留数による定積分の計算

同義語:留数計算による実積分evaluation of real integrals by residues

概要

留数による定積分の計算(evaluation of real integrals by residues)とは、実積分を閉曲線積分へ変え、内部の極の留数と付加した経路の評価から値を求める方法である。適用する領域と収束条件を確認して、解析式や積分・級数の値の計算に使う。

$$\newcommand{C}[0]{\mathbb{C}} \newcommand{div}[0]{\mathbin{÷}} \newcommand{N}[0]{\mathbb{N}} \newcommand{Q}[0]{\mathbb{Q}} \newcommand{R}[0]{\mathbb{R}} \newcommand{Z}[0]{\mathbb{Z}} $$

前提知識: Cauchyの積分定理, 留数定理, 広義積分, 三角関数

実積分の原始関数が複雑でも、複素平面で分母の零点を調べると積分の値を求められることがある。たとえば実軸全体にわたる有理関数の積分は、上半平面にある有限個の極の留数に置き換わる。周期的な三角関数の積分は単位円上の積分になり、指数関数の分母をもつ積分は高さ $2\pi$ の長方形で閉じると、下辺と上辺を同じ実積分で表せる。この置き換えは、難しい積分を有限個の局所計算に変える方法である。
ただし留数が計算できただけでは、求めた値が実積分の答えであるとは限らない。閉じるために付け加えた円弧や辺の積分が消えること、極が積分路の上にないこと、もとの広義積分が存在することを別々に確認する必要がある。特に対称な区間 $[-R,R]$ での極限は、両側を独立に無限遠へ送る広義積分と一般には異なる。この違いが実軸上の極や条件収束する振動積分で表面に出る。
この記事では、被積分関数の形から積分路を選ぶ手順を整理し、単位円への置換と長方形による評価を証明する。有理関数の実軸積分は 留数定理 の記事の命題「有理関数の実軸上の積分」を使う。振動する指数因子は Jordanの補題、実軸上の極は Cauchyの主値、冪や対数の分枝は 分岐のある関数の積分 が扱う。どの方法でも、まず計算したい積分の意味を定め、それに合う極限をとる。
複素線積分の定義と長さによる評価は Cauchyの積分定理 の定義「区分的に滑らかな曲線と複素線積分」と命題「複素線積分の基本性質」にある。

定義と使える条件

留数による実積分の評価

実区間上の積分を複素線積分の一部として表し、その線分や円周をほかの経路で閉じ、留数定理と追加した経路の評価によって元の積分を求める方法を、留数による実積分の評価という。閉曲線 $\gamma$ の内部に有限個の極 $a_j$ があり、曲線上には特異点がないとき、反時計回りに一度囲む積分路では
$$\oint_\gamma f(z)\,dz=2\pi i\sum_j\operatorname{Res}(f,a_j)$$
を用いる。ここで $\operatorname{Res}(f,a_j)$ は $a_j$ における Laurent 展開の $(z-a_j)^{-1}$ の係数である。

この等式の基礎は 留数定理 の記事の定理「単連結領域における留数定理」である。留数の定義と一般の回転数を使う形も同記事にある。この記事では円、半円を閉じた曲線、長方形の境界を使い、それぞれの内部を反時計回りに一度囲む。単位円内の点について回転数は $1$、外の点については $0$ であり、長方形も同じ向きで境界をたどれば内部の点の回転数は $1$ である。このため留数の和には内部の極だけを入れる。
留数を求めるときには同記事の命題「極における留数の公式」を使う。単純極 $b$ なら $(z-b)f(z)$ の $z\to b$ の極限であり、$f=u/v$、$v(b)=0$、$v'(b)\ne0$ なら $u(b)/v'(b)$ である。重なった因子がある場合は、分母の零点であるというだけで単純極の公式を使ってはいけない。共通因子が消えて除去可能になることもあるので、約分した関数の極を調べる。計算例は同記事の例「留数の計算例」を参照できる。

