双子素数予想(twin prime conjecture)とは、差が $2$ の素数の組 $(p,p+2)$(双子素数)が無限に存在するという予想であり、2026 年の時点で未解決である。$100$ 以下には $(3,5),(5,7),\dots,(71,73)$ の $8$ 組があり、$p\geq5$ の双子素数は必ず $6k\pm1$ の形をとる。部分的な結果として、双子素数の逆数の和が収束すること(Brun, 1919)、差が $246$ 以下の隣り合う素数の組が無限に存在すること(Zhang 2013 に始まり Maynard、Polymath8b が改良)、$p+2$ が素数か 2 つの素数の積であるような素数 $p$ が無限に存在すること(Chen, 1973)が証明されている。個数については Hardy–Littlewood の漸近公式が予想されている。
素数を小さい順に並べると $2,3,5,7,11,13,17,19,23,29,31,\dots$ となり、ところどころに差がちょうど $2$ の組が現れる。$100$ までに
$$
(3,5),\ (5,7),\ (11,13),\ (17,19),\ (29,31),\ (41,43),\ (59,61),\ (71,73)
$$
の $8$ 組があり、$1000$ までには $35$ 組、$100$ 万までには $8169$ 組ある。素数は大きくなるにつれてまばらになるので(素数定理)、差が $2$ の組もだんだん見つかりにくくなるが、計算で調べた範囲では途絶える気配はない。現在知られている最大の組は $2996863034895\cdot2^{1290000}\pm1$(10 進 388,342 桁、2016 年発見)である。
このような組はいつまでも現れるのか。「差が $2$ の素数の組は無限に存在する」という主張を双子素数予想という。素数そのものが無限にあることは Euclid の短い証明で示せるが(素数の無限性)、双子素数予想は 2026 年の時点でも証明も反証もされていない未解決問題である。一方で、2013 年以降「差が一定の数以下の素数の組は無限に存在する」ことが証明され、その「一定の数」は $246$ まで下がっている。
本記事では予想を正確に述べ、記事の中で完全に証明できる関連の命題(双子素数の $6$ を法とする形、Clement による Wilson の定理を使った判定法)を示したうえで、2026 年の時点で証明されている部分的な結果を出典とともにまとめる。以下で「予想」と書くものは証明されていない主張であり、「定理」と書くものは証明済みの結果である。
$p$ と $p+2$ がともに素数であるとき、組 $(p,p+2)$ を双子素数(twin primes)という。実数 $x\geq1$ に対し、$p\leq x$ かつ $p+2$ も素数であるような素数 $p$ の個数を $\pi_2(x)$ と書く。
$(2,4)$ は $4$ が素数でないので双子素数ではない。$2$ 以外の素数は奇数なので、差が $1$ の素数の組は $(2,3)$ だけであり、差が $2$ は $2$ 以外の素数どうしの差として最小の値である。この意味で双子素数は「できるだけ近い素数の組」である。
双子素数は無限に存在する。すなわち、$\pi_2(x)\to\infty$($x\to\infty$)である。
$\pi_2(x)$ の値は次のとおりである(計算機による数え上げ)。
| $x$ | $10$ | $10^2$ | $10^3$ | $10^4$ | $10^5$ | $10^6$ | $10^7$ |
|---|---|---|---|---|---|---|---|
| $\pi_2(x)$ | $2$ | $8$ | $35$ | $205$ | $1224$ | $8169$ | $58980$ |
$x=10^6$ のとき $x$ 以下の素数は $78498$ 個あるので、素数のうち双子素数の小さい方になっているものは約 $10\%$ である。$x=10^7$ では素数 $664579$ 個に対して $58980$ 個で、約 $8.9\%$ に下がる。
双子素数の小さい方 $p$ と大きい方 $p+2$ の間の数 $p+1$ を並べると、$(3,5)$ を除いて $6,12,18,30,42,60,72,\dots$ とすべて $6$ の倍数になっている。これは偶然ではなく、次節の prop-twin-prime-mod-six で証明する。
