中線定理(高校数学)

同義語:平行四辺形の法則(高校数学)median theorem (high school mathematics)

概要

中線定理(median theorem)とは、平面または空間の 3 点 $A,B,C$($B\ne C$)と線分 $BC$ の中点 $M$ について $AB^2+AC^2=2(AM^2+BM^2)$ が成り立つという定理である。座標・余弦定理・内積の 3 通りで証明でき、ベクトルでは平行四辺形の法則 $|\vec a+\vec b|^2+|\vec a-\vec b|^2=2|\vec a|^2+2|\vec b|^2$ と同じ式になる。長さから内積は $\vec a\cdot\vec b=\frac14(|\vec a+\vec b|^2-|\vec a-\vec b|^2)$ で復元される。$|x|+|y|$ で測る長さでは成り立たない。大学数学では、ノルムが平行四辺形の法則を満たすことが、ノルムが内積から来るための必要十分条件である(Jordan–von Neumann の定理)。

$$\newcommand{C}[0]{\mathbb{C}} \newcommand{N}[0]{\mathbb{N}} \newcommand{Q}[0]{\mathbb{Q}} \newcommand{R}[0]{\mathbb{R}} \newcommand{Z}[0]{\mathbb{Z}} $$

前提知識: 三平方の定理, 余弦定理(高校数学), ベクトル

高校での出発点:中線の長さを求める

三角形 $ABC$ の辺 $BC$ の中点を $M$ とするとき、線分 $AM$ を 中線 という。高校では、中線の長さを余弦定理を 2 回使って求めることができる。まずその計算を見る。

余弦定理を 2 回使って中線の長さを求める

$AB=4$、$AC=6$、$BC=8$ の三角形で、$BC$ の中点を $M$ とする。$BM=4$ である。

  1. 三角形 $ABC$ の角 $B$ について余弦定理を使うと
    $$ \cos B=\frac{AB^2+BC^2-AC^2}{2\cdot AB\cdot BC}=\frac{16+64-36}{2\cdot4\cdot8}=\frac{44}{64}=\frac{11}{16} $$
    である。
  2. 三角形 $ABM$ の角 $B$ について余弦定理を使うと
    $$ AM^2=AB^2+BM^2-2\cdot AB\cdot BM\cos B=16+16-2\cdot4\cdot4\cdot\frac{11}{16}=32-22=10 $$
    である。よって $AM=\sqrt{10}$ である。
  3. 同じ答えは、1 行の式 $AB^2+AC^2=2(AM^2+BM^2)$ からも出る。$AB^2+AC^2=16+36=52$ なので $AM^2+BM^2=26$ であり、$BM^2=16$ を引くと $AM^2=26-16=10$ となる。1・2 の答えと一致する。

ex-mdn-two-steps の 3 で使った式
$$ AB^2+AC^2=2(AM^2+BM^2) $$
が 中線定理 であり、Pappus の中線定理とも呼ばれる(英語では Apollonius の定理と呼ばれることが多い。Axl24 の 6A の演習問題 34)。

直角三角形の斜辺の中線

$A(0,0)$、$B(3,0)$、$C(0,4)$ とする。角 $A$ が直角で、$AB=3$、$AC=4$、$BC=5$ である。斜辺 $BC$ の中点を $M$ とすると $BM=\frac52$ である。

  1. 中線定理の式に入れると $9+16=2\bigl(AM^2+\frac{25}4\bigr)$ なので、$AM^2=\frac{25}2-\frac{25}4=\frac{25}4$、$AM=\frac52$ である。
  2. 座標で確かめる。$M\bigl(\frac32,2\bigr)$ なので $AM=\sqrt{\frac94+4}=\sqrt{\frac{25}4}=\frac52$ となり、一致する。
    $AM=BM=CM=\frac52$ なので、$M$ は 3 頂点から等距離にある。直角三角形の斜辺の中点が外接円の中心であることが、ここから読み取れる。

ここから次の問いが出てくる。

  1. 中線定理はなぜ成り立つのか。証明の方法はいくつあるか。→ thm-mdn-median
  2. 中線定理とベクトルの内積は、どう関係するのか。→ prop-mdn-parallelogram、prop-mdn-equivalent
  3. 長さがわかれば、内積もわかるのか。→ prop-mdn-polarization
  4. 中線定理は、どんな「長さの測り方」でも成り立つのか。→ ex-mdn-taxicab、thm-mdn-jvn
    この記事では、中線定理を 3 通りに証明し(thm-mdn-median)、それがベクトルの平行四辺形の法則と同じ内容であることを示す(prop-mdn-equivalent)。そのあと、平行四辺形の法則は「長さが内積から来る」ための条件そのものであること(Jordan–von Neumann の定理、thm-mdn-jvn)を、高校の知識で追える形で証明する。
    高校の計算この記事での見方ボックス
    $AB^2+AC^2=2(AM^2+BM^2)$平行四辺形の法則 $\lvert\vec a+\vec b\rvert^2+\lvert\vec a-\vec b\rvert^2=2\lvert\vec a\rvert^2+2\lvert\vec b\rvert^2$prop-mdn-equivalent
    $\lvert\vec a+\vec b\rvert^2$ を内積で展開する内積の分配法則と対称性prop-mdn-parallelogram
    3 辺から中線の長さ長さから内積を復元するprop-mdn-polarization
    座標の距離 $\sqrt{x^2+y^2}$平行四辺形の法則を満たす長さは内積から来るthm-mdn-jvn

