Castelnuovoの有理性判定法

同義語:Castelnuovo's rationality criterion

概要

Castelnuovoの有理性判定法(Castelnuovo's rationality criterion)とは、代数閉体上の滑らかな射影曲面 $X$ が有理曲面(射影平面と双有理同値)であるための必要十分条件は、不正則数 $q(X)=h^1(X,\mathcal{O}_X)$ と 2 重種数 $P_2(X)=h^0(X,\omega_X^{\otimes2})$ がともに $0$ であることだ、という定理である。幾何種数と不正則数がともに $0$ でも有理でない曲面(Enriques 曲面)があり、$P_2$ を使うことが要点である。標数 $0$ では、この判定法から単有理な曲面が有理であることが従う。3 次元では対応する主張は成り立たない。

$$\newcommand{C}[0]{\mathbb{C}} \newcommand{div}[0]{\mathbin{÷}} \newcommand{N}[0]{\mathbb{N}} \newcommand{Q}[0]{\mathbb{Q}} \newcommand{R}[0]{\mathbb{R}} \newcommand{Z}[0]{\mathbb{Z}} $$

前提知識: 有理多様体, 代数曲面, 多重種数, 双有理不変量, 曲面の交点形式とRiemann–Rochの定理

曲線が有理である(射影直線と双有理同値である)ことは、種数が $0$ であることと同値である。種数は正則な微分形式の空間の次元なので、「微分形式をもたない曲線は有理」と言い換えられる。曲面で同じことを問うと、事情は微妙になる。有理な曲面は $0$ でない正則な 2 次微分形式も 1 次微分形式ももたず、幾何種数 $p_g$ と不正則数 $q$ はともに $0$ である。しかし $p_g=q=0$ でも有理でない曲面がある(Enriques 曲面)。
Castelnuovo の有理性判定法(Castelnuovo's rationality criterion)は、代数閉体上の滑らかな射影曲面 $X$ について
$$ X\text{ が有理}\iff q(X)=0\text{ かつ }P_2(X)=0 $$
が成り立つことを述べる。ここで $P_2(X)$ は 2 重種数、すなわち標準層の 2 乗 $\omega_X^{\otimes2}$ の大域切断の空間の次元である。$p_g=0$ の代わりに、より強い条件 $P_2=0$ を課すのが要点である。Enriques 曲面では $\omega_X$ は自明でないが $\omega_X^{\otimes2}$ は自明なので、$p_g=0$ でも $P_2=1$ となり、判定法は正しく「有理でない」と答える。
この判定法から、標数 $0$ では単有理な曲面は有理であること(Lüroth の問題の 2 次元での肯定的な解決)が従う。3 次元では対応する主張がどちらも成り立たない。この記事では、必要性を任意の標数で、十分性を複素数体上で、極小曲面の構造定理を引用して証明する。

設定と記号

この記事では $k$ を代数閉体とし、曲面とは $k$ 上の滑らかで連結な 2 次元の射影多様体のこととする。曲面 $X$ について、代数曲面 の定義「曲面の数値的な不変量」のとおり
$$ p_g(X)=h^0(X,\omega_X),\qquad q(X)=h^1(X,\mathcal{O}_X),\qquad P_m(X)=h^0(X,\omega_X^{\otimes m})\quad(m\ge1) $$
とおく。ここで $\omega_X=\Omega^2_X$ は標準層、$h^i=\dim_kH^i$ である。$P_1=p_g$ であり、$P_2$ を 2 重種数という。標準因子を $K_X$ と書く。さらに算術種数を $p_a(X):=\chi(\mathcal{O}_X)-1$ とおく。$h^0(\mathcal{O}_X)=1$ と Serre 双対性 $h^2(\mathcal{O}_X)=p_g$ から
$$ p_a(X)=p_g(X)-q(X) $$
である。曲面 $X$ が有理曲面であるとは、$\mathbb{P}^2$ と双有理同値であることをいう(有理多様体 の定義「有理多様体と単有理多様体」)。
次の 3 つの不変量は、曲面の上の双有理不変量である。

