トレース作用素

同義語:trace operator

概要

トレース作用素(trace operator)とは、Sobolev 空間 $W^{1,p}$ の関数に境界での値を対応させる有界線形作用素 $\gamma$ であり、境界まで滑らかな関数については境界への制限に一致する。半空間や境界が $C^1$ 級の有界領域では $1\le p<\infty$ でただ 1 つ存在し、トレースが $0$ の関数はちょうど $W^{1,p}_0$ の元である。一方 $L^p$ の関数には有界なトレースが定まらず、$p=2$ の半空間ではトレースの像は $L^2$ より真に小さい空間 $H^{1/2}$ になる。境界値問題の境界条件や Green の公式に意味を与える基本的な道具である。

$$\newcommand{C}[0]{\mathbb{C}} \newcommand{div}[0]{\mathbin{÷}} \newcommand{N}[0]{\mathbb{N}} \newcommand{Q}[0]{\mathbb{Q}} \newcommand{R}[0]{\mathbb{R}} \newcommand{Z}[0]{\mathbb{Z}} $$

前提知識: Sobolev空間, Lp空間, Fourier変換, Fubiniの定理

偏微分方程式の境界値問題では「解 $u$ が境界で与えられた値 $g$ をとる」という条件を課す。ところが Sobolev 空間 $W^{1,p}(\Omega)$ の元は $L^p$ の元、すなわちほとんど至る所で等しい関数の同値類であり、測度 $0$ の集合である境界の上の値は、そのままでは意味をもたない。それでも、弱微分まで $L^p$ に入るという情報があれば、境界値を連続な線形作用素として一意に定められる。これが トレース作用素(trace operator)$\gamma$ であり、滑らかな関数については境界への制限そのものである。$L^p$ の関数だけでは同じことができないこと、トレースが $0$ の関数がちょうど $W^{1,p}_0(\Omega)$ の元であること、$p=2$ ではトレースの像が $L^2$ より真に小さい空間 $H^{1/2}$ になることが、この作用素の基本的な性質である。以下では半空間で定理を完全に証明し、滑らかな境界をもつ有界領域での形は局所座標で半空間に帰着されることを述べる。

設定と記号

$N\ge2$ とし、$x\in\mathbb{R}^N$ を $x=(x',x_N)$($x'\in\mathbb{R}^{N-1}$)と書く。半空間を
$$ \mathbb{R}^N_+:=\{x\in\mathbb{R}^N\mid x_N>0\} $$
とし、その境界 $\{x_N=0\}$ を $\mathbb{R}^{N-1}$ と同一視する。$1\le p<\infty$ とし、Sobolev 空間 $W^{1,p}(\mathbb{R}^N_+)$ とノルム $\|u\|_{W^{1,p}}^p=\|u\|_{L^p}^p+\sum_{i=1}^N\|\partial_iu\|_{L^p}^p$、$W_0^{1,p}(\mathbb{R}^N_+)$($C_c^\infty(\mathbb{R}^N_+)$ の閉包)は Sobolev空間 の記事の定義に従う。関数は実数値とする。
$$ \mathcal{D}:=\{u|_{\mathbb{R}^N_+}\mid u\in C_c^1(\mathbb{R}^N)\} $$
とおく。$\mathcal{D}$ の元 $u$ は境界まで連続なので、境界値 $u(\cdot,0)$ が普通の意味で定まる。

稠密性

$\mathcal{D}$ は $W^{1,p}(\mathbb{R}^N_+)$ で稠密である($1\le p<\infty$)。この記事では証明しない。Bre11 Corollary 9.8(p. 277)に、半空間を含む $C^1$ 級の開集合について、拡張作用素(境界が有界な場合は Theorem 9.7、p. 272)と切り落としを用いた証明がある。

$L^p$ の関数には境界値がない

$L^p$ ではトレースが定まらない

$\mathcal{D}$ 上の写像 $u\mapsto u(\cdot,0)$ は、$L^p(\mathbb{R}^N_+)$ のノルムから $L^p(\mathbb{R}^{N-1})$ のノルムへの有界線形作用素に拡張できない。

