イデアル類群(ideal class group)とは、代数体 $K$ の整数環 $\mathcal{O}_K$ の分数イデアル全体のなす群を、単項分数イデアル全体の部分群で割った剰余群 $\operatorname{Cl}_K$ であり、その位数を類数 $h_K$ という。$h_K=1$ は $\mathcal{O}_K$ で素因数分解が一意であることと同値で、類群は一意性のずれを測る。Minkowski の凸体定理により、どの類もノルムが $\frac{n!}{n^n}(\frac4\pi)^{r_2}\sqrt{\lvert d_K\rvert}$ 以下の整イデアルを含み、類数は有限である。$\mathbb{Q}(\sqrt{-5})$、$\mathbb{Q}(\sqrt{10})$ の類数は $2$、$\mathbb{Q}(\sqrt{-23})$ の類数は $3$ である。
前提知識: 代数体, Dedekind整域, 判別式(代数体), Minkowskiの凸体定理
$\mathbb{Z}[\sqrt{-5}]$ では $6=2\cdot3=(1+\sqrt{-5})(1-\sqrt{-5})$ と、既約元への分解が 2 通りある。イデアルに移ると分解は一意になる:$(6)=\mathfrak{p}^2\mathfrak{q}\mathfrak{q}'$ で、元の 2 通りの分解は 4 つの素イデアルの組み合わせ方の違いにすぎない(Dedekind整域 の記事の例「2次体の整数環」)。ずれの原因は、素イデアル $\mathfrak{p}=(2,1+\sqrt{-5})$ が単項イデアル(1 つの元で生成されるイデアル)でないことにある。
そこで、分数イデアル全体のなす群を単項なものの部分群で割った群を考える。これが イデアル類群 であり、その位数が 類数 である。類数が $1$ であることは、整数環で元の素因数分解が一意であることと同値である。代数的整数論の基本定理の 1 つは、代数体の類数が有限であることである。本記事では、分数イデアル・イデアル類群・イデアルのノルムを定義し、Minkowskiの凸体定理 を使って類数の有限性と Minkowski の限界を記事内で証明し、類数を実際に計算する。
以下、$K$ を次数 $n$ の 代数体、$\mathcal{O}_K$ をその整数環、$(r_1,r_2)$ を符号数(実埋め込みの個数と複素埋め込みの組の個数)、$d_K$ を $K$ の判別式とする(判別式(代数体))。$N=N_{K/\mathbb{Q}}$ は元のノルムである。
$K$ の部分集合 $I$ が $\mathcal{O}_K$ の 分数イデアル(fractional ideal)であるとは、次の 2 条件を満たすことをいう。
条件 2 の $d$ は $0$ でない整数にとれる:$d\in\mathcal{O}_K$ なら $N(d)=d\cdot(N(d)/d)$ で $N(d)/d\in\mathcal{O}_K$ なので(判別式(代数体) の記事の系「イデアルの格子の体積」の証明)、$N(d)I\subset\mathcal{O}_K$ である。これは Dedekind整域 の記事の定義「分数イデアルと可逆イデアル」を $\mathcal{O}_K$ に当てはめ、$0$ を除いたものである。分数イデアル全体は積について群をなす(prop-icg-group)。
$\mathcal{O}_K$ の分数イデアル全体のなす群を $\mathcal{I}_K$、単項分数イデアル全体のなす部分群を $\mathcal{P}_K$ とする。剰余群
$$
\operatorname{Cl}_K:=\mathcal{I}_K/\mathcal{P}_K
$$
を $K$ の イデアル類群(ideal class group)といい、その位数 $h_K:=\lvert\operatorname{Cl}_K\rvert$ を $K$ の 類数(class number)という。$I\in\mathcal{I}_K$ の類を $[I]$ と書く。$[I]=[J]$ であることは、$I=xJ$ となる $x\in K^\times$ があることと同値である。
$x\mapsto x\mathcal{O}_K$ は群の準同型 $K^\times\to\mathcal{I}_K$ で、像は $\mathcal{P}_K$、核は $x\mathcal{O}_K=\mathcal{O}_K$ となる $x$、すなわち単数群 $\mathcal{O}_K^\times$ である。したがって完全列