  • $P_m$($m\ge1$):多重種数 の定理「多重種数の双有理不変性」(証明は 双有理不変量 の定理「微分形式のテンソルの双有理不変性」)。とくに $p_g=P_1$ も双有理不変量である。
  • $p_a$:曲面の双有理射の分解定理 の系「曲面の算術種数の双有理不変性」。
  • $q$:$q=p_g-p_a$ なので、上の 2 つから従う。
2 重種数と幾何種数

曲面 $X$ について $p_g(X)\le P_2(X)$ である。とくに $P_2(X)=0$ なら $p_g(X)=0$ である。

$s\in H^0(X,\omega_X)$ が $0$ でなければ、$s\otimes s\in H^0(X,\omega_X^{\otimes2})$ も $0$ でない。$X$ は整なので、局所的に $s=f\,e$($e$ は局所的な生成元)と書くと $s\otimes s=f^2e\otimes e$ で、$f\neq0$ なら $f^2\neq0$ だからである。$p_g\ge1$ なら $P_2\ge1$ である。より精密に、$0$ でない $s_0$ を 1 つ固定すると $s\mapsto s\otimes s_0$ は単射な線形写像 $H^0(\omega_X)\to H^0(\omega_X^{\otimes2})$ なので $p_g\le P_2$ である。$\square$

主定理

Castelnuovo の有理性判定法

$X$ を代数閉体 $k$ 上の曲面とする。次は同値である。

  1. $X$ は有理曲面である。
  2. $q(X)=P_2(X)=0$。
  3. $p_a(X)=P_2(X)=0$。
主張の出典と証明の範囲

3 の形が Har77 V, Theorem 6.2(p. 422)、2 の形が BHPV04 VI, (3.4)(p. 252)である。2 と 3 の同値は lem-crc-p2-pg による(下の証明)。1 ⇒ 2 は任意の標数でこの記事で証明する。2 ⇒ 1 は、この記事では複素数体上で、極小曲面の構造定理(thm-crc-structure)を引用して証明する。複素数体以外の代数閉体での 2 ⇒ 1 は Har77 V, Theorem 6.2(p. 422)を引用し、この記事では証明しない(正標数の証明は Zariski による。同所の証明の注)。

2 と 3 の同値

どちらの条件も $P_2=0$ を含み、そのとき lem-crc-p2-pg により $p_g=0$ なので $p_a=p_g-q=-q$ である。したがって $P_2=0$ のもとで $q=0$ と $p_a=0$ は同値である。$\square$

必要性:有理曲面では $q=P_2=0$

1 ⇒ 2

$X$ を有理曲面とする。$q$ と $P_2$ は双有理不変量(「設定と記号」)なので、$X=\mathbb{P}^2$ の場合に示せばよい。射影空間のコホモロジー(Har77 III, Theorem 5.1, p. 225)から $H^1(\mathbb{P}^2,\mathcal{O})=0$ なので $q(\mathbb{P}^2)=0$ である。$\omega_{\mathbb{P}^2}\cong\mathcal{O}(-3)$(Har77 II, Example 8.20.1, p. 182)なので $\omega_{\mathbb{P}^2}^{\otimes2}\cong\mathcal{O}(-6)$ であり、$H^0(\mathbb{P}^2,\mathcal{O}(-6))=0$ だから $P_2(\mathbb{P}^2)=0$ である。$\square$

同じ議論で、有理曲面ではすべての $m\ge1$ で $P_m=0$ となる(双有理不変量 の系「有理多様体の微分形式」)。判定法の要点は、逆向きには $m=2$ と $q$ だけで足りることである。

十分性:複素数体上の証明

この節では $k=\mathbb{C}$ とする。曲面 $X$ が極小であるとは、$(-1)$ 曲線($E\cong\mathbb{P}^1$、$E^2=-1$ となる曲線)をもたないことをいう。どの曲面からも、$(-1)$ 曲線の縮約を有限回繰り返して極小曲面への双有理射が得られる(双有理幾何学 の定理「曲面の極小モデルの存在」)。因子 $D$ が nef であるとは、すべての既約曲線 $C$ について $D\cdot C\ge0$ であることをいう。証明では次の構造定理を引用する。

