Du Val特異点

同義語:Du Val singularityADE特異点有理2重点rational double point

概要

Du Val特異点(Du Val singularity)とは、正規曲面の特異点で、例外曲線がすべて自己交点数 $-2$ の射影直線になる解消をもつものである。例外曲線の交叉行列は負定値であり、正定値な Cartan 行列をもつグラフの分類により、交わり方のグラフは $A_n$・$D_n$・$E_6$・$E_7$・$E_8$ のいずれかの Dynkin 図形になる。Du Val 特異点は有理特異点であり、$ab=z^{n+1}$ の原点は標数によらず $n$ 本の $(-2)$ 曲線の鎖で解消される $A_n$ 型である。複素数体上では、有理2重点や、$\mathbb{C}^2$ の $\mathrm{SU}(2)$ の有限部分群による商の特異点と一致する。

$$\newcommand{C}[0]{\mathbb{C}} \newcommand{div}[0]{\mathbin{÷}} \newcommand{N}[0]{\mathbb{N}} \newcommand{Q}[0]{\mathbb{Q}} \newcommand{R}[0]{\mathbb{R}} \newcommand{Z}[0]{\mathbb{Z}} $$

前提知識: 有理特異点, 通常2重点, 特異点解消, 2次形式, 曲面の交点形式

Du Val特異点(Du Val singularity)は、正規曲面の特異点のうち、解消したときに現れる例外曲線がすべて「自己交点数 $-2$ の射影直線」であるものである。2 次錐 $xy=z^2$ の頂点(通常2重点)がもっとも簡単な例で、ほかに $xy=z^{n+1}$ などの方程式で与えられる特異点がある。
例外曲線どうしの交わり方をグラフに描くと、それは $A_n$・$D_n$・$E_6$・$E_7$・$E_8$ のどれかの形(Dynkin 図形)になる。複素数体の上では、Du Val 特異点は有理2重点、$\mathbb{C}^2$ の $\mathrm{SL}_2(\mathbb{C})$ の有限部分群による商の特異点、($\mathbb{C}^3$ の超曲面の特異点に限れば)局所基本群が有限な特異点などとも一致し、正多面体の対称性や単純 Lie 環の分類と結びつく。
この記事では Du Val 特異点を定義し、主定理として次を証明する。

  • 例外曲線の交叉行列は負定値であり(lem-dv-negative)、その結果、交わり方のグラフは $A_n,D_n,E_6,E_7,E_8$ のどれかである(thm-dv-graph)。核心は、対角成分が $2$ の正定値な整数行列を与えるグラフの分類(thm-dv-dynkin)である。
  • Du Val 特異点は有理特異点である(thm-dv-rational)。
  • $xy=z^{n+1}$ の原点は、ブローアップを繰り返すと $n$ 本の $(-2)$ 曲線の鎖で解消され、$A_n$ 型の Du Val 特異点である(prop-dv-an。標数によらない)。

定義

以下、$k$ を代数閉体とし、正規曲面、点 $x$ の解消 $f\colon Y\to X$($X\setminus\{x\}$ の上で同型)、例外曲線 $C_1,\dots,C_r$、交点数 $D\cdot C_i$、標準因子との交点数 $K\cdot C_i$ は有理特異点の記事の節「Artinの判定法」と同じ意味で使う。$X=\operatorname{Spec}A$ はアフィンとしてよい。
$Y$ 上の閉曲線 $C$ が $C\cong\mathbb{P}^1$ かつ $C\cdot C=-2$ をみたすとき、$C$ を $(-2)$ 曲線という($C\cdot C=-1$ のものは $(-1)$ 曲線で、点のブローアップの例外曲線にあたる。Castelnuovoの収縮定理)。

Du Val特異点

正規曲面 $X$ の特異点 $x$ が Du Val 特異点(Du Val singularity)であるとは、$x$ の解消 $f\colon Y\to X$ で、例外曲線 $C_1,\dots,C_r$ がすべて $(-2)$ 曲線であるものが存在することをいう。