実軸全体の積分の意味

実軸上で局所的に可積分な関数 $h$ に対し、通常の広義積分
$$\int_{-\infty}^{\infty}h(x)\,dx$$
が存在するとは、$\int_{-\infty}^{0}h(x)\,dx$ と $\int_0^{\infty}h(x)\,dx$ がそれぞれ有限の極限をもち、その和で値を定められることをいう。一方、$\lim_{R\to\infty}\int_{-R}^Rh(x)\,dx$ だけが存在するとき、それを無限遠での対称な主値という。通常の広義積分が存在すれば主値と一致するが、逆は成立しない。

したがって半円の積分路から対称極限を求めたときには、それを通常の広義積分と呼べる根拠も記す。絶対収束していれば両側の積分が存在するため問題はない。振動積分では絶対収束しなくても、左右それぞれの尾部に部分積分を施して収束を示すことがある。特異点の左右の発散を打ち消して値を付ける操作は別の定義であり、Cauchyの主値 に進む。

公式の表

形積分路・変形使える条件根拠
三角関数の有理式 $R(\cos\theta,\sin\theta)$$z=e^{i\theta}$、単位円変形した有理関数に円周上の極がないthm-rei-unit-circle
有理関数 $P(x)/Q(x)$実線分と上半円実軸上の極なし、$\deg Q\ge\deg P+2$留数定理 の命題「有理関数の実軸上の積分」
$R(x)e^{i\omega x}$$\omega>0$ なら上半円、$\omega<0$ なら下半円円弧上の $R$ の最大値が $0$ に近づく。実積分の収束も確認Jordanの補題
実軸上に単純極がある関数小半円で極をよける対称除外による主値と小円弧の向きを指定Cauchyの主値
$x^{\alpha-1}R(x)$、$\log x$ を含む関数正の実軸を切断した鍵穴分枝と両端の評価を指定分岐のある関数の積分
$e^{ax}/(1+e^x)$高さ $2\pi$ の長方形$0< a<1$thm-rei-rectangle

この表は被積分関数の形に合わせて入口を選ぶためのもので、収束の判定を省くものではない。たとえば $R(x)e^{i\omega x}$ に対しては $e^{i\omega z}$ が減少する側を選ぶが、$\omega=0$ ではその減少が使えない。また冪 $z^{\alpha-1}$ は整数でない $\alpha$ に対して多価になるため、有理関数と同じ半円をそのまま使うことはできない。

単位円に置き換える公式

三角関数の有理式と単位円

$R(u,v)$ を複素係数の有理式とし、$(u,v)=(\cos\theta,\sin\theta)$ で分母が零にならないとする。
$$g(z):=\frac1{iz}R\left(\frac{z+z^{-1}}2,\frac{z-z^{-1}}{2i}\right)$$
を有理関数として約分し、円周 $|z|=1$ 上に極がないとき、
$$\int_0^{2\pi}R(\cos\theta,\sin\theta)\,d\theta =2\pi i\sum_{|b|<1}\operatorname{Res}(g,b)$$
が成り立つ。和には $z=0$ に極がある場合の留数も含める。

$z(\theta)=e^{i\theta}$ とおくと、$0\le\theta\le2\pi$ で単位円を反時計回りに一度たどり、$z'(\theta)=iz(\theta)$ である。円周上で $z\ne0$ なので
$$\cos\theta=\frac{z+z^{-1}}2,\qquad \sin\theta=\frac{z-z^{-1}}{2i},\qquad d\theta=\frac{dz}{iz}$$
が成り立つ。複素線積分の定義から
$$\oint_{|z|=1}g(z)\,dz =\int_0^{2\pi}g(e^{i\theta})ie^{i\theta}\,d\theta =\int_0^{2\pi}R(\cos\theta,\sin\theta)\,d\theta$$
である。約分の前後の関数は、元の分母が零でない円周上で同じ値をもつ。
$g$ は有理関数なので有限個の極しかもたず、円周上には極がない。$g$ の有限の極の集合を $S$ とし、単連結領域 $U=\mathbb C$ と $U\setminus S$ 上の正則関数 $g$、正向きの単位円周に、留数定理 の記事の定理「単連結領域における留数定理」を適用する。円の内部の極の回転数は $1$、外部の極の回転数は $0$ であるため、円周積分は内部の留数の和の $2\pi i$ 倍になる。前の等式と合わせれば結論を得る。$\square$

