von Neumann環(von Neumann algebra)とは、Hilbert空間 $H$ 上の有界作用素全体 $B(H)$ の部分代数で、恒等作用素を含み、随伴をとる操作で閉じ、弱作用素位相(各 $x,y$ について $\langle Tx,y\rangle$ が収束する位相)で閉じたものである。von Neumannの二重可換子定理により、恒等作用素を含む $*$-部分代数 $A$ について、強作用素位相での閉包、弱作用素位相での閉包、可換子の可換子 $A''$ の3つは一致するので、von Neumann環であることは $A=A''$ という代数的な条件と同値になる。$B(H)$ や、有限測度空間の $L^\infty$ を $L^2$ 上の掛け算作用素とみたものが例で、中心がスカラー倍だけのものを因子環という。
前提知識: Hilbert空間, 随伴作用素, 直交射影, Banach環とC*-環のスペクトル理論
Hilbert 空間 $H$ 上の有界作用素全体 $B(H)$ の部分代数で、随伴をとる操作で閉じたものを考える。作用素ノルムで閉じていれば Banach環とC*-環のスペクトル理論 の $C^*$-環である。von Neumann 環 は、それより弱い「各ベクトルの上での収束」についても閉じたものである。この位相的な条件が、「可換子の可換子をとると元に戻る」という純粋に代数的な条件と同値になること、すなわち von Neumann の二重可換子定理 がこの理論の出発点である(Kad58 pp. 61–62 は、von Neumann がこの研究を始めた最初の論文の主結果としてこの定理を挙げている)。量子力学の観測量の代数や群の表現、GNS構成 で得た表現の「閉包」として現れる。
この記事で示すことは次のとおりである。
$H$ を複素 Hilbert 空間とし、内積 $\langle x,y\rangle$ は第 1 変数について線形とする。$B(H)$ は $H$ 上の有界線形作用素全体、$1$ は恒等作用素、$T^*$ は $T$ の 随伴作用素 である。
$x,y\in H$ について $B(H)$ 上の半ノルム $p_x(T):=\|Tx\|$、$p_{x,y}(T):=\lvert\langle Tx,y\rangle\rvert$ を考える。
半ノルムの族から位相を定める仕方は 位相ベクトル空間 の定理「局所凸性と半ノルム族」のとおりで、どちらの族も点を分ける。作用素の有向点族 $T_i$ が $T$ に強作用素位相で収束することは、各 $x$ で $\|T_ix-Tx\|\to0$ となること、弱作用素位相で収束することは、各 $x,y$ で $\langle T_ix,y\rangle\to\langle Tx,y\rangle$ となることである(Sun00 Definition 2.5.1、pp. 67–68)。$\lvert\langle Tx,y\rangle\rvert\le\|Tx\|\|y\|$、$\|Tx\|\le\|T\|\|x\|$ なので、
$$
\text{弱作用素位相}\ \subset\ \text{強作用素位相}\ \subset\ \text{ノルム位相}
$$
である(左ほど開集合が少ない)。したがって弱作用素位相で閉じた集合は強作用素位相でも閉じ、強作用素位相で閉じた集合はノルムでも閉じる。
$H=\ell^2$($\ell^2(\mathbb N)$、標準基底 $e_1,e_2,\dots$)とし、片側ずらし $S(x_1,x_2,\dots):=(0,x_1,x_2,\dots)$ を考える。$S^*(x_1,x_2,\dots)=(x_2,x_3,\dots)$ である。
von Neumann 環は、弱作用素位相で閉じているのでノルムでも閉じており、$C^*$-環である。$1$ を含むことを定義に入れない流儀もある(Kad58 p. 62 の定義は、随伴で閉じた作用素の代数で弱作用素位相で閉じたものとする)。この記事は Sun00 Corollary 3.4.7(p. 122)に従って $1\in M$ を要求する。可換子については、定義からすぐに次が分かる:$\mathcal S\subset\mathcal T$ なら $\mathcal S'\supset\mathcal T'$ であり、$\mathcal S\subset\mathcal S''$、$\mathcal S'=\mathcal S'''$ である(最後の式は $\mathcal S\subset\mathcal S''$ の両辺の可換子と、$\mathcal S'\subset(\mathcal S')''$ から)。
$\mathcal S\subset B(H)$ を任意の部分集合とする。
1:$1$ がすべての作用素と可換なこと、可換な作用素の和・スカラー倍・積がまた可換なことから、$\mathcal S'$ は $1$ を含む部分代数である。$s\in\mathcal S$、$x,y\in H$ について
$$
\ell_{s,x,y}(T):=\langle Tsx,y\rangle-\langle Tx,s^*y\rangle=\langle (Ts-sT)x,y\rangle
