最小多項式(体論)(minimal polynomial)とは、体の拡大 $L/K$ と $K$ 上代数的な元 $\alpha\in L$ に対し、$\alpha$ を根にもつ $K$ 係数のモニック多項式のうち次数が最小のもの $m_{\alpha,K}$ のことである。$m_{\alpha,K}$ はただ 1 つで既約であり、$\alpha$ を根にもつ $K$ 係数の多項式はすべて $m_{\alpha,K}$ で割り切れる。その次数は $[K(\alpha):K]$ に等しく、根は $\alpha$ の共役と呼ばれる。たとえば $\sqrt2$ の $\mathbb{Q}$ 上の最小多項式は $x^2-2$、$\sqrt2+\sqrt3$ のものは $x^4-10x^2+1$ である。$\alpha$ を掛ける線形写像の、線形代数の意味の最小多項式と一致する。
前提知識: 体, 体の拡大, 多項式環, 既約多項式, イデアル
本記事は体論における最小多項式、すなわち体の拡大の元が満たす多項式の中で最も小さいものを扱う。正方行列や線形写像に対しても同じ名前の概念(最小多項式(線形代数))があり、こちらは「その行列を代入すると零行列になる多項式のうち最小のもの」である。両者は別の概念だが、体の元 $\alpha$ の最小多項式は「$\alpha$ を掛ける線形写像」の最小多項式に一致する(prop-minpoly-multiplication-map)。
以下、$L/K$ を体の拡大とする。すなわち $L$ は体、$K$ はその部分体である。$\alpha\in L$ が $K$ 上代数的であるとは、$f(\alpha)=0$ となる $0$ でない多項式 $f$ が $K$ 上の多項式環 $K[x]$ に存在することをいい、そのような多項式が存在しないとき $\alpha$ は $K$ 上超越的であるという(体の拡大 の記事の定義「代数的元と超越的元」)。最高次の係数が $1$ の多項式をモニック多項式という。
$\alpha$ を代入する写像 $\operatorname{ev}_\alpha\colon K[x]\to L$、$g\mapsto g(\alpha)$ は環準同型であり、その核
$$
I_\alpha:=\{g\in K[x]\mid g(\alpha)=0\}
$$
は $K[x]$ のイデアルである。$\alpha$ が $K$ 上代数的であることは $I_\alpha\neq0$ であることにほかならない。
$L/K$ を体の拡大、$\alpha\in L$ を $K$ 上代数的な元とする。$\alpha$ を根にもつ $K$ 係数のモニック多項式のうち、次数が最小のものを $\alpha$ の $K$ 上の最小多項式(minimal polynomial)といい、$m_{\alpha,K}$ と書く。基礎体が明らかなときは $m_\alpha$ とも書く。$\deg m_{\alpha,K}$ を $\alpha$ の $K$ 上の次数という。
$I_\alpha$ の $0$ でない元のうち次数最小のものを最高次の係数で割ればモニックになるので、代数的な元には最小多項式が少なくとも 1 つある。それがただ 1 つであること、既約多項式であること、$I_\alpha$ を生成することは thm-minpoly-characterization で示す。$m_{\alpha,K}$ は元 $\alpha$ だけでなく基礎体 $K$ にも依存する(ex-minpoly-sqrt2)。超越的な元には最小多項式がない(ex-minpoly-transcendental)。
$m_{\alpha,K}$ が $1$ 次式の積に分解する $K$ の拡大体(たとえば $m_{\alpha,K}$ の分解体)の中での $m_{\alpha,K}$ の根を、$\alpha$ の $K$ 上の共役という。$\alpha$ 自身も $\alpha$ の共役の 1 つである。
$\alpha$ を根にもつ多項式はたくさんある。$\sqrt2$ は $x^2-2$ の根であり、その倍数 $x^4-4=(x^2-2)(x^2+2)$ の根でもある。最小多項式はこれらすべての「親」であり、$\alpha$ を根にもつ $K$ 係数の多項式は、どれも $m_{\alpha,K}$ で割り切れる。したがって $\alpha$ が $K$ 上で満たす代数的な関係は、$m_{\alpha,K}(\alpha)=0$ という 1 つの関係からすべて導かれる。
