二項定理

同義語:binomial theorem

概要

二項定理(binomial theorem)とは、環の可換な 2 元 $x,y$ と非負整数 $n$ について $(x+y)^n=\sum_{k=0}^n\binom nk x^ky^{n-k}$ が成り立つという定理である。展開の係数 $\binom nk$ は $n$ 個の因子から $x$ を選ぶ $k$ 個の選び方の数であり、Pascal の三角形の第 $n$ 行をなす。$x,y$ が可換でなければ一般に成り立たない。$m$ 個の元の和に対しては多項係数による多項定理に一般化され、素数 $p$ を標数とする可換環では中間の係数が消えて $(x+y)^p=x^p+y^p$ となり、Frobenius 準同型や Fermat の小定理が導かれる。実数の指数に対しては $|x|<1$ で二項級数 $(1+x)^\alpha=\sum_k\binom\alpha kx^k$ が成り立つ。

$$\newcommand{C}[0]{\mathbb{C}} \newcommand{N}[0]{\mathbb{N}} \newcommand{Q}[0]{\mathbb{Q}} \newcommand{R}[0]{\mathbb{R}} \newcommand{Z}[0]{\mathbb{Z}} $$

前提知識: 二項係数, 環, 数学的帰納法

動機

$(x+y)^2=x^2+2xy+y^2$、$(x+y)^3=x^3+3x^2y+3xy^2+y^3$ のように、和の冪を展開すると係数 $1,2,1$ や $1,3,3,1$ が現れる。$(x+y)^n$ を $n$ 個の因子 $(x+y)$ の積として展開すると、各因子から $x$ か $y$ のどちらかを 1 つずつ選んで掛けた $2^n$ 個の項の和になる。$x$ と $y$ が可換なら、$x$ を $k$ 個選んだ項はどれも $x^ky^{n-k}$ に等しいので、$x^ky^{n-k}$ の係数は「$n$ 個の因子から $x$ を選ぶ $k$ 個を決める方法の数」、すなわち二項係数 $\binom nk$ になる。これが二項定理である。
係数を $n=0,1,2,\dots$ の順に並べたものは Pascal の三角形(Pascalの三角形)であり、二項定理は数え上げ(二項係数)と代数(和の冪の展開)を結ぶ。

仮定と定理

環 $A$ は単位元 $1$ をもつが、可換とは限らないとする。$a\in A$ の冪を $a^0:=1$、$a^{m+1}:=a^ma$ で定める($a=0$ でも $a^0=1$ とする)。整数 $m$ と $a\in A$ に対し、$m\cdot a$ は $a$ の $m$ 倍($m\ge0$ なら $a$ を $m$ 個足したもの、$m<0$ なら $-a$ を $-m$ 個足したもの)を表す。二項係数 $\binom nk$ は非負整数 $n$ と整数 $k$ に対し、$0\le k\le n$ なら $n!/(k!(n-k)!)$、それ以外なら $0$ と定める(二項係数 の記事の定義「二項係数」)。
定理の証明で使う準備として、可換な 2 元の冪が並べ替えられることを先に確かめる。

可換な元の積の並べ替え

環 $A$ の元 $x,y$ が $xy=yx$ を満たすとする。

  1. 非負整数 $i,j$ について $x^iy^j=y^jx^i$ である。
  2. 各 $z_1,\dots,z_n$ が $x$ か $y$ のどちらかであり、$z_i=x$ となる $i$ がちょうど $k$ 個あるとき、$z_1z_2\cdots z_n=x^ky^{n-k}$ である($n=0$ の空な積は $1$)。

1:まず $j$ についての帰納法で $xy^j=y^jx$ を示す。$j=0$ は $x\cdot1=1\cdot x$ である。$xy^j=y^jx$ なら $xy^{j+1}=(xy^j)y=y^jxy=y^jyx=y^{j+1}x$ である。次に $i$ についての帰納法で $x^iy^j=y^jx^i$ を示す。$i=0$ は明らかであり、$x^iy^j=y^jx^i$ なら $x^{i+1}y^j=x^i(xy^j)=x^iy^jx=y^jx^ix=y^jx^{i+1}$ である。
2:$n$ についての帰納法で示す。$n=0$ なら $k=0$ で両辺とも $1$ である。$n\ge1$ とし、$z_1\cdots z_{n-1}$ に含まれる $x$ の個数を $k'$ とすると、帰納法の仮定により $z_1\cdots z_{n-1}=x^{k'}y^{n-1-k'}$ である。$z_n=y$ なら $k=k'$ で、積は $x^{k'}y^{n-k'}=x^ky^{n-k}$ である。$z_n=x$ なら $k=k'+1$ で、1 により $x^{k'}y^{n-1-k'}x=x^{k'}xy^{n-1-k'}=x^{k}y^{n-k}$ である。$\square$

