正五角形と黄金比(regular pentagon and the golden ratio)とは、1 辺の長さが 1 の正五角形の対角線の長さが黄金比 $\varphi=\frac{1+\sqrt5}{2}=1.618\ldots$ になるという関係である。内角 $108^\circ$ は対角線で $36^\circ$ ずつに分かれ、頂角 $36^\circ$ の二等辺三角形の相似から対角線の長さ $d$ は $d^2=d+1$ を満たす。ここから $\cos72^\circ=\frac{\sqrt5-1}{4}$ が得られ、正五角形は定規とコンパスで作図できる。辺 $s$、対角線 $d$ の正五角形の対角線は内側に辺 $2s-d$、対角線 $d-s$ の正五角形をつくり、これが無限に続くことから $\varphi$ が無理数であることが図形で示せる。
前提知識: 三角形の相似条件, 二等辺三角形の底角定理, 三角比と鈍角への拡張, 定規とコンパスによる作図
5 つの辺の長さが等しく、5 つの内角が等しい凸五角形を 正五角形 という。まず角の大きさを求め、次に辺と対角線の長さを測ってみる。
正五角形 $ABCDE$(頂点はこの順に並ぶ)を考える。
(1) 内角:頂点 $A$ から対角線 $AC$、$AD$ を引くと、五角形は 3 つの三角形 $ABC$、$ACD$、$ADE$ に分かれる。三角形の内角の和は $180^\circ$ なので(三角形の内角の和)、五角形の内角の和は $3\times180^\circ=540^\circ$ であり、1 つの内角は $540^\circ\mathbin{÷}5=108^\circ$ である。
(2) 三角形 $ABC$ は $AB=BC$ の二等辺三角形で、頂角は $\angle ABC=108^\circ$ である。底角は等しい(二等辺三角形の底角定理)ので $\angle BAC=\angle BCA=(180^\circ-108^\circ)\mathbin{÷}2=36^\circ$ である。同じように三角形 $AED$ で $\angle EAD=36^\circ$ である。
(3) したがって頂点 $A$ の内角 $108^\circ$ は、2 本の対角線 $AC$、$AD$ によって
$$
\angle BAC=36^\circ,\qquad \angle CAD=108^\circ-36^\circ-36^\circ=36^\circ,\qquad \angle DAE=36^\circ
$$
と、ちょうど 3 等分される。
半径 $1$ の円に内接する正五角形を考える。中心を $O$ とすると、隣り合う 2 頂点 $P,Q$ について $\angle POQ=360^\circ\mathbin{÷}5=72^\circ$ である。二等辺三角形 $OPQ$ の頂点 $O$ から $PQ$ に垂線を下ろすと、$PQ$ の中点で $PQ$ が 2 等分され、頂角も $36^\circ$ ずつに分かれるので
$$
PQ=2\sin36^\circ=1.17557\ldots
$$
である(三角比と鈍角への拡張)。1 つおいた 2 頂点を結ぶ対角線については中心角が $144^\circ$ なので、同じ計算で
$$
2\sin72^\circ=1.90211\ldots
$$
となる。比をとると
$$
\frac{2\sin72^\circ}{2\sin36^\circ}=\frac{1.90211\ldots}{1.17557\ldots}=1.61803\ldots
$$
である。この比が円の大きさによらない一定の数であり、正確には $\dfrac{1+\sqrt5}2$ であることを、この記事で示す。
この記事では次の問いに答える。
| 高校の計算・定理 | この記事の言葉 | 大学の言葉 |
|---|---|---|
| 二等辺三角形の底角、相似な三角形 | 対角線と辺の比 $\varphi$ | 黄金比 |
| 2 次方程式 $x^2-x-1=0$ | $\varphi^2=\varphi+1$ | $\mathbb{Q}(\sqrt5)$ の数 $a+b\varphi$ |
| 平方根の作図 | 正五角形の作図 | 作図可能数 |
| 辺と対角線から小さな正五角形を作る | 無限降下 | 整数の割り算と互除法が終わらない、連分数 $[1;1,1,\ldots]$ |
