三平方の定理(Pythagorean theorem)とは、角 $C$ が直角の三角形 $ABC$ で $a=BC$、$b=CA$、$c=AB$ とするとき $a^2+b^2=c^2$ が成り立つという定理である。面積の組み替え、Euclid『原論』第 I 巻命題 47、相似の 3 通りで示せる。逆に 3 辺が $a^2+b^2=c^2$ を満たせば $\angle C=90^\circ$ である。角 $C$ が鋭角なら $a^2+b^2>c^2$、鈍角なら $a^2+b^2<c^2$ で、逆も成り立つ。ベクトルでは $\lvert\vec u+\vec v\rvert^2=\lvert\vec u\rvert^2+\lvert\vec v\rvert^2$ と $\vec u\cdot\vec v=0$ の同値として読める。平行線公準の成り立たない球面の上では成り立たない。
直角三角形で、直角の向かいの辺を 斜辺 という。中学では「直角をはさむ 2 辺の長さを $a,b$、斜辺の長さを $c$ とすると $a^2+b^2=c^2$」と習う。これが 三平方の定理 である。高校では、座標平面の 2 点間の距離、三角比の相互関係 $\sin^2\theta+\cos^2\theta=1$、余弦定理、ベクトルの大きさなど、長さを測る公式のほとんどがこの定理から出てくる。まず数値で確かめる。
辺が 3、4、5 の直角三角形の 3 辺の上の正方形。格子を数えると 9 + 16 = 25 になる
この記事で答える問いは次の 4 つである。
| 高校の事実 | この記事の言葉 | 大学の言葉 |
|---|---|---|
| $a^2+b^2=c^2$ | 斜辺の正方形は 2 つの正方形の和 | 直交するベクトルの和のノルム |
| $a^2+b^2=c^2$ なら直角 | 定理の逆(合同で示す) | 内積 $0$ と同値 |
| $a^2+b^2>c^2$ なら $C$ は鋭角 | 垂線の足の位置で決まる | 内積の符号 |
| 2 点間の距離の公式 | 座標軸に平行な直角三角形 | ユークリッド距離 |
この記事では、三角形 $ABC$ の頂点 $A,B,C$ の向かいの辺の長さを $a=BC$、$b=CA$、$c=AB$ と書き、角 $C$ を直角とする場合を主に考える。このとき $c$ が斜辺である。
$\angle C=90^\circ$ の直角三角形 $ABC$ で、$a=BC$、$b=CA$、$c=AB$ とすると
$$
a^2+b^2=c^2
$$
が成り立つ。つまり、斜辺の上の正方形の面積は、直角をはさむ 2 辺の上の正方形の面積の和に等しい。
$a^2$ は「長さ $a$ の 2 乗」であると同時に「一辺 $a$ の正方形の面積」でもある。以下の 3 つの証明のうち、はじめの 2 つは面積として、3 つ目は長さの比として $a^2$ を扱う。
一辺 a+b の正方形の四隅に合同な直角三角形を 4 個置くと、中に一辺 c の正方形が残る
同じ 4 個の三角形を並べ替えると、一辺 a の正方形と一辺 b の正方形が残る
左の図と右の図は、どちらも一辺 $a+b$ の正方形で、同じ 4 個の直角三角形を含んでいる。残りの部分の面積も等しいはずで、左では $c^2$、右では $a^2+b^2$ である。これを一行ずつ確かめる。
方針:一辺 $a+b$ の正方形の面積を 2 通りに書き、4 個の三角形の面積を引く。左の図の真ん中の四角形が本当に正方形であることを、角の大きさで確かめるのが要点である。
段 1(左の図の置き方)。一辺 $a+b$ の正方形 $WXYZ$ の各辺の上に、頂点から長さ $a$ の点をとる($WX$ の上に $W$ から $a$、$XY$ の上に $X$ から $a$、以下同様にぐるりと回る)。各辺はこの点で長さ $a$ と $b$ に分かれる。正方形の各頂点では、長さ $a$ と $b$ の 2 辺が直角をはさむので、四隅に直角三角形が 4 個できる。2 辺とその間の角がそれぞれ等しいので、4 個はどれも三角形 $ABC$ と合同であり(三角形の合同条件)、斜辺はどれも $c$ である。