$$
は $T$ について線形で、$\lvert\ell_{s,x,y}(T)\rvert\le p_{sx,y}(T)+p_{x,s^*y}(T)$ なので弱作用素位相で連続である。$\mathcal S'$ はこれらの汎関数の核すべての共通部分なので、弱作用素位相で閉じている。
2:$T\in\mathcal S'$、$s\in\mathcal S$ なら $s^*\in\mathcal S$ なので $Ts^*=s^*T$ であり、両辺の随伴をとって $sT^*=T^*s$ を得る。よって $T^*\in\mathcal S'$ であり、1 と合わせて $\mathcal S'$ は von Neumann 環である。$\blacksquare$
とくに、随伴で閉じた $\mathcal S$ について $\mathcal S''$ は $\mathcal S$ を含む von Neumann 環で、$\mathcal S$ を含む von Neumann 環 $M$ はすべて $\mathcal S''$ を含む(次の節の定理から $M=M''\supset\mathcal S''$)。$\mathcal S''$ を $\mathcal S$ が 生成する von Neumann 環 という。
証明では、閉部分空間 $\mathcal M\subset H$ への 直交射影 $P$ を使う。作用素 $a$ について、$a(\mathcal M)\subset\mathcal M$ であることは $aP=PaP$ と同値である($Px\in\mathcal M$ なので $aPx\in\mathcal M$ と $PaPx=aPx$ が同値)。
$A\subset B(H)$ を $1$ を含む $*$-部分代数とする。$A$ の強作用素位相での閉包を $\overline A^{s}$、弱作用素位相での閉包を $\overline A^{w}$ と書くと、
$$
\overline A^{s}=\overline A^{w}=A''
$$
である。とくに、$1$ を含む $*$-部分代数 $M$ について、次の 3 条件は同値である。(a) $M$ は弱作用素位相で閉じている(von Neumann 環である)。(b) $M$ は強作用素位相で閉じている。(c) $M=M''$。
段 1(易しい包含):prop-vna-commutant により $A''$ は弱作用素位相で閉じていて $A$ を含むので、$\overline A^{w}\subset A''$ である。$\overline A^{w}$ は弱作用素位相で閉じているので強作用素位相でも閉じていて、$A$ を含むから、$\overline A^{s}\subset\overline A^{w}$ である。よって $A''\subset\overline A^{s}$ を示せばよい。強作用素位相の基本近傍を考えると、示すべきことは次である:$z\in A''$、$\xi_1,\dots,\xi_n\in H$、$\varepsilon>0$ に対し、ある $a\in A$ で $\|(z-a)\xi_i\|<\varepsilon$($i=1,\dots,n$)となる。
段 2($n=1$):$\xi:=\xi_1$ とし、$\mathcal M$ を $A\xi:=\{a\xi\mid a\in A\}$ の閉包とする。$A$ は代数なので $A\xi$ は線形部分空間で、$1\in A$ から $\xi\in\mathcal M$ である。$a,b\in A$ なら $a(b\xi)=(ab)\xi\in A\xi$ であり、$a$ は連続なので $a(\mathcal M)\subset\mathcal M$ である。$\mathcal M$ への直交射影を $P$ とすると、すべての $a\in A$ で $aP=PaP$ である。$a^*\in A$ にもこれを使うと $a^*P=Pa^*P$ で、随伴をとって $Pa=PaP$ を得る。よって $aP=Pa$、すなわち $P\in A'$ である。$z\in A''$ は $P$ と可換なので $z(\mathcal M)\subset\mathcal M$ であり、とくに $z\xi\in\mathcal M$ である。$\mathcal M$ は $A\xi$ の閉包なので、$\|z\xi-a\xi\|<\varepsilon$ となる $a\in A$ がある。
