単連結空間 (simply connected space) とは、位相幾何学において「穴が開いていない」ことを厳密に定義した空間である。正確には、空間が弧状連結であり、かつ空間内の任意の閉曲線(ループ)を連続的に変形して一点に縮めることができる性質を持つ。これは基本群が自明であることと同値であり、ポアンカレ予想の主題となるなど、空間の大域的な構造を決定づける基本的な概念である。また、複素解析においては、コーシーの積分定理が成立するための領域の条件としても重要である。
単連結性は、空間内の「ループの変形可能性」によって定義される。
位相空間 $X$ が単連結(simply connected)であるとは、以下の2条件を満たすことをいう。
この定義は、代数的位相幾何学の言葉を用いるとより簡潔に表現できる。
弧状連結空間 $X$ が単連結であるための必要十分条件は、その基本群が自明な群となることである。
$$\pi_1(X) \cong \{e\}$$
単連結性を直感的に理解するには、「ゴム紐」の例えが有効である。
空間 $X$ 内に置かれた任意の「輪になったゴム紐」を、空間からはみ出さずに、かつ切らずに連続的に縮めていき、最終的に一点にできるならば、その空間は単連結である。
平面 $\mathbb{R}^2$ 上の領域において、単連結性は「穴がない」ことと一致する。
3次元以上の空間では、「穴」の概念に注意が必要である。
単連結性の有無は、空間の次元や除去する集合の「次元」に依存する繊細な性質である。
単連結性は、数学の多くの分野で「扱いやすい空間」の条件として現れる。
複素関数論において、領域の単連結性は積分定理の成立に直結する。
$D \subseteq \mathbb{C}$ を単連結な領域とする。$f: D \to \mathbb{C}$ が正則であるならば、任意の閉曲線 $\gamma \subset D$ に沿う積分は $0$ になる。
$$\oint_\gamma f(z) \, dz = 0$$
領域に穴(特異点)がある場合(単連結でない場合)、留数定理により積分値は $0$ にならない場合がある。単連結性は、そのような「特異点」を囲んでいないことを保証する。
連結かつ局所単連結な位相空間 $X$ には、単連結な被覆空間 $\tilde{X}$ が(同型を除いて)ただ一つ存在する。これを普遍被覆空間(universal covering space)と呼ぶ。
単連結性は、第1ホモトピー群(基本群)が消えていることを意味するが、より高次の「穴」については言及していない。
「単連結な3次元閉多様体は、3次元球面 $S^3$ に同相であるか?」という問いが、有名なポアンカレ予想(現在は定理)である。
これは、「基本群の情報(単連結性)だけで、球面の形状を特定できるか」という問題を提起したものであった。
Mathpediaは寄付と、参考文献の書籍リンク(Amazonアソシエイト)の紹介料で運営されています。 支援について / 寄付する