滑らかな微分多様体上の微分形式について基本事項といくらかの応用までを解説する。
ここでは滑らかな微分多様体上の微分形式について基本事項といくらかの応用までを解説する。
微分形式の起源は積分のインテグラルの記号を取り去った部分であるが、現在では微分幾何のあらゆる分野に計算技術として登場するため、微分形式を考えるモチベーションを簡潔に述べることはできない。
ここでは微分形式を定義するために必要な外積代数の最小限の復習を行う。
基本的な概念は適宜 速習「線形空間論」の反対称テンソル積空間を参照されたい。
$V$ を $\mathbb{R}$ 上の $n$ 次元ベクトル空間、$V^\ast$ を双対空間、$\Lambda^p(V^\ast)$ を $V^\ast$ の $p$ 階反対称テンソル積空間とし、$\Lambda(V^\ast)=\oplus_{p=0}^n\Lambda^p(V^\ast)$ とする。
$\Lambda(V^\ast)$ に外積 $\wedge$ を定義する方法が2通りあり、ここではA方式とB方式とする。
$\omega\in\Lambda^p(V^\ast),\ \eta\in\Lambda^q(V^\ast)$ に対して、$\omega\wedge\eta\in\Lambda^{p+q}(V^\ast)$ を
A方式
$$(\omega\wedge\eta)(X_1,\cdots,X_{p+q}):=\frac{1}{p!q!}\sum_{\sigma\in \mathfrak{S}_{p+q}}{\rm sgn}(\sigma)\omega(X_{\sigma(1)},\cdots,X_{\sigma(p)})\eta(X_{\sigma(p+1)},\cdots,X_{\sigma(p+q)})\ \ \ \ \ \ \cdots(\ast A)$$
B方式
$$(\omega\wedge\eta)(X_1,\cdots,X_{p+q}):=\frac{1}{(p+q)!}\sum_{\sigma\in \mathfrak{S}_{p+q}}{\rm sgn}(\sigma)\omega(X_{\sigma(1)},\cdots,X_{\sigma(p)})\eta(X_{\sigma(p+1)},\cdots,X_{\sigma(p+q)})\ \ \ \ \ \ \cdots(\ast B)$$
と定義する。
ただし、$X_i\in V, 1\le i\le p+q$ である。
例えば、$\alpha,\beta\in\Lambda^1(V^\ast)$ に対しては、A方式では $\alpha\wedge\beta=\alpha\otimes\beta-\beta\otimes\alpha$ であり、B方式では $\alpha\wedge\beta=\frac{1}{2}(\alpha\otimes\beta-\beta\otimes\alpha)$ である。
このとき速習「線形空間論」#命題9.4(外積の結合法則)|外積には結合法則が成り立ち、$\Lambda(V^\ast)$ は環になる。
これは外積代数と呼ばれる。
また交換法則 $\omega\wedge\eta=(-1)^{pq}\eta\wedge\omega$ が成り立つ。
この記事を通して、$p$ 個の添え字を持つ量 $\omega_{i_1\cdots i_p}$ に対して、反対称化子を$\omega_{[i_1\cdots i_p]}=\frac{1}{p!}\sum_{\sigma\in\mathfrak{S}_p}{\rm sgn}(\sigma)\omega_{i_{\sigma(1)}\cdots i_{\sigma(p)}}$ とする。$\omega_{i_1\cdots i_p}$ が添え字の入れ替えに対して完全反対称であるとき、$\omega_{[i_1\cdots i_p]}=\omega_{i_1\cdots i_p}$ が成り立つ。
添え字の入れ替えに対して完全反対称な量 $A^{i_1\cdots i_p}$ と任意の量 $B_{i_1\cdots i_p}$ に対して、
$$\sum_{i_1\cdots i_p}A^{i_1\cdots i_p}B_{i_1\cdots i_p}=\sum_{i_1\cdots i_p}A^{i_1\cdots i_p}B_{[i_1\cdots i_p]}$$
が成り立つことが簡単に確かめられる。
$V^\ast$ の基底を $\{\theta^i\}_{1\le i\le n}$ とすると、$\Lambda^p(V^\ast)$ の基底は $\theta^{i_1}\wedge\cdots\wedge\theta^{i_p},\ (1\le i_1<\cdots< i_p\le n)$ 達であることが証明できる。
従って、$\dim_\mathbb{R}\Lambda^p(V^\ast)={}_nC_p$ であり、$\dim_\mathbb{R}\Lambda(V^\ast)=\sum_{p=0}^n{}_nC_p=2^n$ である。
任意の $\omega\in\Lambda^p(V^\ast)$ は
$$\omega=\frac{1}{p!}\sum_{i_1,\cdots,i_p}\omega_{i_1\cdots i_p}\theta^{i_1}\wedge\cdots\wedge\theta^{i_p},\ (\omega_{[i_1\cdots i_p]}=\omega_{i_1\cdots i_p})\\
=\sum_{i_1<\cdots< i_p}\omega_{i_1\cdots i_p}\theta^{i_1}\wedge\cdots\wedge\theta^{i_p}$$
と表され、これらは頻繁に用いられる標準的な成分表示である。
$\alpha^i\in V^\ast,\ v_i\in V\ (1\le i\le k)$ に対して、外積の定義より、
$$A方式\ \ \ \alpha^1\wedge\cdots\wedge\alpha^k(v_1,\cdots,v_k)=\det(\alpha^i(v_j))\\
B方式\ \ \ \alpha^1\wedge\cdots\wedge\alpha^k(v_1,\cdots,v_k)=\frac{1}{k!}\det(\alpha^i(v_j))$$
となる。
従って、$V$ の基底を $\{e_i\},\ (1\le i\le n)$ とし、双対基底を $\{\theta^i\},\ (1\le i\le n)$ とするとき、
$$A方式\ \ \ \theta^{i_1}\wedge\cdots\wedge\theta^{i_k}(e_{j_1},\cdots,e_{j_k})=k!\delta^{i_1}_{\ [j_1}\cdots\delta^{i_k}_{\ j_k]}\\
B方式\ \ \ \theta^{i_1}\wedge\cdots\wedge\theta^{i_k}(e_{j_1},\cdots,e_{j_k})=\delta^{i_1}_{\ [j_1}\cdots\delta^{i_k}_{\ j_k]}$$
となる。
滑らかな微分多様体 $M$ の各点 $x\in M$ に対して,$T^\ast_x(M)$ の $p$ 階反対称テンソル積空間 $\bigwedge^p T^\ast_x(M)$ の元を対応させることで $\bigwedge^p T^\ast_x(M)$ に値を持つ関数が定義され,これを ''$p$-形式''または ''$p$ 次微分形式''と呼ぶ。
$p$ 次微分形式が $(0,p)$-テンソル場(テンソル解析)として滑らかなとき,$C^\infty$ 級 $p$-形式といい、$C^\infty(M)$-加群をなす。
これを $\Omega^p(M)$ と書く。
また $\Omega(M)=\oplus_{p=0}^n\Omega^p(M)$ とする。
$\Omega(M)$ にはA方式、B方式で外積が定義される。
