中線定理(median theorem)とは、平面または空間の 3 点 $A,B,C$($B\ne C$)と線分 $BC$ の中点 $M$ について $AB^2+AC^2=2(AM^2+BM^2)$ が成り立つという定理である。座標・余弦定理・内積の 3 通りで証明でき、ベクトルでは平行四辺形の法則 $|\vec a+\vec b|^2+|\vec a-\vec b|^2=2|\vec a|^2+2|\vec b|^2$ と同じ式になる。長さから内積は $\vec a\cdot\vec b=\frac14(|\vec a+\vec b|^2-|\vec a-\vec b|^2)$ で復元される。$|x|+|y|$ で測る長さでは成り立たない。大学数学では、ノルムが平行四辺形の法則を満たすことが、ノルムが内積から来るための必要十分条件である(Jordan–von Neumann の定理)。
前提知識: 三平方の定理, 余弦定理(高校数学), ベクトル
三角形 $ABC$ の辺 $BC$ の中点を $M$ とするとき、線分 $AM$ を 中線 という。高校では、中線の長さを余弦定理を 2 回使って求めることができる。まずその計算を見る。
$AB=4$、$AC=6$、$BC=8$ の三角形で、$BC$ の中点を $M$ とする。$BM=4$ である。
ex-mdn-two-steps の 3 で使った式
$$
AB^2+AC^2=2(AM^2+BM^2)
$$
が 中線定理 であり、Pappus の中線定理とも呼ばれる(英語では Apollonius の定理と呼ばれることが多い。Axl24 の 6A の演習問題 34)。
$A(0,0)$、$B(3,0)$、$C(0,4)$ とする。角 $A$ が直角で、$AB=3$、$AC=4$、$BC=5$ である。斜辺 $BC$ の中点を $M$ とすると $BM=\frac52$ である。
ここから次の問いが出てくる。
| 高校の計算 | この記事での見方 | ボックス |
|---|---|---|
| $AB^2+AC^2=2(AM^2+BM^2)$ | 平行四辺形の法則 $\lvert\vec a+\vec b\rvert^2+\lvert\vec a-\vec b\rvert^2=2\lvert\vec a\rvert^2+2\lvert\vec b\rvert^2$ | prop-mdn-equivalent |
| $\lvert\vec a+\vec b\rvert^2$ を内積で展開する | 内積の分配法則と対称性 | prop-mdn-parallelogram |
| 3 辺から中線の長さ | 長さから内積を復元する | prop-mdn-polarization |
| 座標の距離 $\sqrt{x^2+y^2}$ | 平行四辺形の法則を満たす長さは内積から来る | thm-mdn-jvn |
平面または空間の 3 点 $A$、$B$、$C$($B\ne C$)について、線分 $BC$ の中点を $M$ とすると
$$
AB^2+AC^2=2(AM^2+BM^2)
$$
が成り立つ。
この定理は、$A$ が直線 $BC$ 上にある場合(三角形がつぶれる場合)も含めて成り立つ。3 通りの証明を順に述べる。1 つ目がいちばん一般で、2 つ目は三角形の角を、3 つ目は内積を使う。
方針:$M$ を原点、直線 $BC$ を $x$ 軸にとり、4 つの長さを座標で書いて比べる(図1)。
段 1(座標のとり方)。$A$、$B$、$C$ を含む平面をとり($A$ が直線 $BC$ 上にあるときは、直線 $BC$ を含む平面のどれか 1 つ)、その平面で $M$ を原点、直線 $BC$ を $x$ 軸とする座標を入れる。$BM=MC=c$($c>0$)とおくと $B(-c,0)$、$C(c,0)$ である。$A$ の座標を $(p,q)$ とする。
段 2(左辺)。2 点間の距離の公式で
$$
AB^2=(p+c)^2+q^2=p^2+2cp+c^2+q^2,\qquad AC^2=(p-c)^2+q^2=p^2-2cp+c^2+q^2
$$
である。足すと $2cp$ と $-2cp$ が打ち消し合い、$AB^2+AC^2=2p^2+2q^2+2c^2$ となる。
段 3(右辺)。$AM^2=p^2+q^2$、$BM^2=c^2$ なので $2(AM^2+BM^2)=2p^2+2q^2+2c^2$ である。
段 4(まとめ)。段 2 と段 3 の値は等しい。$A$ の位置には何の条件も使っていないので、$A$ が直線 $BC$ 上にあっても成り立つ。$\square$
座標による証明での座標のとり方。中点 $M$ を原点、直線 $BC$ を $x$ 軸にとると、$B$ と $C$ の座標が符号だけ違う形になることを見る図。