二項定理

$A$ を環、$x,y\in A$ を $xy=yx$ を満たす元、$n$ を非負整数とする。このとき
$$ (x+y)^n=\sum_{k=0}^n\binom nk\,x^ky^{n-k} $$
が成り立つ。とくに可換環では、すべての $x,y$ についてこの等式が成り立つ。

証明

展開と数え上げによる証明

$\{1,\dots,n\}$ の部分集合 $S$ に対し、$i\in S$ なら $z_i^S:=x$、$i\notin S$ なら $z_i^S:=y$ とおく。まず
$$ (x+y)^n=\sum_{S\subset\{1,\dots,n\}}z_1^Sz_2^S\cdots z_n^S $$
を $n$ についての帰納法で示す。$n=0$ では左辺は $1$、右辺は $S=\emptyset$ の空な積 $1$ だけである。$n\ge1$ なら、分配法則により
$$ (x+y)^n=(x+y)^{n-1}(x+y)=\sum_{S'\subset\{1,\dots,n-1\}}z_1^{S'}\cdots z_{n-1}^{S'}\,x+\sum_{S'\subset\{1,\dots,n-1\}}z_1^{S'}\cdots z_{n-1}^{S'}\,y $$
である。第 1 の和の項は $S=S'\cup\{n\}$ の項、第 2 の和の項は $S=S'$ の項であり、$\{1,\dots,n\}$ の部分集合は $n$ を含むか含まないかでちょうど一方に現れるので、右辺は $S$ 全体にわたる和になる。
lem-binomial-theorem-commute の 2 により、$|S|=k$ の項 $z_1^S\cdots z_n^S$ は $x^ky^{n-k}$ に等しい。$\{1,\dots,n\}$ の $k$ 元部分集合の個数は $\binom nk$ である(二項係数 の記事の命題「部分集合による特徴づけ」)。したがって $x^ky^{n-k}$ が $\binom nk$ 回足され、$(x+y)^n=\sum_{k=0}^n\binom nk\,x^ky^{n-k}$ を得る。$\square$

帰納法による証明

$n$ についての帰納法で示す。$n=0$ では両辺とも $1$ である。$n\ge1$ とし、$(x+y)^{n-1}=\sum_{k=0}^{n-1}\binom{n-1}k\,x^ky^{n-1-k}$ を仮定する。冪は右から掛けて $a^{m+1}=a^ma$ と定めたが、$x+y$ は自分自身と可換なので、lem-binomial-theorem-commute の 1 を 2 元とも $x+y$ にとって $i=1$、$j=n-1$ に使うと $(x+y)(x+y)^{n-1}=(x+y)^{n-1}(x+y)=(x+y)^n$ である。そこで仮定の式に左から $x+y$ を掛け、同じく補題の 1 から得られる $x\cdot x^k=x^kx=x^{k+1}$ を使うと
$$ (x+y)^n=\sum_{k=0}^{n-1}\binom{n-1}k\,x^{k+1}y^{n-1-k}+\sum_{k=0}^{n-1}\binom{n-1}k\,yx^ky^{n-1-k} $$
である。lem-binomial-theorem-commute の 1 により $yx^k=x^ky$ なので、第 2 の和の項は $\binom{n-1}k\,x^ky^{n-k}$ である。第 1 の和で $k+1$ を $k$ と置き直すと
$$ (x+y)^n=\sum_{k=1}^{n}\binom{n-1}{k-1}x^ky^{n-k}+\sum_{k=0}^{n-1}\binom{n-1}k\,x^ky^{n-k}=\sum_{k=0}^{n}\left(\binom{n-1}{k-1}+\binom{n-1}{k}\right)x^ky^{n-k} $$
である。最後の等号では、範囲外の二項係数 $\binom{n-1}{-1}$、$\binom{n-1}{n}$ が $0$ であることを使って和の範囲を $0\le k\le n$ にそろえた。Pascal の関係式 $\binom{n-1}{k-1}+\binom{n-1}k=\binom nk$(二項係数 の記事の命題「Pascal の関係式」)により、右辺は $\sum_{k=0}^n\binom nk\,x^ky^{n-k}$ である。$\square$