この事実により、$\alpha$ を添加した体 $K(\alpha)$ は $K[x]/(m_{\alpha,K})$ と同型になり、$\alpha$ は「$m_{\alpha,K}$ を法とした $x$」として計算できる。$K(\alpha)$ の $K$ 上の次元は $\deg m_{\alpha,K}$ である。また $K$ の元だけを使う限り、$\alpha$ とその共役は区別がつかない。$K$ を固定する体の準同型は $\alpha$ を共役に送り、逆に共役ならどれにでも送れる。Galois理論 は、この「共役の入れ替え」を群として調べる理論である。
$x^2-2\in\mathbb{Q}[x]$ は $\sqrt2$ を根にもつモニックな 2 次式である。有理数の根をもたない($\sqrt2$ は無理数)ので $\mathbb{Q}$ 上既約であり(既約多項式 の記事の命題「2 次と 3 次の多項式の既約性」)、thm-minpoly-characterization により $m_{\sqrt2,\mathbb{Q}}=x^2-2$ である。共役は $\sqrt2$ と $-\sqrt2$ である。
一方、実数体 $\mathbb{R}$ 上では $\sqrt2\in\mathbb{R}$ なので $m_{\sqrt2,\mathbb{R}}=x-\sqrt2$ であり、$\mathbb{Q}(\sqrt2)$ 上でも同じく $x-\sqrt2$ である。一般に $\alpha\in K$ であることと $m_{\alpha,K}=x-\alpha$ であることは同値である。同様に、虚数単位 $i$ の最小多項式は $\mathbb{R}$ 上 $x^2+1$、複素数体 $\mathbb{C}$ 上 $x-i$ である。最小多項式は元と基礎体の組に対して定まる。
$\alpha=\sqrt[3]2\in\mathbb{R}$ とする。$x^3-2$ は有理数の根をもたない(有理数の根は既約多項式 の記事の命題「有理根の判定」により $\pm1,\pm2$ に限られるが、いずれも根でない)3 次式なので $\mathbb{Q}$ 上既約であり、$m_{\alpha,\mathbb{Q}}=x^3-2$ である。$\omega=(-1+\sqrt{-3})/2$ とすると、共役は $\alpha,\ \omega\alpha,\ \omega^2\alpha$ である。
基礎体を $M=\mathbb{Q}(\sqrt2)$ に広げても、$\alpha$ の最小多項式は $x^3-2$ のままである。$[M:\mathbb{Q}]=2$ は $\deg m_{\alpha,\mathbb{Q}}=3$ と互いに素なので、prop-minpoly-base-change の 3 が適用できる。これに対し $M=\mathbb{Q}(\alpha)$ 上では $x^3-2=(x-\alpha)(x^2+\alpha x+\alpha^2)$ と分解し、$m_{\alpha,M}=x-\alpha$ である。
$\theta=\sqrt2+\sqrt3$ とする。$\theta^2=5+2\sqrt6$ より $(\theta^2-5)^2=24$、すなわち
$$
\theta^4-10\theta^2+1=0
$$
である。$f=x^4-10x^2+1$ が $\theta$ の $\mathbb{Q}$ 上の最小多項式であることを次数から示す。$\theta^3=11\sqrt2+9\sqrt3$ なので $\sqrt2=(\theta^3-9\theta)/2$、$\sqrt3=\theta-\sqrt2$ はともに $\mathbb{Q}(\theta)$ に属し、$\mathbb{Q}(\theta)=\mathbb{Q}(\sqrt2,\sqrt3)$ である。この体の $\mathbb{Q}$ 上の次数は $4$ である(体の拡大 の記事の例「2 つの平方根の添加」)。prop-minpoly-degree により $\deg m_{\theta,\mathbb{Q}}=4$ であり、$m_{\theta,\mathbb{Q}}$ はモニックな 4 次式 $f$ を割り切るので $f$ に等しい。
$f$ の根は $\pm\sqrt2\pm\sqrt3$ の 4 つであり(どれも 2 乗すると $5\pm2\sqrt6$ になる)、これが $\theta$ の共役である。既約性を因数分解の可能性から直接調べる代わりに、生成される体の次数で最小性を示せることがこの例の要点である。
$p$ を素数とし、$\zeta=e^{2\pi i/p}\in\mathbb{C}$ とする。$\zeta^p=1$、$\zeta\neq1$ なので $\zeta$ は
$$