このとき $C_i$ はどれも $(-1)$ 曲線でないので、$f$ は極小解消(例外曲線に $(-1)$ 曲線を含まない解消)である。複素数体の上では極小解消は同型を除いてただ 1 つであり(BHPV04 第 III 章 Theorem (6.2)(p. 106))、Du Val 特異点は「極小解消の例外曲線がすべて種数 $0$・自己交点数 $-2$」という条件で特徴づけられる(Dur79 の特徴づけ A3)。どちらもこの記事では証明しない。$C_i\cong\mathbb{P}^1$ のとき随伴公式 $C_i\cdot C_i+K\cdot C_i=-2$(有理特異点の補題「随伴公式」)により、$(-2)$ 曲線であることは $K\cdot C_i=0$ と同じである。
$\Gamma$ を頂点 $1,\dots,r$ の有限グラフ(ループも多重辺もない)とする。$\Gamma$ の Cartan 行列 $A_\Gamma$ を、対角成分 $2$、頂点 $i,j$ が辺で結ばれていれば $(i,j)$ 成分 $-1$、そうでなければ $0$ の対称行列とし、
$$ q_\Gamma(z):=z^{\top}A_\Gamma z=2\sum_iz_i^2-2\sum_{\{i,j\}\text{ は辺}}z_iz_j $$
とおく。曲線 $C_1,\dots,C_r$ の双対グラフとは、$i\neq j$ について $C_i\cdot C_j$ 本の辺で $i,j$ を結んだグラフのことである。

交叉行列の負定値性

交叉行列は負定値

$x$ を正規曲面の特異点、$f$ をその解消とし、例外曲線 $C_1,\dots,C_r$ はすべて $\mathbb{P}^1$ に同型であるとする。交叉行列 $M=(C_i\cdot C_j)_{i,j}$ は負定値である。

関数の因子を使う

要点:$x$ で消える関数を $Y$ に引き戻すと、例外曲線の正の係数の和 $D=\sum m_iC_i$ で $D\cdot C_j\le0$(どこかで $<0$)となるものが得られ、これから負定値性が従う。

詳細

$E=\bigcup C_i$ は連結である(形式関数の定理の定理「Zariski の連結性定理」)。$C_i\cap C_j\neq\emptyset$ と $C_i\cdot C_j>0$ は同値なので(交点数は交わりの長さの和)、$C_i\cdot C_j>0$ で結んだグラフは連結である。

$0\neq h\in\mathfrak{m}_x$ をとる。$f^*h$ は $E$ の上で消えるので、$\operatorname{div}(f^*h)=\sum_im_iC_i+H$($m_i\ge1$、$H$ は例外曲線を成分に含まない有効因子)と書ける。$V(h)$ は $x$ を通る曲線なので、$f$ の固有性から $V(h)\setminus\{x\}$ の逆像の閉包は $E$ と交わり、$H$ はある $C_j$ と交わる。主因子の制限は自明な可逆層なので $0=\operatorname{div}(f^*h)\cdot C_j$ であり、$v_j:=(Mm)_j=-H\cdot C_j\le0$、少なくとも 1 つの $j$ で $v_j< 0$ である。

$z\in\mathbb{R}^r$ を $z_i=m_iy_i$ と書くと、$M$ の対称性から $$z^{\top}Mz=\sum_im_iv_i\,y_i^2-\frac12\sum_{i\neq j}M_{ij}m_im_j(y_i-y_j)^2$$ である(右辺の第 2 項を展開すると $\sum_{i\neq j}M_{ij}m_im_jy_iy_j-\sum_iy_i^2m_i\sum_{j\neq i}M_{ij}m_j$ になる)。$i\neq j$ で $M_{ij}\ge0$ なので両項とも $\le0$ である。$z^{\top}Mz=0$ なら、第 2 項から $M_{ij}>0$ のとき $y_i=y_j$、グラフの連結性からすべての $y_i$ が等しい値 $c$ になり、第 1 項 $c^2\sum m_iv_i$ が $0$ なので $c=0$、すなわち $z=0$ である。$\square$

