Hellyの選出定理(Helly's selection theorem)とは、閉区間 $[a,b]$ 上の関数列で、全変動と 1 点での値が一様に有界なものは、区間のすべての点で収束する部分列をもち、その極限は全変動が部分列の全変動の下極限以下の有界変動関数になる、という定理である。Jordan 分解で単調関数の列に帰着し、有理点での収束と跳びの点の処理で示される。結論は各点収束で、一様収束とは限らない。Sobolev 空間 $W^{1,1}$ の有界列の連続な代表が各点収束する部分列をもつこと、分布関数の列の部分列が連続点で収束することもこの定理から従う。
前提知識: 有界変動関数, 単調関数, Bolzano–Weierstrassの定理, 対角線論法
有界な実数列は収束する部分列をもつ(Bolzano–Weierstrassの定理)。関数列ではそうはいかない。値が一様に有界な関数列でも、どの部分列も多くの点で振動を続けることがある。連続関数の列で一様収束する部分列を保証するのが Arzelà–Ascoliの定理 であり、そのためには同程度連続性が要る。
Hellyの選出定理(Helly's selection theorem)は、同程度連続性の代わりに 全変動が一様に有界 であることを仮定し、結論を各点収束に弱めた定理である。全変動と 1 点での値が一様に有界な関数列は、区間のすべての点で収束する部分列をもち、極限も有界変動関数になる。不連続な関数も扱えること、極限が連続でなくてもよいことが特徴である。
この定理は、確率論では分布関数の列から収束する部分列を取り出すのに使われ(特性関数(確率論) の注意「引用する分布収束の性質」)、Sobolev 空間では $W^{1,1}$ の有界列が各点収束する部分列をもつことを与える。$W^{1,1}$ から連続関数の空間への埋め込みはコンパクトでないので、一様収束までは望めない。
Helly の名を冠する主張はほかにもある。凸集合 の定理「Hellyの定理」は、$\mathbb{R}^n$ の凸集合の有限族について、どの $n+1$ 個にも共通点があれば全体に共通点があることを述べる。Hellyの補題(関数解析) の定理「Hellyの補題」は、実ノルム空間の半径 $M$ の閉球の元 $x$ で、双対空間の有限個の元 $f_i$ の値 $f_i(x)$ を指定した実数 $\gamma_i$ に任意の精度で近づけられるための条件を、すべての実数 $\beta_i$ について $\lvert\sum_i\beta_i\gamma_i\rvert\le M\|\sum_i\beta_if_i\|$ が成り立つことと述べる($M=1$ の場合が Goldstineの定理 の証明に使われる)。この記事の定理はこれらとは別のものである。
$J\subset\mathbb{R}$ を区間とする。$J$ 上の関数列 $(f_n)$ が 各点収束 するとは、すべての $x\in J$ について数列 $(f_n(x))$ が収束することをいう。関数の全変動 $V_a^b(f)$ と有界変動関数は 有界変動関数 の定義「全変動と有界変動関数」に従う。
まず単調関数の場合を示す。区間は有界でなくてもよい。
$J\subset\mathbb{R}$ を区間とし、$f_n\colon J\to\mathbb{R}$($n\ge1$)を単調増加関数で、定数 $M$ について $|f_n(x)|\le M$(すべての $n$ と $x\in J$)をみたすものとする。このとき部分列 $(f_{n_k})$ と単調増加関数 $f\colon J\to[-M,M]$ があり、すべての $x\in J$ について $f_{n_k}(x)\to f(x)$ である。
段 1:$D$ を、$J$ の有理数の点と $J$ に属する端点を合わせた可算集合とする。$D$ は $J$ で稠密である。$(f_n(q))$ は $[-M,M]$ の数列なので、Bolzano–Weierstrassの定理 と 対角線論法 により、部分列 $(f_{n_j})$ で、すべての $q\in D$ について $f_{n_j}(q)$ が収束するものがある。その極限を $\phi(q)$ とおくと、$\phi$ は $D$ の上で単調増加である。
段 2:$J$ の内点 $x$ について
$$
\phi_-(x):=\sup\{\phi(q)\mid q\in D,\ q< x\},\qquad\phi_+(x):=\inf\{\phi(r)\mid r\in D,\ r>x\}
$$
とおく。$q< x< r$ なら $f_{n_j}(q)\le f_{n_j}(x)\le f_{n_j}(r)$ なので
$$
