Azumaya代数(Azumaya algebra)とは、スキーム $X$ 上の $\mathcal{O}_X$ 代数 $A$ で、$\mathcal{O}_X$ 加群として有限局所自由(階数は正)で、各点 $x$ のファイバー $A \otimes \kappa(x)$ が剰余体 $\kappa(x)$ 上の中心単純環であるもののことである。体上では中心単純環と一致する。同値な条件として、$A \otimes A^{\mathrm{op}} \to \mathcal{E}nd(A)$ が同型であること、エタール局所的に行列代数 $M_r(\mathcal{O}_X)$ に同型であることがある。次数 $r$ のものは $\mathrm{PGL}_r$ トーサーで分類され、その類はスキームの Brauer 群をなし、$H^2(X, \mathbb{G}_m)$ に単射に写る。
前提知識: 中心単純環, スキーム, 局所自由層, エタール位相, 忠実平坦降下
レベル: 大学院
以下、$X$ をスキームとし、点 $x \in X$ の剰余体を $\kappa(x)$ と書く。$\mathcal{O}_X$ 代数 $A$ とは、$\mathcal{O}_X$ 加群の層 $A$ に、$\mathcal{O}_X$ 双線形で結合的な積と単位元が与えられ、$\mathcal{O}_X$ が中心に入るもののことをいう。点 $x$ でのファイバーを
$$
A(x) := A_x \otimes_{\mathcal{O}_{X,x}} \kappa(x)
$$
と書く。これは $\kappa(x)$ 代数である。
$X$ 上の準連接 $\mathcal{O}_X$ 代数 $A$ が次の 2 条件をみたすとき、$A$ を $X$ 上の Azumaya 代数(Azumaya algebra)という。
条件 2 から、点 $x$ での $A$ の階数は $\dim_{\kappa(x)} A(x)$ に等しく、平方数である。階数が $X$ 上一定値 $r^2$ のとき、$A$ を次数 $r$ の Azumaya 代数という。次数 $r$ の Azumaya 代数の同型類の集合を $\operatorname{Az}_r(X)$ と書く。
$X = \operatorname{Spec} k$($k$ は体)のとき、条件 1 は $0 < \dim_k A < \infty$ と同じであり、ファイバーは $A$ 自身なので、体上の Azumaya 代数は中心単純環にほかならない。
中心単純環は、係数を分離閉包へ広げると行列代数になる。Azumaya 代数は、この性質を「スキームの各点の近くで」持つ代数の族である。ただし「近く」は Zariski 位相の意味では足りず、エタール位相の意味で取らなければならない(下の
反例:Zariski位相では行列代数にならない例
)。
言い換えると、Azumaya 代数は行列代数の層 $M_r(\mathcal{O}_X)$ のエタール局所的な捻れた形であり、その捻れ方は $\mathrm{PGL}_r$ トーサーで分類される。この分類から、Brauer群 とエタールコホモロジー群 $H^2(X, \mathbb{G}_m)$ の関係が生まれる。
$A$ を $X$ 上の準連接 $\mathcal{O}_X$ 代数で、$\mathcal{O}_X$ 加群として有限表示なものとする。次は同値である。
1⇒3 の部分を除き、次の証明は完結している。1⇒3 は Hensel 局所環上の持ち上げと極限の議論を使う標準的な結果であり、本記事では筋だけを示す。
1⇒2。$\varphi \colon A \otimes A^{\mathrm{op}} \to \mathcal{E}nd(A)$ は、階数がともに $(\operatorname{rank} A)^2$ の有限局所自由加群の間の射である。点 $x$ でのファイバーは、中心単純環 $A(x)$ についての写像 $A(x) \otimes A(x)^{\mathrm{op}} \to \operatorname{End}_{\kappa(x)}(A(x))$ であり、中心単純環 の基本性質によりこれは同型である。とくに $\varphi$ の余核のファイバーは $0$ であり、余核は有限型なので中山の補題により $0$ である。同じ階数の有限局所自由加群の間の全射は同型である(局所的に行列式が可逆な正方行列で表される)。よって $\varphi$ は同型である。
2⇒1。$x \in X$ を取り、$B := A(x)$、$\kappa := \kappa(x)$ と書く。$\varphi$ のファイバーをとると、$B \otimes_\kappa B^{\mathrm{op}} \to \operatorname{End}_\kappa(B)$ が同型になる。$B \ne 0$ は階数の仮定から従う。
3⇒4。エタール被覆は fppf 被覆である。
