古典論理

同義語:classical logic

概要

古典論理(classical logic)とは、すべての命題が真か偽のちょうど一方をとるという二値の意味論で妥当性と論理的帰結を定める論理であり、排中律 $\varphi\lor\lnot\varphi$ や二重否定除去 $\lnot\lnot\varphi\to\varphi$ を一般に認める。直観主義論理にこれらのどちらかを加えても得られる。真理値を任意の Boole 代数に広げても妥当な命題論理の式は恒真式と一致し、この点で Heyting 代数に値をとる直観主義論理と対比される。一階の古典論理では、すべての論理式が量化記号を先頭に集めた冠頭形の論理式と論理的に同値である。

$$\newcommand{C}[0]{\mathbb{C}} \newcommand{div}[0]{\mathbin{÷}} \newcommand{N}[0]{\mathbb{N}} \newcommand{Q}[0]{\mathbb{Q}} \newcommand{R}[0]{\mathbb{R}} \newcommand{Z}[0]{\mathbb{Z}} $$

前提知識: 命題論理, 一階述語論理, Boole代数

「$a^b$ が有理数になる無理数 $a,b$ がある」ことは、次のように示せる。$\sqrt2^{\sqrt2}$ が有理数なら $a=b=\sqrt2$ とすればよい。無理数なら $a=\sqrt2^{\sqrt2}$、$b=\sqrt2$ とすると $a^b=(\sqrt2^{\sqrt2})^{\sqrt2}=\sqrt2^{\,2}=2$ である。この証明は「$\sqrt2^{\sqrt2}$ は有理数であるか、有理数でないかのどちらかである」という排中律を使っており、どちらの場合なのかを決めないまま結論を出している。通常の数学はこのような推論を認める。すべての命題が真か偽のちょうど一方をとるという前提に立ち、排中律や二重否定除去(「$\varphi$ でないことはない」から $\varphi$ を結論する)を一般に認める論理を古典論理という。この記事では、古典論理を真理値の意味論によって定め、真理値を 2 つの値から一般の Boole代数 に広げても妥当な式が変わらないこと、一階の古典論理ではすべての論理式が量化記号を先頭に集めた形(冠頭標準形)に変形できることを証明する。

定義

以下、命題論理の論理式・付値・恒真式は 命題論理 の記事の定義「論理式」「付値と真理値」「恒真式・充足可能性・論理的帰結」に、一階述語論理の構造・充足関係は 一階述語論理 の記事の定義「構造」「充足関係」「モデル・妥当性・論理的帰結」に従う。真を $1$、偽を $0$ と書く。

古典論理

古典論理(classical logic)とは、次の二値の意味論で妥当性と帰結を定める論理である。

  1. 命題論理:命題変数に $0$ または $1$ を割り当てる付値 $v$ を、真理値表の規則で論理式全体に広げる。すべての付値で値が $1$ になる式を古典的に妥当(恒真式)という。
  2. 一階述語論理:構造と割り当てのもとで各論理式は充足されるかされないかのどちらかであり、各文は真か偽のちょうど一方である。すべての構造で真な文を古典的に妥当という。
    どちらでも、前提の集合 $\Gamma$ のすべての元を真にするどの解釈でも $\varphi$ が真のとき、$\varphi$ を $\Gamma$ の論理的帰結といい $\Gamma\models\varphi$ と書く。