| 隣り合う Fibonacci 数の比 $\dfrac{13}8,\dfrac{21}{13},\ldots$ | $\varphi$ の近似 | Fibonacci数、Binet の公式 |
2 次方程式 $x^2=x+1$ の正の解
$$
\varphi:=\frac{1+\sqrt5}{2}=1.6180339\ldots
$$
を 黄金比 という。
$x^2-x-1=0$ を解の公式で解くと $x=\dfrac{1\pm\sqrt5}2$ であり、$\sqrt5>1$ なので正の解は $\dfrac{1+\sqrt5}2$ だけである。$2<\sqrt5<3$ より $\dfrac32<\varphi<2$ である。
Fibonacci数 $1,1,2,3,5,8,13,21,34,55,\ldots$(前の 2 項の和が次の項)の、隣り合う項の比を計算すると
$$
\frac85=1.6,\quad \frac{13}8=1.625,\quad \frac{21}{13}=1.6153\ldots,\quad \frac{34}{21}=1.6190\ldots,\quad \frac{55}{34}=1.6176\ldots
$$
となり、$\varphi=1.6180\ldots$ の上下に交互にきながら近づいていく。この極限が $\varphi$ であることは Fibonacci数 や 黄金比 で示されている(Binet の公式は Fibonacci数の母関数)。この記事の後半(rem-rpg-university)で、正五角形から見た理由を述べる。
1 辺の長さが $1$ の正五角形 $ABCDE$ について、次が成り立つ。
1 辺 1 の正五角形。頂角 36° の二等辺三角形 ACD(青)と、対角線 CE で切り取った三角形 CFD(赤)は、角が 36°, 72°, 72° で等しく、相似になる
方針:角を $36^\circ$ の倍数で追いかけ、底角が等しい二等辺三角形を見つけて長さ $1$ の線分を増やす。最後に相似な三角形の比から $\varphi$ の 2 次方程式を出す。
段 1(各頂点での角)。正五角形は凸なので、各頂点から出る 2 本の辺と 2 本の対角線は、内角の中に辺・対角線・対角線・辺の順に並ぶ(頂点 $C$ なら半直線 $CB$、$CA$、$CE$、$CD$ の順)。ex-rpg-angles と同じ計算を各頂点で行うと、どの頂点でも内角 $108^\circ$ は 2 本の対角線で $36^\circ$ ずつに 3 等分される。たとえば頂点 $C$ では、$\angle BCA=36^\circ$(三角形 $ABC$ の底角)、$\angle DCE=36^\circ$(三角形 $CDE$ は $CD=DE$ の二等辺三角形で頂角 $\angle CDE=108^\circ$)なので、$\angle ACE=108^\circ-36^\circ-36^\circ=36^\circ$ である。
段 2(三角形 $ACD$)。三角形 $ABC$ と三角形 $AED$ は、$AB=AE$、$BC=ED$、その間の角 $\angle ABC=\angle AED=108^\circ$ が等しいので合同であり、$AC=AD$ である。この長さを $d$ とおく。三角形 $ACD$ は頂角 $\angle CAD=36^\circ$ の二等辺三角形なので、底角は
$$
\angle ACD=\angle ADC=\frac{180^\circ-36^\circ}{2}=72^\circ
$$
である。
段 3(交点 $F$ と 2 本の長さ $1$)。段 1 より $\angle ACE=36^\circ$、$\angle ACD=72^\circ$ なので、$CE$ は $\angle ACD$ を 2 等分し、三角形 $ACD$ の辺 $AD$ と点 $F$ で交わる。
正五角形は円に内接するので、4 頂点 $A,B,C,D$ でできる四角形に Ptolemy の定理「円に内接する四角形では、対角線の積は向かい合う辺の積の和に等しい」を使うと、$AC\cdot BD=AB\cdot CD+AD\cdot BC$、すなわち $d^2=1+d$ が出る。これは Ptolemyの定理 の例として扱われている。この記事の証明は、円を使わずに角と相似だけで同じ式を出したものである。後半の主張(対角線が互いを外中比に分けること)は Euclid『原論』第 XIII 巻 命題 8 にある(Hea08c)。