\phi(q)\le\liminf_{j\to\infty}f_{n_j}(x)\le\limsup_{j\to\infty}f_{n_j}(x)\le\phi(r)
$$
であり、$q,r$ について上限・下限をとると $\phi_-(x)\le\liminf f_{n_j}(x)\le\limsup f_{n_j}(x)\le\phi_+(x)$ である。よって $\phi_-(x)=\phi_+(x)$ となる内点 $x$ では $f_{n_j}(x)$ が収束する。
段 3:$E:=\{x\mid\phi_-(x)< \phi_+(x)\}$ は可算集合である。実際、$x< y$ が $E$ の点なら、間に $D$ の点 $q$ をとって $\phi_+(x)\le\phi(q)\le\phi_-(y)$ なので、開区間 $(\phi_-(x),\phi_+(x))$ と $(\phi_-(y),\phi_+(y))$ は交わらない。互いに交わらない空でない開区間の族は、各区間から有理数を 1 つ選べば単射ができるので、高々可算である。
段 4:$J$ に属する端点は $D$ に入っているので段 1 で収束している。したがって、まだ収束が分かっていないのは $E$ の点だけであり、高々可算個である。これらの点で、もう一度 Bolzano–Weierstrassの定理 と対角線論法を使い、$(f_{n_j})$ の部分列 $(f_{n_k})$ を、これらの点でも収束するようにとる。部分列をとっても収束する点での収束は保たれるので、$(f_{n_k})$ は $J$ のすべての点で収束する。極限 $f$ は単調増加関数の各点極限なので単調増加で、値は $[-M,M]$ に入る。$\square$
$f_n\colon[a,b]\to\mathbb{R}$($n\ge1$)を有界変動関数の列とし、定数 $K$ について
$$
|f_n(a)|+V_a^b(f_n)\le K\qquad(n\ge1)
$$
が成り立つとする。このとき部分列 $(f_{n_k})$ と関数 $f\colon[a,b]\to\mathbb{R}$ があって、すべての $x\in[a,b]$ について $f_{n_k}(x)\to f(x)$ であり、$f$ は有界変動で
$$
V_a^b(f)\le\liminf_{k\to\infty}V_a^b(f_{n_k})\le K
$$
である。
$g_n(x):=V_a^x(f_n)$、$h_n:=g_n-f_n$ とおく。有界変動関数 の命題「基本性質」の 5 により $g_n,h_n$ は単調増加で $f_n=g_n-h_n$ である。$0\le g_n\le V_a^b(f_n)\le K$ であり、同じ命題の 2 から $|f_n|\le|f_n(a)|+V_a^b(f_n)\le K$ なので $|h_n|\le2K$ である。
lem-helly-monotone を $(g_n)$ に使って部分列 $(g_{n_j})$ を各点収束させ、同じ補題を $(h_{n_j})$ に使ってさらに部分列 $(h_{n_k})$ を各点収束させる。$(g_{n_k})$ も各点収束するので、$f_{n_k}=g_{n_k}-h_{n_k}$ はすべての点で収束する。その極限を $f$ とおく。
全変動を評価する。$[a,b]$ の分割 $P\colon a=x_0< \dots< x_m=b$ を固定すると、$V(f,P)$ は有限個の点での値で決まるので
$$
V(f,P)=\lim_{k\to\infty}V(f_{n_k},P)\le\liminf_{k\to\infty}V_a^b(f_{n_k})
$$
である。$P$ について上限をとればよい。$\square$
定理の結論は各点収束であり、一様収束ではない。下の ex-helly-ramp では連続関数の列が不連続な関数に各点収束するので、どの部分列も一様収束しない。全変動の不等式も等号とは限らない。$f_n:=1_{\{1/n\}}$($n\ge2$。点 $1/n$ だけで $1$、ほかで $0$)は $[0,1]$ 上で $V_0^1(f_n)=2$ だが、すべての点で $0$ に収束する。
Bre11 Exercise 8.3(pp. 235–236)は、$W^{1,1}(0,1)$ の有界列について、単調な場合への帰着、測度 $0$ の集合を除いた収束、跳びの点の処理(2 問)、対角線論法という 5 つの小問で同じ結論を導く演習である。Remark 10(p. 214)はこれを Helly の選出定理と呼んでいる。この記事の証明は、有界変動関数の Jordan 分解で単調な場合に帰着し、有理点での収束から始める形にした。