方針:中線 $AM$ で三角形を 2 つに分け、それぞれで $M$ の角について余弦定理を使う。$M$ の 2 つの角は互いに補角なので、余弦が符号だけ違い、足すと消える。ここでは $A$ が直線 $BC$ 上にない場合を示す(ある場合は prf-mdn-coordinates で示した)。
段 1(2 つの角)。$\varphi:=\angle AMB$ とおくと、$B$、$M$、$C$ はこの順に一直線上にあるので $\angle AMC=180^\circ-\varphi$ である。$\cos(180^\circ-\varphi)=-\cos\varphi$ である。
段 2(余弦定理を 2 回)。三角形 $ABM$ と三角形 $ACM$ で、$M$ の角について余弦定理を使う。$MC=BM$ なので
$$
AB^2=AM^2+BM^2-2\cdot AM\cdot BM\cos\varphi,\qquad AC^2=AM^2+BM^2+2\cdot AM\cdot BM\cos\varphi
$$
である。2 つ目の式では、段 1 の $\cos(180^\circ-\varphi)=-\cos\varphi$ を使った。
段 3(足す)。2 式を足すと $\cos\varphi$ を含む項が打ち消し合い、$AB^2+AC^2=2AM^2+2BM^2$ となる。$\square$
方針:$M$ を始点とするベクトルで書くと、$\overrightarrow{MC}=-\overrightarrow{MB}$ となる。これを使って $AB^2$ と $AC^2$ を内積で展開し、足す。内積の計算規則は ベクトルの内積(高校数学) で示したものを使う。
段 1(ベクトルをおく)。$\vec a:=\overrightarrow{MA}$、$\vec b:=\overrightarrow{MB}$ とおく。$M$ は $BC$ の中点なので $\overrightarrow{MC}=-\vec b$ である。
段 2(2 つの長さを展開する)。$\overrightarrow{AB}=\vec b-\vec a$、$\overrightarrow{AC}=-\vec b-\vec a$ なので、内積の分配法則と対称性により
$$
AB^2=|\vec b-\vec a|^2=|\vec a|^2-2\,\vec a\cdot\vec b+|\vec b|^2,\qquad AC^2=|\vec b+\vec a|^2=|\vec a|^2+2\,\vec a\cdot\vec b+|\vec b|^2
$$
である($|-\vec b-\vec a|=|\vec b+\vec a|$ を使った)。
段 3(足す)。$\vec a\cdot\vec b$ の項が打ち消し合い、$AB^2+AC^2=2|\vec a|^2+2|\vec b|^2=2(AM^2+BM^2)$ となる。$\square$
3 つの証明は、どれも「符号だけ違う 2 つの項が足すと消える」という同じ仕組みでできている。座標では $\pm2cp$、余弦定理では $\pm2\cdot AM\cdot BM\cos\varphi$、内積では $\pm2\,\vec a\cdot\vec b$ である。これらは同じ量を別の言葉で書いたもので、実際 $\vec a\cdot\vec b=AM\cdot BM\cos\varphi$ であり、座標では $\vec a=(p,q)$、$\vec b=(-c,0)$ なので $\vec a\cdot\vec b=-cp$ である。
中線定理から、3 辺の長さで中線の長さを表す公式が出る。
三角形 $ABC$ で $BC=a$、$CA=b$、$AB=c$ とし、$BC$ の中点を $M$ とすると
$$
AM=\frac12\sqrt{2b^2+2c^2-a^2}
$$
である。
thm-mdn-median に $BM=\frac a2$ を入れると $c^2+b^2=2AM^2+\frac{a^2}2$ である。両辺を $2$ で割って移項すると $AM^2=\frac{2b^2+2c^2-a^2}4$ となる。$AM>0$ なので、正の平方根をとって主張を得る。$\square$
$AB=5$、$BC=6$、$CA=7$ の三角形で、$BC$ の中点を $M$ とする。
prf-mdn-vectors の計算を、三角形ではなく平行四辺形の言葉で述べ直す。$\vec a$、$\vec b$ を 2 辺とする平行四辺形の 2 本の対角線は、$\vec a+\vec b$ と $\vec a-\vec b$ である。
平面または空間のベクトル $\vec a$、$\vec b$ について
$$
|\vec a+\vec b|^2+|\vec a-\vec b|^2=2|\vec a|^2+2|\vec b|^2
$$
