特異ホモロジー(singular homology)とは、位相空間 $X$ の特異単体(標準単体 $\Delta^n$ からの連続写像)を基底とする自由アーベル群に、面の交代和で境界作用素を入れた特異鎖複体のホモロジー群 $H_n(X)$ である。連続写像は準同型を誘導し、$H_n$ は位相空間の圏からアーベル群の圏への関手になる。$H_0(X)$ は弧状連結成分ごとの $\mathbb{Z}$ の直和、一点では $n\neq0$ で $H_n=0$ であり、弧状連結な空間では $H_1(X)$ は基本群のアーベル化に一致する。ホモトピー不変性・対の長完全列・切除を満たす通常ホモロジー理論で、アーベル群 $G$ を係数とする $H_n(X;G)$ は普遍係数定理により整数係数の群から計算できる。
位相空間 $X$ の中に、標準単体を連続写像でいくらでも曲げたりつぶしたりして置いたものを特異単体という。特異単体の形式的な整数係数の和(特異鎖)に「面の交代和」で境界をとる操作を入れると鎖複体ができ、そのホモロジーが特異ホモロジー群 $H_n(X)$ である。特異単体はどんな位相空間にも十分たくさんあるので、$H_n(X)$ は三角形分割や胞体分割を選ばずに、すべての位相空間に対して定まり、連続写像に対して関手的にふるまう。
$H_0(X)$ は弧状連結成分ごとの $\mathbb{Z}$ の直和で、$H_1(X)$ は弧状連結な $X$ では基本群のアーベル化に一致する。この記事では、定義と関手性、$0$ 次と一点のホモロジー、弧状連結成分への分解、係数付きの特異ホモロジーを証明し、計算の道具となる諸定理(ホモトピー不変性・長完全列・切除)を主張と所在で整理する。
$n\ge0$ に対し、$\mathbb{R}^{n+1}$ の部分空間
$$
\Delta^n:=\Bigl\{(t_0,\dots,t_n)\in\mathbb{R}^{n+1}\ \Big|\ t_i\ge0,\ \sum_{i=0}^nt_i=1\Bigr\}
$$
を標準 $n$ 単体といい、標準基底の点 $e_0,\dots,e_n$ をその頂点という。$0\le i\le n$($n\ge1$)に対し、$i$ 番目の位置に座標 $0$ を挿入する連続写像
$$
d^i\colon\Delta^{n-1}\to\Delta^n,\qquad(t_0,\dots,t_{n-1})\mapsto(t_0,\dots,t_{i-1},0,t_i,\dots,t_{n-1})
$$
を $i$ 番目の面写像という。位相空間 $X$ への連続写像 $\sigma\colon\Delta^n\to X$ を $X$ の特異 $n$ 単体(singular $n$-simplex)といい、$\sigma\circ d^i$ をその $i$ 番目の面という。
$d^i$ の像は $\Delta^n$ の面 $\{t_i=0\}$ で、頂点 $e_i$ の向かいの面である。「特異」は、$\sigma$ が単射でなくてよく、像が単体の形をしていなくてよいことを表す。たとえば定値写像も特異単体である。$\Delta^0$ は 1 点なので特異 $0$ 単体は $X$ の点と同じであり、$\Delta^1$ を $\lambda\mapsto(1-\lambda,\lambda)$ で $[0,1]$ と同一視すると、特異 $1$ 単体は $X$ の道 $\sigma$ で、始点が $\sigma\circ d^1$、終点が $\sigma\circ d^0$ である。
位相空間 $X$ と $n\ge0$ に対し、$X$ の特異 $n$ 単体全体を基底とする自由アーベル群を $C_n(X)$ と書き、その元 $\sum_k m_k\sigma_k$(有限和、$m_k\in\mathbb{Z}$)を特異 $n$ 鎖という。$n<0$ では $C_n(X):=0$ とする。準同型 $\partial_n\colon C_n(X)\to C_{n-1}(X)$ を、特異 $n$ 単体 $\sigma$($n\ge1$)に対して
$$
\partial_n\sigma:=\sum_{i=0}^n(-1)^i\,\sigma\circ d^i
$$
と定めて線型に拡張し($n\le0$ では $\partial_n:=0$)、境界作用素という。
すべての $n$ について $\partial_{n-1}\circ\partial_n=0$ である。したがって $(C_\bullet(X),\partial)$ は鎖複体であり、これを $X$ の特異鎖複体という。
