多様体上の擬微分作用素

同義語:pseudodifferential operators on manifoldspseudodifferential operator on a manifold

概要

多様体上の擬微分作用素(pseudodifferential operators on manifolds)とは、多様体上のベクトル束の切断に働く線形作用素で、座標近傍で出力と入力を切り落とすと $\mathbb R^n$ の擬微分作用素として書け、離れた所どうしの間では滑らかな核で働くものである。微分作用素や滑らかな核の積分作用素を含む。主表象は余接束の上の表象の類として座標によらずに決まり、主表象の写像は全射でその核は 1 階低い作用素である。コンパクトな多様体上の楕円型作用素は誤差が $-1$ 階のパラメトリクスをもち、そこから楕円正則性と Fredholm 性が従う。

$$\newcommand{C}[0]{\mathbb{C}} \newcommand{div}[0]{\mathbin{÷}} \newcommand{N}[0]{\mathbb{N}} \newcommand{Q}[0]{\mathbb{Q}} \newcommand{R}[0]{\mathbb{R}} \newcommand{Z}[0]{\mathbb{Z}} $$

前提知識: 擬微分作用素, ベクトル束, 1の分割, Sobolev空間, Fredholm作用素

多様体上の擬微分作用素(pseudodifferential operators on manifolds)とは、$C^\infty$ 級多様体 $X$ 上のベクトル束 $E$ の切断を $F$ の切断へ写す線形作用素で、座標近傍で切り落とすと $\mathbb R^n$ の 擬微分作用素 として書け、離れた所どうしの間では滑らかな核で働くものである。$m$ 階のものの全体を $\Psi^m(X;E,F)$ と書く。滑らかな係数の $m$ 階の微分作用素はその典型例であり、滑らかな核による積分作用素はすべての階数に属する。
$\mathbb R^n$ では表象 $p(x,\xi)$ が作用素を決めるが、多様体の上では座標の取り方によって表象が変わる。それでも、表象を 1 階低い誤差を除いて見た主表象は、余接束 $T^*X$ の上の関数として座標によらずに決まる。主表象を与える写像は全射で、その核はちょうど $m-1$ 階の作用素である(表象の完全列)。主表象が可逆な作用素を楕円型という。コンパクトな多様体の上では、楕円型作用素は主表象の逆から作った近似的な逆(パラメトリクス)をもち、そこから楕円正則性と Fredholm 性が従う。これが Hodgeの定理 や 指数理論 の解析的な土台である。
この記事では作用素のクラスを局所表示と切り落としで定め、主表象を定義し、表象の完全列、コンパクトな多様体上の楕円型作用素のパラメトリクスの存在、楕円正則性と Fredholm 性を証明する。座標変換で保たれること、合成、Sobolev 空間での有界性は主張と文献の所在を述べる。$\mathbb R^n$ の表象の計算そのものは 擬微分作用素 で扱う。

記号と $\mathbb R^n$ の表象

$x,\xi\in\mathbb R^n$、$\langle\xi\rangle:=(1+|\xi|^2)^{1/2}$、$D_j:=-i\,\partial/\partial x_j$ と書く。Fourier 変換は $\widehat u(\xi)=(2\pi)^{-n/2}\int e^{-ix\cdot\xi}u(x)\,dx$ とし、急減少関数の空間を $\mathcal S=\mathcal S(\mathbb R^n)$ と書く。
実数 $m$ について、$C^\infty$ 級の関数 $p\colon\mathbb R^n\times\mathbb R^n\to\mathbb C$ で、すべての多重指数 $\alpha$、$\beta$ に対して
$$ |\partial_x^\beta\partial_\xi^\alpha p(x,\xi)|\le C_{\alpha\beta}\,\langle\xi\rangle^{m-|\alpha|}\qquad(x,\xi\in\mathbb R^n) $$
をみたすもの($m$ 階の表象)の全体を $S^m$ と書き、$S^{-\infty}:=\bigcap_mS^m$ とおく。$x$ についての台があるコンパクト集合に入る $p\in S^m$ の全体を $S^m_{\mathrm c}$ と書き、開集合 $U\subset\mathbb R^n$ について、$x$ についての台が $U$ のコンパクト集合に入るものの全体を $S^m_{\mathrm c}(U)$ と書く。$p\in S^m$ と $u\in\mathcal S$ について
$$ \operatorname{Op}(p)u(x):=(2\pi)^{-n/2}\int_{\mathbb R^n}e^{ix\cdot\xi}\,p(x,\xi)\,\widehat u(\xi)\,d\xi $$
とおく。これは 擬微分作用素 の定義「表象のクラス」と定義「擬微分作用素」のとおりである。$p\in S^m_{\mathrm c}$ なら $\operatorname{Op}(p)u\in C_c^\infty(\mathbb R^n)$ で、$x$ の関数 $\phi$ を掛ける作用素は $\operatorname{Op}(\phi)$ に等しく、$\phi\operatorname{Op}(p)=\operatorname{Op}(\phi p)$ である。成分が表象の行列 $p=(p_{ij})$ については、$\operatorname{Op}(p)$ を成分ごとに定めた行列の作用素とする。
$\mathbb R^n$ の理論から次を使う。