「$p,\ p+2,\ p+4$ がすべて素数」となる三つ組は $(3,5,7)$ しかない(cor-twin-prime-triplet)。したがって「差が $2$ の組が無限にあるなら、差が $2$ ずつの三つ組も無限にあるだろう」という類推は成り立たない。この反例は、差の形によっては $3$ で割った余りの制約だけで素数の組が有限個に限られることを示している。そのため、無限に存在すると予想されるのは、このような合同式の制約に引っかからない形の組に限られる。
$(p,p+2)$ が双子素数で $p\geq5$ ならば、$p\equiv5\pmod 6$ であり、$p+1$ は $6$ の倍数である。すなわち $p=6k-1$、$p+2=6k+1$ となる正の整数 $k$ がある。
$p\geq5$ なので $p$ と $p+2$ はどちらも $3$ より大きい素数であり、$2$ でも $3$ でも割り切れない。$p$ は奇数なので $p+1$ は偶数である。
$3$ で割った余りを考える。$p\not\equiv0\pmod 3$ である。$p\equiv1\pmod3$ なら $p+2\equiv0\pmod3$ となり、$p+2>3$ が $3$ で割り切れて素数であることに反する。よって $p\equiv2\pmod 3$、すなわち $3\mid p+1$ である。
$p+1$ は $2$ と $3$ で割り切れ、$2$ と $3$ は互いに素なので $6\mid p+1$ である。$p+1=6k$ とおけば $p=6k-1$、$p+2=6k+1$ であり、$p\equiv-1\equiv5\pmod 6$ である。
逆は成り立たない。$k=4$ では $6k-1=23$、$6k+1=25=5^2$ であり、$6k\pm1$ の形でも両方が素数とは限らない。prop-twin-prime-mod-six は双子素数が現れうる場所を $6$ の倍数の両隣に限るだけである。
$p,\ p+2,\ p+4$ がすべて素数であるのは $p=3$ のときに限る。
$p,\ p+2,\ p+4$ を $3$ で割った余りは、それぞれ $p,\ p+2,\ p+1$ を $3$ で割った余りに等しい($p+4=(p+1)+3$)。$p,p+1,p+2$ は連続する $3$ つの整数なので、ちょうど $1$ つが $3$ で割り切れる。したがって $p,p+2,p+4$ のうちちょうど $1$ つが $3$ で割り切れ、それが素数であるためには $3$ に等しくなければならない。$p+2=3$ なら $p=1$、$p+4=3$ なら $p=-1$ で、どちらも素数でない。よって $p=3$ であり、実際 $(3,5,7)$ はすべて素数である。
Wilsonの定理は、整数 $n\geq2$ が素数であることと $(n-1)!\equiv-1\pmod n$ が同値であることを述べる。これを $n$ と $n+2$ に同時に使うと、双子素数であることを $1$ つの合同式で表せる。
整数 $n\geq2$ について、次は同値である。
$N:=4\bigl((n-1)!+1\bigr)+n$ とおく。まず $n+2$ を法とする計算をしておく。$n\equiv-2$、$n+1\equiv-1\pmod{n+2}$ なので
$$
(n+1)!=(n+1)\,n\,(n-1)!\equiv(-1)(-2)(n-1)!=2\,(n-1)!\pmod{n+2}
$$
であり(これを (A) とする)、また $N=4(n-1)!+2+(n+2)$ なので
$$
N\equiv4(n-1)!+2=2\bigl(2\,(n-1)!+1\bigr)\pmod{n+2}
$$
である(これを (B) とする)。
1 ⇒ 2:$n$ と $n+2$ が素数なら $n\geq3$ は奇数である。Wilson の定理より $(n-1)!\equiv-1\pmod n$ なので $N\equiv4\cdot0+n\equiv0\pmod n$ である。また $n+2$ は素数なので Wilson の定理より $(n+1)!\equiv-1\pmod{n+2}$ であり、(A) から $2(n-1)!\equiv-1$、すなわち $2(n-1)!+1\equiv0\pmod{n+2}$ である。(B) より $N\equiv0\pmod{n+2}$ である。$n$ と $n+2$ の公約数は差 $2$ を割り切るが、$n$ は奇数なので $\gcd(n,n+2)=1$ であり、$n\mid N$ と $n+2\mid N$ から $n(n+2)\mid N$ を得る。
