多重グラフ

同義語:multigraph擬グラフpseudograph平行辺多重辺単純化(グラフ)基礎単純グラフunderlying simple graphKönigの辺彩色定理Petersenの2-因子定理

概要

多重グラフ(multigraph)とは、同じ 2 頂点を結ぶ辺(平行辺)が複数あってもよいグラフのことで、頂点の集合、辺の集合、各辺に端点の対を与える写像の組として定める。ループ(頂点から自身への辺)も許すものはループを許す多重グラフ(擬グラフ)という。非増加な非負整数の列が多重グラフの次数列であることは、総和が偶数で最大の項が残りの和以下であることと同値である。二部の多重グラフの辺彩色数は最大次数に等しく(König の辺彩色定理)、次数がすべて $2k$ の多重グラフの辺は $k$ 個の 2-因子に分かれる(Petersen の 2-因子定理)。

$$\newcommand{C}[0]{\mathbb{C}} \newcommand{div}[0]{\mathbin{÷}} \newcommand{N}[0]{\mathbb{N}} \newcommand{Q}[0]{\mathbb{Q}} \newcommand{R}[0]{\mathbb{R}} \newcommand{Z}[0]{\mathbb{Z}} $$

前提知識: グラフ, 次数(グラフ), 二部グラフ, Euler閉路

同じ 2 頂点を結ぶ辺が何本あってもよいグラフを多重グラフという。Königsberg の 7 本の橋のように、2 つの陸地を 2 本の橋が結んでいる状況は、辺を端点の対と同一視する単純グラフでは表せない。多重グラフでは辺を独立の対象として持ち、各辺にその端点の対を割り当てる。多重グラフは現実の網の目を表すためだけでなく、単純グラフについての定理を証明する途中にも自然に現れる。辺を縮めると平行な辺が生じ、二部グラフを正則なグラフに埋め込もうとすると同じ 2 頂点を何度も結ぶ必要が出てくるからである。この記事では、多重グラフの次数列を完全に特徴づけ、二部の多重グラフの辺は最大次数と同じ数の色で塗り分けられること(König の辺彩色定理)と、次数がすべて偶数 $2k$ の多重グラフの辺は、どの頂点でも次数が $2$ の全域部分グラフ $k$ 個に分かれること(Petersen の 2-因子定理)を証明する。

定義

多重グラフ

多重グラフ(multigraph)とは、集合 $V$、集合 $E$、写像 $\partial\colon E\to[V]^2$ の組 $G=(V,E,\partial)$ のことをいう。ここで $[V]^2$ は $V$ の相異なる 2 元からなる部分集合全体である。$V$ の元を頂点、$E$ の元を辺、$\partial(e)$ を辺 $e$ の端点の対という。$e\neq e'$ かつ $\partial(e)=\partial(e')$ となる辺を平行辺(parallel edges)、または多重辺という。
$\partial$ の値域を $[V]^2\cup\{\{v\}\mid v\in V\}$ に広げ、$\partial(e)=\{v\}$ となる辺($v$ におけるループ)も許したものを、ループを許す多重グラフまたは擬グラフ(pseudograph)という。

これは グラフ の記事の定義「向きと多重辺とループを許す変種」と同じ定義である。この記事では、特に断らない限り $V$ と $E$ は有限とする。ループも平行辺も持たない多重グラフは、辺をその端点の対と同一視すれば単純グラフにほかならない。

多重度と隣接行列

ループを許す多重グラフ $G=(V,E,\partial)$ について、相異なる $u,v\in V$ の多重度(multiplicity)$\mu_G(u,v)$ を $\partial(e)=\{u,v\}$ となる辺 $e$ の本数とし、$\mu_G(v,v)$ を $v$ におけるループの本数とする。$\mu(G):=\max_{u\neq v}\mu_G(u,v)$ を $G$ の多重度という。頂点に番号 $v_1,\dots,v_n$ を付けたとき、$(i,j)$ 成分が $\mu_G(v_i,v_j)$ の $n\times n$ 行列を $G$ の隣接行列という(BM76 §1.3、p. 7)。

