対称空間(symmetric space)とは、ここでは Riemann 対称空間のことで、連結な Riemann 多様体であって、各点 $p$ に、$p$ を固定し $p$ での微分が $-\mathrm{id}$ となる等長写像(点対称)をもつものをいう。点対称は $p$ を通る測地線を裏返すので、対称空間は測地的に完備かつ等質であり、曲率テンソルは平行($\nabla R=0$)になる。Euclid 空間・球面・双曲空間・両側不変計量をもつ Lie 群が例である。等長変換群 $G$ と固定部分群 $K$ による表示 $M\cong G/K$ と、点対称から定まる $G$ の対合を通じて、曲率などの幾何が Lie 環の括弧積で計算できる。
前提知識: Riemann多様体, 等長写像, 測地線, Riemann曲率テンソル, 等質空間
Riemann 対称空間は、各点のまわりで「点対称」、すなわちその点を通る測地線をすべて裏返す等長変換をもつ連結な Riemann 多様体である。Euclid 空間・球面・双曲空間・両側不変計量をもつ Lie 群がその例であり、対称性が非常に強いので、完備性・等質性・曲率テンソルの平行性が定義から従う。さらに等長変換群 $G$ と 1 点の固定部分群 $K$ によって $M=G/K$ と表され、幾何の問題が Lie 環の計算に帰着する。
以下、多様体は $C^\infty$ 級で、Riemann幾何学 の記事と同じく曲率テンソルを $R(X,Y)Z=\nabla_X\nabla_YZ-\nabla_Y\nabla_XZ-\nabla_{[X,Y]}Z$ で定める($\nabla$ は Levi-Civita 接続)。「対称空間」という語はアフィン接続や擬 Riemann 計量についての類似物にも使われるが、この記事では Riemann 計量の場合だけを扱う。点対称の演算を抽象化した代数系には カンドル がある(下の命題「対称空間はカンドル(圭)をなす」)。
$(M,g)$ を Riemann 多様体、$p\in M$ とする。等長写像 $s\colon M\to M$ であって
$$
s(p)=p,\qquad ds_p=-\mathrm{id}_{T_pM}
$$
を満たすものを、$p$ における点対称(point reflection)という。$M$ が連結で、すべての点 $p$ に点対称が存在するとき、$(M,g)$ を Riemann 対称空間(Riemannian symmetric space)、または単に対称空間という。
また、各点 $p$ が近傍 $U$ と等長写像 $s\colon U\to U$ で $s(p)=p$、$ds_p=-\mathrm{id}$ を満たすものをもつとき、$(M,g)$ を局所対称空間(locally symmetric space)という。
定義は Lee18 の pp. 77–78 による。点対称は「$p$ を中心とする点対称移動」を Riemann 多様体へ一般化したものである。定義から、対称空間は局所対称空間である。
点対称が一意に決まることを見るために、等長写像の剛性を用意する。
$(M,g)$ を連結な Riemann 多様体、$\varphi,\psi\colon M\to M$ を等長写像とする。ある点 $p$ で $\varphi(p)=\psi(p)$ かつ $d\varphi_p=d\psi_p$ ならば、$\varphi=\psi$ である。
$A:=\{q\in M\mid\varphi(q)=\psi(q),\ d\varphi_q=d\psi_q\}$ とおく。$\varphi,\psi$ とその微分 $TM\to TM$ は連続なので、$A$ は閉集合であり、仮定により $p\in A$ である。$q\in A$ とし、$\varepsilon>0$ を、$\exp_q$ が $T_qM$ の半径 $\varepsilon$ の開球 $B$ から $q$ の開近傍 $U$ への微分同相写像になるようにとる(Riemann幾何学 の注意「測地線の性質」)。等長写像は指数写像と可換なので(Riemann幾何学 の命題「等長写像は測地線を測地線に写す」)、$v\in B$ について
$$
\varphi(\exp_qv)=\exp_{\varphi(q)}(d\varphi_qv)=\exp_{\psi(q)}(d\psi_qv)=\psi(\exp_qv)
$$
