単連結空間

概要

単連結空間(simply connected space)とは、弧状連結であって、任意のループが基点を固定したまま一点へ縮められる位相空間のことである。同じことは基本群 $\pi_1(X)$ が自明であるとも言い表され、直感的には「1 次元の穴がない」ことを意味する。空でない星状集合や凸集合、$n\ge2$ の球面 $S^n$ は単連結であり、円周 $S^1$、トーラス、原点を除いた平面は単連結でない。弧状連結性は定義に欠かせず、すべての基点で基本群が自明なだけでは足りない。単連結性は直積で保たれるが部分空間には遺伝せず、可縮性より真に弱く、局所単連結性とは独立である。

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前提知識: 位相空間, 基本群, ホモトピー, 弧状連結空間

定義

位相空間 $X$ と点 $x_0\in X$ に対し、$x_0$ を基点とするループとは、連続写像 $\gamma\colon[0,1]\to X$ で $\gamma(0)=\gamma(1)=x_0$ を満たすもののことである。二つのループ $\gamma_0,\gamma_1$(いずれも基点 $x_0$)が基点を固定してホモトピックであるとは、連続写像 $H\colon[0,1]\times[0,1]\to X$ で
$$ H(s,0)=\gamma_0(s),\qquad H(s,1)=\gamma_1(s),\qquad H(0,t)=H(1,t)=x_0 $$
を満たすものが存在することをいう(ホモトピー)。$s\mapsto x_0$ で定まるループを定値ループといい $c_{x_0}$ と書く。

単連結性の定義

位相空間 $X$ が単連結(simply connected)であるとは、次の二条件をともに満たすことをいう。

  1. $X$ は弧状連結空間である。
  2. ある点 $x_0\in X$ について、$x_0$ を基点とする任意のループが、基点を固定したまま定値ループ $c_{x_0}$ にホモトピックである。
    このような $X$ を単連結空間という。条件 2 は「$X$ の中の任意の輪が、輪のまま連続的に一点へ縮む」ことを述べている。

条件 2 は基本群の言葉で言い換えられる。$\pi_1(X,x_0)$ は $x_0$ を基点とするループの、基点を固定したホモトピーによる同値類のなす群であり、単位元は $c_{x_0}$ の類である。したがって条件 2 は $\pi_1(X,x_0)$ が自明群であることにほかならない。弧状連結空間では条件 2 が基点の取り方によらないことを次に示す。

条件は基点の取り方によらない

$X$ を弧状連結な位相空間とし、ある点 $x_0\in X$ について $x_0$ を基点とする任意のループが基点を固定して $c_{x_0}$ にホモトピックであるとする。このとき任意の点 $x_1\in X$ についても、$x_1$ を基点とする任意のループは基点を固定して $c_{x_1}$ にホモトピックである。すなわち定義の条件 2 における「ある点」は「任意の点」に置き換えてよい。