定義の仕方は上と形式的には全く同様である。
ただし、$(\ast A),(\ast B)$ における $X_i$ 達はベクトル場とする。
この外積(あるいは外積代数と交代形式との同型の作り方)をどちらの方式で定義するかによって以下の微分形式に対する色々な演算の公式の係数が変わってくる。
この方式を統一して計算しないと色々な結果が合わなくなってしまうため、しばしばデリケートかつ面倒な問題である。
外微分の定義は、外積をA方式、B方式どちらで定めるかに依存する(成分表示は依存しない)。
$\mathbb{R}$-線形写像 $d\colon\Omega^p(M)\ni\omega\mapsto d\omega\in\Omega^{p+1}(M)$ をA方式では
$$d\omega(X_1,\cdots,X_{p+1}):=\sum_i(-1)^{i-1}X_i(\omega(X_1,\cdots,\check{X_i},\cdots,X_{p+1})))\\+\sum_{i< j}(-1)^{i+j}\omega([X_i,X_j],X_1,\cdots,\check{X_i},\cdots,\check{X_j},\cdots,X_{p+1}))$$
B方式では、
$$
\begin{aligned}
d\omega(X_1,\cdots,X_{p+1}):=\frac{1}{p+1}\sum_i(-1)^{i-1}X_i(\omega(X_1,\cdots,\check{X_i},\cdots,X_{p+1})))\\+\frac{1}{p+1}\sum_{i< j}(-1)^{i+j}\omega([X_i,X_j],X_1,\cdots,\check{X_i},\cdots,\check{X_j},\cdots,X_{p+1}))
\end{aligned}
$$
で定義する。
この定義により定まる $d\omega$ が $(p+1)$-形式になっていることをみるには、$d\omega$ が 交代かつ $C^\infty(M)$-多重線形であること、すなわち、
$$
\begin{aligned}
d\omega(X_1,\cdots,X_i,\cdots,X_j,\cdots,X_{p+1})=-d\omega(X_1,\cdots,X_j,\cdots,X_i,\cdots,X_{p+1})\\
d\omega(fX_1,\cdots,X_{p+1})=fd\omega(X_1,\cdots,X_{p+1}),\ f\in C^\infty(M)
\end{aligned}
$$
を満たすことを確かめればよい(簡単に確かめられる)。
ここで定義式の二つ目の $\sum_{i< j}$ の項がなければ $C^\infty(M)$-線形とならないことに注意すべきである。
さらに $\Omega(M)=\oplus\Omega^p(M)$ 全体へは各 $p$ に関して $\mathbb{R}$-線形に拡張する。
外微分のチャートによる局所表示は次のようになる。
$\omega=\frac{1}{p!}\sum\omega_{i_1\cdots i_p}dx^{i_1}\wedge\cdots\wedge dx^{i_p}$ に対して、
$$
\begin{aligned}
d\omega=\frac{1}{p!}\sum_{i_1,\cdots,i_p}\left(\sum_{i_0}\partial_{i_0}\omega_{i_1\cdots i_p}dx^{i_0}\right)\wedge dx^{i_1}\wedge\cdots\wedge dx^{i_p}
=\frac{1}{p!}\sum_{i_0,\cdots,i_p}\partial_{[i_0}\omega_{i_1\cdots i_p]}dx^{i_0}\wedge\cdots\wedge dx^{i_p}\\
=\frac{1}{(p+1)!}\sum_{i_0,\cdots,i_p}\left(\sum_{k=0}^p(-1)^k\partial_{i_k}\omega_{i_0\cdots \check{i_k}\cdots i_p}\right)dx^{i_0}\wedge\cdots\wedge dx^{i_p}
\end{aligned}
$$
となる。
実際、A方式のとき、
$$\frac{1}{(p+1)!}\sum_{i_0,\cdots,i_p}\left(\sum_{k=0}^p(-1)^k\partial_{i_k}\omega_{i_0\cdots \check{i_k}\cdots i_p}\right)dx^{i_0}\wedge\cdots\wedge dx^{i_p}(\partial_{j_0},\cdots,\partial_{j_p})=\sum_{k=0}^p(-1)^k\partial_{j_k}\omega_{j_0\cdots \check{j_k}\cdots j_p}$$
であり、最初に与えた外微分の定義式で、$[\partial_{j_n},\partial_{j_m}]=0$ に気を付けて、$d\omega(\partial_{j_0},\cdots,\partial_{j_p})$ を計算すれば一致していることが分かる。
B方式でも同様であり、局所的な表示はA,Bの方式の選択によらない。
$\omega\in\Omega^p(M),\ \eta\in\Omega^q(M)$ に対して、外微分のLeibniz則
$$d(\omega\wedge\eta)=d\omega\wedge\eta+(-1)^p\omega\wedge d\eta$$
が成り立つ。
これは元の定義から示すこともできるし、局所表示を使えば容易にわかる。
外微分と引き戻しと可換である。
任意の $p$-形式 $\omega$ に対して$d^2\omega=0$ である。このことも局所表示を使えば簡単に示すことができる。
リーマン多様体 $(M,g)$ において、リーマン接続 $\nabla$ を使って外微分を表示することもできる。
接続の係数を $\Gamma^i_{jk}$ とすると、対称接続の条件 $\Gamma^i_{jk}=\Gamma^i_{kj}$ より、$\nabla_{[i_0}\omega_{i_1\cdots i_p]}=\partial_{[i_0}\omega_{i_1\cdots i_p]}$ であるから、
$$
\begin{aligned}
d\omega=\frac{1}{p!}\sum_{i_0,\cdots,i_p}\nabla_{[i_0}\omega_{i_1\cdots i_p]}dx^{i_0}\wedge\cdots\wedge dx^{i_p}
=\frac{1}{(p+1)!}\sum_{i_0,\cdots,i_p}(p+1)\nabla_{[i_0}\omega_{i_1\cdots i_p]}dx^{i_0}\wedge\cdots\wedge dx^{i_p}\\
=\frac{1}{(p+1)!}\sum_{i_0,\cdots,i_p}(p+1)\nabla_{i_0}\omega_{i_1\cdots i_p}dx^{i_0}\wedge\cdots\wedge dx^{i_p}
\end{aligned}
$$
などとなる。
$\omega\in\Omega^p(M)$ で $d\omega=0$ となるものを''閉形式''(closed p-form)という。
また $\eta\in\Omega^{p-1}(M)$ に対して、$d\eta\in\Omega^p(M)$ を''完全形式''(exact p-form)という。
チャート表示と座標に依存しない公式による計算例を与える。
$f\in C^\infty(M)$ に対して、$df=\sum_{i=1}^n\frac{\partial f}{\partial x^i}dx^i$
