長さ空間(length space)とは、任意の 2 点の距離が、その 2 点を結ぶ曲線の長さ(分割に沿った距離の和の上限)の下限に等しい距離空間である。ノルム空間の凸集合や連結なリーマン多様体が例で、球面に弦の距離を制限した空間は長さ空間でなく、その誘導する長さ距離は角の距離になる。完備な距離空間が長さ空間であることは任意の 2 点に近似的な中点があることと同値であり(Menger の補題)、完備で局所コンパクトな長さ空間では閉球がコンパクトで任意の 2 点が最短線で結べる(Hopf–Rinow の定理の距離空間版)。長さ空間の列の完備な Gromov–Hausdorff 極限も長さ空間で、Alexandrov 空間の理論の舞台になる。
長さ空間(length space)は、2 点の距離が「その 2 点を結ぶ曲線の長さの下限」に等しい距離空間である。Euclid 空間やノルム空間、連結な リーマン多様体 の距離はこの性質をもつ。一方、球面に $\mathbb{R}^3$ の距離(弦の長さ)を制限した空間はこの性質をもたない。球面の上を通る曲線は弦よりも長くなるからである。
距離だけから「曲線の長さ」を定め、長さで距離を測り直すと、距離空間の中で「まっすぐな道」を考える足場ができる。この記事では、曲線の長さとその基本性質を述べたあと、長さ空間を定義し、次の 3 つを証明する。
以下、$(X,d)$ を距離空間とする。$X$ の 曲線 とは、閉区間からの連続写像 $\gamma\colon[a,b]\to X$ のことである。$\gamma(a)$ を始点、$\gamma(b)$ を終点といい、$\gamma$ は $\gamma(a)$ と $\gamma(b)$ を結ぶという。
曲線 $\gamma\colon[a,b]\to X$ の 長さ を
$$
L(\gamma):=\sup\Bigl\{\sum_{i=1}^{n}d\bigl(\gamma(t_{i-1}),\gamma(t_i)\bigr)\Bigm| n\ge1,\ a=t_0\le t_1\le\cdots\le t_n=b\Bigr\}\in[0,\infty]
$$
で定める。$L(\gamma)<\infty$ のとき、$\gamma$ は 求長可能(rectifiable)であるという。距離を明示するときは $L_d(\gamma)$ と書く。
分点を増やすと、三角不等式により和は減らない。したがって上限は、分点をいくらでも細かくした和の極限と考えてよい。$\mathbb{R}^2$ の曲線では、これは内接する折れ線の長さの上限であり、媒介変数表示と曲線の長さ の定義と同じである。
$\gamma\colon[a,b]\to X$ を曲線とする。
1 は分点を $a,b$ だけにした和である。3 は、各分点の和で $d_Y(f\gamma(t_{i-1}),f\gamma(t_i))\le d_X(\gamma(t_{i-1}),\gamma(t_i))$ だからである。
2 を示す。$[a,c]$ の分割と $[c,b]$ の分割を並べると $[a,b]$ の分割になるので、上限をとって $L(\gamma)\ge L(\gamma|_{[a,c]})+L(\gamma|_{[c,b]})$ である。逆に $[a,b]$ の分割に $c$ を加えると和は減らず、加えた分割は $[a,c]$ と $[c,b]$ の分割に分かれる。よって分割の和はいつも $L(\gamma|_{[a,c]})+L(\gamma|_{[c,b]})$ 以下である。
4 を示す。分割 $a=t_0\le\cdots\le t_n=b$ を固定すると、距離の連続性から
$$
\sum_{i=1}^nd(\gamma(t_{i-1}),\gamma(t_i))=\lim_{k\to\infty}\sum_{i=1}^nd(\gamma_k(t_{i-1}),\gamma_k(t_i))\le\liminf_{k\to\infty}L(\gamma_k)
$$
である。左辺の分割について上限をとればよい。$\square$
求長可能な曲線では、途中までの長さは連続に増える。これは後で、曲線の「長さの半分の点」をとるときに使う。
$\gamma\colon[a,b]\to X$ を求長可能な曲線とする。$\lambda(t):=L(\gamma|_{[a,t]})$($\lambda(a):=0$)は $[a,b]$ 上の連続な単調非減少関数で、$\lambda(b)=L(\gamma)$ である。
単調性は prop-ls-length-basic の 2 による。$t_0\in[a,b)$ での右連続性を示す。$\varepsilon>0$ をとる。$[t_0,b]$ の分割 $t_0=s_0< s_1<\cdots< s_m=b$ で、和が $L(\gamma|_{[t_0,b]})-\varepsilon$ より大きいものをとる。$\gamma$ の連続性から、$t_0< u< s_1$ で $d(\gamma(t_0),\gamma(u))<\varepsilon$ となる $u$ がある。分点 $u$ を加えても和は減らないので