道の張り合わせによる証明

道 $\beta,\eta$ が $\beta(1)=\eta(0)$ を満たすとき、連結 $\beta\ast\eta$ を $(\beta\ast\eta)(s)=\beta(2s)$($s\le1/2$)、$=\eta(2s-1)$($s\ge1/2$)で定め、$\beta$ の逆向きの道を $\bar\beta(s)=\beta(1-s)$ と書く。以下で用いる三つの規則を、そのつど具体的なホモトピーを与えて確かめる(体系的な扱いは 基本群 の担当である)。いずれのホモトピーも端点を動かさない。
(a) 径数の取り替え。 $\varphi\colon[0,1]\to[0,1]$ が連続で $\varphi(0)=0$、$\varphi(1)=1$ ならば、$M(s,t):=\beta\bigl((1-t)\varphi(s)+ts\bigr)$ は $\beta\circ\varphi$ から $\beta$ への端点固定ホモトピーである。とくに $(\beta\ast\eta)\ast\zeta$ と $\beta\ast(\eta\ast\zeta)$、$c_{\beta(0)}\ast\beta$ と $\beta$、$\beta\ast c_{\beta(1)}$ と $\beta$ は、いずれも一方が他方の径数の取り替えなので端点固定ホモトピックである。
(b) 折り返し。 $\lambda(s):=\min\{2s,\,2-2s\}$ とおくと $\beta\ast\bar\beta=\beta\circ\lambda$ であり、$N(s,t):=\beta\bigl((1-t)\lambda(s)\bigr)$ は $\beta\ast\bar\beta$ から定値道 $c_{\beta(0)}$ への端点固定ホモトピーである($s=0,1$ では $\lambda=0$ なので値は $\beta(0)$ に固定される)。
(c) 連結はホモトピーを保つ。 $F$ が $\beta_0$ から $\beta_1$ への、$G$ が $\eta_0$ から $\eta_1$ への端点固定ホモトピーならば、$(s,t)\mapsto F(2s,t)$($s\le1/2$)、$G(2s-1,t)$($s\ge1/2$)は $\beta_0\ast\eta_0$ から $\beta_1\ast\eta_1$ への端点固定ホモトピーである。二つの式は $s=1/2$ で共通の値 $\beta_1(1)=\eta_1(0)$ をとるので、貼り合わせは連続である。
さて $\gamma$ を $x_1$ を基点とするループとする。$X$ は弧状連結なので $x_0$ から $x_1$ への道 $\alpha$ をとる。$\delta:=\alpha\ast(\gamma\ast\bar\alpha)$ は $x_0$ を基点とするループなので、仮定より $\delta\simeq c_{x_0}$(端点固定)である。ここで (a)(b)(c) を順に使うと
$$ \bar\alpha\ast(\delta\ast\alpha)\;\simeq\;\bar\alpha\ast\bigl((\alpha\ast(\gamma\ast\bar\alpha))\ast\alpha\bigr)\;\simeq\;(\bar\alpha\ast\alpha)\ast\bigl(\gamma\ast(\bar\alpha\ast\alpha)\bigr)\;\simeq\;c_{x_1}\ast(\gamma\ast c_{x_1})\;\simeq\;\gamma $$
を得る。他方 $\delta\simeq c_{x_0}$ と (c)(a)(b) から
$$ \bar\alpha\ast(\delta\ast\alpha)\;\simeq\;\bar\alpha\ast(c_{x_0}\ast\alpha)\;\simeq\;\bar\alpha\ast\alpha\;\simeq\;c_{x_1} $$
となる。端点固定ホモトピーは同値関係なので、二つを繋いで $\gamma\simeq c_{x_1}$ を得る。$\square$

定義の細部と他の流儀

弧状連結性は落とせない。 二点からなる離散空間 $D=\{a,b\}$ を考える。$D$ の各点を基点とするループは定値ループしかないので($[0,1]$ は連結であり、その連続像は連結だから一点に含まれる)、$\pi_1(D,a)$ も $\pi_1(D,b)$ も自明群である。しかし $D$ は弧状連結ではない。満たす性質 $P$ は「すべての基点で基本群が自明であること」、満たさない性質 $Q$ は「単連結であること」であり、破れる含意は「すべての基点で $\pi_1$ が自明 $\Rightarrow$ 単連結」である。定義の条件 1 はこの空間を排除するために必要である。条件 2 は基点 $x_0$ を通るループしか見ておらず、そのようなループの像は $x_0$ を含む弧状連結成分に含まれるので、条件 1 がないと条件 2 はその成分の外について何も言わない。
空集合。 本記事では弧状連結空間の流儀に合わせ、空集合は弧状連結でないとし、したがって単連結でないと約束する。空集合を弧状連結(したがって単連結)とみなす文献もある。なお連結空間の記事では空集合を連結としており、単連結性と連結性で空集合の扱いが揃っていないことに注意する。
弧状連結性を課さない流儀。 Lie 群論などでは、弧状連結性を課さず「任意の基点における基本群が自明」を単連結の定義とすることがある。Lie 群では弧状連結成分どうしが自身の作用で同相に移り合うため、基点の取り方によらず基本群の形が定まり、この流儀が扱いやすい。本記事では弧状連結性を常に課す。空でない空間に限れば、上の $D=\{a,b\}$ は二つの流儀が食い違う最小の例である。