$n\le1$ では $\partial_{n-1}=0$ なので、$n\ge2$ とし、特異 $n$ 単体 $\sigma$ について示せばよい。
要点:面写像の関係式 $d^j\circ d^i=d^i\circ d^{j-1}$($i< j$)により、$\partial_{n-1}\partial_n\sigma=\sum_{i=0}^{n}\sum_{j=0}^{n-1}(-1)^{i+j}\sigma\circ d^i\circ d^j$ の項が符号の逆な対に分かれて打ち消し合う。
段 1(面写像の関係式).$i< j$ のとき $d^j\circ d^i=d^i\circ d^{j-1}\colon\Delta^{n-2}\to\Delta^n$ である。左辺は先に位置 $i$ に $0$ を挿入し、次に位置 $j$ に $0$ を挿入する。$i< j$ なので 2 回目の挿入は最初の $0$ より後ろで起こり、結果は「もとの座標列の位置 $i$ と位置 $j$ に $0$ が入った列」である。右辺は先に位置 $j-1$ に挿入し、次に位置 $i\le j-1$ に挿入するので、最初の $0$ は 1 つ後ろへずれて位置 $j$ に来て、同じ列になる。
段 2(打ち消し合い).上の二重和の添字の組 $(i,j)$ を $j< i$ のものと $j\ge i$ のものに分ける。$j< i$ の項は段 1 により $(-1)^{i+j}\sigma\circ d^j\circ d^{i-1}$ に等しい。これは $j\ge i$ の側の組 $(i',j')=(j,i-1)$ の項 $(-1)^{i'+j'}\sigma\circ d^{i'}\circ d^{j'}=(-1)^{i+j-1}\sigma\circ d^j\circ d^{i-1}$ と符号だけが逆である。対応 $(i,j)\mapsto(j,i-1)$ は $\{j< i\}$ から $\{j'\ge i'\}$($0\le i'\le n$、$0\le j'\le n-1$)への全単射で、逆は $(i',j')\mapsto(j'+1,i')$ である。よって全体の和は $0$ である。$\square$
$n\in\mathbb{Z}$ に対し、$Z_n(X):=\ker\partial_n$ の元を輪体、$B_n(X):=\operatorname{im}\partial_{n+1}$ の元を境界という。lem-singhom-boundary により $B_n(X)\subset Z_n(X)$ であり、商群
$$
H_n(X):=Z_n(X)/B_n(X)
$$
を $X$ の $n$ 次の(整係数)特異ホモロジー群(singular homology group)という。輪体 $z$ の類を $[z]$ と書く。
$n<0$ では $H_n(X)=0$ である。$X=\emptyset$ なら特異単体がないので、すべての $n$ で $H_n(\emptyset)=0$ である。次数 $0$ では $\partial_0=0$ なので $Z_0(X)=C_0(X)$ であり、$H_0(X)=C_0(X)/\operatorname{im}\partial_1$ は「点の形式的な和を、道の両端の差で割ったもの」である。
連続写像 $f\colon X\to Y$ に対し、$f_\sharp(\sigma):=f\circ\sigma$ を線型に拡張した準同型 $f_\sharp\colon C_n(X)\to C_n(Y)$ は $\partial f_\sharp=f_\sharp\partial$ を満たす(鎖写像である)。したがって準同型
$$
f_*\colon H_n(X)\to H_n(Y),\qquad f_*[z]:=[f_\sharp z]
$$
が定まり、$(g\circ f)_*=g_*\circ f_*$、$(\mathrm{id}_X)_*=\mathrm{id}$ が成り立つ。すなわち $H_n$ は位相空間の圏からアーベル群の圏への関手である。
特異 $n$ 単体 $\sigma$ について、$f\circ(\sigma\circ d^i)=(f\circ\sigma)\circ d^i$ なので
$$
f_\sharp(\partial\sigma)=\sum_i(-1)^if\circ\sigma\circ d^i=\partial(f\circ\sigma)=\partial f_\sharp(\sigma)
$$