$$
L(\gamma|_{[t_0,b]})-\varepsilon< d(\gamma(t_0),\gamma(u))+\Bigl(d(\gamma(u),\gamma(s_1))+\sum_{j=2}^md(\gamma(s_{j-1}),\gamma(s_j))\Bigr)<\varepsilon+L(\gamma|_{[u,b]})
$$
である。prop-ls-length-basic の 2 から $L(\gamma|_{[t_0,u]})=L(\gamma|_{[t_0,b]})-L(\gamma|_{[u,b]})<2\varepsilon$ であり(ここで $L(\gamma)<\infty$ を使う)、$t_0< t\le u$ なら $0\le\lambda(t)-\lambda(t_0)\le L(\gamma|_{[t_0,u]})<2\varepsilon$ である。左連続性も、区間の向きを逆にして同じように示せる。$\square$
2 点 $x,y\in X$ について
$$
d_\ell(x,y):=\inf\{L(\gamma)\mid\gamma\text{ は }x\text{ と }y\text{ を結ぶ曲線}\}\in[0,\infty]
$$
とおく(結ぶ曲線がなければ $d_\ell(x,y)=\infty$)。曲線を逆にたどり、つなげることができるので、$d_\ell$ は値に $\infty$ を許す距離であり、prop-ls-length-basic の 1 から $d_\ell\ge d$ である。$d_\ell$ を $d$ から 誘導される長さ距離(induced length metric)という。
距離空間 $(X,d)$ が 長さ空間 であるとは、すべての $x,y\in X$ について $d(x,y)=d_\ell(x,y)$ となることをいう。言い換えると、任意の $x,y\in X$ と $\varepsilon>0$ について、$x$ と $y$ を結ぶ曲線 $\gamma$ で $L(\gamma)< d(x,y)+\varepsilon$ となるものがある。このときの距離 $d$ を 長さ距離(length metric)または 内在的距離(intrinsic metric)という。
最短線と測地空間は Alexandrov空間 の定義「最短線と測地空間」と同じものを使う。すなわち $\ell:=d(p,q)$ について、$\gamma\colon[0,\ell]\to X$ が $\gamma(0)=p$、$\gamma(\ell)=q$、$d(\gamma(s),\gamma(t))=\lvert s-t\rvert$($s,t\in[0,\ell]$)を満たすとき、$\gamma$ を $p$ から $q$ への 最短線 といい、任意の 2 点が最短線で結べる距離空間を 測地空間 という。最短線 $\gamma$ の分割の和は $\sum(t_i-t_{i-1})=\ell$ なので $L(\gamma)=d(p,q)$ であり、測地空間は長さ空間である。
$\gamma\colon[a,b]\to X$ を $d$ について求長可能な曲線とする。
1。$a\le s< t\le b$ なら、$\gamma|_{[s,t]}$ は $\gamma(s)$ と $\gamma(t)$ を結ぶので $d_\ell(\gamma(s),\gamma(t))\le L_d(\gamma|_{[s,t]})=\lambda(t)-\lambda(s)$ である($\lambda$ は lem-ls-length-continuous の関数)。$\lambda$ の連続性から $\gamma$ は $d_\ell$ について連続である。同じ不等式を分割の各区間に使って足すと、prop-ls-length-basic の 2 から分割の和は $L_d(\gamma)$ 以下なので、$L_{d_\ell}(\gamma)\le L_d(\gamma)$ である。逆向きは $d_\ell\ge d$ から従う。
2。$y,z\in X_x$、$\varepsilon>0$ とする。$d_\ell(y,z)\le d_\ell(y,x)+d_\ell(x,z)<\infty$ なので、$d$ について $y$ と $z$ を結ぶ曲線 $\gamma$ で $L_d(\gamma)< d_\ell(y,z)+\varepsilon$ となるものがある。$\gamma$ の像の点 $w$ について $d_\ell(y,w)\le L_d(\gamma)<\infty$ なので、$\gamma$ は $X_x$ に値をとる。1 により $\gamma$ は $(X_x,d_\ell)$ の曲線で、$L_{d_\ell}(\gamma)=L_d(\gamma)< d_\ell(y,z)+\varepsilon$ である。$\square$