段 2(真ん中は正方形)。真ん中の四角形の 4 辺は、4 個の三角形の斜辺なので、どれも長さ $c$ である。次に角を見る。三角形 $ABC$ の直角でない 2 つの角を $\alpha$、$\beta$ とすると、内角の和が $180^\circ$ なので(三角形の内角の和)$\alpha+\beta=90^\circ$ である。大きい正方形の辺の上の点(たとえば $WX$ の上の点)では、一直線の角 $180^\circ$ が、隣り合う 2 個の三角形の角 $\alpha$、$\beta$ と、真ん中の四角形の角 $\theta$ に分かれる。よって
$$
\theta=180^\circ-(\alpha+\beta)=180^\circ-90^\circ=90^\circ
$$
である。4 つの角すべてで同じなので、真ん中の四角形は 4 辺が $c$、4 つの角が直角の四角形、つまり一辺 $c$ の正方形である。
段 3(面積を 2 通りに書く)。大きい正方形の面積は $(a+b)^2$ である。一方、それは 4 個の三角形と真ん中の正方形に分かれるので
$$
(a+b)^2=\underbrace{4\cdot\frac12ab}_{\text{三角形 4 個}}+\underbrace{c^2}_{\text{真ん中}}
$$
である。
段 4(展開して比べる)。左辺を展開すると $a^2+2ab+b^2$、右辺は $2ab+c^2$ なので
$$
a^2+2ab+b^2=2ab+c^2
$$
である。両辺から $2ab$ を引いて $a^2+b^2=c^2$ を得る。$\square$
右の図は、段 3・段 4 の計算を図で見せたものである。大きい正方形から同じ 4 個の三角形(2 個ずつ組にすると $a\times b$ の長方形 2 枚)を取り除くと、左では $c^2$、右では $a^2+b^2$ が残る。式の計算だけでも証明は完結しているが、右の図があると「なぜ等しいか」が一目で分かる。
$a=3$、$b=4$ のとき、左の図の真ん中の正方形の面積と、右の図の 2 つの正方形の面積の和は、どちらも $25$ になる。
大きい正方形の面積は $(3+4)^2=49$、三角形 1 個の面積は $\dfrac12\cdot3\cdot4=6$ で、4 個で $24$ である。左の図の真ん中の正方形の面積は $49-24=25=5^2$、右の図の 2 つの正方形の面積の和は $3^2+4^2=9+16=25$ で、一致する。
古代ギリシャの Euclid『原論』第 I 巻の命題 47 は、三平方の定理を次の形で証明している(Hea56)。斜辺の上の正方形を、直角の頂点から下ろした垂線で 2 つの長方形に分け、それぞれが他の 2 辺の上の正方形と同じ面積であることを示す。ここでは三角形 $ABC$($\angle C=90^\circ$)の外側に 3 つの正方形を描いて、次のように名前を付ける(図 4)。
Euclid の証明の図。赤い線分 DB と破線 CP でできる 2 つの三角形は合同で、正方形 ACED と長方形 AHLP はどちらもその三角形の 2 倍の面積になる
三角形の 1 辺を底辺として固定し、残りの頂点を底辺に平行な直線の上で動かしても、面積は変わらない。特に、長方形(または正方形)の 1 辺を底辺とし、残りの頂点を向かいの辺を含む直線の上にとった三角形の面積は、その長方形の面積のちょうど半分である。
三角形の面積は $\dfrac12\times(\text{底辺})\times(\text{高さ})$ で、高さは頂点と底辺を含む直線の距離である。平行な 2 直線の距離はどこで測っても同じなので、頂点を平行線の上で動かしても高さは変わらず、面積も変わらない。長方形 $\text{(縦)}\times\text{(横)}$ の 1 辺を底辺とし、頂点を向かいの辺を含む直線の上にとると、高さはもう一方の辺の長さに等しいので、面積は長方形の半分である。$\square$
「平行な 2 直線の距離はどこでも同じ」は、平行線公準(平行線公準(高校数学))を使って示される事実である。この点は後で比較表にまとめる。