古典論理は、証明の規則の側からも特徴づけられる。

  • 古典論理の証明体系(ヒルベルト流、自然演繹、シーケント計算など)は、導出できる式がちょうど上の意味で妥当な式になるように作られる。命題論理では 命題論理 の記事の定理「健全性と完全性」、一階述語論理では Gödelの完全性定理 がこの一致を述べる。
  • 直観主義論理 の公理系に、すべての式 $\varphi$ についての排中律 $\varphi\lor\lnot\varphi$ を加えても、二重否定除去 $\lnot\lnot\varphi\to\varphi$ を加えても、Peirce の法則 $((\varphi\to\psi)\to\varphi)\to\varphi$ を加えても、同じ古典論理が得られる(直観主義論理 の記事の命題「排中律と二重否定除去」と注意「Peirce の法則」。排中律と二重否定除去については Zac25 Theorem 13.2 も参照)。
    古典論理直観主義論理
    真理値真と偽の 2 つ(一般に Boole 代数の元)Heyting 代数の元
    排中律 $\varphi\lor\lnot\varphi$妥当一般には証明できない
    二重否定除去 $\lnot\lnot\varphi\to\varphi$妥当一般には証明できない
    $\varphi\lor\psi$ の証明どちらが成り立つかを決めなくてよいどちらかの証明を含む(選言特性)
    直観主義論理の列は、直観主義論理 の記事の系「直観主義論理で証明できない式」、定理「Heyting 代数と Kripke モデルに関する完全性」、定理「選言特性」による。

直感

古典論理の論理式は、各命題が真か偽かの「スイッチ」の状態から真偽を計算する回路のようなものである。スイッチの状態をすべて試して常に真になる式が妥当である。排中律 $\varphi\lor\lnot\varphi$ はこの見方では自明に妥当だが、「$\varphi$ の証明か $\lnot\varphi$ の証明を持っている」という読み方をすると自明でなくなる。この読み方の違いが古典論理と直観主義論理の違いである。二値の見方は、真理値を $\{0,1\}$ から部分集合の族や一般の Boole 代数に広げても同じ結果を与える。これが後で示す thm-classical-logic-boolean の内容である。

例と反例

古典論理の恒真式

次の式はどれも古典的に妥当である。命題変数 $p,q$ の値 $(v(p),v(q))$ の 4 通りを調べればよい。

式名前直観主義論理で
$p\lor\lnot p$排中律証明できない
$\lnot\lnot p\to p$二重否定除去証明できない
$((p\to q)\to p)\to p$Peirce の法則証明できない
$\lnot(p\land q)\to(\lnot p\lor\lnot q)$De Morgan の法則の一方向証明できない
$p\to\lnot\lnot p$二重否定の導入証明できる

たとえば Peirce の法則は、$v(p)=1$ なら結論 $p$ が真なので真であり、$v(p)=0$ なら $p\to q$ が真、したがって $(p\to q)\to p$ が偽になるので真である。最後の列は 直観主義論理 の記事の系「直観主義論理で証明できない式」と命題「直観主義論理で証明できる式」による。

酒飲みの式

1 項関係記号 $D$ について、文
$$ \exists x\,\bigl(D(x)\to\forall y\,D(y)\bigr) $$
は古典的に妥当である(「ある人がいて、その人が飲むなら全員が飲む」)。構造 $\mathcal M$ をとる。$D^{\mathcal M}=M$ なら、台集合が空でないので元 $a$ を 1 つとれば、$\forall y\,D(y)$ が真なので $x$ に $a$ を割り当てた $D(x)\to\forall y\,D(y)$ は真である。$D^{\mathcal M}\ne M$ なら、$a\notin D^{\mathcal M}$ をとると前件 $D(x)$ が偽なので含意は真である。どちらの場合も $x$ に $a$ を割り当てれば成り立つ。この証明は「$D^{\mathcal M}=M$ であるか、ないか」の場合分けを使い、どの $a$ を選ぶかは場合によって違う。

条件を外すと崩れることを次の表にまとめる。

外す条件反例成り立たなくなること
真理値が 2 つ(Heyting 代数に広げる)3 元の鎖 $\{0<\tfrac12<1\}$ で $v(p)=\tfrac12$排中律・二重否定除去・Peirce の法則の値が $1$(ex-classical-logic-three-values)
真理値が 2 つ(Kleene の 3 値にする)すべての命題変数に値 $\tfrac12$$\lnot,\land,\lor,\to$ だけで書ける恒真式の存在(ex-classical-logic-three-values)
台集合が空でない台集合 $\emptyset$ の構造酒飲みの式・冠頭標準形への変形の一部(lem-classical-logic-quantifier-moves の後の注意)
排中律をすべての式について認める1 つの命題変数 $p$ について $\lnot\lnot p\to p$ だけを仮定$p\lor\lnot p$ の導出(直観主義論理 の記事の命題「排中律と二重否定除去」の後の注意)
反例:3 つの真理値

