Greenの定理

同義語:グリーンの定理Green's theorem

概要

Greenの定理(Green's theorem)とは、平面の区分的に滑らかな境界をもつ有界な領域 $D$ の周 $\partial D$ を $D$ が左に見える向きにたどるとき、$D$ の近くで $C^1$ 級の関数 $P,Q$ について $\oint_{\partial D}P\,dx+Q\,dy=\iint_D(Q_x-P_y)\,dx\,dy$ が成り立つという定理である。周に沿う線積分が内部の二重積分に等しいことを述べる微分積分学の基本定理の 2 次元版で、Stokes の定理の平面の場合にあたる。$P=-y/2$、$Q=x/2$ とすると面積の公式 $\frac12\oint(x\,dy-y\,dx)$ になり、多角形では靴ひも公式を与える。

$$\newcommand{C}[0]{\mathbb{C}} \newcommand{div}[0]{\mathbin{÷}} \newcommand{N}[0]{\mathbb{N}} \newcommand{Q}[0]{\mathbb{Q}} \newcommand{R}[0]{\mathbb{R}} \newcommand{Z}[0]{\mathbb{Z}} $$

前提知識: Stokesの定理, 境界付き多様体

高校数学では、曲線 $(x(t),y(t))$($0\le t\le T$)が自分自身と交わらずに図形 $D$ を反時計回りに 1 周するとき、$D$ の面積が
$$ \frac12\int_0^T\bigl(x(t)y'(t)-y(t)x'(t)\bigr)\,dt $$
で求められることを学ぶ(媒介変数表示の曲線が囲む面積)。多角形の場合はこれが頂点の座標だけで書ける 靴ひも公式 になる。どちらも、図形の内部の量(面積)が周をたどる積分だけで決まる、という式である。
Greenの定理(Green's theorem)は、これを面積以外の量に広げた定理である。平面の有界な領域 $D$ の周 $\partial D$ を $D$ が左に見える向きにたどるとき、$D$ の近くで連続微分可能な関数 $P,Q$ について
$$ \oint_{\partial D}P\,dx+Q\,dy=\iint_D\Bigl(\frac{\partial Q}{\partial x}-\frac{\partial P}{\partial y}\Bigr)dx\,dy $$
が成り立つ。$P=-y/2$、$Q=x/2$ とおくと右辺の被積分関数は $1$ になり、上の面積の公式が得られる。左辺は周に沿った「流れの回り込み(循環)」、右辺の $Q_x-P_y$ はその各点での密度(回転)であり、1 変数の微分積分学の基本定理の 2 次元版にあたる。多様体の言葉では 2 次元の Stokesの定理 である。

線積分と周の向き

以下、平面の点を $(x,y)$ と書き、偏微分を $P_y=\partial P/\partial y$ のようにも書く。

区分的に滑らかな道と線積分

連続写像 $\gamma=(x,y)\colon[\alpha,\beta]\to\mathbb{R}^2$ が 区分的に滑らかな道 であるとは、分点 $\alpha=t_0< t_1<\dots< t_k=\beta$ があって、各 $[t_{j-1},t_j]$ への制限が $C^1$ 級で、そこで $\gamma'(t)\ne0$ であることをいう。$\gamma(\alpha)=\gamma(\beta)$ のとき 閉じた道、$[\alpha,\beta)$ の上で単射な閉じた道を 単純閉曲線 という。$\gamma$ の像の上で連続な関数 $P,Q$ に対し、線積分 を
$$ \int_\gamma P\,dx+Q\,dy:=\sum_{j=1}^k\int_{t_{j-1}}^{t_j}\Bigl(P\bigl(\gamma(t)\bigr)x'(t)+Q\bigl(\gamma(t)\bigr)y'(t)\Bigr)dt $$
で定める。閉じた道の線積分を $\oint_\gamma$ とも書く。