頂点 $v$ の次数 $\deg_G(v)$ は、$v$ を端点に持つ辺の本数であり、ループは $2$ と数える(次数(グラフ) の記事の定義「多重グラフと有向グラフの次数」)。この約束で、次数の総和は辺の本数の 2 倍に等しい(同記事の定理「次数の総和と辺数」)。歩道は頂点と辺の交互列 $v_0,e_1,v_1,\dots,e_\ell,v_\ell$($\partial(e_i)=\{v_{i-1},v_i\}$)として定める(Euler閉路 の記事の定義「歩道と小道」)。

多重グラフの同型

ループを許す多重グラフ $G=(V,E,\partial)$ から $G'=(V',E',\partial')$ への同型とは、全単射の組 $\theta\colon V\to V'$、$\varphi\colon E\to E'$ であって、すべての $e\in E$ について $\partial'(\varphi(e))=\theta(\partial(e))$ となるものをいう(BM76 §1.2、p. 4)。ここで $\theta(\partial(e))$ は集合 $\partial(e)$ の $\theta$ による像である。

多重度による記述

ループを許す有限な多重グラフ $G,G'$ が同型であることと、全単射 $\theta\colon V\to V'$ で、すべての $u,v\in V$($u=v$ も含む)について $\mu_{G'}(\theta(u),\theta(v))=\mu_G(u,v)$ となるものが存在することは同値である。特に、多重グラフは頂点集合と多重度の関数によって同型を除いて定まり、頂点に番号を付ければ、成分が非負整数の対称行列によって同型を除いて定まる。

$(\theta,\varphi)$ が同型なら、$\varphi$ は $\partial(e)=\{u,v\}$ となる辺全体を $\partial'(e')=\{\theta(u),\theta(v)\}$ となる辺全体へ全単射に写すので、多重度は等しい。逆に $\theta$ が多重度を保つとする。$V$ の 1 元または 2 元の部分集合 $p$ ごとに、$E_p:=\{e\mid\partial(e)=p\}$ と $E'_{\theta(p)}$ は同じ個数の有限集合なので、全単射 $\varphi_p\colon E_p\to E'_{\theta(p)}$ がとれる。$E$ は $E_p$ たちの交わらない和であり、$E'$ も $E'_{\theta(p)}$ たちの交わらない和なので、$\varphi_p$ をつなげた $\varphi\colon E\to E'$ は全単射であり、$(\theta,\varphi)$ は同型である。$\square$

流儀の差

「多重グラフ」がループを含むかどうかは文献によって異なる。Levin の教科書は、平行辺とループの両方を許すものを multigraph とよぶ(Lev §2.1、p. 110)。Bondy–Murty の教科書は、平行辺とループを許すものを単に graph とよび、ループのない graph を loopless graph とよぶ(BM76 §1.1、pp. 1–3、§6.2、p. 95)。本サイトは グラフ の記事に従い、平行辺だけを許すものを多重グラフ、ループも許すものをループを許す多重グラフ(擬グラフ)とよんで区別する。定理を引くときは、ループを許すかどうかを確かめる必要がある。

直感

単純グラフは「結ばれているか否か」だけを記録するが、多重グラフは「何本で結ばれているか」も記録する。辺は端点の対のラベルではなく、個別の名前を持つ対象であり、同じ 2 頂点を結ぶ 2 本の辺は区別される。橋、通信回線、化学結合のように、結びつきの本数そのものに意味があるときに使う。また、グラフに操作を施すと多重グラフが自然に現れる。辺 $e$ を縮めて両端点を 1 点にまとめると、両端点の共通の隣接頂点への 2 本の辺が平行辺になる(全域木 の記事の定理「削除と縮約の漸化式」)。平面グラフの面を頂点とする双対グラフでは、2 つの面が 2 本以上の辺を共有すれば平行辺が生じる。次数や辺彩色のように辺を 1 本ずつ数える量は、多重グラフでは平行辺の分だけ大きくなり、単純グラフとは違う振る舞いをする。

例と反例

Königsberg の橋

Euler閉路 の記事の例「Königsberg の橋」では、中州 $A$ と北岸 $B$ を結ぶ橋が 2 本、$A$ と南岸 $C$ を結ぶ橋が 2 本ある。陸地を頂点、橋を辺とすると、$\mu(A,B)=\mu(A,C)=2$ の多重グラフになり、$\mu(G)=2$ である。次数は $5,3,3,3$ で、すべて奇数なので Euler 閉路を持たない(同記事の定理「Euler の定理」は多重グラフについて述べられている)。単純化すると次数は $3,2,2,3$ に変わる(ex-multigraph-konigsberg-simplification)。