  • (R1) 合成.$p\in S^m$、$q\in S^{m'}_{\mathrm c}$ なら、$\operatorname{Op}(p)\circ\operatorname{Op}(q)=\operatorname{Op}(r)$ となる $r\in S^{m+m'}$ があり、$r-pq\in S^{m+m'-1}$ であり、$r$ の $x$ についての台は $p$ の $x$ についての台に含まれる(擬微分作用素 の定理「合成の表象」の 2。台の主張は同定理の $r$ の積分の式から直ちに従う)。とくに右から $x$ の関数 $c\in C_c^\infty$ を掛けた $\operatorname{Op}(p)\circ c$ の表象は、$S^{m-1}$ を法として $cp$ である。
  • (R2) Sobolev 空間での有界性.$p\in S^m_{\mathrm c}$ なら、すべての実数 $s$ について $\operatorname{Op}(p)$ は $H^{s+m}(\mathbb R^n)$ から $H^s(\mathbb R^n)$ への有界作用素に延びる(同記事の定理「Sobolev 空間での有界性」)。
  • (R3) 擬局所性.$p\in S^m$ で、$a,b\in C_c^\infty(\mathbb R^n)$ の台が交わらなければ、$u\mapsto a\operatorname{Op}(p)(bu)$ は $\operatorname{supp}a\times\operatorname{supp}b$ に台をもつ $C^\infty$ 級の核の積分作用素である(Gil84 Lemma 1.2.6、p. 19)。
  • (R4) 滑らかな核.$K(x,y)$ が $C^\infty$ 級でコンパクトな台をもてば、$u\mapsto\int K(x,y)u(y)\,dy$ は $p(x,\xi)=e^{-ix\cdot\xi}\int e^{iy\cdot\xi}K(x,y)\,dy\in S^{-\infty}_{\mathrm c}$ を表象とする $\operatorname{Op}(p)$ に等しい($y$ についての部分積分で $\xi$ の任意の冪の減衰が出る。Gil84 Lemma 1.2.4、p. 18)。
  • (R5) 微分作用素.係数がコンパクトな台をもつ $C^\infty$ 級関数の微分作用素 $\sum_{|\alpha|\le m}b_\alpha(x)D^\alpha$ は、表象 $\sum_{|\alpha|\le m}b_\alpha(x)\xi^\alpha\in S^m_{\mathrm c}$ の $\operatorname{Op}$ に等しい($\widehat{D^\alpha u}=\xi^\alpha\widehat u$ と反転公式による)。

定義

$X$ を $n$ 次元の $C^\infty$ 級多様体(Hausdorff で第 2 可算)、$E$、$F$ を $X$ 上の有限階数の複素ベクトル束とし、$X$ 上の滑らかで正の密度 $\mu$(たとえば Riemann 計量の体積)を 1 つ固定する。座標近傍 $U$ で、$E$ と $F$ がともに $U$ 上で自明化されているものを自明化された座標近傍という。座標で $U$ を $\mathbb R^n$ の開集合と同一視し、自明化で $U$ 上の $E$、$F$ の切断をベクトル値の関数と同一視する。$U$ の上の台がコンパクトな関数は $\mathbb R^n$ へ $0$ で延ばして考える。

多様体上の擬微分作用素のクラス

$m$ を実数とする。線形写像 $L\colon C_c^\infty(X,E)\to C^\infty(X,F)$ が $m$ 階の擬微分作用素であるとは、次の 2 条件をみたすことをいう。

  1. (局所表示)自明化された座標近傍 $U$ と $a,b\in C_c^\infty(U)$ をとるごとに、成分が $S^m_{\mathrm c}(U)$ に属する行列 $p$ があり、すべての $u\in C_c^\infty(U,E)$ について $a\,L(bu)=\operatorname{Op}(p)u$ が成り立つ。
  2. (対角の外の滑らかさ)$a,b\in C_c^\infty(X)$ の台が交わらなければ、$\operatorname{Hom}(E_y,F_x)$ に値をとる $X\times X$ 上の $C^\infty$ 級の核 $K(x,y)$ があり、すべての $u\in C_c^\infty(X,E)$ について $a\,L(bu)(x)=\int_XK(x,y)\,u(y)\,d\mu(y)$ が成り立つ。
    その全体を $\Psi^m(X;E,F)$ と書く。$E=F$ のときは $\Psi^m(X;E)$ と書く。

1 の左辺は台が $\operatorname{supp}a$ に入る関数で、右辺も台が $\operatorname{supp}_xp$ に入るので、等式は $\mathbb R^n$ 全体での等式である。表象の台を $U$ の中にとることは制限にならない。$a\,L(bu)=\operatorname{Op}(p)u$ が台の制限のない $p\in S^m_{\mathrm c}$ で成り立てば、$\operatorname{supp}a$ の近くで $1$ になる $\tilde a\in C_c^\infty(U)$ について $a\,L(bu)=\tilde a\operatorname{Op}(p)u=\operatorname{Op}(\tilde ap)u$ だからである。$m\le m'$ なら $S^m\subset S^{m'}$ なので $\Psi^m\subset\Psi^{m'}$ である。2 は $\mu$ の選び方によらない($\mu$ を替えると $K$ に滑らかな正の関数が掛かるだけである)。
出力と入力の両方に切り落とし $a$、$b$ を入れるのがこの定義の要点で、これで台を広げる作用素(擬微分作用素 の例「反例の確認」の 1 行目)も扱える。この定義は Gil84 §1.3(pp. 26–27、ベクトル束は p. 30)の定義に 2 を明示したものである。

微分作用素と滑らかな核の作用素
  1. 滑らかな係数の $m$ 階の微分作用素 $P\colon C^\infty(X,E)\to C^\infty(X,F)$ は $\Psi^m(X;E,F)$ に属する。局所表示 $aP(bu)$ は、Leibniz の公式で $b$ の導関数を係数に繰り入れると、係数の台が $\operatorname{supp}a\cap\operatorname{supp}b$ に入る微分作用素になり、(R5) により $S^m_{\mathrm c}(U)$ の表象をもつ。$P$ は台を広げないので、2 は $K=0$ でみたされる。
  2. $C^\infty$ 級の核 $K(x,y)$($\operatorname{Hom}(E_y,F_x)$ に値をとる)による作用素 $u\mapsto\int_XK(x,y)u(y)\,d\mu(y)$ は、すべての $m$ について $\Psi^m(X;E,F)$ に属する。局所表示の核は $a(x)K(x,y)b(y)$ に $\mu$ の座標での密度を掛けたもので、台はコンパクトであり、(R4) により $S^{-\infty}_{\mathrm c}(U)$ の表象をもつ。2 は定義から明らかである。この形の作用素を無限に滑らかにする作用素といい、その全体を $\Psi^{-\infty}(X;E,F)$ と書く。