\Phi_p(x)=\frac{x^p-1}{x-1}=x^{p-1}+x^{p-2}+\dots+x+1
$$
の根である。$\Phi_p$ は $\mathbb{Q}$ 上既約である($x$ を $x+1$ に置き換えると Eisenstein の条件(Eisensteinの既約判定法)を満たす。既約多項式 の記事の例「Eisenstein の判定法の適用例」の 3)。よって $m_{\zeta,\mathbb{Q}}=\Phi_p$ であり、$[\mathbb{Q}(\zeta):\mathbb{Q}]=p-1$ である。共役は $\zeta,\zeta^2,\dots,\zeta^{p-1}$ である。$\Phi_p$ は $n=p$ が素数の場合の円分多項式である。
$p$ を素数、$K=\mathbb{F}_p(t)$ を有理関数体とし、$L=K(u)$ を $u^p=t$ を満たす元 $u$ を添加した体とする(たとえば $L=K[x]/(x^p-t)$、$u$ は $x$ の類)。$x^p-t$ は $K$ 上既約である(既約多項式 の記事の例「Eisenstein の判定法の適用例」の 4)ので、$m_{u,K}=x^p-t$ である。標数 $p$ では
$$
x^p-t=x^p-u^p=(x-u)^p
$$
なので、$m_{u,K}$ の根は $u$ だけであり、$u$ の共役は $u$ 自身しかない。
この例は「既約な最小多項式である」を満たすが「相異なる根をもつ」を満たさず、含意「最小多項式の根は互いに異なる」を破る。この含意は $K$ の標数が $0$ のときや $K$ が有限体のときには成り立ち(分離拡大 の記事の命題「標数が 0 の体と有限体の上の代数拡大」)、最小多項式が相異なる根をもつ元を分離的な元という(分離拡大)。
$K$ を体、$K(t)$ を不定元 $t$ の有理関数体とする。$0$ でない $g\in K[x]$ に対して $g(t)$ は多項式 $g$ そのものであり $0$ でないので、$I_t=0$ であり、$t$ は $K$ 上超越的である。したがって $t$ には $K$ 上の最小多項式がない。同じく円周率 $\pi$ は $\mathbb{Q}$ 上超越的であり(Lindemann 1882。証明は Lan02 Appendix 1 に譲る)、$\mathbb{Q}$ 上の最小多項式をもたない。ただし $\mathbb{R}$ 上では $m_{\pi,\mathbb{R}}=x-\pi$ である。
この例は「拡大体 $L$ の元である」を満たすが「$K$ 上代数的である」を満たさず、含意「拡大体の元には最小多項式がある」を破る。def-minpoly で代数性を仮定しているのはこのためである。
$x^4-4\in\mathbb{Q}[x]$ はモニックで $\sqrt2$ を根にもつが、$x^4-4=(x^2-2)(x^2+2)$ と分解するので既約でなく、$\sqrt2$ の最小多項式ではない。thm-minpoly-characterization の 4 のとおり $m_{\sqrt2,\mathbb{Q}}=x^2-2$ は $x^4-4$ を割り切る。
この例は「モニックで $\alpha$ を根にもつ」を満たすが「既約である」を満たさず、含意「$\alpha$ を根にもつモニック多項式は最小多項式である」を破る。最小多項式を見つけるには、見つけた多項式が既約であることを確かめるか、$\alpha$ を根にもつ既約因子を取り出せばよい。
$L/K$ を体の拡大、$\alpha\in L$ を $K$ 上代数的な元、$p\in K[x]$ をモニック多項式とする。次の 4 条件は同値である。
$\alpha$ は代数的なので、def-minpoly の直後に述べたとおり、条件 1 を満たすモニック多項式 $p_0$ が存在する。
1 ⇒ 4:$p(\alpha)=0$ は仮定に含まれる。$g(\alpha)=0$ とし、$K[x]$ における除法の原理(多項式環 の記事の定理「除法の原理」)により $g=qp+r$、$\deg r<\deg p$($r=0$ を含む)と書く。$r(\alpha)=g(\alpha)-q(\alpha)p(\alpha)=0$ である。$r\neq0$ なら、$r$ を最高次の係数で割ったものは $\alpha$ を根にもつモニック多項式で、次数が $\deg p$ より小さく、$p$ の次数の最小性に反する。よって $r=0$、すなわち $p\mid g$ である。