$z=0$ は実変数の区間のどの点にも対応しないが、閉じた円の内部にある。そのため、変換後に現れた $1/z$ を「元の式になかった因子」として捨てると答えが変わる。逆に、変形した分母に $z=0$ の零点が現れても分子との約分で消える場合があり、分母の零点を機械的にすべて数えるのも誤りである。分母の根、約分、極の位数の順で整理する。
半角置換 $t=\tan(\theta/2)$ も、三角関数の有理式を有理関数に変える方法である。三角関数の有理式の積分 はこの実変数の置換を使い、区間を分けて原始関数を求める。単位円への置換では区間全体を一つの閉曲線にできるため、周期全体の積分に向いている。一方、$0$ から $\pi/2$ までのような短い区間では、円弧を余分な経路で閉じる必要があり、半角置換のほうが直接的なことが多い。

長方形で閉じる公式

指数関数の分母をもつ積分

実数 $a$ が $0< a<1$ を満たすとき、
$$I(a):=\int_{-\infty}^{\infty}\frac{e^{ax}}{1+e^x}\,dx =\frac{\pi}{\sin\pi a}$$
である。積分は絶対収束する。

まず収束を確かめる。$x\le0$ では $0< e^{ax}/(1+e^x)\le e^{ax}$、$x\ge0$ では $0< e^{ax}/(1+e^x)\le e^{-(1-a)x}$ である。$a>0$ と $1-a>0$ により、両側の尾部の積分は有限である。
$F(z)=e^{az}/(1+e^z)$ とし、頂点 $-R,R,R+2\pi i,-R+2\pi i$ をこの順で結ぶ長方形を使う。$R>0$ なら境界に極はなく、内部の極は $z=\pi i$ 一つである。分母の導関数は $e^z$ だから、単純極の公式により
$$\operatorname{Res}(F,\pi i)=\frac{e^{a\pi i}}{e^{\pi i}}=-e^{a\pi i}.$$
留数定理によって長方形の積分は $-2\pi i e^{a\pi i}$ に等しい。
下辺は左から右へ進むため、その積分は $I_R(a):=\int_{-R}^RF(x)\,dx$ である。上辺は右から左へ進み、
$$F(x+2\pi i)=e^{2\pi ia}F(x)$$
なので、上辺の積分は $-e^{2\pi ia}I_R(a)$ となる。ここで上辺の向きを反転させる負号と、関数の値の変化を表す因子を区別する。
右辺上の $z=R+iy$、$0\le y\le2\pi$ に対し、逆三角不等式から $|1+e^{R+iy}|\ge e^R-1$ である。$a$ は実数なので $|e^{a(R+iy)}|=e^{aR}$ であり、右辺の積分の絶対値は
$$2\pi\frac{e^{aR}}{e^R-1} =2\pi\frac{e^{-(1-a)R}}{1-e^{-R}}\longrightarrow0.$$
左辺上では $|1+e^{-R+iy}|\ge1-e^{-R}$ なので、その積分の絶対値は $2\pi e^{-aR}/(1-e^{-R})\to0$ である。どちらも辺の長さが一定であることを使った評価であり、分母が小さくなる中間の高さにも有効である。
以上を長方形の積分に代入し、$R\to\infty$ とすると
$$\bigl(1-e^{2\pi ia}\bigr)I(a)=-2\pi i e^{a\pi i}.$$
$1-e^{2\pi ia}=-2i e^{\pi ia}\sin\pi a$ で、$0< a<1$ では $\sin\pi a\ne0$ だから、割り算をして $I(a)=\pi/\sin\pi a$ を得る。$\square$