であり、線型性により $f_\sharp\partial=\partial f_\sharp$ である。よって $f_\sharp$ は輪体を輪体に、境界を境界に送り($f_\sharp\partial c=\partial f_\sharp c$)、$f_*$ は代表元の取り方によらず定まる準同型である。$(g\circ f)\circ\sigma=g\circ(f\circ\sigma)$ と $\mathrm{id}_X\circ\sigma=\sigma$ から、鎖写像の段階で $(g\circ f)_\sharp=g_\sharp f_\sharp$、$(\mathrm{id}_X)_\sharp=\mathrm{id}$ が成り立ち、ホモロジーに移っても成り立つ。$\square$
輪体は「境界をもたない鎖」で、境界は「何かの縁になっている鎖」である。たとえば円周 $S^1$ を一周する道 $\gamma$($\gamma(0)=\gamma(1)$)は $\partial\gamma=\gamma(1)-\gamma(0)=0$ なので $1$ 輪体である。円板の中なら $\gamma$ は円板を埋める $2$ 鎖の境界になるが、円周の中には埋めるものがなく、$\gamma$ は $H_1(S^1)$ の $0$ でない類を定める。こうして $H_n(X)$ は「縁ではない輪体」すなわち $X$ の $n$ 次元の穴を測る。特異鎖複体そのものは巨大だが($X=[0,1]$ でも $C_1(X)$ の基底は非可算個ある)、ホモロジーは小さな不変量になる。
この節の結果は、すべて定義から直接示せる。$X$ の弧状連結成分(弧状連結空間)の集合を $\pi_0(X)$ と書き、成分 $\alpha$ を $X_\alpha$ と書く。
$X$ の弧状連結成分 $X_\alpha$ の包含写像が誘導する準同型の和
$$
\bigoplus_{\alpha\in\pi_0(X)}H_n(X_\alpha)\longrightarrow H_n(X)
$$
は、すべての $n$ で同型である。とくに $X$ が開かつ閉な部分集合の非交和 $X=\bigsqcup_\beta Y_\beta$ なら、$H_n(X)\cong\bigoplus_\beta H_n(Y_\beta)$ である。
$\Delta^n$ は凸なので弧状連結であり、その連続像も弧状連結である。よって特異 $n$ 単体 $\sigma$ の像はただ 1 つの弧状連結成分 $X_\alpha$ に含まれ、$\sigma$ は $X_\alpha$ の特異単体とみなせる。したがって $C_n(X)=\bigoplus_\alpha C_n(X_\alpha)$(基底の分割)である。$\sigma$ の面 $\sigma\circ d^i$ の像は $\sigma$ の像に含まれるので、$\partial$ は各 $C_\bullet(X_\alpha)$ を保つ。鎖複体が直和に分かれるので、$\ker\partial$ と $\operatorname{im}\partial$ も成分ごとに分かれ、$H_n(X)=\bigoplus_\alpha H_n(X_\alpha)$ である。この同一視は包含写像の誘導する準同型の和そのものである。
後半.各 $Y_\beta$ は開かつ閉なので、$Y_\beta$ と交わる弧状連結な部分集合は $Y_\beta$ に含まれる(弧状連結な集合を $Y_\beta$ とその補集合という 2 つの開集合で分けることはできない)。よって各弧状連結成分はどれか 1 つの $Y_\beta$ に含まれ、前半を $X$ と各 $Y_\beta$ に当てはめて直和をまとめ直せばよい。$\square$
$\varepsilon\colon C_0(X)\to\mathbb{Z}$、$\varepsilon\bigl(\sum_km_kx_k\bigr):=\sum_km_k$ を添加写像という。道 $\tau$ について $\varepsilon(\partial\tau)=\varepsilon(\tau(1)-\tau(0))=0$ なので、$\varepsilon\circ\partial_1=0$ である。
$X$ が空でなく弧状連結ならば、$\varepsilon$ は同型 $H_0(X)\cong\mathbb{Z}$ を誘導し、どの点 $x\in X$ の類 $[x]$ も生成元である。一般の $X$ では
$$
H_0(X)\cong\bigoplus_{\pi_0(X)}\mathbb{Z}
$$
であり、各成分の点の類が基底を与える。
