指数関数

同義語:exponential function

概要

指数関数(exponential function)とは、冪級数 $\exp x=\sum_{n\geq0}x^n/n!$ で定まる実数全体の上の関数 $e^x$ のことである。$\exp'=\exp$ かつ $\exp0=1$ を満たす微分可能な関数はこれだけであり、指数法則 $e^{x+y}=e^xe^y$ が成り立つ。値はつねに正で、狭義単調増加し、$\mathbb{R}$ から $(0,\infty)$ への全単射で、$x\to\infty$ でどの冪 $x^m$ よりも速く増える。その逆関数が自然対数 $\log$ であり、$a>0$ の実数乗を $a^x:=e^{x\log a}$ と定めると有理数乗の通常の意味と一致する。複素数に広げると Euler の公式 $e^{ix}=\cos x+i\sin x$ により三角関数と結びつき、周期 $2\pi i$ をもつ。

$$\newcommand{C}[0]{\mathbb{C}} \newcommand{div}[0]{\mathbin{÷}} \newcommand{N}[0]{\mathbb{N}} \newcommand{Q}[0]{\mathbb{Q}} \newcommand{R}[0]{\mathbb{R}} \newcommand{Z}[0]{\mathbb{Z}} $$

前提知識: 冪級数, 導関数, 平均値の定理, 連鎖律

定義

年利 1% の複利で預金すると、$t$ 年後の残高は元金の $1.01^t$ 倍になる。$1.01^{69}=1.986\ldots$、$1.01^{70}=2.006\ldots$ なので、元金が 2 倍になるのはおよそ 70 年後である。一般に年利 $r$ で 2 倍になるまでの年数は $\log2/\log(1+r)$ であり、$r=0.01$ なら $69.66\ldots$ 年である。$\log(1+r)$ は $r$ が小さいとき $r$ に近く、$\log2=0.693\ldots$ なので、およそ $70/(100r)$ 年で 2 倍になる(「70 の法則」)。このような「一定の割合で増える量」を表すのが指数関数である。指数関数 $\exp x=e^x$ は、変化の速さがその時点の値に等しい($\exp'=\exp$)という性質で特徴づけられ、$e^{x+y}=e^xe^y$ を満たす。値は冪級数
$$ e^x=1+x+\frac{x^2}{2!}+\frac{x^3}{3!}+\cdots $$
で計算でき、たとえば $e^{0.1}=1.1051709\ldots$ と、はじめの 4 項の和 $1+0.1+0.005+0.000166\ldots=1.1051666\ldots$ との差は $4.3\times10^{-6}$ 未満である。
本記事では、指数関数を冪級数で定義し、微分方程式による特徴づけ・指数法則・増え方の速さを証明し、一般の底の冪 $a^x$ を定める。

指数関数

実数 $x$ について
$$ \exp x:=\sum_{n=0}^{\infty}\frac{x^n}{n!}=1+x+\frac{x^2}{2!}+\frac{x^3}{3!}+\cdots $$
と定める($0!=1$、$x^0=1$)。右辺の冪級数はすべての実数 $x$ で絶対収束する(冪級数 の記事の例「指数級数」)。関数 $\exp\colon\mathbb{R}\to\mathbb{R}$ を指数関数(exponential function)という。$e:=\exp1$ をネイピア数という。

右辺の級数の収束は次のように確かめられる。$x\ne0$ なら、隣り合う項の絶対値の比は $\frac{|x|^{n+1}/(n+1)!}{|x|^n/n!}=\frac{|x|}{n+1}\to0$ なので、比判定法(絶対収束 の記事の定理「比判定法(一般の項)」)により絶対収束する。$x=0$ では和は $1$ である。
$\exp x$ を $e^x$ とも書く。この記法が「$e$ の $x$ 乗」と整合すること、すなわち $x$ が整数や有理数のとき $\exp x$ が $e$ の $x$ 乗に一致することは prop-expf-rational-power で示す。$e=2.718281828\ldots$ である(ネイピア数)。

直感

$\exp'=\exp$ は「増える速さが今の大きさに比例する(比例定数 $1$)」ことを意味する。人口・細菌の数・複利の預金のように、量が大きいほど速く増えるものは、単位を選び直すとこの規則に従う。$y'=ky$ を満たす関数は $y(t)=y(0)\exp(kt)$ に限られ(thm-expf-uniqueness)、$k>0$ なら一定時間ごとに一定の倍率で増え、$k<0$ なら一定の割合で減る(放射性物質の半減期)。指数法則 $\exp(x+y)=\exp x\exp y$ は、「$x$ だけ時間が経ってからさらに $y$ だけ経つと、倍率が掛け算でつながる」ことの式である。