$$
1\longrightarrow\mathcal{O}_K^\times\longrightarrow K^\times\longrightarrow\mathcal{I}_K\longrightarrow\operatorname{Cl}_K\longrightarrow1
$$
がある。左端の単数群の構造は Dirichletの単数定理 が、右端の類群の有限性は本記事の thm-icg-finiteness が決める。
どの類も整イデアルを含む:$I\in\mathcal{I}_K$ について $dI\subset\mathcal{O}_K$ となる整数 $d\ne0$ をとれば、$dI$ は $I$ と同じ類の整イデアルである。$h_K=1$ であることと、$\mathcal{O}_K$ が単項イデアル整域であること、一意分解整域であることは同値である(Dedekind整域 の記事の命題「イデアル類群が自明な条件」)。
整数 $\mathbb{Z}$ ではイデアルはすべて $(m)$ の形で、イデアルを考えることは数を考えることと同じである。整数環 $\mathcal{O}_K$ では、イデアルは「理想的な数」として元より多くあり、元に対応しない余分なイデアルがどれだけあるかを、元の倍 $x\mathcal{O}_K$ で割って数えたものがイデアル類群である。類数が有限であることは、余分なイデアルが本質的には有限種類しかないことを意味する。証明の鍵は、どの類にも「小さい」整イデアルがあること、すなわちイデアル $I$ の中に $\lvert N(\alpha)\rvert$ が小さい元 $\alpha$ があることで、これを $I$ を $\mathbb{R}^n$ の格子とみて凸体定理で見つける。
$\mathcal{O}_K$ は Dedekind整域 である。したがって分数イデアル全体 $\mathcal{I}_K$ は積について $\mathcal{O}_K$ を単位元とするアーベル群で、$I$ の逆元は $I^{-1}$ である。また $0$ でないイデアルは素イデアルの積に順序を除いて一意に分解し、イデアル $I\subset J$ について $I=JL$ となるイデアル $L$ がある(含むことは割ること)。
Dedekind整域 の記事の定理「Noether整域におけるDedekind整域の特徴づけ」により、$\mathcal{O}_K$ が体でない Noether 整域で、整閉整域であり、$0$ でない素イデアルがすべて極大であることを示せばよい。$\frac12\notin\mathcal{O}_K$ なので体でない。
Noether 性:判別式(代数体) の記事の定理「整数底の存在」により $\mathcal{O}_K\cong\mathbb{Z}^n$ であり、イデアルはその部分群なので有限生成アーベル群である(自由アーベル群 の記事の命題「有限階数の自由アーベル群の部分群」)。$\mathbb{Z}$ 上の生成元は $\mathcal{O}_K$ 上の生成元でもあるので、イデアルはすべて有限生成であり、$\mathcal{O}_K$ は Noether 環である。
整閉性:$x\in K$ が $\mathcal{O}_K$ の元を係数とするモニック多項式の根なら、代数的整数 の記事の命題「代数的整数を係数とする方程式の根」により $x$ は代数的整数であり、$x\in\mathcal{O}_K$ である。
$0$ でない素イデアル $P$ は極大:判別式(代数体) の記事の系「イデアルの格子の体積」により $\mathcal{O}_K/P$ は有限集合で、$P$ が素イデアルなので整域である。有限整域では $0$ でない $a$ を掛ける写像が単射なので全射でもあり、$ab=1$ となる $b$ がある。よって $\mathcal{O}_K/P$ は体で、$P$ は極大である。
残りの主張は Dedekind整域 の記事の定理「Dedekind整域のイデアル論的特徴づけ」(条件 3 と 4)と、同記事の定義「分数イデアルと可逆イデアル」の後半(可逆な $I$ の逆元は $I^{-1}$)による。$\square$
$\mathcal{O}_K$ の $0$ でないイデアル $I$ について、指数
$$
N(I):=[\mathcal{O}_K:I]=\lvert\mathcal{O}_K/I\rvert