$$
\cos36^\circ=\frac\varphi2=\frac{1+\sqrt5}4,\qquad \cos72^\circ=\frac{\varphi-1}2=\frac{\sqrt5-1}4
$$
である。$\sin18^\circ=\cos72^\circ$ なので、$\sin18^\circ=\dfrac{\sqrt5-1}4$ でもある。
段 1($\cos36^\circ$)。prf-thm-rpg-diagonal の三角形 $AFC$ は $AF=CF=1$、底辺 $AC=\varphi$、底角 $36^\circ$ の二等辺三角形である。頂点 $F$ から底辺 $AC$ に垂線 $FM$ を下ろすと、二等辺三角形なので $M$ は $AC$ の中点で、$AM=\dfrac\varphi2$ である。直角三角形 $AMF$ で
$$
\cos36^\circ=\frac{AM}{AF}=\frac{\varphi/2}{1}=\frac\varphi2
$$
である。
段 2($\cos72^\circ$)。三角形 $ACD$ は $AC=AD=\varphi$、底辺 $CD=1$、底角 $72^\circ$ の二等辺三角形である。$A$ から $CD$ に垂線 $AN$ を下ろすと $N$ は $CD$ の中点で、直角三角形 $ANC$ で
$$
\cos72^\circ=\frac{CN}{AC}=\frac{1/2}{\varphi}=\frac1{2\varphi}=\frac{\varphi-1}2
$$
である($\dfrac1\varphi=\varphi-1$)。
段 3($\sin18^\circ$)。$\sin18^\circ=\cos(90^\circ-18^\circ)=\cos72^\circ$ である。$\square$
2 倍角の公式 $\cos72^\circ=2\cos^2 36^\circ-1$(加法定理から2倍角・半角・3倍角の公式を導く)に cor-rpg-cos の値を入れて確かめる。$\varphi^2=\varphi+1$ を使うと
$$
2\left(\frac\varphi2\right)^2-1=\frac{\varphi^2}{2}-1=\frac{\varphi+1}{2}-1=\frac{\varphi-1}{2}
$$
となり、右辺の $\cos72^\circ$ と一致する。数値では $\cos36^\circ=0.80901\ldots$、$\cos72^\circ=0.30901\ldots$ である。$\cos36^\circ$ を 3 倍角の公式から代数的に求める方法は Chebyshev多項式 の冒頭にある。
原点 $O$ を中心とする半径 $1$ の円(単位円)の上に、$x$ 軸の正の向きから $72^\circ$ ずつ回った 5 点
$$
P_k=(\cos(72k)^\circ,\ \sin(72k)^\circ)\qquad(k=0,1,2,3,4)
$$
をとる。原点のまわりの $72^\circ$ の回転は $P_0\to P_1\to P_2\to P_3\to P_4\to P_0$ と点を入れかえ、長さと角を変えないので、五角形 $P_0P_1P_2P_3P_4$ の 5 辺は等しく、5 つの内角も等しい。つまりこれは正五角形である。したがって、この 5 点を定規とコンパスで作図できれば、正五角形が作図できる。$P_0=(1,0)$ は最初から与えられた点である(定規とコンパスによる作図 の約束では、$O(0,0)$ と $(1,0)$ から出発する)。
次の手順で、正五角形 $P_0P_1P_2P_3P_4$ の頂点がすべて作図できる。
単位円に内接する正五角形の作図。M(−1/2, 0) を中心に B(0, 1) を通る円で G をとり、OG の垂直二等分線 x = cos 72° と単位円の交点が P₁, P₄ になる
方針:手順 2 で作る長さ $OG$ が $2\cos72^\circ$ であることを示し、手順 3 の垂直二等分線が直線 $x=\cos72^\circ$ であることを確かめる。