主定理:中線定理

中線定理の主張

平面または空間の 3 点 $A$、$B$、$C$($B\ne C$)について、線分 $BC$ の中点を $M$ とすると
$$ AB^2+AC^2=2(AM^2+BM^2) $$
が成り立つ。

この定理は、$A$ が直線 $BC$ 上にある場合(三角形がつぶれる場合)も含めて成り立つ。3 通りの証明を順に述べる。1 つ目がいちばん一般で、2 つ目は三角形の角を、3 つ目は内積を使う。

座標による証明

方針:$M$ を原点、直線 $BC$ を $x$ 軸にとり、4 つの長さを座標で書いて比べる(図1)。
段 1(座標のとり方)。$A$、$B$、$C$ を含む平面をとり($A$ が直線 $BC$ 上にあるときは、直線 $BC$ を含む平面のどれか 1 つ)、その平面で $M$ を原点、直線 $BC$ を $x$ 軸とする座標を入れる。$BM=MC=c$($c>0$)とおくと $B(-c,0)$、$C(c,0)$ である。$A$ の座標を $(p,q)$ とする。
段 2(左辺)。2 点間の距離の公式で
$$ AB^2=(p+c)^2+q^2=p^2+2cp+c^2+q^2,\qquad AC^2=(p-c)^2+q^2=p^2-2cp+c^2+q^2 $$
である。足すと $2cp$ と $-2cp$ が打ち消し合い、$AB^2+AC^2=2p^2+2q^2+2c^2$ となる。
段 3(右辺)。$AM^2=p^2+q^2$、$BM^2=c^2$ なので $2(AM^2+BM^2)=2p^2+2q^2+2c^2$ である。
段 4(まとめ)。段 2 と段 3 の値は等しい。$A$ の位置には何の条件も使っていないので、$A$ が直線 $BC$ 上にあっても成り立つ。$\square$

座標による証明での座標のとり方。中点 !FORMULA[82][37019][0] を原点、直線 !FORMULA[83][1138015][0] を !FORMULA[84][38352][0] 軸にとると、!FORMULA[85][36678][0] と !FORMULA[86][36709][0] の座標が符号だけ違う形になることを見る図。 座標による証明での座標のとり方。中点 $M$ を原点、直線 $BC$ を $x$ 軸にとると、$B$ と $C$ の座標が符号だけ違う形になることを見る図。

余弦定理を 2 回使う証明

方針:中線 $AM$ で三角形を 2 つに分け、それぞれで $M$ の角について余弦定理を使う。$M$ の 2 つの角は互いに補角なので、余弦が符号だけ違い、足すと消える。ここでは $A$ が直線 $BC$ 上にない場合を示す(ある場合は prf-mdn-coordinates で示した)。
段 1(2 つの角)。$\varphi:=\angle AMB$ とおくと、$B$、$M$、$C$ はこの順に一直線上にあるので $\angle AMC=180^\circ-\varphi$ である。$\cos(180^\circ-\varphi)=-\cos\varphi$ である。
段 2(余弦定理を 2 回)。三角形 $ABM$ と三角形 $ACM$ で、$M$ の角について余弦定理を使う。$MC=BM$ なので
$$ AB^2=AM^2+BM^2-2\cdot AM\cdot BM\cos\varphi,\qquad AC^2=AM^2+BM^2+2\cdot AM\cdot BM\cos\varphi $$
である。2 つ目の式では、段 1 の $\cos(180^\circ-\varphi)=-\cos\varphi$ を使った。
段 3(足す)。2 式を足すと $\cos\varphi$ を含む項が打ち消し合い、$AB^2+AC^2=2AM^2+2BM^2$ となる。$\square$

内積による証明

方針:$M$ を始点とするベクトルで書くと、$\overrightarrow{MC}=-\overrightarrow{MB}$ となる。これを使って $AB^2$ と $AC^2$ を内積で展開し、足す。内積の計算規則は ベクトルの内積(高校数学) で示したものを使う。
段 1(ベクトルをおく)。$\vec a:=\overrightarrow{MA}$、$\vec b:=\overrightarrow{MB}$ とおく。$M$ は $BC$ の中点なので $\overrightarrow{MC}=-\vec b$ である。
段 2(2 つの長さを展開する)。$\overrightarrow{AB}=\vec b-\vec a$、$\overrightarrow{AC}=-\vec b-\vec a$ なので、内積の分配法則と対称性により
$$ AB^2=|\vec b-\vec a|^2=|\vec a|^2-2\,\vec a\cdot\vec b+|\vec b|^2,\qquad AC^2=|\vec b+\vec a|^2=|\vec a|^2+2\,\vec a\cdot\vec b+|\vec b|^2 $$
である($|-\vec b-\vec a|=|\vec b+\vec a|$ を使った)。
段 3(足す)。$\vec a\cdot\vec b$ の項が打ち消し合い、$AB^2+AC^2=2|\vec a|^2+2|\vec b|^2=2(AM^2+BM^2)$ となる。$\square$

3 つの証明は、どれも「符号だけ違う 2 つの項が足すと消える」という同じ仕組みでできている。座標では $\pm2cp$、余弦定理では $\pm2\cdot AM\cdot BM\cos\varphi$、内積では $\pm2\,\vec a\cdot\vec b$ である。これらは同じ量を別の言葉で書いたもので、実際 $\vec a\cdot\vec b=AM\cdot BM\cos\varphi$ であり、座標では $\vec a=(p,q)$、$\vec b=(-c,0)$ なので $\vec a\cdot\vec b=-cp$ である。
中線定理から、3 辺の長さで中線の長さを表す公式が出る。

