可縮空間(単体的集合)

同義語:可縮な単体的集合contractible simplicial set

概要

可縮空間(単体的集合)(contractible simplicial set)とは、恒等写像がある頂点への定値写像と、単体的ホモトピーを向きを問わず有限回つないだ関係でホモトピックになる単体的集合のことである。可縮なら幾何学的実現は可縮空間になる。Kan 複体では、実現が可縮であること、一点への写像が自明 Kan ファイブレーションであること、一本の単体的ホモトピーで恒等写像を定値写像へ縮められること、可縮であることがすべて同値になる。Kan 複体でない場合は実現が可縮でも可縮とは限らず、三角形の三辺を一本に貼り合わせた単体的ダンスハットがその例である。

$$\newcommand{C}[0]{\mathbb{C}} \newcommand{div}[0]{\mathbin{÷}} \newcommand{N}[0]{\mathbb{N}} \newcommand{Q}[0]{\mathbb{Q}} \newcommand{R}[0]{\mathbb{R}} \newcommand{Z}[0]{\mathbb{Z}} $$

前提知識: 単体的集合, 幾何学的実現, 可縮空間, Kan複体

位相空間が可縮空間であるとは、恒等写像が定値写像へ連続に変形できることであった。単体的集合では、連続な変形の代わりに単体的ホモトピー $X\times\Delta^1\to X$ を使って同じ定義ができる。ただし単体的ホモトピーには向きがあり、一般の単体的集合では「$f$ から $g$ へのホモトピー」があっても逆向きのものがあるとは限らない。そこで、ホモトピーを向きを問わず有限回つないだ関係を使って可縮性を定める。
単体的集合には、幾何学的実現 $\lvert X\rvert$ が可縮空間であるという、もう一つの自然な条件(弱可縮性)がある。可縮なら弱可縮であり(主定理 1)、Kan複体 では両者は一致して、さらに「境界 $\partial\Delta^n$ からの写像がいつも $n$ 単体に延びる」という組合せ的な条件とも同値になる(主定理 2)。一方、Kan 複体でない単体的集合では両者は一致しない。三角形の三辺を一本に貼り合わせた単体的なダンスハットは、実現が可縮なのに単体的集合としては可縮でない(主定理 3)。

定義

記号は 単体的集合 に従う。$\Delta^1$ の頂点を $0,1$ とし、$\{\varepsilon\}\subset\Delta^1$ を頂点 $\varepsilon$ だけからなる部分単体的集合とする。$X\times\{\varepsilon\}$ を $X$ と同一視する。頂点 $v$ に値をとる定値写像を $c_v$ と書く。

単体的ホモトピー

単体的写像 $f,g\colon X\to Y$ について、単体的写像 $h\colon X\times\Delta^1\to Y$ で $h|_{X\times\{0\}}=f$、$h|_{X\times\{1\}}=g$ となるものを、$f$ から $g$ への単体的ホモトピーといい、$h\colon f\Rightarrow g$ と書く。関係 $f\Rightarrow g$ が生成する同値関係、つまり
$$ f=f_0,\ f_1,\ \dots,\ f_m=g $$
で隣り合う $f_{i-1},f_i$ のあいだにどちらかの向きの単体的ホモトピーがある列がとれるとき、$f$ と $g$ はホモトピックであるといい、$f\simeq g$ と書く。

ホモトピックであることは、写像の単体的集合 $\operatorname{Fun}(X,Y)$ の同じ連結成分に入ることと同じである(Ker26 Definition 3.1.5.1(Tag 00TS))。

可縮と弱可縮

単体的集合 $X$ が可縮(contractible)であるとは、頂点 $v\in X_0$ があって $\operatorname{id}_X\simeq c_v$ となることをいう。$X$ が弱可縮であるとは、幾何学的実現 $\lvert X\rvert$ が弱可縮空間であることをいう。