$(V,\|\cdot\|)$ を実ノルム空間、$C\subset V$ を 凸集合 とし、$d(x,y)=\| x-y\|$ の制限を考える。$x\ne y\in C$、$\ell:=\| x-y\|$ について $\sigma(s):=x+\frac s\ell(y-x)$($0\le s\le\ell$)は凸性により $C$ に値をとり、$\|\sigma(s)-\sigma(t)\|=\lvert s-t\rvert$ なので最短線である。よって $C$ は測地空間であり、とくに長さ空間である。最短線は一つとは限らない。$\mathbb{R}^2$ の最大値ノルム $\|(u,v)\|_\infty=\max(\lvert u\rvert,\lvert v\rvert)$ では、$(0,0)$ と $(2,0)$ を結ぶ折れ線 $(0,0)\to(1,1)\to(2,0)$ を弧長で径数付けたものも最短線である(各点で $\|\sigma(s)-\sigma(t)\|_\infty=\lvert s-t\rvert$ が確かめられる)。
$(M,g)$ を連結な リーマン多様体 とし、$d_g$ を区分的に正則な曲線の長さ $L_g$ の下限で定めたリーマン距離とする(Hopf–Rinowの定理 の節「設定と記号」)。$d_g$ の位相は多様体の位相に一致するので、区分的に正則な曲線 $c$ は $d_g$ について曲線である。分割の各区間で $d_g(c(t_{i-1}),c(t_i))\le L_g(c|_{[t_{i-1},t_i]})$ なので $L_{d_g}(c)\le L_g(c)$ であり、
$$
d_g\le(d_g)_\ell\le\inf_cL_{d_g}(c)\le\inf_cL_g(c)=d_g
$$
となる($c$ は 2 点を結ぶ区分的に正則な曲線を動く)。よって $(M,d_g)$ は長さ空間である。
単位球面 $S^2\subset\mathbb{R}^3$ に $\mathbb{R}^3$ の距離 $c(x,y):=\lvert x-y\rvert$(弦の長さ)を制限した空間は長さ空間ではない。$c$ から誘導される長さ距離は角の距離
$$
\theta(x,y):=\arccos\langle x,y\rangle\in[0,\pi]
$$
であり、$c(x,y)=2\sin\frac{\theta(x,y)}2<\theta(x,y)$($x\ne y$)だからである。$(S^2,\theta)$ は測地空間で、大円の弧を弧長で径数付けたものは最短線である。
$\theta$ は距離。三角不等式だけが問題である。単位ベクトル $u,v,w$ について $\alpha:=\theta(u,v)$、$\beta:=\theta(v,w)$ とおき、$u=\cos\alpha\,v+\sin\alpha\,p$、$w=\cos\beta\,v+\sin\beta\,q$($p,q$ は $v$ に直交する単位ベクトル)と書く。$\langle u,w\rangle=\cos\alpha\cos\beta+\sin\alpha\sin\beta\langle p,q\rangle\ge\cos(\alpha+\beta)$ である。$\alpha+\beta\le\pi$ なら $\arccos$ が減少関数であることから $\theta(u,w)\le\alpha+\beta$、$\alpha+\beta>\pi$ なら $\theta(u,w)\le\pi<\alpha+\beta$ である。
$c_\ell\le\theta$。$x\ne y$ とし、$v$ を $x$ に直交する単位ベクトルで $y=\cos\theta_0\,x+\sin\theta_0\,v$($\theta_0:=\theta(x,y)$)となるものとする($y=-x$ なら $v$ は $x$ に直交する任意の単位ベクトル)。大円の弧 $\sigma(t):=\cos t\,x+\sin t\,v$($0\le t\le\theta_0$)は $\lvert\sigma(s)-\sigma(t)\rvert=2\sin\frac{\lvert s-t\rvert}2\le\lvert s-t\rvert$ を満たすので、$L_c(\sigma)\le\theta_0$ である。
