反復積分

同義語:iterated integral反復線積分Chenの反復積分iterated path integral

概要

反復積分(iterated integral)とは、1 形式 $\omega_1,\dots,\omega_r$ を道 $\gamma$ に引き戻した $f_i(t)\,dt$ について、$f_1(t_1)\cdots f_r(t_r)$ を単体 $0\le t_1\le\cdots\le t_r\le1$ の上で積分したもの $\int_\gamma\omega_1\cdots\omega_r$ である。道をつないだときの Chen の公式、逆向きの道の公式、二つの反復積分の積がシャッフルの和になる公式が成り立ち、平面領域の正則な 1 形式の反復積分は端点を固定したホモトピー類だけで決まる。多重ゼータ値や多重ポリログの積分表示とその解析接続・モノドロミーの計算に使われる。

$$\newcommand{C}[0]{\mathbb{C}} \newcommand{div}[0]{\mathbin{÷}} \newcommand{N}[0]{\mathbb{N}} \newcommand{Q}[0]{\mathbb{Q}} \newcommand{R}[0]{\mathbb{R}} \newcommand{Z}[0]{\mathbb{Z}} $$

前提知識: 線積分, 微分形式, 正則関数, ホモトピー

反復積分(iterated integral)は、道に沿った線積分を何重にも重ねたものである。1 形式 $\omega_1,\dots,\omega_r$ と道 $\gamma$ について、$\omega_1$ を先に、$\omega_r$ を最後に積分する順序で
$$ \int_\gamma\omega_1\omega_2\cdots\omega_r $$
を定める。$r=1$ なら普通の線積分であり、$r\ge2$ では積分の順序に意味がある。Riemann ゼータ値 $\zeta(k)$ や多重ゼータ値、多重ポリログ はこの形の積分で表され(多重ゼータ値 の定理「反復積分表示」)、反復積分の代数的な性質がそれらの関係式の源になる。K.-T. Chen は反復積分を道の空間の de Rham 理論の道具として体系化した(Che77)。
この記事では反復積分を定義し、道のつなぎ方・逆向きの道・積について成り立つ公式(Chen の公式とシャッフル積)を証明する。主定理は、平面領域の正則な 1 形式の反復積分が、端点を固定した道のホモトピー類だけで決まることである。最後にこれを使って、2 重対数関数 $\mathrm{Li}_2$ が点 $1$ のまわりを回るときの変化(モノドロミー)を計算する。

定義

$X$ を $\mathbb{R}^n$ や $\mathbb{C}$ の開集合(または可微分多様体)とし、1 形式は複素数値で連続な係数をもつとする。道 $\gamma\colon[0,1]\to X$ は区分的に $C^1$ とし、$\gamma^*\omega_i=f_i(t)\,dt$ と書く。

反復積分

$r\ge1$ に対し
$$ \int_\gamma\omega_1\cdots\omega_r:=\int_{0\le t_1\le t_2\le\cdots\le t_r\le1}f_1(t_1)f_2(t_2)\cdots f_r(t_r)\,dt_1\cdots dt_r $$
とおき、$r=0$ のときは $1$ とする。これを $\omega_1,\dots,\omega_r$ の $\gamma$ に沿った反復積分という。$0\le s\le1$ について、上の積分の範囲を $t_r\le s$ に制限したものを $I_r(s)$ と書く。

Fubini の定理により $I_r(s)=\int_0^sI_{r-1}(t)f_r(t)\,dt$、$I_0=1$ である。すなわち反復積分は「それまでの反復積分に $\omega_r$ を掛けて積分する」ことを繰り返したものであり、Che77 (1.1.1)(p. 833)の帰納的な定義と一致する。とくに $I_r$ は区分的に $C^1$ で $I_r'(s)=I_{r-1}(s)f_r(s)$ をみたす。

線形な形式と面積

$X=\mathbb{R}^2$、$\omega_1=dx$、$\omega_2=dy$、$\gamma(t)=(x(t),y(t))$ とすると
$$ \int_\gamma dx\,dy=\int_0^1\bigl(x(t)-x(0)\bigr)y'(t)\,dt $$
である。$\gamma$ が単純閉曲線を反時計回りに 1 周する閉じた道なら、これは $\oint x\,dy$、すなわち囲まれた領域の面積に等しい(Greenの定理)。