例外曲線が $\mathbb{P}^1$ とは限らない一般の場合にも交叉行列は負定値である(Mumford。複素曲面については BHPV04 第 III 章 Theorem (2.1)(p. 91)の Grauert の判定法が、逆に負定値な曲線の配置が 1 点に縮むことも含めて述べている。この記事では証明しない)。

正定値なグラフの分類

$p,q,s\ge1$ について、中心の頂点から 3 本の腕が出て、腕の頂点の数が中心を含めてそれぞれ $p,q,s$ であるグラフを $T_{p,q,s}$ とする(頂点は $p+q+s-2$ 個)。$T_{1,q,s}$ は $q+s-1$ 個の頂点の道である。

  • $A_n=T_{1,1,n}$($n\ge1$、$n$ 個の頂点の道)
  • $D_n=T_{2,2,n-2}$($n\ge4$)
  • $E_6=T_{2,3,3}$、$E_7=T_{2,3,4}$、$E_8=T_{2,3,5}$
    これらを Dynkin 図形(単純レース型)という。たとえば $D_5$ と $E_8$ は次の形である($\circ$ が頂点)。
    $$ \xymatrix{ & & \circ \ar@{-}[d] & & & & \\ \circ \ar@{-}[r] & \circ \ar@{-}[r] & \circ \ar@{-}[r] & \circ \ar@{-}[r] & \circ \ar@{-}[r] & \circ \ar@{-}[r] & \circ } \qquad \xymatrix{ & \circ \ar@{-}[d] & & \\ \circ \ar@{-}[r] & \circ \ar@{-}[r] & \circ \ar@{-}[r] & \circ } $$
    左が $E_8$(中心から長さ $1$・$2$・$4$ の枝)、右が $D_5$(中心から長さ $1$・$1$・$2$ の枝)である。
正定値な Cartan 行列をもつグラフ

$\Gamma$ を連結な有限グラフとする。$q_\Gamma$ が正定値であるための必要十分条件は、$\Gamma$ が $A_n$($n\ge1$)、$D_n$($n\ge4$)、$E_6$、$E_7$、$E_8$ のどれかであることである。このとき
$$ \det A_{A_n}=n+1,\quad\det A_{D_n}=4,\quad\det A_{E_6}=3,\quad\det A_{E_7}=2,\quad\det A_{E_8}=1 $$
である。