である。よって $U$ 上で $\varphi=\psi$ であり、開集合上で一致する写像は微分も一致するので $U\subset A$ である。したがって $A$ は開集合でもあり、$M$ の連結性から $A=M$ である。$\square$
$(M,g)$ を連結な Riemann 多様体とし、$p\in M$ に点対称 $s_p$ が存在するとする。
1.$s,s'$ を $p$ における点対称とすると、$s(p)=s'(p)$、$ds_p=ds'_p=-\mathrm{id}$ なので lem-sym-rigidity により $s=s'$ である。また $s_p\circ s_p$ は $p$ を固定し、微分が $(-\mathrm{id})^2=\mathrm{id}$ の等長写像なので、恒等写像と lem-sym-rigidity を比べて $s_p\circ s_p=\mathrm{id}$ である。
2.$\sigma(t):=s_p(\gamma(-t))$ とおく。等長写像は測地線を測地線に写し、$t\mapsto\gamma(-t)$ も測地線なので、$\sigma$ は測地線であり、$\sigma(0)=p$、$\dot\sigma(0)=ds_p(-\dot\gamma(0))=\dot\gamma(0)$ である。測地線の一意性(Riemann幾何学 の命題「測地線の局所存在と一意性」)により、共通の定義域の上で $\sigma=\gamma$、すなわち $s_p(\gamma(-t))=\gamma(t)$ である。$t$ を $-t$ に替えれば主張を得る。$\gamma=\gamma_v$、$t=1$ とおけば後半になる。
3.$\varphi\circ s_p\circ\varphi^{-1}$ は等長写像で $\varphi(p)$ を固定し、その点での微分は $d\varphi_p\circ(-\mathrm{id})\circ(d\varphi_p)^{-1}=-\mathrm{id}$ である。$\square$
以下、$p$ における点対称を $s_p$ と書く。3 は「点対称は等長写像で共役なものに移る」ことを言っており、等長変換群が推移的なら 1 点で点対称を確かめれば十分である(Lee18 Lemma 3.23、p. 78)。
$\mathbb R^{n+1}$ 上の非退化な対称双線形形式 $b$ と実数 $c\ne0$ について、$Q=\{x\mid b(x,x)=c\}$ の連結成分 $M$ で、$b$ の接空間への制限が正定値なものを考える。$p\in M$ に対し
$$
s_p(x):=\frac{2b(x,p)}{c}\,p-x
$$
とおくと、$s_p$ は $p$ における点対称である。$b$ を Euclid 内積、$c=1$ とすれば単位球面 $S^n$($s_p(x)=2(x\cdot p)p-x$)、$b$ を 双曲空間 の記事の Minkowski 形式 $\langle\ ,\ \rangle$、$c=-a^2$、$M$ を上側の葉とすれば双曲空間 $H^n(a)$($s_p(x)=-x-\tfrac{2}{a^2}\langle x,p\rangle p$)である。Euclid 空間では $s_p(x)=2p-x$ である。したがって球面・双曲空間・Euclid 空間は対称空間である。
$s_p$ は線形写像で、$s_p(p)=2p-p=p$ である。$x=\lambda p+w$($b(w,p)=0$)と分けると $b(p,p)=c$ より $s_p(x)=\lambda p-w$ なので、$s_p$ は $\mathbb Rp$ の上で恒等写像、$b$ に関する直交補空間 $p^{\perp}$ の上で $-1$ 倍であり、$b(s_px,s_py)=b(x,y)$ を満たす。よって $s_p$ は $Q$ をそれ自身に移し、$p$ を含む連結成分 $M$ もそれ自身に移す。$M$ の計量は各接空間への $b$ の制限であり、線形写像 $s_p$ の微分は $s_p$ 自身だから、$s_p|_M$ は等長写像である。$T_pM=p^{\perp}$ なので $d(s_p)_p=-\mathrm{id}$ である。Euclid 空間の $x\mapsto2p-x$ は平行移動と $-1$ 倍の合成で、$p$ での微分は $-\mathrm{id}$ である。$\square$