主表象

局所表象の類

局所表示の表象は一意には決まらないが、$S^{m-1}$ を法とする類は、切り落としが $1$ になる所では決まる。

局所表示の類

$U\subset\mathbb R^n$ を開集合とし、$p$、$p'$ を成分が $S^m$ に属する行列で、すべての $u\in C_c^\infty(U)$ について $\operatorname{Op}(p)u=\operatorname{Op}(p')u$ をみたすものとする。このとき任意の $c\in C_c^\infty(U)$ について、$c\,(p-p')$ の成分は $S^{m-1}$ に属する。

要点:$\operatorname{Op}(p-p')$ に右から $c$ を掛けた作用素は $0$ で、(R1) によりその表象は $c\,(p-p')$ と $S^{m-1}$ を法として等しい。

証明を開く

成分ごとに考えればよいので、$d:=p-p'$ はスカラーとする。$v\in\mathcal S$ なら $cv\in C_c^\infty(U)$ なので $\operatorname{Op}(d)(cv)=0$ である。(R1)(右の表象 $c(x)\in S^0_{\mathrm c}$)により $\operatorname{Op}(d)\circ c=\operatorname{Op}(r)$、$r-cd\in S^{m-1}$ である。

$\operatorname{Op}(r)=0$ から $r=0$ が従う。実際、$x$ を固定すると、すべての $v\in\mathcal S$ について $\int e^{ix\cdot\xi}r(x,\xi)\widehat v(\xi)\,d\xi=0$ で、Fourier 変換は $\mathcal S$ の全単射なので、多項式程度の増大の連続関数 $\xi\mapsto e^{ix\cdot\xi}r(x,\xi)$ はすべての急減少関数との積分が $0$ である。$\xi_0$ に集中する急減少関数の列 $\varepsilon^{-n}\theta((\xi-\xi_0)/\varepsilon)$($\theta\in C_c^\infty$、$\int\theta=1$)との積分の $\varepsilon\to0$ の極限をとると、値は $\xi_0$ で $0$ である。よって $r=0$ で、$cd=-(r-cd)\in S^{m-1}$ である。$\square$

$L\in\Psi^m(X;E,F)$、自明化された座標近傍 $U$、開集合 $W\subset U$ をとり、$a,b\in C_c^\infty(U)$ が $W$ の上で $1$ であるとき、$aLb$ の局所表示の表象 $p$ を $W$ の上の局所表象と呼ぶ。別の $a'$、$b'$、$p'$ をとっても、$c\in C_c^\infty(W)$ について $c\,(p-p')$ は $S^{m-1}$ に属する。実際、$c_1\in C_c^\infty(W)$ を $\operatorname{supp}c$ の上で $1$ にとると、$u\in C_c^\infty(W,E)$ について $c_1aL(bu)=c_1L(u)=c_1a'L(b'u)$ なので、lem-psm-local-class を $c_1p$ と $c_1p'$ に当てればよい。

座標の取り替え

次の事実は証明しないで引用する。$\Omega,\Omega'\subset\mathbb R^n$ を開集合、$\kappa\colon\Omega\to\Omega'$ を微分同相、$q\in S^m_{\mathrm c}(\Omega)$、$d\in C_c^\infty(\Omega)$ とする。このとき $v\in C_c^\infty(\Omega')$ に $\bigl(\operatorname{Op}(q)(d\cdot(v\circ\kappa))\bigr)\circ\kappa^{-1}$ を対応させる作用素は、ある $q'\in S^m_{\mathrm c}(\Omega')$ について $\operatorname{Op}(q')$ と一致し、$S^{m-1}$ を法として
$$ q'(\kappa(x),\eta)\equiv d(x)\,q\bigl(x,{}^tD\kappa(x)\,\eta\bigr) $$
である(Gil84 Lemma 1.3.2 (a)、pp. 24–26。主表象の変換は Wel08 Ch. IV Theorem 3.9、p. 126 にもある)。$\xi={}^tD\kappa(x)\,\eta$ は、余接ベクトル $\sum_j\xi_j\,dx_j=\sum_k\eta_k\,dy_k$($y=\kappa(x)$)の成分の変換である。自明化を替えると局所表示には滑らかな可逆行列が左右から掛かり、(R1) により表象にも同じ行列が $S^{m-1}$ を法として掛かる。
この変換則に合わせて、余接束の上の表象を定める。$\pi\colon T^*X\to X$ を射影とし、自明化された座標近傍 $U$ の上で余接ベクトルを $\sum_j\xi_j\,dx_j$ と書いて $T^*U=U\times\mathbb R^n$ とみる。

余接束の上の表象

$m$ を実数とする。$T^*X$ 上の $\operatorname{Hom}(\pi^*E,\pi^*F)$ の $C^\infty$ 級の切断 $s$ で、自明化された座標近傍 $U$ とコンパクト集合 $K\subset U$ ごとに、行列の各成分が
$$ |\partial_x^\beta\partial_\xi^\alpha s(x,\xi)|\le C_{\alpha\beta K}\langle\xi\rangle^{m-|\alpha|}\qquad(x\in K,\ \xi\in\mathbb R^n) $$
をみたすものの全体を $S^m(X;E,F)$ と書く。

この条件は座標と自明化の選び方によらない。座標を替えると $\xi$ は $x$ ごとに線形に変わり($K$ の上で $\langle\xi\rangle$ と $\langle\eta\rangle$ は定数倍の範囲で比べられる)、新しい座標での $\partial_y$ は $\partial_xs$ の項と、$\partial_\xi s$ に $\eta$ の 1 次式が掛かった項を出し、どちらも階数を保つからである。$S^m\cdot S^{m'}\subset S^{m+m'}$ である(Leibniz の公式)。