標準因子が nef でない極小曲面

$X$ を $\mathbb{C}$ 上の極小な曲面とし、$K_X$ は nef でないとする。このとき $X$ は $\mathbb{P}^2$ と同型であるか、曲線上の線織曲面である。とくに $q(X)=0$ なら、$X$ は $\mathbb{P}^2$ または Hirzebruch 曲面 $\mathbb{F}_e$($e\neq1$)と同型である。

構造定理の出典

BHPV04 VI, Proposition (3.3)(p. 250)である。この記事では証明しない。同書の証明は、豊富な因子 $H$ について $H+tK_X$ が nef でなくなる境目の $t$ が有理数であること(同 (3.1) Rationality theorem、p. 249)を使い、自己交点数 $0$ の nef な因子の倍数の線形系から $\mathbb{P}^1$ の束の構造を取り出す。線織曲面の基底の曲線の種数は $q$ に等しい(線織曲面 の定理「線織曲面の不変量」)ので、$q=0$ なら基底は $\mathbb{P}^1$ で、$X$ は Hirzebruch 曲面である(線織曲面 の系「射影直線上の線織曲面」。$\mathbb{F}_1$ は $\mathbb{P}^2$ の 1 点の爆発で $(-1)$ 曲線をもつので極小でない)。

2 ⇒ 1($k=\mathbb{C}$)

$q(X)=P_2(X)=0$ とする。$X$ から極小曲面 $X_0$ への双有理射をとると、$q$ と $P_2$ は双有理不変量なので $q(X_0)=P_2(X_0)=0$ であり、$X_0$ が有理なら $X$ も有理である。そこで $X$ は極小としてよい。$K:=K_X$ と書く。
段 1:Euler 標数.lem-crc-p2-pg により $p_g=0$ なので、$\chi(\mathcal{O}_X)=1-q+p_g=1$ である。
段 2:$-K$ の切断の個数.曲面の Riemann–Roch の定理(曲面の交点形式とRiemann–Rochの定理 の定理「曲面の Riemann–Roch の定理」)を $D=-K$ に当てると
$$ \chi(\mathcal{O}_X(-K))=\chi(\mathcal{O}_X)+\tfrac12(-K)\cdot(-K-K)=1+K^2 $$
である。Serre 双対性により $h^2(\mathcal{O}_X(-K))=h^0(\mathcal{O}_X(2K))=P_2=0$ なので、
$$ h^0(\mathcal{O}_X(-K))=1+K^2+h^1(\mathcal{O}_X(-K))\ge1+K^2 $$
である。
段 3:$K$ は nef でない.$K^2\ge0$ の場合、段 2 により $h^0(\mathcal{O}_X(-K))\ge1$ なので、有効因子 $D$ で $-K\sim D$ となるものがある。$D=0$ なら $K\sim0$ で $p_g=h^0(\mathcal{O}_X)=1$ となり $p_g=0$ に反するので、$D\neq0$ である。豊富な因子 $H$ をとると $D\cdot H>0$(代数曲面 の補題「有効因子と豊富な因子の交点数」)なので $K\cdot H=-D\cdot H<0$ である。$H$ を正の倍数に取り替えて非常に豊富としてよく、$H$ は超平面切断として有効因子 $\sum_in_iC_i$($n_i>0$、$C_i$ は既約曲線)と線形同値である。$\sum_in_i(K\cdot C_i)=K\cdot H<0$ なので、ある $C_i$ で $K\cdot C_i<0$ となり、$K$ は nef でない。$K^2<0$ の場合、nef な因子の自己交点数は $0$ 以上なので(Kleimanの判定法(豊富性) の定理「nef な可逆層の交叉数(Kleiman の定理)」)、$K$ は nef でない。
段 4:結論.$X$ は極小で $K$ は nef でなく、$q=0$ なので、thm-crc-structure により $X$ は $\mathbb{P}^2$ か Hirzebruch 曲面 $\mathbb{F}_e$ である。$\mathbb{F}_e$ は $\mathbb{P}^1$ 上の $\mathbb{P}^1$ 束で、$\mathbb{P}^1$ の開集合 $\mathbb{A}^1$ の上では自明な束 $\mathbb{A}^1\times\mathbb{P}^1$ になるので、$\mathbb{A}^2$ と同型な開集合をもち、有理である(有理多様体 の定理「関数体による特徴づけ」の 3)。よって $X$ は有理である。$\square$