$a\in C_c^1(\mathbb{R}^{N-1})$ を $0$ でない関数、$\rho\in C_c^1(\mathbb{R})$ を $\rho(0)=1$ をみたす関数とし、$u_n(x',x_N):=a(x')\rho(nx_N)$ とおく。$u_n\in\mathcal{D}$ で、境界値はつねに $u_n(\cdot,0)=a$ である。一方、変数変換 $s=nx_N$ により
$$ \|u_n\|_{L^p(\mathbb{R}^N_+)}^p=\|a\|_{L^p}^p\int_0^\infty|\rho(nx_N)|^p\,dx_N=\frac1n\|a\|_{L^p}^p\int_0^\infty|\rho(s)|^p\,ds\longrightarrow0 $$
である。有界な拡張 $\Gamma$ があれば $\|a\|_{L^p}=\|\Gamma u_n\|_{L^p}\le C\|u_n\|_{L^p}\to0$ となって矛盾する。$\square$

この $u_n$ では $\|\partial_Nu_n\|_{L^p}^p=n^{p-1}\|a\|_{L^p}^p\int_0^\infty|\rho'|^p$ が $p>1$ で発散する。境界の近くで急に立ち上がる関数は微分が大きく、弱微分のノルムがこの立ち上がりを抑えることが、次の評価の要点である。

半空間のトレース定理

トレースの評価

$u\in\mathcal{D}$ について
$$ \|u(\cdot,0)\|_{L^p(\mathbb{R}^{N-1})}^p\le(p-1)\|u\|_{L^p(\mathbb{R}^N_+)}^p+\|\partial_Nu\|_{L^p(\mathbb{R}^N_+)}^p\le p\,\|u\|_{W^{1,p}(\mathbb{R}^N_+)}^p $$
が成り立つ。

$x'$ を固定する。$p=1$ のときは $u(x',0)=-\int_0^\infty\partial_Nu(x',x_N)\,dx_N$ から $|u(x',0)|\le\int_0^\infty|\partial_Nu|\,dx_N$ である。$p>1$ のとき $G(s)=|s|^p$ は $C^1$ 級で $G'(s)=p|s|^{p-2}s$ なので、$x_N\mapsto|u(x',x_N)|^p$ は $C^1$ 級でコンパクトな台をもち、
$$ |u(x',0)|^p=-\int_0^\infty\partial_N\bigl(|u|^p\bigr)\,dx_N\le p\int_0^\infty|u|^{p-1}|\partial_Nu|\,dx_N\le\int_0^\infty\bigl((p-1)|u|^p+|\partial_Nu|^p\bigr)\,dx_N $$
である。最後は Young の不等式 $ab\le\frac{p-1}{p}a^{p/(p-1)}+\frac1pb^p$ を $a=|u|^{p-1}$、$b=|\partial_Nu|$ に当てた。$x'$ で積分すれば(Fubiniの定理)最初の不等式を得る。$\max\{p-1,1\}\le p$ から 2 つ目が従う。$\square$

トレース定理(半空間)

$1\le p<\infty$ とする。有界線形作用素
$$ \gamma\colon W^{1,p}(\mathbb{R}^N_+)\to L^p(\mathbb{R}^{N-1}),\qquad \|\gamma u\|_{L^p}\le p^{1/p}\|u\|_{W^{1,p}} $$
で、$u\in\mathcal{D}$ について $\gamma u=u(\cdot,0)$ となるものがただ 1 つ存在する。$\gamma$ を トレース作用素、$\gamma u$ を $u$ の トレース(境界値)という。

lem-trace-estimate により、$\mathcal{D}$ 上の線形写像 $u\mapsto u(\cdot,0)$ はノルムが $p^{1/p}$ 以下の有界作用素である。$\mathcal{D}$ は $W^{1,p}(\mathbb{R}^N_+)$ で稠密で(rem-trace-density)、$L^p(\mathbb{R}^{N-1})$ は完備なので、有界作用素は連続性によって全体へただ 1 通りに拡張でき、拡張のノルムも $p^{1/p}$ 以下である。具体的には、$u_n\in\mathcal{D}$、$u_n\to u$ のとき $u_n(\cdot,0)$ は評価により $L^p$ で Cauchy 列であり、その極限が近似列によらないことも同じ評価から従う。一意性は、$\mathcal{D}$ 上で一致する 2 つの有界作用素が稠密性により一致することによる。$\square$

境界まで連続な関数のトレース

$u\in W^{1,p}(\mathbb{R}^N_+)$ が閉半空間 $\{x_N\ge0\}$ 上の連続関数(の制限)でもあれば、$\gamma u=u(\cdot,0)$(ほとんど至る所)である。トレースは境界値の概念の拡張になっている。

要点:$u$ を少し下へずらした $u_h(x):=u(x',x_N+h)$ は境界の外側まで定義されているので、軟化子と切り落としで $\mathcal{D}$ の関数 $w$ に近づけられる。そのとき $W^{1,p}$ での近さと、境界上での局所一様な近さを同時に得られる。