$$
を $I$ の ノルム(absolute norm)という。$N(I)$ は有限である(判別式(代数体) の記事の系「イデアルの格子の体積」)。
$0$ でない $\alpha\in\mathcal{O}_K$ について $N(\alpha\mathcal{O}_K)=\lvert N_{K/\mathbb{Q}}(\alpha)\rvert$ である。
整数底 $\omega_1,\dots,\omega_n$ をとり、$\alpha\omega_i=\sum_jp_{ij}\omega_j$($p_{ij}\in\mathbb{Z}$)と書く。$P=(p_{ij})$ の転置は $\alpha$ 倍写像 $m_\alpha$ の基底 $\omega$ に関する表現行列なので、$\det P=\det m_\alpha=N_{K/\mathbb{Q}}(\alpha)\ne0$ である(代数体 の記事の定義「ノルムとトレース」)。$\alpha\mathcal{O}_K$ は $\alpha\omega_1,\dots,\alpha\omega_n$ で生成される部分群なので、判別式(代数体) の記事の補題「部分群の指数と行列式」により $[\mathcal{O}_K:\alpha\mathcal{O}_K]=\lvert\det P\rvert=\lvert N_{K/\mathbb{Q}}(\alpha)\rvert$ である。$\square$
$\mathcal{O}_K$ の $0$ でないイデアル $I,J$ について $N(IJ)=N(I)N(J)$ である。
$J$ を素イデアルの積に分解して(prop-icg-group)、因子の個数についての帰納法を使えば、$J=P$ が $0$ でない素イデアルの場合に示せば十分である。$IP\subset I$ なので $[\mathcal{O}_K:IP]=[\mathcal{O}_K:I]\,[I:IP]$ であり、$[I:IP]=\lvert\mathcal{O}_K/P\rvert$ を示せばよい。
$P$ は $I/IP$ を $0$ にするので、$I/IP$ は体 $k:=\mathcal{O}_K/P$ 上のベクトル空間である。$I/IP$ の部分空間は、$IP\subset J'\subset I$ を満たす $\mathcal{O}_K$ 部分加群 $J'$、すなわちイデアル $J'$ に対応する。そのような $J'$ について、$J'\subset I$ から $J'=IL$ となるイデアル $L$ があり(含むことは割ること)、$IP\subset IL$ の両辺に $I^{-1}$ を掛けて $P\subset L$ である。$P$ は極大なので $L=P$ または $L=\mathcal{O}_K$、すなわち $J'=IP$ または $J'=I$ である。また $IP\ne I$ である(等しければ $I^{-1}$ を掛けて $P=\mathcal{O}_K$ となる)。よって $I/IP$ は $0$ でなく、自明でない部分空間をもたないので $k$ 上 1 次元であり、$\lvert I/IP\rvert=\lvert k\rvert=N(P)$ である。$\square$
実数 $B>0$ について、$N(I)\le B$ を満たす $\mathcal{O}_K$ の $0$ でないイデアル $I$ は有限個しかない。
$N(I)=m$ とすると、剰余群 $\mathcal{O}_K/I$ の位数は $m$ なので、Lagrangeの定理 によりその元の $m$ 倍は $0$ であり、$m\mathcal{O}_K\subset I$ である。$m\mathcal{O}_K$ を含むイデアルは有限群 $\mathcal{O}_K/m\mathcal{O}_K\cong(\mathbb{Z}/m\mathbb{Z})^n$ の部分集合で決まるので、有限個である。$m$ は $1\le m\le B$ の有限個の値しかとらない。$\square$
$P$ を $\mathcal{O}_K$ の $0$ でない素イデアルとする。ある素数 $p$ について $P\cap\mathbb{Z}=p\mathbb{Z}$ であり、$N(P)=p^f$($1\le f\le n$)である。とくに $p\le N(P)$ である。