4⇒1。$A|_{U_i} \cong M_{r_i}(\mathcal{O}_{U_i})$ は $U_i$ 上の自由加群である。平坦性は忠実平坦な射に沿って降りるので、$A$ は $\mathcal{O}_X$ 上平坦である。有限表示で平坦な加群は有限局所自由である。各点 $x$ について、$x$ の上にある $U_i$ の点 $u$ を取ると
$$
A(x) \otimes_{\kappa(x)} \kappa(u) \cong \bigl(A|_{U_i}\bigr)(u) \cong M_{r_i}(\kappa(u))
$$
であり、右辺は $\kappa(u)$ 上の中心単純環である。中心単純環 の基本性質(係数拡大して中心単純なら元も中心単純)により、$A(x)$ は $\kappa(x)$ 上の中心単純環である。とくに $A(x) \ne 0$ なので、$x$ での階数は $1$ 以上である。$\square$
1⇒3 は次の 3 段で示される(Gro68a §5、Mil80 第 IV 章 §1。本記事では各段を証明しない)。
$A, B$ を $X$ 上の Azumaya 代数、$E$ を各点での階数が $1$ 以上の有限局所自由 $\mathcal{O}_X$ 加群、$f \colon Y \to X$ をスキームの射とする。次はどれも Azumaya 代数である。
どの代数も有限局所自由で、階数は $1$ 以上である。ファイバーをとる操作はテンソル積・反対代数・自己準同型・引き戻しと可換である(有限局所自由加群については $\mathcal{E}nd(E)(x) = \operatorname{End}_{\kappa(x)}(E(x))$ であり、$y \in Y$ について $(f^*A)(y) = A(f(y)) \otimes_{\kappa(f(y))} \kappa(y)$ である)。したがって各ファイバーは、行列代数、中心単純環のテンソル積、反対代数、あるいは中心単純環の係数拡大であり、中心単純環 の基本性質によりどれも中心単純である。最後の同型は定理 Azumaya代数の特徴づけ の 2 である。$\square$
$X$ 上の Azumaya 代数 $A, B$ が Brauer 同値であるとは、各点での階数が $1$ 以上の有限局所自由加群 $E, E'$ があって
$$
A \otimes_{\mathcal{O}_X} \mathcal{E}nd(E) \cong B \otimes_{\mathcal{O}_X} \mathcal{E}nd(E')
$$
となることをいう。同値類 $[A]$ の集合は、$[A] + [B] := [A \otimes B]$ によってアーベル群をなす。単位元は $[\mathcal{O}_X]$、逆元は $-[A] = [A^{\mathrm{op}}]$ である。この群を $X$ の Brauer群 といい、$\mathrm{Br}(X)$ と書く。
$\mathcal{E}nd(E) \otimes \mathcal{E}nd(E') \cong \mathcal{E}nd(E \otimes E')$ であることから、この関係は同値関係であり、演算が同値類の上で定まる。逆元の主張は命題 演算で閉じること の最後の同型による。$X = \operatorname{Spec} k$ のとき、この群は中心単純環の Brauer 群と一致する(有限次元ベクトル空間 $E$ について $\mathcal{E}nd(E) = M_n(k)$ だから)。
Skolem–Noether の定理の局所環版により、局所環 $R$ 上の行列代数 $M_r(R)$ の $R$ 代数自己同型はすべて内部自己同型である。したがって $M_r$ の自己同型の群層は射影一般線形群 $\mathrm{PGL}_r$ である(Gro68a §5、Mil80 第 IV 章 §1。本記事では証明しない)。
次数 $r$ の Azumaya 代数 $A$ に、エタール層 $\mathcal{I}som(M_r(\mathcal{O}_X), A)$ を対応させると、全単射
$$
\operatorname{Az}_r(X) \xrightarrow{\ \sim\ } H^1(X_{\mathrm{\acute{e}t}}, \mathrm{PGL}_r)
$$
が得られる。右辺は $\mathrm{PGL}_r$ トーサーの同型類の点付き集合であり、fppf 位相で計算しても同じものになる。
この定理は、上の特徴づけの 3(エタール局所的に行列代数)と、自己同型の群層が $\mathrm{PGL}_r$ であることからの形式的な帰結である(Mil80 第 IV 章 §2)。本記事では証明しない。
中心拡大 $1 \to \mathbb{G}_m \to \mathrm{GL}_r \to \mathrm{PGL}_r \to 1$ からは、非可換コホモロジーの余境界
$$