可縮であることは、射影 $p\colon X\to\Delta^0$ がホモトピー同値であること、つまり $g\colon\Delta^0\to X$ で $gp\simeq\operatorname{id}_X$、$pg\simeq\operatorname{id}$ となるものがあることと同じである($g$ は頂点 $v$ を選ぶことで、$gp=c_v$、$pg=\operatorname{id}_{\Delta^0}$)。これが Ker26 Definition 3.2.4.1(Tag 04GH)の定義である。空な単体的集合は頂点をもたないので可縮でない。
$\lvert X\rvert$ は CW 複体なので(幾何学的実現 の定理「幾何学的実現の CW 構造」)、弱可縮であることは $\lvert X\rvert$ が可縮空間であることと同値である(弱可縮空間 の定理「CW 型の空間では可縮と一致する」)。弱可縮性は、射影 $X\to\Delta^0$ が Kan–Quillenモデル構造 の弱同値であることとも言い換えられる(Ker26 Definition 3.2.4.16(Tag 04GW)、Example 3.6.4.4(Tag 03X8))。

主定理 1:可縮なら実現も可縮

実現はホモトピーを保つ

単体的写像 $f,g\colon X\to Y$ が $f\simeq g$ なら、$\lvert f\rvert$ と $\lvert g\rvert$ はホモトピックである。とくに、可縮な単体的集合の実現は可縮空間であり、可縮な単体的集合は弱可縮である。

同値関係を生成する一歩ごとに示せばよいので、$h\colon f\Rightarrow g$ とする。射影の実現を並べた写像 $\theta\colon\lvert X\times\Delta^1\rvert\to\lvert X\rvert\times\lvert\Delta^1\rvert$ は、$\Delta^1$ の非退化単体が有限個なので同相写像である(Ker26 Corollary 3.6.2.2(Tag 013E))。$\lvert\Delta^1\rvert$ を $[0,1]$ と同一視し、$H:=\lvert h\rvert\circ\theta^{-1}\colon\lvert X\rvert\times[0,1]\to\lvert Y\rvert$ とおく。$\theta$ は包含 $X\times\{\varepsilon\}\subset X\times\Delta^1$ と両立する(射影の実現は関手的である)ので、$H(-,0)=\lvert h|_{X\times\{0\}}\rvert=\lvert f\rvert$、$H(-,1)=\lvert g\rvert$ である。よって $\lvert f\rvert$ と $\lvert g\rvert$ はホモトピックである。位相空間のホモトピーは逆向きにたどれるので、$f\simeq g$ を与える列の各段の向きによらずに、$\lvert f\rvert$ と $\lvert g\rvert$ はホモトピックになる。
$X$ が可縮で $\operatorname{id}_X\simeq c_v$ なら、$\operatorname{id}_{\lvert X\rvert}=\lvert\operatorname{id}_X\rvert$ は定値写像 $\lvert c_v\rvert$ にホモトピックなので、$\lvert X\rvert$ は可縮空間である。$\square$

主定理 2:Kan 複体での同値

自明 Kan ファイブレーションの言葉は Kan–Quillenモデル構造 に従う。$X\to\Delta^0$ が自明 Kan ファイブレーションであるとは、すべての $n\ge0$ について、任意の単体的写像 $\partial\Delta^n\to X$ が $\Delta^n\to X$ に延びることである($n=0$ では $X$ が空でないこと)。

Kan 複体の可縮性

$K$ を Kan 複体とする。次の四条件は同値である。

  1. $\lvert K\rvert$ は可縮空間である($K$ は弱可縮である)。
  2. $K\to\Delta^0$ は自明 Kan ファイブレーションである。
  3. $K$ は空でなく、任意の頂点 $v$ について、単体的ホモトピー $\operatorname{id}_K\Rightarrow c_v$ と $c_v\Rightarrow\operatorname{id}_K$ がある。
  4. $K$ は可縮である。