道による特徴づけ

弧状連結な位相空間 $X$ について、次の二条件は同値である。

  1. $X$ は単連結である。
  2. 同じ始点と同じ終点を持つ $X$ の任意の二本の道は、端点を固定してホモトピックである。
道による特徴づけの証明

記号と規則 (a)(b)(c) は prf-simply-connected-space-basepoint のものを用いる。
(2 $\Rightarrow$ 1)$x_0\in X$ をとる。$x_0$ を基点とするループ $\gamma$ は $x_0$ から $x_0$ への道であり、定値道 $c_{x_0}$ も同じ端点を持つ道である。条件 2 より両者は端点固定ホモトピックであり、これは定義の条件 2 の主張そのものである。
(1 $\Rightarrow$ 2)$x_0$ から $x_1$ への道 $\alpha,\beta$ をとる。$\alpha\ast\bar\beta$ は $x_0$ を基点とするループなので、prop-simply-connected-space-basepoint により $\alpha\ast\bar\beta\simeq c_{x_0}$(端点固定)である。両辺に右から $\beta$ を連結すると、(c) により
$$ (\alpha\ast\bar\beta)\ast\beta\;\simeq\;c_{x_0}\ast\beta\;\simeq\;\beta $$
であり、(a)(b) により
$$ (\alpha\ast\bar\beta)\ast\beta\;\simeq\;\alpha\ast(\bar\beta\ast\beta)\;\simeq\;\alpha\ast c_{x_1}\;\simeq\;\alpha $$
である。推移律から $\alpha\simeq\beta$(端点固定)を得る。$\square$

直感

単連結性は「1 次元の穴がない」ことの厳密な定式化である。弧状連結な空間で、空間の中に置いた輪ゴムが、空間からはみ出さず、切らずに、いつでも一点まで回収できるなら、その空間は単連結である。平面内の領域では、これは文字どおり「穴が開いていない」ことと一致する。円板は単連結だが、円環(アニュラス)は真ん中の穴に輪ゴムが引っかかるので単連結でない。
三次元以上では直感の使い方に注意が要る。球面 $S^2$ は内部が空洞だが、表面上の輪ゴムは表面を滑らせて一点に集められるので単連結である。逆にドーナツの表面(トーラス)は、穴を貫くループも浮き輪を回るループも縮まないので単連結でない。空洞の有無ではなく、輪が引っかかるかどうかが問題である。空洞の有無を測るのは高次のホモトピー群であり、単連結性はそれについて何も述べない。

例と反例

凸集合と星状集合

$\mathbb{R}^m$ の空でない部分集合 $S$ が点 $c\in S$ に関して星状であるとは、任意の $q\in S$ について線分 $\{(1-t)q+tc\mid t\in[0,1]\}$ が $S$ に含まれることをいう。空でない星状集合は単連結である。この主張は 半局所単連結空間 が命題「空でない星状集合は単連結」として所有し、直線ホモトピー $H(s,t)=(1-t)\gamma(s)+tc$ による完全な証明を持つので、本記事はそれを引用する。
とくに $\mathbb{R}^n$ とその空でない凸部分集合、閉球体 $D^n$、一点空間はすべて単連結である。単連結性は同相で保たれるので(prop-simply-connected-space-invariance)、これらと同相な空間、たとえば閉区間 $[0,1]$ と同相な円弧もすべて単連結である。

球面の単連結性

$n\ge2$ のとき、$n$ 次元球面 $S^n=\{x\in\mathbb{R}^{n+1}\mid |x|=1\}$ は単連結である。次元の条件は落とせない:$n=1$ のとき $S^1$ は単連結でない(rem-simply-connected-space-nonexamples)。