$\omega=xyz dx\wedge dy+ydx$ に対して、$d\omega=xydx\wedge dy\wedge dz-dx\wedge dy$
$\eta\in\Omega^1(M)$ と単位ベクトル場 $\xi$ が $d\eta(\xi,\cdot)=0,\ \eta(\xi)=1$ を満たしているとする(この状況は例えば接触多様体では常に発生する)。
さらに、$\{\xi,e_1,e_2\}$ をフレームとし、$[e_1,e_2]=\xi$ を満たすとする。また $\{\eta,\theta^1,\theta^2\}$ をコフレームとする。
このとき、$d\eta$ を求めてみよう。
A方式では、$d\eta(e_1,e_2)=e_1(\eta(e_2))-e_2(\eta(e_1))-\eta([e_1,e_2])=-1$ であるから、$d\eta=\theta^2\wedge\theta^1$ である。
B方式でも結果は同じである。
$\mathbb{R}^3$ のベクトル解析における div,grad,rot との関係を述べる。
以下では1-形式をベクトル場と同一視する(一般のリーマン多様体上ではMusical isomorphism(テンソル解析)により同一視する)。
$f\in C^\infty(M)$ に対して、
$df=\frac{\partial f}{\partial x}dx+\frac{\partial f}{\partial y}dy+\frac{\partial f}{\partial z}dz$
であるから、$d:\Omega^0(\mathbb{R}^3)\rightarrow\Omega^1(\mathbb{R}^3)$ は grad を与える。
$\omega=Adx+Bdy+Cdz$ に対して、
$$
d\omega=(C_y-B_z)dy\wedge dz+(C_x-A_z)dx\wedge dz+(B_x-A_y)dx\wedge dy\\
\ast d\omega=(C_y-B_z)dx+(A_z-C_x)dy+(B_x-A_y)dz
$$
となるから($\ast$ は Hodge star である)、微分形式
$\Omega^1(\mathbb{R}^3)\xrightarrow{d}\Omega^2(\mathbb{R}^3)\xrightarrow{\ast}\Omega^1(\mathbb{R}^3)$
は rot を与える。
$\omega=Adx+Bdy+Cdz$ に対して、
$$
\ast\omega=Ady\wedge dz+Bdz\wedge dx+Cdx\wedge dy\\
d\ast\omega=\left(\frac{\partial A}{\partial x}+\frac{\partial B}{\partial y}+\frac{\partial C}{\partial z}\right)dx\wedge dy\wedge dz\\
\ast d\ast\omega=\left(\frac{\partial A}{\partial x}+\frac{\partial B}{\partial y}+\frac{\partial C}{\partial z}\right)
$$
であるから、
$\Omega^1(\mathbb{R}^3)\xrightarrow{\ast}\Omega^2(\mathbb{R}^3)\xrightarrow{d}\Omega^3(\mathbb{R}^3)\xrightarrow{\ast}\Omega^0(\mathbb{R}^3)$ が div を与える。
外微分の性質 $d^2=0$ より、完全形式 $\omega=d\eta$ は $d\omega=0$ となるから閉形式である。
では逆に、「閉形式は完全形式か?」という問がありえる。
これに答えるのがPoincaré の補題とそれをより一般化した de Rham コホモロジーである。
$\mathbb{R}^n$ 上の閉形式は完全形式である。
より一般に可縮(可縮空間)な微分多様体に対しても成り立つ。
$\mathbb{R}^2$ において $\omega_1=ydx+xdy$ は閉形式であり、$\eta_1=xy$ があり、$\omega_1=d\eta_1$ となる。
一方
$$
\omega_2=\frac{-y}{x^2+y^2}dx+\frac{x}{x^2+y^2}dy
$$
も閉形式であるが、原点で定義されておらず、従って $\Omega^1(\mathbb{R}^2)$ の元ではない。
従って完全形式となることは保証されない。
ただし、$\mathbb{R}^2$ の可縮な近傍に制限して考えれば、その上では完全形式になる。
実際、$\mathbb{R}^2$ から実軸の非正の部分を除いた領域における関数 $\eta_2=\arctan y/x$ に対して、$\omega_2=d\eta_2$ である。
Stokes の定理は微分形式の積分に関する最も基本的な定理である。
また de Rham コホモロジーにおいても重要な役割を果たす。
$M$ を向きつけ可能な滑らかな $n$ 次元多様体とする。
$M$ 上のコンパクトな台を持つ $n-1$ 形式を $\omega$ とするとき、
$$
\int_Md\omega=\int_{\partial M}\omega
$$
が成り立つ。
ここで、$\partial M$ には $M$ から誘導された向きを入れるものとする。
特に、$M$ が閉多様体のときは、
$$
\int_Md\omega=0
$$
である。
(1) $M=[a,b]\subset\mathbb{R}$ に対しては、微積分学の基本定理となる。
すなわち、$f(x)\in\Omega^0(\mathbb{R})$ に対して、
$$
\int_Mdf=\int^b_a\frac{df}{dx}dx=f(b)-f(a)=\int_{\partial M}f
$$
となる。
(2) $\mathbb{R}^3$ におけるベクトル解析で知られる Stokes の公式が再現される。
$\mathbb{R}^3$ の有界で滑らかな曲面を $S$、その境界を $\partial S$ とする。
滑らかなベクトル場を $\overrightarrow{X}=(a,b,c)$ とするとき、Stokes の公式は
$$
\int_S{\rm rot}\overrightarrow{X}\cdot \overrightarrow{n} dS=\int_{\partial S}\overrightarrow{X}\cdot d\overrightarrow{r}\\
\int_S\left(b_z-c_y\right)dy\wedge dz+\left(a_z-c_x\right)dz\wedge dx+\left(b_x-a_y\right)dx\wedge dy
=\int_{\partial S}adx+bdy+cdz
$$
であるが、これは $\omega=adx+bdy+cdz\in\Omega^1(\mathbb{R}^3)$ と $S$ に対して上の Stokes の定理を適用したものである。
(3) $\mathbb{R}^3$ におけるベクトル解析で知られるガウスの発散定理が再現される。
$\mathbb{R}^3$ 中の有界な開集合を $V$ とし、その境界 $\partial V$ は滑らかとする。
ベクトル場 $\overrightarrow{X}=(a,b,c)$ に対して、ガウスの発散定理は
$$
\int_V{\rm div}Xdxdydz=\int_{\partial V}\overrightarrow{X}\cdot\overrightarrow{n}dS\\
\int_V(a_x+b_y+c_z)dxdydz=\int_{\partial V}ady\wedge dz+bdz\wedge dx+cdx\wedge dy
$$
である。