ゼータ値の反復積分表示

$\omega_0=dt/t$、$\omega_1=dt/(1-t)$ とし、$\gamma$ を $0$ から $1$ への線分とすると
$$ \zeta(k)=\int_\gamma\omega_1\underbrace{\omega_0\cdots\omega_0}_{k-1}\qquad(k\ge2) $$
である(端点で被積分関数が発散するので広義積分)。$\frac1{1-t_1}=\sum_{n\ge0}t_1^n$ を代入して内側から順に積分すればよい。一般の多重ゼータ値の表示とその証明は 多重ゼータ値 の定理「反復積分表示」にある。

基本的な公式

道 $\alpha,\beta$ について、$\alpha(1)=\beta(0)$ のとき $\alpha$ の後に $\beta$ をたどる道を $\alpha\beta$($[0,\frac12]$ で $\alpha(2t)$、$[\frac12,1]$ で $\beta(2t-1)$)、逆向きの道を $\alpha^{-1}(t):=\alpha(1-t)$ と書く。$r+s$ 文字の置換 $\sigma$ で $\sigma^{-1}(1)< \cdots< \sigma^{-1}(r)$ かつ $\sigma^{-1}(r+1)< \cdots< \sigma^{-1}(r+s)$ をみたすものを $(r,s)$ シャッフルといい、その全体を $\mathrm{Sh}(r,s)$ と書く。$\omega_{\sigma(1)}\cdots\omega_{\sigma(r+s)}$ は、二つの列 $\omega_1\cdots\omega_r$ と $\omega_{r+1}\cdots\omega_{r+s}$ を、それぞれの中の順序を保って混ぜ合わせた列である。

反復積分の基本公式
  1. (パラメータの取り替え)$\phi\colon[0,1]\to[0,1]$ が区分的に $C^1$ で単調非減少、$\phi(0)=0$、$\phi(1)=1$ なら、$\int_{\gamma\circ\phi}\omega_1\cdots\omega_r=\int_\gamma\omega_1\cdots\omega_r$。
  2. (道の積、Chen の公式)$\displaystyle\int_{\alpha\beta}\omega_1\cdots\omega_r=\sum_{i=0}^r\int_\alpha\omega_1\cdots\omega_i\int_\beta\omega_{i+1}\cdots\omega_r$。
  3. (逆向きの道)$\displaystyle\int_{\gamma^{-1}}\omega_1\cdots\omega_r=(-1)^r\int_\gamma\omega_r\cdots\omega_1$。
  4. (シャッフル積)$\displaystyle\int_\gamma\omega_1\cdots\omega_r\int_\gamma\omega_{r+1}\cdots\omega_{r+s}=\sum_{\sigma\in\mathrm{Sh}(r,s)}\int_\gamma\omega_{\sigma(1)}\cdots\omega_{\sigma(r+s)}$。

要点:すべて単体 $\{t_1\le\cdots\le t_r\}$ の分割と変数変換である。

証明を開く

1. $(\gamma\circ\phi)^*\omega_i=f_i(\phi(u))\phi'(u)\,du$ である。$J_r(u)$ を $\gamma\circ\phi$ に沿った $I_r$ とすると、$r$ についての帰納法で $J_r(u)=I_r(\phi(u))$ が示せる。実際 $J_r'(u)=J_{r-1}(u)f_r(\phi(u))\phi'(u)=I_{r-1}(\phi(u))f_r(\phi(u))\phi'(u)=\frac{d}{du}I_r(\phi(u))$ で、$u=0$ ではどちらも $0$($r\ge1$)である。$u=1$ とおけばよい。