Heyting 代数の 3 元の鎖:$H=\{0<\tfrac12<1\}$ で、$a\Rightarrow b$ を $a\le b$ なら $1$、そうでなければ $b$ とし、$\lnot a:=a\Rightarrow0$ とすると、$H$ は Heyting代数 である。$v(p)=\tfrac12$ とすると $\lnot p=0$、$\lnot\lnot p=1$ なので、$p\lor\lnot p$ と $\lnot\lnot p\to p$ の値はどちらも $\tfrac12$ であり、Peirce の法則も $q$ に $0$ を割り当てると値 $\tfrac12$ をとる(計算は 直観主義論理 の記事の例「反例:3 元の鎖と排中律」)。$H$ は Boole 代数でない($\tfrac12$ に補元がない)。真理値を Boole 代数に限ることが、これらの式を妥当にしている(thm-classical-logic-boolean)。
Kleene の強い 3 値論理:値 $\{0,\tfrac12,1\}$ で $\lnot a=1-a$、$a\land b=\min(a,b)$、$a\lor b=\max(a,b)$、$a\to b=\max(1-a,b)$ と定め、値 $1$ をとることを「真」とする。すべての命題変数に $\tfrac12$ を割り当てると、どの論理式の値も $\tfrac12$ である。命題変数では定義どおりであり、$1-\tfrac12=\tfrac12$、$\min(\tfrac12,\tfrac12)=\max(\tfrac12,\tfrac12)=\tfrac12$ なので、論理式の組み立てに沿った帰納法で従う。よってこの意味論では、すべての付値で値 $1$ をとる式が 1 つもない。排中律もその例である。

性質

Boole 代数に値をとる意味論

真理値の集合 $\{0,1\}$ は、$\lor=\max$、$\land=\min$、補元 $x'=1-x$ で 2 元の Boole 代数になっている。真理値を一般の Boole 代数の元に広げる。Boole 代数の結び・交わり・補元を $\vee,\wedge,{}'$ と書く(Boole代数 の記事の定義「Boole代数の定義」)。

Boole 代数での値

$B$ を Boole 代数とする。命題変数から $B$ への写像 $v$ を $B$ に値をとる付値という。論理式 $\varphi$ の値 $[\![\varphi]\!]_v\in B$ を次の再帰で定める。
$$ [\![p]\!]_v=v(p),\quad[\![\lnot\varphi]\!]_v=[\![\varphi]\!]_v{}',\quad[\![\varphi\land\psi]\!]_v=[\![\varphi]\!]_v\wedge[\![\psi]\!]_v,\quad[\![\varphi\lor\psi]\!]_v=[\![\varphi]\!]_v\vee[\![\psi]\!]_v,\quad[\![\varphi\to\psi]\!]_v=[\![\varphi]\!]_v{}'\vee[\![\psi]\!]_v. $$

$B=\{0,1\}$ のとき、これは通常の真理値である。$B$ が集合 $X$ の冪集合のとき、これは 論理と命題 の記事の定義「集合による解釈のとりかた」の集合による解釈である。

Boole 代数に関する妥当性

命題論理の論理式 $\varphi$ について、次は同値である。

  1. $\varphi$ は恒真式である(すべての $\{0,1\}$ 値の付値で値が $1$)。
  2. すべての Boole 代数 $B$ と、$B$ に値をとるすべての付値 $v$ について $[\![\varphi]\!]_v=1$ である。
定理の読み方