段 1(手順 1 が作図であること)。$y$ 軸は $O$ を通り $x$ 軸に垂直な直線として、中点 $M$ は垂直二等分線を使って作図できる(定規とコンパスによる作図 の基本の作図)。
段 2($G$ の座標)。円の半径は
$$
MB=\sqrt{\left(0+\frac12\right)^2+(1-0)^2}=\sqrt{\frac14+1}=\frac{\sqrt5}2
$$
である。$x$ 軸の上で $M$ から右へ $\dfrac{\sqrt5}2$ 進んだ点が $G$ なので、
$$
G=\left(-\frac12+\frac{\sqrt5}2,\ 0\right)=\left(\frac{\sqrt5-1}2,\ 0\right)
$$
である。$\dfrac{\sqrt5-1}2=\varphi-1>0$ なので、$G$ は確かに $x$ 軸の正の部分にある。
段 3($P_1$、$P_4$)。$OG$ の垂直二等分線は、$OG$ の中点を通り $x$ 軸に垂直な直線
$$
x=\frac{\sqrt5-1}4
$$
である。cor-rpg-cos によりこれは $x=\cos72^\circ$ である。単位円 $x^2+y^2=1$ の上で $x=\cos72^\circ$ となる点は $(\cos72^\circ,\pm\sin72^\circ)$ の 2 つで、上側が $P_1$、下側が $(\cos(-72^\circ),\sin(-72^\circ))=(\cos288^\circ,\sin288^\circ)=P_4$ である。
段 4($P_2$、$P_3$)。単位円の上の 2 点を結ぶ弦の長さは、その 2 点の中心角を $\theta$($0^\circ\le\theta\le180^\circ$)とすると $2\sin\dfrac\theta2$ であり(ex-rpg-measure と同じ計算)、$\theta$ が大きいほど長い。したがって、単位円の上で $P_1$ からの距離が $P_0P_1$(中心角 $72^\circ$ の弦)に等しい点は、$P_1$ から中心角 $72^\circ$ だけ離れた点、すなわち $P_0$ と $P_2$ の 2 つである。よって手順 4 の円と単位円の交点で $P_0$ でないほうは $P_2$ である。$P_3$ も同じである。$\square$
手順どおりに数を追う。$MB=\dfrac{\sqrt5}2=1.1180\ldots$、$G=(0.6180\ldots,0)$ で、$OG=\varphi-1=\dfrac1\varphi$ である。垂直二等分線は $x=0.3090\ldots$ で、単位円との交点の $y$ 座標は
$$
y^2=1-\left(\frac{\sqrt5-1}4\right)^2=1-\frac{6-2\sqrt5}{16}=\frac{10+2\sqrt5}{16},\qquad y=\pm\frac{\sqrt{10+2\sqrt5}}4=\pm0.9510\ldots
$$
である。$P_1=(0.3090\ldots,0.9510\ldots)$ は $(\cos72^\circ,\sin72^\circ)$ に一致する。5 つの頂点は近似的に $(1,0)$、$(0.3090,0.9511)$、$(-0.8090,0.5878)$、$(-0.8090,-0.5878)$、$(0.3090,-0.9511)$ で、どの隣り合う 2 点の距離も $2\sin36^\circ=1.1755\ldots$ である。
図 2 の線分 $BG$ の長さを求めると、$OG=\varphi-1$ で三角形 $OBG$ は $O$ で直角なので
$$
BG^2=1+(\varphi-1)^2=1+\varphi^2-2\varphi+1=1+(\varphi+1)-2\varphi+1=3-\varphi
$$
である。一方、単位円に内接する正五角形の辺 $2\sin36^\circ$ の 2 乗は、cor-rpg-cos と $\varphi^2=\varphi+1$ により
$$
4\sin^2 36^\circ=4(1-\cos^2 36^\circ)=4-\varphi^2=4-(\varphi+1)=3-\varphi
$$