線積分は、道を向きを保って媒介変数を取り替えても変わらず、逆向きにたどると符号が変わる(Leb26b Proposition 9.2.12。媒介変数の取り替え $t=h(s)$ について、置換積分により $\int P(\gamma(h(s)))\,x'(h(s))h'(s)\,ds=\int P(\gamma(t))\,x'(t)\,dt$ となり、$h$ が減少なら積分の上端と下端が入れ替わるからである)。道をつなげると線積分は和になる。また $R$ が $C^1$ 級なら、各区間で $\frac{d}{dt}R(\gamma(t))=R_x(\gamma(t))x'(t)+R_y(\gamma(t))y'(t)$(連鎖律)なので
$$ \int_\gamma R_x\,dx+R_y\,dy=R\bigl(\gamma(\beta)\bigr)-R\bigl(\gamma(\alpha)\bigr)\qquad\text{とくに閉じた道では }0 $$
である(各区間で微分積分学の基本定理を使い、和をとると途中の値が打ち消し合う)。
周の向きは次のように決める(Leb26b Definition 10.6.1–10.6.2)。有界で連結な開集合 $D\subset\mathbb{R}^2$ の境界 $\partial D$ が、互いに交わらない有限個の区分的に滑らかな単純閉曲線の像の和であり、$\partial D$ の各点が $\mathbb{R}^2\setminus D$ の閉包に属するとき、$D$ を 区分的に滑らかな境界をもつ有界領域 という。各単純閉曲線 $\gamma=(x,y)$ について、滑らかな部分の各点で $n(t):=\bigl(-y'(t),x'(t)\bigr)$(速度ベクトルを左へ $90^\circ$ 回したもの)が $D$ の内側を向くとき、$\partial D$ は 正の向き にたどられるという。進む向きの左側に $D$ がある向きであり、穴のない領域では反時計回り、穴があれば穴の周は時計回りになる。
$D$ の閉包が $\mathbb{R}^2$ の中の 2 次元の境界付き多様体(Stokesの定理 の記事の定義の意味)であるとき、この向きは Stokesの定理 の記事の「外向きの法線を先頭に置く」規約で入れた境界の向きと一致する(同記事の系「古典的な積分定理」の証明)。

定理

Green の定理

$D\subset\mathbb{R}^2$ を区分的に滑らかな境界をもつ有界領域とし、$\partial D$ を正の向きにたどる。$P,Q$ が $D$ の閉包 $\overline D$ を含む開集合で $C^1$ 級なら
$$ \oint_{\partial D}P\,dx+Q\,dy=\iint_D\Bigl(\frac{\partial Q}{\partial x}-\frac{\partial P}{\partial y}\Bigr)dx\,dy $$
が成り立つ。左辺は $\partial D$ を構成する単純閉曲線ごとの線積分の和である。

定理の証明の所在

この一般の形は Leb26b Theorem 10.6.4 に述べられている。同書は縦にも横にも 2 つのグラフで挟まれた領域の場合だけを証明し、一般の場合は領域を小さく切り分けてその場合に帰着させると述べて証明を省いている。証明が閉じている場合は次の 3 つである(1・2 はこの記事で、3 は Stokesの定理 の記事で証明する)。

  1. 縦線領域(下の def-green-vertical)の場合(thm-green-vertical)。長方形・三角形・円板・楕円・凸多角形はこの形である。
  2. 縦線領域に切り分けられる領域の場合(切り口の線積分が打ち消し合う。円環で ex-green-annulus として示す)。
  3. $\overline D$ が滑らかな境界をもつコンパクトな境界付き多様体で $P,Q$ が滑らかな場合。これは Stokesの定理 の系「古典的な積分定理」の 2 である($\omega=P\,dx+Q\,dy$ について $d\omega=(Q_x-P_y)\,dx\wedge dy$)。
    一般の区分的に滑らかな単純閉曲線が囲む領域(靴ひも公式・媒介変数表示の曲線が囲む面積 の注意が「証明しない」とした形)は、1・2 で届かないものについては Leb26b Theorem 10.6.4 の引用による。

縦線領域の場合

縦線領域と正の向きの周

$a< b$ とし、$f,g\colon[a,b]\to\mathbb{R}$ を連続関数で $(a,b)$ の上で $f< g$ とする。
$$ D:=\{(x,y)\in\mathbb{R}^2\mid a< x< b,\ f(x)< y< g(x)\} $$
を 縦線領域 という。$D$ の周を 正の向きにたどる道 とは、次の 4 つの道をこの順につないだ区分的に滑らかな閉じた道 $\gamma$ のことである。

  1. $\gamma_1$:$f$ のグラフに沿って $(a,f(a))$ から $(b,f(b))$ へ進む道。すなわち $\gamma_1(t)=\bigl(x_1(t),f(x_1(t))\bigr)$ の形で、$x_1$ は単調に増加して始点で $a$、終点で $b$ をとる。
  2. $\gamma_2$:線分を $(b,f(b))$ から $(b,g(b))$ へ上る道($f(b)=g(b)$ なら省く)。
  3. $\gamma_3$:$g$ のグラフに沿って $(b,g(b))$ から $(a,g(a))$ へ進む道。すなわち $\gamma_3(t)=\bigl(x_3(t),g(x_3(t))\bigr)$ の形で、$x_3$ は単調に減少して始点で $b$、終点で $a$ をとる。
  4. $\gamma_4$:線分を $(a,g(a))$ から $(a,f(a))$ へ下る道($f(a)=g(a)$ なら省く)。