\delta \colon H^1(X_{\mathrm{\acute{e}t}}, \mathrm{PGL}_r) \longrightarrow H^2(X_{\mathrm{\acute{e}t}}, \mathbb{G}_m)
$$
が定まる。$\delta(A) = 0$ となるのは、$A$ が $\mathrm{GL}_r$ トーサー、すなわち階数 $r$ の局所自由加群 $E$ から $A \cong \mathcal{E}nd(E)$ として来るときに限る。
余境界 $\delta$ は、単射な群準同型
$$
\mathrm{Br}(X) \hookrightarrow H^2(X_{\mathrm{\acute{e}t}}, \mathbb{G}_m)
$$
を引き起こす。次数 $r$ の Azumaya 代数の類は $r$ 倍で $0$ になる。とくに $X$ が準コンパクトなら、像は $H^2(X_{\mathrm{\acute{e}t}}, \mathbb{G}_m)$ の捩れ部分群に含まれる。
この定理は標準的である(Gro68a §2・§5、Mil80 第 IV 章 §2)。本記事では証明しない。像と捩れ部分群との比較は Brauer群 と コホモロジー的Brauer群 の主題である。
$R$ を Hensel 局所環、$k$ をその剰余体とする。$A \mapsto A \otimes_R k$ は全単射 $\operatorname{Az}_r(R) \to \operatorname{Az}_r(k)$ を与え、群の同型 $\mathrm{Br}(R) \cong \mathrm{Br}(k)$ を引き起こす。
これは Azumaya による(Gro68a §6、Mil80 第 IV 章 §1。本記事では証明しない)。証明の要点は、中心単純環が無限小変形をもたないこと(平方零の拡大への持ち上げが同型を除いて一意であること)である。とくに $R$ が狭義 Hensel 局所環なら、剰余体は分離閉で $\mathrm{Br}(k) = 0$ なので、$R$ 上の Azumaya 代数はすべて $\mathcal{E}nd(E)$ の形であり、$E$ は自由だから行列代数である。
各点での階数が $1$ 以上の有限局所自由加群 $E$ について、$\mathcal{E}nd_{\mathcal{O}_X}(E)$ は Azumaya 代数であり(命題 演算で閉じること )、その類は $\mathrm{Br}(X)$ の単位元である。$E = \mathcal{O}_X^r$ のときが行列代数 $M_r(\mathcal{O}_X)$ である。
$R$ を可換環、$a, b \in R$ とし、$2ab$ が $R$ の単元であるとする。$1, i, j, ij$ を基底とする自由 $R$ 加群に $i^2 = a$、$j^2 = b$、$ij = -ji$ で積を入れた代数 $(a, b)_R$ は、$R$ 上次数 $2$ の Azumaya 代数である。
実際、$(a, b)_R$ は階数 $4$ の自由加群である(結合性は、例えば $a, b$ を不定元とする普遍的な場合に帰着して確かめられる)。素イデアル $\mathfrak{p}$ での剰余体を $\kappa$ とすると、ファイバーは $\kappa$ 上の四元数代数 $(\bar a, \bar b)_\kappa$ である。$2ab$ が単元なので、$\kappa$ の標数は $2$ でなく、$\bar a, \bar b \ne 0$ である。したがってファイバーは $\kappa$ 上次数 $2$ の中心単純環である(中心単純環 の四元数代数の例)。
$p$ を奇素数とし、$R = \mathbb{Z}_{(p)}$($\mathbb{Z}$ の $p$ での局所化)とする。$2$ は $R$ の単元なので、例
可換環上の四元数代数
により $A = (-1, -1)_R$ は $R$ 上の Azumaya 代数である。
$A \otimes_R \mathbb{Q} = (-1,-1)_{\mathbb{Q}}$ はノルム形式 $x^2 + y^2 + z^2 + w^2$ が $\mathbb{Q}$ 上で自明でない零点をもたないので斜体であり、その類は $\mathrm{Br}(\mathbb{Q})$ で $0$ でない。$\mathrm{Br}(R) \to \mathrm{Br}(\mathbb{Q})$ は群準同型なので、$[A] \ne 0 \in \mathrm{Br}(R)$ である。
一方、剰余体 $\mathbb{F}_p$ 上の中心単純環はすべて行列代数である(有限な斜体は可換)から、$\mathrm{Br}(\mathbb{F}_p) = 0$ である。よって $\mathrm{Br}(R) \to \mathrm{Br}(\mathbb{F}_p)$ は単射でない。$R$ は Hensel 局所環でないので、定理
Hensel局所環上の分類
の仮定を満たさず、その結論が崩れている。