例と反例

小さい値と負の値

$\exp0=1$、$\exp1=e=2.71828\ldots$、$\exp(-1)=1/e=0.36787\ldots$ である($\exp(-x)=1/\exp x$ は cor-expf-inverse)。$|x|$ が小さいとき $\exp x\approx1+x$ であり、誤差は $x^2/2$ 程度である。たとえば $\exp0.1-(1+0.1)=0.00517\ldots$ である。一方、$x$ が大きいとき $\exp x$ はどの冪 $x^m$ よりも速く増える。$x=10$ では $\exp10=22026.4\ldots$ は $10^5$ より小さいが、$x=13$ では $\exp13=442413.3\ldots$ が $13^5=371293$ を上回り、$x\to\infty$ で $\exp x/x^5\to\infty$ となる(prop-expf-growth)。

反例:微分方程式だけでは関数は決まらない

$f(x):=2\exp x$ も $g(x):=0$ も $f'=f$、$g'=g$ を満たすが、$\exp$ とは異なる。$f(0)=2$、$g(0)=0$ だからである。「$h'=h$ を満たせば $h=\exp$」という含意は成り立たず、thm-expf-uniqueness では初期値の条件 $h(0)=1$ が必要である。一般に $h'=h$ の解は $h(0)\exp x$ の形に限られる。

反例:指数法則だけでは関数は決まらない

関数 $f\colon\mathbb{R}\to\mathbb{R}$ で $f(x+y)=f(x)f(y)$ をすべての $x,y$ で満たすものは、$\exp$ のほかにも $f=0$、$f=1$、$f(x)=\exp(2x)$ などがある。したがって「指数法則を満たせば $f=\exp$」という含意は成り立たない。微分可能性と $f'(0)=1$ を加えれば $f=\exp$ に決まる(prop-expf-functional-equation)。

複利と連続複利

年利 $r$ を 1 年に $n$ 回に分けて複利で付けると、1 年後の残高は元金の $(1+r/n)^n$ 倍になる。$n\to\infty$ の極限は $\exp r$ である(prop-expf-compound)。たとえば $r=0.05$ なら、年 1 回で $1.05$ 倍、極限で $\exp0.05=1.05127\ldots$ 倍である。冒頭の「70 の法則」は、$(1+r)^t=2$ の解が $t=\log2/\log(1+r)$ であり($\log$ は 対数関数)、$r=0.05$ なら $14.20\ldots$ 年($1.05^{14}=1.979\ldots$、$1.05^{15}=2.078\ldots$)となることの目安である。

性質

微分方程式による特徴づけ

指数関数の導関数

$\exp$ は $\mathbb{R}$ 上で微分可能であり、$\exp'=\exp$、$\exp0=1$ である。したがって $\exp$ は何回でも微分できて、すべての $k$ で $\exp^{(k)}=\exp$ である。

項別に微分する

定義の冪級数の収束半径は $\infty$ なので、冪級数 の記事の定理「項別微分」により、$\exp$ は $\mathbb{R}$ 上で微分可能で
$$ \exp'x=\sum_{n=1}^{\infty}\frac{nx^{n-1}}{n!}=\sum_{n=1}^{\infty}\frac{x^{n-1}}{(n-1)!}=\sum_{m=0}^{\infty}\frac{x^m}{m!}=\exp x $$
である。$x=0$ では $n\geq1$ の項が $0$ なので $\exp0=1$ である。$\exp'=\exp$ を繰り返し使えば、何回でも微分できる。

指数関数は0にならない

すべての実数 $x$ で $\exp x\exp(-x)=1$ である。特に $\exp x\ne0$ であり、$\exp(-x)=1/\exp x$ である。

積の導関数が0になる

$h(x):=\exp x\exp(-x)$ とおく。連鎖律 の記事の定理「連鎖律」により $\frac{d}{dx}\exp(-x)=\exp'(-x)\cdot(-1)=-\exp(-x)$ であり、積の微分公式(導関数 の記事の定理「和・積・商の微分法」、Leb Proposition 4.1.8、p. 158)により
$$ h'(x)=\exp x\exp(-x)+\exp x\cdot\bigl(-\exp(-x)\bigr)=0 $$
である。平均値の定理 の記事の系「導関数が0なら定数」により $h$ は定数であり、$h(0)=\exp0\cdot\exp0=1$ なので $h=1$ である。