$f,g$ が区分的に $C^1$ 級なら $x_1(t)=t$、$x_3(t)=a+b-t$ ととれる。円板 $x^2+y^2<1$ は $f(x)=-\sqrt{1-x^2}$、$g(x)=\sqrt{1-x^2}$ の縦線領域で、$f,g$ は $x=\pm1$ で微分できないが、$\gamma_1(t)=(\cos t,\sin t)$($\pi\le t\le2\pi$)、$\gamma_3(t)=(\cos t,\sin t)$($0\le t\le\pi$)が上の条件を満たす($\gamma_2,\gamma_4$ は省く)。どの辺でも進む向きの左側に $D$ があるので、これは前節の意味の正の向きである。

縦線領域に対する Green の定理

$D$ を縦線領域、$\gamma$ をその周を正の向きにたどる道とし、$P,Q$ を $\overline D$ を含む開集合 $U$ の上の $C^1$ 級関数とする。このとき
$$ \oint_\gamma P\,dx=-\iint_D\frac{\partial P}{\partial y}\,dx\,dy,\qquad\oint_\gamma Q\,dy=\iint_D\frac{\partial Q}{\partial x}\,dx\,dy $$
であり、足し合わせて Green の定理の等式が成り立つ。

$P\,dx$ の部分を示す。縦の線分 $\gamma_2,\gamma_4$ の上では $x$ が一定で $x'=0$ なので、$P\,dx$ の線積分は $0$ である。$\gamma_1$ の上では、$h(u):=P(u,f(u))$ が $[a,b]$ 上の連続関数で $P(\gamma_1(t))=h(x_1(t))$ なので、各区間で置換積分を使うと
$$ \int_{\gamma_1}P\,dx=\int h\bigl(x_1(t)\bigr)x_1'(t)\,dt=\int_a^bP\bigl(u,f(u)\bigr)\,du $$
である(分点ごとの区間で置換積分し、得られる $u$ の区間をつなげる)。同様に $\int_{\gamma_3}P\,dx=\int_b^aP(u,g(u))\,du$ である。したがって
$$ \oint_\gamma P\,dx=\int_a^b\Bigl(P\bigl(x,f(x)\bigr)-P\bigl(x,g(x)\bigr)\Bigr)dx . $$
一方、$P_y$ は $\overline D$ の上で連続なので、縦線領域の上の積分は累次積分で計算でき(Leb26b Proposition 10.5.8)、内側の積分に 1 変数の微分積分学の基本定理を使うと
$$ \iint_DP_y\,dx\,dy=\int_a^b\int_{f(x)}^{g(x)}P_y(x,y)\,dy\,dx=\int_a^b\Bigl(P\bigl(x,g(x)\bigr)-P\bigl(x,f(x)\bigr)\Bigr)dx $$
となる。2 つを比べて $\oint_\gamma P\,dx=-\iint_DP_y$ である。
$Q\,dy$ の部分は、$Q$ を $y$ で積分した関数 $R$ を使って $P\,dx$ の場合に帰着させる。まず、$\overline D$ の近くで $Q$ に等しく $\mathbb{R}^2$ 全体で $C^1$ 級の関数 $\widetilde Q$ がとれる。

詳細

$\overline D$ はコンパクトで $U$ に含まれるので、$\overline D$ から $\mathbb{R}^2\setminus U$ までの距離 $\delta$ は正である($U=\mathbb{R}^2$ なら $\delta=1$ とする)。$K_s:=\{z\mid\operatorname{dist}(z,\overline D)\le s\}$ とおくと $K_{\delta/2}\subset K_{3\delta/4}\subset U$ で、これらはコンパクトである。1の分割 の定理「滑らかな Urysohn の補題」により、$C^\infty$ 級関数 $\chi\colon\mathbb{R}^2\to[0,1]$ で $K_{\delta/2}$ の上で $1$、閉集合 $\{z\mid\operatorname{dist}(z,\overline D)\ge3\delta/4\}$ の上で $0$ となるものがある。$U$ の上で $\widetilde Q:=\chi Q$、$U$ の外で $\widetilde Q:=0$ とおく。$U$ の外の点の近くでは $\chi=0$ なので $\widetilde Q$ は $\mathbb{R}^2$ 全体で $C^1$ 級であり、$K_{\delta/2}$ の内部($\overline D$ を含む開集合)で $\widetilde Q=Q$ である。