折れ線近似による証明

$n\ge1$ のとき $S^n$ は弧状連結である(二点は大円に沿って結べる)。以下 $n\ge2$ とし、基点 $x_0\in S^n$ のループ $\gamma$ が定値ループに基点固定ホモトピックであることを示す。
第 1 段(一点を避けるループへの取り替え)。 北極 $N$ と南極 $S$ をとると、$A:=S^n\setminus\{N\}$ と $B:=S^n\setminus\{S\}$ は $S^n$ の開被覆であり、立体射影によりいずれも $\mathbb{R}^n$ と同相である。同相写像を $\sigma_A\colon A\to\mathbb{R}^n$、$\sigma_B\colon B\to\mathbb{R}^n$ とする。$\{\gamma^{-1}(A),\gamma^{-1}(B)\}$ はコンパクト距離空間 $[0,1]$ の開被覆なので Lebesgue 数 $\varepsilon>0$ をもつ。$1/k<\varepsilon$ なる $k$ をとり $t_i:=i/k$($i=0,\dots,k$)と分割すると、各 $[t_{i-1},t_i]$ の像は $A$ か $B$ の一方に含まれる。含まれるほうを $U_i$(同相写像を $\sigma_i$)と定める。
各 $i$ について、$\sigma_i\circ\gamma|_{[t_{i-1},t_i]}$ を、両端点を結ぶ線分の径数付けに直線ホモトピーで取り替える。$\mathbb{R}^n$ は凸なのでこのホモトピーは $\mathbb{R}^n$ の中に留まり、$\sigma_i^{-1}$ で戻せば $U_i\subset S^n$ の中のホモトピーになる。両端点は動かないので、$i$ について貼り合わせると、$\gamma$ から新しいループ $\gamma'$ への基点固定ホモトピーが得られる(基点 $x_0=\gamma(t_0)=\gamma(t_k)$ も分割点も動かない)。
第 2 段($\gamma'$ は全射でない)。 $\gamma'([t_{i-1},t_i])=\sigma_i^{-1}(L_i)$($L_i$ は $\mathbb{R}^n$ の線分)である。$n\ge2$ のとき線分 $L_i$ は $\mathbb{R}^n$ で内点を持たず、コンパクトなので閉集合である。$\sigma_i$ は同相写像で $U_i$ は $S^n$ の開集合だから、$\sigma_i^{-1}(L_i)$ は $S^n$ のコンパクト(したがって閉)な部分集合で内点を持たない。閉集合で内点を持たないもの有限個の合併もまた内点を持たない。したがって $\gamma'([0,1])=\bigcup_{i=1}^k\sigma_i^{-1}(L_i)$ は $S^n$ の閉集合で内点を持たず、$S^n$ 自身とは異なる。ここで $n\ge2$ を使った:$n=1$ なら線分は $\mathbb{R}$ の中に内点を持ち、この論法は成り立たない。
第 3 段(縮める)。 $p\in S^n\setminus\gamma'([0,1])$ をとる。$p$ を北極 $N$ へ移す直交変換は $S^n$ の同相写像なので、はじめから $p=N$ としてよい。すると $\gamma'$ は $A=S^n\setminus\{N\}$ の中のループである。$A$ は立体射影で $\mathbb{R}^n$ と同相であり、$\mathbb{R}^n$ は星状なので単連結(ex-simply-connected-space-star)、単連結性は同相で保たれるから $A$ も単連結である。よって $\gamma'$ は $A$ の中で基点を固定して定値ループにホモトピックであり、そのホモトピーを包含写像 $A\hookrightarrow S^n$ と合成すれば $S^n$ の中のホモトピーになる。第 1 段と繋いで $\gamma\simeq c_{x_0}$ を得る。$\square$

原点を除いた空間

$n\ge3$ のとき $\mathbb{R}^n\setminus\{0\}$ は単連結である。写像 $r(x)=x/|x|$ と直線ホモトピー $(x,t)\mapsto (1-t)x+t\,x/|x|$(線分は原点を通らないので $\mathbb{R}^n\setminus\{0\}$ に留まる)により $S^{n-1}$ は $\mathbb{R}^n\setminus\{0\}$ の変位レトラクトであり、両者はホモトピー同値である。$n-1\ge2$ なので $S^{n-1}$ は単連結であり(prop-simply-connected-space-sphere)、単連結性はホモトピー不変なので(prop-simply-connected-space-invariance)$\mathbb{R}^n\setminus\{0\}$ も単連結である。
三次元空間に開いた「点の穴」に輪は引っかからない。一方 $n=2$ では $\mathbb{R}^2\setminus\{0\}$ は単連結でない(rem-simply-connected-space-nonexamples)。ここでは点を除く場合の次元条件 $n\ge3$ と $n=2$ で結論が異なる。

Hawaiianイヤリングの錐

Hawaiianイヤリング $\mathbb{H}=\bigcup_{n\ge1}C_n\subset\mathbb{R}^2$($C_n$ は中心 $(1/n,0)$、半径 $1/n$ の円周)を $\mathbb{R}^2\times\{0\}\subset\mathbb{R}^3$ に含め、頂点 $c=(0,0,1)$ との線分をすべて集めた
$$ A:=\{(1-t)p+tc\mid p\in\mathbb{H},\ t\in[0,1]\}\subset\mathbb{R}^3 $$
を考える。$A$ は $c$ に関して星状なので単連結である。この空間は単連結だが局所単連結でない空間の標準例であり、星状性と非局所単連結性の完全な証明は 半局所単連結空間 が命題「Hawaiianイヤリングの錐は局所単連結でない」として持つので、本記事はそれを引用する。単連結性は大域的な条件であって、局所単連結性を含意しないことがこの例から分かる。