$P\cap\mathbb{Z}$ は $\mathbb{Z}$ の素イデアルで、$0$ でない整数 $\lvert N(a)\rvert$($a\in P$、$a\ne0$)を含む(判別式(代数体) の記事の系「イデアルの格子の体積」の証明)ので、ある素数 $p$ について $p\mathbb{Z}$ である。$\mathbb{Z}/p\mathbb{Z}$ は体 $\mathcal{O}_K/P$ の部分体とみなせるので、$\mathcal{O}_K/P$ は有限体 $\mathbb{F}_p$ 上の有限次元ベクトル空間であり、次元を $f$ とすると $N(P)=p^f$ である。$p\mathcal{O}_K\subset P$ から $N(P)\le[\mathcal{O}_K:p\mathcal{O}_K]=p^n$ なので $f\le n$ である。$\square$
$I=P_1^{e_1}\cdots P_g^{e_g}$ と分解すれば $N(I)=\prod_iN(P_i)^{e_i}$ である(thm-icg-multiplicative)。したがって、ノルムが素数のイデアルは素イデアルであり、また $p$ の上にある素イデアル($p\mathcal{O}_K$ の分解に現れる素イデアル)のノルムは $p$ の冪である。
$\mathcal{O}_K$ のイデアルを $\mathbb{R}^n$ の格子とみるために、判別式(代数体) の記事の Minkowski 埋め込み
$$
j(x)=\bigl(\sigma_1(x),\dots,\sigma_{r_1}(x),\ \operatorname{Re}\tau_1(x),\operatorname{Im}\tau_1(x),\dots,\operatorname{Re}\tau_{r_2}(x),\operatorname{Im}\tau_{r_2}(x)\bigr)
$$
を使う($\sigma_i$ は実埋め込み、$\tau_l$ は複素埋め込みの各組から 1 つずつ選んだもの)。同記事の系「イデアルの格子の体積」により、$0$ でないイデアル $I$ について $j(I)$ は基本領域の体積
$$
\operatorname{covol}j(I)=2^{-r_2}\sqrt{\lvert d_K\rvert}\;N(I)
$$
の格子である。
$\Lambda=A\mathbb{Z}^n$($A$ は正則な実行列)を $\mathbb{R}^n$ の格子とし、$S\subset\mathbb{R}^n$ を原点について対称な凸集合で有界な閉集合であるものとする。$\operatorname{vol}(S)\ge2^n\lvert\det A\rvert$ ならば、$S$ は $\Lambda$ の $0$ でない点を含む。
$S':=A^{-1}S$ は線形写像による像なので原点について対称な凸集合で、有界な閉集合であり、$\operatorname{vol}(S')=\operatorname{vol}(S)/\lvert\det A\rvert\ge2^n$ である。Minkowskiの凸体定理 の記事の系「有界な閉集合の場合」により、$0$ でない $z\in\mathbb{Z}^n\cap S'$ がある。$Az$ は $S$ に属する $\Lambda$ の $0$ でない点である。$\square$
ノルムの小さい元を見つけるために、次の集合を使う。$t>0$ について
$$
S_t:=\bigl\{y\in\mathbb{R}^n\ \big\vert\ \lvert y_i\rvert\le t\ (1\le i\le r_1),\ \ y_{r_1+2l-1}^2+y_{r_1+2l}^2\le t^2\ (1\le l\le r_2)\bigr\}
$$
とおく。$S_t$ は長さ $2t$ の区間 $r_1$ 個と半径 $t$ の閉円板 $r_2$ 個の直積なので、原点について対称な凸集合で有界な閉集合であり、体積は $(2t)^{r_1}(\pi t^2)^{r_2}=2^{r_1}\pi^{r_2}t^n$ である。$x\in K$ について $j(x)\in S_t$ は、すべての埋め込み $\sigma$ について $\lvert\sigma(x)\rvert\le t$ であることを意味する(複素埋め込み $\tau_l$ とその共役は絶対値が等しい)。このとき
$$
\lvert N(x)\rvert=\prod_\sigma\lvert\sigma(x)\rvert\le t^n
$$
である。