主表象の定義

多様体上の主表象

$L\in\Psi^m(X;E,F)$ の主表象 $\sigma_m(L)$ とは、$S^m(X;E,F)/S^{m-1}(X;E,F)$ の元 $[s]$ で、自明化された座標近傍 $U$、開集合 $W\subset U$、$W$ の上の局所表象 $p$ と $c\in C_c^\infty(W)$ について、つねに $c\,(s-p)$ の成分が $S^{m-1}$ に属するものをいう。

主表象は存在して一意である。一意性は定義と、$S^{m-1}$ の条件がコンパクト集合ごとの条件であることから従う。存在は、相対コンパクトな自明化された座標近傍の局所有限な被覆 $\{U_\nu\}$、それに従う 1 の分割 $\{\varphi_\nu\}$(1の分割)、$\operatorname{supp}\varphi_\nu$ の近くで $1$ になる $\psi_\nu\in C_c^\infty(U_\nu)$ をとり、$\psi_\nu L\psi_\nu$ の局所表象 $p_\nu$ を使って $s:=\sum_\nu\varphi_\nu p_\nu$ とおけばよい。$c\,(s-p)=\sum_\nu c\varphi_\nu(p_\nu-p)$ は有限和で、各項は $U_\nu\cap U$ の中の、$\psi_\nu$ と $p$ の切り落としがともに $1$ になる開集合の上で 2 つの局所表象を比べたものなので、上の段落と座標の取り替えにより $S^{m-1}$ に属する。$\sigma_m$ は線形である。
局所表象が $\xi$ について $m$ 次斉次な主部 $p_m$ をもつ($0$ の近くで $0$、$|\xi|\ge1$ で $1$ になる $\chi$ について $p-\chi(\xi)p_m\in S^{m-1}$)ときは、$\sigma_m(L)$ を $T^*X\setminus0$ の上の $\operatorname{Hom}(\pi^*E,\pi^*F)$ に値をとる $m$ 次斉次の関数と同一視できる(Wel08 Ch. IV Proposition 3.14・3.15、p. 132 の主表象はこの形である)。$m$ 次斉次の $h$ で $\chi h$ がコンパクト集合の上で $S^{m-1}$ の評価をみたすものは、$|h(x,\lambda\xi)|=\lambda^m|h(x,\xi)|\le C\lambda^{m-1}$($\lambda\to\infty$)から $0$ なので、この同一視は一意である。とくに微分作用素 $\sum_{|\alpha|\le m}b_\alpha D^\alpha$ の主表象は $\sum_{|\alpha|=m}b_\alpha(x)\xi^\alpha$ である。楕円型作用素 は主表象を $\partial^\alpha$ の係数で $\sigma_P(x,\xi)=\sum_{|\alpha|=m}a_\alpha\xi^\alpha$ と定めるので、$\partial^\alpha=i^{|\alpha|}D^\alpha$ から 2 つの主表象は定数倍 $i^m$ だけ違い、どちらが可逆かは同じである。

表象の完全列

表象の完全列

実数 $m$ について、列
$$ 0\longrightarrow\Psi^{m-1}(X;E,F)\longrightarrow\Psi^m(X;E,F)\xrightarrow{\ \sigma_m\ }S^m(X;E,F)/S^{m-1}(X;E,F)\longrightarrow0 $$
は完全である。すなわち、主表象の写像 $\sigma_m$ は全射で、その核は $\Psi^{m-1}(X;E,F)$ である。$X$ はコンパクトでなくてよい。

要点:核については、主表象が $0$ なら局所表象が切り落としの $1$ の所で $S^{m-1}$ に入ることを、1 の分割で全体に広げる。全射については、表象を 1 の分割で座標近傍ごとに切り分けて作用素にし、足し合わせる。入力側の切り落とし $\psi_\nu$ を分割の関数 $\varphi_\nu$ より大きくとるのがこつで、こうすると主表象がちょうど $\sum_\nu\varphi_\nu s=s$ になる。

証明を開く

核.$L\in\Psi^{m-1}$ なら局所表象は $S^{m-1}$ に属するので $\sigma_m(L)=0$ である。逆に $\sigma_m(L)=0$ とする。def-psm-class の 2 は階数によらないので、1 を $m-1$ 階で確かめればよい。自明化された座標近傍 $U$ と $a,b\in C_c^\infty(U)$ をとり、$aLb=\operatorname{Op}(p)$、$p\in S^m_{\mathrm c}(U)$ とし、$p$ の $x$ についての台を $K$ とする。$x_0\in K$ ごとに $x_0$ の開近傍 $W\subset U$ と、$W$ の上で $1$ になる $a_1,b_1\in C_c^\infty(U)$ をとり、$a_1Lb_1=\operatorname{Op}(p_1)$ とする。$\sigma_m(L)=0$ は、$c\in C_c^\infty(W)$ について $cp_1\in S^{m-1}$ を意味する。$c\in C_c^\infty(W)$ と、$\operatorname{supp}c$ の上で $1$ になる $c'\in C_c^\infty(W)$ について、$v\in\mathcal S$ に対し

$$c\operatorname{Op}(p)(c'v)=c\,aL(bc'v)=(ca)\,a_1L\bigl(b_1\,(bc'v)\bigr)=(ca)\operatorname{Op}(p_1)(bc'v)$$

である($a_1=1$ が $\operatorname{supp}(ca)$ の上で、$b_1=1$ が $\operatorname{supp}(bc')$ の上で成り立つ)。(R1) と、左から $x$ の関数を掛けるのは表象に掛けるだけであることから、左辺の作用素の表象は $S^{m-1}$ を法として $cpc'=cp$、右辺の作用素の表象は $S^{m-1}$ を法として $abc'\cdot cp_1\in S^{m-1}$ である。lem-psm-local-class の証明のとおり $\mathcal S$ の上で等しい作用素の表象は等しいので、$cp\in S^{m-1}$ である。$K$ をこのような $W$ の有限個 $W_1,\dots,W_k$ で覆い、$c_j\in C_c^\infty(W_j)$ を $K$ の上で $\sum_jc_j=1$ となるようにとると、$p=\sum_jc_jp\in S^{m-1}$ である。よって $L\in\Psi^{m-1}$ である。

