群の中心

概要

群の中心(center of a group)とは、群 $G$ の元のうち $G$ のすべての元と交換するもの全体からなる部分集合 $Z(G)=\{x\in G\mid \forall y\in G,\ xy=yx\}$ のことである。中心は常に $G$ の正規部分群であり、$G$ がアーベル群であることと $Z(G)=G$ であることは同値である。また中心は共役作用 $x\mapsto gxg^{-1}$ の定める準同型 $G\to\mathrm{Sym}(G)$ の核に等しい。$3$ 次対称群の中心は自明であり、整数上の Heisenberg 群の中心は $\mathbb{Z}$ と同型で自明でも全体でもない。有限 $p$-群の中心は類等式により自明でないことが示される。中心の大きさは群の可換性の度合いを測る目安になるが、中心が大きくても可換とは限らない。

$$\newcommand{C}[0]{\mathbb{C}} \newcommand{N}[0]{\mathbb{N}} \newcommand{Q}[0]{\mathbb{Q}} \newcommand{R}[0]{\mathbb{R}} \newcommand{Z}[0]{\mathbb{Z}} $$

前提知識: , 部分群, 正規部分群, 群の作用

定義

群の中心

$G$中心(center)$Z(G)$ とは、$G$ のすべての元と交換する元全体からなる部分集合
$$ Z(G):=\{x\in G\mid \text{任意の } y\in G \text{ に対して } xy=yx\} $$
のことである(DF04 §2.2)。

本記事では次の二つの概念も使う。元 $x\in G$中心化群 $C_G(x):=\{g\in G\mid gx=xg\}$$x$ と交換する元全体で、$G$ の部分群である(lem-center-of-group-class-equation の証明で確認する)。定義から $Z(G)=\bigcap_{x\in G}C_G(x)$ である。また $x,y\in G$共役であるとは、ある $g\in G$$y=gxg^{-1}$ となることをいい、$x$ と共役な元全体 $\{gxg^{-1}\mid g\in G\}$$x$共役類という。

直感

中心は「群の中で誰とでも交換できる元」の集まりである。$G$ がアーベル群であることと $Z(G)=G$ であることは同値なので、$Z(G)$ の大きさは $G$ の可換性の度合いを測る一つの目安になる。ただし中心が大きくても $G$ が可換に近い構造を持つとは限らず、逆に非可換群の中心が自明になることもある(下記の例と反例)。中心には「共役作用 $x\mapsto gxg^{-1}$ が何もしない $g$ の全体」という特徴づけもある(prop-center-of-group-kernel)。

例と反例

以下、置換の積は右側の置換を先に適用する($(\sigma\tau)(i)=\sigma(\tau(i))$)。

アーベル群

$G$ がアーベル群ならば $Z(G)=G$ である。たとえば $Z(\mathbb{Z})=\mathbb{Z}$$Z(\mathbb{Z}/n\mathbb{Z})=\mathbb{Z}/n\mathbb{Z}$ である(prop-center-of-group-abelian)。

$3$ 次対称群の中心は自明

$S_3=\{e,(1\,2),(1\,3),(2\,3),(1\,2\,3),(1\,3\,2)\}$ の中心は $\{e\}$ である。実際、単位元以外の各元は $(1\,2)$ または $(1\,3)$ と交換しない:
$$ (1\,2)(1\,3)=(1\,3\,2)\neq(1\,2\,3)=(1\,3)(1\,2),\qquad (2\,3)(1\,2)=(1\,3\,2)\neq(1\,2\,3)=(1\,2)(2\,3), $$
$$ (1\,2\,3)(1\,2)=(1\,3)\neq(2\,3)=(1\,2)(1\,2\,3),\qquad (1\,3\,2)(1\,2)=(2\,3)\neq(1\,3)=(1\,2)(1\,3\,2). $$
最初の式は $(1\,2)$$(1\,3)$ の両方が中心に属さないことを示す。

Heisenberg 群:自明でも全体でもない中心

集合 $H:=\mathbb{Z}^3$ に積を
$$ (a,b,c)(a',b',c'):=(a+a',\ b+b',\ c+c'+ab') $$
で定めると $H$ は群になる(prop-center-of-group-heisenberg)。$H$ は非アーベル群であり、その中心は $Z(H)=\{(0,0,c)\mid c\in\mathbb{Z}\}$ で、自明でも $H$ 全体でもない。