零ベクトルを含む部分グラフを避ける

行列式。$v$ を $\Gamma$ の端点(次数 $1$ の頂点)、$w$ をその隣とすると、$v$ の行で展開して
$$ \det A_\Gamma=2\det A_{\Gamma-v}-\det A_{\Gamma-v-w} $$
である(空グラフの行列式は $1$ とする)。道では $\det A_{A_n}=2n-(n-1)=n+1$ が帰納法で従う。$D_n=T_{2,2,n-2}$ の長い腕の端を外すと $D_{n-1}$、さらにその隣を外すと $D_{n-2}$ になり、$D_3:=T_{2,2,1}=A_3$(行列式 $4$)と約束する。$D_4$ では 2 つめの削除の後に辺のない 2 頂点(行列式 $4$)が残るので、$\det A_{D_4}=2\cdot4-4=4$ であり、$n\ge5$ でも $\det A_{D_n}=2\cdot4-4=4$ が帰納的に成り立つ。$E_n:=T_{2,3,n-3}$ でも同様に $E_5=D_5$(行列式 $4$)、$E_4=A_4$(行列式 $5$)から $\det A_{E_6}=8-5=3$、$\det A_{E_7}=6-4=2$、$\det A_{E_8}=4-3=1$ を得る。
十分性。頂点を次の順に並べると、左上の $j$ 次の小行列は再び Dynkin 図形(連結)の Cartan 行列になる:$A_n$ は道の順、$D_n$ と $E_n$ は長い腕の端から中心まで($A$ 型の道)、続いて残りの腕を中心に近い順に足していく($D_n$ では $A_{n-1}$ を経て $D_n$、$E_n$ では $A_{n-2}$、$A_{n-1}$ を経て $E_n$)。上の計算により、それらの行列式はすべて正なので、2次形式の定理「正定値であるための条件」により $q_\Gamma$ は正定値である。
必要性。$q_\Gamma$ を正定値とする。
(i) $\Gamma'$ が $\Gamma$ の部分グラフ(頂点と辺の一部)で、$z\ge0$ が $\Gamma'$ の頂点の上にしか値をもたなければ、$q_\Gamma(z)\le q_{\Gamma'}(z)$ である($\Gamma$ にだけある辺の項 $-2z_iz_j$ は $\le0$)。したがって $\Gamma$ は、$q_{\Gamma'}(z)=0$ となる $0$ でない $z\ge0$ をもつ部分グラフ $\Gamma'$ を含まない。
(ii) 次のグラフ(拡大 Dynkin 図形)はそのような $z$ をもつ(各頂点の値を書く。確かめは下の折りたたみ)。長さ $\ge3$ の閉路(すべて $1$)、$\tilde D_4$=中心と 4 本の葉(中心 $2$、葉 $1$)、$\tilde D_m$=2 つの分岐点を道で結び各分岐点に葉を 2 本ずつ付けたもの(道の頂点 $2$、葉 $1$)、$\tilde E_6=T_{3,3,3}$、$\tilde E_7=T_{2,4,4}$、$\tilde E_8=T_{2,3,6}$。
(iii) 閉路がないので $\Gamma$ は木である。次数 $4$ 以上の頂点があれば $\tilde D_4$ を含む。分岐点(次数 $3$)が 2 つあれば、その間の道と各分岐点の道の外の 2 本の辺で $\tilde D_m$ を含む。よって $\Gamma$ は道 $A_n$ か、ただ 1 つの分岐点をもつ $T_{p,q,s}$($2\le p\le q\le s$)である。$T_{p',q',s'}\subset T_{p,q,s}$($p'\le p$ など)なので、$\tilde E_6$ を含まないことから $p=2$、$\tilde E_7$ を含まないことから $q\le3$、$q=3$ なら $\tilde E_8$ を含まないことから $s\le5$ である。残るのは $T_{2,2,s}=D_{s+2}$ と $T_{2,3,3},T_{2,3,4},T_{2,3,5}$ である。$\square$

拡大 Dynkin 図形の零ベクトルの確かめ

$q_\Gamma(z)=2\sum z_i^2-2\sum_{\text{辺}}z_iz_j$ を計算する。閉路($m$ 頂点):$2m-2m=0$。$\tilde D_4$:$2(4+4)-2\cdot(4\cdot2)=0$。$\tilde D_m$(道の頂点 $\ell\ge2$ 個):$2(4\ell+4)-2\bigl(4(\ell-1)+4\cdot2\bigr)=0$。$\tilde E_6$(中心 $3$、各腕 $2,1$):$2(9+3\cdot5)-2\cdot3(6+2)=48-48=0$。$\tilde E_7$(中心 $4$、長い腕 $3,2,1$ が 2 本、短い腕 $2$):$2(16+2\cdot14+4)-2(2\cdot12+2\cdot6+2\cdot2+8)=96-96=0$。$\tilde E_8$(中心 $6$、腕 $3$/$4,2$/$5,4,3,2,1$):$2(36+9+20+55)-2(18+24+8+30+20+12+6+2)=240-240=0$。