中線の長さの公式

三角形 $ABC$ で $BC=a$、$CA=b$、$AB=c$ とし、$BC$ の中点を $M$ とすると
$$ AM=\frac12\sqrt{2b^2+2c^2-a^2} $$
である。

中線定理を $AM$ について解く

thm-mdn-median に $BM=\frac a2$ を入れると $c^2+b^2=2AM^2+\frac{a^2}2$ である。両辺を $2$ で割って移項すると $AM^2=\frac{2b^2+2c^2-a^2}4$ となる。$AM>0$ なので、正の平方根をとって主張を得る。$\square$

中線の長さを 2 通りで求める

$AB=5$、$BC=6$、$CA=7$ の三角形で、$BC$ の中点を $M$ とする。

  1. cor-mdn-length で $a=6$、$b=7$、$c=5$ とすると、$AM=\frac12\sqrt{2\cdot49+2\cdot25-36}=\frac12\sqrt{112}=\frac12\cdot4\sqrt7=2\sqrt7$ である。
  2. 座標で確かめる。prf-mdn-coordinates のように $B(-3,0)$、$C(3,0)$、$A(p,q)$($q>0$)とする。$AB^2=(p+3)^2+q^2=25$、$AC^2=(p-3)^2+q^2=49$ を引き算すると $12p=-24$、$p=-2$ である。1 つ目の式に戻すと $1+q^2=25$、$q^2=24$ である。よって $AM^2=p^2+q^2=4+24=28$、$AM=2\sqrt7$ となり、一致する。

平行四辺形の法則

prf-mdn-vectors の計算を、三角形ではなく平行四辺形の言葉で述べ直す。$\vec a$、$\vec b$ を 2 辺とする平行四辺形の 2 本の対角線は、$\vec a+\vec b$ と $\vec a-\vec b$ である。

平行四辺形の法則

平面または空間のベクトル $\vec a$、$\vec b$ について
$$ |\vec a+\vec b|^2+|\vec a-\vec b|^2=2|\vec a|^2+2|\vec b|^2 $$
が成り立つ。図形の言葉では、平行四辺形の 2 本の対角線の長さの 2 乗の和は、4 辺の長さの 2 乗の和に等しい。

内積で展開して足す

方針:左辺の 2 つの項を、内積の計算規則(分配法則・対称性・$\vec a\cdot\vec a=|\vec a|^2$。ベクトルの内積(高校数学))で展開する。
段 1(展開)。
$$ |\vec a+\vec b|^2=(\vec a+\vec b)\cdot(\vec a+\vec b)=|\vec a|^2+2\,\vec a\cdot\vec b+|\vec b|^2, $$
$$ |\vec a-\vec b|^2=(\vec a-\vec b)\cdot(\vec a-\vec b)=|\vec a|^2-2\,\vec a\cdot\vec b+|\vec b|^2 $$
である。
段 2(足す)。$2\,\vec a\cdot\vec b$ と $-2\,\vec a\cdot\vec b$ が打ち消し合い、$2|\vec a|^2+2|\vec b|^2$ が残る。
段 3(図形の言葉)。平行四辺形 $OACB$ で $\vec a=\overrightarrow{OA}$、$\vec b=\overrightarrow{OB}$ とすると、対角線は $\overrightarrow{OC}=\vec a+\vec b$ と $\overrightarrow{BA}=\vec a-\vec b$ であり、4 辺の長さは $|\vec a|$、$|\vec b|$、$|\vec a|$、$|\vec b|$ である。したがって段 2 の式は「対角線の 2 乗の和 $=$ 4 辺の 2 乗の和」を表す。$\square$

平行四辺形の対角線
  1. 2 辺が $3$ と $5$、1 本の対角線が $6$ の平行四辺形で、もう 1 本の対角線の長さ $d$ を求める。prop-mdn-parallelogram により $36+d^2=2\cdot9+2\cdot25=68$ なので、$d^2=32$、$d=4\sqrt2$ である。
  2. 長方形では 2 本の対角線の長さが等しい。縦 $3$、横 $4$ の長方形では対角線はどちらも $5$ で、$25+25=50=2\cdot9+2\cdot16$ となり、prop-mdn-parallelogram と合う。
  3. ひし形では 2 本の対角線が垂直に交わる。1 辺 $5$、対角線 $6$ と $8$ のひし形(対角線の半分 $3$、$4$ と辺 $5$ が直角三角形をつくる)では、$36+64=100=4\cdot25$ である。

中線定理と平行四辺形の法則は、同じ内容を三角形と平行四辺形で言い換えたものである(図2)。
中線 !FORMULA[207][1137364][0] を !FORMULA[208][37019][0] の先へ同じ長さだけ延ばした点を !FORMULA[209][36740][0] とすると、四角形 !FORMULA[210][1092711968][0] は平行四辺形になり、中線は対角線 !FORMULA[211][1137085][0] の半分であることを見る図(辺の長さは最初の例と同じ)。 中線 $AM$ を $M$ の先へ同じ長さだけ延ばした点を $D$ とすると、四角形 $ABDC$ は平行四辺形になり、中線は対角線 $AD$ の半分であることを見る図(辺の長さは最初の例と同じ)。

中線定理と平行四辺形の法則は同じ式

三角形 $ABC$ で $\vec a:=\overrightarrow{AB}$、$\vec b:=\overrightarrow{AC}$ とし、$BC$ の中点を $M$ とする。このとき、thm-mdn-median の式 $AB^2+AC^2=2(AM^2+BM^2)$ は、prop-mdn-parallelogram の式を 2 で割ったものと同じ式である。

