射影次元

同義語:projective dimension

概要

射影次元(projective dimension)とは、非零加群 $M$ の射影加群による完全列 $0\to P_d\to\cdots\to P_0\to M\to0$ の長さ $d$ の最小値 $\operatorname{pd}_RM$ である(零加群は $-\infty$ とする)。$\operatorname{pd}_RM\le d$ はすべての $N$ で $\operatorname{Ext}^{d+1}_R(M,N)=0$ となること、射影分解の第 $d$ 関係加群が射影的であることと同値である。Noether局所環上の有限生成加群では、最小自由分解の長さとして求まり、$\operatorname{Tor}_i^A(k,M)$ から読み取れる。二重数環上の剰余体は有限生成でも射影次元が無限であり、$\mathbb Z$ 上の $\mathbb Q$ は平坦でも射影的でない。

$$\newcommand{C}[0]{\mathbb{C}} \newcommand{div}[0]{\mathbin{÷}} \newcommand{N}[0]{\mathbb{N}} \newcommand{Q}[0]{\mathbb{Q}} \newcommand{R}[0]{\mathbb{R}} \newcommand{Z}[0]{\mathbb{Z}} $$

前提知識: 加群, 射影加群, 射影分解, Ext関手, Tor関手

射影次元は、加群を射影加群で解きほぐすときに必要な段数である。加群自身が射影的なら段数は零、一つの関係加群が射影的になれば段数は一、いつまでも射影的な関係加群に到達しなければ無限となる。この数は自由な生成元の個数ではなく、関係の関係を何回調べる必要があるかを表している。
有限生成性や環のNoether性を仮定せずに定義できる。標準的なホモロジー次元の扱いは Wei94 §4.1、局所環上の有限加群の扱いは Mat89 §19 に対応する。一方、Noether局所環上の有限加群では最小自由分解によって段数を読み取れる。この二つの場面を区別し、一般の環でのExtによる判定から、局所環での具体的な計算法までを説明する。

定義と端点

以下、$R$ は単位元をもつ環とし、加群は単位的な左 $R$ 加群とする。可換性を必要とする節では明記する。射影加群とは全射に沿う写像の持上げができる加群である。この条件と、自由加群の直和因子であることの同値も以下で確認する。

射影次元

非零加群 $M$ の射影次元(projective dimension)$\operatorname{pd}_RM$ は、完全列
$$0\longrightarrow P_d\longrightarrow P_{d-1}\longrightarrow\cdots\longrightarrow P_0\longrightarrow M\longrightarrow0$$
で全ての $P_i$ が射影加群であるものの長さ $d$ の最小値である。有限長の列が存在しなければ $\operatorname{pd}_RM=\infty$ とする。本記事では零加群について $\operatorname{pd}_R0=-\infty$ と約束する。零加群の値を零とする別の規約もあるので、零を含む等式ではこの約束を区別する。

長さ $d$ とは非零の射影項が必ず $d+1$ 個あるという意味ではない。末尾の射影項が零なら、より短い分解になっている。$d$ は加群の生成数とも異なり、例えば体上の任意のベクトル空間は基底が無限であっても射影次元零である。

射影次元零

非零加群 $M$ について $\operatorname{pd}_RM=0$ は $M$ が射影加群であることと同値である。

長さ零の完全列は $0\to P_0\to M\to0$ であり、$P_0\to M$ は同型である。逆に $M$ が射影なら $P_0=M$ とすればよい。持上げ条件から直和因子条件を得るには、全ての元を生成元とする自由加群 $F$ から $M$ への全射を作り、恒等写像を持ち上げる。切断 $s:M\to F$ ができ、$F=s(M)\oplus\ker(F\to M)$ となる。逆に自由加群では基底の像を一つずつ持ち上げられ、直和因子への制限で持上げ条件が得られる。$\square$

任意の加群には自由分解が存在する。自由加群からの全射をとり、その核にも自由加群から全射をとる操作を繰り返せばよい。従って射影次元が無限というのは分解が存在しないという意味ではなく、有限長の射影分解にできないという意味である。