双極

2 頂点 $u,v$ と、$u,v$ を結ぶ $k$ 本の辺からなる多重グラフを $D_k$ と書く(双極、dipole)。$\mu(D_k)=k$、両頂点の次数は $k$ であり、隣接行列は $\begin{pmatrix}0&k\\k&0\end{pmatrix}$ である。全域木は 1 本の辺だけからなるので、平行辺を区別して数えると $D_k$ の全域木は $k$ 個ある(BH11 §1.3.5、p. 6 の例)。多重グラフの全域木を数えるときは、平行辺を区別する。

辺の縮約

全域木 の記事の定理「削除と縮約の漸化式」の後の計算では、完全グラフ $K_4$ の辺 $12$ を縮めると、頂点 $z,3,4$ と、$z3$ を結ぶ 2 本、$z4$ を結ぶ 2 本、$34$ を結ぶ 1 本の辺からなる多重グラフになる。$K_4$ は単純グラフだが、縮約を考えると多重グラフまで対象を広げる必要がある。

太い三角形

$\mu\ge1$ とし、3 頂点 $a,b,c$ の各対を $\mu$ 本ずつの平行辺で結んだ多重グラフを $T_\mu$ とする。各頂点の次数は $2\mu$ なので最大次数 $\Delta$ は $2\mu$ であり、辺は $3\mu$ 本ある。どの 2 本の辺も端点を共有する(2 本の辺の端点の対はどちらも $\{a,b,c\}$ の 2 元部分集合なので、必ず共通の元を持つ)ので、辺彩色ではすべての辺に異なる色が必要であり、辺彩色数は
$$\chi'(T_\mu)=3\mu=\Delta+\mu=\tfrac32\Delta$$
である(BM76 図 6.3、p. 95)。単純グラフの辺は $\Delta+1$ 色で塗り分けられる(Vizing の定理、BM76 Theorem 6.2、p. 93)が、多重グラフでは $\mu\ge2$ のときこれが成り立たない。ループを持たない多重グラフでは $\Delta+\mu$ 色で足りる(BM76 §6.2 末尾、p. 95)ので、$T_\mu$ はその上界の等号の例である(いずれもこの記事では証明しない)。

次の表は、多重グラフに関する定理の仮定を外した反例である。1・2 行目の定理は thm-multigraph-degree-sequence、3 行目は thm-multigraph-konig-edge-coloring、4・5 行目は thm-multigraph-petersen である。

外す条件反例成り立たなくなること
ループがない1 頂点と、その上のループ 1 本最大の次数は他の次数の和以下(thm-multigraph-degree-sequence)。ここでは次数列 $(2)$ で $2>0$
平行辺を許す(単純グラフに限る)次数列 $(3,3)$総和が偶数で最大の項が残りの和以下なら実現できる。$D_3$ は実現するが、2 頂点の単純グラフの次数は $1$ 以下なので単純グラフでは実現できない
二部である太い三角形 $T_\mu$辺彩色数は最大次数に等しい。ここでは $3\mu>2\mu$
次数が偶数完全グラフ $K_4$(3 正則)辺全体が 2-因子(次数がすべて $2$ の全域部分グラフ)に分かれる。$K_4$ の辺は $6$ 本、2-因子の辺は $4$ 本なので分けられない
次数が一定頂点 $c$ を共有する 2 つの三角形 $c,a,b$ と $c,d,e$(次数 $4,2,2,2,2$ で、すべて偶数)2-因子がある。$a$ の辺は $ab,ac$ だけなので 2-因子は両方を含み、$b,d,e$ でも同様なので $c$ の次数が $4$ になって、2-因子はない

4 行目の $K_4$ には 2-因子(4 角形)自体はあるが、辺全体を 2-因子に分けることはできない。$n$ 頂点の 2-因子の辺は $n$ 本であり(次数の総和 $2n$ の半分)、3 正則グラフの辺は $3n/2$ 本で $n$ の倍数でないからである。