代数体 $K$ のイデアル類群 $\operatorname{Cl}_K$ は有限群である。より詳しく、どの類も、ノルムが
$$
N(J)\le\Bigl(\frac2\pi\Bigr)^{r_2}\sqrt{\lvert d_K\rvert}
$$
を満たす整イデアル $J$ を含む。
$C:=(2/\pi)^{r_2}\sqrt{\lvert d_K\rvert}$ とおく。類 $c\in\operatorname{Cl}_K$ を任意にとり、逆元の類 $c^{-1}$ に属する整イデアル $I$ をとる(どの類も整イデアルを含む)。
$j(I)$ は基本領域の体積 $2^{-r_2}\sqrt{\lvert d_K\rvert}N(I)$ の格子である。$t>0$ を
$$
\operatorname{vol}(S_t)=2^{r_1}\pi^{r_2}t^n=2^n\cdot2^{-r_2}\sqrt{\lvert d_K\rvert}\,N(I)
$$
となるようにとる。$n=r_1+2r_2$ なので $t^n=2^{r_2}\pi^{-r_2}\sqrt{\lvert d_K\rvert}\,N(I)=C\,N(I)$ である。lem-icg-minkowski-lattice により、$0$ でない $\alpha\in I$ で $j(\alpha)\in S_t$ となるものがあり、
$$
\lvert N(\alpha)\rvert\le t^n=C\,N(I)
$$
である。
$\alpha\in I$ なので $\alpha\mathcal{O}_K\subset I$ であり、含むことは割ることなので $\alpha\mathcal{O}_K=IJ$ となる整イデアル $J$ がある(prop-icg-group)。$[I][J]=[\alpha\mathcal{O}_K]$ は単位元なので $[J]=[I]^{-1}=c$ である。thm-icg-multiplicative と prop-icg-principal-norm により
$$
N(J)=\frac{N(\alpha\mathcal{O}_K)}{N(I)}=\frac{\lvert N(\alpha)\rvert}{N(I)}\le C
$$
である。こうして、どの類も $N(J)\le C$ の整イデアル $J$ を含む。
そのような整イデアルは lem-icg-finitely-many により有限個しかなく、類が異なれば含まれるイデアルも異なるので、類の個数は有限である。$\square$
証明の要点は 2 つである。$I$ の中に $\lvert N(\alpha)\rvert\le C\,N(I)$ の元 $\alpha$ があること(凸体定理)と、$\alpha\mathcal{O}_K=IJ$ で割った「補のイデアル」$J$ が $I$ の逆の類に入り、ノルムが $C$ 以下になることである。$S_t$ を別の凸集合に取り替えると、定数 $C$ を改良できる。
$t>0$ について、今度は
$$
T_t:=\Bigl\{y\in\mathbb{R}^n\ \Big\vert\ \sum_{i=1}^{r_1}\lvert y_i\rvert+2\sum_{l=1}^{r_2}\sqrt{y_{r_1+2l-1}^2+y_{r_1+2l}^2}\le t\Bigr\}
$$
とおく。左辺の関数は絶対値と平面の長さの和なので三角不等式を満たし、$T_t$ は原点について対称な凸集合で、有界な閉集合である。$x\in K$ について $j(x)\in T_t$ は $\sum_\sigma\lvert\sigma(x)\rvert\le t$(和はすべての埋め込み $\sigma$ にわたる。共役な組は 2 回数える)を意味し、$n$ 個の数 $\lvert\sigma(x)\rvert$ に 相加相乗平均の不等式 を使うと
$$
\lvert N(x)\rvert=\prod_\sigma\lvert\sigma(x)\rvert\le\Bigl(\frac1n\sum_\sigma\lvert\sigma(x)\rvert\Bigr)^n\le\Bigl(\frac tn\Bigr)^n
$$
である。
$\operatorname{vol}(T_t)=2^{r_1}\Bigl(\dfrac\pi2\Bigr)^{r_2}\dfrac{t^n}{n!}$ である。
要点:$r_1$ と $r_2$ についての帰納法で、1 次元の区間と 2 次元の円板について順に積分する(Fubini の定理)。