この定理は、恒真式が 2 値の真理値表だけでなく、任意の Boole 代数に値をとる付値のもとでも常に最大元 $1$ をとることを述べる。したがって、2 値の真理値表で恒真性を確かめれば、冪集合 を含むすべての Boole 代数での解釈についても妥当性が従う。証明は、値を真理値表の行に分解する補題を用意してから与える。

2 ⇒ 1 は $B=\{0,1\}$ の場合である。1 ⇒ 2 を示すために、値を「真理値表の行」に分解する。$\varphi$ に現れる命題変数を $p_1,\dots,p_n$ とし、$\{0,1\}^n$ の元 $\varepsilon=(\varepsilon_1,\dots,\varepsilon_n)$ を、$p_i$ に $\varepsilon_i$ を割り当てる $\{0,1\}$ 値の付値と同一視する(真理値表の 1 行にあたる)。$\varphi$ を真にする行の集合を $S_\varphi\subset\{0,1\}^n$ とする。$B$ に値をとる付値 $v$ を固定し、$a_i:=v(p_i)$、$a_i^{1}:=a_i$、$a_i^{0}:=a_i'$ とおいて
$$ m_\varepsilon:=a_1^{\varepsilon_1}\wedge a_2^{\varepsilon_2}\wedge\cdots\wedge a_n^{\varepsilon_n},\qquad m_S:=\bigvee_{\varepsilon\in S}m_\varepsilon\quad(S\subset\{0,1\}^n) $$
と定める(空な結びは $0$、$n=0$ のときの空な交わりは $1$ とする)。

行への分解
  1. $\varepsilon\ne\delta$ ならば $m_\varepsilon\wedge m_\delta=0$ である。
  2. $m_{\{0,1\}^n}=1$ である。
  3. $S,T\subset\{0,1\}^n$ について $m_S\wedge m_T=m_{S\cap T}$、$m_S\vee m_T=m_{S\cup T}$、$m_S{}'=m_{\{0,1\}^n\setminus S}$ である。
  4. すべての論理式 $\varphi$(変数が $p_1,\dots,p_n$ の中にあるもの)について $[\![\varphi]\!]_v=m_{S_\varphi}$ である。
分配律と補元の一意性

1:$\varepsilon_i\ne\delta_i$ となる $i$ があり、$m_\varepsilon\wedge m_\delta$ は $a_i\wedge a_i'=0$ を含む交わりなので $0$ である。
2:$n$ についての帰納法による。$n=0$ では空な交わり $1$ である。$\{0,1\}^n$ の元を最初の $n-1$ 成分 $\varepsilon'$ と最後の成分に分けると、分配律により
$$ m_{\{0,1\}^n}=\bigvee_{\varepsilon'}\bigl((m_{\varepsilon'}\wedge a_n)\vee(m_{\varepsilon'}\wedge a_n')\bigr)=\bigvee_{\varepsilon'}\bigl(m_{\varepsilon'}\wedge(a_n\vee a_n')\bigr)=\bigvee_{\varepsilon'}m_{\varepsilon'} $$
であり、帰納法の仮定により右辺は $1$ である。
3:結びの式は結びの結合律と冪等律による。交わりは分配律で展開すると $\bigvee_{\varepsilon\in S,\,\delta\in T}(m_\varepsilon\wedge m_\delta)$ となり、1 により $\varepsilon=\delta$ の項 $m_\varepsilon$ だけが残るので $m_{S\cap T}$ である。$S^c:=\{0,1\}^n\setminus S$ とおくと、いま示した 2 式と 2 により $m_S\wedge m_{S^c}=m_\emptyset=0$、$m_S\vee m_{S^c}=1$ なので、$m_{S^c}$ は $m_S$ の補元である。補元は一意なので(Boole代数 の記事の命題「補元の一意性と基本法則」)、$m_S{}'=m_{S^c}$ である。
4:論理式に関する帰納法による。$\varphi=p_i$ のとき、2 と分配律により $a_i=a_i\wedge m_{\{0,1\}^n}=\bigvee_\varepsilon(a_i\wedge m_\varepsilon)$ であり、$a_i\wedge m_\varepsilon$ は $\varepsilon_i=1$ なら $m_\varepsilon$、$\varepsilon_i=0$ なら $a_i\wedge a_i'$ を含むので $0$ である。よって $a_i=m_S$($S=\{\varepsilon:\varepsilon_i=1\}=S_{p_i}$)である。一方、真理値表の規則により
$$ S_{\lnot\varphi}=S_\varphi^c,\quad S_{\varphi\land\psi}=S_\varphi\cap S_\psi,\quad S_{\varphi\lor\psi}=S_\varphi\cup S_\psi,\quad S_{\varphi\to\psi}=S_\varphi^c\cup S_\psi $$
である。$[\![\cdot]\!]_v$ の定義と 3 を比べると、帰納法の仮定 $[\![\varphi]\!]_v=m_{S_\varphi}$、$[\![\psi]\!]_v=m_{S_\psi}$ から各場合が従う。たとえば $[\![\varphi\to\psi]\!]_v=m_{S_\varphi}{}'\vee m_{S_\psi}=m_{S_\varphi^c\cup S_\psi}=m_{S_{\varphi\to\psi}}$ である。$\square$