分解の比較と関係加群

関係加群

射影分解 $\cdots\to P_1\to P_0\to M\to0$ に対して $K_0=M$、$K_1=\ker(P_0\to M)$ とし、一般に
$$0\to K_{i+1}\to P_i\to K_i\to0$$
となる $K_i$ を第 $i$ 関係加群と呼ぶ。別の分解では $K_i$ 自身が同型とは限らない。

Schanuelの補題

二つの射影表示 $0\to K\to P\to M\to0$ と $0\to K'\to P'\to M\to0$ に対して
$$K\oplus P'\cong K'\oplus P$$
が成り立つ。

両全射を $q,q'$ として
$$E=\{(p,p')\in P\oplus P':q(p)=q'(p')\}$$
を作る。$E\to P'$ の射影は全射で核は $K$ である。$P'$ の射影性により分裂して $E\cong K\oplus P'$ となる。他方 $E\to P$ の核は $K'$ で、同様に $E\cong K'\oplus P$ となる。どちらも加群と写像の直接計算であり、有限生成性を用いない。$\square$

これは関係加群の違いが射影直和因子を加えることで調整されることを示す。ただし「射影項を足したから最小分解になった」という意味ではない。一般の環で最小分解が存在するとは限らないため、射影次元の独立性は次の比較と判定で扱う。

比較鎖写像とホモトピー

加群写像 $M\to N$ は射影分解間の鎖写像に持ち上がり、持上げは鎖ホモトピーを除いて一意である。

射影分解を $P_\bullet\to M,Q_\bullet\to N$ とする。次数零では $P_0$ の射影性を使い $P_0\to M\to N$ を $Q_0\to N$ に沿って持ち上げる。前次数までできたら $f_{i-1}d_P$ の像は $\ker d_Q=\operatorname{im}d_Q$ に入るので、再び射影性で $f_i:P_i\to Q_i$ を作る。
二つの持上げの差を $k_i$ とする。$h_{-1}=0$ として、次数零では $k_0$ の像が増大の核に入るので $d_Qh_0=k_0$ とする。帰納的に $k_i-h_{i-1}d_P$ は $d_Q$ で零になる。前次数の等式と鎖写像性から $d_Qk_i=d_Qh_{i-1}d_P$ となるためである。これを持ち上げて
$$k_i=d_Qh_i+h_{i-1}d_P$$
とできる。Homまたはテンソルを施してもホモトピー等式が保たれ、誘導されるホモロジー写像は一致する。恒等写像の比較を両方向に作れば合成は恒等にホモトピックである。$\square$

Extによる判定

射影分解で $\operatorname{Hom}_R(P_\bullet,N)$ のコホモロジーをとると $\operatorname{Ext}^i_R(M,N)$ を得る。入射分解による定義との比較はExt関手で証明されるが、ここで使う判定は射影計算法の具体的な商から導く。

一次Extの商と射影性

射影表示 $0\to K\to P\to M\to0$ に対し
$$\operatorname{Ext}^1_R(M,N)\cong\operatorname{Hom}_R(K,N)/\{h|_K:h:P\to N\}$$
である。従って全ての $N$ で $\operatorname{Ext}^1_R(M,N)=0$ となることと $M$ が射影的であることは同値である。

$P_1\to K$ を射影分解の次の全射とする。$P_1\to N$ がコサイクルであるとは、$P_2$ の像、すなわち $P_1\to K$ の核を零にすることである。これは $K\to N$ への一意な因子化と同値である。境界は $P\to N$ の制限から来るので商の式を得る。
全ての $N$ で商が零なら、特に $N=K$ として $\mathrm{id}_K$ が $h:P\to K$ の制限となる。従って $K\subset P$ は分裂し、商 $M$ は射影 $P$ の直和因子として射影的である。逆に $M$ が射影なら $P=M$、$K=0$ の表示で商は零である。$\square$