1 つ目の証明は係数が「選び方の数」であることを、2 つ目の証明は係数が Pascal の三角形の漸化式を満たすことを使っている。2 つ目の証明は 二項係数 の記事の定理「二項定理」の証明と同じ筋であり、ここでは非可換な環の中の可換な 2 元の場合に、並べ替えの使いどころ($yx^k=x^ky$)を明示した。どちらの証明でも $xy=yx$ は lem-binomial-theorem-commute を通してだけ使われる。
thm-binomial-theorem の等式を 二項定理(binomial theorem)といい、右辺を二項展開ともいう。$n=0$ では両辺とも $1$ である。$x=0$ のとき右辺は $k=0$ の項 $x^0y^n=y^n$ だけが残り、左辺 $y^n$ と一致する。ここで $0^0=1$ の約束(冪の定義 $a^0=1$)が使われている。$\binom nk=\binom n{n-k}$(二項係数 の記事の命題「Pascal の関係式」の対称性)なので、$x$ と $y$ を入れ替えた形 $\sum_k\binom nkx^{n-k}y^k$ も同じ値である。

例と反例

小さい指数の展開

$n=4,5$ では、係数は Pascal の三角形の第 $4$・第 $5$ 行 $1,4,6,4,1$ と $1,5,10,10,5,1$ である。
$$ (x+y)^4=x^4+4x^3y+6x^2y^2+4xy^3+y^4,\qquad(x-y)^5=x^5-5x^4y+10x^3y^2-10x^2y^3+5xy^4-y^5. $$
2 つ目は二項定理を $x$ と $-y$ に適用したもので、$(-y)^{5-k}=(-1)^{5-k}y^{5-k}$ から符号が交互に付く。整数で $x=10$、$y=1$ とすると $11^4=14641$ であり、桁に第 $4$ 行の係数がそのまま並ぶ。$11^5=161051$ では係数 $10$ が現れるので繰り上がりが起こり、桁は係数と一致しない。同様に $101^3=1030301$ では $x=100$ なので係数 $1,3,3,1$ が 2 桁おきに並ぶ。

可換な行列の和の冪

行列環(行列環)$M_2(\mathbb{R})$ で $A=\begin{pmatrix}a&1\\0&a\end{pmatrix}$ を考える。$A=aI+N$、$N=\begin{pmatrix}0&1\\0&0\end{pmatrix}$ と書くと、スカラー行列 $aI$ はすべての行列と可換であり、$N^2=0$ である。二項定理により、$n\ge1$ について
$$ A^n=\sum_{k=0}^n\binom nk N^k(aI)^{n-k}=a^nI+na^{n-1}N=\begin{pmatrix}a^n&na^{n-1}\\0&a^n\end{pmatrix} $$
である($k\ge2$ の項は $N^k=0$ で消える)。$N$ は冪零元であり、冪零元とそれに可換な元の和の冪は、このように有限個の項で計算できる。$3$ 次の場合、$N'=\begin{pmatrix}0&1&0\\0&0&1\\0&0&0\end{pmatrix}$ は $N'^3=0$ を満たし、$(I+N')^5=I+5N'+10N'^2=\begin{pmatrix}1&5&10\\0&1&5\\0&0&1\end{pmatrix}$ となって、二項係数 $\binom51=5$、$\binom52=10$ が成分に現れる。

反例:可換でない 2 つの行列

非可換な環では、一般に
$$ (x+y)^2=x^2+xy+yx+y^2 $$
であり、これが $x^2+2xy+y^2$ に等しいことは $yx=xy$ と同値である(差が $yx-xy$ である)。$M_2(\mathbb{R})$ で $E=\begin{pmatrix}1&0\\0&0\end{pmatrix}$、$F=\begin{pmatrix}0&1\\0&0\end{pmatrix}$ とすると、$EF=F$、$FE=0$、$E^2=E$、$F^2=0$ なので
$$ (E+F)^2=E+F=\begin{pmatrix}1&1\\0&0\end{pmatrix},\qquad E^2+2EF+F^2=E+2F=\begin{pmatrix}1&2\\0&0\end{pmatrix} $$
であり、両者は異なる。この例は「環の元の和の冪である」を満たすが「$xy=yx$」を満たさず、thm-binomial-theorem の可換性の仮定が省けないことを示す。環全体が可換である必要はなく、ex-binomial-theorem-matrix のように 2 元が可換であれば足りる。