中線と対角線を結ぶ

方針:平行四辺形の法則の 4 つの長さを、三角形 $ABC$ の辺と中線で書き直す。
段 1(対角線 $\vec a+\vec b$)。$M$ は $BC$ の中点なので $\overrightarrow{AM}=\frac12(\overrightarrow{AB}+\overrightarrow{AC})=\frac12(\vec a+\vec b)$ である(中点の位置ベクトル)。よって $|\vec a+\vec b|=2AM$、$|\vec a+\vec b|^2=4AM^2$ である。$AM$ を $M$ の先へ同じ長さだけ延ばした点を $D$ とすると $\overrightarrow{AD}=2\overrightarrow{AM}=\vec a+\vec b$ で、四角形 $ABDC$ は $\vec a$、$\vec b$ を 2 辺とする平行四辺形、$AD$ はその対角線である(図2)。
段 2(対角線 $\vec a-\vec b$)。$\vec a-\vec b=\overrightarrow{AB}-\overrightarrow{AC}=\overrightarrow{CB}$ なので $|\vec a-\vec b|=BC=2BM$、$|\vec a-\vec b|^2=4BM^2$ である。
段 3(書き直す)。prop-mdn-parallelogram の式は、段 1・段 2 と $|\vec a|=AB$、$|\vec b|=AC$ により
$$ 4AM^2+4BM^2=2AB^2+2AC^2 $$
となる。両辺を $2$ で割ると $2(AM^2+BM^2)=AB^2+AC^2$ で、これは thm-mdn-median の式である。逆向きにたどれば、中線定理の式から平行四辺形の法則の式が出る。$\square$

長さから内積がわかる

prf-mdn-parallelogram の段 1 の 2 式を 引く と、$\vec a\cdot\vec b$ の項だけが残る。つまり、長さがわかれば内積がわかる。

長さで内積を表す式

平面または空間のベクトル $\vec a$、$\vec b$ について
$$ \vec a\cdot\vec b=\frac14\bigl(|\vec a+\vec b|^2-|\vec a-\vec b|^2\bigr)=\frac12\bigl(|\vec a+\vec b|^2-|\vec a|^2-|\vec b|^2\bigr) $$
が成り立つ。1 つ目の式を 極化恒等式 という。

展開した 2 式を引く

prf-mdn-parallelogram の段 1 の 1 つ目の式から 2 つ目の式を引くと、$|\vec a|^2$ と $|\vec b|^2$ が消えて $|\vec a+\vec b|^2-|\vec a-\vec b|^2=4\,\vec a\cdot\vec b$ となる。両辺を $4$ で割ると 1 つ目の式である。段 1 の 1 つ目の式を $\vec a\cdot\vec b$ について解くと 2 つ目の式になる。$\square$

長さから内積を計算する
  1. $\vec a=(1,2)$、$\vec b=(3,1)$ では $\vec a+\vec b=(4,3)$、$\vec a-\vec b=(-2,1)$ なので、$\frac14(25-5)=5$ である。成分の式 $1\cdot3+2\cdot1=5$ と一致する。
  2. $|\vec a|=3$、$|\vec b|=5$、$|\vec a+\vec b|=7$ のとき、2 つ目の式から $\vec a\cdot\vec b=\frac12(49-9-25)=\frac{15}2$ である。なす角は $\cos\theta=\frac{15/2}{3\cdot5}=\frac12$ から $60^\circ$ である。さらに $|\vec a-\vec b|^2=9+25-15=19$ なので、1 つ目の式でも $\frac14(49-19)=\frac{15}2$ となり、一致する。

極化恒等式は、「長さの測り方が決まれば、内積(したがって角)も決まる」ことを示している。では逆に、長さの測り方を先に勝手に決めたら、それに合う内積はいつでもあるのだろうか。次の節で見るように、答えは「平行四辺形の法則が成り立つときに限る」である。

平行四辺形の法則が成り立たない「長さ」

座標平面で 2 点の「距離」を測る方法は、ふつうの $\sqrt{x^2+y^2}$ だけではない。碁盤の目の道を歩くときの距離 $|x|+|y|$ のように、別の測り方も考えられる。長さの測り方として最低限ほしい条件をまとめておく。

長さの測り方の条件

平面(または空間)のベクトル $v$ に実数 $\|v\|$ を 1 つずつ対応させる規則が、すべてのベクトル $u$、$v$ と実数 $k$ について次の 3 つを満たすとき、この規則を ノルム という。

  1. $\|v\|\ge0$ であり、$\|v\|=0$ となるのは $v=\vec 0$ のときだけである。
  2. $\|kv\|=|k|\,\|v\|$。
  3. (三角不等式)$\|u+v\|\le\|u\|+\|v\|$。
    ノルムは、大学数学の ノルム の、平面・空間の場合である。
3 つのノルム