$a,b\ge0$、$m=a+2b$ について、$\mathbb{R}^a\times\mathbb{C}^b$($\mathbb{C}=\mathbb{R}^2$)の中の $\sum_{i\le a}\lvert x_i\rvert+2\sum_{l\le b}\lvert z_l\rvert\le t$ の体積を $V_{a,b}(t)$ とする。$t$ 倍の拡大で体積は $t^m$ 倍なので $V_{a,b}(t)=V_{a,b}(1)t^m$ である。$V_{0,0}(1)=1$($0$ 次元の点)とする。
実の座標を 1 つ増やす:最後の座標 $x$ を固定すると残りは $V_{a,b}(1-\lvert x\rvert)$ の集合なので、$$V_{a+1,b}(1)=\int_{-1}^1V_{a,b}(1)(1-\lvert x\rvert)^m\,dx=\frac{2}{m+1}V_{a,b}(1).$$
複素の座標を 1 つ増やす:$z$ を固定すると残りは $V_{a,b}(1-2\lvert z\rvert)$ の集合なので、極座標 $z=\rho e^{i\phi}$ で $$V_{a,b+1}(1)=V_{a,b}(1)\int_0^{1/2}(1-2\rho)^m\,2\pi\rho\,d\rho=\frac\pi2V_{a,b}(1)\int_0^1u(1-u)^m\,du=\frac{\pi}{2}\cdot\frac{V_{a,b}(1)}{(m+1)(m+2)}$$($u=2\rho$ と置換し、$\int_0^1u(1-u)^m\,du=\frac1{(m+1)(m+2)}$)。
次元は実の座標を増やすと $1$、複素の座標を増やすと $2$ 増え、係数は $2/(m+1)$ または $\frac\pi2/((m+1)(m+2))$ なので、$V_{a,b}(1)=2^a(\pi/2)^b/(a+2b)!$ が帰納法で従う。$a=r_1$、$b=r_2$ とすればよい。$\square$
どの類 $c\in\operatorname{Cl}_K$ も、ノルムが
$$
N(J)\le M_K:=\frac{n!}{n^n}\Bigl(\frac4\pi\Bigr)^{r_2}\sqrt{\lvert d_K\rvert}
$$
を満たす整イデアル $J$ を含む。$M_K$ を $K$ の Minkowski の限界(Minkowski bound)という。
thm-icg-finiteness の証明で $S_t$ を $T_t$ に取り替える。$c^{-1}$ の整イデアル $I$ について、$t$ を $\operatorname{vol}(T_t)=2^n\cdot2^{-r_2}\sqrt{\lvert d_K\rvert}N(I)$、すなわち lem-icg-volume により
$$
t^n=n!\,2^{n-r_1}\Bigl(\frac2\pi\Bigr)^{r_2}2^{-r_2}\sqrt{\lvert d_K\rvert}\,N(I)=n!\Bigl(\frac4\pi\Bigr)^{r_2}\sqrt{\lvert d_K\rvert}\,N(I)
$$
となるようにとる($2^{n-r_1}=4^{r_2}$)。lem-icg-minkowski-lattice により $0$ でない $\alpha\in I$ で $j(\alpha)\in T_t$ となるものがあり、$\lvert N(\alpha)\rvert\le(t/n)^n=M_K\,N(I)$ である。$\alpha\mathcal{O}_K=IJ$ とすると、$J$ は類 $c$ の整イデアルで $N(J)=\lvert N(\alpha)\rvert/N(I)\le M_K$ である。$\square$
$n=2$ では $\frac{n!}{n^n}=\frac12$ なので、$M_K$ は虚 2 次体で $\frac2\pi\sqrt{\lvert d_K\rvert}$(thm-icg-finiteness の定数と同じ)、実 2 次体で $\frac12\sqrt{d_K}$(半分)になる。$n$ が大きいほど改良の効果は大きい。
$\operatorname{Cl}_K$ は、ノルムが $M_K$ 以下の素イデアルの類で生成される。そのような素イデアルは、$M_K$ 以下の素数 $p$ の上にある。