全係数Extの消滅判定

任意の整数 $d\ge0$ に対し、次は同値である。

  1. $\operatorname{pd}_RM\le d$。
  2. 任意の加群 $N$ について $\operatorname{Ext}^{d+1}_R(M,N)=0$。
  3. 任意の加群 $N$ と $i>d$ について $\operatorname{Ext}^i_R(M,N)=0$。
  4. 任意の射影分解の第 $d$ 関係加群 $K_d$ が射影的である。

長さ $d$ の分解でHomを計算すれば $i>d$ では項がないので零であり、1から3、3から2が従う。任意の射影分解を固定する。$K_d$ の分解は $\cdots\to P_{d+1}\to P_d\to K_d\to0$ なので、その一次Homコホモロジーは元の複体の $d+1$ 次コホモロジーと同じ核と像の商である。従って
$$\operatorname{Ext}^{d+1}_R(M,N)\cong\operatorname{Ext}^1_R(K_d,N).$$
$d=0$ でもこれは $K_0=M$ とする恒等同定である。2を仮定すると前補題により $K_d$ は射影的になる。分解が任意だったので4を得る。4から、完全列 $0\to K_d\to P_{d-1}\to\cdots\to P_0\to M\to0$ が長さ $d$ の射影分解となり1が従う。$d=0$ では $M$ 自身の射影性を意味する。零加群も全消滅と射影性を満たす。$\square$

ここで「任意の係数 $N$」を落としてはいけない。ある一つの係数でのExt消滅は、全ての射影障害を検出するとは限らない。例えば $n\ge2$ とし、$\mathbb Z$ 上の $M=\mathbb Z/n\mathbb Z$ と $N=\mathbb Q$ では一次Extは零だが、$M$ の射影次元は一である。

有限射影次元を検出する係数

非零 $M$ の射影次元が有限値 $d$ なら、ある $N$ について $\operatorname{Ext}^d_R(M,N)\ne0$ となる。従って上限は単に分解から得るだけでなくExtから下限を得られる。

$d=0$ なら $N=M$ とすれば恒等写像が非零である。$d>0$ なら、全 $N$ で $\operatorname{Ext}^d(M,N)=0$ と仮定すると前定理を $d-1$ に適用でき、$\operatorname{pd}M\le d-1$ に矛盾する。$\square$

短完全列と直和

短完全列での三つの上界

$0\to L\to M\to N\to0$ に対し
$$\operatorname{pd}M\le\max(\operatorname{pd}L,\operatorname{pd}N),$$
$$\operatorname{pd}L\le\max(\operatorname{pd}M,\operatorname{pd}N-1),$$
$$\operatorname{pd}N\le\max(\operatorname{pd}M,\operatorname{pd}L+1)$$
が成り立つ。$\infty\pm1=\infty$、$-\infty\pm1=-\infty$ と解釈する。

係数加群 $X$ を固定し、入射分解 $X\to I^\bullet$ をとる。各 $I^j$ の入射性から
$$0\to\operatorname{Hom}(N,I^j)\to\operatorname{Hom}(M,I^j)\to\operatorname{Hom}(L,I^j)\to0$$
が完全である。接続写像は、商のサイクルを持ち上げて微分をとることで作る。$dz=\iota(w)$ とすれば $dw=0$ で、$[z'']\mapsto[w]$ となる。代表を境界だけ変えたり持上げを核の元だけ変えても $w$ は境界だけ変わる。中央のサイクルの像が境界なら、その境界の持上げを引くと核のサイクルから来る。接続が零なら $w=da$ を引いてサイクル持上げを作れる。核のサイクルが中央で境界なら、その前像を商へ送って接続の前像を得る。これで三位置の完全性を得る。
従って関連する部分は
$$\operatorname{Ext}^{i-1}(L,X)\to\operatorname{Ext}^{i}(N,X)\to\operatorname{Ext}^{i}(M,X)\to\operatorname{Ext}^{i}(L,X)\to\operatorname{Ext}^{i+1}(N,X).$$
$L,N$ の上限を超える $i$ なら $\operatorname{Ext}^i(M,X)=0$ となる。$M$ の上限と $N$ の上限から一を引いた値の両方を超える $i$ なら $\operatorname{Ext}^i(L,X)=0$ となる。$M$ の上限と $L$ の上限に一を足した値の両方を超える $i$ なら $\operatorname{Ext}^i(N,X)=0$ となる。全係数の消滅判定で三上界を得る。無限の上界は自明であり、負の上界が出る場合は短完全列から対応する加群が零となる端点を別に見る。$\square$