要点:3 点 $E,C,B$ は一直線に並ぶ。三角形 $DAB$ と三角形 $CAP$ は 2 辺とその間の角が等しく合同で、lem-pth-parallel により前者の面積は正方形 $ACED$ の半分、後者の面積は長方形 $AHLP$ の半分である。よって $b^2=c\cdot AH$ となる。同じく $a^2=c\cdot HB$ で、足すと $a^2+b^2=c^2$ である。
段 1(3 点 $E,C,B$ は一直線)。正方形 $ACED$ の角なので $\angle ACE=90^\circ$、仮定から $\angle ACB=90^\circ$ である。$E$ と $B$ は直線 $AC$ の反対側にあるので、$\angle ECB=90^\circ+90^\circ=180^\circ$ となり、$E,C,B$ は一直線に並ぶ。したがって直線 $EB$ は $AD$ に平行である(正方形の向かい合う辺 $AD$ と $CE$ は平行)。
段 2(合同な三角形)。三角形 $DAB$ と三角形 $CAP$ を比べる。$AD=AC$(正方形 $ACED$ の辺)、$AB=AP$(正方形 $ABQP$ の辺)である。間の角は$$\angle DAB=\angle DAC+\angle CAB=90^\circ+\angle CAB,\qquad \angle CAP=\angle CAB+\angle BAP=\angle CAB+90^\circ$$で等しい。2 辺とその間の角がそれぞれ等しいので、三角形 $DAB$ と三角形 $CAP$ は合同であり(三角形の合同条件)、面積も等しい。
段 3(三角形 $DAB$ は正方形の半分)。三角形 $DAB$ の底辺を $AD$ とすると、頂点 $B$ は段 1 により、$AD$ の向かいの辺 $CE$ を含む直線の上にある。lem-pth-parallel により、三角形 $DAB$ の面積は正方形 $ACED$ の面積の半分、つまり $\dfrac12b^2$ である。
段 4(三角形 $CAP$ は長方形の半分)。$\angle A$、$\angle B$ は鋭角なので、垂線の足 $H$ は $A$ と $B$ の間にある(理由は証明 3 の詳しい証明の段 1 と同じ)。したがって辺 $AB$ は $AH$ と $HB$ に分かれ、正方形 $ABQP$ は線分 $HL$ で長方形 $AHLP$ と $HBQL$ に分かれる。$CH\perp AB$ で、$AP\perp AB$ なので、直線 $CL$ は $AP$ に平行である。三角形 $CAP$ の底辺を $AP$ とすると、頂点 $C$ は、長方形 $AHLP$ の $AP$ の向かいの辺 $HL$ を含む直線の上にある。lem-pth-parallel により、三角形 $CAP$ の面積は長方形 $AHLP$ の面積の半分である。
段 5($b^2$ と長方形)。段 2〜段 4 から$$\frac12b^2=(\triangle DAB\text{ の面積})=(\triangle CAP\text{ の面積})=\frac12(\text{長方形 }AHLP\text{ の面積})$$なので、$b^2=(\text{長方形 }AHLP\text{ の面積})=c\cdot AH$ である。
段 6($a^2$ と長方形、まとめ)。$A$ と $B$、正方形 $ACED$ と $BCGF$ の役を入れかえて段 1〜段 5 と同じ議論をすると(三角形 $FBA$ と三角形 $CBQ$ が合同になる)、$a^2=(\text{長方形 }HBQL\text{ の面積})=c\cdot HB$ である。2 つの長方形を合わせると正方形 $ABQP$ になるので、$a^2+b^2=c^2$ である。$\square$
証明の途中で出た $b^2=c\cdot AH$、$a^2=c\cdot HB$ は、それ自体が役に立つ式である。