詳細

$u$ の弱微分を $\mathbb{R}^N$ へ $0$ で延ばしたものに $L^p$ での平行移動の連続性を当てると、$h\to0+$ で $\|u_h-u\|_{W^{1,p}(\mathbb{R}^N_+)}\to0$ である。また $u$ はコンパクト集合上で一様連続なので、$u_h(\cdot,0)=u(\cdot,h)\to u(\cdot,0)$ は $\mathbb{R}^{N-1}$ の各コンパクト集合上で一様である。$h$ を固定すると $u_h$ は $\{x_N>-h\}$ 上で $W^{1,p}$ かつ連続なので、軟化子 $\rho_\varepsilon$($\varepsilon< h/2$)との畳み込みは $\{x_N>-h/2\}$ 上で滑らかで、$\varepsilon\to0$ のとき $\mathbb{R}^N_+$ 上で $W^{1,p}$ 収束し、$\{x_N\ge0\}$ のコンパクト集合上で一様収束する。さらに $x_N\ge-h/4$ で $1$、$x_N\le-h/3$ で $0$ となる $C^\infty$ 関数と、$\zeta(x/R)$($\zeta\in C_c^\infty$、原点の近くで $1$)を掛けると $\mathcal{D}$ の関数になり、$R\to\infty$ で $W^{1,p}(\mathbb{R}^N_+)$ 収束し、各コンパクト集合上では $R$ が大きければ値を変えない。こうして $w_k\in\mathcal{D}$ で $w_k\to u$($W^{1,p}$)かつ $w_k(\cdot,0)\to u(\cdot,0)$(局所一様)となるものがとれる。thm-trace-main により $w_k(\cdot,0)\to\gamma u$($L^p$)なので、部分列がほとんど至る所 $\gamma u$ に収束し、$\gamma u=u(\cdot,0)$ である。$\square$

Green の公式

$u\in W^{1,p}(\mathbb{R}^N_+)$、$\varphi\in C_c^1(\mathbb{R}^N)$ について
$$ \int_{\mathbb{R}^N_+}u\,\partial_i\varphi\,dx=-\int_{\mathbb{R}^N_+}\partial_iu\,\varphi\,dx\quad(1\le i\le N-1),\qquad \int_{\mathbb{R}^N_+}u\,\partial_N\varphi\,dx=-\int_{\mathbb{R}^N_+}\partial_Nu\,\varphi\,dx-\int_{\mathbb{R}^{N-1}}\gamma u\,\varphi(x',0)\,dx'. $$

$u\in\mathcal{D}$ のときは、$u\varphi$ が $C^1$ 級でコンパクトな台をもつので、$i\le N-1$ では $x_i$ について $\mathbb{R}$ 上で積分すると $\int\partial_i(u\varphi)\,dx_i=0$、$i=N$ では $\int_0^\infty\partial_N(u\varphi)\,dx_N=-u(x',0)\varphi(x',0)$ であり、残りの変数で積分すればよい。一般の $u$ には、$\mathcal{D}$ の近似列をとって極限をとる。各項は $u$ について $W^{1,p}$ ノルムで連続である(Hölder の不等式と thm-trace-main)。$\square$

境界項 $\int\gamma u\,\varphi(x',0)\,dx'$ がすべての $\varphi$ について決まれば $\gamma u$ も決まる($\varphi(x',x_N)=\psi(x')\chi(x_N)$、$\chi(0)=1$ とおけばよい)。したがってトレースは Green の公式の境界項として特徴づけられる。

トレースの核

トレースの核

$1\le p<\infty$ とする。$u\in W^{1,p}(\mathbb{R}^N_+)$ について、$\gamma u=0$ であることと $u\in W_0^{1,p}(\mathbb{R}^N_+)$ であることは同値である。すなわち $\ker\gamma=W_0^{1,p}(\mathbb{R}^N_+)$ である。