Boole 代数に関する妥当性

1 ⇒ 2:$\varphi$ が恒真式なら $S_\varphi=\{0,1\}^n$ である。任意の Boole 代数 $B$ と付値 $v$ について、lem-classical-logic-minterms の 4 と 2 により $[\![\varphi]\!]_v=m_{\{0,1\}^n}=1$ である。
2 ⇒ 1:$B=\{0,1\}$ とすると、$[\![\varphi]\!]_v$ は $v$ のもとでの通常の真理値に一致する(定義の各式が真理値表の規則と同じ)。すべての $v$ で値が $1$ なので、$\varphi$ は恒真式である。$\square$

補題の 4 は、値 $[\![\varphi]\!]_v$ が「$\varphi$ の真理値表で真になる行」だけで決まることを表す。これは 命題論理 の記事の定理「選言標準形による関数的完全性」の選言標準形を Boole 代数の中で読んだものである。

同値な式は等しい値をとる

命題論理の論理式 $\varphi,\psi$ が論理的に同値($\varphi\leftrightarrow\psi$ が恒真式)であることと、すべての Boole 代数 $B$ と付値 $v$ について $[\![\varphi]\!]_v=[\![\psi]\!]_v$ であることは同値である。

行の集合で比べる

$\varphi,\psi$ に現れる変数をまとめて $p_1,\dots,p_n$ とする。論理的に同値なら $S_\varphi=S_\psi$ なので、lem-classical-logic-minterms の 4 により値は等しい。逆に値がつねに等しければ、$B=\{0,1\}$ で真理値が等しいので論理的に同値である。$\square$

たとえば $\lnot(p\land q)$ と $\lnot p\lor\lnot q$ は論理的に同値なので、任意の Boole 代数で $(a\wedge b)'=a'\vee b'$ が成り立つ。この系は、恒真式から Boole 代数の等式が一斉に得られることを示している。
直観主義論理との対比:Heyting 代数に値をとる付値でつねに値 $1$ をとる式は、ちょうど直観主義論理で証明可能な式である(直観主義論理 の記事の定理「Heyting 代数と Kripke モデルに関する完全性」、この記事では証明しない)。thm-classical-logic-boolean はその古典論理版であり、古典論理と直観主義論理の違いは、真理値の代数が Boole 代数か Heyting 代数かの違いとして表れる。Heyting 代数がすべての元 $a$ について $a\vee\lnot a=1$ を満たせば Boole 代数になる(Heyting代数 の記事の命題「否定と古典性」)。