微分方程式の解としての一意性

$I$ を $0$ を含む区間(2 点以上を含む)とし、$k$ を実数とする。$f\colon I\to\mathbb{R}$ が微分可能で、すべての $x\in I$ で $f'(x)=kf(x)$ を満たすならば、すべての $x\in I$ で
$$ f(x)=f(0)\exp(kx) $$
である。特に、$f'=f$ かつ $f(0)=1$ を満たす $\mathbb{R}$ 上の微分可能な関数は $\exp$ だけである。

指数関数で割って定数を取り出す

$g(x):=f(x)\exp(-kx)$ とおく。連鎖律により $\frac{d}{dx}\exp(-kx)=-k\exp(-kx)$ なので、積の微分公式により
$$ g'(x)=f'(x)\exp(-kx)-kf(x)\exp(-kx)=\bigl(f'(x)-kf(x)\bigr)\exp(-kx)=0 $$
である。$I$ は区間なので、平均値の定理 の記事の系「導関数が0なら定数」により $g$ は定数で、$g(x)=g(0)=f(0)$ である。cor-expf-inverse により $\exp(-kx)\exp(kx)=1$ なので、$f(x)=g(x)\exp(kx)=f(0)\exp(kx)$ である。後半は $k=1$、$I=\mathbb{R}$ の場合であり、thm-expf-derivative により $\exp$ 自身がこの条件を満たす。

この証明は Leb Proposition 5.4.2(pp. 209–210)の一意性の証明と同じ考え方である。同書は指数関数を対数関数の逆関数として定義し、この一意性によって特徴づけている。冪級数で定義しても、対数関数の逆関数として定義しても、$f'=f$、$f(0)=1$ を満たすので、thm-expf-uniqueness により同じ関数である。

指数法則

指数法則

すべての実数 $x,y$ について $\exp(x+y)=\exp x\exp y$ である。

一意性に帰着する

$y$ を固定し、$f(x):=\exp(x+y)$ とおく。連鎖律により $f'(x)=\exp'(x+y)=\exp(x+y)=f(x)$ であり、$f(0)=\exp y$ である。thm-expf-uniqueness($k=1$、$I=\mathbb{R}$)により、$f(x)=f(0)\exp x=\exp y\exp x$ である。

別の証明として、2 つの冪級数の積を Cauchy 積で計算し、二項定理で整理する方法がある(絶対収束 の記事の例「指数法則」)。こちらは複素数の $x,y$ にもそのまま使える。

整数倍と有理数倍

実数 $x$ と整数 $m$ について $\exp(mx)=(\exp x)^m$ である。特に $\exp m=e^m$($e$ の $m$ 乗)である。

帰納法と逆数

$m\geq0$ については $m$ についての帰納法で示す。$m=0$ では両辺 $1$ であり、$m$ で成り立てば thm-expf-addition により $\exp((m+1)x)=\exp(mx)\exp x=(\exp x)^{m+1}$ である。$m<0$ なら $-m>0$ なので、cor-expf-inverse により $\exp(mx)=1/\exp(-mx)=1/(\exp x)^{-m}=(\exp x)^m$ である。$x=1$ とおけば後半を得る。

指数法則を満たす微分可能な関数

$f\colon\mathbb{R}\to\mathbb{R}$ がすべての $x,y$ で $f(x+y)=f(x)f(y)$ を満たし、$x=0$ で微分可能であるとする。このとき $f=0$ であるか、$k:=f'(0)$ について $f(x)=\exp(kx)$ である。特に $f'(0)=1$ で $f$ が恒等的に $0$ でなければ $f=\exp$ である。