$I\subset\mathbb{R}$ を開区間とし、$\overline I$ を $I$ の $\mathbb{R}$ での閉包とする(無限大は含めない)。$u\in W^{1,1}(I)$ は $\overline I$ 上の連続な代表 $\tilde u$ をただ 1 つもち、$x,y\in\overline I$ について $\tilde u(x)-\tilde u(y)=\int_y^xu'$ である(1次元Sobolev空間 の定理「連続な代表」)。ノルムは $\|u\|_{W^{1,1}}:=\|u\|_{L^1}+\|u'\|_{L^1}$ とする。
$I$ を開区間(有界でなくてもよい)とし、$(u_n)$ を $W^{1,1}(I)$ の有界列とする。このとき部分列 $(u_{n_k})$ があり、連続な代表 $\tilde u_{n_k}$ は $\overline I$ のすべての点で収束する。
$\|u_n\|_{W^{1,1}}\le K$ とする。まず $I=(a,b)$ が有界な場合を示す。$x\in[a,b]$ と $y\in[a,b]$ について $|\tilde u_n(x)|\le|\tilde u_n(y)|+\int_I|u_n'|$ であり、$y$ について $[a,b]$ 上で平均すると $|\tilde u_n(x)|\le\frac{1}{b-a}\|u_n\|_{L^1}+\|u_n'\|_{L^1}$ である。また $[a,b]$ の分割 $P$ について $V(\tilde u_n,P)=\sum_k\bigl|\int_{x_{k-1}}^{x_k}u_n'\bigr|\le\|u_n'\|_{L^1}$ なので、$V_a^b(\tilde u_n)\le K$ である。よって $|\tilde u_n(a)|+V_a^b(\tilde u_n)\le(1+\frac1{b-a})K+K$ であり、thm-helly-main を使えばよい。
$I$ が有界でない場合は、$I$ に含まれる有界な開区間 $I_1\subset I_2\subset\cdots$ で $\overline I=\bigcup_m\overline{I_m}$ となるものをとる(たとえば $I\cap(-m,m)$ のうち空でないもの)。$u_n|_{I_m}$ は $W^{1,1}(I_m)$ で $K$ 以下のノルムをもつので、有界な場合を $m=1,2,\dots$ と順に使い、対角線論法 で部分列をとれば、$\overline I$ のすべての点で収束する。$\square$
Bre11 Remark 10(p. 214)は、$I$ が有界でも有界でなくても、$I$ のすべての点で収束する部分列がとれると述べている。極限の関数は $W^{1,1}(I)$ に属するとは限らず、連続とも限らない。
$I=(0,1)$、$n\ge2$ について
$$
u_n(x):=\begin{cases}0&(0\le x\le\frac12),\\ n(x-\frac12)&(\frac12< x< \frac12+\frac1n),\\ 1&(\frac12+\frac1n\le x\le1)\end{cases}
$$
とおく。$u_n$ は連続な折れ線で、$\|u_n\|_{L^1}\le1$、$\|u_n'\|_{L^1}=1$ なので、$W^{1,1}(0,1)$ の有界列である。$x\le\frac12$ なら $u_n(x)=0$、$x>\frac12$ なら $n$ が大きいと $u_n(x)=1$ なので、$(u_n)$ は $[0,1]$ のすべての点で $1_{(1/2,1]}$ に収束する。極限は連続でないので、どの部分列も $[0,1]$ 上で一様収束しない(連続関数の一様収束極限は連続である)。$u_n/2$ は $W^{1,1}(0,1)$ の単位球に入るので、とくに単位球の像は $C([0,1])$ で相対コンパクトでない(Bre11 Exercise 8.2 の 2、p. 235)。
$1< p\le\infty$ なら、$W^{1,p}$ の有界列の連続な代表は同程度連続になり、有界な区間の上では一様収束する部分列がとれる(1次元Sobolev空間 の定理「連続関数の空間へのコンパクトな埋め込み」)。$p=1$ で残るのが、この記事の各点収束である。
$\mathbb{R}$ 上の 分布関数 とは、単調増加で右連続な関数 $F\colon\mathbb{R}\to[0,1]$ のことをいう($x\to\pm\infty$ での極限が $0,1$ であることはここでは課さない)。