これは $\omega=ady\wedge dz+bdz\wedge dx+cdx\wedge dy\in\Omega^1(\mathbb{R}^3)$ に対して、Stokes の定理を適用したものである。
多様体の"穴"であるホモロジーを微分形式により検出することができる。
これは、de Rhamコホロモジー(de Rham cohomology)を考えることで可能になる。
Poincaréの補題によれば、可縮(可縮空間)な領域では閉形式は必ず完全形式となる。
しかし"穴"のある領域ではこのことが障害される。
従って、閉形式全体から完全形式となっているものを取り除けば、残りの完全形式ではない閉形式がその領域の"穴"の存在を反映していると考えられる。
完全形式を取り除く操作はコホモロジーを考えることに対応している。
$M$ を $n$ 次元の滑らかな多様体とする。
外微分が $d^2=0$ となることから、次のコチェイン複体がある。
$$
0\rightarrow \Omega^1(M)\xrightarrow{d}\Omega^2(M)\xrightarrow{d}\cdots\xrightarrow{d}\Omega^n(M)\xrightarrow{d}0
$$
これをde Rham複体(de Rham complex)という。
de Rham複体に関する $p$ 次のコホモロジー群 $H^p_{DR}(M)$ を $p$ 次de Rhamコホモロジー群という。
すなわち、
$$
H^p_{DR}(M):=\frac{\ker(d:\Omega^p(M)\rightarrow\Omega^{p+1}(M))}{{\rm Im}(d:\Omega^{p-1}(M)\rightarrow\Omega^{p}(M))}
$$
である。
また 閉 $p$-形式 $\omega$ が代表する $H^p_{DR}(M)$ の元 $[\omega]$ を $\omega$ が代表する de Rham コホモロジー類という。
さらに
$$
H^*_{DR}(M):=\bigoplus_{p=0}^nH^p_{DR}(M)
$$
をMの de Rham コホモロジー群という。
さらに、de Rham コホモロジー群には微分形式の外積から自然に積が定義され環となる。
すなわち、$[\omega]\in H^p_{DR}(M),\ [\eta]\in H^q_{DR}(M)$ に対して、
$(\omega+d\tau_1)\wedge(\eta+d\tau_2)=\omega\wedge\tau+d((-1)^p\omega\wedge\tau_2+\tau_1\wedge\eta+\tau_1\wedge d\tau_2)$
となることから、$[\omega\wedge\eta]\in H^{p+q}_{DR}(M)$
が定義される。
この積構造の入った $H^*_{DR}(M)$ を ''de Rham コホモロジー環''という。
$$$$
de Rham 複体 $(\Omega^k(M),d)$ と $C^\infty$ 特異コチェイン複体 $(S^k_\infty(M),\delta)$ との間に関係がつく。
$\omega\in\Omega^k(M)$ と $C^\infty$ 特異単体 $\sigma:\Delta^k\rightarrow M$ に対して、写像
$$
I(\omega)(\sigma):=\int_{\Delta^k}\sigma^\ast\omega
$$
を定義しこれを線形に拡張して $I:\Omega^\ast(M)\rightarrow S^\ast_\infty(M)$ を定義する。
Stokes の定理のおかげでこの $I:\Omega^\ast(M)\rightarrow S^\ast_\infty(M)$ はコチェイン写像である。
実際、$k$-形式 $\omega$ と特異 $(k+1)$ チェイン $c$ に対して、
$$
I(d\omega)(c)=\int_cd\omega=\int_{\partial c}\omega=I(\omega)(\partial c)
$$
であるから、$I\circ d=\delta\circ I$ となる。
従ってコホモロジーの準同型写像 $I:H^\ast_{DR}(M)\rightarrow H^\ast(M;\mathbb{R})$ が定まる。
実はこれが同型である主張が de Rham の定理である。
$M$ を滑らかな多様体とする。
$H^\ast(M;\mathbb{R})$ を実係数の(特異)コホモロジー環とするとき、環同型 $H^\ast_{DR}(M)\simeq H^\ast(M;\mathbb{R})$ が成り立つ。
ここで、コホモロジー環 $H^\ast(M;\mathbb{R})$ はコホモロジー群にカップ積で積構造を入れたものである。
de Rham の定理の特徴は、de Rham コホモロジーは微分形式で定義されているため、多様体の微分構造に依存しているように思えるが、実は位相空間としての構造のみによって定まってしまうことを主張していることである。
$p$-形式にベクトル場を一つ食べさせておいて、残りの $p-1$ 個に関する交代形式と見なせば、$(p-1)$-形式が得られる。
すなわち、ベクトル場 $X$ に対して、''内部積(作用素)''(interior product) $\iota_X:\Omega^p(M)\rightarrow\Omega^{p-1}(M)$ を
$$
A方式 \ \ \ (\iota_X\omega)(X_1,\cdots,X_{p-1})\colon=\omega(X,X_1,\cdots,X_{p-1})
$$
$$
B方式 \ \ \ (\iota_X\omega)(X_1,\cdots,X_{p-1})\colon=p\omega(X,X_1,\cdots,X_{p-1})
$$
と定義する。
ただし、$f\in\Omega^0(M)$ に対しては、$\iota_Xf=0$ と定義する。
チャートによる局所表示は、A、B方式とも同じで、$\omega=\frac{1}{p!}\sum\omega_{i_1\cdots i_p}dx^{i_1}\wedge\cdots\wedge dx^{i_p}$ に対して、
$$\iota_X\omega=\frac{1}{(p-1)!}\sum_{i_1,\cdots,i_{p-1}}\left(\sum_kX^k\omega_{ki_1\cdots i_{p-1}}\right)dx^{i_1}\wedge\cdots\wedge dx^{i_{p-1}}$$
である。
また内部積は外微分と同じLeibniz則
$$\iota_X(\omega\wedge\eta)=(\iota_X\omega)\wedge\eta+(-1)^p\omega\wedge(\iota_X\eta),\ \omega\in\Omega^p(M),\eta\in\Omega^q(M)$$
を満たす。
内部積の記号は $\iota$(イオタ) 以外にも $\lrcorner$(コーナー) を使い、$X\lrcorner\omega$ と書くこともある。
微分形式に対するLie微分は $(0,p)$-テンソル場に対するLie微分(テンソル解析)である。
すなわち、$\omega\in \Omega^p(M)$ とベクトル場 $X,\ X_i,\ (1\le i\le p)$ に対して、
$$(\mathcal{L}_X\omega)(X_1,\cdots,X_p)=X(\omega(X_1,\cdots,X_p))-\sum_{i=1}^p\omega(X_1,\cdots,[X,X_i],\cdots,X_p)$$
である。
一般的な $(0,p)$-テンソル場と違い、微分形式に対しては、外微分と内部積を用いたLie微分の公式
$$\mathcal{L}_X\omega=d\iota_X\omega+\iota_Xd\omega$$
が成り立つ。
これはCartanの公式と呼ばれ微分形式の議論においては大変有用である。