全射:作用素の構成.$s\in S^m(X;E,F)$ をとる。$X$ は Hausdorff で第 2 可算なので、相対コンパクトな自明化された座標近傍の局所有限な被覆 $\{U_\nu\}$ と、それに従う 1 の分割 $\{\varphi_\nu\}$($\operatorname{supp}\varphi_\nu\subset U_\nu$ はコンパクト)がとれる。$\psi_\nu\in C_c^\infty(U_\nu)$ を $\operatorname{supp}\varphi_\nu$ の近くで $1$ にとり、$\{\operatorname{supp}\psi_\nu\}$ も局所有限にする。$U_\nu$ の座標と自明化で $\varphi_\nu s$ を表したものを $p_\nu$ とすると、def-psm-symbol-bundle の評価を $K=\operatorname{supp}\varphi_\nu$ で使って、$p_\nu$ の成分は $S^m_{\mathrm c}(U_\nu)$ に属する。$u\in C_c^\infty(X,E)$ に対し

$$Lu:=\sum_\nu\operatorname{Op}(p_\nu)(\psi_\nu u)$$

とおく。各項は $U_\nu$ の上で計算した、台が $\operatorname{supp}\varphi_\nu$ に入る滑らかな切断で、$X$ へ $0$ で延ばす。$\operatorname{supp}u$ と交わる $\operatorname{supp}\psi_\nu$ は有限個なので和は有限で、$L\colon C_c^\infty(X,E)\to C^\infty(X,F)$ は線形写像である。

全射:2 の条件.$a,b\in C_c^\infty(X)$ の台が交わらないとする。$aL(bu)=\sum_\nu\operatorname{Op}(ap_\nu)(\psi_\nu bu)$ は有限和である。各項は $U_\nu$ の上で、$x$ についての台が $\operatorname{supp}(a\varphi_\nu)$ に入る表象と、それと交わらない台の入力の切り落とし $\psi_\nu b$ の作用素なので、(R3) により $U_\nu\times U_\nu$ にコンパクトな台をもつ滑らかな核で表される((R3) の出力側の切り落としには、$\operatorname{supp}(a\varphi_\nu)$ の近くで $1$ で台が $\operatorname{supp}(\psi_\nu b)$ と交わらない関数をとる)。座標の Lebesgue 測度を $\mu$ に替え、自明化を戻すと、$X\times X$ へ $0$ で延ばせる滑らかな核になる。有限和なので 2 が成り立つ。

全射:1 の条件.自明化された座標近傍 $V$ と $a,b\in C_c^\infty(V)$ をとる。$aL(bu)=\sum_\nu a\operatorname{Op}(p_\nu)(\psi_\nu bu)$ は有限和なので、各 $\nu$ の項を考える。$K_\nu:=\operatorname{supp}a\cap\operatorname{supp}\varphi_\nu$ は $U_\nu\cap V$ のコンパクト集合なので、$K_\nu$ の近くで $1$ になる $g\in C_c^\infty(U_\nu\cap V)$ がとれる。$ap_\nu=gap_\nu$ に注意して

$$a\operatorname{Op}(p_\nu)(\psi_\nu bu)=\operatorname{Op}(gap_\nu)(g\psi_\nu bu)+\operatorname{Op}(ap_\nu)\bigl((1-g)\psi_\nu bu\bigr)$$

と分ける。第 2 項は、表象の $x$ についての台 $K_\nu$ と入力の切り落としの台が交わらないので、2 の条件と同じく (R3) により $(U_\nu\cap V)\times(U_\nu\cap V)$ にコンパクトな台をもつ滑らかな核で表され、$V$ の座標と自明化に移しても同じなので、(R4) により $S^{-\infty}_{\mathrm c}(V)$ の表象の作用素である。第 1 項は、表象 $gap_\nu$ の $x$ についての台も入力の切り落とし $g\psi_\nu b$ の台も $U_\nu\cap V$ のコンパクト集合に入るので、座標の取り替え(引用)により、$C_c^\infty(U_\nu\cap V,E)$ の上では $V$ の座標のある $\operatorname{Op}(q''_\nu)$、$q''_\nu\in S^m_{\mathrm c}$ と一致する。$\operatorname{supp}(g\psi_\nu b)$ の近くで $1$ になる $h\in C_c^\infty(U_\nu\cap V)$ をとると、第 1 項は $u$ を $hu$ に替えても変わらないので、すべての $u\in C_c^\infty(V,E)$ について $\operatorname{Op}(q''_\nu)(hu)$ に等しい。(R1) により、これは $q'_\nu-hq''_\nu\in S^{m-1}$ をみたすある $q'_\nu\in S^m_{\mathrm c}(V)$ について $\operatorname{Op}(q'_\nu)u$ と書け、$S^{m-1}$ を法として $q'_\nu$ は $g^2\psi_\nu\,ab\,\varphi_\nu s=ab\,\varphi_\nu s$ を $V$ の座標と自明化で表したものに等しい($h=1$ が $\operatorname{supp}(g\psi_\nu b)$ の上で、$g=1$ が $K_\nu$ の上で、$\psi_\nu=1$ が $\operatorname{supp}\varphi_\nu$ の上で成り立つ。$s$ は $T^*X$ の上の切断なので、その座標表示どうしはちょうど余接ベクトルと自明化の変換で移り合う)。よって $aLb=\operatorname{Op}(p_V)$、$p_V\in S^m_{\mathrm c}(V)$ で、$L\in\Psi^m(X;E,F)$ である。

全射:主表象.上で $a=b=1$ が開集合 $W\subset V$ の上で成り立つとすると、$S^{m-1}$ を法として $p_V\equiv\sum_\nu ab\,\varphi_\nu s=ab\,s$ で、$c\in C_c^\infty(W)$ について $c\,(p_V-s)\in S^{m-1}$ である。def-psm-principal により $\sigma_m(L)=[s]$ である。$\square$