例外曲線のグラフ

Du Val特異点の双対グラフ

$x$ を Du Val 特異点、$f$ を def-dv の解消とする。

  1. $i\neq j$ なら $C_i\cdot C_j\in\{0,1\}$ である。すなわち 2 本の例外曲線は交わらないか、1 点で横断的に交わる。
  2. 双対グラフ $\Gamma$ は連結で、交叉行列は $-A_\Gamma$ に等しい。
  3. $\Gamma$ は $A_n$($n\ge1$)、$D_n$($n\ge4$)、$E_6$、$E_7$、$E_8$ のどれかである。

lem-dv-negative により交叉行列 $M$ は負定値である。$i\neq j$ について $z=e_i+e_j$ とおくと $0>z^{\top}Mz=-2-2+2\,C_i\cdot C_j$ なので $C_i\cdot C_j\le1$ である。$C_i\cdot C_j$ は交わりの長さの和なので、$1$ なら交点は 1 つで長さ $1$、すなわち横断的である。よって双対グラフは多重辺をもたず、対角成分 $C_i\cdot C_i=-2$ と合わせて $M=-A_\Gamma$ である。連結性は lem-dv-negative の証明の最初の段落による。$q_\Gamma(z)=-z^{\top}Mz$ は正定値なので、thm-dv-dynkin により 3 が従う。$\square$

この型を Du Val 特異点の型という。局所Picard群の記事の命題「交叉行列による有限性と自己双対性」により、局所 Picard 群の成分群 $NS(U)$ の位数は $|\det M|=\det A_\Gamma$、すなわち $A_n$ で $n+1$、$D_n$ で $4$、$E_6,E_7,E_8$ でそれぞれ $3,2,1$ である(同記事の引用 (E1)(E3) のもとで)。

有理性

Du Val特異点は有理特異点

Du Val 特異点は有理特異点である。

算術種数が正にならないこと

$f$ を def-dv の解消とする。各 $C_i$ は $\mathbb{P}^1$ で $C_i\cdot C_i=-2$ なので、随伴公式から $K\cdot C_i=0$、したがって任意のサイクル $Z=\sum r_iC_i$ について $K\cdot Z=0$ である。$Z\cdot Z=z^{\top}Mz$($z=(r_i)$)は、lem-dv-negative により負であり、$M$ の対角成分が $-2$ で非対角成分が整数なので偶数である。よって $Z\cdot Z\le-2$ であり、有理特異点の補題「サイクルの算術種数」により
$$ p_a(Z)=1+\tfrac12(Z\cdot Z+K\cdot Z)=1+\tfrac12Z\cdot Z\le0 $$
である。有理特異点の定理「Artinの判定法」の 3 ⇒ 1 により、$x$ は有理特異点である。$\square$

逆に、複素数体上で有理特異点のうち重複度が $2$ のもの(有理2重点)は Du Val 特異点である(Dur79 Theorem A の特徴づけ A2 と A3 の同値。この記事では証明しない)。$Z\cdot C_i\le0$(すべての $i$)をみたす最小のサイクル $Z$(基本サイクル)は、Du Val 特異点では $Z\cdot Z=-2$ をみたす(BHPV04 第 III 章 Proposition (3.9)(p. 96))。有理特異点が 2 重点であることと基本サイクルが $Z\cdot Z=-2$ をみたすことは同値であり(Dur79 §3 の (iii) が Artin の結果として引用している)、この意味でも Du Val 特異点は 2 重点である(いずれもこの記事では証明しない)。

An型の特異点

An型の特異点の解消

$n\ge1$ とし、$X_n=V(ab-z^{n+1})\subset\mathbb{A}^3$(座標 $a,b,z$)とする($k$ の標数は任意)。特異点をブローアップして狭義変換をとる操作を繰り返すと、原点の解消 $f\colon Y\to X_n$ が得られ、その例外曲線は $(-2)$ 曲線 $C_1,\dots,C_n$ で、$C_i\cdot C_{i+1}=1$、$|i-j|\ge2$ なら $C_i\cap C_j=\emptyset$ をみたす。したがって $X_n$ の原点は $A_n$ 型の Du Val 特異点である。