1 ⇒ 2。 可縮空間は弱可縮なので、Kan–Quillenモデル構造 の命題「弱可縮な Kan 複体」による。
2 ⇒ 3。 $n=0$ の延長から $K$ は空でない。頂点 $v$ をとる。$K\times\partial\Delta^1\subset K\times\Delta^1$ は単射であり、Kan–Quillenモデル構造 の系「単射とアノダイン拡大の特徴づけ」の 1 により、単射は自明 Kan ファイブレーション $K\to\Delta^0$ に対して左持ち上げ性質をもつ。$K\times\{0\}$ の上で $\operatorname{id}_K$、$K\times\{1\}$ の上で $c_v$ となる写像 $K\times\partial\Delta^1\to K$ に持ち上げ性質を当てると、$K\times\Delta^1\to K$ への延長、つまり $\operatorname{id}_K\Rightarrow c_v$ が得られる。$0$ と $1$ の役割を入れ替えれば $c_v\Rightarrow\operatorname{id}_K$ も得られる。
3 ⇒ 4 は定義から明らかであり、4 ⇒ 1 は thm-css-realization である。$\square$

Ker26 Theorem 3.2.4.3(Tag 04GJ)は、Kan 複体について、可縮であること・連結でホモトピー群がすべて消えること・$K\to\Delta^0$ が自明 Kan ファイブレーションであることの同値を述べている。条件 3 が示すとおり、Kan 複体では一本のホモトピーで足り、向きも選べる。これは Kan 複体を値域とする単体的ホモトピーの関係 $\Rightarrow$ がそれ自身で同値関係になること(Kan–Quillenモデル構造 の補題「ホモトピーは同値関係」で $Y=\Delta^0$、$K=\emptyset$ とした場合)の現れである。

例

標準単体とホーン

$n\ge0$ について $\Delta^n$ は可縮である。$\Delta^n\times\Delta^1$ は順序集合 $[n]\times[1]$ の脈体であり(Kan–Quillenモデル構造 の補題「角柱の補題」の証明)、順序を保つ写像
$$ [n]\times[1]\to[n],\qquad (m,0)\mapsto m,\quad (m,1)\mapsto n $$
が単体的ホモトピー $h\colon\operatorname{id}\Rightarrow c_n$ を定める($(m,0)\le(m',1)$ なら $m\le m'\le n$)。$n\ge1$ なら、$h$ はホーン $\Lambda^n_n\times\Delta^1$ を $\Lambda^n_n$ に写すので($n$ でない値 $j$ をとらない鎖の像も $j$ をとらない)、$\Lambda^n_n$ も可縮である。

一本では縮まないホーン

$\Lambda^2_1$(辺 $01$ と $12$ だけからなる)は可縮だが、$\operatorname{id}\Rightarrow c_w$ も $c_w\Rightarrow\operatorname{id}$ も、どの頂点 $w$ についても存在しない。

ホモトピー $h\colon\operatorname{id}\Rightarrow c_w$ があれば、各頂点 $x$ について $h$ の $\{x\}\times\Delta^1$ への制限は $x$ から $w$ への辺である。$\Lambda^2_1$ の辺のうち始点と終点が異なるものは $01$ と $12$ だけなので、$w=0$ なら辺 $1\to0$、$w=1$ なら辺 $2\to1$、$w=2$ なら辺 $0\to2$ が必要になり、いずれも存在しない。$c_w\Rightarrow\operatorname{id}$ も同様に、$w$ から他の二頂点への辺が必要になり存在しない。
可縮であることは二本のホモトピーで示せる。$\varphi(m)=\max(m,1)$ とおくと、$(m,0)\mapsto m$、$(m,1)\mapsto\varphi(m)$ と $(m,0)\mapsto1$、$(m,1)\mapsto\varphi(m)$ はどちらも順序を保つ写像 $[2]\times[1]\to[2]$ で、$\Lambda^2_1\times\Delta^1$ を $\Lambda^2_1$ に写す(鎖の像が $\{0,1\}$ または $\{1,2\}$ に入ることを、鎖がどちらの辺に入るかで場合を分けて確かめる)。前者は $\operatorname{id}\Rightarrow f$、後者は $c_1\Rightarrow f$ を与える($f$ は $\varphi$ が定める写像)。よって $\operatorname{id}\simeq f\simeq c_1$ である。$\square$