反例:単連結でない空間

次はいずれも弧状連結だが単連結でない。満たす性質 $P$ は「弧状連結であること」、満たさない性質 $Q$ は「単連結であること」であり、破れる含意は「弧状連結 $\Rightarrow$ 単連結」である。基本群の計算はいずれも Hat02 による引用であり、本記事では証明しない。

  • 円周 $S^1$:$\pi_1(S^1)\cong\mathbb{Z}$(Hat02 定理 1.7)。同型を与えるのは、ループが原点のまわりを何周するかという回転数である。
  • トーラス $T^2=S^1\times S^1$:$\pi_1(T^2)\cong\mathbb{Z}\times\mathbb{Z}$(Hat02 §1.1)。穴を貫くループと浮き輪を回るループが独立な生成元を与える。
  • 原点を除いた平面 $\mathbb{R}^2\setminus\{0\}$:$S^1$ を変位レトラクトとして持つので $\pi_1\cong\mathbb{Z}$ である。
  • 直線を除いた三次元空間 $\mathbb{R}^3\setminus\ell$($\ell$ は直線):$\ell$ に直交する平面へ射影すると $\mathbb{R}^2\setminus\{0\}$ を変位レトラクトとして持つので $\pi_1\cong\mathbb{Z}$ である。直線のまわりを回るループは縮まない。除く部分の次元が問題であり、点を除くか直線を除くかで結論が変わる(ex-simply-connected-space-punctured と対比せよ)。
  • 8 の字 $S^1\vee S^1$:$\pi_1$ は階数 $2$ の自由群(Hat02 例 1.21)で、可換ですらない。
  • 実射影平面 $\mathbb{R}P^2$:$\pi_1\cong\mathbb{Z}/2\mathbb{Z}$(Hat02 例 1.44)。見た目に穴はないが、二周してはじめてほどけるループがある。

性質

ホモトピー不変性

単連結性はホモトピー不変である。すなわち $X$ と $Y$ がホモトピー同値で $X$ が単連結ならば $Y$ も単連結である。とくに同相な空間の一方が単連結ならば他方も単連結である。

これは、弧状連結性がホモトピー不変であることと、基本群がホモトピー不変な関手であることから従う。後者は 基本群 の担当であり、本記事では引用にとどめる(Hat02 命題 1.18)。

可縮ならば単連結

可縮空間は単連結である。逆は成り立たない:$S^2$ は単連結だが可縮でない。

可縮性からの証明

記号と規則 (a)(b)(c) は prf-simply-connected-space-basepoint のものを用いる。$X$ が可縮であるとは、連続写像 $F\colon X\times[0,1]\to X$ と点 $q\in X$ で $F(x,0)=x$、$F(x,1)=q$(すべての $x\in X$)を満たすものが存在することである。
弧状連結性。 各 $x\in X$ について $t\mapsto F(x,t)$ は $x$ から $q$ への道である。二点 $x,y$ はこれらを $q$ で繋いで結べる。
ループが縮むこと。 基点 $p\in X$ をとり、$\alpha(t):=F(p,t)$($p$ から $q$ への道)とおく。$p$ を基点とするループ $\gamma$ に対し、$u\in[0,1]$ ごとに $\alpha_u(t):=\alpha(ut)$($p$ から $\alpha(u)$ への道)と、$\alpha(u)$ を基点とするループ $\gamma_u(s):=F(\gamma(s),u)$ を定め、$p$ を基点とするループ
$$ L_u:=\alpha_u\ast(\gamma_u\ast\overline{\alpha_u}) $$
を考える。$(s,u)\mapsto L_u(s)$ は区分ごとに連続な式の貼り合わせで、境目で値が一致するので連続であり、$s=0,1$ では常に $p$ をとる。したがって $L_0$ から $L_1$ への基点固定ホモトピーが得られる。$L_0=c_p\ast(\gamma\ast c_p)$ は (a) により $\gamma$ と基点固定ホモトピックであり、$\gamma_1=c_q$ なので (a)(b) により
$$ L_1=\alpha\ast(c_q\ast\bar\alpha)\;\simeq\;\alpha\ast\bar\alpha\;\simeq\;c_p $$
である。推移律から $\gamma\simeq c_p$ を得る。$\square$