図 4 は $a=3$、$b=4$、$c=5$ の場合で、$A(0,0)$、$B(5,0)$、$C\left(\dfrac{16}5,\dfrac{12}5\right)$ とおいてある。実際、$CA^2=\left(\dfrac{16}5\right)^2+\left(\dfrac{12}5\right)^2=\dfrac{256+144}{25}=16$、$CB^2=\left(\dfrac95\right)^2+\left(\dfrac{12}5\right)^2=\dfrac{81+144}{25}=9$ である。垂線の足は $H\left(\dfrac{16}5,0\right)$ で、$AH=\dfrac{16}5$、$HB=\dfrac95$ である。
$$
c\cdot AH=5\cdot\frac{16}5=16=b^2,\qquad c\cdot HB=5\cdot\frac95=9=a^2
$$
で、2 つの長方形の面積は確かに $16$ と $9$ である。
ex-pth-euclid-num の式 $b^2=c\cdot AH$、$a^2=c\cdot HB$ は、相似な三角形の辺の比からも出る。この見方は 三角形の相似条件 の例「直角三角形の高さ」で詳しく扱っているので、ここでは要点だけを述べる。
要点:直角の頂点 $C$ から斜辺に垂線 $CH$ を下ろすと、$H$ は $A$ と $B$ の間にあり、三角形 $ACH$、$CBH$ はどちらも三角形 $ABC$ と相似になる。辺の比から $b^2=c\cdot AH$、$a^2=c\cdot HB$ で、足すと $a^2+b^2=c(AH+HB)=c^2$ である。
段 1($H$ は $A$ と $B$ の間)。$\angle A+\angle B=90^\circ$ なので(三角形の内角の和)、$\angle A$、$\angle B$ はどちらも鋭角である。もし $H$ が $B$ の先($A$ から見て $B$ より遠く)にあると、三角形 $CHB$ は $H$ で直角で、$B$ の角が $180^\circ-\angle B>90^\circ$ となり、内角の和が $180^\circ$ を超えてしまう。$H=B$ なら $CB\perp AB$ で、三角形 $ABC$ に直角が 2 つできてしまう。$A$ の側も同じなので、$H$ は $A$ と $B$ の間にあり、$AH+HB=c$ である。
段 2(相似)。三角形 $ACH$ と三角形 $ABC$ は、角 $A$ が共通で、$\angle AHC=\angle ACB=90^\circ$ なので、2 つの角がそれぞれ等しく相似である(三角形の相似条件)。対応する辺の比から $\dfrac{AH}{AC}=\dfrac{AC}{AB}$、つまり $b^2=c\cdot AH$ である。同じく三角形 $CBH$ と三角形 $ABC$ は角 $B$ が共通で相似なので、$a^2=c\cdot HB$ である。
段 3(足す)。段 1・段 2 から $a^2+b^2=c\,(HB+AH)=c\cdot c=c^2$ である。$\square$
この証明は短いが、相似条件をどうやって証明したかに注意が要る。相似条件を座標や 2 点間の距離の公式で示していると、距離の公式は三平方の定理から出るので、話が循環してしまう。Euclid は相似条件を面積の比から示し(『原論』第 VI 巻)、三平方の定理を使わない順序にしている(三角形の相似条件 の注意「三平方の定理を相似で示すための順序」)。
3 つの証明を比べる。
| 証明 1(組み替え) | 証明 2(Euclid) | 証明 3(相似) | |
|---|---|---|---|
| 使う道具 | 合同、正方形の面積、展開 | 合同(2 辺とその間の角)、三角形の面積 | 相似条件、辺の比 |
| 平行線公準を使う所 | 内角の和 $\alpha+\beta=90^\circ$(真ん中が正方形) | 平行線の間の三角形の面積は一定 | 内角の和と、相似条件の証明 |
| 分かること | $a^2+b^2=c^2$ だけ | $b^2=c\cdot AH$、$a^2=c\cdot HB$ も | 同じ 2 式と、三角形 $ACH$ と $CBH$ の相似から $CH^2=AH\cdot HB$ も |