$G$ を連結な Lie群、$g$ を左移動 $L_a$ と右移動 $R_a$ のどちらでも不変な Riemann 計量(両側不変計量)とする。このとき $s_e(x):=x^{-1}$ は単位元 $e$ における点対称であり、$s_a(x):=ax^{-1}a$ は $a$ における点対称である。よって $(G,g)$ は対称空間である。たとえば $SO(n)$ の Lie 環の上の内積 $\langle X,Y\rangle:=\operatorname{tr}(X^{\mathsf T}Y)$ は $\operatorname{Ad}$ 不変なので、これを左移動で広げた計量は両側不変である。
$\iota(x):=x^{-1}$ とおく。$\iota$ の $e$ での微分は $-\mathrm{id}$ である($t\mapsto\exp(tX)$ が $\exp(-tX)$ に移るから)。任意の $a\in G$ について $(a^{-1}x)^{-1}a^{-1}=x^{-1}$ なので $\iota=R_{a^{-1}}\circ\iota\circ L_{a^{-1}}$ であり、$d\iota_a=d(R_{a^{-1}})_e\circ(-\mathrm{id})\circ d(L_{a^{-1}})_a$ は両側不変性により計量を保つ。よって $\iota$ は等長写像で、$e$ における点対称である。$s_a=L_a\circ\iota\circ L_{a^{-1}}$ なので、prop-sym-basic の 3 により $s_a$ は $a$ における点対称である。最後の主張は、$g\in SO(n)$ について $\operatorname{Ad}_gX=gXg^{\mathsf T}$ であり $\operatorname{tr}((gXg^{\mathsf T})^{\mathsf T}gYg^{\mathsf T})=\operatorname{tr}(X^{\mathsf T}Y)$ となることと、$\operatorname{Ad}$ 不変な内積を左移動で広げた計量が右移動でも不変であること($R_a=L_a\circ C_{a^{-1}}$、$C_b(x)=bxb^{-1}$ で、$d(C_b)_e=\operatorname{Ad}_b$)による。$\square$
平坦トーラス $\mathbb R^n/\mathbb Z^n$ と、球面を対蹠写像 $x\mapsto-x$ で割った実射影空間 $\mathbb{RP}^n=S^n/\{\pm1\}$(商の計量)は対称空間である。実際、$\mathbb R^n$ の $s_p(x)=2p-x$ は $x\mapsto x+m$($m\in\mathbb Z^n$)と $s_p(x+m)=s_p(x)-m$ の関係にあるので商に降り、$S^n$ の $s_p$ は線形で $-1$ 倍と可換なので $\mathbb{RP}^n$ に降りる。降りた写像 $\bar s$ は、被覆写像 $\pi$(局所等長写像)について $\pi\circ s_p=\bar s\circ\pi$ を満たすので局所等長写像であり、$\bar s\circ\bar s=\mathrm{id}$ だから全単射で、等長写像である。$\pi(p)$ での微分は $-\mathrm{id}$ である。このほか、対称空間の直積は直積計量について対称空間である(各因子の点対称の直積をとる)。
点対称は測地線を裏返すので、測地線をどこまでも折り返して延ばせる。これが完備性を、さらに Hopf–Rinow の定理を通じて等質性を与える。曲率の側では、点対称が奇数階のテンソルを $-1$ 倍することから曲率テンソルの共変微分が消える。
$(M,g)$ を Riemann 対称空間とする。
1.$\gamma\colon(a,b)\to M$ を定義域が最大の測地線とし、$b< \infty$ と仮定する。$t_0\in(a,b)$ を $2t_0-a>b$ となるようにとる($a=-\infty$ なら任意の $t_0$、$a>-\infty$ なら $(a+b)/2< t_0< b$ とする)。$s:=s_{\gamma(t_0)}$ とおき、
$$
\sigma(t):=s\bigl(\gamma(2t_0-t)\bigr)\qquad(2t_0-b< t<2t_0-a)
$$
と定める。$t\mapsto\gamma(2t_0-t)$ は測地線で、等長写像は測地線を測地線に写すので、$\sigma$ は測地線である。さらに
$$
\sigma(t_0)=s(\gamma(t_0))=\gamma(t_0),\qquad\dot\sigma(t_0)=ds_{\gamma(t_0)}\bigl(-\dot\gamma(t_0)\bigr)=\dot\gamma(t_0)
$$