反例:中心の大きさと可換性

次の二つの例は、それぞれ「中心が自明でない ⇒ アーベル群」「非アーベル群 ⇒ 中心は自明でない」が成り立たないことを示す。

  • Heisenberg 群 $H$ex-center-of-group-heisenberg)は中心が無限群 $\{(0,0,c)\}$ であるにもかかわらず非アーベル群である。中心が大きいことは可換性を意味しない。
  • $S_3$ex-center-of-group-s3)は非アーベル群だが中心は自明である。有限 $p$-群の中心が自明でないこと(thm-center-of-group-p-group)は、位数が素数冪であるという仮定なしには成り立たない($|S_3|=6$ は素数冪でない)。

性質

中心は正規部分群である

$G$ の中心 $Z(G)$$G$ の正規部分群である。

部分群であること:$e$ はすべての元と交換するので $e\in Z(G)$$x,y\in Z(G)$ と任意の $g\in G$ に対し $(xy)g=x(yg)=x(gy)=(xg)y=(gx)y=g(xy)$ なので $xy\in Z(G)$$x\in Z(G)$ なら $xg=gx$ の両辺に左右から $x^{-1}$ を掛けて $gx^{-1}=x^{-1}g$ を得るので $x^{-1}\in Z(G)$
正規性:$x\in Z(G)$$g\in G$ に対し $gxg^{-1}=xgg^{-1}=x\in Z(G)$。よって $gZ(G)g^{-1}\subset Z(G)$ が任意の $g$ で成り立ち、$Z(G)$ は正規部分群である。$\square$

アーベル群の特徴づけ

$G$ について、$Z(G)=G$ であることと $G$ がアーベル群であることは同値である。

$Z(G)=G$ なら任意の $x,y\in G$$x\in Z(G)$ より $xy=yx$。逆に $G$ がアーベル群なら任意の $x$ が任意の $y$ と交換するので $x\in Z(G)$$\square$

共役作用の核としての中心

$G$ の各元 $g$ に対し、写像 $\varphi_g\colon G\to G$$\varphi_g(x):=gxg^{-1}$ は全単射であり、$g\mapsto\varphi_g$$G$ から $G$ の全単射全体のなす群 $\mathrm{Sym}(G)$(合成を演算とする)への群準同型 $\varphi$ を定める。その核は $Z(G)$ である。

$\varphi_g\circ\varphi_{g^{-1}}(x)=g(g^{-1}xg)g^{-1}=x$ であり同様に $\varphi_{g^{-1}}\circ\varphi_g=\mathrm{id}$ なので $\varphi_g$ は全単射である。$\varphi_g\circ\varphi_h(x)=g(hxh^{-1})g^{-1}=(gh)x(gh)^{-1}=\varphi_{gh}(x)$ なので $\varphi$ は準同型である。$g\in\ker\varphi$$\varphi_g=\mathrm{id}$、すなわち任意の $x$$gxg^{-1}=x$、すなわち $gx=xg$ を意味し、これは $g\in Z(G)$ と同値である。$\square$

Heisenberg 群とその中心

ex-center-of-group-heisenberg$H=\mathbb{Z}^3$ は上の積について群をなし、非アーベルで、$Z(H)=\{(0,0,c)\mid c\in\mathbb{Z}\}$ である。

結合律:$\bigl((a,b,c)(a',b',c')\bigr)(a'',b'',c'')$ の第 $3$ 成分は $c+c'+ab'+c''+(a+a')b''$$(a,b,c)\bigl((a',b',c')(a'',b'',c'')\bigr)$ の第 $3$ 成分は $c+c'+c''+a'b''+a(b'+b'')$ で、いずれも $c+c'+c''+ab'+ab''+a'b''$ に等しい。第 $1$、第 $2$ 成分は加法なので一致する。単位元は $(0,0,0)$$(a,b,c)$ の逆元は $(-a,-b,-c+ab)$ である($(a,b,c)(-a,-b,-c+ab)=(0,0,c-c+ab-ab)=(0,0,0)$、逆順も同様に $(0,0,-c+ab+c+(-a)b)=(0,0,0)$)。
非アーベル:$(1,0,0)(0,1,0)=(1,1,1)$ だが $(0,1,0)(1,0,0)=(1,1,0)$ である。
中心:$(a,b,c)$$(a',b',c')$ の積の第 $3$ 成分を比較すると、両者が交換することは $ab'=a'b$ と同値である。$(a,b,c)$ が中心に属するのは、任意の $(a',b')$$ab'=a'b$ となるときで、$(a',b')=(0,1)$ から $a=0$$(a',b')=(1,0)$ から $b=0$ を得る。逆に $a=b=0$ なら $ab'=0=a'b$ が常に成り立つ。よって $Z(H)=\{(0,0,c)\}$ で、$(0,0,1)\neq(0,0,0)$ かつ $(1,0,0)\notin Z(H)$ から自明でも全体でもない。$Z(H)$ の積は $(0,0,c)(0,0,c')=(0,0,c+c')$ なので、$c\mapsto(0,0,c)$ により $Z(H)\cong\mathbb{Z}$ である。$\square$