この証明では $e^{az}$ 自体の周期性を仮定していない。$a$ が整数でないため上辺には係数 $e^{2\pi ia}$ が現れ、その係数こそが実積分を解くために必要である。分母だけが高さ $2\pi$ で同じ値に戻ることと、関数全体が同じ値に戻ることを混同しない。また、長方形の高さを $\pi$ にすると分母は $1-e^x$ に変わり、上辺はもとの積分と同じ形にならない。高さは特異点の配置と関数の変換則から選ぶ。
変数変換 $t=e^x$ をすると $dx=dt/t$ なので、同じ積分は $\int_0^\infty t^{a-1}/(1+t)\,dt$ になる。分岐のある関数の積分 はこの形を鍵穴の積分路で計算する。長方形では指数関数の上下の辺の関係を使い、鍵穴では冪の上下の岸の関係を使う。答えが一致するのは、どちらも収束する同じ実積分を異なる変数で表しているからである。

計算の手順

  1. 積分の意味を指定する。 有限区間なら連続性を調べ、無限区間なら各尾部の収束を調べる。実軸上の極があるときは、通常の積分か主値かを先に決める。発散する積分を、留数の有限な答えに合わせて主値へ読み替えない。
  2. 被積分関数を複素変数へ延長する。 三角関数なら thm-rei-unit-circle の置換、有理関数なら同じ式の $x$ を $z$ に置き換える。非整数の冪や対数では、定義する領域と偏角を指定する。この段階で円周や実軸上に極があるかを調べる。
  3. 追加する積分路が消える側を選ぶ。 有理関数が十分に減少するなら半円、振動因子があればその絶対値が減る半平面、指数関数の変換則が使えれば長方形を選ぶ。円弧の長さが $R$ に比例する場合、関数が単に $0$ へ近づくだけでは長さとの積が消えるとは限らない。
  4. 内部の極とその留数を計算する。 共通因子を約分したうえで極の位数を決める。境界上の極は内部の極に含めず、積分路を変更するか主値の手法に進む。単純極では分母の導関数の公式を使い、重複極では必要な次数まで微分する。
  5. 閉曲線の等式を先に書く。 求める線分や円周の積分、上辺や円弧の積分、留数の和を一つの式にする。向きによる負号や、上辺で関数が変わる因子をこの時点で入れる。極限を先に省略した式だけで計算しない。
  6. 各追加経路を評価してから極限をとる。 評価に使った定数が積分路のパラメータによらないことを確認する。最後に実数の積分なら虚部が消えたか、正の関数なら答えが正かを点検し、必要なら対称性で区間を半分にする。
    単位円・上半円・高さ2πの長方形 単位円・上半円・高さ2πの長方形
    図の単位円は $\theta=0$ から $2\pi$ への置換の像である。上半円は実軸を左から右へ進んだ後に右から左へ戻り、長方形は下辺を左から右へ進み、右辺・上辺・左辺の順に閉じる。矢印は積分路の向き、点は典型的な内部の極を示す。描いた極の位置は積分ごとに変わるため、図にある点だけを数えるのではなく、実際の分母の根から内部の極を決める。

例題

二つの長さをもつ有理関数

$$\int_{-\infty}^{\infty}\frac{dx}{(x^2+4)(x^2+9)}$$
を求める。使う公式:留数定理 の命題「有理関数の実軸上の積分」と「極における留数の公式」。答え:$\pi/30\approx0.104720$。
上半平面の極は $2i,3i$ である。$2i$ の留数は $1/(4i\cdot5)=1/(20i)$、$3i$ の留数は $1/(6i\cdot(-5))=-1/(30i)$ なので、和は $1/(60i)$ となる。これを $2\pi i$ 倍すれば答えを得る。実軸上の極はなく、分母と分子の次数の差は $4$ なので引用した命題の条件を満たす。実変数での部分分数分解 $\frac15\{(x^2+4)^{-1}-(x^2+9)^{-1}\}$ でも同じ結果になる。