であるから、測地線の一意性(Riemann幾何学 の命題「測地線の局所存在と一意性」)により $\sigma$ と $\gamma$ は共通の定義域の上で一致する。よって $(a,b)$ 上で $\gamma$、$(2t_0-b,2t_0-a)$ 上で $\sigma$ に等しい曲線は、$b$ より大きい $2t_0-a$ まで定義された測地線であり、$\gamma$ の定義域の最大性に反する。$a>-\infty$ の場合も、向きを逆にした同じ議論で矛盾する。よってすべての測地線は $\mathbb R$ 全体で定義され、$(M,g)$ は測地的に完備である。距離空間としての完備性は Hopf–Rinow の定理(Riemann幾何学 の定理「Hopf–Rinow の定理」)による。
2.$M$ は連結かつ 1 により完備なので、Hopf–Rinow の定理により $p,q$ は測地線 $\gamma\colon[0,1]\to M$、$\gamma(0)=p$、$\gamma(1)=q$ で結ばれる。$m:=\gamma(1/2)$ とし、測地線 $u\mapsto\gamma(1/2+u)$($-1/2\le u\le1/2$)に prop-sym-basic の 2 を当てると、$s_m(\gamma(1/2+u))=\gamma(1/2-u)$ である。$u=-1/2$ とおいて $s_m(p)=q$ を得る。
3.$\varphi\colon M\to M$ を等長写像とし、ベクトル場の押し出しを $\varphi_*X:=d\varphi\circ X\circ\varphi^{-1}$ と書く。$\varphi_*(\nabla_XY)=\nabla_{\varphi_*X}\varphi_*Y$(Riemann幾何学 の命題「等長写像とリーマン接続の両立」)と $\varphi_*[X,Y]=[\varphi_*X,\varphi_*Y]$ を、$R$ の定義と
$$
(\nabla_WR)(X,Y)Z=\nabla_W(R(X,Y)Z)-R(\nabla_WX,Y)Z-R(X,\nabla_WY)Z-R(X,Y)\nabla_WZ
$$
の各項に当てると、$\varphi_*\bigl((\nabla_WR)(X,Y)Z\bigr)=(\nabla_{\varphi_*W}R)(\varphi_*X,\varphi_*Y)\varphi_*Z$ を得る。テンソル場の値は各点でのベクトル場の値だけで決まるので、$\varphi=s_p$、$w,x,y,z\in T_pM$ について
$$
ds_p\bigl((\nabla_wR)(x,y)z\bigr)=(\nabla_{ds_pw}R)(ds_px,ds_py)\,ds_pz
$$
である。$ds_p=-\mathrm{id}$ を代入すると、左辺は $-(\nabla_wR)(x,y)z$、右辺は 4 つの引数の多重線形性により $(-1)^4(\nabla_wR)(x,y)z$ である。よって $(\nabla_wR)(x,y)z=0$ であり、$p$ は任意なので $\nabla R=0$ である。$\square$
1 と 2 の折り返しの議論は Mic08 §28.5 (2)・(3)(pp. 370–371)にもある。3 の証明は等長写像 $U\to U$ の上でも同じに使えるので、局所対称空間でも $\nabla R=0$ である。逆も成り立つ。
この記事では、1 の必要性(thm-sym-main の 3 の証明と同じ)以外は証明しない。十分性の証明では、$\nabla R=0$ のとき曲率テンソルを保つ接空間の線形等長写像が局所等長写像に延びるという É. Cartan の補題(Lee18 Lemma 10.18、p. 295)を使う。
2 から、完備で単連結な定曲率空間が対称空間であることが改めてわかる。一方、thm-sym-main の 3 は対称空間でないことを示す道具になる。2 次元では曲率テンソルは Gauss 曲率 $K$ だけで決まり(Riemann幾何学 の注意「曲率の意味」)、$R=K\,R_0$、$R_0(X,Y)Z:=g(Y,Z)X-g(X,Z)Y$ と書ける。$g$ は平行なので $R_0$ も平行で、$\nabla_WR=(WK)\,R_0$ となり、$R_0\ne0$ だから $\nabla R=0$ は $dK=0$ と同値である。たとえば回転楕円面 $(x^2+y^2)/a^2+z^2/c^2=1$($a\ne c$)では、極での Gauss 曲率は $c^2/a^4$、赤道上では $1/c^2$ で異なるので、局所対称空間でもない。