$v=(x,y)$ とする。

  1. ふつうの長さ $|v|=\sqrt{x^2+y^2}$ はノルムである。1 と 2 は式から読み取れる。3 は、内積の大きさの不等式 $\vec u\cdot\vec v\le|\vec u||\vec v|$(ベクトルの内積(高校数学))により $|\vec u+\vec v|^2=|\vec u|^2+2\,\vec u\cdot\vec v+|\vec v|^2\le|\vec u|^2+2|\vec u||\vec v|+|\vec v|^2=(|\vec u|+|\vec v|)^2$ となることからわかる。
  2. $\|v\|_1:=|x|+|y|$ もノルムである。1:絶対値は $0$ 以上で、$|x|+|y|=0$ なら $x=y=0$。2:$|kx|+|ky|=|k|(|x|+|y|)$。3:$u=(x_1,y_1)$、$v=(x_2,y_2)$ とすると、実数の絶対値の三角不等式 $|x_1+x_2|\le|x_1|+|x_2|$(絶対値と三角不等式)を $x$ 成分と $y$ 成分に使って足せばよい。
  3. $\|v\|_\infty:=\max\{|x|,|y|\}$(大きいほう)もノルムである。3 は、$|x_1+x_2|\le|x_1|+|x_2|\le\|u\|_\infty+\|v\|_\infty$ と $y$ 成分の同じ不等式から、大きいほうも $\|u\|_\infty+\|v\|_\infty$ 以下であることによる。
    $\|v\|=1$ となる点の全体(「単位円」)は、1 では円、2 では正方形を $45^\circ$ 回したひし形、3 では正方形になる(図3)。

3 つのノルムの「単位円」と、!FORMULA[299][896421556][0]、!FORMULA[300][-1656657965][0]、!FORMULA[301][36777320][0]、!FORMULA[302][36779242][0]。!FORMULA[303][-122238899][0](左辺)と !FORMULA[304][-45446596][0](右辺)が等しいのはふつうの長さだけであることを見る図。 3 つのノルムの「単位円」と、$u=(1,0)$、$v=(0,1)$、$u+v$、$u-v$。$\|u+v\|^2+\|u-v\|^2$(左辺)と $2\|u\|^2+2\|v\|^2$(右辺)が等しいのはふつうの長さだけであることを見る図。
どの仮定を外すと何が崩れるかを、次の表にまとめる。

外した仮定崩れる主張ボックス
$M$ が $BC$ の中点中線定理の式ex-mdn-not-midpoint
長さがふつうの長さ(内積から来る長さ)平行四辺形の法則・中線定理ex-mdn-taxicab
平行四辺形の法則極化恒等式の右辺が内積の性質(分配法則)を満たすex-mdn-taxicab-polarization
反例:中点でない点では式が崩れる

$A(0,3)$、$B(0,0)$、$C(3,0)$ とし、$BC$ を $1:2$ に分ける点を $P(1,0)$ とする。$AB^2+AC^2=9+18=27$ だが、$2(AP^2+BP^2)=2(10+1)=22$ で、等しくない。中線定理は、$M$ が中点であること(prf-mdn-vectors で $\overrightarrow{MC}=-\overrightarrow{MB}$ としたこと)を使っている。
中点でない点については、$BP:PC=m:n$ に応じた係数を付けた式 $n\,AB^2+m\,AC^2=(m+n)\bigl(AP^2+\tfrac{mn}{(m+n)^2}BC^2\bigr)$ が成り立つ。ここでは $m=1$、$n=2$、$BC=3$ で、左辺 $2\cdot9+18=36$、右辺 $3(10+2)=36$ である。この一般形は Stewartの定理 で扱う。
満たす性質:$P$ は線分 $BC$ 上の点。満たさない性質:$P$ が中点であること。破る主張:thm-mdn-median の式。

反例:$\lvert x\rvert+\lvert y\rvert$ で測ると平行四辺形の法則が崩れる
  1. $u=(1,0)$、$v=(0,1)$ とする。$\|\cdot\|_1$ では $\|u+v\|_1=\|(1,1)\|_1=2$、$\|u-v\|_1=\|(1,-1)\|_1=2$ なので、左辺は $4+4=8$、右辺は $2\cdot1+2\cdot1=4$ で、$8\ne4$ である。
  2. $\|\cdot\|_\infty$ では $\|u+v\|_\infty=\|u-v\|_\infty=1$ なので、左辺は $1+1=2$、右辺は $4$ で、$2\ne4$ である。
  3. 中線定理も崩れる。$A(0,1)$、$B(-1,0)$、$C(1,0)$、$BC$ の中点 $M(0,0)$ で、距離を $\|\cdot\|_1$ で測ると $AB=\|(-1,-1)\|_1=2$、$AC=\|(1,-1)\|_1=2$、$AM=\|(0,-1)\|_1=1$、$BM=\|(1,0)\|_1=1$ である。$AB^2+AC^2=8$ だが $2(AM^2+BM^2)=4$ である。
    満たす性質:def-mdn-norm の 3 つの条件(ex-mdn-norms)。満たさない性質:長さが内積から来ること。破る主張:prop-mdn-parallelogram と thm-mdn-median。prf-mdn-parallelogram は内積の分配法則を使っていたので、内積から来ない長さでは使えない。

大学数学で見る:Jordan–von Neumann の定理

ex-mdn-taxicab は、「内積から来る長さなら平行四辺形の法則が成り立つ」の対偶として、「$\|\cdot\|_1$ はどんな内積からも来ない」ことを示している。驚くべきことに、この逆も成り立つ。ノルムが平行四辺形の法則を満たせば、極化恒等式の右辺が内積になり、そのノルムは内積から来る。これは P. Jordan と J. von Neumann が 1935 年に示した定理である(JvN35)。

ノルムが内積から来る条件

平面(または空間)のベクトルのノルム $\|\cdot\|$(def-mdn-norm)が、すべてのベクトル $u$、$v$ について平行四辺形の法則
$$ \|u+v\|^2+\|u-v\|^2=2\|u\|^2+2\|v\|^2 $$
を満たすとする。このとき
$$ \langle u,v\rangle:=\frac14\bigl(\|u+v\|^2-\|u-v\|^2\bigr) $$
と定めると、すべてのベクトル $u$、$u'$、$v$ と実数 $t$ について次が成り立つ。