$C_c^\infty(\mathbb{R}^N_+)\subset\mathcal{D}$ の元は境界の近くで $0$ なのでトレースは $0$ であり、$\gamma$ の連続性から $W_0^{1,p}\subset\ker\gamma$ である。
逆に $\gamma u=0$ とし、$u$ を $\mathbb{R}^N\setminus\mathbb{R}^N_+$ で $0$ とおいて延ばした関数を $\tilde u$ とする。prop-trace-green で境界項が消えるので、すべての $\varphi\in C_c^1(\mathbb{R}^N)$ と $1\le i\le N$ について $\int_{\mathbb{R}^N}\tilde u\,\partial_i\varphi=-\int_{\mathbb{R}^N}\widetilde{\partial_iu}\,\varphi$ が成り立つ。すなわち $\tilde u\in W^{1,p}(\mathbb{R}^N)$ で、弱微分は $\partial_iu$ を $0$ で延ばしたものである。
あとは $\tilde u$ を $\mathbb{R}^N_+$ の内側へずらしてから滑らかにする。$h>0$ について $\tilde u_h(x):=\tilde u(x',x_N-h)$ は $\{x_N\ge h\}$ の外で $0$ で、$L^p$ での平行移動の連続性から $h\to0+$ で $\tilde u_h\to\tilde u$($W^{1,p}(\mathbb{R}^N)$)である。軟化子 $\rho_\varepsilon$(台が半径 $\varepsilon< h/2$ の球)との畳み込み $\rho_\varepsilon*\tilde u_h$ は $C^\infty$ 級で $\{x_N\ge h/2\}$ の外で $0$、$\varepsilon\to0$ で $\tilde u_h$ に $W^{1,p}$ 収束する。最後に $\zeta\in C_c^\infty(\mathbb{R}^N)$ を原点の近くで $1$、$0\le\zeta\le1$ とし、$\zeta(x/R)$ を掛けると $C_c^\infty(\mathbb{R}^N_+)$ の元になり、$R\to\infty$ で $W^{1,p}$ 収束する($|\nabla\zeta(x/R)|\le\|\nabla\zeta\|_\infty/R$ と優収束定理)。$h,\varepsilon,R$ を順に選べば、$C_c^\infty(\mathbb{R}^N_+)$ の元で $u$ に $W^{1,p}(\mathbb{R}^N_+)$ ノルムでいくらでも近いものがとれる。よって $u\in W_0^{1,p}(\mathbb{R}^N_+)$ である。$\square$

証明の後半は $\tilde u\in W^{1,p}(\mathbb{R}^N)$ だけを使っているので、$u\in W^{1,p}(\mathbb{R}^N_+)$ について「$\gamma u=0$」「$0$ で延ばした関数が $W^{1,p}(\mathbb{R}^N)$ に入る」「$u\in W_0^{1,p}$」の 3 つが同値であることも分かる。トレースが $0$ でない関数を $0$ で延ばすと、prop-trace-green により $\partial_N\tilde u$ には $\partial_Nu$ の延長のほかに境界上の項 $\varphi\mapsto\int\gamma u\,\varphi(x',0)\,dx'$ が現れ、$W^{1,p}(\mathbb{R}^N)$ に入らない。

$p=2$ のときの像:$H^{1/2}$

トレースの像は $L^p(\mathbb{R}^{N-1})$ 全体ではない。$p=2$ では Fourier 変換で像を正確に書ける。$d:=N-1$、$\langle\xi\rangle:=(1+|\xi|^2)^{1/2}$ とし、$\mathbb{R}^d$ 上の Fourier 変換を $\hat g(\xi)=\int e^{-ix\cdot\xi}g(x)\,dx$ とする(Plancherelの定理により $\int|\hat g|^2=(2\pi)^d\int|g|^2$)。この節では複素数値関数も扱い、トレースは実部と虚部に別々に当てる。

空間 $H^{1/2}(\mathbb{R}^d)$

$$ H^{1/2}(\mathbb{R}^d):=\Bigl\{g\in L^2(\mathbb{R}^d)\Bigm|\|g\|_{H^{1/2}}^2:=(2\pi)^{-d}\int_{\mathbb{R}^d}\langle\xi\rangle\,|\hat g(\xi)|^2\,d\xi<\infty\Bigr\}. $$

$H^1$ のトレースの像

$\gamma(H^1(\mathbb{R}^N_+))=H^{1/2}(\mathbb{R}^{N-1})$ であり、$\|\gamma u\|_{H^{1/2}}\le\|u\|_{H^1}$ が成り立つ。さらに線形作用素 $E\colon H^{1/2}(\mathbb{R}^{N-1})\to H^1(\mathbb{R}^N_+)$ で、$\gamma\circ E$ が恒等写像で $\|Eg\|_{H^1}=\|g\|_{H^{1/2}}$ となるものがある。