0 での微分係数からすべての点の導関数を得る

$x=y=0$ とおくと $f(0)=f(0)^2$ なので $f(0)=0$ か $f(0)=1$ である。$f(0)=0$ なら、すべての $x$ で $f(x)=f(x+0)=f(x)f(0)=0$ である。$f(0)=1$ とする。任意の $x$ と $h\ne0$ について
$$ \frac{f(x+h)-f(x)}{h}=f(x)\,\frac{f(h)-f(0)}{h} $$
であり、$h\to0$ で右辺は $f(x)f'(0)$ に収束する。よって $f$ はすべての点で微分可能で $f'=kf$ である。thm-expf-uniqueness により $f(x)=f(0)\exp(kx)=\exp(kx)$ である。

ex-expf-functional-equation の $f=1$ は $k=0$、$f(x)=\exp(2x)$ は $k=2$ の場合である。微分可能性の代わりに連続性と $f(1)=e$ を仮定しても $f=\exp$ に決まることが、Leb Exercise 5.4.10(p. 213)に演習として挙げられている。

正値性・単調性・増え方

正値性と単調性

次が成り立つ。

  1. すべての実数 $x$ で $\exp x>0$ である。
  2. $\exp$ は狭義単調増加である。
  3. すべての実数 $x$ で $\exp x\geq1+x$ であり、等号は $x=0$ のときに限る。
  4. $\lim_{x\to\infty}\exp x=\infty$、$\lim_{x\to-\infty}\exp x=0$ である。
  5. $\exp$ は $\mathbb{R}$ から $(0,\infty)$ への全単射である。
平方と導関数の符号

1:thm-expf-addition により $\exp x=\exp(x/2)^2\geq0$ であり、cor-expf-inverse により $\exp x\ne0$ なので $\exp x>0$ である。
2:$\exp'=\exp>0$ なので、平均値の定理 の記事の系「導関数の符号と増減」により狭義単調増加である。
3:$g(x):=\exp x-1-x$ とおくと $g'(x)=\exp x-1$ である。2 により $x<0$ で $g'(x)<\exp0-1=0$、$x>0$ で $g'(x)>0$ である。$x\ne0$ とすると、平均値の定理 により $g(x)-g(0)=g'(\xi)x$ となる $0$ と $x$ の間の $\xi$ があり、$\xi$ は $x$ と同符号なので $g'(\xi)$ も $x$ と同符号である。したがって $g'(\xi)x>0$ であり、$g(x)=g(0)+g'(\xi)x=g'(\xi)x>0$ である。
4:3 により $x>0$ で $\exp x\geq1+x$ なので $\exp x\to\infty$($x\to\infty$)である。cor-expf-inverse により $\exp(-x)=1/\exp x\to0$($x\to\infty$)である。
5:2 により単射であり、1 により値は $(0,\infty)$ に入る。$y>0$ とすると、4 により $\exp a< y<\exp b$ となる $a< b$ がとれる。$\exp$ は微分可能なので連続であり、中間値の定理 の記事の定理「中間値の定理」により $\exp x=y$ となる $x\in(a,b)$ がある。

5 により $\exp$ の逆関数 $(0,\infty)\to\mathbb{R}$ が存在する。これが自然対数 $\log$ である(対数関数)。

指数関数はどの冪よりも速く増える

任意の整数 $m\geq0$ について
$$ \lim_{x\to\infty}\frac{\exp x}{x^m}=\infty,\qquad\lim_{x\to\infty}x^m\exp(-x)=0 $$
である。

級数の1つの項で下から押さえる

$x>0$ なら定義の級数の項はすべて正なので、$m+1$ 次の項 1 つだけを残して $\exp x>\dfrac{x^{m+1}}{(m+1)!}$ である。よって
$$ \frac{\exp x}{x^m}>\frac{x}{(m+1)!}\to\infty\qquad(x\to\infty) $$
である。後半は cor-expf-inverse により $x^m\exp(-x)=\bigl(\exp x/x^m\bigr)^{-1}$ だから従う。

一般の底の冪

prop-expf-monotone の 5 により、$\exp$ の逆写像 $\log\colon(0,\infty)\to\mathbb{R}$ が定まる。すなわち $y>0$ に対し $\log y$ は $\exp x=y$ となるただ 1 つの実数 $x$ であり、$\exp(\log y)=y$($y>0$)、$\log(\exp x)=x$($x\in\mathbb{R}$)が成り立つ。$\log$ の性質は 対数関数 の記事で扱う。ここでは $\exp1=e$ から $\log e=1$ となることと、$\exp0=1$ から $\log1=0$ となることだけを使う。

正の実数の実数乗

$a>0$ と実数 $x$ について
$$ a^x:=\exp(x\log a) $$
と定める。$a^x$ を $a$ を底とする冪といい、$x\mapsto a^x$ を $a$ を底とする指数関数という。