段 3(一般の $n$):$H^n:=H\oplus\cdots\oplus H$($n$ 個の直和)とし、$B(H^n)$ の元を $B(H)$ の元を成分とする $n\times n$ 行列 $(b_{ij})$ で表す($b_{ij}$ は第 $j$ 成分から第 $i$ 成分への部分)。$a\in B(H)$ について、対角に $a$ を並べた作用素を $a^{(n)}:=\operatorname{diag}(a,\dots,a)$ とし、$A^{(n)}:=\{a^{(n)}\mid a\in A\}$ とおく。$A^{(n)}$ は $B(H^n)$ の $1$ を含む $*$-部分代数である。$b=(b_{ij})\in(A^{(n)})'$ なら、$ba^{(n)}=(b_{ij}a)$ と $a^{(n)}b=(ab_{ij})$ が等しいので、各 $b_{ij}$ は $A'$ に属する。$z\in A''$ なら各 $b_{ij}\in A'$ と可換なので、$z^{(n)}b=(zb_{ij})=(b_{ij}z)=bz^{(n)}$ であり、$z^{(n)}\in(A^{(n)})''$ である。段 2 を $A^{(n)}$、$z^{(n)}$、ベクトル $(\xi_1,\dots,\xi_n)\in H^n$ に当てると、ある $a\in A$ で
$$
\|(z^{(n)}-a^{(n)})(\xi_1,\dots,\xi_n)\|^2=\sum_{i=1}^n\|(z-a)\xi_i\|^2<\varepsilon^2
$$
となり、各 $i$ で $\|(z-a)\xi_i\|<\varepsilon$ である。
最後の主張:$M$ が (a) を満たせば $\overline M^{w}=M$ なので、前半から $M''=M$ である。(c) から (a) は prop-vna-commutant による。(a) と (b) の同値は $\overline M^{s}=\overline M^{w}$ による。$\blacksquare$
定理の要は段 2 である。$A$ で動かして得られる部分空間への射影は $A$ の可換子に入るので、$A''$ の元もその部分空間を保つ。1 つのベクトルの場合にこれで近似ができ、有限個のベクトルの場合は $H$ を $n$ 個並べて 1 つのベクトルの場合に帰着する。この証明は Sun00 Theorem 3.4.6・Corollary 3.4.7(pp. 120–122)と同じ筋である。
1:$T\in B(H)'$ とする。$x\in H$ について階数 $1$ の作用素 $\theta_x(w):=\langle w,x\rangle x$ は $B(H)$ に属するので $T\theta_x=\theta_xT$ である。$x\ne0$ でこれを $x$ に当てると $\|x\|^2Tx=\langle Tx,x\rangle x$ なので、$Tx=\lambda_xx$($\lambda_x\in\mathbb C$)と書ける。$x,y$ が 1 次独立なら $\lambda_{x+y}(x+y)=T(x+y)=\lambda_xx+\lambda_yy$ から $\lambda_x=\lambda_{x+y}=\lambda_y$ であり、$y=cx$($c\ne0$)なら $T(cx)=c\lambda_xx$ から $\lambda_y=\lambda_x$ である。よって $\lambda_x$ は $x$ によらない定数 $\lambda$ で、$T=\lambda1$ である。逆に $\mathbb C1\subset B(H)'$ は明らかである。$B(H)''=(\mathbb C1)'=B(H)$ と $(\mathbb C1)''=B(H)'=\mathbb C1$ なので、thm-vna-double-commutant から両者は von Neumann 環である。
2:$\lvert\varphi f\rvert\le\|\varphi\|_\infty\lvert f\rvert$ なので $M_\varphi$ は有界で、$M_\varphi^*=M_{\overline\varphi}$、$M_\varphi M_\psi=M_{\varphi\psi}=M_\psi M_\varphi$ である。とくに $\mathcal A\subset\mathcal A'$ である。逆に $T\in\mathcal A'$ とし、$\mu$ が有限なので $\mathbf 1\in L^2$ に注意して $g:=T\mathbf 1\in L^2$ とおく。$\varphi\in L^\infty$ について
$$
T\varphi=TM_\varphi\mathbf 1=M_\varphi T\mathbf 1=\varphi g
$$
である。$\varepsilon>0$ に対し $E:=\{\lvert g\rvert>\|T\|+\varepsilon\}$ とおき $\varphi=\mathbf 1_E$ とすると、
$$
(\|T\|+\varepsilon)\mu(E)^{1/2}\le\|\mathbf 1_Eg\|_2=\|T\mathbf 1_E\|_2\le\|T\|\mu(E)^{1/2}
$$