冠頭標準形

一階述語論理の論理式で、量化記号をすべて先頭に集めた形
$$ Q_1x_1\,Q_2x_2\cdots Q_kx_k\,\theta\qquad(Q_i\text{ は }\forall\text{ か }\exists,\ \theta\text{ は量化記号を含まない論理式}) $$
を冠頭形(prenex form)という($k=0$ も許す)。論理式の論理的同値は 一階述語論理 の記事の定義「モデル・妥当性・論理的帰結」の 4 による。

量化記号の移動

$\varphi,\psi$ を論理式、$x$ を変数とし、$x\notin\operatorname{FV}(\psi)$ とする。次の各組は論理的に同値である。

  1. $\lnot\forall x\,\varphi$ と $\exists x\,\lnot\varphi$、$\lnot\exists x\,\varphi$ と $\forall x\,\lnot\varphi$。
  2. $Q$ を $\forall$ または $\exists$、$\ast$ を $\land$ または $\lor$ とするとき、$(Qx\,\varphi\ast\psi)$ と $Qx\,(\varphi\ast\psi)$、$(\psi\ast Qx\,\varphi)$ と $Qx\,(\psi\ast\varphi)$。
  3. $(\forall x\,\varphi\to\psi)$ と $\exists x\,(\varphi\to\psi)$、$(\exists x\,\varphi\to\psi)$ と $\forall x\,(\varphi\to\psi)$、$(\psi\to\forall x\,\varphi)$ と $\forall x\,(\psi\to\varphi)$、$(\psi\to\exists x\,\varphi)$ と $\exists x\,(\psi\to\varphi)$。
二値の意味論で場合を分ける

構造 $\mathcal M$ と割り当て $s$ を固定する。$x\notin\operatorname{FV}(\psi)$ なので、一階述語論理 の記事の補題「一致補題」により、すべての $a\in M$ について「$\mathcal M\models\psi[s_x^a]\iff\mathcal M\models\psi[s]$」である。以下 $A(a)$ を「$\mathcal M\models\varphi[s_x^a]$」、$P$ を「$\mathcal M\models\psi[s]$」と書く。充足の定義により、各組の両辺は次の主張になる。
1:左辺は「すべての $a$ で $A(a)$、ではない」、右辺は「ある $a$ で $A(a)$ でない」。各 $A(a)$ は成り立つか成り立たないかのどちらかなので、両者は同値である。後半も同様である。
3 の 1 つ目:左辺は「(すべての $a$ で $A(a)$)でない、または $P$」、右辺は「ある $a$ で($A(a)$ でない、または $P$)」。$P$ が成り立つとき、左辺は真であり、右辺も真である。右辺では台集合が空でないことを使って $a$ を 1 つとる。$P$ が成り立たないとき、左辺は「すべての $a$ で $A(a)$、ではない」、右辺は「ある $a$ で $A(a)$ でない」で、1 と同じく同値である。
ほかの組も、$P$ が成り立つ場合と成り立たない場合に分けると、次の表のとおり両辺が同じ主張になる($\psi$ が左右どちらにあっても $\land,\lor$ では同じである)。表の中の $\forall a\,A(a)$ は「すべての $a\in M$ で $A(a)$」、$\exists a\,A(a)$ は「ある $a\in M$ で $A(a)$」という主張を表す。