逆が成り立たないことは $S^2$ が示す。$S^2$ は単連結だが(prop-simply-connected-space-sphere)、$\pi_2(S^2)\cong\mathbb{Z}$ が非自明なので可縮ではない。この計算は ホモトピー群 の球面の例でも引用されているが、両記事とも証明を持たず、本記事では外部依存として採用する(Hat02 の次数論)。

直積の単連結性

$\{X_i\}_{i\in I}$ を空でない添字集合 $I$ で添字づけられた単連結空間の族とすると、直積位相を入れた直積 $\prod_{i\in I}X_i$ は単連結である。

成分ごとの構成による証明

$X:=\prod_{i\in I}X_i$ とし、射影を $p_i\colon X\to X_i$ と書く。各 $X_i$ は単連結なので空でない。選択公理により $X$ も空でない($I$ が有限なら有限個の選択で足りる)。直積位相の普遍性により、各成分が連続な写像 $Z\to X$ は連続である。
弧状連結性。 $x=(x_i)$、$y=(y_i)$ を $X$ の二点とする。各 $i$ について $X_i$ は弧状連結なので $x_i$ から $y_i$ への道 $\alpha_i$ が存在する。$I$ が無限のときはここで族 $(\alpha_i)_{i\in I}$ を一斉に取るために選択公理を使う($I$ が有限なら不要である)。$\alpha(t):=(\alpha_i(t))_{i\in I}$ は普遍性により連続で、$x$ から $y$ への道である。
ループが縮むこと。 基点 $x_0=(x_{0,i})$ をとり、$\gamma$ を $x_0$ を基点とする $X$ のループとする。各 $i$ について $p_i\circ\gamma$ は $x_{0,i}$ を基点とする $X_i$ のループなので、$X_i$ の単連結性と prop-simply-connected-space-basepoint により、基点固定ホモトピー $H_i\colon[0,1]\times[0,1]\to X_i$ で
$$ H_i(s,0)=p_i(\gamma(s)),\qquad H_i(s,1)=x_{0,i},\qquad H_i(0,t)=H_i(1,t)=x_{0,i} $$
を満たすものが存在する。$I$ が無限のときはここでも族 $(H_i)_{i\in I}$ を取るために選択公理を使う。$H(s,t):=(H_i(s,t))_{i\in I}$ は普遍性により連続で、$H(s,0)=\gamma(s)$、$H(s,1)=x_0$、$H(0,t)=H(1,t)=x_0$ を満たす。よって $\gamma\simeq c_{x_0}$ である。$\square$

反例:位相的構成による保存と非保存

単連結性は直積では保たれるが、他の構成では一般に保たれない。以下、円周 $S^1$ が単連結でないこと(rem-simply-connected-space-nonexamples)と、空でない星状集合が単連結であること(ex-simply-connected-space-star)を繰り返し使う。各項で満たす性質 $P$、満たさない性質 $Q$、破れる含意を明示する。