対称空間は等質なので、等長変換群 $G$ と 1 点 $o$ の固定部分群 $K:=G_o$ によって $M\cong G/K$ と書ける。点対称 $s_o$ はこの組に「対合」という追加の構造を与え、幾何の量が Lie 環の言葉で書けるようになる。次の事実はこの記事では証明しない。
$(M,g)$ を Riemann 対称空間、$o\in M$、$G$ を等長写像全体の群、$K:=G_o$ とする。
この記事では証明しない。1 の前半は Mic08 Theorem 28.1(pp. 365–366)、2〜4 は Mic08 §28.5 (6)・(8)・(9)・(10)(pp. 371–372)にある。1 の後半の同一視は、推移的な作用についての一般論(等質空間 の定理「推移的な作用と剰余類多様体」)と thm-sym-main の 2 から従う。4 の式は括弧積の符号を全体で取り替えても変わらないので、$\mathfrak g$ を Killing ベクトル場の Lie 環とみる流儀でも同じ形になる。
$o=e_3\in S^2$ とすると $s_o=\operatorname{diag}(-1,-1,1)$ であり、$\sigma$ は $SO(3)$ 上では $D:=\operatorname{diag}(-1,-1,1)$ による共役である。$E_{ij}$ を行列単位とし、$A:=E_{13}-E_{31}$、$B:=E_{23}-E_{32}$、$C:=E_{21}-E_{12}$ とおくと、$DAD=-A$、$DBD=-B$、$DCD=C$ なので $\mathfrak m=\langle A,B\rangle$、$\mathfrak k=\langle C\rangle$($e_3$ を軸とする回転)である。$A\cdot o=Ae_3=e_1$、$B\cdot o=e_2$ であり、括弧積を計算すると $[A,B]=C$、$[C,B]=-A$ となる。よって thm-sym-lie の 4 により
$$
R(e_1,e_2)e_2=-\bigl[\,[A,B],B\bigr]=-[C,B]=A\cdot o=e_1
$$
であり、断面曲率は $g(R(e_1,e_2)e_2,e_1)=1$ となって、単位球面の曲率 $1$ と一致する。
$Ae_3=e_1$、$Ae_1=-e_3$、$Be_3=e_2$、$Be_2=-e_3$ で、ほかの基底ベクトルは $0$ に写る。$ABe_2=A(-e_3)=-e_1$、$BAe_1=B(-e_3)=-e_2$ で、$AB$・$BA$ はほかの基底ベクトルを $0$ に写すから、$[A,B]=AB-BA$ は $e_1\mapsto e_2$、$e_2\mapsto-e_1$ となり $C$ に等しい。同様に $CBe_3=Ce_2=-e_1$、$BCe_1=Be_2=-e_3$ で、ほかは $0$ になるので、$[C,B]$ は $e_3\mapsto-e_1$、$e_1\mapsto e_3$ となり $-A$ に等しい。
点対称の演算は、結び目の不変量に使われる代数系である カンドル の原型である。
Riemann 対称空間 $M$ の上で $x\ast y:=s_y(x)$ とおくと、$(M,\ast)$ はカンドルであり、さらにすべての $x,y$ で $(x\ast y)\ast y=x$ を満たす(圭である)。
冪等性:$s_x(x)=x$ である。右からの演算 $x\mapsto x\ast y=s_y(x)$ は、$s_y\circ s_y=\mathrm{id}$(prop-sym-basic の 1)により全単射であり、同じ式から $(x\ast y)\ast y=x$ である。右自己分配律:prop-sym-basic の 3 を $\varphi=s_z$ に当てると $s_{s_z(y)}=s_z\circ s_y\circ s_z$ なので、
$$
(x\ast z)\ast(y\ast z)=s_{s_z(y)}(s_z(x))=s_z\bigl(s_y(s_z(s_z(x)))\bigr)=s_z(s_y(x))=(x\ast y)\ast z
$$
である。$\square$
thm-sym-main の 3 つの結論が、定義のどの条件に支えられているかを示す。各行の反例は、左の条件だけを外し、右の結論が成り立たない。
| 外す条件 | 反例 | 成り立たなくなること |
|---|---|---|