この証明は BHPV04 VI, (3.4)(p. 252)の証明の筋に従った。$P_2=0$ が使われるのは段 1 の $p_g=0$ と段 2 の $h^2(-K)=0$ の 2 か所である。$p_g=0$ だけでは $h^0(2K)$ が消えず、段 2 の評価が得られない。

系:単有理な曲面は有理(標数 $0$)

曲線についての Lüroth の定理(有理曲線)の 2 次元版が、判定法から従う。

単有理な曲面

$k=\mathbb{C}$ とする。曲面 $X$ が単有理なら、すなわちある $m$ について支配的な有理写像 $\mathbb{P}^m\dashrightarrow X$ があるなら、$X$ は有理曲面である。

微分形式の引き戻しは単射

要点:支配的な射で微分形式を引き戻す写像は、標数 $0$ では単射である。$\mathbb{P}^m$ には 1 次微分形式も「2 次微分形式の 2 乗」も $0$ 以外にないので、$X$ でも $h^0(\Omega^1_X)=0$、$P_2(X)=0$ となる。複素数体上では $q=h^0(\Omega^1_X)$ なので、判定法から $X$ は有理である。

詳しい証明を開く

引き戻しの射.$\varphi\colon\mathbb{P}^m\dashrightarrow X$ を支配的な有理写像とする。$X$ は完備なので、$\varphi$ の定義域 $U$ の補集合は余次元 $2$ 以上である(双有理不変量 の補題「不確定点は余次元 2 以上」)。$g\colon U\to X$ をその上の射とすると、$g$ は支配的で、関数体の拡大 $k(U)/k(X)$ を与える。

生成点での単射性.$k(X)/k$ の超越基底 $x_1,x_2$ をとり、$k(U)/k(X)$ の超越基底 $y_3,\dots,y_m$ をとる。$x_1,x_2,y_3,\dots,y_m$ は $k(U)/k$ の超越基底で、標数 $0$ なので $k(U)$ は $k(x,y)$ の分離的な代数拡大である。分離的な代数拡大の微分加群は $0$ なので $dx_1,dx_2,dy_3,\dots,dy_m$ は $\Omega_{k(U)/k}$ を張り、$\dim_{k(U)}\Omega_{k(U)/k}=m$(Har77 II, Theorem 8.6A, p. 174)だからこれは基底である。同様に $dx_1,dx_2$ は $\Omega_{k(X)/k}$ の基底である。したがって $\Omega_{k(X)/k}\otimes_{k(X)}k(U)\to\Omega_{k(U)/k}$ は単射で、$dx_1\wedge dx_2\neq0$ が $\bigwedge^2\Omega_{k(U)/k}$ の中で成り立つ。