$\varepsilon\partial_1=0$ なので $\varepsilon$ は $\bar\varepsilon\colon H_0(X)=C_0(X)/\operatorname{im}\partial_1\to\mathbb{Z}$ を誘導する。$X\ne\emptyset$ なので点 $x_0$ がとれ、$\varepsilon(x_0)=1$ だから $\bar\varepsilon$ は全射である。単射を示すには $\ker\varepsilon\subset\operatorname{im}\partial_1$ をいえばよい。$c=\sum_km_kx_k\in\ker\varepsilon$、すなわち $\sum_km_k=0$ とする。$X$ は弧状連結なので、各 $k$ について $x_0$ から $x_k$ への道 $\tau_k$ がある。$\partial\tau_k=x_k-x_0$ なので
$$
\partial\Bigl(\sum_km_k\tau_k\Bigr)=\sum_km_kx_k-\Bigl(\sum_km_k\Bigr)x_0=c
$$
であり、$c$ は境界である。よって $\bar\varepsilon$ は同型で、$\bar\varepsilon[x]=1$ からどの点の類も生成元である。一般の場合は prop-singhom-components による。$\square$
$X$ が 1 点のとき、$H_0(X)\cong\mathbb{Z}$ であり、$n\ne0$ では $H_n(X)=0$ である。
各 $n\ge0$ で特異 $n$ 単体は定値写像 $\sigma_n$ ただ 1 つなので $C_n(X)=\mathbb{Z}\sigma_n$ である。$n\ge1$ について $\sigma_n\circ d^i=\sigma_{n-1}$ だから
$$
\partial_n\sigma_n=\sum_{i=0}^n(-1)^i\sigma_{n-1}=\begin{cases}\sigma_{n-1}&(n\text{ が偶数})\\0&(n\text{ が奇数})\end{cases}
$$
である。$n\ge1$ が奇数なら $\ker\partial_n=C_n$ で、$\partial_{n+1}$ は同型なので $\operatorname{im}\partial_{n+1}=C_n$、よって $H_n=0$ である。$n\ge2$ が偶数なら $\partial_n$ は単射で $\ker\partial_n=0$、よって $H_n=0$ である。$n=0$ では $\partial_1=0$ なので $H_0=C_0\cong\mathbb{Z}$ である(prop-singhom-h0 からも従う)。$\square$
$X\ne\emptyset$ のとき、添加写像を次数 $-1$ に付け加えた鎖複体 $\cdots\to C_1(X)\to C_0(X)\xrightarrow{\varepsilon}\mathbb{Z}\to0$ のホモロジーを被約ホモロジー $\tilde H_n(X)$ という(被約ホモロジー)。$n\ge1$ では $\tilde H_n(X)=H_n(X)$ であり、prop-singhom-h0 の証明から $\tilde H_0(X)=\ker\bar\varepsilon$ は、成分ごとの係数の和をとる写像 $\bigoplus_{\pi_0(X)}\mathbb{Z}\to\mathbb{Z}$ の核であり、成分が有限個 $k$ なら $\mathbb{Z}^{k-1}$ と同型である。一点では $\tilde H_n=0$(すべての $n$)である。連続写像 $f$ は $\varepsilon f_\sharp=\varepsilon$ を満たすので、$\tilde H_n$ も関手である。
$X$ が離散空間なら、弧状連結成分は各点で、各点は一点なので、prop-singhom-components と prop-singhom-point により $H_0(X)\cong\bigoplus_{x\in X}\mathbb{Z}$、$n\ne0$ で $H_n(X)=0$ である。$\mathbb{Q}$($\mathbb{R}$ の部分空間)は離散空間ではないが、$\mathbb{Q}$ の中の道の像は $\mathbb{R}$ の連結な部分集合なので区間であり、2 点以上を含む区間は無理数を含むから、道はすべて定値である。よって弧状連結成分は各点であり、$H_0(\mathbb{Q})\cong\bigoplus_{\mathbb{Q}}\mathbb{Z}$、$n\ne0$ で $H_n(\mathbb{Q})=0$ である。