| 点対称が $M$ 全体の等長写像であること(局所対称で止める) | Euclid 平面の開円板 | 測地的完備性(thm-sym-main の 1) |
| $M$ の連結性 | 球面と平面の非交和 $S^2\sqcup\mathbb R^2$ | 等質性(thm-sym-main の 2) |
| 各点の点対称(等長変換群の推移性だけを仮定する) | 左不変計量をもつ 3 次元 Heisenberg 群 | 曲率の平行性 $\nabla R=0$(thm-sym-main の 3) |
開円板 $D=\{\lvert x\rvert<1\}\subset\mathbb R^2$:$p\in D$ と $r:=1-\lvert p\rvert$ について、$s(x)=2p-x$ は開円板 $\{\lvert x-p\rvert< r\}\subset D$ をそれ自身に等長に写し、$ds_p=-\mathrm{id}$ なので $D$ は局所対称空間である。測地線 $t\mapsto te_1$ は $\lvert t\rvert<1$ でしか定義されないので完備でない(とくに対称空間でない)。
$S^2\sqcup\mathbb R^2$:$p$ を含む成分では ex-sym-sphere-hyperbolic の点対称、他方の成分では恒等写像をとれば点対称になる。しかし等長写像は連結成分を同相に写し、コンパクトな $S^2$ をコンパクトでない $\mathbb R^2$ に写せないので、推移的でない。
Heisenberg 群 $H=\mathbb R^3$(積 $(a,b,c)(a',b',c')=(a+a',b+b',c+c'+ab')$、Heisenberg群 の $n=1$ の場合):左不変ベクトル場 $X=\partial_x$、$Y=\partial_y+x\partial_z$、$Z=\partial_z$ は $[X,Y]=Z$、$[X,Z]=[Y,Z]=0$ を満たす。$X,Y,Z$ が各点で正規直交になる計量 $g$ は左不変なので、左移動は等長写像で、$H$ は等質である。計算すると、Ricci テンソルについて $(\nabla_X\mathrm{Ric})(Y,Z)=-\tfrac12\ne0$ となる。Ricci テンソルは $R$ の縮約で、縮約は共変微分と可換だから $\nabla R\ne0$ であり、$H$ は対称空間でない。
内積が定数のベクトル場について、Koszul の公式は $2g(\nabla_UV,W)=g([U,V],W)-g([V,W],U)+g([W,U],V)$ となる。これから $\nabla_XY=\tfrac12Z$、$\nabla_YX=-\tfrac12Z$、$\nabla_XZ=\nabla_ZX=-\tfrac12Y$、$\nabla_YZ=\nabla_ZY=\tfrac12X$、$\nabla_XX=\nabla_YY=\nabla_ZZ=0$ を得る。曲率は $R(X,Y)Y=-\nabla_Y(\tfrac12Z)-\nabla_ZY=-\tfrac14X-\tfrac12X=-\tfrac34X$、$R(X,Z)Z=-\nabla_Z(-\tfrac12Y)=\tfrac12\nabla_ZY=\tfrac14X$、$R(Y,Z)Z=-\nabla_Z(\tfrac12X)=\tfrac14Y$、$R(X,Y)Z=\nabla_X(\tfrac12X)-\nabla_Y(-\tfrac12Y)-\nabla_ZZ=0$ である。よって $\mathrm{Ric}(V,W)=\sum_{E\in\{X,Y,Z\}}g(R(E,V)W,E)$ について $\mathrm{Ric}(Y,Y)=-\tfrac34+\tfrac14=-\tfrac12$、$\mathrm{Ric}(Z,Z)=\tfrac14+\tfrac14=\tfrac12$、$\mathrm{Ric}(Y,Z)=g(R(X,Y)Z,X)+g(R(Z,Y)Z,Z)=0$ である。$\mathrm{Ric}(Y,Z)$ は定数なので
$$(\nabla_X\mathrm{Ric})(Y,Z)=-\mathrm{Ric}(\nabla_XY,Z)-\mathrm{Ric}(Y,\nabla_XZ)=-\tfrac12\mathrm{Ric}(Z,Z)+\tfrac12\mathrm{Ric}(Y,Y)=-\tfrac14-\tfrac14=-\tfrac12.$$
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