$c_\ell\ge\theta$。$\gamma\colon[a,b]\to S^2$ を $x$ と $y$ を結ぶ曲線とし、$\eta>0$ をとる。$\lim_{s\to+0}\frac{2\arcsin(s/2)}s=1$ なので、$\delta>0$ を $0< s\le\delta$ で $2\arcsin(s/2)\le(1+\eta)s$ となるようにとる。$\gamma$ の一様連続性から、分割 $a=t_0<\cdots< t_n=b$ を各弦 $c_i:=\lvert\gamma(t_{i-1})-\gamma(t_i)\rvert$ が $\delta$ 以下になるようにとれる。$\theta=2\arcsin(c/2)$ と $\theta$ の三角不等式から
$$\theta(x,y)\le\sum_{i=1}^n\theta(\gamma(t_{i-1}),\gamma(t_i))\le(1+\eta)\sum_{i=1}^nc_i\le(1+\eta)L_c(\gamma)$$
である。$\eta>0$ は任意なので $L_c(\gamma)\ge\theta(x,y)$ となる。以上で $c_\ell=\theta$ が示された。大円の弧 $\sigma$ は $\theta(\sigma(s),\sigma(t))=\lvert s-t\rvert$ を満たすので、$(S^2,\theta)$ の最短線である。$\square$
$x,y\in X$、$\varepsilon\ge0$ とする。$z\in X$ が
$$
d(x,z)\le\tfrac12d(x,y)+\varepsilon,\qquad d(z,y)\le\tfrac12d(x,y)+\varepsilon
$$
を満たすとき、$z$ を $x$ と $y$ の $\varepsilon$-中点 という。$0$-中点、すなわち $d(x,z)=d(z,y)=\frac12d(x,y)$ となる点を 中点 という。
$0$-中点では、三角不等式 $d(x,y)\le d(x,z)+d(z,y)$ から二つの不等式はどちらも等号になる。
$X$ が長さ空間なら、任意の $x,y\in X$ と $\varepsilon>0$ について $x$ と $y$ の $\varepsilon$-中点がある。
$x$ と $y$ を結ぶ曲線 $\gamma\colon[a,b]\to X$ で $L(\gamma)< d(x,y)+2\varepsilon$ となるものをとる。lem-ls-length-continuous の $\lambda$ は $0$ から $L(\gamma)$ まで連続に動くので、中間値の定理により $\lambda(t)=\frac12L(\gamma)$ となる $t$ がある。$z:=\gamma(t)$ とおくと、prop-ls-length-basic の 1・2 から $d(x,z)\le\lambda(t)=\frac12L(\gamma)<\frac12d(x,y)+\varepsilon$ であり、同様に $d(z,y)\le L(\gamma)-\lambda(t)<\frac12d(x,y)+\varepsilon$ である。$\square$
$X$ を 完備距離空間 とする。
lem-ls-midpoint とあわせると、完備な距離空間が長さ空間であることは、近似的な中点がいつもあることと同値である。
$x\ne y$ を固定し、$D:=d(x,y)$ とする。1 の場合は $\varepsilon>0$ を固定して $\varepsilon_n:=\varepsilon\,4^{-n}$、2 の場合は $\varepsilon:=0$、$\varepsilon_n:=0$ とする。
段 1:2 進有理数の上で点を選ぶ。 $Q_n:=\{k2^{-n}\mid0\le k\le2^n\}$ とおく。$\alpha(0):=x$、$\alpha(1):=y$ とし、$Q_{n-1}$ の上で $\alpha$ が決まったら、$k$ が奇数の $k2^{-n}$ について、$\alpha((k-1)2^{-n})$ と $\alpha((k+1)2^{-n})$ の $\varepsilon_n$-中点を一つ選んで $\alpha(k2^{-n})$ とする。こうして $Q:=\bigcup_nQ_n$ の上に $\alpha$ が定まる。
段 2:隣どうしの距離。 $m_n:=\max_kd(\alpha((k-1)2^{-n}),\alpha(k2^{-n}))$ とおく。中点の定義から $m_n\le\frac12m_{n-1}+\varepsilon_n$、$m_0=D$ なので、帰納法で
$$m_n\le2^{-n}D+\sum_{j=1}^n2^{-(n-j)}\varepsilon_j=2^{-n}\Bigl(D+\varepsilon\sum_{j=1}^n2^{-j}\Bigr)\le2^{-n}(D+\varepsilon)$$