切断の消滅.$\omega\in H^0(X,\Omega^1_X)$ が $0$ でなければ、局所自由層の切断なので生成点での値も $0$ でなく、上の単射性から $g^*\omega\in H^0(U,\Omega^1_U)$ は $0$ でない。$U$ の補集合は余次元 $2$ 以上なので、$g^*\omega$ は $\mathbb{P}^m$ 全体の切断に延びる(双有理幾何学 の補題「局所自由層の切断の延長」)。ところが $H^0(\mathbb{P}^m,\Omega^1)=0$(双有理不変量 の系「有理多様体の微分形式」)なので矛盾し、$h^0(X,\Omega^1_X)=0$ である。$\omega\in H^0(X,\omega_X^{\otimes2})$ が $0$ でなければ、生成点で $\omega=f\,(dx_1\wedge dx_2)^{\otimes2}$($f\neq0$)と書け、$g^*\omega$ は $(\bigwedge^2\Omega^1_U)^{\otimes2}$ の $0$ でない切断である。標数 $0$ では反対称化 $a\wedge b\mapsto\frac12(a\otimes b-b\otimes a)$ により $\bigwedge^2\Omega^1$ は $(\Omega^1)^{\otimes2}$ の局所的な直和因子なので、$(\bigwedge^2\Omega^1_U)^{\otimes2}\subset(\Omega^1_U)^{\otimes4}$ である。同じく $\mathbb{P}^m$ に延ばすと $H^0(\mathbb{P}^m,(\Omega^1)^{\otimes4})=0$(同系)に反する。よって $P_2(X)=0$ である。

結論.複素数体上の曲面では Hodge 分解により $h^1(\mathcal{O}_X)=h^0(\Omega^1_X)$ である(Hodge分解)。よって $q(X)=P_2(X)=0$ で、thm-crc-main により $X$ は有理である。$\square$

BHPV04 VI, (3.5)(p. 252)も同じ方針である。Har77 V, Remark 6.2.1(p. 422)は、代数閉体 $k$ 上の有理関数体 $k(t,u)$ の部分体 $L$ で $k(t,u)/L$ が有限次分離拡大なものは $k$ 上の純超越拡大である、という形で述べる。分離性を外すと、正標数では単有理だが有理でない曲面がある(同所の注。この記事では証明しない)。

例

空間の曲面

$X\subset\mathbb{P}^3$ を $d$ 次の滑らかな曲面とする。代数曲面 の定理「空間の滑らかな曲面の不変量」により、$q(X)=0$、$\omega_X\cong\mathcal{O}_X(d-4)$ であり、$h^0(\mathcal{O}_X(n))=N(n)-N(n-d)$($N(n)=\binom{n+3}3$、$n<0$ では $N(n)=0$)である。したがって
$$ P_2(X)=h^0(\mathcal{O}_X(2d-8))=N(2d-8)-N(d-8) $$
で、次の表を得る。

$d$$q$$p_g$$P_2$有理か
$1,2,3$$0$$0$$0$有理
$4$$0$$1$$1$有理でない(K3曲面)
$5$$0$$4$$10$有理でない
$d\ge5$$0$$\binom{d-1}3$$N(2d-8)-N(d-8)\ge1$有理でない

$d\le3$ では $2d-8<0$ なので $P_2=0$ で、thm-crc-main により有理である($k=\mathbb{C}$ ではこの記事の証明により、それ以外の体では引用した十分性による)。$d=1$ は $\mathbb{P}^2$、$d=2$ は $\mathbb{P}^1\times\mathbb{P}^1$ で直接分かるが、$d=3$ の滑らかな 3 次曲面が有理であることは、判定法から $q$ と $P_2$ を計算するだけで分かる(構成的には $\mathbb{P}^2$ の 6 点の爆発として得られる。3次曲面)。$d\ge4$ では $P_2\ge1$ なので、必要性(prf-crc-necessity、任意の標数)から有理でない。

反標準因子が豊富な曲面

$k=\mathbb{C}$ とし、曲面 $X$ の $-K_X$ が豊富であるとする(del Pezzo 曲面)。このとき $X$ は有理である。
実際、$P_2>0$ なら有効因子 $D\sim2K_X$ がある。$-K_X$ は豊富なので $D\cdot(-K_X)\ge0$ である($D\neq0$ なら 代数曲面 の補題「有効因子と豊富な因子の交点数」、$D=0$ なら $0$)。一方 $D\cdot(-K_X)=-2(-K_X)^2<0$ である(豊富な因子の自己交点数は正である。中井–Moishezonの判定法 の定理「中井–Moishezon の判定法」で $Y=X$ とした場合)。この矛盾から $P_2=0$ である。また小平の消滅定理(小平の消滅定理 の定理「小平–中野の消滅定理」の 2)を豊富な直線束 $-K_X$ に当てると(射影多様体の上の豊富な直線束は正である)、$q=h^1(\mathcal{O}_X)=h^1(K_X+(-K_X))=0$ である。よって判定法により $X$ は有理である。ex-crc-hypersurfaces の $d\le3$ はこの場合でもある($-K_X=\mathcal{O}_X(4-d)$)。