例えば $M=P$ が射影で $N$ が非零かつ $\operatorname{pd}N=d>0$ なら、$L$ は第1関係加群で $\operatorname{pd}L=d-1$ となる。上界は前命題の第2式 $\operatorname{pd}L\le\max(0,d-1)=d-1$、下界は第3式 $d\le\max(0,\operatorname{pd}L+1)$ と $d\ge1$ から従う $d\le\operatorname{pd}L+1$ による。これに対し $\operatorname{pd}N=0$、すなわち $N$ が射影の場合はこの主張の対象外である。このときは $M\to N$ が切断を持って列が分裂し、$L$ は射影加群 $P$ の直和因子として射影になる。従って $L\ne0$ なら $\operatorname{pd}L=0$、$L=0$(たとえば $M=N=P$)なら規約により $\operatorname{pd}L=-\infty$ であり、いずれの場合も $d-1=-1$ という値にはならない。

直和と直和因子

非零加群が少なくとも一つある族 $(M_\lambda)$ について
$$\operatorname{pd}\Bigl(\bigoplus_\lambda M_\lambda\Bigr)=\sup_\lambda\operatorname{pd}M_\lambda.$$
全て零なら双方を $-\infty$ とする。特に直和因子の射影次元は元の加群の射影次元以下である。

各射影分解を直和すると直和の射影分解になる。直和は有限台の成分ごとに核と像を計算できるので完全性を保ち、射影加群の任意直和も各成分の持上げを選べば射影的である。右辺が有限値 $d$ なら各分解を長さ $d$ に揃えて直和でき、上界を得る。
逆の上界は全係数Extで調べる。二項直和ではHom複体は二項直和となり、$\operatorname{Ext}^i(M_1\oplus M_2,X)=\operatorname{Ext}^i(M_1,X)\oplus\operatorname{Ext}^i(M_2,X)$ である。従って有限射影次元の加群の直和因子も同じ上界を持つ。各 $M_\lambda$ は全直和の直和因子だから、全直和が有限値なら右辺もそれ以下である。右辺が無限なら有限値の全直和は存在せず、等式が従う。$\square$

局所化と局所環での計算

局所化の上界

$R$ が可換環で $S$ が積閉集合なら
$$\operatorname{pd}_{S^{-1}R}(S^{-1}M)\le\operatorname{pd}_RM$$
である。

局所化は完全である。実際、分数の像が零ならある分母が分子を零にするため、元の完全列でその分子の前像を取って局所化した前像を得られる。射影項は自由の直和因子であり、局所化後もその分裂を保つので射影的である。有限長分解を局所化すれば上界を得る。局所化後に $M$ が零なら左辺は $-\infty$ である。$\square$

この命題だけから、任意加群の射影次元が局所値の上限と一致するとは結論しない。有限生成性や有限表示性を使う局所大域判定は別の主張である。ここでは特にNoether局所環上の有限加群に集中する。

最小自由分解とTor

$(A,\mathfrak m,k)$ をNoether局所環、$M$ を非零有限生成加群とする。各微分の像が $\mathfrak mF_{i-1}$ に入る有限階数自由分解 $F_\bullet\to M$ が存在し、
$$\operatorname{Tor}_i^A(k,M)\cong k\otimes_AF_i$$
となる。$\operatorname{pd}_AM$ は、この分解の非零項の最後の次数に等しい。非零項が任意に高い次数まであるなら無限である。