段 1(評価).$u\in\mathcal{D}$ について $x'$ 方向だけの Fourier 変換 $v(\xi,t):=\int e^{-ix'\cdot\xi}u(x',t)\,dx'$ をとる。$\xi$ を固定すると $t\mapsto v(\xi,t)$ は $[0,\infty)$ 上の $C^1$ 級関数でコンパクトな台をもち、$\partial_tv$ は $\partial_Nu$ の変換である。よって
$$ |v(\xi,0)|^2=-\int_0^\infty\partial_t|v|^2\,dt\le2\int_0^\infty|v|\,|\partial_tv|\,dt\le\langle\xi\rangle\int_0^\infty|v|^2\,dt+\frac{1}{\langle\xi\rangle}\int_0^\infty|\partial_tv|^2\,dt $$
であり、$\langle\xi\rangle$ を掛けて $\xi$ で積分し、各 $t$ で Plancherel の定理を使うと($\partial_iu$ の変換は $i\xi_iv$)
$$ \|u(\cdot,0)\|_{H^{1/2}}^2\le(2\pi)^{-d}\int_0^\infty\!\!\int\bigl((1+|\xi|^2)|v|^2+|\partial_tv|^2\bigr)\,d\xi\,dt=\|u\|_{H^1(\mathbb{R}^N_+)}^2 $$
を得る。$u\in H^1$ の一般の場合は、$\mathcal{D}$ の近似列のトレースが $H^{1/2}$ で Cauchy 列になり、その極限は $L^2$ での極限 $\gamma u$ と一致する。よって $\gamma u\in H^{1/2}$ で評価が成り立つ。
段 2(持ち上げ).$g$ を急減少関数(Schwartz 関数)とし(このとき $\hat g$ も急減少関数である)、
$$ Eg(x',t):=(2\pi)^{-d}\int e^{ix'\cdot\xi}\,\hat g(\xi)\,e^{-t\langle\xi\rangle}\,d\xi\qquad(t\ge0) $$
とおく。積分記号下の微分により $Eg$ は閉半空間上で $C^\infty$ 級、$Eg(\cdot,0)=g$ で、$x'$ 方向の変換は $\hat g(\xi)e^{-t\langle\xi\rangle}$ である。Plancherel の定理と $\int_0^\infty e^{-2t\langle\xi\rangle}dt=1/(2\langle\xi\rangle)$ から
$$ \|Eg\|_{H^1}^2=(2\pi)^{-d}\int|\hat g(\xi)|^2\,\frac{1+|\xi|^2+\langle\xi\rangle^2}{2\langle\xi\rangle}\,d\xi=(2\pi)^{-d}\int\langle\xi\rangle\,|\hat g(\xi)|^2\,d\xi=\|g\|_{H^{1/2}}^2 $$
である($x_N=t$ 方向の微分が $-\langle\xi\rangle$ 倍に、$x_i$ 方向の微分が $i\xi_i$ 倍に当たる)。$\gamma(Eg)=g$ は、$Eg$ と $\varphi\in C_c^1(\mathbb{R}^N)$ について各 $x'$ で $\int_0^\infty\partial_t(Eg\,\varphi)\,dt=-g(x')\varphi(x',0)$ となることから、prop-trace-green の境界項による特徴づけで分かる。
段 3(拡張).そのような $g$ は $H^{1/2}$ で稠密なので(Fourier 変換で見れば、重み $\langle\xi\rangle$ つきの $L^2$ で急減少関数が稠密であることに当たる)、等長な $E$ は $H^{1/2}$ 全体へ連続に延び、$\gamma\circ E=\mathrm{id}$ も連続性により全体で成り立つ。$\square$

トレースは $L^2$ への全射でない

$\gamma\colon H^1(\mathbb{R}^N_+)\to L^2(\mathbb{R}^{N-1})$ は全射でない。たとえば $\hat g(\xi)=\langle\xi\rangle^{-N/2}$ となる $g$ は $L^2$ に属するが $H^{1/2}$ に属さない。

$d=N-1$ 次元の極座標で、$\int\langle\xi\rangle^{-N}d\xi$ は $\int^\infty r^{d-1-N}dr=\int^\infty r^{-2}dr$ と同様に収束し、$\int\langle\xi\rangle^{1-N}d\xi$ は $\int^\infty r^{-1}dr$ と同様に発散する。前者が $(2\pi)^d\|g\|_{L^2}^2$、後者が $(2\pi)^d\|g\|_{H^{1/2}}^2$ である。thm-trace-range により $g$ は像に入らない。$\square$