2. $\alpha\beta$ に沿った被積分関数は、$t\le\frac12$ では $\alpha$ のものを $t\mapsto2t$ で、$t\ge\frac12$ では $\beta$ のものを $t\mapsto2t-1$ で引き戻したものである。単体 $\{0\le t_1\le\cdots\le t_r\le1\}$ を、$\frac12$ 以下の $t$ がちょうど $t_1,\dots,t_i$ である部分($i=0,\dots,r$)に分ける(境界は測度 $0$)。各部分は $\{t_1\le\cdots\le t_i\le\frac12\}\times\{\frac12\le t_{i+1}\le\cdots\le t_r\}$ であり、そこでの積分は 1 によるパラメータの取り替えで $\int_\alpha\omega_1\cdots\omega_i\int_\beta\omega_{i+1}\cdots\omega_r$ に等しい。

3. $(\gamma^{-1})^*\omega_i=-f_i(1-t)\,dt$ である。変数を $u_j=1-t_{r+1-j}$ に替えると、範囲 $t_1\le\cdots\le t_r$ は $u_1\le\cdots\le u_r$ に写り、被積分関数は $(-1)^rf_r(u_1)\cdots f_1(u_r)$ になる。

4. 左辺は $\{t_1\le\cdots\le t_r\}\times\{t_{r+1}\le\cdots\le t_{r+s}\}$ 上の $f_1(t_1)\cdots f_{r+s}(t_{r+s})$ の積分である。測度 $0$ の集合(どれか二つの $t$ が等しいところ)を除くと、この集合は $r+s$ 個の値の大小の並び方で互いに素な部分に分かれる。並び方は、小さい順に $j$ 番目の値が $t_{\sigma(j)}$ であるような $\sigma\in\mathrm{Sh}(r,s)$ と一対一に対応し(二つの組の中の順序は保たれる)、その部分での積分は $\int_\gamma\omega_{\sigma(1)}\cdots\omega_{\sigma(r+s)}$ である。

2 は Che77 (1.6.1)(p. 843)、4 は同 (1.5.6)(p. 842)にある(Chen は次数のある形式に対する符号付きの形で述べている)。$r=s=1$ の 4 は $\int\omega_1\int\omega_2=\int\omega_1\omega_2+\int\omega_2\omega_1$ である。2・3・4 から $\int_{\gamma\gamma^{-1}}\omega_1\cdots\omega_r=0$($r\ge1$)も従う(Che77 (1.6.4))。たとえば $r=2$ では、2 と 3 で左辺は $\int_\gamma\omega_1\omega_2-\int_\gamma\omega_1\int_\gamma\omega_2+\int_\gamma\omega_2\omega_1$ になり、4 によりこれは $0$ である(一般の $r$ は折りたたみ)。

一般の $r$ の確かめ

2 と 3 により、左辺は $\sum_{i=0}^r(-1)^{r-i}\int_\gamma\omega_1\cdots\omega_i\int_\gamma\omega_r\omega_{r-1}\cdots\omega_{i+1}$ である($i=0$ と $i=r$ の項では空の反復積分を $1$ とする)。語(形式の並び)の形式的な一次結合を考え、語 $w$ の後ろに形式 $\omega$ を並べた語を $w\omega$ と書き、$u\sqcup\!\sqcup\,v$ で $u,v$ のシャッフルの和を表す。4 により $i$ 番目の項は $(-1)^{r-i}\int_\gamma(u_i\sqcup\!\sqcup\,v_i)$ である。ここで $u_i=\omega_1\cdots\omega_i$、$v_i=\omega_r\cdots\omega_{i+1}$ とする。シャッフルを最後の文字で分けると、空でない $u=u'a$、$v=v'b$ について $u\sqcup\!\sqcup\,v=(u'\sqcup\!\sqcup\,v)a+(u\sqcup\!\sqcup\,v')b$ である(一方が空なら他方の語そのもの)。$u_i$ の最後の文字は $\omega_i$、$v_i$ の最後の文字は $\omega_{i+1}$ で、それを除いた語はそれぞれ $u_{i-1}$、$v_{i+1}$ である。$A_j=u_{j-1}\sqcup\!\sqcup\,v_j$($1\le j\le r$)、$A_0=A_{r+1}=0$ とおくと、$0\le i\le r$ について $u_i\sqcup\!\sqcup\,v_i=A_i\,\omega_i+A_{i+1}\,\omega_{i+1}$ である($i=0$ では右辺の第 1 項を、$i=r$ では第 2 項を $0$ と読む)。よって $\sum_i(-1)^{r-i}u_i\sqcup\!\sqcup\,v_i$ で $A_j\omega_j$ は $i=j$ から $(-1)^{r-j}$、$i=j-1$ から $(-1)^{r-j+1}$ の符号で現れて打ち消し合い、和は $0$ になる。