4 ⇒ 2:$p(\alpha)=0$ なので $p$ の倍数はすべて $\alpha$ を根にもち、$(p)\subset I_\alpha$ である。逆の包含 $I_\alpha\subset(p)$ は 4 の後半そのものである。
2 ⇒ 3:$p\in I_\alpha$ なので $p(\alpha)=0$ である。定数 $1$ は $\alpha$ を根にもたないので $I_\alpha\neq K[x]$ であり、$p$ は定数でない。$p=gh$($g,h\in K[x]$)とすると $g(\alpha)h(\alpha)=0$ であり、$L$ は体で零因子をもたないので $g(\alpha)=0$ または $h(\alpha)=0$ である。$g(\alpha)=0$ としてよい。2 により $p\mid g$ なので $\deg g\ge\deg p=\deg g+\deg h$、すなわち $\deg h=0$ であり、$h$ は $0$ でない定数($K[x]$ の単元)である。よって $p$ は既約である。
3 ⇒ 1:$p_0$ は条件 1 を満たすので、すでに示した 1 ⇒ 4 により $p_0\mid p$ である。$p$ は既約で $p_0$ は定数でない(定数は $\alpha$ を根にもたない)から、$p=cp_0$($c\in K^\times$)である。両者はモニックなので $c=1$、すなわち $p=p_0$ であり、$p$ は条件 1 を満たす。
最後の主張:$p,p'$ がともに条件 1 を満たせば、4 により $p\mid p'$ かつ $p'\mid p$ であり、次数が等しくモニックなので $p=p'$ である。既約性は 1 ⇒ 4 ⇒ 2 ⇒ 3 による。$\square$
一意性と既約性は 体の拡大 の記事の命題「最小多項式の存在と一意性」にもある。本記事ではそれを 4 条件の同値として述べ直した。実用上は 3 が重要であり、$\alpha$ を根にもつモニックな既約多項式が見つかれば、それが最小多項式である。
1 と 2 は 体の拡大 の記事の定理「単純拡大の構造」、3 は同記事の系「中間体の次数と元の次数」で証明されている。1 の要点は、thm-minpoly-characterization の 2 により代入写像の核が $(m_{\alpha,K})$ であり、既約多項式で生成されるイデアルによる剰余環が体になることである。2 の要点は、任意の $g\in K[x]$ を $m_{\alpha,K}$ で割った余りを $r$ とすると $g(\alpha)=r(\alpha)$ となり、$\deg r< d$ であることである。
逆に、$[K(\alpha):K]<\infty$ なら $\alpha$ は代数的である($1,\alpha,\alpha^2,\dots$ が線形従属(線形独立)になるから)。したがって $\alpha$ の最小多項式の次数を求めることと、$K(\alpha)$ の次数を求めることは同じ問題である。ex-minpoly-sqrt2-sqrt3 はこれを次数の側から、ex-minpoly-cyclotomic は既約性の側から解いた例である。
$K\subset M\subset L$ を体の拡大の列、$\alpha\in L$ を $K$ 上代数的な元、$d=\deg m_{\alpha,K}$ とする。
1:$m_{\alpha,K}\in K[x]\subset M[x]$ は $\alpha$ を根にもつ $0$ でない多項式なので、$\alpha$ は $M$ 上代数的である。thm-minpoly-characterization の 4 を基礎体 $M$ に適用すると $m_{\alpha,M}\mid m_{\alpha,K}$ であり、次数を比べて prop-minpoly-degree の 2 から $[M(\alpha):M]\le[K(\alpha):K]$ を得る。
2:$m_{\alpha,M}=m_{\alpha,K}$ なら、$m_{\alpha,M}$ は $M$ 上の最小多項式として $M[x]$ で既約である。逆に $m_{\alpha,K}$ が $M[x]$ で既約なら、それは $\alpha$ を根にもつ $M$ 係数のモニックな既約多項式なので、thm-minpoly-characterization の 3 ⇒ 1 により $m_{\alpha,M}$ に等しい。
3:$n=[M:K]$、$e=[M(\alpha):M]$ とおく。1 により $1\le e\le d$ である。拡大次数の乗法性(体の拡大 の記事の定理「拡大次数の乗法性」)を 2 通りの列 $K\subset M\subset M(\alpha)$ と $K\subset K(\alpha)\subset M(\alpha)$ に用いると