定数 $c$ を 1 つ固定し、$R(x,y):=\int_c^y\widetilde Q(x,s)\,ds$ とおく。微分積分学の基本定理から $R_y=\widetilde Q$、積分記号下の微分(Leb26b Theorem 9.1.1)から $R_x(x,y)=\int_c^y\widetilde Q_x(x,s)\,ds$ であり、どちらも連続なので $R$ は $C^1$ 級、さらに $(R_x)_y=\widetilde Q_x$ は連続である。道 $\gamma$ は $\overline D$ の上を動くので、そこで $Q=\widetilde Q=R_y$ であり、上で見た「$C^1$ 級関数の微分の閉じた道に沿う線積分は $0$」を使うと
$$ \oint_\gamma Q\,dy=\oint_\gamma R_y\,dy=\oint_\gamma(R_x\,dx+R_y\,dy)-\oint_\gamma R_x\,dx=-\oint_\gamma R_x\,dx $$
となる。最後の項に、前半の $P\,dx$ の場合を $P:=R_x$ として使うと(前半の証明は $P$ と $P_y$ の連続性しか使っていない)
$$ \oint_\gamma Q\,dy=\iint_D(R_x)_y\,dx\,dy=\iint_D\frac{\partial Q}{\partial x}\,dx\,dy $$
である。$\square$

縦と横の役割を入れ替えれば、横線領域 $\{c< y< d,\ h(y)< x< k(y)\}$ についても同じ結論が同じ証明で得られる。Leb26b が証明する「縦線領域かつ横線領域」の場合は thm-green-vertical に含まれる。この証明の後半では、$Q\,dy$ の部分を横線領域の表示を使わずに示したので、縦線領域であるだけで定理が成り立つ。
左は縦線領域 D で、下の曲線 y = f(x) を右へ、右の縦の線分を上へ、上の曲線 y = g(x) を左へ、左の縦の線分を下へたどる。右は円環を x 軸で上下の 2 つの縦線領域に切ったもので、切り口の線分は上の領域と下の領域で逆向きにたどられる 左は縦線領域 D で、下の曲線 y = f(x) を右へ、右の縦の線分を上へ、上の曲線 y = g(x) を左へ、左の縦の線分を下へたどる。右は円環を x 軸で上下の 2 つの縦線領域に切ったもので、切り口の線分は上の領域と下の領域で逆向きにたどられる

長方形で両辺を計算する

$D=(0,2)\times(0,1)$、$P=x^2y$、$Q=xy^2$ とする。右辺は $Q_x-P_y=y^2-x^2$ の積分で
$$ \int_0^2\int_0^1(y^2-x^2)\,dy\,dx=\frac23-\frac83=-2 $$
である。左辺は周を反時計回りに 4 辺に分けて計算する。下の辺($y=0$)では $P=0$、$dy=0$ で $0$、右の辺($x=2$、$y$ が $0$ から $1$)では $\int_0^12y^2\,dy=\frac23$、上の辺($y=1$、$x$ が $2$ から $0$)では $\int_2^0x^2\,dx=-\frac83$、左の辺($x=0$)では $Q=0$、$dx=0$ で $0$ である。和は $-2$ で右辺と一致する。

面積の公式

周の線積分で表す面積

$D$ を Green の定理が成り立つ領域(縦線領域など)とし、$\partial D$ を正の向きにたどるとすると、
$$ \lvert D\rvert=\oint_{\partial D}x\,dy=-\oint_{\partial D}y\,dx=\frac12\oint_{\partial D}(x\,dy-y\,dx) $$
である($\lvert D\rvert$ は $D$ の面積)。とくに周が極方程式 $r=r(\theta)$($\theta$ が $\theta_0$ から $\theta_0+2\pi$ まで増加)で表されるなら $\lvert D\rvert=\dfrac12\displaystyle\int_{\theta_0}^{\theta_0+2\pi}r(\theta)^2\,d\theta$ である。