正則な形式の反復積分のホモトピー不変性

ホモトピー不変性

$U\subset\mathbb{C}$ を開集合、$g_1,\dots,g_r$ を $U$ 上の正則関数とし、$\omega_i=g_i(z)\,dz$ とする。$U$ の中の区分的に $C^1$ な道 $\gamma_0,\gamma_1$ が $a$ から $b$ への道で、端点を固定して $U$ の中でホモトピック(ホモトピー)なら
$$ \int_{\gamma_0}\omega_1\cdots\omega_r=\int_{\gamma_1}\omega_1\cdots\omega_r. $$

円板での原始関数と格子による分割

段階 1(円板の中では端点だけで決まる)。 $D\subset U$ を開円板、$p\in D$ とする。$G_0=1$ とし、$G_k$ を $D$ 上の正則関数で $G_k'=G_{k-1}g_k$、$G_k(p)=0$ をみたすものとする(円板上の正則関数は原始関数をもつ。Cauchyの積分定理)。$\gamma$ が $D$ の中の $p$ から出る道なら、$I_k(s)=G_k(\gamma(s))$ である。実際 $k$ についての帰納法で、両辺は $s=0$ で $0$、微分はどちらも $I_{k-1}(s)g_k(\gamma(s))\gamma'(s)$ に等しい。よって $D$ の中の道に沿った反復積分は端点だけで決まる。
段階 2(形式的な級数にまとめる)。 文字 $1,\dots,r$ の語 $w=i_1\cdots i_k$ に対し $\omega_w:=\omega_{i_1}\cdots\omega_{i_k}$ とおき、非可換な不定元 $X_1,\dots,X_r$ の形式的冪級数環 $A$ の元
$$ T(\gamma):=\sum_w\Bigl(\int_\gamma\omega_w\Bigr)X_{i_1}\cdots X_{i_k} $$
を考える(空の語の項は $1$)。prop-iter-basic の 2 は $T(\alpha\beta)=T(\alpha)T(\beta)$ を意味する。円板 $D$ の点 $p,q$ について、$D$ の中で $p$ から $q$ へ行く道の $T$ を $T_D(p,q)$ と書く(段階 1 により道によらない)。$p,q$ が二つの円板 $D,D'$ の両方に入るなら、線分 $[p,q]\subset D\cap D'$ を使えば $T_D(p,q)=T_{D'}(p,q)$ である。また $T_D(p,q)T_D(q,p)=T_D(p,p)=1$(一点にとどまる道の反復積分は $r\ge1$ で $0$)。
段階 3(格子)。 $H\colon[0,1]^2\to U$ を $H(\cdot,0)=\gamma_0$、$H(\cdot,1)=\gamma_1$、$H(0,u)=a$、$H(1,u)=b$ をみたすホモトピーとする。$[0,1]^2$ はコンパクトなので(Lebesgue数の補題)、分割 $0=t_0< \cdots< t_n=1$、$0=u_0< \cdots< u_m=1$ をとって、各小正方形 $[t_{j-1},t_j]\times[u_{l-1},u_l]$ の像がある円板 $D_{jl}\subset U$ に入るようにできる。$p_j=H(t_j,u_{l-1})$、$q_j=H(t_j,u_l)$ とおき、
$$ \Theta_l:=\prod_{j=1}^nT_{D_{jl}}(p_{j-1},p_j),\qquad\Theta'_l:=\prod_{j=1}^nT_{D_{jl}}(q_{j-1},q_j) $$
とする(積は $j$ の小さい順)。$D_{jl}$ の中で $T(p_{j-1},p_j)=T(p_{j-1},q_{j-1})T(q_{j-1},q_j)T(q_j,p_j)$ であり、隣り合う因子 $T(q_j,p_j)T(p_j,q_j)$ は $D_{jl}\cap D_{j+1,l}$ の中で計算できて $1$ になる。両端では $p_0=q_0=a$、$p_n=q_n=b$ なので $T(a,a)=T(b,b)=1$ である。よって $\Theta_l=\Theta'_l$ であり、$\Theta'_l=\Theta_{l+1}$(同じ点列を、どちらも両方を含む円板の中で結んでいるので、段階 2 により同じ値)である。
最後に、$\gamma_0$ は区分的に $C^1$ なので、1 と 2 を繰り返し使えば $T(\gamma_0)=\prod_jT(\gamma_0|_{[t_{j-1},t_j]})=\Theta_1$(各部分は $D_{j1}$ の中の道)であり、同様に $T(\gamma_1)=\Theta'_m$ である。以上から $T(\gamma_0)=\Theta_1=\Theta'_1=\Theta_2=\cdots=\Theta'_m=T(\gamma_1)$ となり、$X_1X_2\cdots X_r$ の係数を比べればよい。