性質

単純化

ループを許す多重グラフから平行辺とループを取り除くと単純グラフが得られる。

単純化

ループを許す多重グラフ $G=(V,E,\partial)$ に対し、単純グラフ
$$G^{\mathrm s}:=\bigl(V,\ \{\partial(e)\mid e\in E,\ \partial(e)\in[V]^2\}\bigr)$$
を $G$ の単純化(simplification)または基礎単純グラフ(underlying simple graph)という。すなわち、ループをすべて除き、同じ頂点対を結ぶ平行辺を 1 本にまとめたものである(BM76 §1.4、p. 8)。

単純化の基本性質

$G=(V,E,\partial)$ をループを許す有限な多重グラフ、$G^{\mathrm s}$ をその単純化とする。

  1. 相異なる $u,v\in V$ について、$G$ に $\partial(e)=\{u,v\}$ となる辺 $e$ があることと、$uv$ が $G^{\mathrm s}$ の辺であることは同値である。
  2. $u,v\in V$ を結ぶ歩道が $G$ にあることと、$G^{\mathrm s}$ にあることは同値である。特に $G$ と $G^{\mathrm s}$ の連結成分の頂点集合は一致する。
  3. すべての $v\in V$ について $\deg_{G^{\mathrm s}}(v)\le\deg_G(v)$ である。すべての $v$ で等号が成り立つことと、$G$ がループも平行辺も持たないことは同値である。

1 は単純化の定義そのものである。
2:$G$ の歩道 $v_0,e_1,v_1,\dots,e_\ell,v_\ell$ から、ループ $e_i$(このとき $v_{i-1}=v_i$)を通る段を取り除くと、残った頂点の列の隣り合う 2 頂点は相異なり、1 により $G^{\mathrm s}$ で隣接する。よってこれは $G^{\mathrm s}$ の同じ 2 頂点を結ぶ歩道である。逆に $G^{\mathrm s}$ の歩道 $v_0,\dots,v_\ell$ の各段 $v_{i-1}v_i$ に対し、1 により $\partial(e_i)=\{v_{i-1},v_i\}$ となる $G$ の辺 $e_i$ を選べば、$v_0,e_1,v_1,\dots,e_\ell,v_\ell$ は $G$ の歩道である。
3:$\deg_{G^{\mathrm s}}(v)$ は $v$ に隣接する頂点の個数であり、これは $v$ に接続するループでない辺 $e$ の端点の対 $\partial(e)$ の相異なるものの個数に等しい。したがって $\deg_{G^{\mathrm s}}(v)$ は、$v$ に接続するループでない辺の本数以下であり、それは $\deg_G(v)$ 以下である。$v$ で等号が成り立つのは、$v$ にループがなく、かつ $v$ に接続するループでない辺の $\partial$ の値が互いに異なる($v$ を端点とする平行辺がない)ときに限る。$G$ がループも平行辺も持たなければすべての $v$ でこれが成り立つ。逆にすべての $v$ で等号が成り立てば、ループはなく、平行辺 $e\neq e'$、$\partial(e)=\partial(e')=\{u,w\}$ があれば $u$ で不等号が真になるので、平行辺もない。$\square$

Königsberg の橋の単純化

ex-multigraph-konigsberg の多重グラフは、頂点 $A,B,C,D$ と、$AB$ を結ぶ 2 本、$AC$ を結ぶ 2 本、$AD,BD,CD$ を結ぶ 1 本ずつの計 7 本の辺を持ち、次数は $5,3,3,3$ である。その単純化は辺 $AB,AC,AD,BD,CD$ を持つ単純グラフ(完全グラフ $K_4$ から辺 $BC$ を除いたもの)で、次数は $3,2,2,3$ になる。

prop-multigraph-simplification の 2 により、連結性は単純化で変わらない。一方、ex-multigraph-konigsberg-simplification のように次数は変わるので、Euler閉路 の存在のように次数の偶奇に依存する性質は単純化で保たれない。Königsberg の多重グラフは Euler 閉路を持たないが、その単純化も奇数次数の頂点 $A,D$ を持つので Euler 閉路を持たない。ただし奇数次数の頂点がちょうど 2 個になるので、単純化には一筆書き(Euler 路)がある(Euler閉路 の記事の系「一筆書きの条件」)。