有限Nakayamaの補題を確認する。有限生成加群 $U$ が $U=\mathfrak mU$ なら生成列 $u$ に対し $u=Du$、$D$ の全成分は $\mathfrak m$ に入る。余因子行列を掛けると $\det(1-D)u=0$ であり、この行列式は法 $\mathfrak m$ で一だから単元である。従って $U=0$。剰余生成元の持上げが生成することは、その生成する部分加群で割ってこの結論を使えばよい。
$M/\mathfrak mM$ の基底を持ち上げて $F_0\to M$ を作る。核 $K_1$ は有限生成である。Noether環の有限自由部分加群が有限生成なことは、最後の座標の像イデアルの生成元を持ち上げ、その核を一つ少ない座標で帰納することで従う。従って $K_1/\mathfrak mK_1$ の基底も持ち上げて有限自由全射 $F_1\to K_1$ を作れる。これを繰り返す。各全射の剰余体上の写像が同型なので、その核は $\mathfrak mF_i$ に入る。よって各分解微分は剰余体で零になり、$k\otimes F_\bullet$ の全微分が零だから表示のTor同型を得る。
有限長 $d$ の射影分解が存在すれば、比較鎖写像とホモトピーによりTorの計算はこの有限分解でも最小分解でも同じである。有限分解では $i>d$ でTorが零だから、特に $k\otimes F_{d+1}=0$ となる。有限Nakayamaにより $F_{d+1}=0$ で、$F_{d+1}\to K_{d+1}$ が全射だから $K_{d+1}=0$ となる。従って最小自由分解は次数 $d$ までで止まる。
逆に $F_d$ までで分解が止まれば、その列は長さ $d$ の自由分解で射影次元は $d$ 以下である。$F_d\ne0$ なら $k\otimes F_d\ne0$ でTorが非零だから、次数 $d-1$ までの分解は存在しない。従って射影次元はちょうど $d$ である。$\square$

有限階数の条件はここで本質的である。任意の加群について $U=\mathfrak mU$ から $U=0$ は従わない。例えば $\mathbb Z_{(p)}$ 上の $\mathbb Q$ は非零なのに $p\mathbb Q=\mathbb Q$ である。一般加群の射影次元をこの最小分解の論法で調べることはできない。

全計算を伴う例と反例

一変数の商

体 $k$ に対し $A=k[x]$、$M=A/(x)$ とする。$A$ は整域なので
$$0\to A\xrightarrow{x}A\to M\to0$$
は完全で、$\operatorname{pd}_AM\le1$ である。Homを係数 $M$ にとると $M\xrightarrow{x}M$ の微分は零なので $\operatorname{Ext}^1_A(M,M)=M\ne0$。消滅判定で $\operatorname{pd}_AM=1$ となる。$x$ を逆にすると $M_x=0$ になり、局所化で次元が厳密に下がる例にもなる。

二変数での次数二

体 $k$ に対し $A=k[x,y]$、$M=A/(x,y)$ とする。列
$$0\to A\xrightarrow{c\mapsto(-yc,xc)}A^2\xrightarrow{(u,v)\mapsto xu+yv}A\to M\to0$$
は完全である。最初の単射は整域性による。$xu+yv=0$ なら $x=0$ として $yv(0,y)=0$、従って $v=xc$ と書ける。元の式で $x$ を消去すると $u=-yc$ となる。最後の像は $(x,y)$ だから全ての位置で完全である。従って射影次元は二以下である。
係数 $M=k$ にHomを施すと $x,y$ は零として作用するので両微分は零になる。$\operatorname{Ext}^2_A(M,M)=k\ne0$ だから射影次元は二である。局所環 $A_{(x,y)}$ でも同じ列と剰余体係数の計算により射影次元二になる。次数一の分解を探すだけではこの例の障害を除けない。

無限射影次元の周期分解

体 $k$ に対し $A=k[\varepsilon]/(\varepsilon^2)$、$M=A/(\varepsilon)=k$ とする。任意の元は $a+b\varepsilon$ と一意に書け、$\varepsilon(a+b\varepsilon)=a\varepsilon$ である。従って $\varepsilon$ 倍写像の核と像はともに $(\varepsilon)$ となり、
$$\cdots\xrightarrow{\varepsilon}A\xrightarrow{\varepsilon}A\xrightarrow{\varepsilon}A\to k\to0$$
は自由分解である。係数 $k$ のHom複体では全微分が零なので、全ての $i\ge0$ で $\operatorname{Ext}^i_A(k,k)=k$ となる。有限射影次元なら十分高い全Extが消えるはずなので $\operatorname{pd}_Ak=\infty$ である。
$A$ は有限次元の $k$ ベクトル空間でNoetherかつArtinであり、$k$ は有限生成である。それでも射影次元は無限となる。Krull次元零であることや有限生成であることから射影次元零を結論してはいけない。