$R \to R'$ を有限群 $G$ を Galois 群とする有限エタール Galois 拡大とし、$c \colon G \times G \to R'^\times$ を 2 コサイクルとする。$\bigoplus_{\sigma \in G} R' u_\sigma$ に
$$
u_\sigma \lambda = \sigma(\lambda) u_\sigma, \qquad u_\sigma u_\tau = c(\sigma, \tau) u_{\sigma\tau} \qquad (\lambda \in R')
$$
で積を入れた代数は、$R$ 上の階数 $|G|^2$ の Azumaya 代数で、$R'$ への係数拡大で行列代数になる(Gro68a §5。本記事では証明しない)。$R$ が体のときは古典的な接合積であり、中心単純環 の巡回代数はその特別な場合である。
$X = \operatorname{Spec} \mathbb{R}$、$A = \mathbb{H}$(Hamilton の四元数)とする。$\mathbb{H}$ は $\mathbb{R}$ 上の中心単純環なので Azumaya 代数である。しかし $X$ は 1 点なので、「Zariski 局所的に行列代数」であることは $\mathbb{H} \cong M_2(\mathbb{R})$ を意味し、これは偽である($\mathbb{H}$ は斜体で、$M_2(\mathbb{R})$ は零因子をもつ)。
したがって定理
Azumaya代数の特徴づけ
の 3 の「エタール被覆」を Zariski 開被覆に置き換えることはできない。実際には、有限エタール全射 $\operatorname{Spec} \mathbb{C} \to \operatorname{Spec} \mathbb{R}$ の上で $\mathbb{H} \otimes_{\mathbb{R}} \mathbb{C} \cong M_2(\mathbb{C})$ となる。
$k$ を体、$X = \operatorname{Spec} k[\varepsilon]$($\varepsilon^2 = 0$)とし、$A := M_r(k)$ を $\varepsilon$ が $0$ として作用する $k[\varepsilon]$ 代数と見る($r \ge 1$)。$A$ は有限表示であり、$X$ のただ一つの点でのファイバー $A \otimes_{k[\varepsilon]} k = M_r(k)$ は中心単純環である。しかし $\varepsilon A = 0$ なので $A$ は $k[\varepsilon]$ 上平坦でなく、定義の条件 1(局所自由)を満たさない。よって $A$ は Azumaya 代数でない。
また、全射な閉埋め込み $\operatorname{Spec} k \to X$ に沿って引き戻すと $M_r(k)$ になる。したがって特徴づけの 3・4 の被覆を「単なる全射」に弱めることはできず、平坦性が要る。
$k$ を標数 $2$ でない体、$b \in k^\times$、$R = k[t]$ とし、$A := (t, b)_R$(基底 $1, i, j, ij$、$i^2 = t$、$j^2 = b$、$ij = -ji$)とする。$A$ は階数 $4$ の自由加群である。
$t \ne 0$ となる点では、例
可換環上の四元数代数
と同じ理由でファイバーは中心単純である。実際、$A$ は開集合 $\operatorname{Spec} k[t, t^{-1}]$ の上では Azumaya 代数である。しかし原点 $t = 0$ でのファイバー $B = A \otimes k$ では $i^2 = 0$ であり、$i$ と $ij$ の張る部分空間は $0$ でも $B$ 全体でもない両側イデアルである($j i = -ij$、$j \cdot ij = -b\, i$、$ij \cdot j = b\, i$、$i \cdot ij = 0$ などから確かめられる)。よって定義の条件 2 を原点で満たさず、$A$ は $\operatorname{Spec} k[t]$ 上の Azumaya 代数でない。局所自由性だけでは Azumaya 代数にならない。
$R$ を $0$ でない可換環とし、$A = R \times R$ とする。$A$ は階数 $2$ の自由加群で、各ファイバー $\kappa \times \kappa$ は単純でも中心的でもない。したがって $A$ は Azumaya 代数でない。特徴づけの 2 で見ても、$A \otimes_R A^{\mathrm{op}}$ は可換で、$\mathcal{E}nd_R(A) \cong M_2(R)$ は可換でないので同型でない。$A$ は有限エタール(分離的)な $R$ 代数であり、中心が $R$ より大きいという点だけで Azumaya 代数から外れている。
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