類 $c$ は $N(J)\le M_K$ の整イデアル $J$ を含む(thm-icg-minkowski-bound)。$J=P_1\cdots P_k$ と素イデアルに分解すると $c=[P_1]\cdots[P_k]$ であり、thm-icg-multiplicative によりイデアルのノルムは $1$ 以上の整数の積なので $N(P_i)\le N(J)\le M_K$ である。$P_i$ が素数 $p$ の上にあれば $p\le N(P_i)$ である(prop-icg-prime-norm)。$\square$
類数の計算は cor-icg-generators により、$M_K$ 以下の素数の上にある有限個の素イデアルが単項かどうか、それらの類の間にどんな関係があるかを調べることに帰着する。単項かどうかは、ノルムがその値になる元があるかどうかで判定できる:$P=\alpha\mathcal{O}_K$ なら $\lvert N(\alpha)\rvert=N(P)$ である(prop-icg-principal-norm)。2 次体 $\mathbb{Q}(\sqrt{\pm2}),\mathbb{Q}(\sqrt{-3}),\mathbb{Q}(\sqrt3)$ の $h_K=1$ と、$\mathbb{Q}(\sqrt{-5})$ の $h_K=2$ は 代数体 の記事の例「小さい 2 次体」で同じ方法で計算されている。$\mathbb{Q}(\sqrt{-1})$($M_K=\frac4\pi=1.27\cdots$)と $\mathbb{Q}(\sqrt5)$($M_K=\frac{\sqrt5}2=1.11\cdots$)も $M_K<2$ なので $h_K=1$ である。
$K=\mathbb{Q}(\sqrt{10})$、$\mathcal{O}_K=\mathbb{Z}[\sqrt{10}]$($10\equiv2\pmod4$)、$d_K=40$、$M_K=\frac12\sqrt{40}=\sqrt{10}=3.16\cdots$ である。$\operatorname{Cl}_K$ は $2$ と $3$ の上にある素イデアルで生成される。$\mathcal{O}_K\cong\mathbb{Z}[x]/(x^2-10)$ で、$x^2-10$ は $2$ を法として $x^2$、$3$ を法として $(x-1)(x+1)$ となるので、
$$
\mathfrak{p}_2=(2,\sqrt{10}),\qquad\mathfrak{p}_3=(3,\sqrt{10}-1),\qquad\mathfrak{p}_3'=(3,\sqrt{10}+1)
$$
はそれぞれ剰余環が $\mathbb{F}_2,\mathbb{F}_3,\mathbb{F}_3$ の素イデアルで、$\mathfrak{p}_2^2=(2)$、$\mathfrak{p}_3\mathfrak{p}_3'=(3)$ である($\mathfrak{p}_2^2=(4,2\sqrt{10},10)$ は $10-2\cdot4=2$ を含み、$\mathfrak{p}_3\mathfrak{p}_3'=\mathfrak{p}_3\cap\mathfrak{p}_3'$ は $3$ を含むので、右辺は左辺に含まれ、ノルムが等しいので一致する)。
$K=\mathbb{Q}(\sqrt{-23})$ では $-23\equiv1\pmod4$ なので $\mathcal{O}_K=\mathbb{Z}[\omega]$、$\omega=\frac{1+\sqrt{-23}}2$、$\omega^2=\omega-6$、$d_K=-23$ であり、$N(a+b\omega)=a^2+ab+6b^2$、すなわち $4N(a+b\omega)=(2a+b)^2+23b^2$ である。$M_K=\frac2\pi\sqrt{23}=3.05\cdots$ なので、$2$ と $3$ の上の素イデアルを調べる。$x^2-x+6$ は $2$ を法として $x(x-1)$、$3$ を法として $x(x-1)$ なので、
$$
\mathfrak{p}_2=(2,\omega),\quad\mathfrak{p}_2'=(2,\omega-1),\quad\mathfrak{p}_3=(3,\omega),\quad\mathfrak{p}_3'=(3,\omega-1)
$$