thm-css-kan の条件 3 と比べると、$\Lambda^2_1$ が Kan 複体でないこと(単体的集合 の例「$\Lambda_1^2$ は準圏でない」)がここに現れている。

特異単体的集合と群の脈体

位相空間 $Y$ について、$\operatorname{Sing}Y$ は Kan 複体なので、thm-css-kan により $\operatorname{Sing}Y$ が可縮であることと $\lvert\operatorname{Sing}Y\rvert$ が可縮であることは同値である。これは $Y$ が弱可縮であることと同値である(Ker26 Example 3.6.3.5(Tag 013U)。この記事では証明しない)。群 $G$ の脈体 $BG$ は Kan 複体で、単連結空間(単体的集合) の例「群の脈体」により辺道群が $G$ と同型なので、$G$ が自明群でなければ $BG$ は単連結でなく、したがって可縮でない(可縮なら実現が可縮で単連結になる)。

主定理 3:弱可縮だが可縮でない例

単連結空間(単体的集合) の節「単体的ダンスハット」の単体的集合 $D$ を使う。$D_n$ は順序を保つ全射 $s\colon[n]\to[k]$($k=0,1,2$)の全体で、$\alpha\colon[m]\to[n]$ に対し $s\circ\alpha$ を全射 $s'$ と単射に分けて $\alpha^*s=s'$ と定める。非退化単体は $v=\mathrm{id}_{[0]}$、$e=\mathrm{id}_{[1]}$、$\sigma=\mathrm{id}_{[2]}$ の三つで、$d_i\sigma=e$($i=0,1,2$)、$d_ie=v$ である。$s_0v$ を $\bar v$、$s_0s_0v$ を $\bar{\bar v}$ と書く。$D_2$ の元と三辺 $(d_0,d_1,d_2)$ は次のとおりである。

$2$ 単体全射 $[2]\to[k]$$(d_0,d_1,d_2)$
$\bar{\bar v}$$(0,0,0)$$(\bar v,\bar v,\bar v)$
$s_0e$$(0,0,1)$$(e,e,\bar v)$
$s_1e$$(0,1,1)$$(\bar v,e,e)$
$\sigma$$(0,1,2)$$(e,e,e)$
単体的ダンスハット