  1. $\langle u,v\rangle=\langle v,u\rangle$。
  2. $\langle u+u',v\rangle=\langle u,v\rangle+\langle u',v\rangle$。
  3. $\langle tu,v\rangle=t\langle u,v\rangle$。
  4. $\langle u,u\rangle=\|u\|^2$。したがって $\langle u,u\rangle\ge0$ で、$\langle u,u\rangle=0$ となるのは $u=\vec 0$ のときだけである。
    つまり $\langle\cdot,\cdot\rangle$ は内積の性質(対称性・線形性・正値性)をもち、$\|u\|=\sqrt{\langle u,u\rangle}$ である。逆に、この 4 つの性質をもつ $\langle\cdot,\cdot\rangle$ から $\|u\|:=\sqrt{\langle u,u\rangle}$ と定めた長さは、平行四辺形の法則を満たす。
分配法則を平行四辺形の法則から作る

方針:1 と 4 はノルムの条件だけから出る。いちばん難しいのは 2(分配法則)で、平行四辺形の法則はここでだけ使う。3 は、2 から整数・有理数の場合を示し、最後に有理数で近づけて実数の場合を示す。
段 1(1 と 4)。ノルムの条件 2 を $k=-1$ で使うと $\|-w\|=\|w\|$ である。よって $\|v-u\|=\|-(u-v)\|=\|u-v\|$ で、$\langle v,u\rangle=\frac14(\|v+u\|^2-\|v-u\|^2)=\frac14(\|u+v\|^2-\|u-v\|^2)=\langle u,v\rangle$ である。これが 1 である。また $\langle u,u\rangle=\frac14(\|2u\|^2-\|\vec 0\|^2)=\frac14\cdot4\|u\|^2=\|u\|^2$ である(条件 2 で $\|2u\|=2\|u\|$、条件 1 で $\|\vec 0\|=0$)。後半は条件 1 から出る。これが 4 である。
段 2(すぐわかる 2 つの式)。$\langle\vec 0,v\rangle=\frac14(\|v\|^2-\|-v\|^2)=0$ である。また $\langle -u,v\rangle=\frac14(\|-u+v\|^2-\|-u-v\|^2)=\frac14(\|u-v\|^2-\|u+v\|^2)=-\langle u,v\rangle$ である(段 1 の $\|-w\|=\|w\|$ を使った)。
段 3(平行四辺形の法則を使う鍵の式)。すべての $u$、$u'$、$v$ について
$$ \langle u,v\rangle+\langle u',v\rangle=2\Bigl\langle\frac{u+u'}2,v\Bigr\rangle $$
を示す。平行四辺形の法則を $\|x\|^2+\|y\|^2=\frac12\bigl(\|x+y\|^2+\|x-y\|^2\bigr)$ の形で使う。