核が $\Psi^{m-1}$ であることは、主表象だけで作用素が「1 階低い誤差」を除いて決まることを言っている。全射であることは、余接束の上の表象を与えればそれを主表象とする作用素があることを言っている。主表象が斉次な関数 $s$ で与えられる場合には、$\chi s$ の類に定理を当てればよい($\chi$ は $T^*X$ の上で、ある Riemann 計量について $|\xi|\le1$ で $0$、$|\xi|\ge2$ で $1$ になる関数)。

コンパクトな多様体上の性質

以下 $X$ はコンパクトとする。Sobolev 空間 $H^s(X;E)$($s$ は実数)を、有限個の自明化された座標近傍と 1 の分割で $\mathbb R^n$ の $H^s$ から定める(Gil84 pp. 27–28、ベクトル束は p. 30。ノルムは選び方によらず同値である)。次が成り立つ。

  • Sobolev 空間での有界性.$L\in\Psi^m(X;E,F)$ は、すべての実数 $s$ について $H^s(X;E)$ から $H^{s-m}(X;F)$ への有界作用素に延びる(Gil84 Lemma 1.3.4 (c)、p. 29。局所表示に (R2) を当て、対角の外は滑らかな核で評価する)。
  • Rellich の定理と Sobolev の埋め込み.$s>t$ なら包含 $H^s(X;E)\to H^t(X;E)$ はコンパクトであり、$s>k+\frac n2$ なら $H^s(X;E)\subset C^k(X;E)$ である(同 Lemma 1.3.4 (a)(b)、p. 29。Rellichの定理)。とくに $\Psi^{-1}$ の作用素は各 $H^s$ の上のコンパクト作用素である(Wel08 Ch. IV Proposition 4.5、p. 137)。
  • 合成と随伴.$L\in\Psi^m(X;F,G)$、$Q\in\Psi^{m'}(X;E,F)$ なら $LQ\in\Psi^{m+m'}(X;E,G)$ で、$\sigma_{m+m'}(LQ)=\sigma_m(L)\,\sigma_{m'}(Q)$($S^m\cdot S^{m'-1}\subset S^{m+m'-1}$ なので類の積は定まる)である。$E$、$F$ に Hermite 計量を入れると、形式的随伴 $L^*$ も $\Psi^m(X;F,E)$ に属し、主表象は主表象の各点の随伴である(Gil84 Lemma 1.3.3、p. 27)。

パラメトリクスと Fredholm 性

多様体上の楕円型作用素

$E$ と $F$ の階数が等しいとする。$L\in\Psi^m(X;E,F)$ が楕円型であるとは、$\sigma_m(L)$ のある代表 $s$ について、自明化された座標近傍 $U$ とコンパクト集合 $K\subset U$ ごとに定数 $R$、$C$ があり、$x\in K$、$|\xi|\ge R$ で行列 $s(x,\xi)$ が可逆かつ $|s(x,\xi)^{-1}|\le C\langle\xi\rangle^{-m}$(作用素ノルム)となることをいう。

この条件は代表の選び方によらない。別の代表 $s'=s+e$($e\in S^{m-1}$)について $s'=s\,(I+s^{-1}e)$ で、$|s^{-1}e|\le C'\langle\xi\rangle^{-1}$ は $|\xi|$ が大きければ $\frac12$ 以下なので、$s'$ も可逆で $|s'^{-1}|\le2|s^{-1}|$ である。座標と自明化の取り替えでは $\xi$ が $K$ の上で一様に線形に変わり、有界な可逆行列が掛かるだけなので、条件は座標近傍の選び方にもよらない。主表象が斉次な関数 $s$ のときは、$\xi\ne0$ でつねに $s(x,\xi)$ が可逆であることと同値である($K$ の上の単位余接球面のコンパクト性から一様な評価が出る。Wel08 Ch. IV Definition 4.1・4.2、p. 136)。微分作用素については、主表象が 楕円型作用素 の意味で可逆であることと同値である。

パラメトリクスの存在

$X$ をコンパクトとし、$L\in\Psi^m(X;E,F)$ を楕円型とする。このとき $Q\in\Psi^{-m}(X;F,E)$ で
$$ LQ-I_F\in\Psi^{-1}(X;F),\qquad QL-I_E\in\Psi^{-1}(X;E) $$
をみたすものがある。$\sigma_{-m}(Q)$ は $\sigma_m(L)$ の逆の類である。

要点:主表象の逆を 1 の分割で貼り合わせた表象 $q$ を作り、thm-psm-sequence の全射で $Q$ をとる。合成の主表象は積なので $LQ-I$ と $QL-I$ の主表象は $0$ になり、同じ定理の核の主張で $-1$ 階に落ちる。

証明を開く

$s$ を def-psm-elliptic の代表とする。$X$ はコンパクトなので、自明化された座標近傍の有限個 $U_1,\dots,U_N$ と、それに従う 1 の分割 $\varphi_1,\dots,\varphi_N$ がとれる。$K_\nu:=\operatorname{supp}\varphi_\nu$ に対する定数を $R_\nu$、$C_\nu$ とする。$|\xi|\le1$ で $0$、$|\xi|\ge2$ で $1$ になる $C^\infty$ 級関数 $\chi\colon\mathbb R^n\to[0,1]$ をとり、$\chi_\nu(\xi):=\chi(\xi/R_\nu)$ とおく。$U_\nu$ の座標と自明化で

$$q_\nu(x,\xi):=\varphi_\nu(x)\chi_\nu(\xi)\,s(x,\xi)^{-1}\quad(\chi_\nu(\xi)\ne0),\qquad q_\nu:=0\quad(\chi_\nu(\xi)=0)$$