$n=1$ は 2 次錐で、標数が $2$ でなければ通常2重点であり、通常2重点の定理「通常2重点のブローアップ」の $n=2$ の場合にあたる。証明の要点は、1 回のブローアップで $X_n$ が $X_{n-2}$ と 2 本の直線に分かれることと、$X_n$ の上の 2 形式
$$ \sigma=\frac{da\wedge dz}{a}=-\frac{db\wedge dz}{b} $$
($X_n$ 上で $a\,db+b\,da=(n+1)z^n\,dz$ から 2 つの式は一致する)が、解消の上で至る所 $0$ にならない 2 形式に延びることである。後者から $K\cdot C_i=\deg(\omega_Y|_{C_i})=0$ となり、随伴公式で $C_i\cdot C_i=-2$ がわかる。

ブローアップの図と 2 形式

要点:原点のブローアップで $X_n$ の狭義変換は、$a$ と $b$ の図では滑らか、$z$ の図では $X_{n-2}$ になる。例外集合は射影化した接錐 $V_+(ab)$、すなわち 2 本の直線で、その交点が $X_{n-2}$ の原点である。$n-2$ についての帰納法で鎖がつながる。

詳細

$D=\{a=z=0\}$、$D'=\{b=z=0\}$($X_n$ 上の 2 本の直線)とし、$m\ge1$ について次の主張 $S(m)$ を示す:特異点のブローアップの繰り返しで解消 $Y_m\to X_m$ が得られ、(i) 例外曲線は $\mathbb{P}^1$ に同型な $C_1,\dots,C_m$ で上の鎖の形に交わり、(ii) $D,D'$ の狭義変換 $\tilde D,\tilde D'$ は交わらず、$\tilde D$ は例外集合と $C_1\setminus C_2$ の 1 点でだけ、$\tilde D'$ は $C_m\setminus C_{m-1}$ の 1 点でだけ横断的に交わり($m=1$ なら $C_0,C_2$ は空とみなす)、(iii) $\sigma$ は $Y_m$ 上の至る所 $0$ でない 2 形式に延びる。

ブローアップの図。$\mathbb{P}^2$ の斉次座標を $[a:b:z]$ とする。図 $a$($b=ab_1$、$z=az_1$)で $ab-z^{m+1}=a^2(b_1-a^{m-1}z_1^{m+1})$ なので狭義変換は $b_1=a^{m-1}z_1^{m+1}$ で、座標 $(a,z_1)$ の平面に同型である。$dz=a\,dz_1+z_1da$ から $\sigma=da\wedge dz_1$ で、これは $0$ にならない。図 $b$ も対称で $\sigma=-db\wedge dz_1$ である。図 $z$($a=za_2$、$b=zb_2$)で狭義変換は $a_2b_2=z^{m-1}$、すなわち $X_{m-2}$($m=1$ なら $a_2b_2=1$)であり、$da=z\,da_2+a_2dz$ から $\sigma=da_2\wedge dz/a_2$ は $X_{m-2}$ の同じ形の 2 形式である。例外集合は $z=0$ での $a_2b_2=z^{m-1}$、つまり $m\ge2$ なら直線 $L=\{a=0\}$ と $L'=\{b=0\}$、$m=1$ なら 2 次曲線 $\{ab=z^2\}$ である。$D$ の方向は点 $[0:1:0]$ で、図 $b$ の座標 $(b,z_1)$ で $\tilde D=\{z_1=0\}$、例外曲線は $\{b=0\}$ なので横断的に 1 点で交わり、その点は図 $z$ になく、$m\ge2$ なら $L'$ にもない。$D'$ も同様に $[1:0:0]$ で交わる。