  1. 部分空間に遺伝しない。 $P$:$\mathbb{R}^2$ が単連結。$Q$:その部分空間 $\mathbb{R}^2\setminus\{0\}$ が単連結。破れる含意は「$X$ が単連結 $\Rightarrow$ $X$ の任意の部分空間が単連結」である。$\mathbb{R}^2$ は凸なので単連結、$\mathbb{R}^2\setminus\{0\}$ は単連結でない。
  2. 部分空間の単連結性は全空間に上がらない。 $P$:一点集合 $\{q\}\subset S^1$ が単連結。$Q$:$S^1$ が単連結。破れる含意は「ある部分空間が単連結 $\Rightarrow$ 全空間が単連結」である。
  3. 和集合で保たれない(共通部分が空でなくても)。 $P$:$S^1$ の上半円弧 $\{(\cos\theta,\sin\theta)\mid 0\le\theta\le\pi\}$ と下半円弧 $\{(\cos\theta,\sin\theta)\mid \pi\le\theta\le2\pi\}$ がともに単連結(どちらも $[0,1]$ と同相なので ex-simply-connected-space-star による)。$Q$:和集合 $S^1$ が単連結。破れる含意は「$A,B$ が単連結で $A\cap B\ne\emptyset$ $\Rightarrow$ $A\cup B$ が単連結」である。共通部分は二点集合 $\{(1,0),(-1,0)\}$ で空ではない。弧状連結性では共通部分が空でなければ和が弧状連結になるので、単連結性はここで弧状連結性と振る舞いが違う。
  4. 共通部分で保たれない。 $\mathbb{R}^3$ の中で $S^1\times\{0\}$ を底とし頂点 $(0,0,1)$ をもつ錐 $A:=\{(1-t)p+t(0,0,1)\mid p\in S^1\times\{0\},\ t\in[0,1]\}$ と、頂点 $(0,0,-1)$ をもつ錐 $A'$ をとる。$A$ が頂点 $c=(0,0,1)$ に関して星状であることは、$q=(1-t)p+tc\in A$ と $s\in[0,1]$ に対し $(1-s)q+sc=(1-t')p+t'c$($t':=t+s-ts\in[0,1]$)となることから従う。$A'$ も同様である。$P$:$A$ と $A'$ がともに単連結。$Q$:$A\cap A'$ が単連結。破れる含意は「$A,B$ が単連結 $\Rightarrow$ $A\cap B$ が単連結」である。$A$ の点の第 3 成分は $0$ 以上、$A'$ の点のそれは $0$ 以下なので $A\cap A'=S^1\times\{0\}$ であり、これは $S^1$ と同相で単連結でない。
  5. 連続像で保たれない。 $P$:$[0,1]$ が単連結。$Q$:連続全射 $t\mapsto(\cos2\pi t,\sin2\pi t)$ による像 $S^1$ が単連結。破れる含意は「$X$ が単連結で $f$ が連続 $\Rightarrow$ $f(X)$ が単連結」である。
  6. 逆像で保たれない。 $P$:一点空間 $\{\ast\}$ が単連結。$Q$:定値写像 $S^1\to\{\ast\}$ による逆像 $S^1$ が単連結。破れる含意は「$f$ が連続で $B$ が単連結 $\Rightarrow$ $f^{-1}(B)$ が単連結」である。
  7. 直和で保たれない。 $P$:空でない単連結空間 $X,Y$。$Q$:直和 $X\sqcup Y$ が単連結。破れる含意は「$X,Y$ が単連結 $\Rightarrow$ $X\sqcup Y$ が単連結」である。$X$ は $X\sqcup Y$ の空でない開かつ閉な真部分集合なので $X\sqcup Y$ は連結でなく、したがって弧状連結でも単連結でもない。
  8. 直積では保たれる。 prop-simply-connected-space-product のとおりである。
含意の階層

単連結性は次の連鎖の中に位置する。各行は独立の主張であり、逆向きの含意はいずれも成り立たない。

含意根拠逆が成り立たない反例
可縮 $\Rightarrow$ 単連結prop-simply-connected-space-contractible$S^2$ は単連結だが可縮でない($\pi_2(S^2)\cong\mathbb{Z}$ は外部依存。Hat02 の次数論、ホモトピー群 の球面の例)
単連結 $\Rightarrow$ 弧状連結定義の条件 1$S^1$ は弧状連結だが単連結でない(rem-simply-connected-space-nonexamples)
弧状連結 $\Rightarrow$ 連結連結空間 が命題「弧状連結ならば連結」として証明つきで所有位相幾何学者の正弦曲線は連結だが弧状連結でない(この反例の採用には外部依存が残る)
単連結 $\Rightarrow$ 半局所単連結半局所単連結空間 が命題「単連結ならば半局所単連結」として所有円周 $S^1$ は半局所単連結だが単連結でない(半局所単連結空間 の例「局所単連結な空間」と命題「局所単連結ならば半局所単連結」。非単連結性は Hat02 定理 1.7)

局所的な条件はこの連鎖とは別の軸である。単連結であることは、各点が単連結な開近傍からなる基本近傍系を持つこと(局所単連結性)を含意しないし、逆も成り立たない。ex-simply-connected-space-cone の錐は単連結だが局所単連結でなく、$S^1$ は局所単連結だが単連結でない。

補足・応用

局所単連結性との関係

位相空間 $X$ が局所単連結(locally simply connected)であるとは、任意の点 $x$ と $x$ の任意の近傍 $V$ に対し、単連結な開近傍 $U$ で $x\in U\subset V$ となるものが存在することをいう。この語の定義と、局所単連結性・半局所単連結性の相互関係は 半局所単連結空間 が所有しており、本記事はそれを引用する。
同記事の円周の例には、各点の開弧が開区間と同相であることによる局所単連結性の理由が書かれている。円周が単連結でないことは基本群の計算を外部依存として用いる。ex-simply-connected-space-cone の錐の非局所単連結性と、Hawaiianイヤリング の非半局所単連結性には同記事の証明がある。単連結性と局所単連結性のあいだにはどちらの向きの包含もない。