この公式から外微分とLie微分は可換であることがわかる。
またこのことは外微分と引き戻しが可換であることからもわかる。
Lie微分は通常のLeibniz則
$$\mathcal{L}_X(\omega\wedge\eta)=(\mathcal{L}_X\omega)\wedge\eta+\omega\wedge(\mathcal{L}_X\eta)$$
が成り立つ。
リーマン多様体 $(M,g)$ に対して、$\Lambda(T^\ast_pM)$ には内積が定義される。
この内積はA,B方式に対応した2種類とさらに外積代数の内積の合計3種類あり、状況に応じて使い分ける必要がある。
はじめに外積代数の標準的な内積を定義する。
これはA,B方式の選び方に関係ない。
$T^\ast_p(M)$ に定義される内積を $g^\ast$ で表す。
チャートに関する成分表示では、$\alpha,\ \beta\in\Lambda^1(T^\ast_pM)$ に対して、$g^\ast(\alpha,\beta)=g^{ij}\alpha_i\beta_j$ である。
このとき $\alpha^1\wedge\cdots\wedge\alpha^p,\ \beta^1\wedge\cdots\wedge\beta^p\in\Lambda^p(T^\ast_pM)$ に対して、
$$\langle \alpha^1\wedge\cdots\wedge\alpha^p,\beta^1\wedge\cdots\wedge\beta^p\rangle_s:=\det(g^\ast(\alpha^i,\beta^j)_{1\le i,j\le p})$$
と定義する。
またこれを $\mathbb{R}$-線形に拡張することで $\Lambda^p(T^\ast_pM)$ の内積とする。
さらに $\omega\in\Lambda^p(T^\ast_pM),\eta\in\Lambda^q(T^\ast_pM),p\ne q$ に対して、$\langle\omega,\eta\rangle_s=0$ とし、$\mathbb{R}$-線形に拡張することで $\Lambda(T^\ast_pM)$ 全体の内積を定義する。
$\eta=\frac{1}{p!}\sum\eta_{i_1\cdots i_p}dx^{i_1}\wedge\cdots\wedge dx^{i_p},\ \omega=\frac{1}{p!}\sum\omega_{i_1\cdots i_p}dx^{i_1}\wedge\cdots\wedge dx^{i_p}$ に対して、
$$
\begin{aligned}
\langle\eta,\omega\rangle_s
=\frac{1}{(p!)^2}\sum\eta_{i_1\cdots i_p}\omega_{j_1\cdots j_p}\langle dx^{i_1}\wedge\cdots\wedge dx^{i_p},dx^{j_1}\wedge\cdots\wedge dx^{j_p}\rangle_s
\\=\frac{1}{(p!)^2}\sum\eta_{i_1\cdots i_p}\omega_{j_1\cdots j_p}g^{i_1\alpha_1}\cdots g^{i_p\alpha_p}\epsilon^{j_1\cdots j_p}_{\alpha_1\cdots\alpha_p}
\\=\frac{1}{p!}\eta_{i_1\cdots i_p}\omega^{i_1\cdots i_p}
\end{aligned}
$$
である。
ただし、$\epsilon^{j_1\cdots j_p}_{\alpha_1\cdots\alpha_p}:=p!\delta^{j_1}_{[\alpha_1}\cdots \delta^{j_p}_{\alpha_p]}$ は $\{j_1,\cdots, j_p\}$ と $\{\alpha_1,\cdots,\alpha_p\}$ らが一つでも違う場合は0を、偶置換のときは $+1$ を、奇置換のときは $-1$ を返す。
$(0,p)$-テンソル場全体にも内積が定義される。
すなわち、$p$ 階共変テンソル場 $\alpha^1\otimes\cdots\otimes\alpha^p,\ \beta^1\otimes\cdots\otimes\beta^p$ に対して、
$$\langle \alpha^1\otimes\cdots\otimes\alpha^p,\ \beta^1\otimes\cdots\otimes\beta^p\rangle:=g^\ast(\alpha^1,\beta^1)\cdots g^\ast(\alpha^p,\beta^p)$$
である。
この内積から $\Lambda(T^\ast_pM)$ に内積がA,B方式の選び方に依存して誘導される。
A方式のとき、
$\alpha^1\wedge\cdots\wedge\alpha^p=\sum_{\sigma\in\mathfrak{S}_p}{\rm sgn}(\sigma)\alpha^{\sigma(1)}\otimes\cdots\otimes\alpha^{\sigma(p)}$
であるから、
$$
\begin{aligned}
\langle\alpha^1\wedge\cdots\wedge\alpha^p,\beta^1\wedge\cdots\wedge\beta^p\rangle_A:=\sum_{\sigma,\tau\in\mathfrak{S}_p}{\rm sgn}(\sigma\tau)\langle\alpha^{\sigma(1)}\otimes\cdots\otimes\alpha^{\sigma(p)},\beta^{\sigma(1)}\otimes\cdots\otimes\beta^{\sigma(p)}\rangle\\
=k!\det(g^\ast(\alpha^i,\beta^j)_{1\le i,j\le p})=k!\langle\alpha^1\wedge\cdots\wedge\alpha^p,\beta^1\wedge\cdots\wedge\beta^p\rangle_s
\end{aligned}
$$
であり、B方式のときは、$\alpha^1\wedge\cdots\wedge\alpha^p=\frac{1}{k!}\sum_{\sigma\in\mathfrak{S}_p}{\rm sgn}(\sigma)\alpha^{\sigma(1)}\otimes\cdots\otimes\alpha^{\sigma(p)}$
であるから、同様に
$$\langle\alpha^1\wedge\cdots\wedge\alpha^p,\beta^1\wedge\cdots\wedge\beta^p\rangle_B:=\frac{1}{k!}\langle\alpha^1\wedge\cdots\wedge\alpha^p,\beta^1\wedge\cdots\wedge\beta^p\rangle_s$$
となる。
リーマン計量 $g$ は正定値であるから、これらの3つの内積も正定値である。
$||\alpha^1\wedge\cdots\wedge\alpha^p||_s^2=\langle\alpha^1\wedge\cdots\wedge\alpha^p,\alpha^1\wedge\cdots\wedge\alpha^p\rangle_s$ と定義し、ノルムは $||\alpha^1\wedge\cdots\wedge\alpha^p||_s=\sqrt{||\alpha^1\wedge\cdots\wedge\alpha^p||_s^2}$ と定義する。
A,Bについても同様である。
微分形式のみが登場する議論の場合は、内積 $\langle\ ,\ \rangle_s$ を使えば良いが、微分形式以外のテンソル場も登場することはしばしばある。