が成り立つ。図形の言葉では、平行四辺形の 2 本の対角線の長さの 2 乗の和は、4 辺の長さの 2 乗の和に等しい。
方針:左辺の 2 つの項を、内積の計算規則(分配法則・対称性・$\vec a\cdot\vec a=|\vec a|^2$。ベクトルの内積(高校数学))で展開する。
段 1(展開)。
$$
|\vec a+\vec b|^2=(\vec a+\vec b)\cdot(\vec a+\vec b)=|\vec a|^2+2\,\vec a\cdot\vec b+|\vec b|^2,
$$
$$
|\vec a-\vec b|^2=(\vec a-\vec b)\cdot(\vec a-\vec b)=|\vec a|^2-2\,\vec a\cdot\vec b+|\vec b|^2
$$
である。
段 2(足す)。$2\,\vec a\cdot\vec b$ と $-2\,\vec a\cdot\vec b$ が打ち消し合い、$2|\vec a|^2+2|\vec b|^2$ が残る。
段 3(図形の言葉)。平行四辺形 $OACB$ で $\vec a=\overrightarrow{OA}$、$\vec b=\overrightarrow{OB}$ とすると、対角線は $\overrightarrow{OC}=\vec a+\vec b$ と $\overrightarrow{BA}=\vec a-\vec b$ であり、4 辺の長さは $|\vec a|$、$|\vec b|$、$|\vec a|$、$|\vec b|$ である。したがって段 2 の式は「対角線の 2 乗の和 $=$ 4 辺の 2 乗の和」を表す。$\square$
中線定理と平行四辺形の法則は、同じ内容を三角形と平行四辺形で言い換えたものである(図2)。
中線 $AM$ を $M$ の先へ同じ長さだけ延ばした点を $D$ とすると、四角形 $ABDC$ は平行四辺形になり、中線は対角線 $AD$ の半分であることを見る図(辺の長さは最初の例と同じ)。
三角形 $ABC$ で $\vec a:=\overrightarrow{AB}$、$\vec b:=\overrightarrow{AC}$ とし、$BC$ の中点を $M$ とする。このとき、thm-mdn-median の式 $AB^2+AC^2=2(AM^2+BM^2)$ は、prop-mdn-parallelogram の式を 2 で割ったものと同じ式である。
方針:平行四辺形の法則の 4 つの長さを、三角形 $ABC$ の辺と中線で書き直す。
段 1(対角線 $\vec a+\vec b$)。$M$ は $BC$ の中点なので $\overrightarrow{AM}=\frac12(\overrightarrow{AB}+\overrightarrow{AC})=\frac12(\vec a+\vec b)$ である(中点の位置ベクトル)。よって $|\vec a+\vec b|=2AM$、$|\vec a+\vec b|^2=4AM^2$ である。$AM$ を $M$ の先へ同じ長さだけ延ばした点を $D$ とすると $\overrightarrow{AD}=2\overrightarrow{AM}=\vec a+\vec b$ で、四角形 $ABDC$ は $\vec a$、$\vec b$ を 2 辺とする平行四辺形、$AD$ はその対角線である(図2)。
段 2(対角線 $\vec a-\vec b$)。$\vec a-\vec b=\overrightarrow{AB}-\overrightarrow{AC}=\overrightarrow{CB}$ なので $|\vec a-\vec b|=BC=2BM$、$|\vec a-\vec b|^2=4BM^2$ である。
段 3(書き直す)。prop-mdn-parallelogram の式は、段 1・段 2 と $|\vec a|=AB$、$|\vec b|=AC$ により
$$
4AM^2+4BM^2=2AB^2+2AC^2
$$
となる。両辺を $2$ で割ると $2(AM^2+BM^2)=AB^2+AC^2$ で、これは thm-mdn-median の式である。逆向きにたどれば、中線定理の式から平行四辺形の法則の式が出る。$\square$
prf-mdn-parallelogram の段 1 の 2 式を 引く と、$\vec a\cdot\vec b$ の項だけが残る。つまり、長さがわかれば内積がわかる。
平面または空間のベクトル $\vec a$、$\vec b$ について
$$
\vec a\cdot\vec b=\frac14\bigl(|\vec a+\vec b|^2-|\vec a-\vec b|^2\bigr)=\frac12\bigl(|\vec a+\vec b|^2-|\vec a|^2-|\vec b|^2\bigr)