2 ⇒ 1:$n(n+2)\mid N$ とする。すると $n\mid N$、$n+2\mid N$ である。
まず $n$ が偶数でないことを示す。$n$ が偶数なら $m:=n+2$ は $4$ 以上の偶数である。$m=4$($n=2$)のとき (B) の右辺は $2(2\cdot1!+1)=6$ で、$4\nmid6$ である。$m\geq6$ のとき $m=2k$($k\geq3$)と書くと、$2< k$ かつ $k\leq2k-3=n-1$ なので、$2$ と $k$ は $1,2,\dots,n-1$ の中の相異なる数であり、$m=2k$ は $(n-1)!$ を割り切る。よって (B) の右辺は $4(n-1)!+2\equiv2\pmod m$ となり、$m\geq6$ なので $m\nmid N$ である。いずれの場合も $n+2\mid N$ に反する。したがって $n$ は奇数であり、$n\geq3$ である。
$n$ が奇数なので $n+2$ も奇数である。(B) と $n+2\mid N$ から $n+2\mid2\bigl(2(n-1)!+1\bigr)$ であり、$\gcd(2,n+2)=1$ なので $2(n-1)!+1\equiv0\pmod{n+2}$ である。(A) より $(n+1)!\equiv2(n-1)!\equiv-1\pmod{n+2}$ となり、Wilson の定理($n+2\geq5$ に適用)から $n+2$ は素数である。また $n\mid N$ と $N\equiv4\bigl((n-1)!+1\bigr)\pmod n$ から $n\mid4\bigl((n-1)!+1\bigr)$ であり、$n$ は奇数なので $\gcd(4,n)=1$ より $n\mid(n-1)!+1$ である。Wilson の定理から $n$ は素数である。
この判定法は P. A. Clement による(Cle49)。Moser の問題集の第 78 問にも載っているが、その式は $4(n-1)!+1+n$ と印刷されていて括弧が落ちている(Mos11 p. 79。$n=3$ では $4\cdot2!+1+3=12$ が $15$ で割り切れず、印刷どおりの式では $(3,5)$ が判定に合格しない)。正しい式は thm-twin-prime-clement の $4\bigl((n-1)!+1\bigr)+n$ である。たとえば $n=5$ では $4(24+1)+5=105=35\cdot3$ で $5\cdot7=35$ に割り切れ、$n=7$ では $4(720+1)+7=2891$ を $63$ で割ると余り $56$ で、$9$ が素数でないことに対応する。
この判定法は双子素数予想を合同式の言葉に言い換えたものにすぎず、$(n-1)!$ の計算は $n$ が大きいと非常に重いので、双子素数を探す実用的な方法ではない。双子素数が無限にあるかどうかについても何も教えない。
以下の結果はいずれも証明が長く高度なので、主張と出典だけを述べる。どれも双子素数予想そのものを解決するものではない。
双子素数の逆数の和
$$
\Bigl(\frac13+\frac15\Bigr)+\Bigl(\frac15+\frac17\Bigr)+\Bigl(\frac1{11}+\frac1{13}\Bigr)+\Bigl(\frac1{17}+\frac1{19}\Bigr)+\cdots
$$
は、双子素数が無限個あったとしても収束する。
V. Brun が 1919 年に、現在 Brun の篩と呼ばれる方法で証明した(Bru19)。すべての素数の逆数の和は発散するので(素数の無限性 の記事の定理「素数の逆数の和の発散」)、Brun の定理は双子素数が素数全体に比べて非常にまばらであることを示している。ただし「和が収束する」ことは「有限個しかない」ことを意味しない(平方数の逆数の和が収束するのと同じである)ので、この定理から予想の真偽は分からない。この和の値(Brun 定数)の数値は推定値であり、確定した桁はごく少ない(Cri24 §22.3, Historical remark 22.3.10 と Sage note 22.3.11)。
$n$ 番目の素数を $p_n$ と書く($p_1=2$)。双子素数予想は「$p_{n+1}-p_n=2$ となる $n$ が無限にある」、すなわち $\liminf_{n\to\infty}(p_{n+1}-p_n)=2$ と同値である。2013 年まで、この下極限が有限であることすら分かっていなかった(Cla Chapter 1, p. 10)。