次数列

非負整数の有限列 $(d_1,\dots,d_n)$ が多重グラフ $G$ の次数列であるとは、$G$ の頂点に番号 $v_1,\dots,v_n$ を付けて $\deg_G(v_i)=d_i$ とできることをいう。単純グラフの次数列の判定は 次数(グラフ) の記事の定理「次数列の再帰的判定(Havel-Hakimi)」と定理「次数列の不等式による特徴付け(Erdős-Gallai)」にある。多重グラフではずっと簡単な条件になる。

多重グラフの次数列

$d_1\ge d_2\ge\dots\ge d_n\ge0$($n\ge1$)を整数とする。

  1. $(d_1,\dots,d_n)$ がループを許す多重グラフの次数列であることと、$d_1+\dots+d_n$ が偶数であることは同値である(BM76 Exercise 1.5.5、p. 11)。
  2. $(d_1,\dots,d_n)$ が(ループのない)多重グラフの次数列であることと、$d_1+\dots+d_n$ が偶数で、かつ $d_1\le d_2+\dots+d_n$ であることは同値である。

$s:=d_1+\dots+d_n$ とおく。どちらの場合も、$s$ が偶数であることの必要性は次数の総和が辺の本数の 2 倍であること(次数(グラフ) の記事の定理「次数の総和と辺数」)による。
1 の十分性:$s$ が偶数なら、奇数の $d_i$ は偶数個ある。各 $v_i$ に $\lfloor d_i/2\rfloor$ 本のループを置き、奇数の $d_i$ を持つ頂点を 2 個ずつ組にして、各組を 1 本の辺で結ぶ。ループは次数に $2$ ずつ加えるので、$v_i$ の次数は $2\lfloor d_i/2\rfloor$ に、奇数なら $1$ を加えたもの、すなわち $d_i$ になる。
2 の必要性:$v_1$ に接続する辺はループでないので、それぞれ $v_1$ 以外にもう 1 つの端点を持ち、その端点の次数に $1$ を加える。よって $d_1$ は $v_2,\dots,v_n$ の次数の和以下である。
2 の十分性:$s$ についての帰納法による。$s=0$ なら辺のない多重グラフでよい。$s>0$ とし、$s$ より小さい総和の列では主張が成り立つとする。$d_1>0$ であり、$d_1\le d_2+\dots+d_n$ から $d_2+\dots+d_n\ge1$、したがって $d_2\ge1$ である。$d_1,d_2$ をそれぞれ $1$ 減らした列を並べ替えて、新しい列 $(d'_1,\dots,d'_n)$ を作る。その総和は $s-2$ で偶数である。新しい列の最大値を $M'$ とし、$2M'\le s-2$(最大値が残りの和以下であることと同値)を示す。

  • $M'=d_1-1$ の場合:$2d_1\le s$ から $2(d_1-1)\le s-2$ である。
  • $M'\neq d_1-1$ の場合:$M'$ は $d_2-1$ でもない($d_2-1\le d_1-1$)ので、$M'=d_3>d_1-1$($n\ge3$)であり、$d_1\ge d_2\ge d_3\ge d_1$ から $d_1=d_2=d_3=M'$ である。$s\ge3M'$ なので、$M'\ge2$ なら $s-2\ge3M'-2\ge2M'$ である。$M'=1$ なら $s\ge3$ で $s$ は偶数なので $s\ge4$、よって $s-2\ge2=2M'$ である。
    帰納法の仮定により、新しい列を次数列とするループのない多重グラフがある。その中で、次数が $d_1-1$、$d_2-1$ にあたる頂点を $v_1,v_2$ とし、$v_1$ と $v_2$ を結ぶ辺を 1 本加えれば、ループを作らずに次数列 $(d_1,\dots,d_n)$ が得られる。$\square$

例えば $(3,3)$ は 2 の条件を満たし、双極 $D_3$ が実現する。$(4,1,1)$ は $4>1+1$ なので多重グラフの次数列ではないが、総和が偶数なので、$v_1$ のループ 1 本と辺 $v_1v_2$、$v_1v_3$ によりループを許す多重グラフの次数列になる。$(3,3,3,3)$ は単純グラフ $K_4$ の次数列でもあるが、$(3,3)$ や $(3,3,2)$ は単純グラフの次数列ではない(2 頂点、3 頂点の単純グラフの次数はそれぞれ $1$、$2$ 以下)。この定理の条件は、$n\le4$、各項 $6$ 以下の列について、多重度を動かしてすべての多重グラフを作る計算機の計算でも確かめた。