$$
が成り立つ。1 つ目の式を 極化恒等式 という。
prf-mdn-parallelogram の段 1 の 1 つ目の式から 2 つ目の式を引くと、$|\vec a|^2$ と $|\vec b|^2$ が消えて $|\vec a+\vec b|^2-|\vec a-\vec b|^2=4\,\vec a\cdot\vec b$ となる。両辺を $4$ で割ると 1 つ目の式である。段 1 の 1 つ目の式を $\vec a\cdot\vec b$ について解くと 2 つ目の式になる。$\square$
極化恒等式は、「長さの測り方が決まれば、内積(したがって角)も決まる」ことを示している。では逆に、長さの測り方を先に勝手に決めたら、それに合う内積はいつでもあるのだろうか。次の節で見るように、答えは「平行四辺形の法則が成り立つときに限る」である。
座標平面で 2 点の「距離」を測る方法は、ふつうの $\sqrt{x^2+y^2}$ だけではない。碁盤の目の道を歩くときの距離 $|x|+|y|$ のように、別の測り方も考えられる。長さの測り方として最低限ほしい条件をまとめておく。
平面(または空間)のベクトル $v$ に実数 $\|v\|$ を 1 つずつ対応させる規則が、すべてのベクトル $u$、$v$ と実数 $k$ について次の 3 つを満たすとき、この規則を ノルム という。
$v=(x,y)$ とする。
3 つのノルムの「単位円」と、$u=(1,0)$、$v=(0,1)$、$u+v$、$u-v$。$\|u+v\|^2+\|u-v\|^2$(左辺)と $2\|u\|^2+2\|v\|^2$(右辺)が等しいのはふつうの長さだけであることを見る図。
どの仮定を外すと何が崩れるかを、次の表にまとめる。
| 外した仮定 | 崩れる主張 | ボックス |
|---|---|---|
| $M$ が $BC$ の中点 | 中線定理の式 | ex-mdn-not-midpoint |
| 長さがふつうの長さ(内積から来る長さ) | 平行四辺形の法則・中線定理 | ex-mdn-taxicab |
| 平行四辺形の法則 | 極化恒等式の右辺が内積の性質(分配法則)を満たす | ex-mdn-taxicab-polarization |
$A(0,3)$、$B(0,0)$、$C(3,0)$ とし、$BC$ を $1:2$ に分ける点を $P(1,0)$ とする。$AB^2+AC^2=9+18=27$ だが、$2(AP^2+BP^2)=2(10+1)=22$ で、等しくない。中線定理は、$M$ が中点であること(prf-mdn-vectors で $\overrightarrow{MC}=-\overrightarrow{MB}$ としたこと)を使っている。
中点でない点については、$BP:PC=m:n$ に応じた係数を付けた式 $n\,AB^2+m\,AC^2=(m+n)\bigl(AP^2+\tfrac{mn}{(m+n)^2}BC^2\bigr)$ が成り立つ。ここでは $m=1$、$n=2$、$BC=3$ で、左辺 $2\cdot9+18=36$、右辺 $3(10+2)=36$ である。この一般形は Stewartの定理 で扱う。
満たす性質:$P$ は線分 $BC$ 上の点。満たさない性質:$P$ が中点であること。破る主張:thm-mdn-median の式。
ex-mdn-taxicab は、「内積から来る長さなら平行四辺形の法則が成り立つ」の対偶として、「$\|\cdot\|_1$ はどんな内積からも来ない」ことを示している。驚くべきことに、この逆も成り立つ。ノルムが平行四辺形の法則を満たせば、極化恒等式の右辺が内積になり、そのノルムは内積から来る。これは P. Jordan と J. von Neumann が 1935 年に示した定理である(JvN35)。
平面(または空間)のベクトルのノルム $\|\cdot\|$(def-mdn-norm)が、すべてのベクトル $u$、$v$ について平行四辺形の法則
$$
\|u+v\|^2+\|u-v\|^2=2\|u\|^2+2\|v\|^2
$$
を満たすとする。このとき
$$
\langle u,v\rangle:=\frac14\bigl(\|u+v\|^2-\|u-v\|^2\bigr)
$$
と定めると、すべてのベクトル $u$、$u'$、$v$ と実数 $t$ について次が成り立つ。
方針:1 と 4 はノルムの条件だけから出る。いちばん難しいのは 2(分配法則)で、平行四辺形の法則はここでだけ使う。3 は、2 から整数・有理数の場合を示し、最後に有理数で近づけて実数の場合を示す。