$(P,Q)=(0,x)$、$(-y,0)$、$(-y/2,x/2)$ のどれでも $Q_x-P_y=1$ なので、Green の定理の右辺は $\iint_D1=\lvert D\rvert$ である。極方程式の場合、$x=r\cos\theta$、$y=r\sin\theta$ を $\theta$ で微分すると $x'=r'\cos\theta-r\sin\theta$、$y'=r'\sin\theta+r\cos\theta$ で、
$$ xy'-yx'=r\cos\theta\,(r'\sin\theta+r\cos\theta)-r\sin\theta\,(r'\cos\theta-r\sin\theta)=r^2 $$
となる。$\square$

多角形の周に沿って $\frac12\oint(x\,dy-y\,dx)$ を計算すると、1 辺ごとに $\frac12(x_iy_{i+1}-x_{i+1}y_i)$ となり、靴ひも公式 が得られる(同記事の注意「多角形では Green の定理=靴ひも公式」)。凸多角形は縦線領域なので、この場合は thm-green-vertical で証明が閉じる。

楕円とカージオイドの面積
  1. 楕円 $x^2/a^2+y^2/b^2<1$($a,b>0$)は縦線領域で、周は $(a\cos t,b\sin t)$($t$ を $\pi$ から $3\pi$ まで)と正の向きにたどれる。$xy'-yx'=ab$ なので $\lvert D\rvert=\frac12\int_0^{2\pi}ab\,dt=\pi ab$ である。
  2. カージオイド $r=a(1+\cos\theta)$($a>0$)で囲まれた領域の面積は
    $$ \frac12\int_0^{2\pi}a^2(1+\cos\theta)^2\,d\theta=\frac{a^2}2\Bigl(2\pi+0+\pi\Bigr)=\frac32\pi a^2 $$
    である。この領域は原点に尖った点(尖点)をもち縦線領域ではないので、ここでは thm-green-main(Leb26b Theorem 10.6.4 の引用)を使っている。
    カージオイドの周が区分的に滑らかであること

    $\gamma(\theta)=\bigl(r(\theta)\cos\theta,r(\theta)\sin\theta\bigr)$ の速さは $\lvert\gamma'(\theta)\rvert=\sqrt{r^2+r'^2}=a\sqrt{2+2\cos\theta}$ で、$\theta=\pi$(原点)だけで $0$ になる。$[0,\pi]$ と $[\pi,2\pi]$ の各部分では、単位接ベクトル $\gamma'/\lvert\gamma'\rvert$ が $\theta\to\pi$ でそれぞれ $(1,0)$、$(-1,0)$ に収束する(数値でも確かめた)。そこで各部分を弧長で媒介変数を取り替えると、速さ $1$ の $C^1$ 級の道になり(端点での微分は単位接ベクトルの極限に等しい)、周は 2 つの滑らかな道をつないだ区分的に滑らかな単純閉曲線になる。

円環:切り分けによる証明

円環 $A=\{1< x^2+y^2<4\}$ は縦線領域ではない($\lvert c\rvert<1$ の縦線 $x=c$ との共通部分が 2 つの区間になる)が、$x$ 軸で切った上半分 $A_+$ と下半分 $A_-$ はそれぞれ縦線領域である。$A_+$ は $[-2,2]$ 上の $f(x)=\sqrt{1-x^2}$($\lvert x\rvert\le1$)、$f(x)=0$($1\le\lvert x\rvert\le2$)と $g(x)=\sqrt{4-x^2}$ で定まり、正の向きの周は、線分 $(-2,0)\to(-1,0)$、内側の半円 $(\cos t,\sin t)$($t$ を $\pi$ から $0$ まで)、線分 $(1,0)\to(2,0)$、外側の半円 $(2\cos t,2\sin t)$($t$ を $0$ から $\pi$ まで)である。$A_-$ も同様で、そこでは $x$ 軸上の 2 つの線分が逆向き($(2,0)\to(1,0)$ と $(-1,0)\to(-2,0)$)にたどられる。
thm-green-vertical を $A_+$ と $A_-$ に使って足すと、$x$ 軸上の線分の線積分は打ち消し合い(逆向きにたどると符号が変わる)、右辺は $A$ 全体の積分になる(切り口の線分は面積 $0$)。残るのは外側の円周を反時計回りに、内側の円周を時計回りにたどる線積分で、どちらも $A$ を左に見る向きである。したがって円環でも Green の定理が成り立つ。たとえば面積は外側が $\frac12\cdot4\cdot2\pi=4\pi$、内側(時計回り)が $-\frac12\cdot1\cdot2\pi=-\pi$ で、合わせて $3\pi$ である。