なので $\mu(E)=0$ である。$\varepsilon$ は任意なので $g\in L^\infty$ で、$T$ と $M_g$ は $L^\infty$ の上で一致する。$f\in L^2$ について $f\mathbf 1_{\{\lvert f\rvert\le n\}}\in L^\infty$ は優収束定理により $L^2$ で $f$ に収束するので、$L^\infty$ は $L^2$ で稠密であり、有界作用素 $T$ と $M_g$ は一致する。よって $\mathcal A'=\mathcal A$ である。$\mathcal A$ は $1=M_{\mathbf 1}$ を含み随伴で閉じているので、prop-vna-commutant により $\mathcal A=\mathcal A'$ は von Neumann 環である。$\mathcal A\subset\mathcal B$ となる可換な $*$-部分代数 $\mathcal B$ があれば $\mathcal B\subset\mathcal B'\subset\mathcal A'=\mathcal A$ である。$\blacksquare$
2 の $\mathcal A$ は、$\mathcal A$ を含む可換な $*$-部分代数の中で極大なので、極大可換 な von Neumann 環という。可換な von Neumann 環の典型例であり、可分な Hilbert 空間の上の正規作用素 $T$ が生成する von Neumann 環は、スペクトル定理 によって $T$ のスペクトルの上のある有限測度についての $L^\infty$ と $*$-同型になる(Sun00 Proposition 4.1.5、p. 150。この記事では証明しない)。
von Neumann 環 $M$ について $Z(M):=M\cap M'$ を $M$ の 中心 という。$Z(M)=\mathbb C1$ のとき、$M$ を 因子環(factor)という。
$Z(M)$ は $M$ のすべての元と可換な $M$ の元の全体で、$M$ と $M'$ がともに von Neumann 環なので、その共通部分としてまた von Neumann 環である。prop-vna-examples の 1 から $Z(B(H))=B(H)\cap\mathbb C1=\mathbb C1$ なので $B(H)$ は因子環であり、とくに行列環 $M_n(\mathbb C)=B(\mathbb C^n)$ も因子環である。一方 2 の $\mathcal A$ は可換なので $Z(\mathcal A)=\mathcal A$ であり、$0<\mu(E)<\mu(X)$ となる可測集合 $E$ があれば $M_{\mathbf 1_E}$ はスカラー倍でないので、$\mathcal A$ は因子環でない。
Murray と von Neumann は、因子環の射影の「大きさ」を測る次元関数の値域によって、因子環を I 型(ある Hilbert 空間の $B(H)$ と代数的に同型なもの)、II$_1$ 型、II$_\infty$ 型、III 型に分け、II 型の因子環の例を構成した。III 型の例は von Neumann が構成した(Kad58 pp. 66–68 による概観)。この記事ではこの分類を扱わず、証明もしない。
単位元をもつ $C^*$-環 $\mathfrak A$ の表現 $\pi\colon\mathfrak A\to B(H)$($*$-準同型で $\pi(1)=1$)について、$\pi(\mathfrak A)$ は $1$ を含む $*$-部分代数なので、thm-vna-double-commutant から
$$
\pi(\mathfrak A)''=\overline{\pi(\mathfrak A)}^{s}
$$
である。$\pi(\mathfrak A)''$ を $\pi$ が生成する von Neumann 環という。GNS構成 で状態 $\omega$ から得た表現 $\pi_\omega$ に対して $\pi_\omega(\mathfrak A)''$ を考えるのは、表現した作用素の強作用素位相での極限まで含めた環をとることにあたる。
可換子の側には不変部分空間が現れる。閉部分空間 $\mathcal M\subset H$ がすべての $\pi(a)$ で保たれることは、$\mathcal M$ への直交射影 $P$ が $\pi(\mathfrak A)'$ に属することと同値である($\pi(\mathfrak A)$ は随伴で閉じているので、prf-vna-double-commutant の段 2 と同じ計算で $aP=PaP$ から $aP=Pa$ が出る。逆は $aP=Pa$ なら $aP=PaP$)。したがって $\pi$ の不変部分空間は、von Neumann 環 $\pi(\mathfrak A)'$ の射影と 1 対 1 に対応する(Sun00 Remark 3.4.8、p. 122)。
thm-vna-double-commutant の仮定と、von Neumann 環の定義の条件を 1 つずつ外す。
| 外す条件 | 反例 | 成り立たなくなること |
|---|---|---|
| 随伴で閉じている | $2\times2$ の上三角行列全体 $T_2\subset M_2(\mathbb C)$ | $A''=\overline A^{s}$($T_2''=M_2(\mathbb C)$) |