この場合はテンソル場に対する内積を統一的に使う方が混乱が無いから、$\langle\ ,\ \rangle_A$ または $\langle\ ,\ \rangle_B$ を使うべきである。
しかし微分形式に対しての内積のみ $\langle\ ,\ \rangle_s$ を採用している文献もしばしば存在するから注意が必要である。
コンパクトリーマン多様体 $(M,g)$ 上では $\Omega(M)$ にも内積が定義される。
$\omega,\eta\in\Omega(M)$ に対して、
$$
\langle\omega,\eta\rangle_M:=\int_M\langle\omega,\eta\rangle_s
$$
とする。
$F=\frac{1}{2}\sum_{i,j}F_{ij}dx^i\wedge dx^j\in\Omega^2(M)$ に対して、
$||F||^2_s=\frac{1}{4}\sum_{i,j,k,l}F_{ij}F_{kl}\langle dx^i\wedge dx^j,dx^k\wedge dx^l\rangle_s=\frac{1}{4}\sum_{i,j,k,l}F_{ij}F_{kl}(g^{ik}g^{jl}-g^{il}g^{jk})=\frac{1}{2}\sum_{ij}F_{ij}F^{ij}$
である。
同様に
$||F||^2_A=\sum_{ij}F_{ij}F^{ij},\ ||F||^2_B=\frac{1}{4}\sum_{ij}F_{ij}F^{ij}$
となる。
連結で滑らかな $n$ 次元微分多様体 $M$ 上に到るところ0にならない $n$-形式 $\omega\in\Omega^n(M)$ が存在するとき、$M$ は向き付け可能な多様体であるという(連結でない場合は各連結成分について考える)。
到るところ0にならない $n$-形式を $M$ の''体積形式''(volume form)という。
体積形式は一意的ではない。
体積形式の全体はそれが定める向きにより2つの類に類別される。
リーマン多様体 $(M,g)$ には以下のような特別な体積形式がある。
各チャート $(U,\{x^\mu\})$ に関して、$g=\det(g_{ij})$ とするとき、$U$ 上で $n$-形式
$$dv_U:=\sqrt{g}dx^1\wedge\cdots\wedge dx^n$$
が定義される。
同じ向きの2つのチャート $(U,\{x^\mu\}),\ (V,\{y^\mu\}),\ U\cap V\ne\phi$ に対して、$U\cap V$ 上で
$$dv_U=\sqrt{g_x}dx^1\wedge\cdots\wedge dx^n=\sqrt{g_y}\left|\det\left(\frac{\partial y}{\partial x}\right)\right|J\left(\frac{\partial x}{\partial y}\right)dy^1\wedge\cdots\wedge dy^n=\sqrt{g_y}dy^1\wedge\cdots\wedge dy^n=dv_V$$
となる。
ここで、$J\left(\frac{\partial x}{\partial y}\right)$ は座標変換のヤコビアンである。
従って、$dv_U$ 達は貼り合わさって一つの体積形式を定義する。
これをリーマン多様体の体積形式という。
体積形式を表す記号として $\Omega,\omega$ などの記号もよく使われる。
また、正規直交フレームに対するコフレームを $\{\theta^i\}_{1\le i\le n}$ とすると、体積形式は $dv=\theta^1\wedge\cdots\wedge\theta^n$ で与えられる。
$T_p(M)$ の任意の基底を $\{X_1,\cdots,X_n\}$ とするとき、$dv(X_1,\cdots,X_n)$ は、A方式では、点 $p$ において $\{X_1,\cdots,X_n\}$ 達が作る無限小の立方体の体積を、B方式では、単体の体積を与える。
これらのことから、微分形式を使って特性類の議論をするときは(整数係数のコホモロジーを定義したいという動機で)、B方式がよく使われる。
向き付け可能 $n$ 次元リーマン多様体 $(M,g)$ において、$p$-形式 $\omega\in \Omega^p(M)$ に $(n-p)$-形式 $\ast\omega\in \Omega^{n-p}(M)$ を対応させる $C^\infty(M)$ 線形写像 $\ast:\Omega^p(M)\rightarrow \Omega^{n-p}(M)$ が定義される。
これは''Hodgeの星状作用素''(Hodge star operator)と呼ばれる。
向き付け不可能な場合でも定義を少し拡張することで定義可能であるが、ここでは向き付け可能な場合に限り定義する。
$\omega\in \Omega^p(M)$ に対して、$\ast\omega\in \Omega^{n-p}(M)$ を
$$\eta\wedge\ast\omega=\langle\eta,\omega\rangle_sdv,\ \ \ {\rm for}\ \ {}^\forall\eta\in\Omega^p(M)$$
が成り立つものとして定義する。
ただし、$dv$ は体積形式である。
$\ast$ が $C^\infty(M)$ 線形であることは定義より明らかである。
チャートによる局所的な表示は以下である。
$$
\omega=\frac{1}{p!}\sum_{i_1,\cdots,i_p}\omega_{i_1\cdots i_p}dx^{i_1}\wedge\cdots\wedge dx^{i_p}
$$
に対して、
$$
(\ast\omega)_{j_1\cdots j_{n-p}}=\frac{1}{p!}\sum_{i_1,\cdots,i_p}\omega_{i_1\cdots i_p}\varepsilon^{i_1\cdots i_p}_{\ \ \ \ \ \ \ \ \ \ j_1\cdots j_{n-p}}
$$
となる。
$\ast\omega=\frac{1}{(n-p)!}(\ast\omega)_{i_1\cdots i_{n-p}}dx^{i_1}\wedge\cdots\wedge dx^{i_{n-p}}$ とするとき、$\eta=dx^{j_1}\wedge\cdots\wedge dx^{j_p}$ に対して、
$$
\eta\wedge\ast\omega=\frac{1}{(n-p)!}\sum_{k_1,\cdots, k_{n-p}}(\ast\omega)_{k_1\cdots k_{n-p}}\epsilon^{j_1\cdots j_{p}k_1\cdots k_{n-p}}dx^{1}\wedge\cdots\wedge dx^{n}
$$
なる。
ただし、$\epsilon^{i_1\cdots i_n}=\epsilon_{i_1\cdots i_n}={\rm sgn}(i_1\cdots i_n)$ とする。
一方
$$
\langle\eta,\omega\rangle_s=\frac{1}{p!}\sum_{i_1,\cdots, i_p}\omega_{i_1\cdots i_p}\langle dx^{j_1}\wedge\cdots\wedge dx^{j_p},dx^{i_1}\wedge\cdots\wedge dx^{i_p}\rangle_s \sqrt{\det g}dx^{1}\wedge\cdots\wedge dx^{n}
$$
である。
従って
$$