$1< p<\infty$ では、トレースの像は分数階の Sobolev 空間 $W^{1-1/p,p}(\mathbb{R}^{N-1})$($p=2$ では $H^{1/2}$ と一致する)になる。この記事では証明しない(主張は Bre11 の第 9 章の注釈 §7(p. 315)にある)。

境界が滑らかな有界領域

$\Omega\subset\mathbb{R}^N$ を有界な開集合で境界 $\Gamma=\partial\Omega$ が $C^1$ 級のもの(各境界点の近傍 $U$ と、立方体 $Q=\{|x'|<1,\ |x_N|<1\}$ から $U$ への全単射 $H$ で、$H$ と $H^{-1}$ がともに $C^1$ 級であり、$Q$ の $x_N>0$ の部分を $U\cap\Omega$ に、$x_N=0$ の部分を $U\cap\Gamma$ に写すものがある。Bre11 §9.2 の定義、p. 272)とし、$\Gamma$ 上に面積測度 $d\sigma$ を入れる。このとき半空間と同じく、有界線形作用素 $\gamma\colon W^{1,p}(\Omega)\to L^p(\Gamma)$ で $\overline\Omega$ の近傍で $C^1$ 級の関数については境界への制限に一致するものがただ 1 つあり、$\ker\gamma=W_0^{1,p}(\Omega)$、$1< p<\infty$ では像は $W^{1-1/p,p}(\Gamma)$ であり、外向き単位法線 $n$ について Green の公式
$$ \int_\Omega\frac{\partial u}{\partial x_i}v\,dx=-\int_\Omega u\frac{\partial v}{\partial x_i}\,dx+\int_\Gamma\gamma u\,\gamma v\,n_i\,d\sigma\qquad(u,v\in H^1(\Omega)) $$
が成り立つ。この記事ではこれらを証明しない(主張は Bre11 の第 9 章の注釈 §7(pp. 315–316)にある)。証明の方針は、$\Gamma$ を有限個の局所座標の近傍で覆い、1 の分割で $u$ を分けて、各片を局所座標で半空間の関数に写して thm-trace-main を当て、面積要素が局所座標で上下から抑えられることを使って足し合わせることである。

仮定を外すと成り立たなくなること

外す条件反例成り立たなくなること
弱微分の可積分性($W^{1,p}$ を $L^p$ に)$u_n(x',x_N)=a(x')\rho(nx_N)$(prf-trace-no-lp)境界値が有界作用素として定まらない
$\gamma u=0$(thm-trace-kernel)$u(x)=e^{-\lvert x\rvert^2}$ の $\mathbb{R}^N_+$ への制限$0$ で延ばした関数が $W^{1,p}(\mathbb{R}^N)$ に入らず、$u\notin W_0^{1,p}$
$g\in H^{1/2}$(thm-trace-range の持ち上げ)$\hat g=\langle\xi\rangle^{-N/2}$ の $g\in L^2$(cor-trace-not-onto)$g$ をトレースにもつ $H^1$ の関数がない

2 行目では $\gamma u=e^{-|x'|^2}\ne0$(rem-trace-continuous)なので、thm-trace-kernel から $u\notin W_0^{1,p}$ であり、その証明の後の注意から $0$ で延ばした関数は $W^{1,p}(\mathbb{R}^N)$ に入らない。

1 次元の場合

$N=1$ では $W^{1,p}(0,\infty)$ の元は $[0,\infty)$ 上の連続な代表 $\tilde u$ をもち、$\tilde u(x)-\tilde u(y)=\int_y^xu'(t)\,dt$ をみたす(Bre11 Theorem 8.2、p. 204。この記事では証明しない)。このときトレースにあたるものは点の値 $\tilde u(0)$ である。$N\ge2$ では $W^{1,p}$ の元は一般に連続でなく、境界値は $L^p$ の元としてだけ意味をもつ。

出典

lem-trace-estimate と同種の評価(定数は明示されない)とその証明は Bre11 Lemma 9.9(p. 315)にあり、トレース作用素の定義はその直後にある。thm-trace-kernel・Green の公式・像の特徴づけは同書 p. 315–316 に主張として述べられている。thm-trace-range の Fourier 変換による証明は、この記事で書いたものである。

関連項目

参考文献

[1]
Haim Brezis, Functional Analysis, Sobolev Spaces and Partial Differential Equations, Universitext, Springer, 2011, Theorem 8.2(p. 204)、Theorem 9.7(p. 272)、Corollary 9.8(p. 277)、Comments on Chapter 9 の §7 と Lemma 9.9(pp. 315–316)

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