$$
[M(\alpha):K]=e\,n=[M(\alpha):K(\alpha)]\,d
$$
であり、これらはすべて有限である。よって $d\mid en$ であり、$d$ と $n$ は互いに素なので $d\mid e$ である(整数の Euclidの補題)。$1\le e\le d$ と合わせて $e=d$ である。$m_{\alpha,M}$ はモニックで $m_{\alpha,K}$ を割り切り、次数がともに $d$ なので $m_{\alpha,M}=m_{\alpha,K}$ である。$\square$
互いに素の仮定は外せない。$M=\mathbb{Q}(\sqrt2)$、$\alpha=\sqrt2$ では $[M:\mathbb{Q}]=2=d$ で、$m_{\alpha,M}=x-\sqrt2\neq x^2-2$ である(ex-minpoly-sqrt2)。また互いに素でなくても最小多項式が変わらないことはある。$x^2+1$ は $\mathbb{Q}(\sqrt2)\subset\mathbb{R}$ に根をもたないので $\mathbb{Q}(\sqrt2)$ 上既約であり、$m_{i,\mathbb{Q}(\sqrt2)}=m_{i,\mathbb{Q}}=x^2+1$ である。
$\Omega$ を $K$ の拡大体、$\sigma\colon K(\alpha)\to\Omega$ を $K$ の元を動かさない体の準同型($K$ 上の埋め込み)とすると、$m_{\alpha,K}=\sum_ic_ix^i$ について
$$
m_{\alpha,K}(\sigma(\alpha))=\sum_ic_i\sigma(\alpha)^i=\sigma\Bigl(\sum_ic_i\alpha^i\Bigr)=\sigma(0)=0
$$
なので、$\sigma(\alpha)$ は $\alpha$ の共役である。逆に $\beta\in\Omega$ が $m_{\alpha,K}$ の根なら、$\alpha$ を $\beta$ に送る $K$ 上の埋め込み $K(\alpha)\to\Omega$ がただ 1 つ存在する(Galois拡大 の記事の補題「単純拡大への同型の延長」)。したがって $K$ 上の埋め込み $K(\alpha)\to\Omega$ の個数は、$m_{\alpha,K}$ の $\Omega$ における相異なる根の個数に等しく、$d=\deg m_{\alpha,K}$ 以下である(分離拡大 の記事の命題「単純拡大の埋め込みの個数」)。特に $L$ の $K$ 上の自己同型は $\alpha$ を $L$ の中の共役に送る。ex-minpoly-cbrt2 の $\mathbb{Q}(\sqrt[3]2)\subset\mathbb{R}$ は共役を $\sqrt[3]2$ しか含まないので、その $\mathbb{Q}$ 上の自己同型は恒等写像だけである。
「$K$ 上既約な多項式が $L$ に根を 1 つもてば、すべての根(共役)が $L$ に入る」という条件を満たす代数拡大を正規拡大という。$\mathbb{Q}(\sqrt[3]2)/\mathbb{Q}$ は正規拡大でない。
有限次元の $K$ ベクトル空間 $V$ 上の $K$ 線形写像 $T\colon V\to V$ に対し、$\{g\in K[x]\mid g(T)=0\}$ は $K[x]$ の $0$ でないイデアルであり($\dim V=n$ なら $\mathrm{id},T,\dots,T^{n^2}$ は $n^2$ 次元の空間 $\operatorname{End}_K(V)$ で線形従属である)、そのモニックな生成元を $T$ の最小多項式という(最小多項式(線形代数))。また $\chi_T(x)=\det(x\,\mathrm{id}_V-T)$(行列式)を $T$ の固有多項式という。
有限次拡大 $L/K$ と $\alpha\in L$ に対し、$\alpha$ を掛ける写像
$$
T_\alpha\colon L\to L,\qquad y\mapsto\alpha y
$$
は $K$ 線形写像である。
$L/K$ を有限次拡大、$\alpha\in L$、$d=\deg m_{\alpha,K}$、$r=[L:K(\alpha)]$ とする。