段階 3 の $\Theta'_l=\Theta_{l+1}$ は、二つの積がどちらも「点列 $H(t_j,u_l)$ を順に結ぶ」ものであり、各因子が $D_{jl}$ と $D_{j,l+1}$ の両方に入る 2 点の間の $T$ であることによる。$T(\gamma)$ は線形微分方程式 $dT=T\,\Omega$($\Omega=\sum_ig_i\,dz\,X_i$)の解であり、この定理はその平坦性(1 変数では自動的に成り立つ)を言い換えたものである。

反例

thm-iter-homotopy は次の条件のどれを外しても成り立たない。各行は 1 つの条件だけを外している。

外す条件反例成り立たなくなること
形式が複素 1 変数の正則関数による $g_i\,dz$ であること$\mathbb{R}^2$ の $dx,dy$(どちらも閉形式)と、単位正方形の周を反時計回りに回る閉じた道ホモトピー不変性:$\int dx\,dy=1$ だが定数の道では $0$
$g_i$ が $U$ 全体で正則であること$U=\mathbb{C}$、$\omega_1=dz/z$($0$ に極)、単位円を 1 周する道ホモトピー不変性:$\int dz/z=2\pi i$ だが、$\mathbb{C}$ で可縮な道として定数の道と比べると $0$
端点を固定したホモトピー$\omega_1=dz$、$0$ から $s$ への線分($s$ を動かす)値が $s$ に等しく、一定でない

1 行目は ex-iter-area による。$dx$ と $dy$ は閉形式で、線積分($r=1$)はホモトピー不変だが、2 重の反復積分はそうでない。$dx\wedge dy\ne0$ がその原因であり、正則な $g_i\,dz$ どうしでは $g_idz\wedge g_jdz=0$ である。

例:2 重対数関数のモノドロミー

$U=\mathbb{C}\setminus\{0,1\}$、$\omega_0=dz/z$、$\omega_1=dz/(1-z)$ とする。$|z|<1$ で $\mathrm{Li}_1(z)=-\log(1-z)=\sum_{n\ge1}z^n/n$、$\mathrm{Li}_2(z)=\sum_{n\ge1}z^n/n^2$ であり、$0< z< 1$ と $0$ から $z$ への線分 $\delta_z$ について $\mathrm{Li}_1(z)=\int_{\delta_z}\omega_1$、$\mathrm{Li}_2(z)=\int_{\delta_z}\omega_1\omega_0$ が成り立つ(多重ポリログ の定理「一変数多重ポリログの反復積分表示」。$\omega_0$ は $0$ で極をもつが、$\omega_1\omega_0$ の積分は収束する)。