この定義が、整数乗・有理数乗の通常の意味と矛盾しないことを確かめる。

有理数乗との一致

$a>0$ とする。

  1. 整数 $m$ について、$a^m$ は $m\geq1$ なら $a$ を $m$ 個掛けた積、$m=0$ なら $1$、$m<0$ なら $1/a^{-m}$ に等しい。
  2. 整数 $q\geq1$ について、$a^{1/q}$ は $b^q=a$ を満たすただ 1 つの正の実数 $b$(正の $q$ 乗根)である。
  3. 整数 $p$ と整数 $q\geq1$ について $a^{p/q}=\bigl(a^{1/q}\bigr)^p$ である。
  4. すべての実数 $x$ で $e^x=\exp x$ である。
整数倍の公式に帰着する

1:cor-expf-integer により $\exp(m\log a)=(\exp\log a)^m=a^m$ であり、右辺は整数乗の通常の意味($m<0$ なら $1/a^{-m}$)である。
2:$b:=a^{1/q}=\exp\bigl(\frac1q\log a\bigr)>0$ とおくと、cor-expf-integer により $b^q=\exp(\log a)=a$ である。$t\mapsto t^q$ は $(0,\infty)$ 上で狭義単調増加なので、$t^q=a$ となる正の実数 $t$ は $b$ だけである(存在だけなら 中間値の定理 の記事の命題「正の数の冪根の存在」にもある)。
3:cor-expf-integer により $\exp\bigl(p\cdot\frac1q\log a\bigr)=\Bigl(\exp\bigl(\frac1q\log a\bigr)\Bigr)^p$ である。
4:$\log e=1$ なので $e^x=\exp(x\cdot1)=\exp x$ である。

4 により、$\exp x$ を $e^x$ と書いてよい。定義から直ちに、$a>0$ と実数 $x,y$ について
$$ a^{x+y}=a^xa^y,\qquad(a^x)^y=a^{xy},\qquad\frac{d}{dx}a^x=a^x\log a $$
が成り立つ。1 つめは thm-expf-addition、2 つめは $a^x>0$ と $\log(a^x)=\log(\exp(x\log a))=x\log a$ から $(a^x)^y=\exp(yx\log a)$ となること、3 つめは連鎖律による。$a>1$ なら $\log a>0$ なので $a^x$ は狭義単調増加、$0< a<1$ なら狭義単調減少、$a=1$ なら定数 $1$ である。$b>0$ も正の数とすると $(ab)^x=a^xb^x$ も成り立ち、これは 対数関数 の記事の定理「積の対数」$\log(ab)=\log a+\log b$ から従う。

反例:負の底の有理数乗

$a<0$ のとき $a^x$ は上の方法では定義されない($\log a$ がない)。有理数乗に限っても、表し方によって値が変わるので、$a>0$ の場合と同じ規則は使えない。$-8$ の実数の 3 乗根は $-2$ なので「$(-8)^{1/3}=-2$」と書きたくなるが、$\frac13=\frac26$ と表して「$(-8)^{2/6}=\bigl((-8)^2\bigr)^{1/6}=64^{1/6}=2$」と計算すると符号が違う。規則 $a^{p/q}=(a^p)^{1/q}$ は $a>0$ という仮定を満たさない $a=-8$ では成り立たない。

複利の極限

すべての実数 $x$ について
$$ \lim_{n\to\infty}\Bigl(1+\frac xn\Bigr)^n=\exp x $$
である。

対数をとって微分係数に帰着する

$x=0$ なら両辺とも $1$ である。$x\ne0$ とし、$n>|x|$ の範囲で考えると $1+x/n>0$ なので、prop-expf-rational-power の 1 により $\bigl(1+\frac xn\bigr)^n=\exp\bigl(n\log(1+\frac xn)\bigr)$ である。
$\exp$ は $\mathbb{R}$ 上で連続かつ狭義単調増加で、$\exp'(0)=\exp0=1\ne0$ なので、連鎖律 の記事の系「逆関数の微分公式」により逆関数 $\log$ は $\exp0=1$ で微分可能で、微分係数は $1/\exp'(0)=1$ である。すなわち $t\to0$($t\ne0$)で $\frac{\log(1+t)-\log1}{t}\to1$ であり、$\log1=0$ なので $\frac{\log(1+t)}t\to1$ である。$t_n:=x/n$ は $0$ でなく $0$ に収束するので
$$ n\log\Bigl(1+\frac xn\Bigr)=x\cdot\frac{\log(1+t_n)}{t_n}\to x\qquad(n\to\infty) $$
である。$\exp$ は $x$ で連続なので、$\exp\bigl(n\log(1+\frac xn)\bigr)\to\exp x$ である。