\frac{1}{(n-p)!}\sum_{k_1,\cdots, k_{n-p}}(\ast\omega)_{k_1\cdots k_{n-p}}\epsilon^{j_1\cdots j_{p}k_1\cdots k_{n-p}}=\frac{1}{p!}\sum_{i_1,\cdots, i_p}\omega_{i_1\cdots i_p}\det(g^{j_mi_n})_{1\le m,n\le p} \sqrt{\det g}
$$
となり、両辺に $\epsilon_{j_1\cdots j_p m_1\cdots m_{n-p}}$ をかけて $(j_1,\cdots, j_p)$ で和を取ると
$$
\begin{aligned}
\frac{1}{(n-p)!}
\sum_{\substack{k_1,\cdots, k_{n-p} \\ j_1,\cdots, j_p}}
(\ast\omega)_{k_1\cdots k_{n-p}}\epsilon_{j_1\cdots j_p m_1\cdots m_{n-p}}\epsilon^{j_1\cdots j_{p}k_1\cdots k_{n-p}}=
\sum_{\substack{i_1,\cdots, i_p \\ j_1,\cdots, j_p \\ l_1,\cdots,l_p}}
\omega_{i_1\cdots i_p}
g^{j_1l_1}\cdots g^{j_pl_p}\delta^{i_1}_{\ [l_1}\cdots\delta^{i_p}_{\ l_p]} \epsilon_{j_1\cdots j_p m_1\cdots m_{n-p}}
\sqrt{\det g}\\
(\ast\omega)_{m_1\cdots m_{n-p}}=\frac{1}{p!}\sum_{i_1,\cdots, i_p}\omega_{i_1\cdots i_p}\varepsilon^{i_1\cdots i_p}_{\ \ \ \ \ \ \ \ \ \ \ m_1\cdots m_{n-p}}
\end{aligned}
$$
となる。
ただし、$\varepsilon^{i_1\cdots i_p}_{\ \ \ \ \ \ \ \ \ \ \ m_1\cdots m_{n-p}}=\sqrt{\det g}g^{j_1i_1}\cdots g^{j_pi_p}\epsilon_{j_1\cdots j_p m_1\cdots m_{n-p}}$
さらに定義などから以下が従う。
$(1)\ \ \ \omega\wedge\ast\eta=\eta\wedge\ast\omega,\ \ \omega,\eta\in\Omega^p(M)$
$(2)\ \ \ \ast1=dv$
$(3)\ \ \ \ast\ast\omega=(-1)^{p(n-p)}\omega,\ \ \omega\in\Omega^p(M)$
$(4)\ \ \ \langle\omega,\eta\rangle_s=\langle\ast\omega,\ast\eta\rangle_s$
(1) 3次元ユークリッド空間 $\mathbb{E}^3$ の正規直交座標 $\{x,y,z\}$ に関して、計量は $ds^2=dx^2+dy^2+dz^2$ で与えられ、体積形式を $dv=dx\wedge dy\wedge dz$ で与えるとすると、
$\ast dx=dy\wedge dz,\ \ast dy=-dx\wedge dz,\ \ast dz=dx\wedge dy$ などが成り立つ。
(2) 3次元ミンコフスキー空間 $\mathbb{E}^{(1,2)}$ の正規直交座標 $\{t,x,y\}$ に関して、ミンコフスキー計量は $ds^2=-dt^2+dx^2+dy^2$ で与えられる。
このとき体積形式を $dv=dt\wedge dx\wedge dy$ で与えるとすると、 $\ast dt=-dx\wedge dy,\ \ast dx=-dt\wedge dy,\ \ast (dt\wedge dy)=dx$ などが成り立つ。
(3) 3次元単位球面 $S^3$ の Hopf 座標(を少し変数変換したもの)に関して、計量は
$$
ds^2=\frac{1}{4}((d\chi-\cos\theta d\varphi)^2+d\theta^2+\sin^2\theta d\varphi^2)
$$
で与えられる。
このとき、体積形式を $dv=\frac{1}{8}\sin\theta d\chi\wedge d\theta\wedge d\varphi$ で与えるとすると、
$$
\begin{aligned}
\ast d\theta=2\ast(d\theta/2)=-2\cdot\frac{1}{2}(d\chi-\cos\theta d\varphi)\wedge\frac{1}{2}\sin\theta d\varphi=-\frac{1}{2}\sin\theta d\chi\wedge d\varphi,\\
\ast (d\theta\wedge d\varphi)=\frac{4}{\sin\theta}\ast(\frac{1}{2}d\theta\wedge\frac{1}{2}\sin\theta d\varphi)=\frac{4}{\sin\theta}(d\chi-\cos\theta d\varphi)
\end{aligned}
$$
などが成り立つ。
リーマン多様体上で、微分形式に対する外微分の随伴作用素として余微分が定義される。
直感的には余微分は div である。
定義する方法はいくつかあり、ここでは閉リーマン多様体上での定義を述べる。
またいくつかの同値な定義は形式的に閉多様体でない場合にも通用する。
$(M,g)$ を向き付き閉リーマン多様体とする。
$\omega\in\Omega^p(M)$ に対して、$\delta^{(p)}\omega\in\Omega^{p-1}(M)$ を
$$
\langle d\eta,\omega\rangle_M=\langle \eta,\delta^{(p)}\omega\rangle_M,\ \ \ {\rm for}{}^\forall\eta\in\Omega^{p-1}(M)
$$
を満たすものとして定義する。
これは明らかに線形写像 $\delta^{(p)}:\Omega^p(M)\rightarrow\Omega^{(p-1)}(M)$ を定義する。
ただし、$\delta^{(0)}=0$ とする。
これを余微分(co-differential)という。
$(M,g)$ がコンパクトでなくても $\eta,\omega$ の少なくとも一方がコンパクト台を持つ場合に同様に $\delta$ が $d$ の形式的随伴作用素として定義できる。
$\delta$ は $\ast,d$ で表示することができる。
$\eta\in\Omega^{p-1}(M),\ \omega\in\Omega^p(M)$ に対して、
$$
\begin{aligned}
\langle d\eta,\omega\rangle_M
=\int_Md\eta\wedge\ast\omega
=(-1)^{np+n+1}\int_M(\eta\wedge\ast\ast d\ast\omega-d(\eta\wedge\ast\omega))\\
=(-1)^{np+n+1}\int_M\langle\eta,\ast d\ast \omega\rangle_sdv
=\langle\eta,(-1)^{np+n+1}\ast d\ast \omega\rangle_M
\end{aligned}
$$
であるから(3番目の等号はStokesの定理を使った)、
$$
\delta^{(p)}=(-1)^{np+n+1}\ast d\ast
$$
である。
これを余微分の定義とするとコンパクトとは限らない向き付きリーマン多様体上で考えることができる。
この公式と $d^2=0$ から
$$
\delta^{(p-1)}\circ\delta^{(p)}=0
$$
が分かる。
