois でない:Galois なら $X^3-5$ の根の比として $1$ の原始 3 乗根 $\omega$ が $L$ に入り、不分岐拡大と完全分岐拡大 の記事の補題「1の冪根の還元」により $L$ の剰余体 $\mathbb{F}_5$ の乗法群に位数 $3$ の元があることになるが、$|\mathbb{F}_5^\times|=4$ なので矛盾する。

反例

巡回拡大についての thm-norm-cyclic-index の仮定を外すと、指数の等式は成り立たなくなる。

外す条件反例成り立たなくなること
$L/K$ が巡回拡大(Galois)$\mathbb{Q}_5(\sqrt[3]{5})/\mathbb{Q}_5$$(K^\times:N_{L/K}(L^\times))=[L:K]$(指数 $1$、次数 $3$)
剰余体が有限$\mathbb{C}(\!(t)\!)(\sqrt t)/\mathbb{C}(\!(t)\!)$$(K^\times:N_{L/K}(L^\times))=[L:K]$、$(U_K:N_{L/K}(U_L))=e$(どちらも指数 $1$、次数・分岐指数 $2$)
$K$ が局所体(大域体に替える)$\mathbb{Q}(i)/\mathbb{Q}$$K^\times/N_{L/K}(L^\times)$ が有限であること

1 行目は ex-norm-q5-cube-root である。3 行目は 局所類体論 の記事の「反例:大域体では商が無限になる」で確かめられている。2 行目を次に確かめる。2 行目では Hilbert の定理 90 は成り立っているが、剰余体が無限なので $U_L/V$ が有限にならず、Herbrand 商の比較が使えない。

反例:剰余体が無限の完備離散付値体

$K=\mathbb{C}(\!(t)\!)$($\mathbb{C}$ 係数の形式的 Laurent 級数体、$t$ の位数を付値とする完備離散付値体。剰余体は $\mathbb{C}$)、$L=K(s)$、$s^2=t$ とする。$L/K$ は次数 $2$ の巡回拡大で $e=2$ だが、$N_{L/K}(L^\times)=K^\times$、$N_{L/K}(U_L)=U_K$ である。

確認を開く

$t$ は付値が奇数なので $K$ で平方でなく、$[L:K]=2$ である。標数 $0$ なので $L/K$ は Galois で、$\operatorname{Gal}(L/K)=\{1,\sigma\}$、$\sigma(s)=-s$ である。$L$ の付値で $2v_L(s)=v_L(t)$ なので $e=2$ である。$N(x)=x\sigma(x)$ であり、$i\in\mathbb{C}\subset K$ について $N(is)=(is)(-is)=t$ である。$K$ の単数は $u=c(1+tg)$($c\in\mathbb{C}^\times$、$g\in\mathbb{C}[\![t]\!]$)と書ける。$c=d^2$ となる $d\in\mathbb{C}^\times$ があり、形式的な等式 $\bigl(\sum_{j\ge0}\binom{1/2}{j}X^j\bigr)^2=1+X$ に $X=tg$ を代入すると $1+tg=h^2$($h\in\mathbb{C}[\![t]\!]^\times$)となる。よって $u=(dh)^2=N(dh)$ であり、$U_K=N(U_K)\subset N(U_L)$ である。$K^\times=t^{\mathbb{Z}}U_K$ なので $N(L^\times)=K^\times$ である。

補足

局所類体論との関係

thm-norm-cyclic-index はアーベル拡大のうち巡回拡大についての指数の等式であり、局所類体論ではこれを出発点に、一般のアーベル拡大での同型 $K^\times/N_{L/K}(L^\times)\cong\operatorname{Gal}(L/K)$、ノルム群と拡大の対応、ノルム群が開かつ指数有限の部分群で尽きること(存在定理)へ進む。これらは 局所類体論 の記事の定理「局所相互法則」「局所存在定理」と命題「ノルム群と拡大の対応」で扱う。ノルム群が $K^\times$ の開部分群であることは、指数が有限なら同じ記事の命題「ノルム群は開部分群」の (b) から従うので、巡回拡大については thm-norm-cyclic-index と合わせて相互法則なしに得られる。

明示的な構成

$\mathbb{Q}_p(\zeta_p)$ のノルム群が $p^{\mathbb{Z}}\times(1+p\mathbb{Z}_p)$ になることは、より一般に、局所体の任意の素元 $\pi$ と $n\ge1$ について $\pi^{\mathbb{Z}}\times U_K^{(n)}$ をノルム群にもつ完全分岐アーベル拡大が形式群の等分点で具体的に作れることの特別な場合である(Lubin–Tate理論)。

関連項目

参考文献

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