| 長さか面積か | 面積 | 面積 | 長さの比 |
どの証明も、どこかで平行線公準を使っている。これは偶然ではない。平行線公準が成り立たない幾何(球面の幾何など)では、三平方の定理そのものが成り立たない(Hit18)。ex-pth-sphere で具体的に確かめる。
3 辺の長さを測っただけで、直角かどうかが分かる。『原論』第 I 巻の最後の命題 48 がこれである(Hea56)。
三角形 $ABC$ で $a=BC$、$b=CA$、$c=AB$ とする。$a^2+b^2=c^2$ ならば $\angle C=90^\circ$ である。
方針:直角をはさむ辺が $a$ と $b$ の直角三角形を別につくり、三平方の定理でその斜辺が $c$ になることを示す。3 辺がそれぞれ等しいので、もとの三角形と合同になる。
段 1(比べる三角形をつくる)。$\angle C'=90^\circ$ で、$B'C'=a$、$C'A'=b$ の直角三角形 $A'B'C'$ をつくる(点 $C'$ で直交する 2 本の半直線をとり、その上に長さ $a$、$b$ の点をとればよい)。
段 2(斜辺の長さ)。三角形 $A'B'C'$ に thm-pth-main を使うと $A'B'^2=a^2+b^2$ である。仮定 $a^2+b^2=c^2$ から $A'B'^2=c^2$ で、長さは正なので $A'B'=c$ である。
段 3(合同)。三角形 $ABC$ と三角形 $A'B'C'$ は、$BC=B'C'=a$、$CA=C'A'=b$、$AB=A'B'=c$ で、3 辺がそれぞれ等しいので合同である(三角形の合同条件)。対応する角は等しいので $\angle C=\angle C'=90^\circ$ である。$\square$
Euclid の証明もこれと同じ考え方で、辺 $CA$ に垂直な線分をもとの三角形の横につくって、3 辺の合同に持ち込んでいる。
(2) 3 辺が $20,21,29$:$400+441=841=29^2$ なので直角三角形である。
(3) 3 辺が $1,\sqrt3,2$:$1+3=4=2^2$ なので直角三角形である。この三角形は正三角形を半分に切ったもので、角は $30^\circ$、$60^\circ$、$90^\circ$ である。
ex-pth-converse の (4) では $a^2+b^2>c^2$ だった。直角でないときのずれの向きは、角 $C$ が鋭角か鈍角かで決まる。
角 C が鋭角の三角形。A から直線 BC に下ろした垂線の足 H は、C から見て B と同じ側にある
角 C が鈍角の三角形。垂線の足 H は、C から見て B と反対側にある
三角形 $ABC$ で $a=BC$、$b=CA$、$c=AB$ とする。
(R1) $\angle C<90^\circ$ $\iff$ $a^2+b^2>c^2$
(R2) $\angle C=90^\circ$ $\iff$ $a^2+b^2=c^2$
(R3) $\angle C>90^\circ$ $\iff$ $a^2+b^2< c^2$
方針:$A$ から直線 $BC$ に垂線 $AH$ を下ろし、2 つの直角三角形 $AHC$、$AHB$ に三平方の定理を使う。まず右向き($\Rightarrow$)を 3 つとも示し、最後に逆向きをまとめて示す。$x:=CH$ とおく。
段 1($\angle C=90^\circ$)。thm-pth-main により $a^2+b^2=c^2$ である。
段 2($\angle C<90^\circ$)。$H\ne C$ である($H=C$ なら $AC\perp BC$ で $\angle C=90^\circ$)。$H$ は $C$ から $B$ の向きに延びる半直線の上にある。実際、反対側にあると、三角形 $AHC$ は $H$ で直角で、$C$ での角が $180^\circ-\angle C>90^\circ$ となり、内角の和が $180^\circ$ を超える。直角三角形 $AHC$ で $AH^2=b^2-x^2$ である。$H$ と $B$ は $C$ から同じ向きにあるので $HB=\lvert a-x\rvert$ である。$H\ne B$ なら三角形 $AHB$ は $H$ で直角なので