$\mathrm{Li}_2$ の点 $1$ のまわりのモノドロミー

$0< z_0< 1$ とし、$\gamma$ を $z_0$ から出て点 $1$ のまわりを反時計回りに 1 周し $z_0$ に戻る $U$ の中の閉じた道とする。正確には、$0< \varepsilon<1-z_0$ について、$z_0$ から $1-\varepsilon$ への線分 $\sigma$、$1$ を中心とする半径 $\varepsilon$ の反時計回りの円 $C$($1-\varepsilon$ から出発)による道 $\sigma C\sigma^{-1}$ と、端点を固定して $U$ の中でホモトピックであるとする。このとき
$$ \int_{\delta_{z_0}\gamma}\omega_1\omega_0=\mathrm{Li}_2(z_0)-2\pi i\log z_0,\qquad\int_{\delta_{z_0}\gamma}\omega_1=\mathrm{Li}_1(z_0)-2\pi i. $$
すなわち $\gamma$ に沿って解析接続すると、$\mathrm{Li}_1$ は $-2\pi i$ ずれ、$\mathrm{Li}_2$ は $-2\pi i\log z$ ずれる。

prop-iter-basic の 2 により
$$ \int_{\delta\gamma}\omega_1\omega_0=\int_\delta\omega_1\omega_0+\int_\delta\omega_1\int_\gamma\omega_0+\int_\gamma\omega_1\omega_0 $$
である($\delta=\delta_{z_0}$。$\delta$ の端点 $0$ での広義積分の扱いは、$\delta$ を $\varepsilon$ から始めて $\varepsilon\to0$ とすればよい)。$\omega_0$ は $1$ の近くで正則なので $\int_\gamma\omega_0=0$、$\int_\gamma\omega_1=-2\pi i$ である(留数)。残りは $\int_\gamma\omega_1\omega_0=-2\pi i\log z_0$ を示せばよい。thm-iter-homotopy により、$\gamma$ を $\sigma C\sigma^{-1}$ に取り替えてよい(どの $\varepsilon$ でも値は同じ)。2 を繰り返し使い、$\int_C\omega_0=0$ に注意すると
$$ \int_{\sigma C\sigma^{-1}}\omega_1\omega_0=\int_\sigma\omega_1\omega_0+\int_{\sigma^{-1}}\omega_1\omega_0+\int_\sigma\omega_1\int_{\sigma^{-1}}\omega_0+\int_C\omega_1\omega_0+\int_C\omega_1\int_{\sigma^{-1}}\omega_0 $$
である。3 により $\int_{\sigma^{-1}}\omega_1\omega_0=\int_\sigma\omega_0\omega_1$、$\int_{\sigma^{-1}}\omega_0=-\int_\sigma\omega_0$ であり、4 により $\int_\sigma\omega_1\omega_0+\int_\sigma\omega_0\omega_1=\int_\sigma\omega_1\int_\sigma\omega_0$ なので、最初の 3 項の和は $0$ である。$C$ の上で $|1/(1-z)|=1/\varepsilon$、$|1/z|\le2$($\varepsilon\le\frac12$ のとき)なので、内側の積分 $I_1$ の絶対値は $2\pi\varepsilon\cdot\frac1\varepsilon=2\pi$ 以下であり、$|\int_C\omega_1\omega_0|\le2\pi\cdot(2\pi\varepsilon\cdot2)\to0$ である。最後の項は $(-2\pi i)\cdot\bigl(-\log(1-\varepsilon)+\log z_0\bigr)$ に等しい。左辺は $\varepsilon$ によらないので、$\varepsilon\to0$ として $\int_\gamma\omega_1\omega_0=-2\pi i\log z_0$ を得る。

このように、反復積分の道の積の公式は、多重ポリログの解析接続を有限個の反復積分の計算に帰着させる。$0$ と $1$ のまわりのモノドロミーが生成する構造は、$\mathbb{P}^1\setminus\{0,1,\infty\}$ の基本群と多重ゼータ値を結びつけ、混合モチーフ の理論で多重ゼータ値が混合 Tate モチーフの周期として現れる理由になっている(Bro11 §1、DG05 §5)。この記事ではこれらを証明しない。

関連項目

参考文献

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