| $1$ を含む | $A=\mathbb C e_{11}\subset M_2(\mathbb C)$ | $A''=\overline A^{s}$($A''$ は対角行列全体) |
| 弱作用素位相で閉じている | $\mathcal K+\mathbb C1\subset B(\ell^2)$($\mathcal K$ はコンパクト作用素全体) | $C^*$-環なら von Neumann 環であること |
1 行目:$T_2$ は $1$ を含む部分代数で、有限次元なのでどの作用素位相でも閉じている(位相ベクトル空間 の定理「有限次元の位相の一意性」)。$e_{ij}$ を行列単位とする。$X=(x_{ij})$ が $e_{12}\in T_2$ と可換なら、$Xe_{12}$ と $e_{12}X$ を比べて $x_{21}=0$、$x_{11}=x_{22}$ であり、$e_{11}$ と可換なら $x_{12}=0$ である。よって $T_2'=\mathbb C1$、$T_2''=M_2(\mathbb C)\ne T_2$ である。$T_2$ は $e_{12}$ を含むが $e_{12}^*=e_{21}$ を含まない。
2 行目:$e_{11}^*=e_{11}=e_{11}^2$ なので $A$ は $*$-部分代数で、有限次元なので閉じている。$X$ が $e_{11}$ と可換であることは $x_{12}=x_{21}=0$ と同値なので $A'$ は対角行列全体であり、対角行列全体と可換な行列は対角行列なので $A''$ も対角行列全体で、$A''\ne A$ である。
3 行目:$\mathcal K$ はノルムで閉じた両側イデアルで(コンパクト作用素 の定理「コンパクト作用素の全体は閉じたイデアル」)、随伴で閉じている(同記事の定理「Schauderの定理」)。$\mathcal K+\mathbb C1$ は、商空間 $B(\ell^2)/\mathcal K$ の 1 次元部分空間(閉じている)の逆像なのでノルムで閉じており、$1$ を含む $C^*$-部分環である。$P_m$ を $e_1,\dots,e_m$ の張る部分空間への直交射影とすると、任意の $T\in B(\ell^2)$ について $P_mTP_m$ は有限階数なので $\mathcal K$ に属し、$\|P_mTP_mx-Tx\|\le\|T\|\|P_mx-x\|+\|P_mTx-Tx\|\to0$ である。よって強作用素位相での閉包は $B(\ell^2)$ で、定理から $(\mathcal K+\mathbb C1)''=B(\ell^2)$ である。偶数番目の座標への射影 $Q$ は $\mathcal K+\mathbb C1$ に属さない。実際 $Q-\lambda1$ がコンパクトなら、$\lambda\ne1$ のとき $(Q-\lambda1)e_{2k}=(1-\lambda)e_{2k}$、$\lambda=1$ のとき $(Q-1)e_{2k+1}=-e_{2k+1}$ が収束する部分列をもたない有界列の像となって矛盾する。
prop-vna-examples の 2 の $\mathcal A$ には、指示関数の掛け算 $M_{\mathbf 1_E}$ という射影が多く入っている。$[0,1]$(Lebesgue 測度)の上では、$M_{\mathbf 1_{[0,1/2]}}$ は連続関数の掛け算作用素の強作用素位相での極限だが、ノルムでの極限ではない。ノルム位相で閉じた $C^*$-環と、強作用素位相で閉じた von Neumann 環の違いがここに現れる。
$\varphi_n(x):=1$($x\le1/2$)、$1-n(x-1/2)$($1/2< x<1/2+1/n$)、$0$(それ以外)は連続で、$0\le\varphi_n\le1$、$\varphi_n\to\mathbf 1_{[0,1/2]}$(各点)なので、優収束定理により各 $f\in L^2$ で $\varphi_nf\to\mathbf 1_{[0,1/2]}f$ である。一方、有界可測関数 $\psi$ と $c>0$ について $E:=\{\lvert\psi\rvert>c\}$ が正の測度をもてば $\|M_\psi\mathbf 1_E\|_2\ge c\,\mu(E)^{1/2}$ なので、$\|M_\psi\|$ は $\lvert\psi\rvert$ の本質的上限以上である。連続な $\varphi$ について $\psi:=\varphi-\mathbf 1_{[0,1/2]}$ を考えると、$1/2$ の十分近くの左右で $\varphi$ の値はほぼ等しいので、$\lvert\psi\rvert\ge1/2-\varepsilon$ となる区間が $1/2$ のどちらかの側にあり、$\|M_\varphi-M_{\mathbf 1_{[0,1/2]}}\|\ge1/2-\varepsilon$($\varepsilon>0$ は任意)である。
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