である。また $Q_n$ の隣どうしの距離の和を $S_n$ とすると、$\varepsilon_n$-中点 $z$ について $d(a,z)+d(z,b)\le d(a,b)+2\varepsilon_n$ なので $S_n\le S_{n-1}+2^{n-1}\cdot2\varepsilon_n$ であり、$S_n\le D+\varepsilon\sum_j2^{j}4^{-j}\le D+\varepsilon$ である。
段 3:一様連続性と延長。 まず、$u\in Q_N$、$p\in Q_n$($n< N$)、$0\le p-u<2^{-n}$ なら $d(\alpha(u),\alpha(p))\le\sum_{j>n}m_j$ である。実際 $p-u=\sum_{j=n+1}^Nb_j2^{-j}$($b_j\in\{0,1\}$)と書くと、点 $p-\sum_{j=n+1}^Jb_j2^{-j}$($J=n,\dots,N$)は順に $Q_J$ の隣どうしか同じ点なので、三角不等式から従う。$p< u$ の場合も同じである。
$s< t$ を $Q$ の点で $t-s\le2^{-n}$ とする。$[s,t]$ が $Q_n$ の点を含むとき、その最小のものを $s'$、最大のものを $t'$ とすると、$s'$ と $t'$ は一致するか $Q_n$ の隣どうしである。含まないときは、$s,t$ は $Q_n$ の隣どうしの 2 点の間にあり、その右の点を $s'=t'$ とする。どちらの場合も上のことから
$$d(\alpha(s),\alpha(t))\le d(\alpha(s),\alpha(s'))+d(\alpha(s'),\alpha(t'))+d(\alpha(t'),\alpha(t))\le m_n+2\sum_{j>n}m_j\le3\cdot2^{-n}(D+\varepsilon)$$
である。よって $\alpha$ は稠密な集合 $Q$ の上で一様連続である。$X$ は完備なので、$\alpha$ は $[0,1]$ 上の連続写像に一意に延び、同じ記号 $\alpha$ で書く。$\alpha$ は $x$ と $y$ を結ぶ曲線である。
段 4:長さの評価。 $[0,1]$ の分割 $0=t_0\le\cdots\le t_k=1$ と $\eta>0$ をとる。$\alpha$ の連続性から、各 $t_i$ を十分近い $Q$ の点 $q_i$($q_0=0$、$q_k=1$、$q_0\le\cdots\le q_k$)で置き換えて、和の変化を $\eta$ 未満にできる。$q_i$ がすべて $Q_n$ に入る $n$ をとると、$Q_n$ の点を間に足しても和は減らないので、$q_i$ の和は $S_n\le D+\varepsilon$ 以下である。よって $L(\alpha)\le D+\varepsilon+\eta$ となり、$\eta$ は任意なので $L(\alpha)\le D+\varepsilon$ である。
1 は、$\varepsilon>0$ が任意であることから従う。2 では $\varepsilon=0$ で、段 3 と同じ議論を分点 $Q_n$ の数え方で行うと、$Q_n$ の点 $s< t$ について $d(\alpha(s),\alpha(t))\le\sum(\text{間の隣どうしの距離})\le(t-s)D$ である($m_n\le2^{-n}D$)。連続性からこれはすべての $s< t$ で成り立つ。すると
$$D\le d(x,\alpha(s))+d(\alpha(s),\alpha(t))+d(\alpha(t),y)\le sD+(t-s)D+(1-t)D=D$$
なので、途中の不等式はすべて等号であり、$d(\alpha(s),\alpha(t))=(t-s)D$ である。$\gamma(u):=\alpha(u/D)$($0\le u\le D$)は $x$ から $y$ への最短線である。$\square$
距離空間 $X$ の閉球 $\bar B(x,R):=\{y\in X\mid d(x,y)\le R\}$ がすべてコンパクトであるとき、$X$ は 固有(proper)であるという。
$X$ を完備で局所コンパクトな長さ空間とする。
完備な連結リーマン多様体では、ex-ls-riemannian によりこの定理が当てはまり、有界閉集合がコンパクトであることと、2 点を結ぶ長さ最小の曲線があることが距離だけから従う。リーマン多様体の場合の測地線による証明と、測地的完備性との同値は Hopf–Rinowの定理 で扱う。