$m=1,2$。$m=1$ では狭義変換は滑らか($a_2b_2=1$ の上では $a_2$ が単元で $\sigma$ は生成元)で、例外曲線は $\mathbb{P}^1$ に同型な 2 次曲線 1 本である。$m=2$ では図 $z$ の $a_2b_2=z$ は座標 $(a_2,b_2)$ の平面で、$\sigma=da_2\wedge db_2$、$L,L'$ はその座標軸として原点で横断的に交わる。どちらも $S(m)$ が成り立つ。

$m\ge3$。1 回目のブローアップの後、特異点は図 $z$ の原点 $p$ だけで、その近くは $X_{m-2}$ であり、$L,L'$ は $X_{m-2}$ の $D,D'$ にあたる。$S(m-2)$ の解消を $p$ の上で行うと、例外曲線は $\tilde L$、$S(m-2)$ の鎖 $C'_1,\dots,C'_{m-2}$、$\tilde L'$ で、$S(m-2)$ の (ii) から $\tilde L$ は $C'_1$ とだけ、$\tilde L'$ は $C'_{m-2}$ とだけ 1 点で横断的に交わり、$\tilde L\cap\tilde L'=\emptyset$ である。$\tilde L\to L$ は滑らかな曲線の固有双有理射なので同型で、$\tilde L\cong\mathbb{P}^1$ である。$C_1=\tilde L$、$C_{i+1}=C'_i$、$C_m=\tilde L'$ とおけば (i) が成り立ち、$\tilde D,\tilde D'$ は $p$ から離れた点で $C_1,C_m$ に交わるので (ii) も成り立つ。(iii) は、図 $a,b$ と、図 $z$ の $p$ の外($a_2\neq0$ なら座標 $(a_2,z)$ で $\sigma=da_2\wedge dz/a_2$ が生成元、$b_2\neq0$ でも同様。$a_2=b_2=0$ なら $z=0$ で $p$ になる)と、$S(m-2)$ の (iii) による。

結論。$Y=Y_n$ 上に至る所 $0$ でない 2 形式があるので $\omega_Y\cong\mathcal{O}_Y$、$K\cdot C_i=0$ であり、有理特異点の補題「随伴公式」から $C_i\cdot C_i=-2$ である。$\square$

$n=1$ の例外曲線 $C_1$ は自己交点数 $-2$、$n=2$ では 2 本の $(-2)$ 曲線が 1 点で交わり、交叉行列は $\begin{pmatrix}-2&1\\1&-2\end{pmatrix}$ である。局所Picard群の記事の例「An型の特異点の交叉行列」が引用として認めている幾何の事実のうち、例外曲線の配置はこの命題で示される。

方程式と同値な特徴づけ

複素数体上の Du Val 特異点は、次の方程式の原点と(解析的に)同型である。逆にこれらの原点は対応する型の Du Val 特異点である(BHPV04 第 III 章 Theorem (7.1)・(7.3) と Table 1(pp. 107–110)、Dur79 Table 1。この記事では証明しない)。

型方程式例外曲線の本数$\det A_\Gamma$
$A_n$($n\ge1$)$x^2+y^2+z^{n+1}=0$$n$$n+1$
$D_n$($n\ge4$)$x^2+y^2z+z^{n-1}=0$$n$$4$
$E_6$$x^2+y^3+z^4=0$$6$$3$
$E_7$$x^2+y^3+yz^3=0$$7$$2$
$E_8$$x^2+y^3+z^5=0$$8$$1$