  • $x=u+v$、$y=u'+v$ とすると、$x+y=(u+u')+2v$、$x-y=u-u'$ なので $\|u+v\|^2+\|u'+v\|^2=\frac12\bigl(\|(u+u')+2v\|^2+\|u-u'\|^2\bigr)$。
  • $x=u-v$、$y=u'-v$ とすると、$x+y=(u+u')-2v$、$x-y=u-u'$ なので $\|u-v\|^2+\|u'-v\|^2=\frac12\bigl(\|(u+u')-2v\|^2+\|u-u'\|^2\bigr)$。
    上の式から下の式を引くと $\|u-u'\|^2$ が消え、左辺は $4\langle u,v\rangle+4\langle u',v\rangle$ になるので
    $$ 4\langle u,v\rangle+4\langle u',v\rangle=\frac12\bigl(\|(u+u')+2v\|^2-\|(u+u')-2v\|^2\bigr) $$
    である。$w:=\frac{u+u'}2$ とおくと $(u+u')\pm2v=2(w\pm v)$ なので、条件 2 により $\|(u+u')\pm2v\|^2=4\|w\pm v\|^2$ である。よって右辺は $\frac12\cdot4\bigl(\|w+v\|^2-\|w-v\|^2\bigr)=2\cdot4\langle w,v\rangle=8\langle w,v\rangle$ である。両辺を $4$ で割ると示したい式になる。
    段 4(2:分配法則)。段 3 で $u'=\vec 0$ とすると、段 2 の $\langle\vec 0,v\rangle=0$ により $\langle u,v\rangle=2\bigl\langle\frac u2,v\bigr\rangle$ である。これはすべての $u$ で成り立つので、$u$ を $u+u'$ に替えると $\langle u+u',v\rangle=2\bigl\langle\frac{u+u'}2,v\bigr\rangle$ である。段 3 の右辺と同じなので、$\langle u,v\rangle+\langle u',v\rangle=\langle u+u',v\rangle$ となる。これが 2 である。
    段 5(3:整数と有理数)。正の整数 $n$ について $\langle nu,v\rangle=n\langle u,v\rangle$ を $n$ についての数学的帰納法で示す。$n=1$ では等式そのものである。$n$ で成り立てば、段 4 により $\langle(n+1)u,v\rangle=\langle nu,v\rangle+\langle u,v\rangle=(n+1)\langle u,v\rangle$ である。$n=0$ では段 2 により両辺 $0$、負の整数 $-n$ では段 2 により $\langle-nu,v\rangle=-\langle nu,v\rangle=-n\langle u,v\rangle$ である。次に有理数 $s=\frac mn$($m$ は整数、$n$ は正の整数)とする。整数の場合をベクトル $su$ と整数 $n$ に使うと $n\langle su,v\rangle=\langle nsu,v\rangle=\langle mu,v\rangle=m\langle u,v\rangle$ である。両辺を $n$ で割ると $\langle su,v\rangle=s\langle u,v\rangle$ である。
    段 6(ノルムの差の不等式)。すべての $x$、$y$ について $\bigl|\|x\|-\|y\|\bigr|\le\|x-y\|$ である。実際、条件 3 により $\|x\|=\|(x-y)+y\|\le\|x-y\|+\|y\|$ なので $\|x\|-\|y\|\le\|x-y\|$ であり、$x$ と $y$ を入れ替えると $\|y\|-\|x\|\le\|y-x\|=\|x-y\|$ である(段 1 の $\|-w\|=\|w\|$)。
    段 7(3:実数)。実数 $t$ を固定する。正の整数 $k$ について、$t$ を小数第 $k$ 位までで切り捨てた有理数を $s_k$ とすると、$|t-s_k|\le10^{-k}$、$|s_k|\le|t|+1$ である。$K:=(|t|+1)\|u\|+\|v\|$ とおく。
  • $X:=\|tu+v\|$、$Y:=\|s_ku+v\|$ とおく。段 6 と条件 2 により $|X-Y|\le\|(t-s_k)u\|=|t-s_k|\,\|u\|$ である。条件 3・2 により $X\le|t|\|u\|+\|v\|\le K$、$Y\le|s_k|\|u\|+\|v\|\le K$ である。よって $|X^2-Y^2|=|X-Y|(X+Y)\le2K\|u\|\,|t-s_k|$ である。
  • $v$ を $-v$ に替えた $\|tu-v\|^2$ と $\|s_ku-v\|^2$ の差も、同じ理由で $2K\|u\|\,|t-s_k|$ 以下である。
    $\langle tu,v\rangle-\langle s_ku,v\rangle$ は、この 2 つの差の差を $4$ で割ったものなので、$|\langle tu,v\rangle-\langle s_ku,v\rangle|\le\frac14\cdot4K\|u\|\,|t-s_k|=K\|u\|\,|t-s_k|$ である。段 5 から $\langle s_ku,v\rangle=s_k\langle u,v\rangle$ なので、$C:=K\|u\|+|\langle u,v\rangle|$ とおくと
    $$ d:=\bigl|\langle tu,v\rangle-t\langle u,v\rangle\bigr|\le|\langle tu,v\rangle-s_k\langle u,v\rangle|+|s_k-t|\,|\langle u,v\rangle|\le C\,|t-s_k|\le C\cdot10^{-k} $$
    である。$d\ge0$ は $k$ によらない数で、すべての正の整数 $k$ について $d\le C\cdot10^{-k}$ である。もし $d>0$ なら、$C\cdot10^{-k}< d$ となる $k$ をとれる($C=0$ ならどの $k$ でもよく、$C>0$ なら $10^{-k}<\frac dC$ となる $k$ をとる)ので矛盾する。よって $d=0$、すなわち $\langle tu,v\rangle=t\langle u,v\rangle$ である。これが 3 である。
    段 8(逆)。4 つの性質をもつ $\langle\cdot,\cdot\rangle$ から $\|u\|:=\sqrt{\langle u,u\rangle}$ と定めると、prf-mdn-parallelogram の段 1・段 2 の計算は、分配法則(性質 2 と 1)・実数倍(性質 3)・$\langle u,u\rangle=\|u\|^2$ だけを使っているので、そのまま平行四辺形の法則が出る。$\square$
平行四辺形の法則はどこで使ったか

証明の中で平行四辺形の法則を使ったのは段 3 だけである。段 7 はノルムの条件 3(三角不等式)を使い、「有理数で近づける」ことで実数倍を示した。この定理は Axl24 の 6A の演習問題 28 にもある。そこでは平行四辺形の法則(同書の 6.21、p. 191)を満たすノルムが内積から来ることを示す問題として出されている。

反例:$\lvert x\rvert+\lvert y\rvert$ では分配法則が崩れる

$\|\cdot\|_1$ で、極化恒等式の右辺 $\langle u,v\rangle_1:=\frac14(\|u+v\|_1^2-\|u-v\|_1^2)$ を計算する。$v=(1,0)$ とすると
$$ \langle(1,0),v\rangle_1=\frac14(2^2-0^2)=1,\quad \langle(0,1),v\rangle_1=\frac14(\|(1,1)\|_1^2-\|(-1,1)\|_1^2)=\frac14(4-4)=0, $$
$$ \langle(1,1),v\rangle_1=\frac14(\|(2,1)\|_1^2-\|(0,1)\|_1^2)=\frac14(9-1)=2 $$
である。$(1,1)=(1,0)+(0,1)$ なのに、$2\ne1+0$ で分配法則(thm-mdn-jvn の 2)が崩れる。平行四辺形の法則が成り立たないので、証明の段 3 が使えないからである。
満たす性質:ノルムの条件(ex-mdn-norms)、thm-mdn-jvn の 1 と 4。満たさない性質:平行四辺形の法則。破る主張:thm-mdn-jvn の 2。

例:楕円を単位円とするノルム

$\|(x,y)\|:=\sqrt{x^2+xy+y^2}$ とする。$x^2+xy+y^2=\bigl(x+\frac y2\bigr)^2+\frac34y^2$ なので、根号の中は $0$ 以上で、$0$ になるのは $x=y=0$ のときだけである。