$D$ は弱可縮であるが、可縮でない。

弱可縮であること。 幾何学的実現 の定理「幾何学的実現の CW 構造」により、$\lvert D\rvert$ は $1$ 骨格 $C=\lvert D\rvert^{(1)}$ に $2$ 胞体を一つ、接着写像 $\phi=\iota_\sigma|_{\partial\lvert\Delta^2\rvert}$ で貼った空間である。$C$ は $0$ 胞体一つと $1$ 胞体一つからなり、$\iota_e$ が誘導する $\lvert\Delta^1\rvert/\partial\lvert\Delta^1\rvert\to C$ はコンパクト空間から Hausdorff 空間への連続な全単射なので同相写像である。$\partial\lvert\Delta^2\rvert$ を $e_0\to e_1\to e_2\to e_0$ とたどると、$\phi$ は辺 $e_0e_1$・$e_1e_2$ の上で $\iota_{d_2\sigma}=\iota_e$、$\iota_{d_0\sigma}=\iota_e$、辺 $e_2e_0$ の上で $\iota_{d_1\sigma}=\iota_e$ を逆にたどるので、ループとしては $\iota_e\cdot\iota_e\cdot\overline{\iota_e}$ である。これは端点を固定して $\iota_e$ にホモトピックであり(基本群 の定理「基本亜群の公理と基本群の群構造」)、端点を固定したホモトピーは $\partial\lvert\Delta^2\rvert$ からの写像のホモトピーを与える。よって $\phi$ は、$\partial\lvert\Delta^2\rvert$ を一周して $C$ を一周する同相写像 $\phi'$ にホモトピックである。$(\lvert\Delta^2\rvert,\partial\lvert\Delta^2\rvert)$ は CW 対なので、Hat02 Proposition 0.18 により $\lvert D\rvert=C\sqcup_\phi\lvert\Delta^2\rvert$ は $C\sqcup_{\phi'}\lvert\Delta^2\rvert$ とホモトピー同値である。$\phi'$ が同相写像なので、$\lvert\Delta^2\rvert\to C\sqcup_{\phi'}\lvert\Delta^2\rvert$ はコンパクト空間から Hausdorff 空間への連続な全単射、つまり同相写像であり、$\lvert\Delta^2\rvert$ は凸なので可縮である。よって $\lvert D\rvert$ は可縮であり、$D$ は弱可縮である。
自己写像は二つだけであること。 $s\colon[n]\to[k]$ は、$[k]\to[2]$ の単射 $\iota$ について $s=(\iota\circ s)^*\sigma$ と書けるので、単体的写像 $f\colon D\to D$ は $f(\sigma)$ で決まる。$\sigma$ の三辺は等しいので $f(\sigma)$ の三辺も等しく、上の表から $f(\sigma)\in\{\bar{\bar v},\sigma\}$ である。よって $f$ は $\operatorname{id}_D$ か $c_v$ である。
$\operatorname{id}_D$ と $c_v$ のあいだにどちらの向きのホモトピーもないこと。 $D\times\Delta^1$ の単体を組 $(x,a)$($a$ は $0$ と $1$ の列)で書く。$h\colon\operatorname{id}_D\Rightarrow c_v$ があるとして、$p=h(\bar v,01)$、$k=h(e,01)$ とおく。$2$ 単体 $A=(s_0e,011)$ と $B=(s_1e,001)$ の三辺の像はそれぞれ $(\bar v,k,p)$ と $(p,k,e)$ である。表から、前者を三辺にもつ $2$ 単体は $\bar{\bar v}$ か $s_1e$ なので $(k,p)\in\{(\bar v,\bar v),(e,e)\}$、後者をもつものは $s_1e$ か $\sigma$ なので $(p,k)\in\{(\bar v,e),(e,e)\}$ である。よって $k=p=e$、$h(B)=\sigma$ であり、$h(\sigma,001)$ も三辺がすべて $e$ なので $\sigma$ である。そこで $3$ 単体 $T=(s_2\sigma,0001)$ を見ると、その四つの面は $B$、$B$、$(\sigma,001)$、$(\sigma,000)$ で、どれも $\sigma$ に写る。ところが $D$ の $3$ 単体で四つの面がすべて $\sigma$ のものはない。実際、全射 $s\colon[3]\to[k]$ の面が $\sigma$ になるのは $k=2$ のときだけであり、$[3]\to[2]$ の全射は一つの値だけを二度とるので、ほかの値をとる位置の成分を除いた面は全射でなくなり $\sigma$ でない。これは矛盾である。

面の計算と、逆向きの場合

単体的恒等式 $d_0s_0=d_1s_0=\mathrm{id}$、$d_2s_0=s_0d_1$、$d_0s_1=s_0d_0$、$d_1s_1=d_2s_1=\mathrm{id}$ から、$A$ の面は $(e,11)$、$(e,01)$、$(\bar v,01)$、$B$ の面は $(\bar v,01)$、$(e,01)$、$(e,00)$ である。$h$ は $(x,0\cdots0)$ を $x$ に、$(x,1\cdots1)$ を $c_v(x)$ に写すので、像は本文のとおりである。$d_0s_2=s_1d_0$、$d_1s_2=s_1d_1$、$d_2s_2=d_3s_2=\mathrm{id}$ から、$T$ の面は $(s_1e,001)=B$、$(s_1e,001)=B$、$(\sigma,001)$、$(\sigma,000)$ である。