である。よって $BG$ は正五角形の辺に等しく、手順 3・4 の代わりに、$P_0$ から半径 $BG$ の円で単位円を順に区切っても頂点が得られる。$OG=\dfrac1\varphi$ は単位円に内接する正十角形の辺 $2\sin18^\circ$ に等しいので、この式は「正五角形の辺の 2 乗=正六角形の辺の 2 乗+正十角形の辺の 2 乗」(正六角形の辺は半径 $1$)という、Euclid『原論』第 XIII 巻 命題 10 の関係である(Hea08c)。
長さ $1$ の線分 $AB$ を 1 辺とする正五角形 $ABCDE$ を作図する。thm-rpg-diagonal により、求める正五角形では $AD=BD=\varphi$($D$ は辺 $AB$ の向かいの頂点)、$BC=CD=DE=EA=1$ である。
正五角形の 5 本の対角線を全部引くと星形ができ、その内側に小さな正五角形が現れる(図 3)。この小さな正五角形の辺と対角線は、もとの辺と対角線から引き算だけで求まる。
1 辺 $s$、対角線 $d$ の正五角形の 5 本の対角線は、内側に正五角形をつくる。その辺の長さは $2s-d$、対角線の長さは $d-s$ である。
正五角形の対角線が囲む小さな正五角形。その対角線を引くとさらに小さな正五角形ができ、辺は 1/φ² 倍ずつ小さくなる
方針:1 本の対角線が他の 2 本の対角線で 3 つの部分に分かれることを使い、真ん中の部分の長さを求める。
段 1(1 本の対角線の分かれ方)。正五角形を $ABCDE$ とし、対角線 $AD$ を考える。$AD$ は対角線 $CE$ と点 $F$ で、対角線 $BE$ と点 $H$ で交わる。thm-rpg-diagonal の 2(を $s$ 倍したもの)により $AF=s$、$FD=d-s$ である。$H$ の位置は、頂点の名前を逆向きに付けかえると分かる。五角形 $DCBAE$(頂点を逆順にたどったもの)も同じ正五角形なので、これに thm-rpg-diagonal の 2 を当てはめる。$A,B,C,D,E$ の役を $D,C,B,A,E$ がとるので、「対角線 $AD$ と $CE$ の交点」の役は「対角線 $DA$ と $BE$ の交点」、つまり $H$ がとり、$DH=s$ である。よって $AH=AD-DH=d-s$ である。
段 2(真ん中の部分)。$d<2s$($\varphi<2$)より $AH=d-s< s=AF$ なので、$A$ から順に $H$、$F$ が並ぶ。よって
$$
HF=AF-AH=s-(d-s)=2s-d
$$
である。
段 3(正五角形であること)。まず交点の並び方を確かめる。$B,C,D,E,A$ を $A,B,C,D,E$ と呼びなおすと、対角線 $BE$ が $AD$ の役を、$DA$ が $CE$ の役を、$CA$ が $BE$ の役をとる。$BE$ と $AC$ の交点を $K$ とすると、段 1・2 の $AF=s$、$AH=d-s$ にあたるのは $BH=s$、$BK=d-s$ であり、$B$ から近い順に $K$、$H$ が並ぶ。このように、どの対角線の上にも他の対角線との交点が 2 つずつあり、その間の部分(真ん中の部分)が内側の五角形の辺になる。$AD$ の上では $HF$、$BE$ の上では $KH$ なので、内側の五角形の頂点 $H$ の隣の頂点は、$F$($H$ から見て $D$ の側)と $K$($H$ から見て $B$ の側)である。頂点の名前を付けかえれば(上のように呼びなおすなど)どの対角線も $AD$ と同じ立場になるので、段 1・2 の計算により 5 辺はすべて $2s-d$ である。内角を調べる。頂点 $H$($AD$ と $BE$ の交点)での内側の五角形の角は、$H$ から $F$ の向き($D$ の向き)と $H$ から $K$ の向き($B$ の向き)がつくる角 $\angle DHB$ である。三角形 $ABH$ で、$\angle HAB=\angle DAB=36^\circ+36^\circ=72^\circ$、$\angle HBA=\angle EBA=36^\circ$(prf-thm-rpg-diagonal の段 1:頂点での $36^\circ$ ずつの 3 等分)なので $\angle AHB=180^\circ-72^\circ-36^\circ=72^\circ$ であり、$\angle DHB=180^\circ-72^\circ=108^\circ$ である。ほかの頂点も名前の付けかえで同じ立場になるので、5 つの内角はすべて $108^\circ$ である。よって内側の五角形は正五角形で、辺の長さは $2s-d$ である。