$$
\liminf_{n\to\infty}\,(p_{n+1}-p_n)\leq246
$$
である。すなわち、差が $246$ 以下の隣り合う素数の組は無限に存在する。
Y. Zhang が 2013 年に $\liminf(p_{n+1}-p_n)<7\times10^7$ を証明し(Zha14)、同年 J. Maynard が別の篩の方法で $600$ 以下に改良した(May15)。Maynard の篩をさらに改良した共同研究 Polymath8b が $246$ 以下を示した(Pol14)。同じ論文は、一般化された Elliott–Halberstam 予想(証明されていない)を仮定すれば上界が $6$ になることも示している。
2026 年 9 月の時点で学術誌に出版された最良の上界は $246$ である。2026 年 8〜9 月には、これより小さい上界を主張する、学術誌の審査を経ていない報告が相次いで公開されている。たとえば J. Stadlmann のプレプリント(Sta26、2026 年 8 月 31 日提出)は $240$ を主張しており、さらに小さい値を主張する報告もある。これらはいずれも本記事の執筆時点では学術誌の審査を経ておらず未確認であり、特定の 1 件だけが最新の改良であるとは限らない。いずれにせよ上界を $2$ まで下げる方法は知られておらず、双子素数予想は未解決のままである。
$p+2$ が素数であるか、2 つの素数の積であるような素数 $p$ は無限に存在する。
陳景潤(Chen Jingrun)が 1966 年に発表し、1973 年に詳しい証明を出版した結果である(Che73)。同じ論文は「十分大きい偶数は、素数と、素数または 2 つの素数の積との和で表せる」という Goldbach予想 側の結果も含む。ここでの「2 つの素数の積」は同じ素数の平方でもよい。
双子素数予想は「無限にあるか」だけを問うが、どのくらいの個数があるかについてはさらに精密な予想がある。
$$
C_2:=\prod_{p\geq3}\Bigl(1-\frac{1}{(p-1)^2}\Bigr)=0.6601618\cdots
$$
(積は $3$ 以上のすべての素数にわたる)とおくと、
$$
\pi_2(x)\sim2C_2\int_2^x\frac{dt}{(\log t)^2}\qquad(x\to\infty)
$$
である。ここで $\sim$ は両辺の比が $1$ に近づくことを表し、$\log$ は自然対数である。
G. H. Hardy と J. E. Littlewood が 1923 年に述べた予想である(HL23)。右辺は $2C_2\,x/(\log x)^2$ と漸近同値である。
根拠は次の発見的な考察である(証明ではない)。素数定理によれば $x$ 付近の整数が素数である「確率」はおよそ $1/\log x$ なので、$n$ と $n+2$ が独立に素数になるとすれば確率はおよそ $1/(\log x)^2$ である。しかし $n$ と $n+2$ は独立ではない。たとえば $n$ が奇数なら $n+2$ も自動的に奇数であり、各素数 $p$ で割った余りの制約を数え直すと、$p=2$ から因子 $2$、$p\geq3$ から因子 $(1-2/p)/(1-1/p)^2=1-1/(p-1)^2$ の補正が付く。これらを掛け合わせたものが $2C_2$ である(Cri24 §22.3.2)。
数値は予想とよく合う。$x=10^6$ で右辺は約 $8248$、実際の $\pi_2(10^6)=8169$ であり、$x=10^7$ で右辺は約 $58754$、実際は $58980$ である(ex-twin-prime-table)。より粗い $2C_2\,x/(\log x)^2$ では、それぞれ約 $6917$、約 $50822$ となり、比は $1$ に近づくものの収束は遅い。この予想が正しければ双子素数予想も正しいが、2026 年の時点で証明されていない。
2026 年 9 月の時点で知られている最大の双子素数は $2996863034895\cdot2^{1290000}\pm1$ で、2016 年 9 月に T. Greer が分散計算プロジェクト PrimeGrid で見つけた(PP)。このような記録は予想の証明にはならない。
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