組$P$ が成り立つとき$P$ が成り立たないとき
$(\forall x\,\varphi\land\psi)$、$\forall x\,(\varphi\land\psi)$両辺とも $\forall a\,A(a)$両辺とも偽(右辺は元を 1 つとる)
$(\exists x\,\varphi\land\psi)$、$\exists x\,(\varphi\land\psi)$両辺とも $\exists a\,A(a)$両辺とも偽
$(\forall x\,\varphi\lor\psi)$、$\forall x\,(\varphi\lor\psi)$両辺とも真両辺とも $\forall a\,A(a)$
$(\exists x\,\varphi\lor\psi)$、$\exists x\,(\varphi\lor\psi)$両辺とも真(右辺は元を 1 つとる)両辺とも $\exists a\,A(a)$
$(\exists x\,\varphi\to\psi)$、$\forall x\,(\varphi\to\psi)$両辺とも真「$\exists a\,A(a)$ でない」と「すべての $a$ で $A(a)$ でない」
$(\psi\to\forall x\,\varphi)$、$\forall x\,(\psi\to\varphi)$両辺とも $\forall a\,A(a)$両辺とも真
$(\psi\to\exists x\,\varphi)$、$\exists x\,(\psi\to\varphi)$両辺とも $\exists a\,A(a)$両辺とも真(右辺は元を 1 つとる)

5 行目の $P$ が成り立たない場合の 2 つの主張は、定義から直ちに同値である。「元を 1 つとる」と書いた箇所で台集合が空でないことを使う。$\square$

証明の中で、「すべての $a$ で成り立つ、ではない」を「成り立たない $a$ がある」と言い換えた。これは各 $A(a)$ が真か偽のどちらかであるという二値の意味論の使い方である。また、台集合が空の構造を許すと、たとえば $\psi$ を真な文として $(\forall x\,\varphi\to\psi)$ は真、$\exists x\,(\varphi\to\psi)$ は偽になり、3 の 1 つ目が崩れる。

同値な部分論理式の置き換え

$\varphi$ と $\varphi'$ が論理的に同値ならば、論理式 $\chi$ の中の部分論理式 $\varphi$ の 1 つの出現を $\varphi'$ に置き換えた論理式 $\chi'$ は $\chi$ と論理的に同値である。

置き換えた場所に向かって帰納法

$\chi$ に関する帰納法による。置き換える出現が $\chi$ 全体なら仮定そのものである。そうでなければ、出現は $\chi$ の直接の成分($\lnot\chi_1$ の $\chi_1$、$(\chi_1\ast\chi_2)$ の一方、$Qx\,\chi_1$ の $\chi_1$)の中にあり、帰納法の仮定によりその成分は置き換えの前後で論理的に同値である。充足関係の定義では、$\chi$ の充足は各成分の(割り当て $s$ または $s_x^a$ のもとでの)充足だけで決まるので、$\chi$ と $\chi'$ も論理的に同値である。$\square$