文脈から $p$-形式に作用していることが明らかな場合は $(p)$を省略して $\delta$ と書くことがよくある。
さらにリーマン接続 $\nabla$ により余微分を表示することもでき、$\omega\in\Omega^{p+1}(M)$ に対して、
$$
(\delta\omega)_{i_1\cdots i_p}=-g^{\alpha\beta}\nabla_\alpha\omega_{\beta i_1\cdots i_p}
$$
となる。
この共変微分を使った公式は余微分が div の一般化にあたることを示唆している。
$\eta\in\Omega^{p-1}(M),\ \omega\in\Omega^p(M)$ に対して、
$d\eta=\frac{1}{p!}\sum p\nabla_{i_1}\eta_{i_2\cdots i_p}dx^{i_1}\wedge\cdots\wedge dx^{i_p}$ であるから、
$$
\begin{aligned}
\langle d\eta,\omega\rangle_M
&=\int_M\frac{1}{(p-1)!}\sum_{i_1,\cdots,i_p}\nabla_{i_1}\eta_{i_2\cdots i_p}\omega^{i_1\cdots i_p}dv\\
&=\int_M\frac{1}{(p-1)!}\sum_{i_1,\cdots,i_p}\nabla_{i_1}(\eta_{i_2\cdots i_p}\omega^{i_1i_2\cdots i_p})dv-\int_M\frac{1}{(p-1)!}\sum_{i_1,\cdots,i_p}\eta^{i_2\cdots i_p}\nabla^{i_1}\omega_{i_1i_2\cdots i_p}dv\\
&=\int_M\langle\frac{1}{(p-1)!}\sum_{i_2,\cdots,i_p}\eta_{i_2\cdots i_p}dx^{i_2}\wedge\cdots\wedge dx^{i_p},-\frac{1}{(p-1)!}\nabla^{i_1}\omega_{i_1i_2\cdots i_p}dx^{i_2}\wedge\cdots\wedge dx^{i_p}\rangle_sdv
\end{aligned}
$$
となることより分かる。
$(M,g)$ を向きつけ可能なコンパクトリーマン多様体で境界のないものとする。
このとき、Laplace-de Rham作用素 $\Delta:\Omega^p(M)\rightarrow\Omega^p(M)$ は
$$
\Delta:=d\delta+\delta d
$$
と定義される。
これはEuclid空間における通常のラプラシアンの一般化の一つである。
$\omega\in\Omega^p(M)$ で $\Delta\omega=0$ となるものを $p$ 次調和形式(p-harmonic form)という。
Laplace-de Rham作用素 $\Delta$ は次の性質を持つ。
$\ast\Delta=\Delta\ast$ である。従って $\omega$ が調和形式ならば、$\ast\omega$ もそうである。
$\langle\Delta\omega,\eta\rangle_M=\langle\omega,\Delta\eta\rangle_M$ である。すなわち $\Delta$ は自己随伴である。
$\Delta\omega=0\Leftrightarrow d\omega=\delta\omega=0$
ここでは、向き付け可能コンパクトリーマン多様体 $(M,g)$ 上の微分形式のなす線形空間 $\Omega(M)$ の直交分解に関する定理である Hodge 分解(Hodge decomposition)の概要を述べる。
向き付け可能コンパクトリーマン多様体 $(M,g)$ に対して、任意の $p$-形式の全体は調和形式、完全形式、余完全形式の和として一意的に表される。すなわち
$$
\Omega^p(M)=\mathbb{H}^p(M)\oplus d\Omega^{p-1}(M)\oplus\delta\Omega^{p+1}(M)
$$
が成り立つ。
ここで、$\mathbb{H}^p(M),\ d\Omega^{p-1}(M),\ \delta\Omega^{p+1}(M)$ らはそれぞれ$p$ 次調和形式、$p$ 次完全形式、$p$ 次余完全形式のなす線形空間である。
またこれらの直和分解は直交分解である。
Hodge分解の証明の中核をなすのは2階の楕円形偏微分方程式の解の存在定理であり、解析学からの準備が必要になるのでここでは述べない。
$\mathbb{H}^p$ への直交射影を $H:\Omega^p(M)\rightarrow\mathbb{H}^p$ とする。
任意の $\omega\in\Omega^p(M)$ に対して、$\omega-H\omega\in(\mathbb{H}^p)^\perp$ である。
$\Delta$ は楕円形偏微分作用素であり、解析学の結果から $\theta\in(\mathbb{H}^p)^\perp$ に対して、方程式 $\Delta\omega_0=\theta$ の解 $\omega_0\in(\mathbb{H}^p)^\perp$ は常に存在することが分かる。
従って、$G\omega\in(\mathbb{H}^p)^\perp$ が存在して、$\omega-H\omega=\Delta G\omega$ となる。
従って、$\omega=H\omega+d(\delta G\omega)+\delta(dG\omega)$ が成り立つ。
直交性は $d,\delta$ が随伴の関係にあることなどより簡単に確かめられる。
この証明の $G$ は $\Delta$ のGreen作用素と呼ばれ、$(\mathbb{H}^p)^\perp$ に制限すれば $\Delta$ の逆作用素である。
Hodge分解から次のHodgeの定理が従う。
向き付け可能コンパクトリーマン多様体 $(M,g)$ 上の任意の de Rham コホモロジー類は唯一つの調和形式で代表される。
任意の閉形式 $\omega\in\Omega^p(M)$ に対して、Hodge分解
$$
\omega=\omega_H+d\eta+\delta\theta
$$
が存在し、$0=d\omega=d\delta\theta$ より $0=\langle d\delta\theta,\theta\rangle_M=\langle\delta\theta,\delta\theta\rangle_M$ となり $\delta\theta=0$ である。
よって $\omega=\omega_H+d\eta$ である。
ここでは微分形式により表現されるフロベニウスの定理を概説する。
詳しくはフロベニウス可積分性を参照されたい。
フロベニウスの定理は $n$ 変数の $r$ 連立全微分方程式系の解の存在に関する定理である。
$n$ 変数の $r$ 連立全微分方程式系は、$\mathbb{R}^n$ の開集合 $U$ 上で定義された $r$ 個の 1-形式 $\omega_i\in\Omega^1(U),\ (1\le i\le r)$ により、
$$
\omega_1=\omega_2=\cdots=\omega_r=0
$$
で与えられる。
このような連立系は''Paff系''と呼ばれる。
Paff系が解を持つとき、''フロベニウス可積分''(Frobenius integrable)であるという。
上のPaff系がフロベニウス可積分であるための必要十分条件は、$U$ 上の $r^2$ 個の 1-形式達 $\omega_i^{\ j}\in \Omega^1(U)$ が存在して、
$$
d\omega_i=\sum_{j=1}^r\omega_i^{\ j}\omega_j,\ \ (1\le i\le r)
$$
が成り立つことである。