1。 $x\in X$ について $\rho(x):=\sup\{R>0\mid\bar B(x,R)\text{ はコンパクト}\}$ とおく。局所コンパクトなので $\rho(x)>0$ である。$0< R<\rho(x)$ なら、$\bar B(x,R)$ はある コンパクトな $\bar B(x,R')$($R< R'$)の閉部分集合なのでコンパクトである。ある $x$ で $\rho(x)<\infty$ と仮定して矛盾を導く。
(i) $\rho$ は至るところ有限で $\lvert\rho(x)-\rho(y)\rvert\le d(x,y)$ を満たす。実際 $R<\rho(y)$、$R>d(x,y)$ なら $\bar B(x,R-d(x,y))\subset\bar B(y,R)$ はコンパクトなので $\rho(x)\ge\rho(y)-d(x,y)$ であり、$x,y$ を入れ替えてもよい。
(ii) $B:=\bar B(x,\rho(x))$ はコンパクトである。$B$ は完備な $X$ の閉集合なので完備であり、全有界であることを示せばよい。$\varepsilon>0$ をとり、$\rho(x)>\varepsilon$ としてよい。$z\in B$ とする。$d(x,z)\le\rho(x)-\varepsilon$ なら $w:=z$ とおく。そうでなければ、$x$ と $z$ を結ぶ曲線 $\gamma\colon[a,b]\to X$ で $L(\gamma)< d(x,z)+\varepsilon$ となるものをとり、$t\mapsto d(x,\gamma(t))$ の連続性から $d(x,\gamma(t))=\rho(x)-\varepsilon$ となる $t$ をとって $w:=\gamma(t)$ とおく。このとき
$$
d(w,z)\le L(\gamma|_{[t,b]})=L(\gamma)-L(\gamma|_{[a,t]})\le L(\gamma)-d(x,w)< d(x,z)+\varepsilon-(\rho(x)-\varepsilon)\le2\varepsilon
$$
である。どちらの場合も $w$ はコンパクトな $\bar B(x,\rho(x)-\varepsilon)$ の点なので、その有限な $\varepsilon$-ネットは $B$ の有限な $3\varepsilon$-ネットである。
(iii) $\rho$ は連続で正なので、コンパクトな $B$ の上で最小値 $\delta>0$ をとる。$B$ の有限な $\frac\delta{10}$-ネット $a_1,\dots,a_m$ をとると、$W:=\bigcup_i\bar B(a_i,\frac\delta2)$ はコンパクトである($\frac\delta2<\delta\le\rho(a_i)$)。$d(x,z)\le\rho(x)+\frac\delta{10}$ とする。$z\notin B$ なら、(ii) と同じく $x$ と $z$ を結ぶ曲線で長さが $d(x,z)+\frac\delta{10}$ 未満のものの上に $d(x,w)=\rho(x)$ となる $w$ をとると $d(w,z)<\frac\delta5$ であり、$d(a_i,w)\le\frac\delta{10}$ となる $i$ について $d(a_i,z)<\frac{3\delta}{10}$ である。$z\in B$ のときも同様なので、$\bar B(x,\rho(x)+\frac\delta{10})\subset W$ はコンパクトである。これは $\rho(x)$ の定義に反する。
2。 $x,y\in X$、$D:=d(x,y)$ とする。lem-ls-midpoint により、$x$ と $y$ の $\frac1k$-中点 $z_k$ がある。$z_k$ はコンパクトな $\bar B(x,D+1)$ の点なので、部分列が点 $z$ に収束し、極限で $d(x,z)\le\frac D2$、$d(z,y)\le\frac D2$ となる。三角不等式から $z$ は中点である。thm-ls-menger の 2 により $X$ は測地空間である。$\square$
長さ空間であることは、距離空間の「形の収束」で保たれる。Gromov-Hausdorff距離 の命題「対応による特徴付け」により、$d_{GH}(X,Y)< r$ なら、$X$ と $Y$ の対応 $R$ で歪み $\operatorname{dis}R<2r$ のものがある。
$X_k$($k=1,2,\dots$)を長さ空間、$X$ を完備な距離空間とし、$d_{GH}(X_k,X)\to0$ とする。このとき $X$ は長さ空間である。さらに $X$ がコンパクトなら、$X$ は測地空間である。