反例:合成数の標数

下の prop-binomial-theorem-frobenius は、素数 $p$ について $p\cdot1=0$ となる可換環で $(x+y)^p=x^p+y^p$ を与える。$p$ を合成数 $n$ に替えると、一般には成り立たない。$\mathbb{Z}/4\mathbb{Z}$ では $4\cdot1=0$ であるが、$x=y=1$ とすると $(1+1)^4=16\equiv0$、$1^4+1^4=2\not\equiv0\pmod4$ である。二項展開 $(1+1)^4=1+4+6+4+1$ で中央の係数 $\binom42=6$ が $4$ で割り切れないために、中間の項が消え残る($6\equiv2$)。この例は「$n\cdot1=0$ となる可換環である」を満たすが「$n$ が素数である」を満たさず、含意「$n\cdot1=0$ なら $(x+y)^n=x^n+y^n$」を破る。
ただし、合成数 $n$ で $n\cdot1=0$ となる可換環でも、等式がたまたま成り立つことはある。したがってこの例が示すのは上の含意が一般には成り立たないことであり、「合成数では必ず成り立たない」ことではない。たとえば $\mathbb{Z}/2\mathbb{Z}$ は $4\cdot1=0$ を満たし、prop-binomial-theorem-frobenius($p=2$、$e=2$)により $(x+y)^4=x^4+y^4$ がすべての $x,y$ で成り立つ。標数そのものが合成数である例もある。$561=3\cdot11\cdot17$ について $\mathbb{Z}/561\mathbb{Z}$ の標数は $561$ であるが、すべての整数 $a$ で $a^{561}\equiv a\pmod{561}$ が成り立つ($p=3,11,17$ のそれぞれについて、$a$ が $p$ で割り切れれば$a^{561}$ と $a$ はともに法 $p$ で $0$ である。割り切れなければ $a$ は法 $p$ で可逆なので、cor-binomial-theorem-fermat の $a^p\equiv a$ の両辺に $a$ の逆元を掛けて $a^{p-1}\equiv1\pmod p$ を得るので、$p-1=2,10,16$ が $560$ を割り切ることから $a^{561}=a\cdot(a^{p-1})^{560/(p-1)}\equiv a\pmod p$ となる。$3,11,17$ は相異なる素数なので、中国剰余定理により法 $561$ でも $a^{561}\equiv a$ である)。よって $(x+y)^{561}=x+y=x^{561}+y^{561}$ がすべての $x,y\in\mathbb{Z}/561\mathbb{Z}$ で成り立つ。

帰結と一般化

係数の和と Pascal の三角形

係数の和

非負整数 $n$ について $\sum_{k=0}^n\binom nk=2^n$ である。$n\ge1$ なら $\sum_{k=0}^n(-1)^k\binom nk=0$ である。

整数環 $\mathbb{Z}$ で thm-binomial-theorem を $x=y=1$ に適用すると前半を、$x=-1$、$y=1$ に適用すると $(-1+1)^n=0^n$ が後半の左辺に等しいことを得る。$n\ge1$ なら $0^n=0$ である。$\square$

前半は、$n$ 元集合の部分集合の総数が $2^n$ であること(冪集合の元の個数)を、大きさごとに数えた等式と読める。後半で $n=0$ とすると左辺は $\binom00=1$、右辺にあたる $0^0$ も約束により $1$ であり、「$0$」とはならない。この境界の場合のために後半では $n\ge1$ を仮定する。これらの和の恒等式と、Vandermonde の畳み込みなどのさらなる恒等式は 二項係数 の記事にまとめられている。
多項式環 $\mathbb{Z}[x,y]$ で $(x+y)^n=(x+y)^{n-1}(x+y)$ の両辺の $x^ky^{n-k}$ の係数を比べると、$\binom nk=\binom{n-1}{k-1}+\binom{n-1}k$ が得られる。すなわち、$(x+y)^n$ の展開係数を二項係数の定義としてもよく、そのとき Pascal の関係式は冪の漸化式 $(x+y)^n=(x+y)^{n-1}(x+y)$ の言い換えになる。Pascal の三角形の第 $n$ 行は $(x+y)^n$ の係数の並びである。

多項定理

$m$ 個の元の和の冪も同様に展開できる。非負整数 $k_1,\dots,k_m$ で $k_1+\cdots+k_m=n$ となるものに対し、多項係数を
$$ \binom{n}{k_1,\dots,k_m}:=\frac{n!}{k_1!\,k_2!\cdots k_m!} $$
と定める。$m=2$ では $\binom{n}{k,\,n-k}=\binom nk$ である。