と定める。$\partial(s^{-1})=-s^{-1}(\partial s)s^{-1}$ を繰り返すと、$(x,\xi)$ についての多重指数 $\gamma$ について $\partial^\gamma(s^{-1})$ は $s^{-1}(\partial^{\gamma_1}s)s^{-1}\cdots(\partial^{\gamma_k}s)s^{-1}$($\gamma_1+\cdots+\gamma_k=\gamma$、各 $\gamma_i\ne0$)の形の項の定数倍の和で、$\gamma_i$ の $\xi$ の部分を $\alpha_i$ とすると、各項は $K_\nu\times\{|\xi|\ge R_\nu\}$ の上で $C\langle\xi\rangle^{-(k+1)m}\prod_i\langle\xi\rangle^{m-|\alpha_i|}=C\langle\xi\rangle^{-m-|\alpha|}$ 以下である($\alpha$ は $\gamma$ の $\xi$ の部分)。$\chi_\nu$ の導関数は有界で $|\xi|\le2R_\nu$ に台をもつので、Leibniz の公式から $q_\nu$ の成分は $S^{-m}_{\mathrm c}(U_\nu)$ に属する。$q_\nu$ は $\pi^{-1}(K_\nu)$ の外で $0$ なので $T^*X$ の上の切断に延び、$q:=\sum_\nu q_\nu\in S^{-m}(X;F,E)$ である。

$T^*X$ の上で $sq-1=-\sum_\nu\varphi_\nu(1-\chi_\nu)$ で、各項は $K_\nu$ の上で $|\xi|\le2R_\nu$ に台をもつ滑らかな関数なので $S^{-\infty}$ に属する。$qs-1$ も同じである。とくに $[s][q]=[1]$、$[q][s]=[1]$ である。

thm-psm-sequence により $\sigma_{-m}(Q)=[q]$ となる $Q\in\Psi^{-m}(X;F,E)$ がある。合成(前の節の引用)により $LQ\in\Psi^0(X;F)$ で $\sigma_0(LQ)=[s][q]=[1]$ である。恒等作用素は 0 階の微分作用素で、$\sigma_0(I_F)=[1]$ である。よって $\sigma_0(LQ-I_F)=0$ で、thm-psm-sequence の核の主張により $LQ-I_F\in\Psi^{-1}(X;F)$ である。$QL-I_E$ も $\sigma_0(QL)=[q][s]=[1]$ から同様である。$\square$

ここでの誤差 $LQ-I$、$QL-I$ は $-1$ 階、すなわち Sobolev の指数を 1 だけ上げる作用素で、無限に滑らかにする作用素とは限らない。補正を重ねると誤差を $\Psi^{-\infty}$ にまで下げられる(Gil84 Lemma 1.3.5、p. 30)が、次の正則性と有限性にはこの 1 階の改善で足りる。

楕円正則性と Fredholm 性

$X$ をコンパクトとし、$L\in\Psi^m(X;E,F)$ を楕円型、$s$ を実数とする。$L$ の $H^s(X;E)$ から $H^{s-m}(X;F)$ への延長を $L_s$ と書く。

  1. (正則性)$u\in H^s(X;E)$ で $L_su\in C^\infty(X,F)$ なら、$u\in C^\infty(X,E)$ である。
  2. (有限性)$\ker L_s$ は $s$ によらず $\{u\in C^\infty(X,E)\mid Lu=0\}$ に等しく、有限次元である。$L_s$ の像は閉で、余核 $H^{s-m}(X;F)/L_s(H^s(X;E))$ は有限次元である。とくに $L_s$ は Fredholm 作用素である。

要点:パラメトリクスの恒等式 $QL=I+R_E$ から $u=Qf-R_Eu$ を得て、$R_E$ が指数を 1 上げることを繰り返す。有限性は、$I$ にコンパクト作用素を足したものが Fredholm 作用素であることによる。

証明を開く

thm-psm-parametrix の $Q$ をとり、$R_E:=QL-I_E\in\Psi^{-1}(X;E)$、$R_F:=LQ-I_F\in\Psi^{-1}(X;F)$ とおく。前の節の引用により、これらの作用素はすべての Sobolev 空間の間の有界作用素に延び、$C^\infty$ の上の恒等式 $QL=I+R_E$ は、両辺が $H^s(X;E)$ から $H^s(X;E)$ への有界作用素で $C^\infty(X,E)$ が稠密なので、$H^s(X;E)$ の上でも成り立つ。$t'>t$ のとき、同じ作用素の $H^{t'}$ からの延長と $H^t$ からの延長は $H^{t'}$ の上で一致する(どちらも $H^{t'}$ の上で連続で、稠密な $C^\infty$ の上で一致する)ので、延長を同じ記号で書く。

1:$f:=L_su$ とおくと $u=QL_su-R_Eu=Qf-R_Eu$ である。$Qf$ は $C^\infty$ 級なので任意の $H^t$ に属し、$R_Eu\in H^{s+1}(X;E)$ なので、$u\in H^{s+1}(X;E)$ である。これを繰り返すと、すべての自然数 $k$ について $u\in H^{s+k}(X;E)$ である。Sobolev の埋め込み(前の節の引用)により、各 $k$ について $u$ は $C^k$ 級の代表をもち、それらは互いに一致する(連続な切断の差がすべての滑らかな切断との $L^2$ 内積で $0$ なら $0$ である)。よって $u\in C^\infty(X,E)$ である。