$h\colon c_v\Rightarrow\operatorname{id}_D$ の場合は、$A$ の三辺の像が $(e,k,p)$、$B$ の三辺の像が $(p,k,\bar v)$ になる。前者をもつのは $s_0e$ か $\sigma$ で $(k,p)\in\{(e,\bar v),(e,e)\}$、後者をもつのは $\bar{\bar v}$ か $s_0e$ で $(p,k)\in\{(\bar v,\bar v),(e,e)\}$ なので、$k=p=e$、$h(A)=\sigma$、$h(\sigma,011)=\sigma$ である。$3$ 単体 $T'=(s_0\sigma,0111)$ の面は、$d_3s_0=s_0d_2$ などから $(\sigma,111)$、$(\sigma,011)$、$A$、$A$ で、どれも $\sigma$ に写り、同じ理由で矛盾する。


結論。 $\operatorname{id}_D\simeq c_v$ を与える列 $f_0=\operatorname{id}_D,\dots,f_m=c_v$ の各 $f_i$ は $\operatorname{id}_D$ か $c_v$ なので、どこかで $\operatorname{id}_D$ と $c_v$ が隣り合い、そのあいだにどちらかの向きのホモトピーがあることになる。これはいま示したことに反する。よって $D$ は可縮でない。$\square$

$D$ は Kan 複体でないので、これは thm-css-kan と矛盾しない。弱可縮だが可縮でない単体的集合の別の例として、Ker26 Exercise 3.1.7.21(Tag 00UE)は無限に続く有向な道 $0\to1\to2\to\cdots$ を挙げている。その実現は半直線で可縮であり、一方どちら向きのホモトピーでも各頂点の像は高々 $1$ しか動かないので、有限本をつないでも恒等写像は定値写像に届かない。上の $D$ は非退化単体が三つしかない有限の例である。

反例

外す条件反例成り立たなくなること
thm-css-kan の「Kan 複体」(1 ⇒ 2)$\Delta^1$弱可縮なら $X\to\Delta^0$ は自明 Kan ファイブレーション
thm-css-kan の「Kan 複体」(1 ⇒ 3)$\Lambda^2_1$弱可縮なら $\operatorname{id}\Rightarrow c_v$ が一本でとれる
thm-css-kan の「Kan 複体」(1 ⇒ 4)単体的ダンスハット $D$弱可縮なら可縮

1 行目:$\Delta^1$ は可縮(ex-css-simplex)なので弱可縮だが、頂点 $0,1$ を入れ替える $\partial\Delta^1\to\Delta^1$ は、$\Delta^1$ に $1$ から $0$ への辺がないので $\Delta^1$ に延びない(Kan–Quillenモデル構造 の節「条件を外した反例」の 1 行目と同じ確かめ)。2 行目は ex-css-horn、3 行目は thm-css-dunce である。

単連結性との関係

可縮な単体的集合は、thm-css-realization により実現が可縮なので、単連結空間(単体的集合) の主定理「実現の連結成分と基本群」によって単連結である。逆は成り立たない。$\partial\Delta^3$ は単連結だが実現が $S^2$ と同相なので弱可縮でなく(可縮空間 の注意「有限次元球面による反例」)、したがって可縮でもない。
位相空間でも、可縮であることと「点に崩していける」ことは別である。部屋が二つある家 は可縮な $2$ 次元の空間だが、単位正方形による胞体構造とその三角形分割には自由な辺がなく、一つめの崩壊すら始められない。

関連項目

参考文献

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