$A_n$ の $x^2+y^2+z^{n+1}$ は、$u=x+iy$、$v=x-iy$ とおけば prop-dv-an の $uv+z^{n+1}$ になる。複素数体上では、Du Val 特異点であることは次のそれぞれと同値である(Dur79 Theorem A。この記事では証明しない):有理特異点で $\mathbb{C}^3$ の超曲面になる(有理2重点)こと、ブローアップだけで解消される 2 重点であること、$\mathrm{SU}(2)$ の有限部分群 $G$ による商 $\mathbb{C}^2/G$ と同型であること(Dur79 Proposition 5.2)。また $\mathbb{C}^3$ の超曲面の特異点については、局所基本群が有限であることとも同値である(超曲面に限らなければ、局所基本群が有限でも Du Val 特異点とは限らない。たとえば $\mathbb{C}^2$ を $(u,v)\mapsto(\zeta u,\zeta v)$($\zeta^3=1$、$\zeta\neq1$)で割った商は、局所基本群が位数 $3$ の巡回群だが、原点のブローアップによる極小解消の例外曲線は自己交点数 $-3$ の $\mathbb{P}^1$ である)。$\mathrm{SU}(2)$ の商の例として、$A_n$ は、$\eta$ を $1$ の原始 $n+1$ 乗根として、位数 $n+1$ の巡回群 $\{\operatorname{diag}(\eta^j,\eta^{-j})\}_j$ の商で、不変式 $u^{n+1},v^{n+1},uv$ が $ab=z^{n+1}$ をみたす。

反例

外す条件反例成り立たなくなること
例外曲線がすべて $(-2)$ 曲線$A_1$ の解消を例外曲線上の 1 点でさらにブローアップしたもの交叉行列が $-A_\Gamma$ になる
$q_\Gamma$ が正定値$\tilde E_8=T_{2,3,6}$$\Gamma$ は $A,D,E$ 型のどれか
$\Gamma$ が連結辺のない 2 頂点同上
反例の確かめ

1 行目:$A_1$ の解消の例外曲線 $C$($C\cdot C=-2$)上の点でブローアップすると、新しい例外曲線 $E$ は $(-1)$ 曲線で、$C$ の狭義変換 $C'$ は $C'\cdot C'=-3$、$C'\cdot E=1$ をみたす(滑らかな点を通る滑らかな曲線の狭義変換は $\pi^*C-E$。ブローアップの定理「$(-1)$ 曲線とCastelnuovoの縮約定理」の後の注意「出典」が引く公式 $\tilde C=\pi^*C-rE$ の $r=1$ の場合)。交叉行列 $\begin{pmatrix}-3&1\\1&-1\end{pmatrix}$ は負定値(行列式 $2$、対角成分が負)だが $-A_\Gamma$ の形でない。同じ特異点でも、極小でない解消では例外曲線が $(-2)$ 曲線にならない。
2 行目:prf-dv-dynkin の確かめのとおり $q(z)=0$ となる $z\neq0$ があり、正定値でない。$\tilde E_8$ は連結で、すべての対角成分が $2$ だが、Dynkin 図形ではない。
3 行目:$q$ は $2z_1^2+2z_2^2$ で正定値だが、グラフは連結でなく一覧にない(各連結成分は $A_1$)。幾何の場面では、例外集合の連結性によりこの状況は起きない。

関連項目

参考文献

[1]
Wolf P. Barth, Klaus Hulek, Chris A. M. Peters, Antonius Van de Ven, Compact Complex Surfaces, 2nd ed., Ergebnisse der Mathematik und ihrer Grenzgebiete, 3. Folge, 4, Springer, 2004, 第 III 章 Theorem (2.1)(p. 91、Grauert の判定法)、Proposition (2.5)(p. 92)、Proposition (3.9)(p. 96)、Theorem (6.2)(p. 106、極小解消)、§7 の Theorem (7.1)・(7.3) と Table 1(pp. 107–110)
[2]
Alan H. Durfee, Fifteen characterizations of rational double points and simple critical points, L'Enseignement Mathématique 25, 1979, Theorem A(特徴づけ A1–A7)、§3(特徴づけ A3、(iii)、Lemma 3.1)、§5 Proposition 5.2、Table 1

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