アーベル群 $G$ に対し、$C_n(X;G):=C_n(X)\otimes_{\mathbb{Z}}G$ に $\partial\otimes\mathrm{id}_G$ を入れた鎖複体のホモロジーを、$G$ を係数とする特異ホモロジー群 $H_n(X;G)$ という。
$C_n(X)$ は特異 $n$ 単体を基底とする自由アーベル群なので、$C_n(X;G)$ の元は有限和 $\sum_kg_k\sigma_k$($g_k\in G$)と一意に書け、境界は $\partial\bigl(\sum_kg_k\sigma_k\bigr)=\sum_k\sum_i(-1)^ig_k\,\sigma_k\circ d^i$ である。$H_n(X;\mathbb{Z})=H_n(X)$ であり、連続写像 $f$ は $f_\sharp\otimes\mathrm{id}_G$ により $f_*\colon H_n(X;G)\to H_n(Y;G)$ を誘導し、prop-singhom-functor と同じく関手になる。準同型 $G\to G'$ も $H_n(X;G)\to H_n(X;G')$ を誘導する。$G$ が体 $k$ なら $H_n(X;k)$ は $k$ ベクトル空間である。
アーベル群 $G$ について次が成り立つ。
1 は、$C_n(X;G)=\bigoplus_\alpha C_n(X_\alpha;G)$ が境界と両立することから、prf-singhom-components と同じ議論で従う。2 は 1 により $X$ が空でなく弧状連結な場合に帰着する。$\varepsilon_G\colon C_0(X;G)\to G$、$\sum_kg_kx_k\mapsto\sum_kg_k$ は $\partial_1$ の像の上で $0$ で、点 $x_0$ に $g$ をのせた $gx_0$ の像が $g$ なので全射である。$\sum_kg_k=0$ なら、prf-singhom-h0 の道 $\tau_k$ を使って $\partial\bigl(\sum_kg_k\tau_k\bigr)=\sum_kg_kx_k$ となるので、$\ker\varepsilon_G=\operatorname{im}\partial_1$ であり、$H_0(X;G)\cong G$ である。3 は prf-singhom-point の鎖複体の各項を $G$ に替えると、境界は $0$ と恒等写像が交互に並ぶ同じ形になることから従う。$\square$
高い次数では、$H_n(X;G)$ は整数係数のホモロジーだけから決まる。$C_\bullet(X)$ は各次数で自由なので、普遍係数定理 の定理「ホモロジーの普遍係数定理」により、自然な短完全列
$$
0\to H_n(X)\otimes G\to H_n(X;G)\to\operatorname{Tor}(H_{n-1}(X),G)\to0
$$
があり、これは(自然ではないが)分裂する(Hat02 Theorem 3A.3、p. 264。この記事では証明しない)。とくに $H_{n-1}(X)$ が自由アーベル群なら $H_n(X;G)\cong H_n(X)\otimes G$ である。$\operatorname{Tor}$ の項は、整数係数で捩れていた類が係数 $G$ で新しい輪体を生むことを表す(下の反例の表の 3 行目)。
弧状連結な $X$ と点 $x_0$ について、$x_0$ を基点とするループ $\gamma$ は $\partial\gamma=\gamma(1)-\gamma(0)=0$ を満たすので $1$ 輪体であり、$\gamma\mapsto[\gamma]$ は基本群からの準同型 $h\colon\pi_1(X,x_0)\to H_1(X)$ を定める(Hurewiczの定理 の命題「準同型性と自然性」)。次の定理は $H_1$ が基本群から決まることを述べる。
$X$ を弧状連結な位相空間、$x_0\in X$ とする。$h\colon\pi_1(X,x_0)\to H_1(X)$ は全射で、核は交換子群 $[\pi_1(X,x_0),\pi_1(X,x_0)]$ である。したがって $h$ は同型 $\pi_1(X,x_0)^{\mathrm{ab}}\cong H_1(X)$ を誘導する。