多項定理

環 $A$ の元 $x_1,\dots,x_m$($m\ge1$)がどの 2 つも可換であるとする。非負整数 $n$ について
$$ (x_1+x_2+\cdots+x_m)^n=\sum_{\substack{k_1+\cdots+k_m=n\\k_i\ge0}}\binom{n}{k_1,\dots,k_m}x_1^{k_1}x_2^{k_2}\cdots x_m^{k_m} $$
が成り立つ。とくに多項係数は整数である。

$m$ についての帰納法で示す。$m=1$ では右辺は $k_1=n$ の項 $\frac{n!}{n!}x_1^n$ だけであり、成り立つ。$m\ge2$ とし、$m-1$ 個の場合を仮定する。$y:=x_2+\cdots+x_m$ とおくと、$x_1$ は $x_2,\dots,x_m$ のそれぞれと可換なので $x_1y=yx_1$ である。thm-binomial-theorem により
$$ (x_1+y)^n=\sum_{k_1=0}^n\binom n{k_1}x_1^{k_1}y^{n-k_1} $$
であり、帰納法の仮定により $y^{n-k_1}=\sum_{k_2+\cdots+k_m=n-k_1}\binom{n-k_1}{k_2,\dots,k_m}x_2^{k_2}\cdots x_m^{k_m}$ である。係数の積は
$$ \binom n{k_1}\binom{n-k_1}{k_2,\dots,k_m}=\frac{n!}{k_1!\,(n-k_1)!}\cdot\frac{(n-k_1)!}{k_2!\cdots k_m!}=\binom{n}{k_1,\dots,k_m} $$
なので、主張を得る。多項係数は整数(二項係数と、帰納法の仮定により整数である多項係数)の積として現れるので整数である。$\square$

たとえば $(x+y+z)^2=x^2+y^2+z^2+2xy+2yz+2zx$ である。$x_1=\cdots=x_m=1$ とすると $m^n=\sum\binom{n}{k_1,\dots,k_m}$ であり、これは長さ $n$ の文字列を $m$ 種の文字で作る $m^n$ 通りを、各文字の個数ごとに数えた等式である(Sta12 Chapter 1)。

素数の標数と Frobenius 写像

p 乗が和を保つこと

$p$ を素数、$A$ を $p\cdot1=0$ を満たす可換環(零環でなければ標数 $p$ の可換環)とする。任意の $x,y\in A$ と $e\ge1$ について
$$ (x+y)^{p^e}=x^{p^e}+y^{p^e} $$
が成り立つ。

$e=1$ の場合を示す。$0< k< p$ なら $\binom pk$ は $p$ で割り切れる(二項係数 の記事の命題「素数に関する合同式」)ので、$\binom pk=pm$ と書くと $\binom pk\cdot x^ky^{p-k}=m\cdot(p\cdot1)\,x^ky^{p-k}=0$ である。thm-binomial-theorem の展開で $k=0,p$ 以外の項が消え、$(x+y)^p=x^p+y^p$ を得る。$e\ge2$ なら $e$ についての帰納法により $(x+y)^{p^e}=\bigl((x+y)^{p^{e-1}}\bigr)^p=\bigl(x^{p^{e-1}}+y^{p^{e-1}}\bigr)^p=x^{p^e}+y^{p^e}$ である。$\square$

したがって写像 $x\mapsto x^p$ は加法も乗法も保つ環準同型であり、これを Frobenius 準同型という(Frobenius写像 の記事の命題「Frobenius 自己準同型の基本性質」、標数 の記事の命題「標数 $p$ の可換環の Frobenius 準同型」も同じ計算で示している)。ex-binomial-theorem-composite のとおり、$p$ が素数であることは省けない。可換性も省けない(標数 の記事の注意「反例:標数が素数でない環や非可換環では冪が加法を保つとは限らない」)。

Fermat の小定理

素数 $p$ と任意の整数 $a$ について $a^p\equiv a\pmod p$ である。

$\mathbb{Z}/p\mathbb{Z}$ は $p\cdot1=0$ を満たす可換環である。$a\ge0$ について $a\bmod p$ の類 $\bar a$ が $\bar a^p=\bar a$ を満たすことを $a$ についての帰納法で示す。$a=0$ なら $0^p=0$ である($p\ge1$)。$\bar a^p=\bar a$ なら、prop-binomial-theorem-frobenius により $(\bar a+\bar1)^p=\bar a^p+\bar1^p=\bar a+\bar1$ である。負の $a$ については、$a+mp\ge0$ となる整数 $m$ をとると $a$ と $a+mp$ の類は等しいので、非負の場合に帰着する。$\square$