反例:条件を外すと成り立たない

外す条件例不変量有理か
$P_2=0$($q=p_g=0$ は保つ)Enriques 曲面(標数 $\neq2$)$q=p_g=0$、$P_2=1$有理でない
$q=0$($P_m=0$ は保つ)$C\times\mathbb{P}^1$($C$ は種数 $g\ge1$ の曲線)$q=g$、すべての $m$ で $P_m=0$有理でない
曲面であること$\mathbb{C}$ 上の $\mathbb{P}^4$ の滑らかな 3 次超曲面$h^1(\mathcal{O})=0$、すべての $m$ で $P_m=0$有理でない
表の反例の確かめ

1 行目:Enriques 曲面の定義により $q=p_g=0$ で、$\omega_X^{\otimes2}\cong\mathcal{O}_X$ なので $P_2=1$ である(Enriques曲面 の命題「数値的な不変量と曲線」の 3)。$P_2\neq0$ なので必要性から有理でない。$p_g=q=0$ だけでは有理性に足りないことを示す例で、判定法が $p_g$ でなく $P_2$ を使う理由である。
2 行目:線織曲面 の定理「線織曲面の不変量」により $q(C\times\mathbb{P}^1)=g$、すべての $n\ge1$ で $P_n=0$ である(Har77 V, Corollary 2.5, p. 371 も参照)。$q\neq0$ なので必要性から有理でない。多重種数だけでは有理性を判定できないことを示す例である。
3 行目:$X\subset\mathbb{P}^4$ を滑らかな 3 次超曲面とする。完全列 $0\to\mathcal{O}_{\mathbb{P}^4}(-3)\to\mathcal{O}_{\mathbb{P}^4}\to\mathcal{O}_X\to0$ と $H^1(\mathbb{P}^4,\mathcal{O})=H^2(\mathbb{P}^4,\mathcal{O}(-3))=0$(Har77 III, Theorem 5.1, p. 225)から $h^1(\mathcal{O}_X)=0$ である。$\omega_X\cong\mathcal{O}_X(3-5)=\mathcal{O}_X(-2)$(Har77 II, Example 8.20.3, pp. 183–184)なので、$P_m=h^0(\mathcal{O}_X(-2m))=0$ である。それでも $X$ は有理でない(Clemens–Griffiths CG72。Har77 II, Example 8.20.3 の注にも挙げられている。この記事では証明しない)。3 次元では、$q$ と多重種数に当たる不変量で有理性を判定することはできない(有理性問題)。

関連項目

参考文献

[1]
Robin Hartshorne, Algebraic Geometry, Graduate Texts in Mathematics 52, Springer, 1977, II, Theorem 8.6A(p. 174)、Example 8.20.1(p. 182)、Example 8.20.3(pp. 183–184)、III, Theorem 5.1(p. 225)、V, Corollary 2.5(p. 371)、Theorem 6.2・Remark 6.2.1(p. 422)
[2]
Wolf P. Barth, Klaus Hulek, Chris A. M. Peters, Antonius Van de Ven, Compact Complex Surfaces, 2nd ed., Ergebnisse der Mathematik und ihrer Grenzgebiete, 3. Folge, 4, Springer, 2004, VI 章 (3.1) Rationality theorem(p. 249)、Proposition (3.3)(p. 250)、(3.4) Castelnuovo's Rationality Criterion・(3.5)(p. 252)
[3]
C. Herbert Clemens, Phillip A. Griffiths, The intermediate Jacobian of the cubic threefold, Annals of Mathematics, 1972, 281–356

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