平方した三角関数の分母

$$\int_0^{2\pi}\frac{d\theta}{5+4\sin^2\theta}$$
を求める。使う公式:thm-rei-unit-circle。答え:$2\pi/(3\sqrt5)\approx0.936642$。
$5+4\sin^2\theta=7-2\cos2\theta$ であり、$\phi=2\theta$ と周期性を使えば積分は $\int_0^{2\pi}(7-2\cos\phi)^{-1}d\phi$ に等しい。単位円への置換で $g(z)=1/[i(7z-z^2-1)]$ を得る。分母の根は $(7\pm3\sqrt5)/2$ で、内部には $b=(7-3\sqrt5)/2$ だけがある。その留数は $1/[i(7-2b)]=1/(3i\sqrt5)$ だから、$2\pi i$ 倍すると答えになる。$5+4\sin^2\theta\ge5$ なので円周上で分母は消えない。

長方形による指数型の積分

$$\int_{-\infty}^{\infty}\frac{e^{x/3}}{1+e^x}\,dx$$
を求める。使う公式:thm-rei-rectangle。答え:$2\pi/\sqrt3\approx3.627599$。
$a=1/3$ は $0< a<1$ を満たす。左右の尾部はそれぞれ $e^{x/3}$ と $e^{-2x/3}$ で抑えられ、どちらも積分できる。長方形内部の極は $\pi i$、上辺の係数は $e^{2\pi i/3}$ である。公式に代入すると $\pi/\sin(\pi/3)=2\pi/\sqrt3$ となる。原点付近だけの積分ではなく、左右の異なる減衰率を含む実軸全体の値である。

振動する積分で閉じる側を選ぶ

$$\int_{-\infty}^{\infty}\frac{\cos3x}{x^2+4}\,dx$$
を求める。使う公式:Jordanの補題 の定理「有理関数の Fourier 型積分」。答え:$\frac\pi2e^{-6}\approx0.003894$。
$e^{3iz}$ の絶対値は上半平面で $e^{-3\operatorname{Im}z}$ となるため、上半円を使う。内部の極 $2i$ の留数は $e^{-6}/(4i)$ であり、$2\pi i$ 倍すると $\pi e^{-6}/2$ を得る。実部が求める積分で、虚部は奇関数 $\sin3x/(x^2+4)$ の積分なので零になる。被積分関数の絶対値は $1/(x^2+4)$ 以下であり、通常の広義積分として絶対収束する。

これらの例では、留数の計算の量よりも、変形した積分がどの公式の条件を満たすかが重要である。有理関数の例では次数の差、三角関数の例では円周上の分母、指数型の例ではパラメータの範囲、Fourier 型の例では周波数の符号を確認した。計算の前にこの一行を入れると、使えない公式を途中まで展開してしまうことを避けられる。

使える条件と反例

外す条件反例成り立たなくなること
円周上の極がない$R(\cos\theta,\sin\theta)=1/(1-\cos\theta)$通常の周期積分が存在せず、内部の留数だけでは値を付けられない
通常の広義積分の存在$h(x)=x/(1+x^2)$対称極限 $0$ を通常の積分の値と呼べない
長方形公式の $0< a<1$$a=0$ または $a=1$一方の尾部が減少せず、積分が発散する
指数因子が減る側を選ぶ$e^{i\omega z}$、$\omega>0$ を下半円で使う指数因子が増大し、Jordan の評価で円弧を消せない