はノルム $2,2,3,3$ の素イデアルで、$\mathfrak{p}_2\mathfrak{p}_2'=\mathfrak{p}_2\cap\mathfrak{p}_2'\supset(2)$ と $\mathfrak{p}_3\mathfrak{p}_3'\supset(3)$ のノルムを比べて $\mathfrak{p}_2\mathfrak{p}_2'=(2)$、$\mathfrak{p}_3\mathfrak{p}_3'=(3)$ である。
| 外す条件 | 反例 | 成り立たなくなること |
|---|---|---|
| 環が整閉(整数環であること) | $R=\mathbb{Z}[\sqrt{-3}]$、$I=(2,1+\sqrt{-3})$ | 分数イデアルが可逆であり群をなすこと |
| 環が整閉(整数環であること) | 同じ $R$ と $I$ | ノルムの乗法性 $N(I^2)=N(I)^2$ |
| 代数体の整数環であること | $\operatorname{Cl}(A)\cong\mathbb{Z}$ となる Dedekind 整域 $A$ | 類群が有限であること |
$R=\mathbb{Z}[\sqrt{-3}]$ は $\mathbb{Q}(\sqrt{-3})$ の整数環 $\mathbb{Z}[\frac{1+\sqrt{-3}}2]$ に含まれる指数 $2$ の部分環で、Noether 環で Krull 次元 $1$ の整域であるが整閉でない(Dedekind整域 の記事の注意「反例:Dedekind整域でない整域」の 2)。
$I=(2,1+\sqrt{-3})$ について $(1+\sqrt{-3})^2=-2+2\sqrt{-3}=2\bigl((1+\sqrt{-3})-2\bigr)$ なので $I^2=(4,\,2(1+\sqrt{-3}),\,2((1+\sqrt{-3})-2))=2I$ である。$I$ が可逆なら両辺に $I^{-1}$ を掛けて $I=2R$ となるが、$1+\sqrt{-3}\notin2R$ なので矛盾する。よって $I$ は可逆でなく、$R$ の分数イデアルは群をなさない。$R\cong\mathbb{Z}[x]/(x^2+3)$ から $R/I\cong\mathbb{F}_2[x]/(x^2+1,x+1)\cong\mathbb{F}_2$ で $[R:I]=2$ であり、$I$ は階数 $2$ の自由アーベル群なので $[I:2I]=4$、$[R:I^2]=[R:2I]=2\cdot4=8\ne[R:I]^2=4$ である。
虚 2 次体で類数が $1$ のものは $d_K=-3,-4,-7,-8,-11,-19,-43,-67,-163$ の 9 個に限ることが、Heegner、Stark、Baker によって独立に証明されている(Ste12 §7.2、pp. 83–84。この記事では証明しない)。実 2 次体では類数 $1$ のものは多く見つかるが、無限個あるかどうかは知られていない(同 p. 83、Conjecture 7.2.1 の直後の記述)。
Dedekind 整域では、イデアル類群は $0$ でない素イデアルの生成する自由アーベル群を主因子で割った 因子類群 と一致し、体でなければ Picard群 とも同型である(Dedekind整域 の記事の「補足」)。類体論では、イデアル類群とその一般化が $K$ の Galois 群がアーベル群である拡大を記述する(類体論。Ste12 第 7 章の冒頭 p. 77 もこの点に触れている)。
本記事の類群の定義と完全列は Ste12 Definition 7.1.1(p. 77)、類数の有限性は Theorem 7.1.2 と証明(pp. 78–82)、ノルムの乗法性は Proposition 6.3.4(p. 75)、生成元の補題は Lemma 7.3.1(p. 84)、$\mathbb{Q}(\sqrt{10})$ の計算は Example 7.1.4(pp. 78–79)に対応する。同書は Minkowski の限界の定数 $\frac{n!}{n^n}(\frac4\pi)^{r_2}$ の導出を演習としているが、本記事では lem-icg-volume と thm-icg-minkowski-bound で記事内で証明した。ノルムの乗法性の証明も、同書の中国剰余定理による議論ではなく、「含むことは割ること」を使う記事内の証明にした。
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