2:1 により $\ker L_s$ は $Lu=0$ をみたす滑らかな切断からなり、逆にそのような切断はすべての $H^s$ に属して $L_su=0$ をみたすので、$\ker L_s$ は $s$ によらない。$R_E$ は $H^s(X;E)$ から $H^{s+1}(X;E)$ へ有界で、包含 $H^{s+1}\to H^s$ はコンパクトなので、$R_E$ は $H^s(X;E)$ の上のコンパクト作用素である。同様に $R_F$ は $H^{s-m}(X;F)$ の上のコンパクト作用素である。恒等作用素は Fredholm 作用素なので、Fredholm作用素 の系「Banach 空間でのコンパクトな摂動」により $I+R_E$ と $I+R_F$ は Fredholm 作用素である。$\ker L_s\subset\ker(I+R_E)$ なので $\ker L_s$ は有限次元である。$Z:=(I+R_F)(H^{s-m}(X;F))$ は余次元が有限で、$Z=L_s\bigl(Q(H^{s-m}(X;F))\bigr)\subset L_s(H^s(X;E))$ である。よって $L_s$ の像の余次元は有限で、Fredholm作用素 の命題「余次元が有限な像は閉じている」により像は閉である。$\square$

微分作用素の場合の 1・2 は Wel08 Ch. IV Theorem 4.8・4.9(p. 139)である。1 は 楕円正則性 の大域版で、2 の核と余核の有限次元性が楕円型作用素の指数 $\dim\ker L_s-\dim\operatorname{coker}L_s$ を定める(指数理論)。thm-psm-fredholm を Laplace–de Rham 作用素(Laplace–de Rham作用素)に当てると、調和形式の空間が有限次元であることと、Hodge の直交分解が得られる。これが Wel08 Ch. IV の Hodgeの定理 の証明の筋である。

トーラス上の Laplace 作用素

$X=\mathbb T^n:=\mathbb R^n/2\pi\mathbb Z^n$、$E=F$ を自明な直線束とし、$P:=-\Delta=\sum_jD_j^2$ とする。主表象は $|\xi|^2$ で、$|\xi|\ge1$ で $|\xi|^{-2}\le2\langle\xi\rangle^{-2}$ なので $P$ は楕円型である。thm-psm-fredholm により $P_s\colon H^s\to H^{s-2}$ は Fredholm 作用素で、核は定数関数からなり($\dim=1$)、余核も 1 次元である。したがって指数は $0$ である。

核と余核の確認を開く

核:$u$ は滑らかで $-\Delta u=0$ なので、部分積分により $\int_{\mathbb T^n}|\nabla u|^2\,dx=-\int\bar u\,\Delta u\,dx=0$、すなわち $u$ は定数である。

余核:$v\in C^\infty$ なら $\int\Delta v\,dx=0$ である。$1$ との $L^2$ 内積 $\ell(f):=\int f\,dx$ は各 $H^t$ の上の連続な線形汎関数に延びる($1$ は滑らかなので)。$\ell$ は $P(C^\infty)$ の上で $0$ で、$P(C^\infty)$ は $P_s(H^s)$ で稠密なので、$P_s(H^s)\subset\ker\ell$ である。逆に $\int f=0$ の滑らかな $f=\sum_kf_ke^{ik\cdot x}$($f_0=0$、係数は急減少)について $u:=\sum_{k\ne0}|k|^{-2}f_ke^{ik\cdot x}$ は滑らかで $-\Delta u=f$ をみたす。$\ker\ell$ の中で $\int f=0$ の滑らかな関数は稠密(滑らかな $g$ を $g-\ell(g)/(2\pi)^n$ で近似すればよい)で、$P_s$ の像は閉なので、$P_s(H^s)=\ker\ell$ である。$\ell\ne0$ なので余核は 1 次元である。

反例

外す条件反例成り立たなくなること
楕円性$\mathbb T^2$ 上の $D_1=-i\,\partial/\partial x_1$核の有限次元性
楕円性を 2 点の上で外す円周 $\mathbb R/2\pi\mathbb Z$ 上の $(\sin x)\,D$、$u=$ 区間 $(0,\pi)$ の定義関数正則性($Lu$ が滑らかなら $u$ も滑らか)
多様体のコンパクト性$\mathbb R^n$ 上の $\operatorname{Op}(\langle\xi\rangle^{-1})\colon L^2\to L^2$$-1$ 階の作用素がコンパクトであること

1 行目と 2 行目は、楕円性を 1 方向や有限個の点で外すだけでも、有限性や正則性が崩れることを示す。3 行目は、Fredholm 性の議論で使う Rellich の定理にコンパクト性が要ることを示す。

反例の確認

各行は直接の計算で確かめられる。

各行の確認を開く

1 行目:$D_1$ の主表象 $\xi_1$ は $\xi=(0,1)$ で $0$ になるので楕円型でない。$x_2$ だけの滑らかな関数 $u(x_2)$ はどれも $D_1u=0$ をみたし、$e^{ikx_2}$($k\in\mathbb Z$)は 1 次独立なので、$\ker D_1$ は無限次元である。

2 行目:$(\sin x)D$ の主表象 $(\sin x)\xi$ は $x\ne0,\pi$ では可逆だが、$x=0,\pi$ で $0$ になる。$u$ を $(0,\pi)$ の定義関数とすると、超関数の意味で $u'=\delta_0-\delta_\pi$ で、$\sin0=\sin\pi=0$ なので $(\sin x)u'=0$ である。$u\in H^0$ の $H^{-1}$ への延長の像は、この超関数の計算と一致する(どちらも $H^0$ から超関数への連続写像で、滑らかな関数の上で一致する)。よって $Lu=0$ は滑らかだが、$u$ は $0$ と $\pi$ で連続でない。

3 行目:$v\in C_c^\infty$ を $0$ でない関数、$v_k(x):=v(x-ke_1)$ とすると $\|v_k\|_{L^2}=\|v\|_{L^2}$ で、$T:=\operatorname{Op}(\langle\xi\rangle^{-1})$ は平行移動と可換なので $Tv_k=(Tv)(\cdot-ke_1)$ である。$0\ne Tv\in L^2$ なので $|k-l|\to\infty$ のとき $\langle Tv_k,Tv_l\rangle_{L^2}\to0$、$\|Tv_k-Tv_l\|_{L^2}^2\to2\|Tv\|_{L^2}^2>0$ で、$(Tv_k)$ のどの部分列も Cauchy 列にならない。よって $T$ はコンパクトでない。

関連項目

参考文献

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