最初の反例では $1-\cos\theta=2\sin^2(\theta/2)\le\theta^2/2$ なので、$0< \theta<1$ で $1/(1-\cos\theta)\ge2/\theta^2$ である。右辺の $0$ 近傍の積分は発散する。したがって周期全体の通常の積分も発散し、単位円の $z=1$ の極を「境界だから数えない」として計算を続けることはできない。実積分側での発散と積分路上の特異点が対応している。
二つ目は奇関数なので $\int_{-R}^R x/(1+x^2)\,dx=0$ だが、$\int_0^R x/(1+x^2)\,dx=\tfrac12\log(1+R^2)\to\infty$ である。左側も負に発散するため通常の広義積分は存在しない。主値が存在するという事実を使うなら、求める量を初めから主値として定義しなければならない。左右の発散を足して「零」とする操作は、独立した極限の和の定義には含まれない。
長方形の条件は、証明の都合だけで課したものではない。$a=0$ では $x\le0$ で $1/(1+e^x)\ge1/2$ なので左側の積分が発散する。$a=1$ では $x\ge0$ で $e^x/(1+e^x)\ge1/2$ なので右側が発散する。$a<0$ または $a>1$ ではそれぞれの尾部で増大する。$\pi/\sin\pi a$ を形式的に代入して有限値が出るパラメータでも、それはこの実積分の値ではない。
最後の反例では $z=Re^{-i\theta}$、$0< \theta< \pi$ とすると $|e^{i\omega z}|=e^{\omega R\sin\theta}$ である。円弧の中央では $e^{\omega R}$ になり、有理関数の冪的な減少とは逆向きに働く。絶対値の評価が消えるという根拠は失われる。これは、あらゆる下半円の積分が必ず発散するという主張ではなく、この側を選んで Jordan の補題の結論を適用することが誤りだという反例である。

よくある誤り

誤り正しくはなぜ
$z=e^{i\theta}$ で $d\theta=dz$ とする$d\theta=dz/(iz)$積分路の導関数が $iz$ である
変換で現れた原点の極を無視する約分後の $g$ の内部の極をすべて調べる単位円は原点を囲む
長方形の上辺を下辺と同じ向きで足す上辺は右から左なので負号を付けるprf-rei-rectangle
留数の和が有限なら元の積分も存在すると考える経路の特異点と各尾部の収束を別に確認する境界上の極や主値の反例がある
$\cos\omega x$ の延長に $\cos\omega z$ だけを使う$e^{i\omega z}$ の積分の実部をとる複素平面の $\cos$ は両側で増大する成分をもつ

解法の比較と補足

積分の値を一つ求めることと、パラメータ全体の公式を得ることでは、向く方法が違う。部分分数分解で短く積分できる有理関数なら、留数は極の配置による別の整理を与える。複雑な分母に対しては、実数上で分母を二次式に分けるよりも、複素根の位置と導関数から留数を直接求めるほうが見通しがよい場合がある。それでも、根の近似値しか得られない場合にどの誤差を許すかは数値計算の問題になる。
周期積分では、単位円の方法は一周の向きと内部の極を一度整理すればよい。実変数の半角置換では $\theta=\pi$ で $t$ が無限遠に飛ぶため、区間を分ける必要がある。この点で単位円の方法は区間の切り分けを省けるが、短い区間の積分や原始関数の形そのものが必要な問題では半角置換に利点がある。求めるものが定積分か不定積分かを明確にすると、方法を選びやすい。
長方形の方法と鍵穴の方法の対応は $z\mapsto e^z$ によっても理解できる。高さ $2\pi$ の差は指数写像の同じ実点に戻る一周の差となり、上辺と下辺の係数の差は、鍵穴での偏角 $0$ と $2\pi$ の差になる。したがって同じ係数 $1-e^{2\pi ia}$ が現れる。どちらの経路でも、消える辺や円弧の評価を省いてよいことにはならない。
実用上は、求めた答えの規模も確認するとよい。正の被積分関数の積分が負になったなら、積分路の向きか留数の符号を調べる。偶関数の半直線積分では実軸全体の答えを $2$ で割る。振動積分の値は絶対値をとった積分より小さくなり得るので、数値が小さいことだけを誤りと判断しない。例の $\cos3x/(x^2+4)$ は振動による打ち消しのため、振動しない $1/(x^2+4)$ の積分よりも小さい。
留数定理と基本的な計算法は LebGCCA26 §5.3(pp. 131–135)と BMPS25 §9.2(p. 144)にある。この記事では既存の留数定理を使い、各積分路または級数に必要な収束と評価を上で示した。

関連項目

参考文献

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