冠頭標準形

一階述語論理のすべての論理式 $\chi$ は、自由変数が $\chi$ と同じ冠頭形の論理式と論理的に同値である。

成分の冠頭形から量化記号を外へ出す

$\chi$ の組み立てに沿った帰納法で示す。原子論理式は $k=0$ の冠頭形である。$\chi=Qx\,\chi_1$ なら、$\chi_1$ を帰納法の仮定で冠頭形 $\chi_1^*$ に替えた $Qx\,\chi_1^*$ が冠頭形であり、lem-classical-logic-replacement により $\chi$ と同値である。
$\chi=\lnot\chi_1$ で $\chi_1$ が冠頭形 $Q_1x_1\cdots Q_kx_k\,\theta$ と同値なら、lem-classical-logic-quantifier-moves の 1 と lem-classical-logic-replacement を $k$ 回使うと、$\lnot$ を右へ送って
$$ \lnot Q_1x_1\cdots Q_kx_k\,\theta\ \text{は}\ \overline{Q_1}x_1\cdots\overline{Q_k}x_k\,\lnot\theta\ \text{と同値} $$
である。ここで $\overline{\forall}=\exists$、$\overline{\exists}=\forall$ とする。
$\chi=(\chi_1\ast\chi_2)$($\ast$ は $\land,\lor,\to$)で、$\chi_1,\chi_2$ がそれぞれ冠頭形 $Q_1x_1\cdots Q_kx_k\,\theta_1$、$R_1y_1\cdots R_ly_l\,\theta_2$ と同値だとする。一階述語論理 の記事の系「束縛変数の付け替え」と lem-classical-logic-replacement により、束縛変数 $x_1,\dots,x_k,y_1,\dots,y_l$ を、互いに異なり、$\chi_1,\chi_2$ にも 2 つの冠頭形 $Q_1x_1\cdots Q_kx_k\,\theta_1$、$R_1y_1\cdots R_ly_l\,\theta_2$ にも現れない新しい変数に替えておける(変数は無限個あるので、このような変数はとれる)。すると各 $x_i$ は $R_1y_1\cdots R_ly_l\,\theta_2$ の自由変数でなく、各 $y_j$ は $\theta_1$ の自由変数でない。lem-classical-logic-quantifier-moves の 2・3 を使って、まず $Q_1x_1,\dots,Q_kx_k$ を左から順に外へ出し、次に $R_1y_1,\dots,R_ly_l$ を外へ出すと、冠頭形
$$ Q_1^*x_1\cdots Q_k^*x_k\,R_1^*y_1\cdots R_l^*y_l\,(\theta_1\ast\theta_2) $$
を得る。ここで $Q_i^*$ は、$\ast$ が $\land,\lor$ のとき、または $\to$ の右側から出したときは $Q_i$ のままであり、$\to$ の左側から出したときだけ $\overline{Q_i}$ に替わる(lem-classical-logic-quantifier-moves の 3)。
どの段階も、束縛変数の付け替えと量化記号の移動は自由変数を変えないので、最後の冠頭形の自由変数は $\chi$ と同じである。$\square$

冠頭形への変形

1 項関係記号 $P,Q$ について、$\chi=(\forall x\,P(x)\to\exists x\,Q(x))$ を冠頭形にする。$x\notin\operatorname{FV}(\exists x\,Q(x))$ なので 3 の 1 つ目により $\chi$ は $\exists x\,(P(x)\to\exists x\,Q(x))$ と同値である。内側の $\exists x$ は $P(x)$ の自由変数 $x$ と名前がぶつかるので $\exists y\,Q(y)$ に付け替え、3 の 4 つ目を使うと
$$ \chi\ \text{は}\ \exists x\,\exists y\,(P(x)\to Q(y))\ \text{と同値} $$
である。$\forall x$ が左側から出たので $\exists x$ に替わった。同様に、$\lnot\forall x\,\exists y\,R(x,y)$ は 1 を 2 回使って $\exists x\,\forall y\,\lnot R(x,y)$ と同値である。

量化記号の移動・置き換え・冠頭標準形は BS12 第 V 章 §1 の Lemma 1.13、Lemma 1.15、Theorem 1.18(pp. 197–199)にもある。

補足:古典論理と直観主義論理の間

  • 古典論理で証明できる式 $\varphi$ について、各部分に二重否定を入れた式 $\varphi^N$(Gödel–Gentzen の否定翻訳)は直観主義論理で証明でき、$\varphi\leftrightarrow\varphi^N$ は古典論理で証明できる(Zac25 §13.5、Theorem 13.3、p. 270。この記事では証明しない)。命題論理の場合は、$\varphi$ 全体に二重否定を付けるだけでよい(Glivenko の定理、直観主義論理 の記事の定理「Glivenko の定理」)。
  • 冒頭の $a^b$ の例は Zac25 Theorem 13.1(p. 267)にある。同書では、$a=\sqrt3$、$b=\log_34$ とすれば $a^b=3^{\frac12\log_34}=2$ となり、具体的な組を挙げた証明も得られることを注意している。古典論理の証明はこのような具体例を与えないことがあるが、正しさは変わらない。
  • 古典論理の自然演繹の例として、MBTZ25 の体系は背理法の規則 IP($\lnot\varphi$ を仮定して矛盾を導けば $\varphi$、§17.8、p. 137)を基本規則に含み、二重否定除去と排中律を追加の規則とする(§19.3・§19.4、pp.164–165)。§18.6(p.158)には IP による排中律の導出がある。

関連項目

参考文献

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