$$
c^2=AH^2+HB^2=(b^2-x^2)+(a-x)^2=b^2-x^2+a^2-2ax+x^2=a^2+b^2-2ax
$$
である。$H=B$ のときも $x=a$、$c=AH$ で、$c^2=b^2-a^2=a^2+b^2-2a\cdot a$ となり同じ式が成り立つ。$a>0$、$x>0$ なので $c^2< a^2+b^2$ である。
段 3($\angle C>90^\circ$)。段 2 と同じ理由で $H\ne C$ であり、今度は $H$ は $B$ と反対側の半直線の上にある(同じ側にあると、三角形 $AHC$ の $C$ での角が鈍角 $\angle C$ になり、内角の和が $180^\circ$ を超える)。$C$ は $H$ と $B$ の間にあるので $HB=x+a$ であり
$$
c^2=AH^2+HB^2=(b^2-x^2)+(a+x)^2=b^2-x^2+a^2+2ax+x^2=a^2+b^2+2ax
$$
である。$2ax>0$ なので $c^2>a^2+b^2$ である。
段 4(逆向き)。角 $C$ は鋭角・直角・鈍角のどれか 1 つであり、段 1〜段 3 の結論 $a^2+b^2>c^2$、$=c^2$、$< c^2$ も互いに両立しない。たとえば $a^2+b^2>c^2$ とすると、$\angle C$ が直角なら段 1 により $=$、鈍角なら段 3 により $<$ となって矛盾するので、$\angle C$ は鋭角である。ほかの 2 つも同じである。$\square$
段 2・段 3 の式 $c^2=a^2+b^2\mp2ax$ は、Euclid『原論』第 II 巻の命題 12(鈍角)・命題 13(鋭角)にあたる(Hea56)。$x=CH$ は辺 $CA$ を直線 $BC$ に正射影した長さで、三角比を使うと鋭角のとき $x=b\cos C$、鈍角のとき $x=-b\cos C$ と書ける。どちらの場合も $c^2=a^2+b^2-2ab\cos C$ となり、これが 余弦定理(高校数学) である。正射影の長さで辺を書く見方は、次の記事 三角形の射影定理 で扱う。
thm-pth-acute-obtuse は頂点の名前を付け替えても成り立つ。$c$ が最も長い辺なら、$A$ の角について $b^2+c^2-a^2\ge b^2>0$($c\ge a$ による)なので $\angle A$ は鋭角で、同じく $\angle B$ も鋭角である。したがって三角形全体が鋭角・直角・鈍角三角形のどれかは、最も長い辺を $c$ にとって thm-pth-acute-obtuse を使えば分かる。他の辺を $c$ にとって調べても、その向かいの角が分かるだけである(ex-pth-longest)。同じ判定を余弦の符号で行うのが 余弦定理(高校数学) の系「鋭角・直角・鈍角の判定」である。
ベクトルの内積を習うと、三平方の定理とその逆は 1 行の計算で言い直せる(内積の定義と性質は ベクトルの内積(高校数学))。
平面または空間のベクトル $\vec u,\vec v$ について
$$
\lvert\vec u+\vec v\rvert^2=\lvert\vec u\rvert^2+\lvert\vec v\rvert^2\iff\vec u\cdot\vec v=0
$$
が成り立つ。
$\lvert\vec w\rvert^2=\vec w\cdot\vec w$ と、内積の分配法則・交換法則から
$$
\lvert\vec u+\vec v\rvert^2=(\vec u+\vec v)\cdot(\vec u+\vec v)=\vec u\cdot\vec u+\vec u\cdot\vec v+\vec v\cdot\vec u+\vec v\cdot\vec v=\lvert\vec u\rvert^2+\lvert\vec v\rvert^2+2\,\vec u\cdot\vec v