$F_n\colon\mathbb{R}\to[0,1]$($n\ge1$)を単調増加関数の列とする。このとき部分列 $(F_{n_k})$ と、単調増加で右連続な関数 $G\colon\mathbb{R}\to[0,1]$ があり、$G$ が連続なすべての点 $x$ で $F_{n_k}(x)\to G(x)$ である。
lem-helly-monotone を $J=\mathbb{R}$ に使うと、部分列 $(F_{n_k})$ と単調増加関数 $f\colon\mathbb{R}\to[0,1]$ で、すべての点で $F_{n_k}\to f$ となるものがある。$G(x):=f(x+)$(右からの極限、単調関数 の定理「単調関数の片側極限」)とおくと、$G$ は単調増加で右連続である。$x$ を $G$ の連続点とする。$y< z< x$ なら $G(y)=f(y+)\le f(z)$ なので $G(x-)\le f(x-)$ であり、$y< x$ なら $f(y)\le f(y+)=G(y)$ なので $f(x-)\le G(x-)$ である。よって $f(x-)=G(x-)=G(x)=f(x+)$ である。$f(x-)\le f(x)\le f(x+)$ から $f(x)=G(x)$ であり、$F_{n_k}(x)\to G(x)$ である。$\square$
$G$ は $x\to\pm\infty$ で $0,1$ に近づくとは限らない。$F_n:=1_{[n,\infty)}$ はすべての点で $0$ に収束する。確率は無限遠へ逃げうるのであり、これを防ぐ条件が緊密性である(特性関数(確率論) の注意「引用する分布収束の性質」の 3)。
選出定理と全変動の下半連続性(thm-helly-main の不等式)を組み合わせると、有界変動関数の中で最小値をとる関数の存在が示せる。これは、コンパクト性と下半連続性から最小値の存在を導く変分法の典型的な議論である。
$g\in L^1(a,b)$ とし、$[a,b]$ 上の有界変動関数 $f$ について
$$
\Phi(f):=V_a^b(f)+\int_a^b|f(x)-g(x)|\,dx
$$
とおく。このとき $\Phi$ の最小値をとる有界変動関数 $f_\ast$ が存在する。
$m:=\inf_f\Phi(f)$ とおくと $0\le m\le\Phi(0)=\|g\|_{L^1}$ である。$\Phi(f_n)\to m$ となる有界変動関数の列をとり、$\Phi(f_n)\le m+1=:K_0$ としてよい。$V_a^b(f_n)\le K_0$ であり、有界変動関数 の命題「基本性質」の 2 の証明と同様に $|f_n(a)|\le|f_n(x)|+V_a^b(f_n)$ なので、$x$ について積分すると
$$
(b-a)|f_n(a)|\le\int_a^b|f_n|+(b-a)K_0\le\int_a^b|f_n-g|+\|g\|_{L^1}+(b-a)K_0
$$
は $n$ によらず有界である。thm-helly-main により部分列 $(f_{n_k})$ がすべての点で有界変動関数 $f_\ast$ に収束し、$V_a^b(f_\ast)\le\liminf_kV_a^b(f_{n_k})$ である。$|f_{n_k}|$ は $n$ によらない定数で抑えられるので(基本性質の 2)、$|f_{n_k}-g|\to|f_\ast-g|$ に Lebesgueの優収束定理 を使えて $\int|f_{n_k}-g|\to\int|f_\ast-g|$ である。よって
$$
\Phi(f_\ast)\le\liminf_{k\to\infty}V_a^b(f_{n_k})+\lim_{k\to\infty}\int_a^b|f_{n_k}-g|\le\liminf_{k\to\infty}\Phi(f_{n_k})=m
$$
であり、$f_\ast$ は最小値をとる。$\square$
最小化列は一様には収束しなくても、各点収束する部分列をもつ。ここで極限が連続とは限らないことが、最小値をとる関数を有界変動関数の中で探す理由である。ex-helly-ramp のように、連続な関数の列の各点極限が不連続になることがある。
| 外す条件 | 反例 | 成り立たなくなること |
|---|---|---|
| 全変動の一様な有界性 | $r_n(x)=(-1)^{\lfloor 2^nx\rfloor}$($[0,1]$ 上) | 各点収束する部分列の存在 |
| 1 点での値の一様な有界性 | $f_n\equiv n$ | 各点収束する部分列の存在 |
| 同程度連続性(Arzelà–Ascoliの定理 の仮定) | ex-helly-ramp の $u_n$ | 一様収束する部分列の存在 |
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