流束の形と Cauchy の積分定理

周の速度ベクトルを右へ $90^\circ$ 回した $\bigl(y'(t),-x'(t)\bigr)$ は、正の向きでは $D$ の外を向く。その長さは速さ $\lvert\gamma'(t)\rvert$ なので、$n\,ds:=\bigl(y'(t),-x'(t)\bigr)\,dt$ と書くと、$n$ は外向きの単位法線、$ds$ は弧長の要素である。

流束の形(2 次元の発散定理)

$D$ を Green の定理が成り立つ領域、$F=(F_1,F_2)$ を $\overline D$ を含む開集合で $C^1$ 級のベクトル場とすると
$$ \oint_{\partial D}F\cdot n\,ds=\iint_D\Bigl(\frac{\partial F_1}{\partial x}+\frac{\partial F_2}{\partial y}\Bigr)dx\,dy $$
である。左辺は $\partial D$ を横切って外へ出る $F$ の流量(流束)、右辺の被積分関数は $F$ の発散 $\operatorname{div}F$ である。

Green の定理を $P=-F_2$、$Q=F_1$ に使う。左辺の被積分関数は $-F_2\,x'+F_1\,y'=F\cdot(y',-x')$ で $F\cdot n\,ds$ に等しく、右辺は $Q_x-P_y=\partial_xF_1+\partial_yF_2$ である。$\square$

3 次元以上での同じ形の定理が Gaussの発散定理 である。

導関数が連続な正則関数の Cauchy の積分定理

$f=u+iv$ が $\overline D$($D$ は縦線領域)を含む開集合で正則で、導関数 $f'$ が連続であるとする。$dz=dx+i\,dy$ として
$$ \oint_{\partial D}f\,dz=\oint_{\partial D}(u\,dx-v\,dy)+i\oint_{\partial D}(v\,dx+u\,dy)=\iint_D(-v_x-u_y)+i\iint_D(u_x-v_y)=0 $$
である。最後の等号は Cauchy–Riemann の方程式 $u_x=v_y$、$u_y=-v_x$ による。Cauchyの積分定理 の定理「Goursat の定理」は導関数の連続性を仮定せずに三角形について同じ結論を示しており、Green の定理による証明はその仮定を使う分だけ簡単である。

反例:仮定を外すと

外す条件反例成り立たなくなること
$P,Q$ が $\overline D$ を含む開集合で $C^1$ 級単位円板と $P=\dfrac{-y}{x^2+y^2}$、$Q=\dfrac{x}{x^2+y^2}$定理の等式(左辺 $2\pi$、右辺 $0$)
周を正の向きにたどる楕円を時計回りにたどる面積の公式(値が $-\pi ab$)
周が単純閉曲線8 の字 $(\sin t,\sin t\cos t)$$\frac12\oint(x\,dy-y\,dx)$ が囲まれた部分の面積の和
反例の確認

1 行目の $P,Q$ は原点で定義されず、原点の近くで有界でもない。原点以外では $Q_x-P_y=0$ であり、単位円周に沿う線積分は $\int_0^{2\pi}(\sin^2t+\cos^2t)\,dt=2\pi$ である(外微分 の例「原点を除いた平面の角度形式」)。満たす性質は「$D$ は縦線領域、周は正の向き、原点の外で $Q_x=P_y$」、満たさない性質は「$P,Q$ が $\overline D$ を含む開集合で $C^1$ 級」で、破れるのは定理の等式である。原点を含まない領域なら等式は成り立つので、この線積分は周が原点を囲むかどうかを見分ける(Leb26b Example 10.6.5)。2 行目は向きの反転で線積分の符号が変わることによる(媒介変数表示の曲線が囲む面積 の例「反例:時計回りにたどる楕円」)。3 行目の 8 の字では $\frac12\oint(x\,dy-y\,dx)=0$ だが、2 つの輪の面積の和は $\frac43$ である。右の輪は時計回り、左の輪は反時計回りにたどられ、それぞれ $-\frac23$、$\frac23$ と数えられる(媒介変数表示の曲線が囲む面積 の例「反例:8 の字の曲線」)。

注意

  • 「Green の公式」「Green の恒等式」は、Green の定理とは別の等式(ラプラシアンを含む積分の等式)を指すことが多い。3 次元のものは Gaussの発散定理 の系として得られる。
  • thm-green-main は Stokesの定理 の 2 次元の場合である。Stokes の定理の証明の核心(半空間の場合)が Fubini の定理と 1 変数の微分積分学の基本定理だけで済むのと同じく、thm-green-vertical の証明もその 2 つ(と置換積分)しか使っていない。

関連項目

参考文献

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