$x=1$ とおくと $(1+1/n)^n\to e$ であり、これは 数列の極限 の記事で $(1+1/n)^n$ の極限として導入した数が $\exp1$ に等しいことを示している。二項展開による別証明と収束の速さは ネイピア数 の記事で扱う。

複素数の指数関数

複素数の指数関数

複素数 $z$ について $\exp z:=\sum_{n=0}^{\infty}\dfrac{z^n}{n!}$ と定める。右辺は、実数の場合と同じ比判定法により、すべての複素数 $z$ で絶対収束する。$\exp z$ を $e^z$ とも書く。

複素数 $z,w$ についても指数法則 $e^{z+w}=e^ze^w$ が成り立つ。証明は Cauchy 積による(絶対収束 の記事の例「指数法則」)。特に $e^ze^{-z}=e^0=1$ なので $e^z\ne0$ である。純虚数での値については、三角関数を冪級数で定義すると
$$ e^{ix}=\cos x+i\sin x\qquad(x\in\mathbb{R}) $$
が成り立つ(Euler の公式。証明は 三角関数 の記事の定理「Euler の公式」)。ここから次のことが従う。

  • 実数 $x,y$ について $e^{x+iy}=e^x(\cos y+i\sin y)$ であり、$|e^{x+iy}|=e^x$、特に $|e^{iy}|=1$ である。
  • $e^{2\pi i}=\cos2\pi+i\sin2\pi=1$ なので、指数法則により $e^{z+2\pi i}=e^z$ である。複素数の指数関数は周期 $2\pi i$ をもち、単射でない。実数の指数関数が単射であること(prop-expf-monotone の 5)とは対照的である。
  • $e^{i\pi}=\cos\pi+i\sin\pi=-1$ である。
  • $0$ でない複素数 $w$ は、偏角 $\theta$ を用いて $w=|w|(\cos\theta+i\sin\theta)$ と書ける(複素数 の記事の定義「偏角と極形式」)ので、$w=e^{\log|w|+i\theta}$ である。したがって $\exp\colon\mathbb{C}\to\mathbb{C}\setminus\{0\}$ は全射である。
    複素数の指数関数は複素平面全体で正則である(正則関数 の記事の例「指数関数と三角関数の正則性」)。$e^w=z$ を満たす $w$ を $z$ の対数といい、周期性のために 1 つに決まらない。これは 対数関数 の記事の複素対数の節で扱う。

補足

指数関数の他の定義

指数関数の定義には、本記事の冪級数による定義のほかに、(i) $\log x:=\int_1^x\frac{dt}t$ で対数関数を定めてその逆関数とする定義(Leb §5.4、Proposition 5.4.2、pp. 209–210)、(ii) 微分方程式 $f'=f$、$f(0)=1$ の解とする定義(Leb Remark 5.4.4、p. 211 が Example 6.3.3 に概略を示す)、(iii) $\lim_{n\to\infty}(1+x/n)^n$ による定義がある。(i)(ii) で定まる関数は $f'=f$、$f(0)=1$ を満たすので thm-expf-uniqueness により本記事の $\exp$ に一致し、(iii) は prop-expf-compound により一致する。冪級数による定義は Leb Example 6.2.14(p. 242)で「この方法でも定義できた」と述べられている。有理数乗から出発して連続性で実数乗に広げる方法は、Leb p. 211 が $x^y$ について注意している。

出典

指数関数の一意存在と性質(正値・狭義単調・全単射・極限・指数法則・有理数倍)は Leb Proposition 5.4.2(pp. 209–210)、$x^y$ と $e:=\exp1$ の定義と Proposition 5.4.3 は p. 211 にある。積の微分公式は Leb Proposition 4.1.8(p. 158)である。prop-expf-functional-equation と prop-expf-growth は本記事で証明を与えた(連続な解の一意性は Leb Exercise 5.4.10、$(1+x/n)^n\to e^x$ は Exercise 5.4.5、p. 212 で演習として挙げられている)。

関連項目

参考文献

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