共役類と類等式

$G$ を有限群とする。共役は $G$ 上の同値関係であり、$x$ の共役類の元の個数は指数 $[G:C_G(x)]$ に等しい。また $x\in Z(G)$ であることと $x$ の共役類が $\{x\}$ であることは同値である。したがって、中心に属さない元の共役類の代表元を $x_1,\dots,x_k$ とすると
$$ |G|=|Z(G)|+\sum_{i=1}^{k}[G:C_G(x_i)] $$
が成り立つ(類等式)。

$C_G(x)$ が部分群であること:$e\in C_G(x)$$g,h\in C_G(x)$ なら $(gh)x=g(xh)=(xg)h=x(gh)$$gx=xg$ なら $x g^{-1}=g^{-1}x$
共役が同値関係であること:$x=exe^{-1}$(反射律)、$y=gxg^{-1}$ なら $x=g^{-1}yg$(対称律)、$y=gxg^{-1}$$z=hyh^{-1}$ なら $z=(hg)x(hg)^{-1}$(推移律)。よって共役類は $G$ を分割する。
共役類の大きさ:左剰余類の集合 $G/C_G(x)$ から $x$ の共役類への写像 $gC_G(x)\mapsto gxg^{-1}$ を考える。$gC_G(x)=hC_G(x)$$h^{-1}g\in C_G(x)$、すなわち $h^{-1}gx=xh^{-1}g$、すなわち $gxg^{-1}=hxh^{-1}$ と同値なので、この写像は well-defined かつ単射である。全射は定義から明らかである。よって共役類の元の個数は $[G:C_G(x)]$ である。
$x\in Z(G)$ は任意の $g$$gxg^{-1}=x$、すなわち共役類が $\{x\}$ であることと同値である。
類等式:$G$ は共役類の非交和である。一元からなる共役類は中心の元に対応し、その個数の和は $|Z(G)|$ である。残りの共役類の大きさを足せば上式を得る。$\square$

有限 $p$-群の中心は自明でない

$p$ を素数とし、$G$ を位数 $p^n$$n\ge1$)の有限群とする。このとき $Z(G)\neq\{e\}$ である。

lem-center-of-group-class-equation の類等式を使う。中心に属さない $x_i$ に対し $C_G(x_i)\neq G$ なので $[G:C_G(x_i)]>1$ であり、Lagrange の定理から $[G:C_G(x_i)]$$|G|=p^n$ の約数、すなわち $p$ の正の冪である。よって右辺の和は $p$ で割り切れ、$|G|=p^n$$p$ で割り切れるから $|Z(G)|=|G|-\sum_i[G:C_G(x_i)]$$p$ で割り切れる。$e\in Z(G)$ より $|Z(G)|\ge1$ なので $|Z(G)|\ge p>1$ である。$\square$

補足:中心の大きさの比較

中心アーベル群か
$\mathbb{Z}$$\mathbb{Z}/n\mathbb{Z}$群全体はい
$S_3$$\{e\}$ex-center-of-group-s3いいえ
Heisenberg 群 $H$$\{(0,0,c)\}\cong\mathbb{Z}$prop-center-of-group-heisenbergいいえ
位数 $p^n$$n\ge1$)の群自明でない(thm-center-of-group-p-group$n=1$ なら常にはい(下記)。$n\ge2$ は本記事では扱わない

位数 $p$ の群がアーベル群であることは次のように分かる。単位元でない元 $x$ の位数は Lagrange の定理により $p$ の約数で $1$ でないから $p$ であり、$\langle x\rangle$ は位数 $p$ の部分群、すなわち群全体である。よって群は巡回群であり、巡回群の二元 $x^i,x^j$ は交換する。位数 $p^2$ 以上の $p$-群の可換性については本記事では扱わない。

関連項目

参考文献

[1]
David S. Dummit and Richard M. Foote, Abstract Algebra, Wiley, 2004, 3rd ed., §2.2(中心・中心化群)、§4.3(類等式と有限 p-群の中心)

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