$$
である。よって左の等式は $2\,\vec u\cdot\vec v=0$、つまり $\vec u\cdot\vec v=0$ と同値である。$\square$
三角形 $ABC$ で $\vec u=\overrightarrow{AC}$、$\vec v=\overrightarrow{CB}$ とすると、$\vec u+\vec v=\overrightarrow{AB}$ で、$\lvert\vec u\rvert=b$、$\lvert\vec v\rvert=a$、$\lvert\vec u+\vec v\rvert=c$ である。$\vec u,\vec v$ は $\vec 0$ でないので、$\vec u\cdot\vec v=0$ は $AC\perp CB$、つまり $\angle C=90^\circ$ と同じである。したがって prop-pth-vector は「$\angle C=90^\circ\iff a^2+b^2=c^2$」、つまり thm-pth-main と thm-pth-converse を 1 つにまとめた形になる。
ただし、高校の教科書の順序では、これは独立な証明にはならない。内積の成分表示 $\vec u\cdot\vec v=u_1v_1+u_2v_2$ が $\lvert\vec u\rvert\lvert\vec v\rvert\cos\theta$ に等しいことは、余弦定理(またはベクトルの大きさの公式 $\lvert\vec u\rvert=\sqrt{u_1^2+u_2^2}$)を使って示され、どちらも三平方の定理から出るからである。prop-pth-vector は、三平方の定理を内積の言葉で言い直したものと読むのがよい。
大学の線形代数では順序が逆になる。まず内積を公理(分配法則・交換法則・$\vec w\cdot\vec w\ge0$ で等号は $\vec w=\vec 0$ のときだけ)で定め、長さを $\lvert\vec w\rvert:=\sqrt{\vec w\cdot\vec w}$、直交を $\vec u\cdot\vec v=0$ で定義する。すると prf-pth-vector の計算がそのまま三平方の定理の証明になり、図も平行線公準も使わない。このような空間を 内積空間 という。
互いに直交するベクトル $\vec e_1,\dots,\vec e_n$(どれも長さ $1$)を使って $\vec x=x_1\vec e_1+\dots+x_n\vec e_n$ と書くと、prf-pth-vector の計算をくり返して $\lvert\vec x\rvert^2=x_1^2+\dots+x_n^2$ が出る。$n=3$ なら空間の 2 点間の距離の公式、$n$ が大きければ $n$ 次元の距離の公式である。
面積についての三平方の定理もある。直角に交わる 3 つの面をもつ四面体(直角の角をもつ「隅」)では、斜めの面の面積の 2 乗が、他の 3 つの面の面積の 2 乗の和に等しい(de Guaの定理)。
関数の空間にも内積が入る。区間 $[-\pi,\pi]$ の関数 $f$ を $\sin nx$、$\cos nx$ の和に分ける Fourier 級数では、$\lvert\vec x\rvert^2=x_1^2+x_2^2+\cdots$ の無限個の項の形(Parseval の等式)が成り立つ。これは 無限次元のピタゴラスの定理 で扱う。
| 外す条件 | 反例 | 成り立たなくなること |
|---|---|---|
| 角 $C$ が直角 | 辺 $4,5,6$ の三角形 | $a^2+b^2=c^2$ |
| 平面の上で考える(平行線公準) | 単位球面の上の直角三角形 | $a^2+b^2=c^2$($\cos c=\cos a\cos b$ に置き換わる) |
| 逆を使うとき $c$ を最も長い辺にとる | 辺 $BC=13$、$CA=5$、$AB=12$ の三角形 | 「$a^2+b^2\ne c^2$ なら直角三角形でない」 |