この定理は Hurewiczの定理 の定理「1 次元の Hurewicz の定理」で証明されている(Hat02 Theorem 2A.1、p. 166)。この記事では証明しない。
たとえば $\pi_1(S^1)\cong\mathbb{Z}$ はアーベル群なので $H_1(S^1)\cong\mathbb{Z}$ であり、$1$ 回まわるループの類が生成元である。
$H_n$ の計算は、次の性質を組み合わせて行う。部分空間 $A\subset X$ に対し $C_n(X,A):=C_n(X)/C_n(A)$ のホモロジーを相対ホモロジー $H_n(X,A)$ という(相対ホモロジーと長完全列)。どの性質も、主張の証明は表の右の欄の記事にある。
| 性質 | 主張 | 証明のある記事(所在) |
|---|---|---|
| ホモトピー不変性 | $f\simeq g\colon X\to Y$ なら $f_*=g_*\colon H_n(X)\to H_n(Y)$。ホモトピー同値は同型を誘導する | 特異ホモロジーのホモトピー不変性 の定理「特異ホモロジーのホモトピー不変性」(Hat02 Theorem 2.10、p. 111) |
| 対の長完全列 | $\cdots\to H_n(A)\to H_n(X)\to H_n(X,A)\xrightarrow{\partial}H_{n-1}(A)\to\cdots$ は完全で、対の写像について自然 | 相対ホモロジーと長完全列 の定理「対の長完全列」(Hat02 Theorem 2.16、p. 117) |
| 切除 | $Z\subset A\subset X$、$\operatorname{cl}Z\subset\operatorname{int}A$ なら $H_n(X\setminus Z,A\setminus Z)\cong H_n(X,A)$ | 切除定理(特異ホモロジー) の定理「切除定理」(Hat02 Theorem 2.20、p. 119) |
| Mayer–Vietoris | $\operatorname{int}A\cup\operatorname{int}B=X$ なら $\cdots\to H_n(A\cap B)\to H_n(A)\oplus H_n(B)\to H_n(X)\to H_{n-1}(A\cap B)\to\cdots$ は完全 | Mayer–Vietoris完全列 の定理「Mayer–Vietoris 完全列」(Hat02 §2.2、p. 149) |
| 次元 | 一点 $\mathrm{pt}$ で $H_n(\mathrm{pt})=0$($n\ne0$)、$H_0(\mathrm{pt})\cong\mathbb{Z}$ | この記事の prop-singhom-point |
| 加法性 | 開かつ閉な部分集合の非交和で $H_n(\bigsqcup Y_\beta)\cong\bigoplus H_n(Y_\beta)$ | この記事の prop-singhom-components |
これらは $H_n(-;G)$ でも成り立ち、相対特異ホモロジーが係数群 $G$ の通常ホモロジー理論であることを表す(Eilenberg–Steenrodの公理 の命題「特異ホモロジーはホモロジー理論」)。とくに可縮空間では $\tilde H_n=0$(すべての $n$)である(特異ホモロジーのホモトピー不変性 の系「可縮な空間の被約ホモロジー」)。球面については、Mayer–Vietoris 完全列により
$$
\tilde H_k(S^n)\cong\begin{cases}\mathbb{Z}&(k=n)\\0&(k\ne n)\end{cases}\qquad(n\ge0)
$$
が得られる(Mayer–Vietoris完全列 の命題「球面のホモロジー」、Hat02 Corollary 2.14、p. 114)。ここから次が従う。
$n\ge0$ とする。
1:可縮なら $\tilde H_n(S^n)=0$ となるが、$\tilde H_n(S^n)\cong\mathbb{Z}$ である。
2:$r$ があったとすると、$\tilde H_n$ の関手性により $r_*\circ i_*=(r\circ i)_*=\mathrm{id}$ が $\tilde H_n(S^n)\cong\mathbb{Z}$ の上で成り立つ。ところが $D^{n+1}$ は凸なので可縮で $\tilde H_n(D^{n+1})=0$ であり、$\mathrm{id}$ は $0$ の群を経由することになって $\mathbb{Z}=0$ となり矛盾する。$\square$