普遍被覆空間との関係

被覆空間 $\tilde X\to X$ が単連結であるとき $\tilde X$ を $X$ の普遍被覆空間という。この語の定義と、$S^1$ の普遍被覆が $\mathbb{R}$ であること、普遍被覆の被覆変換群が基本群と同型になることは、公開記事 被覆空間 に記載されている。ただし同記事にはこれらの主張の証明はなく、本記事では一般論を採用外部依存として扱う。
普遍被覆が存在するための条件については、半局所単連結空間 に定理「普遍被覆の存在」が外部文献からの引用として記載されている。すなわち弧状連結かつ局所弧状連結な空間について、単連結な被覆空間を持つことと半局所単連結であることは同値である。同記事もこの定理の証明を持たず、本記事も採用外部依存として引用にとどめる。単連結性がここに現れるのは、それが「被覆の中で最も上にあるもの」を特徴づけるからである。

複素解析における役割

以下で領域とは空でない連結開集合をいう。複素解析では、領域の単連結性が正則関数の積分の経路によらないことを保証する。単連結領域 $D\subset\mathbb{C}$ 上の正則関数は原始関数を持ち、$D$ 内の任意の区分的に $C^1$ 級の閉曲線に沿う積分は $0$ になる(Cauchy の積分定理)。零点を持たない正則関数には一価の対数が取れ、$\mathbb{C}$ 自身でない単連結領域は単位円板と双正則である(Riemann の写像定理)。
領域が単連結でないときは結論が崩れる。穴を囲む閉曲線に沿う積分は、留数定理により一般に $0$ にならない。単連結性は「特異点を囲むループがない」ことを保証している。
いずれも複素解析の定理であり、現時点でこれらの主張を所有する記事は本プロジェクトに存在しない。本記事はこれらの一般定理を外部依存として紹介し、証明は持たない(Ahl79 第 4 章)。「輪が縮む」という位相的条件が「積分が経路によらない」という解析的条件に翻訳される、という対応がここでの要点である。

3 次元閉多様体の特徴づけという問い

「単連結な 3 次元閉多様体は 3 次元球面 $S^3$ に同相か」という問いが ポアンカレ予想(現在は定理)である。基本群という一つの不変量の情報だけで多様体の形が決まるか、という問いであり、単連結性が現れる問題のうち最も有名なものである。本記事は主張の所在を示すにとどめる。
なお、単連結性は $n$ 連結性という階層の $n=1$ の場合にあたる。空間が $0$ 連結(弧状連結)であり、かつ第 $1$ から第 $n$ までのホモトピー群がすべて自明であるとき $n$ 連結といい、「単連結」は「$1$ 連結」と同義である。この階層は ホモトピー群 の担当である。

補足:単体的集合における対応

位相空間と単体的集合は同等のホモトピー論を持つので(幾何学的実現と特異単体集合が Quillen 同値を与える)、単連結性にも単体的集合版がある。単体的集合 $K$ が Kan 複体であるとき、$\pi_0(K)$(頂点の、辺による同値関係での類別)と、頂点 $v$ を基点とする $\pi_1(K,v)$($v$ を両端とする $1$ 単体の、$2$ 単体によるホモトピーでの類別に群構造を入れたもの)が定義される。$K$ が単連結であるとは、$\pi_0(K)$ が一点で、ある(したがって任意の)頂点 $v$ について $\pi_1(K,v)$ が自明群であることをいう。ここで用いた $1$ 単体・$2$ 単体によるホモトピー群の直接の記述では Kan 条件(角の充填)を用いる。
対応は次のように述べられる。位相空間 $X$ の特異単体集合 $\operatorname{Sing}(X)$ は常に Kan 複体で、$\pi_i(\operatorname{Sing}(X),x)\cong\pi_i(X,x)$ が成り立つ。したがって $X$ が単連結であることと $\operatorname{Sing}(X)$ が単連結であることは同値である。逆向きに、Kan 複体 $K$ の幾何学的実現 $|K|$ について $\pi_i(|K|,|v|)\cong\pi_i(K,v)$ が成り立つので、$K$ が単連結であることと $|K|$ が単連結であることも同値である。これらの同型は本記事では証明せず引用にとどめる(GJ99 I.11)。単体的集合版の詳細は、今後の記事化対象 単連結空間(単体的集合) とする。

関連項目

参考文献

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