3 辺が $4,5,6$ の三角形で、$c=6$ とする。$a^2+b^2=16+25=41$、$c^2=36$ で、$a^2+b^2=c^2$ は成り立たない。$41>36$ なので thm-pth-acute-obtuse により $\angle C$ は鋭角である。また 3 辺が $2,3,4$ なら、$4+9=13<16$ で $\angle C$ は鈍角である。三平方の定理は「直角」という仮定を外すと、等号が不等号に変わる。
原点を中心とする半径 $1$ の球面の上で考える。球面の上の 2 点の距離は、球面に沿った最短の道(中心を通る平面で切った切り口の円、つまり大円の弧)の長さで測る。半径 $1$ なので、2 点 $X,Y$ の距離は中心角 $\angle XOY$(弧度法)に等しく、$\cos(\text{距離})=\overrightarrow{OX}\cdot\overrightarrow{OY}$ である。
3 点を $C(1,0,0)$、$A(\cos b,\sin b,0)$、$B(\cos a,0,\sin a)$($0< a,b<\dfrac\pi2$)とする。$A$ は $C$ から $xy$ 平面の大円に沿って距離 $b$、$B$ は $xz$ 平面の大円に沿って距離 $a$ のところにある。2 つの大円は $C$ で直交する($C$ での進む向きが $y$ 軸方向と $z$ 軸方向)ので、$C$ の角は直角である。斜辺 $AB$ の長さを $c$ とすると
$$
\cos c=\overrightarrow{OA}\cdot\overrightarrow{OB}=\cos b\cos a+\sin b\cdot0+0\cdot\sin a=\cos a\cos b
$$
である。
$a=b=\dfrac\pi4$ とすると $\cos c=\dfrac12$、$c=\dfrac\pi3$ で
$$
c^2=\frac{\pi^2}9\approx1.0966,\qquad a^2+b^2=\frac{\pi^2}8\approx1.2337
$$
となり、$a^2+b^2=c^2$ は成り立たない。この三角形の $A$、$B$ の角はどちらも約 $54.74^\circ$ で、内角の和は約 $199.47^\circ$ である。内角の和が $180^\circ$ にならないので、prf-pth-rearrange の段 2(真ん中の四角形が正方形になる)が使えない。
辺が短いと $\cos x\approx1-\dfrac{x^2}2$ なので $1-\dfrac{c^2}2\approx\left(1-\dfrac{a^2}2\right)\left(1-\dfrac{b^2}2\right)\approx1-\dfrac{a^2+b^2}2$ となり、小さい三角形では $c^2$ は $a^2+b^2$ に近い(ここは近似であり、等式ではない)。地面の上の小さい三角形で三平方の定理がよく合うのはこのためである。
$BC=13$、$CA=5$、$AB=12$ の三角形では、$a=13$、$b=5$、$c=12$ である。$a^2+b^2=169+25=194\ne144=c^2$ なので $\angle C$ は直角ではない。しかし「だから直角三角形ではない」と結論するのは誤りである。最も長い辺 $a=13$ について $b^2+c^2=25+144=169=a^2$ なので、thm-pth-converse を頂点の名前を付け替えて使うと $\angle A=90^\circ$ である。
同じ取り違えは鋭角・鈍角の判定でも起こる。3 辺 $2,3,4$ で、長さ $2$ の辺を $c$ にとると $3^2+4^2=25>4=2^2$ で、その向かいの角は鋭角である。しかし最も長い辺 $4$ について $2^2+3^2=13<16$ なので、この三角形は鈍角三角形である。
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