二部多重グラフの辺彩色

多重グラフ $G$ のマッチングとは、どの 2 本も端点を共有しないループでない辺の集合であり、すべての頂点を端点に持つマッチングを完全マッチングという。ループのない多重グラフの辺彩色と辺彩色数 $\chi'(G)$ は、単純グラフの場合(彩色 の記事の定義「辺彩色」)と同じく、端点を共有する相異なる 2 辺に異なる色を塗る写像と、その色数の最小値で定める。平行辺は端点を共有するので異なる色を持つ。多重グラフが二部であるとは、その単純化が二部グラフであることをいう。

正則二部多重グラフの完全マッチング

$k\ge1$ とし、$H$ を部集合 $X,Y$ を持つループのない有限な二部多重グラフで、すべての頂点の次数が $k$ であるとする。このとき $H$ は完全マッチングを持つ。

どの辺も $X$ の頂点をちょうど 1 つ端点に持つので $\lvert E\rvert=k\lvert X\rvert$、同様に $\lvert E\rvert=k\lvert Y\rvert$ であり、$k\ge1$ から $\lvert X\rvert=\lvert Y\rvert$ である。$S\subset X$ とし、$S$ に隣接する頂点の集合を $N(S)$ とする。$S$ の頂点に接続する辺はちょうど $k\lvert S\rvert$ 本あり、その $Y$ 側の端点はすべて $N(S)$ に属するので、これらは $N(S)$ の頂点に接続する $k\lvert N(S)\rvert$ 本の辺の一部である。よって $\lvert N(S)\rvert\ge\lvert S\rvert$ である。
$H$ の単純化 $H^{\mathrm s}$ は部集合 $X,Y$ の二部グラフで、各頂点の隣接頂点の集合は $H$ と同じなので、$H^{\mathrm s}$ でも $\lvert N(S)\rvert\ge\lvert S\rvert$ がすべての $S\subset X$ について成り立つ。マッチング(グラフ理論) の記事の定理「Hall の条件によるマッチングの存在」により、$H^{\mathrm s}$ には $X$ の頂点をすべて端点に持つマッチング $M^{\mathrm s}$ がある。$M^{\mathrm s}$ の各辺 $xy$ について、$H$ で $x,y$ を結ぶ辺を 1 本ずつ選べば $H$ のマッチングが得られ、$\lvert X\rvert=\lvert Y\rvert$ なのでそれは完全マッチングである。$\square$

単純な正則二部グラフについては同じ結論が マッチング(グラフ理論) の記事の系「正則二部グラフの完全マッチング」にあり、BM76 Corollary 5.2(p. 73)は多重グラフを含む形で述べている。次の定理では、単純な二部グラフを扱う場合でも、証明の途中で多重グラフが必要になる。

König の辺彩色定理

$G$ をループのない有限な二部多重グラフとし、その最大次数を $\Delta$ とする。このとき $\chi'(G)=\Delta$ である(BM76 Theorem 6.1、p. 93)。