1:$T_\alpha^k=T_{\alpha^k}$ であり、$T_\beta+T_\gamma=T_{\beta+\gamma}$、$cT_\beta=T_{c\beta}$($c\in K$)なので、任意の $g\in K[x]$ について $g(T_\alpha)=T_{g(\alpha)}$ である。$T_{g(\alpha)}=0$ であることは、$1$ の像 $g(\alpha)$ が $0$ であることと同値である(逆に $g(\alpha)=0$ なら $T_{g(\alpha)}$ は零写像)。よって $\{g\mid g(T_\alpha)=0\}=I_\alpha$ であり、両者のモニックな生成元は一致する。thm-minpoly-characterization の 2 により、それは $m_{\alpha,K}$ である。
2:$F=K(\alpha)$ とおく。まず $L=F$ の場合を示す。1 を $F/K$ に適用すると、$T_\alpha\colon F\to F$ の最小多項式は $m_{\alpha,K}$ で、その次数 $d$ は $\dim_KF$ に等しい(prop-minpoly-degree の 2)。Cayley–Hamiltonの定理(DF04 §12.2)により $\chi_{T_\alpha}(T_\alpha)=0$ なので、$m_{\alpha,K}\mid\chi_{T_\alpha}$ である。両者はモニックで次数がともに $d$ なので、$\chi_{T_\alpha}=m_{\alpha,K}$ である。
一般の場合、$L$ の $F$ 上の基底 $\beta_1,\dots,\beta_r$ をとり、$V_j:=\beta_jF=\{\beta_jy\mid y\in F\}$ とおく。$L=V_1\oplus\dots\oplus V_r$ は $K$ ベクトル空間としての直和であり(基底の定義による)、$\alpha V_j=\beta_j\alpha F\subset V_j$ なので各 $V_j$ は $T_\alpha$ で不変である。$K$ 線形な同型 $F\to V_j$、$y\mapsto\beta_jy$ は $F$ 上の $T_\alpha$ を $V_j$ 上の $T_\alpha$ に移す($\beta_j(\alpha y)=\alpha(\beta_jy)$)ので、$T_\alpha|_{V_j}$ の固有多項式は $L=F$ の場合と同じく $m_{\alpha,K}$ である。直和への分解に沿った基底をとると $T_\alpha$ の表現行列はブロック対角になるので、
$$
\chi_{T_\alpha}=\prod_{j=1}^{r}\chi_{T_\alpha|_{V_j}}=m_{\alpha,K}^{\,r}
$$
である。$\square$
この命題により、体論の最小多項式と線形代数の最小多項式は、「$\alpha$ という数」と「$\alpha$ を掛ける写像」を同一視すれば同じものである。$L=K(\alpha)$ のとき、基底 $1,\alpha,\dots,\alpha^{d-1}$ に関する $T_\alpha$ の表現行列は $m_{\alpha,K}$ の同伴行列(companion matrix)である。
$m_{\alpha,K}=x^d+a_{d-1}x^{d-1}+\dots+a_0$ とし、$n=[L:K]=rd$ とする。$\det T_\alpha$ と $T_\alpha$ のトレースを、それぞれ $\alpha$ の $L/K$ に関するノルム $N_{L/K}(\alpha)$ とトレース $\operatorname{Tr}_{L/K}(\alpha)$ という(体のノルム)。prop-minpoly-multiplication-map の 2 から、固有多項式 $m_{\alpha,K}^{\,r}$ の定数項と $x^{n-1}$ の係数を読んで
$$
N_{L/K}(\alpha)=\bigl((-1)^da_0\bigr)^{r},\qquad \operatorname{Tr}_{L/K}(\alpha)=-r\,a_{d-1}
$$
を得る。たとえば $\sqrt2$ については $N_{\mathbb{Q}(\sqrt2)/\mathbb{Q}}(\sqrt2)=-2$、$\operatorname{Tr}_{\mathbb{Q}(\sqrt2)/\mathbb{Q}}(\sqrt2)=0$ であり、$a+b\sqrt2$ のノルムは $a^2-2b^2$ である。ノルムとトレースを共役の積と和で表す公式(分離的な場合)は Lan02 Chapter VI §5 にある。
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