射影次元零でも自由とは限らない

$A=\mathbb Z/6\mathbb Z\cong\mathbb Z/2\mathbb Z\times\mathbb Z/3\mathbb Z$ 上の $P=\mathbb Z/2\mathbb Z\times0$ は、補加群 $0\times\mathbb Z/3\mathbb Z$ を足すと $A$ になる。従って射影で射影次元零である。$P$ の元は二個であるが、$A$ 上の自由加群は零なら一個、非零なら少なくとも六個の元を持つので自由でない。局所環における有限射影自由の結論を任意の環へ移すことはできない。

平坦でも射影次元零とは限らない

$\mathbb Q$ は $\mathbb Z$ の局所化だから平坦である。分数の像が零となる条件が有限個の分母による零化であることから、局所化は単射を保つ。しかし $\operatorname{Hom}_{\mathbb Z}(\mathbb Q,\mathbb Z)=0$ である。写像 $f$ と任意の $q$ について $f(q)=n f(q/n)$ は全ての正整数 $n$ の倍数になるので零である。他方、非零射影 $\mathbb Z$ 加群を自由加群に直和因子として入れると、非零元を検出する座標射影が非零の $\mathbb Z$ への写像になる。従って $\mathbb Q$ は射影でなく、平坦性だけから射影次元零とはいえない。
この例は全ての高次Torが消えても、射影次元零が保証されないことも示す。Tor消滅が判定するのは平坦性であり、有限表示なしに射影性と同一視できない。有限表示平坦の場合には射影となるが、$\mathbb Q$ は $\mathbb Z$ 上有限生成でない。

誤った含意反例検出する計算
有限生成なら有限射影次元二重数環の剰余体全次数Extが非零
平坦なら射影次元零$\mathbb Q$ を $\mathbb Z$ 加群とみるHomから非射影を検出
射影次元零なら自由$\mathbb Z/6\mathbb Z$ 上の直和因子元の個数が自由加群と不一致
一つの係数でExtが消えれば射影$\mathbb Z/n\mathbb Z$、係数 $\mathbb Q$$\mathbb Q/n\mathbb Q=0$ だが整数係数では非零
局所化で射影次元は変わらない$k[x]/(x)$ の $x$ 局所化元の次元一、局所化後は零

深さとの関係

Noether局所環 $(A,\mathfrak m,k)$ 上の非零有限生成加群 $M$ が有限射影次元を持つとき、Auslander–Buchsbaum公式は
$$\operatorname{pd}_AM+\operatorname{depth}_AM=\operatorname{depth}A$$
を与える。有限生成・局所・Noether・有限射影次元を全て含む定理であり、本記事の任意環の消滅判定をこの公式に置き換えることはできない。公式の証明は Auslander–Buchsbaum公式 の記事にある。
大域次元は一つの加群の射影次元ではなく、環上の全加群の射影次元の上限をとる不変量である。有限加群だけを調べる範囲と全加群の範囲は区別しなければならない。正則局所環や多項式環の大域次元に関する定理は、射影次元の定義だけからは出ず、別の環論的証明を必要とする。
また、分解の途中に射影でない項を入れて長さを短く見せてはいけない。例えば $M$ だけを次数零に置いて $M\to M$ を恒等とすれば増大複体は完全だが、$M$ が非射影ならそれは射影分解でない。比較写像の構成が各 $P_i$ の射影性を使うことからも、この条件の必要性が分かる。

関連項目

参考文献

[1]
Charles A. Weibel, An Introduction to Homological Algebra, Cambridge University Press, 1994, §§2.2, 2.7, 4.1(射影分解、比較、ホモロジー次元)

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