段 4(内側の対角線)。thm-rpg-diagonal により、正五角形の対角線は辺の $\varphi$ 倍なので、内側の対角線は $\varphi(2s-d)$ である。$d=\varphi s$ と $\varphi^2=\varphi+1$ を使うと
$$
\varphi(2s-d)=\varphi(2s-\varphi s)=(2\varphi-\varphi^2)s=(2\varphi-\varphi-1)s=(\varphi-1)s=d-s
$$
である。$\square$
1 辺 $1$ の正五角形($s=1$、$d=\varphi$)では、内側の正五角形の辺は $2-\varphi=0.3819\ldots$、対角線は $\varphi-1=0.6180\ldots$ である。$\varphi^2=\varphi+1$ より $\varphi^2(2-\varphi)=2\varphi^2-\varphi^3=2(\varphi+1)-(2\varphi+1)=1$ なので、$2-\varphi=\dfrac1{\varphi^2}$ である。つまり、対角線を引いて内側の正五角形に移るたびに、大きさは $\dfrac1{\varphi^2}=0.3819\ldots$ 倍になる。内側の対角線と辺の比は $\dfrac{0.6180\ldots}{0.3819\ldots}=1.6180\ldots$ で、もとと同じ $\varphi$ である。
正五角形の対角線と辺の比 $\varphi$ は、整数の比 $\dfrac pq$($p,q$ は正の整数)で表せない。すなわち $\varphi$ は無理数である。
方針:整数の比で書けたとすると、prop-rpg-inner で辺と対角線がともに整数で、もっと小さい正五角形が作れる。これをくり返すと、正の整数がいくらでも小さくなって矛盾する。
段 1(仮定)。$\varphi=\dfrac pq$($p,q$ は正の整数)と書けたとし、そのような書き方のうち $q$ が最小のものをとる。1 辺 $q$ の正五角形を考えると、その対角線は $\varphi q=p$ である。
段 2(小さな正五角形)。prop-rpg-inner により、内側の正五角形の辺は $2q-p$、対角線は $p-q$ で、どちらも整数である。$\dfrac32<\varphi<2$ より $q< p<2q$ なので、$2q-p$ と $p-q$ は正の整数であり、$2q-p< q$ である($p>q$ だから)。
段 3(矛盾)。内側の正五角形も正五角形なので、対角線と辺の比は $\varphi$ であり(thm-rpg-diagonal)、
$$
\varphi=\frac{p-q}{2q-p}
$$
となる。これは分母 $2q-p$ が $q$ より小さい書き方であり、$q$ の最小性に反する。よって $\varphi$ は整数の比で書けない。$\square$
prop-rpg-inner の計算 $(d,s)\mapsto(d-s,\ 2s-d)$ を、$\varphi$ の近似である整数の組に当てはめてみる。$\dfrac{13}{8}=1.625$ から始めると
$$
(13,8)\mapsto(5,3)\mapsto(2,1)\mapsto(1,0)
$$
となり、3 回で辺が $0$ になって止まる。正の整数は無限には小さくなれないので、整数の組ではいつか必ず止まる。本物の正五角形では、内側の正五角形がいつまでも作れる(図 3)ので止まらない。これが prf-thm-rpg-irrational の内容である。
対角線 $d$ と辺 $s$ に整数の割り算と互除法の手順を当てはめる。$\dfrac32<\varphi<2$ より $\dfrac32s< d<2s$ なので($s< d<2s$ から 1 回目の商が $1$、$d>\dfrac32s$ すなわち $s<2(d-s)$ から 2 回目の商も $1$)
$$
d=1\cdot s+(d-s),\qquad s=1\cdot(d-s)+(2s-d)
$$