これは Fermatの小定理 の二項定理による証明である。

実数の指数への一般化

実数 $\alpha$ と非負整数 $k$ に対し、一般化二項係数 $\binom\alpha k:=\alpha(\alpha-1)\cdots(\alpha-k+1)/k!$ を考える(二項係数 の記事の定義「一般化二項係数」)。$\alpha$ が非負整数 $n$ なら $k>n$ で $\binom nk=0$ となり、次の級数は有限和の二項定理に戻る。

二項級数

実数 $\alpha$ と $|x|<1$ を満たす実数 $x$ について、級数 $\sum_{k=0}^\infty\binom\alpha kx^k$ は絶対収束し、
$$ (1+x)^\alpha=\sum_{k=0}^{\infty}\binom\alpha k\,x^k $$
が成り立つ。

$b_k:=\binom\alpha k$ とおくと、定義から $b_{k+1}=b_k\cdot\frac{\alpha-k}{k+1}$ である。$\alpha$ が非負整数なら $k>\alpha$ で $b_k=0$ となり、級数は有限和で thm-binomial-theorem に帰着するので、$\alpha$ は非負整数でないとする。このときすべての $b_k$ は $0$ でなく、$|b_{k+1}x^{k+1}|/|b_kx^k|=|x|\cdot|\alpha-k|/(k+1)\to|x|$($k\to\infty$)なので、比による判定法(Rud76 Theorem 3.34)により $|x|<1$ で級数は絶対収束する。したがって $f(x):=\sum_kb_kx^k$ は収束半径が $1$ 以上の冪級数であり、実冪級数は収束区間 $(-R,R)$ の内部で項別に微分できる(Rud76 Theorem 8.1)ので、$|x|<1$ で $f'(x)=\sum_k(k+1)b_{k+1}x^k$ である。$(k+1)b_{k+1}=(\alpha-k)b_k$ なので
$$ (1+x)f'(x)=\sum_{k}\bigl((k+1)b_{k+1}+kb_k\bigr)x^k=\sum_k\alpha b_kx^k=\alpha f(x) $$
である。$g(x):=f(x)(1+x)^{-\alpha}$ とおくと、$|x|<1$ で $g'(x)=(1+x)^{-\alpha-1}\bigl((1+x)f'(x)-\alpha f(x)\bigr)=0$ なので $g$ は定数であり、$g(0)=f(0)=b_0=1$ である。よって $f(x)=(1+x)^\alpha$ である。$\square$

二項級数の出典と例

右辺の級数を二項級数という。この等式は GKP94 §5.1 にも述べられている。$\alpha=-1$ では $\binom{-1}k=(-1)^k$ なので $\frac1{1+x}=\sum_k(-1)^kx^k$ であり、これは等比級数の和の公式である。$\alpha=\frac12$ では $\binom{1/2}{1}=\frac12$、$\binom{1/2}2=\frac{(1/2)(-1/2)}{2}=-\frac18$ なので $\sqrt{1+x}=1+\frac x2-\frac{x^2}8+\cdots$ である。
仮定 $|x|<1$ は省けない。$\alpha=-1$、$x=2$ とすると左辺は $(1+2)^{-1}=\frac13$ であるが、右辺 $\sum_k(-2)^k$ は項が $0$ に近づかないので収束しない。この例は「$\alpha$ が実数である」を満たすが「$|x|<1$」を満たさず、級数の等式が成り立たないことを示す。$\alpha$ が非負整数のときは級数が有限和になるので、すべての $x$ で成り立つ(thm-binomial-theorem)。

不等式への応用

実数 $x\ge0$ と整数 $n\ge0$ について、二項展開のすべての項は $0$ 以上なので、はじめの 2 項あるいは 3 項だけを残して
$$ (1+x)^n\ge1+nx,\qquad(1+x)^n\ge1+nx+\binom n2x^2 $$
が成り立つ。前者は $x\ge0$ の場合の Bernoulliの不等式 である。たとえば $1.01^{100}\ge1+100\cdot0.01=2$ である。後者から、$n\ge2$、$0< r<1$ と $x=1/r-1>0$ について $r^n=(1+x)^{-n}\le\bigl(\binom n2x^2\bigr)^{-1}$ となり、$nr^n\le\frac{2}{(n-1)x^2}\to0$($n\to\infty$)が従う。このように二項定理は、冪が指数的に増える(減る)速さを多項式と比べる評価に使われる。

関連項目

参考文献

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