$x,y\in X$、$\varepsilon>0$ とする。$k$ を $d_{GH}(X_k,X)<\frac\varepsilon6$ となるようにとり、歪み $\eta:=\operatorname{dis}R<\frac\varepsilon3$ の対応 $R\subset X_k\times X$ をとる。$(x_k,x),(y_k,y)\in R$ となる $x_k,y_k\in X_k$ をとり、lem-ls-midpoint により $x_k$ と $y_k$ の $\frac\varepsilon3$-中点 $z_k$ をとって、$(z_k,z)\in R$ となる $z\in X$ をとる。歪みの定義から
$$
d(x,z)\le d(x_k,z_k)+\eta\le\tfrac12d(x_k,y_k)+\tfrac\varepsilon3+\eta\le\tfrac12\bigl(d(x,y)+\eta\bigr)+\tfrac\varepsilon3+\eta<\tfrac12d(x,y)+\varepsilon
$$
であり、$d(z,y)$ も同様である。よって $X$ の任意の 2 点に $\varepsilon$-中点があり、thm-ls-menger の 1 により $X$ は長さ空間である。$X$ がコンパクトなら固有で局所コンパクトなので、thm-ls-hopf-rinow の 2 により測地空間である。$\square$
| 外す条件 | 反例 | 成り立たなくなること |
|---|---|---|
| thm-ls-menger の完備性 | 有理数 $\mathbb{Q}$(通常の距離) | どの 2 点にも中点 $\frac{x+y}2$ があるが、長さ空間でない |
| thm-ls-hopf-rinow の完備性 | $\mathbb{R}^2\setminus\{0\}$(Euclid 距離の制限) | $(1,0)$ と $(-1,0)$ を結ぶ最短線がない |
| thm-ls-hopf-rinow の局所コンパクト性 | 無限次元の Hilbert空間 $\ell^2$ | 閉単位球がコンパクトでない(測地空間ではある) |
| thm-ls-hopf-rinow の長さ空間であること | $\mathbb{R}$ に距離 $\min(\lvert x-y\rvert,1)$ | 閉球 $\bar B(0,1)=\mathbb{R}$ がコンパクトでなく、$0$ と $3$ に中点がない |
| thm-ls-gh-limit の $X_k$ が長さ空間であること | $X_k=X=(S^2,c)$(弦の距離。ex-ls-sphere) | 極限が長さ空間でない |
各行で外れているのは一つの条件だけであることを確かめる。
1 行目:$\mathbb{Q}$ の連結な部分集合は 1 点だけなので、$\mathbb{Q}$ の曲線は定値写像であり、$x\ne y$ なら $d_\ell(x,y)=\infty$ である。$\mathbb{Q}$ は完備でない($\sqrt2$ に収束する有理数列)。2 行目:$\mathbb{R}^2\setminus\{0\}$ は局所コンパクトで、2 点を結ぶ線分が原点を通るときは、原点の近くで線分を小さな半円に替えると長さがいくらでも線分に近い曲線が得られるので、長さ空間である。長さ $2$ で $(1,0)$ と $(-1,0)$ を結ぶ曲線の点 $z$ は $\lvert(1,0)-z\rvert+\lvert z-(-1,0)\rvert\le2$ を満たすので線分の上にあり、曲線は原点を通らねばならない。完備でないことは、原点に収束する点列からわかる。3 行目:$\ell^2$ は完備なノルム空間なので ex-ls-normed により測地空間であり、正規直交系 $e_1,e_2,\dots$ は $\lvert e_i-e_j\rvert=\sqrt2$($i\ne j$)なので閉単位球の中に収束する部分列をもたない。4 行目:この距離は通常の距離と同じ Cauchy 列と同じ開集合をもつので、完備で局所コンパクトである。$z$ が $0$ と $3$ の中点なら $\min(\lvert z\rvert,1)=\min(\lvert z-3\rvert,1)=\frac12$ となり $\lvert z\rvert=\lvert z-3\rvert=\frac12$ であるが、これは $\lvert0-3\rvert\le1$ を意味して矛盾する。同じ計算で $\varepsilon<\frac12$ の $\varepsilon$-中点もないので、lem-ls-midpoint によりこの空間は長さ空間でない。5 行目:同じ空間の定数列なので $d_{GH}(X_k,X)=0$ であり、$X$ はコンパクトである。
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