であり、2 回の割り算で組 $(d,s)$ は $(d-s,\,2s-d)$ に移る。これは内側の正五角形の対角線と辺の組そのものである(prop-rpg-inner)。だから互除法は終わらず、商はいつも $1$ である。これを連分数で書くと
$$
\varphi=1+\cfrac{1}{1+\cfrac{1}{1+\cfrac{1}{1+\cdots}}}=[1;1,1,1,\ldots]
$$
であり、途中で打ち切った値 $1,\dfrac21,\dfrac32,\dfrac53,\dfrac85,\dfrac{13}8,\ldots$ が隣り合う Fibonacci 数の比になる(ex-rpg-fibonacci)。
大学の代数では、$\varphi$ を含む数の集まり $\mathbb{Q}(\sqrt5)=\{a+b\sqrt5\mid a,b\in\mathbb{Q}\}$ を考える。$\varphi^2=\varphi+1$ をくり返し使うと、Fibonacci 数 $F_n$($F_0=0,F_1=1,F_{n+2}=F_{n+1}+F_n$)を使って
$$
\varphi^n=F_n\varphi+F_{n-1}\qquad(n\ge1)
$$
と書ける(たとえば $\varphi^3=2\varphi+1$。ex-rpg-golden-numbers の (3))。内側の正五角形に移るたびに大きさが $\dfrac1{\varphi^2}$ 倍になることは、この等式の世界の出来事である。$\varphi$ の連分数の商がすべて $1$ であることから、$\varphi$ は有理数で最も近似しにくい無理数であることが分かる。これらは 黄金比 の記事で証明されている。
| 外した仮定 | 崩れる主張 | ボックス |
|---|---|---|
| 5 つの内角が等しい(辺だけ等しい) | 対角線はすべて辺の $\varphi$ 倍 | ex-rpg-house |
| 五角形である(正六角形にする) | 対角線と辺の比は整数の比にならない | ex-rpg-hexagon |
5 点 $(0,0)$、$(1,0)$、$(1,1)$、$\left(\dfrac12,1+\dfrac{\sqrt3}2\right)$、$(0,1)$ を順に結ぶ五角形(正方形の上に正三角形をのせた形)を考える。5 辺の長さはすべて $1$ である(上の 2 辺は正三角形の辺)。対角線の長さは
$$
1\ \bigl((1,1)\text{ と }(0,1)\bigr),\qquad \sqrt2\ \bigl((0,0)\text{ と }(1,1)\text{ など}\bigr),\qquad \sqrt{2+\sqrt3}=1.9318\ldots\ \bigl((0,0)\text{ と頂点など}\bigr)
$$
の 3 種類で(5 本の対角線は、長さ $1$ が 1 本、$\sqrt2$ が 2 本、$\sqrt{2+\sqrt3}$ が 2 本)、どれも $\varphi$ ではない。内角は $90^\circ,90^\circ,150^\circ,60^\circ,150^\circ$ で等しくない。
満たす性質:5 辺が等しい凸五角形である。満たさない性質:5 つの内角が等しい。破る含意:「5 辺が等しい五角形の対角線は辺の $\varphi$ 倍」。thm-rpg-diagonal の証明は、内角がすべて $108^\circ$ であることを段 1 で使っている。
5 辺がすべて 1 の五角形。対角線の長さは 1, √2, √(2+√3) で、φ にならない
1 辺 $1$ の正六角形は、中心と各辺で 6 つの正三角形に分かれる。1 つおいた頂点を結ぶ対角線は $\sqrt3$、向かい合う頂点を結ぶ対角線は $2$ である。$\sqrt3$ は無理数だが、$2:1$ は整数の比である。
満たす性質:正多角形である。満たさない性質:正五角形である。破る含意:「正多角形の対角線と辺の比は整数の比にならない」。正六角形では、長い対角線と辺に互除法を当てはめると $2=2\cdot1+0$ で 1 回で終わる。互除法が終わらないことは正五角形の形(内側に相似な図形が現れること)に固有の性質である。
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