1 頂点に接続する辺は互いに端点を共有するので $\chi'(G)\ge\Delta$ である。$\Delta=0$ なら辺がないので $\chi'(G)=0$ である。以下 $\Delta\ge1$ とし、部集合を $X,Y$ とする。
段 1(正則な多重グラフへの埋め込み)。頂点の少ない側に孤立点を加えて $\lvert X\rvert=\lvert Y\rvert$ とする。次の操作を繰り返す:次数が $\Delta$ 未満の頂点があれば、それを $X$ 側の $x$ とし($Y$ 側なら役割を入れ替える)、次数が $\Delta$ 未満の $y\in Y$ を選んで、$x$ と $y$ を結ぶ辺を 1 本加える。そのような $y$ は必ずある。実際、$X$ 側の次数の和も $Y$ 側の次数の和も辺の本数に等しく、$X$ 側の和は $\Delta\lvert X\rvert$ 未満なので、$Y$ 側の和も $\Delta\lvert Y\rvert=\Delta\lvert X\rvert$ 未満だからである。加える辺は既存の辺と平行になりうるが、ループにはならず、二部性と「次数が $\Delta$ 以下」は保たれる。辺の本数は毎回 $1$ 増え、$\Delta\lvert X\rvert$ を超えないので、操作は有限回で止まる。止まったとき、すべての頂点の次数が $\Delta$ の二部多重グラフ $G^*$ が得られ、$G$ はその部分グラフである。
段 2(完全マッチングへの分解)。$\Delta$ についての帰納法で、$\Delta$ 正則なループのない二部多重グラフの辺集合は、$\Delta$ 個の完全マッチング $M_1,\dots,M_\Delta$ の交わらない和であることを示す。$\Delta=1$ なら辺集合そのものが完全マッチングである。$\Delta\ge2$ なら lem-multigraph-regular-matching により完全マッチング $M_1$ があり、$M_1$ の辺を除くと各頂点の次数がちょうど $1$ 減って $(\Delta-1)$ 正則な二部多重グラフになるので、帰納法の仮定が使える。
段 3。$G^*$ の辺集合を段 2 のように $M_1,\dots,M_\Delta$ に分け、$M_i$ の辺に色 $i$ を塗る。同じ色の辺はマッチングに属するので端点を共有せず、これは $G^*$ の $\Delta$ 色の辺彩色である。それを $G$ の辺に制限すれば $G$ の辺彩色が得られ、$\chi'(G)\le\Delta$ である。$\square$

段 1 で加える辺は、$G$ が単純グラフでも既存の辺と平行になることがある。例えば、1 本の辺 $x_1y_1$ と 4 角形 $x_2,y_2,x_3,y_3$ の非交和($X=\{x_1,x_2,x_3\}$、$Y=\{y_1,y_2,y_3\}$、$\Delta=2$)では、次数が $2$ 未満の頂点は $x_1$ と $y_1$ だけで、両者はすでに隣接しているので、$x_1y_1$ に平行な辺を加えるほかない。単純グラフの範囲で正則な二部グラフに埋め込むには頂点を増やす工夫が要るが、多重グラフを許せば段 1 の操作だけで済む。ex-multigraph-fat-triangle は、二部性の仮定を外すと結論が成り立たないことを示す。

Petersen の 2-因子定理

ループのない多重グラフ $G=(V,E,\partial)$ の辺の部分集合 $F$ について、$(V,F,\partial|_F)$ のすべての頂点の次数が $r$ のとき、$F$(またはこの全域部分グラフ)を $G$ の $r$-因子($r$-factor)という(BM76 Exercise 5.1.5、p. 71)。1-因子は完全マッチングである。2-因子は、多重グラフでは 2 本の平行辺が長さ $2$ の閉路をなす場合も含む。

Petersen の 2-因子定理

$k\ge1$ とし、$G$ をループのない有限な多重グラフで、すべての頂点の次数が $2k$ であるとする。このとき $G$ は 2-因子を持ち、さらに $G$ の辺集合は $k$ 個の 2-因子の交わらない和である。