段 1(1 と 4)。ノルムの条件 2 を $k=-1$ で使うと $\|-w\|=\|w\|$ である。よって $\|v-u\|=\|-(u-v)\|=\|u-v\|$ で、$\langle v,u\rangle=\frac14(\|v+u\|^2-\|v-u\|^2)=\frac14(\|u+v\|^2-\|u-v\|^2)=\langle u,v\rangle$ である。これが 1 である。また $\langle u,u\rangle=\frac14(\|2u\|^2-\|\vec 0\|^2)=\frac14\cdot4\|u\|^2=\|u\|^2$ である(条件 2 で $\|2u\|=2\|u\|$、条件 1 で $\|\vec 0\|=0$)。後半は条件 1 から出る。これが 4 である。
段 2(すぐわかる 2 つの式)。$\langle\vec 0,v\rangle=\frac14(\|v\|^2-\|-v\|^2)=0$ である。また $\langle -u,v\rangle=\frac14(\|-u+v\|^2-\|-u-v\|^2)=\frac14(\|u-v\|^2-\|u+v\|^2)=-\langle u,v\rangle$ である(段 1 の $\|-w\|=\|w\|$ を使った)。
段 3(平行四辺形の法則を使う鍵の式)。すべての $u$、$u'$、$v$ について
$$
\langle u,v\rangle+\langle u',v\rangle=2\Bigl\langle\frac{u+u'}2,v\Bigr\rangle
$$
を示す。平行四辺形の法則を $\|x\|^2+\|y\|^2=\frac12\bigl(\|x+y\|^2+\|x-y\|^2\bigr)$ の形で使う。
証明の中で平行四辺形の法則を使ったのは段 3 だけである。段 7 はノルムの条件 3(三角不等式)を使い、「有理数で近づける」ことで実数倍を示した。この定理は Axl24 の 6A の演習問題 28 にもある。そこでは平行四辺形の法則(同書の 6.21、p. 191)を満たすノルムが内積から来ることを示す問題として出されている。
$\|\cdot\|_1$ で、極化恒等式の右辺 $\langle u,v\rangle_1:=\frac14(\|u+v\|_1^2-\|u-v\|_1^2)$ を計算する。$v=(1,0)$ とすると
$$
\langle(1,0),v\rangle_1=\frac14(2^2-0^2)=1,\quad \langle(0,1),v\rangle_1=\frac14(\|(1,1)\|_1^2-\|(-1,1)\|_1^2)=\frac14(4-4)=0,
$$
$$
\langle(1,1),v\rangle_1=\frac14(\|(2,1)\|_1^2-\|(0,1)\|_1^2)=\frac14(9-1)=2
$$
である。$(1,1)=(1,0)+(0,1)$ なのに、$2\ne1+0$ で分配法則(thm-mdn-jvn の 2)が崩れる。平行四辺形の法則が成り立たないので、証明の段 3 が使えないからである。
満たす性質:ノルムの条件(ex-mdn-norms)、thm-mdn-jvn の 1 と 4。満たさない性質:平行四辺形の法則。破る主張:thm-mdn-jvn の 2。
$\|(x,y)\|:=\sqrt{x^2+xy+y^2}$ とする。$x^2+xy+y^2=\bigl(x+\frac y2\bigr)^2+\frac34y^2$ なので、根号の中は $0$ 以上で、$0$ になるのは $x=y=0$ のときだけである。
平行四辺形の法則は、平面や空間のベクトルに限らず、内積があるところならどこでも成り立つ(prf-mdn-jvn の段 8)。
区間 $0\le x\le1$ 上の連続関数に $\langle f,g\rangle:=\int_0^1f(x)g(x)\,dx$ と内積を入れ、$\|f\|:=\sqrt{\langle f,f\rangle}$ とする(関数の内積(高校数学))。$f(x)=1$、$g(x)=x$ とすると
$$
\|f+g\|^2=\int_0^1(1+x)^2dx=\frac73,\quad \|f-g\|^2=\int_0^1(1-x)^2dx=\frac13,\quad \|f\|^2=1,\quad \|g\|^2=\frac13
$$
なので、左辺は $\frac73+\frac13=\frac83$、右辺は $2\cdot1+2\cdot\frac13=\frac83$ で一致する。同じように、データの偏差を並べたベクトルでは、平行四辺形の法則は「和の分散と差の分散の和は、それぞれの分散の和の 2 倍」という式になる(分散と内積の関係は 相関係数(高校数学))。
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