2 から、円板 $D^{n+1}$ の自分自身への連続写像はかならず不動点をもつ(Brouwerの不動点定理、Hat02 Corollary 2.15、p. 114)。不動点のない写像 $f$ があれば、$f(x)$ から $x$ への半直線が境界の球面と交わる点を $r(x)$ とおくことで、レトラクション $r$ が作れるからである。
$\Delta$ 複体の単体的ホモロジーと CW 複体の胞体ホモロジーは、どちらも特異ホモロジーと自然に同型である(単体的ホモロジー の定理「単体的ホモロジーと特異ホモロジーの一致」、胞体ホモロジー の定理「胞体ホモロジーと特異ホモロジーの同型」、Hat02 Theorem 2.27、p. 128、Theorem 2.35、p. 139)。
特異単体の全体は、面写像と退化写像($\Delta^{n+1}\to\Delta^n$ との合成)で単体的集合をなし、これが特異単体的集合 $\operatorname{Sing}X$ である。$C_\bullet(X)$ は $\operatorname{Sing}X$ の各次数の単体を基底とする自由アーベル群に、面の交代和を境界として入れたものにほかならない(May92 §2、p. 5)。退化した単体の生成する部分複体で割った正規化鎖複体も同じホモロジーをもつ(単体的対象 の定理「正規化定理と Dold–Kan 対応」の 1)。
上の主張の仮定を 1 つずつ外すと、次のように崩れる。
| 外す条件 | 反例 | 成り立たなくなること |
|---|---|---|
| 弧状連結(連結だけを仮定する) | 位相幾何学者の正弦曲線 $S$ | $H_0(S)\cong\mathbb{Z}$ |
| 基本群がアーベル群 | $S^1\vee S^1$(2 つの円周の一点和) | $\pi_1(X,x_0)\cong H_1(X)$ |
| $H_{n-1}(X)$ に捩れがない | $\mathbb{RP}^2$、$n=2$、$G=\mathbb{Z}/2$ | $H_n(X;G)\cong H_n(X)\otimes G$ |
| 逆向き:$H_n$ の同型 $\Rightarrow$ ホモトピー同値 | Warsaw 円から一点への写像 | ホモトピー同値 |
1 行目:$S=G\cup I$($G$ は $y=\sin(1/x)$、$0< x\le1$ のグラフ、$I=\{0\}\times[-1,1]$)は連結だが、弧状連結成分はちょうど $G$ と $I$ の 2 つである(位相幾何学者の正弦曲線 の命題「連結である」と系「二つの弧状連結成分」)。prop-singhom-h0 により $H_0(S)\cong\mathbb{Z}^2$ である。$H_0$ が数えるのは連結成分ではなく弧状連結成分である。
2 行目:$\pi_1(S^1\vee S^1)$ は 2 つの円周を一周するループ $a,b$ を基底とする自由群で(Hat02 Example 1.21、p. 43)、$ab\ne ba$ なのでアーベル群でない。thm-singhom-h1 により $H_1(S^1\vee S^1)$ はそのアーベル化 $\mathbb{Z}^2$ で、$h$ は交換子 $aba^{-1}b^{-1}\ne1$ を $0$ に送るので単射でない。
3 行目:$H_1(\mathbb{RP}^2)\cong\mathbb{Z}/2$、$H_2(\mathbb{RP}^2)=0$ であり、$\mathbb{Z}/2$ 係数では $H_2(\mathbb{RP}^2;\mathbb{Z}/2)\cong\mathbb{Z}/2$ である(実射影空間 の定理「実射影空間のホモロジー」の 1・2)。一方 $H_2(\mathbb{RP}^2)\otimes\mathbb{Z}/2=0$ である。差は普遍係数定理の $\operatorname{Tor}(H_1(\mathbb{RP}^2),\mathbb{Z}/2)=\operatorname{Tor}(\mathbb{Z}/2,\mathbb{Z}/2)\cong\mathbb{Z}/2$ から来る。
4 行目:Warsaw 円 $W$ は、すべての $n$ で $H_n(W)\to H_n(\mathrm{pt})$ が同型になるが、一点とホモトピー同値でない(特異ホモロジーのホモトピー不変性 の例「反例:ホモロジーは一点と同じだが可縮でない空間」)。ホモトピー不変性の逆は成り立たない。
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