段 1(向き付け)。$G$ の各連結成分 $C$ は、すべての頂点の次数が $2k\ge2$ なので辺を持ち、次数はすべて偶数である。Euler閉路 の記事の定理「Euler の定理」により、$C$ は Euler 閉路 $W=(w_0,e_1,w_1,\dots,e_\ell,w_\ell)$($w_\ell=w_0$)を持つ。各辺 $e_i$ に $w_{i-1}$ から $w_i$ への向きを付ける。ループがないので $w_{i-1}\neq w_i$ である。頂点 $v$ から出る辺の本数は $w_{i-1}=v$ となる $i$($1\le i\le\ell$)の個数、$v$ に入る辺の本数は $w_i=v$ となる $i$ の個数である。$w_\ell=w_0$ なので列 $(w_0,\dots,w_{\ell-1})$ と $(w_1,\dots,w_\ell)$ は同じ頂点を同じ回数含み、出る辺と入る辺の本数は等しい。$W$ は $v$ に接続する $2k$ 本の辺をちょうど 1 回ずつ通り、各辺は $v$ から出るか $v$ に入るかのちょうど一方なので、出る辺も入る辺も $k$ 本である。すべての成分で向きを付ける。
段 2(二部多重グラフ)。各頂点 $v$ を 2 つの頂点 $v^+,v^-$ に分け、$V^+:=\{v^+\}$、$V^-:=\{v^-\}$ を部集合とする多重グラフ $H$ を、$G$ と同じ辺集合 $E$ と、$u$ から $w$ へ向いた辺 $e$ に $\partial_H(e):=\{u^+,w^-\}$ を与えて作る。$H$ はループのない二部多重グラフで、$\deg_H(v^+)$ は $v$ から出る辺の本数、$\deg_H(v^-)$ は $v$ に入る辺の本数なので、$H$ の次数はすべて $k$ である。lem-multigraph-regular-matching により、$H$ は完全マッチング $F\subset E$ を持つ。
段 3(2-因子)。$G$ の頂点 $v$ に接続する $F$ の辺を数える。$v$ に接続する辺は、$v$ から出る辺($H$ で $v^+$ に接続する)か $v$ に入る辺($H$ で $v^-$ に接続する)のちょうど一方である。$F$ は $H$ の完全マッチングなので、$F$ のうち $v^+$ に接続する辺と $v^-$ に接続する辺はちょうど 1 本ずつある。よって $F$ のうち $v$ に接続する辺はちょうど 2 本であり、$F$ は $G$ の 2-因子である。
段 4(分解)。$k$ についての帰納法による。$k=1$ なら $E$ 自身が 2-因子である。$k\ge2$ なら段 3 の 2-因子 $F$ を除いた多重グラフ $(V,E\setminus F)$ の次数はすべて $2(k-1)$ であり、帰納法の仮定によりその辺集合は $k-1$ 個の 2-因子の交わらない和である。$F$ を加えれば主張を得る。$\square$

例えば $K_5$ は 4 正則なので、辺集合は 2 つの 2-因子に分かれる。頂点を $\mathbb{Z}/5\mathbb{Z}$ の元とすれば、$i$ と $i\pm1$ を結ぶ 5 角形と、$i$ と $i\pm2$ を結ぶ 5 角形である。$G$ が単純グラフなら、段 2 の $H$ も単純グラフであり($H$ の平行辺は、$G$ の平行辺が同じ向きに向き付けられたときにしか生じない)、段 4 で除いた後のグラフも単純なので、単純グラフに限った主張は単純グラフの範囲で証明できる。単純グラフの 2-因子の連結成分は長さ $3$ 以上の閉路である(閉路 の記事の命題「連結で次数がすべて 2 のグラフ」)。

補足

多重グラフは、単純グラフの定理を証明するための道具としても現れる。thm-multigraph-konig-edge-coloring の段 1 のように、グラフを正則にするために辺を加えると平行辺が生じ、全域木 の記事の定理「削除と縮約の漸化式」では、縮約の結果を多重グラフとして扱うことで漸化式が閉じる。Euler 閉路の存在条件(Euler閉路)、次数の総和の公式(次数(グラフ))、行列木定理(全域木)は、いずれも多重グラフで述べられている。一方、辺彩色では単純グラフの Vizing の上界 $\Delta+1$ が多重グラフでは成り立たず(ex-multigraph-fat-triangle)、多重度 $\mu$ を含む上界 $\Delta+\mu$ に置き換わる。
有向グラフについても、同じ始点と終点を持つ有向辺を複数許した多重有向グラフが考えられる(グラフ の記事の定義「向きと多重辺とループを許す変種」の 3)。thm-multigraph-petersen の証明の段 1 は、Euler 閉路に沿って向きを付けることで、次数 $2k$ の多重グラフを、どの頂点でも出る辺と入る辺が $k$ 本ずつの多重有向グラフに変えている。

関連項目

参考文献

[1]
J. A. Bondy, U. S. R. Murty, Graph Theory with Applications, Macmillan / American Elsevier, 1976, §1.1 pp. 1–3(graph の定義、ループ)、§1.2 p. 4(同型 (θ,φ))、§1.3 p. 7(隣接行列)、§1.4 p. 8(underlying simple graph)、Exercise 1.5.5 p. 11(次数列)、Exercise 5.1.5 p. 71(k-因子)、Corollary 5.2 p. 73、Theorem 6.1・6.2 p. 93、§6.2 末尾と図 6.3 p. 95

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