  1. 「単位円」$\|(x,y)\|=1$ が楕円であることを確かめる。座標軸を $45^\circ$ 回して $X=\frac{x+y}{\sqrt2}$、$Y=\frac{-x+y}{\sqrt2}$ とおくと、$X^2=\frac{x^2+2xy+y^2}2$、$Y^2=\frac{x^2-2xy+y^2}2$ なので
    $$ \frac32X^2+\frac12Y^2=\frac{3(x^2+2xy+y^2)+(x^2-2xy+y^2)}4=x^2+xy+y^2 $$
    である。よって「単位円」は $\frac32X^2+\frac12Y^2=1$、すなわち $\frac{X^2}{2/3}+\frac{Y^2}2=1$ で、楕円である。
  2. この長さは、長さ $1$ で $60^\circ$ をなす 2 本の軸 $\vec e_1=(1,0)$、$\vec e_2=\bigl(\frac12,\frac{\sqrt3}2\bigr)$ による斜交座標で、ふつうの長さを書いたものである。実際、$|x\vec e_1+y\vec e_2|^2=x^2|\vec e_1|^2+2xy\,\vec e_1\cdot\vec e_2+y^2|\vec e_2|^2=x^2+2xy\cdot\frac12+y^2=x^2+xy+y^2$ である。
  3. 2 から、これがノルムで平行四辺形の法則を満たすことがわかる。数の組 $p=(x,y)$ にベクトル $L(p):=x\vec e_1+y\vec e_2$ を対応させると $\|p\|=|L(p)|$ である。
    • (線形)$p=(x_1,y_1)$、$q=(x_2,y_2)$ と実数 $k$ について $L(p+q)=L(p)+L(q)$、$L(kp)=kL(p)$ である。$L$ が和と実数倍を保つこのような性質を、$L$ が 線形 であるという。
    • (単射)$\vec e_1$、$\vec e_2$ は平行でないので、$L(p)=\vec 0$ となるのは $p=(0,0)$ のときだけである($x\vec e_1+y\vec e_2=\vec 0$ で $y\ne0$ なら $\vec e_2=-\frac xy\vec e_1$ となって平行になり、$y=0$ なら $x\vec e_1=\vec 0$ から $x=0$ である)。したがって $L(p)=L(q)$ なら $L(p-q)=\vec 0$ で $p=q$ となり、異なる数の組は異なるベクトルに移る。このことを $L$ が 単射 であるという。
    • これらにより、ノルムの条件(def-mdn-norm)はふつうの長さ $|\cdot|$ から受け継がれる。条件 1 は $|L(p)|\ge0$ と、$|L(p)|=0$ なら $L(p)=\vec 0$ で $p=(0,0)$ となることから(ここで単射を使う)。条件 2 は $\|kp\|=|kL(p)|=|k|\,|L(p)|$ から。条件 3 は $\|p+q\|=|L(p)+L(q)|\le|L(p)|+|L(q)|$ から。平行四辺形の法則も、$\|p+q\|^2+\|p-q\|^2=|L(p)+L(q)|^2+|L(p)-L(q)|^2$ に prop-mdn-parallelogram を使えば $2|L(p)|^2+2|L(q)|^2=2\|p\|^2+2\|q\|^2$ となり、受け継がれる。
  4. $u=(1,0)$、$v=(0,1)$ で確かめると、$\|u+v\|^2=1+1+1=3$、$\|u-v\|^2=1-1+1=1$ で、左辺は $4$、右辺は $2\cdot1+2\cdot1=4$ である。
  5. thm-mdn-jvn の内積は $\langle u,v\rangle=\frac14(3-1)=\frac12$ である。$\|u\|=\|v\|=1$ なので、この内積で測った $u$ と $v$ のなす角は $\cos\theta=\frac12$ から $60^\circ$ であり、2 の軸の角と一致する。一般に $\langle(x_1,y_1),(x_2,y_2)\rangle=x_1x_2+\frac12(x_1y_2+y_1x_2)+y_1y_2$ となる。
    平行四辺形の法則を満たすノルムからは、成分の積の和とは限らない内積が復元される。斜交座標と内積の関係は ベクトルの内積(高校数学) の反例の節でも扱っている。

平行四辺形の法則は、平面や空間のベクトルに限らず、内積があるところならどこでも成り立つ(prf-mdn-jvn の段 8)。

関数の内積での平行四辺形の法則

区間 $0\le x\le1$ 上の連続関数に $\langle f,g\rangle:=\int_0^1f(x)g(x)\,dx$ と内積を入れ、$\|f\|:=\sqrt{\langle f,f\rangle}$ とする(関数の内積(高校数学))。$f(x)=1$、$g(x)=x$ とすると
$$ \|f+g\|^2=\int_0^1(1+x)^2dx=\frac73,\quad \|f-g\|^2=\int_0^1(1-x)^2dx=\frac13,\quad \|f\|^2=1,\quad \|g\|^2=\frac13 $$
なので、左辺は $\frac73+\frac13=\frac83$、右辺は $2\cdot1+2\cdot\frac13=\frac83$ で一致する。同じように、データの偏差を並べたベクトルでは、平行四辺形の法則は「和の分散と差の分散の和は、それぞれの分散の和の 2 倍」という式になる(分散と内積の関係は 相関係数(高校数学))。

さらに先へ

  • $\|(x,y)\|_p:=(|x|^p+|y|^p)^{1/p}$($p\ge1$)はノルムで、$p=1$ が $\|\cdot\|_1$、$p=2$ がふつうの長さである。このうち内積から来るのは $p=2$ のときだけである(Axl24 の 6A の演習問題 25。本記事では $p=1$ の場合だけを示した)。
  • 四角形 $ABCD$ で、4 辺を $a,b,c,d$、対角線を $p,q$、2 本の対角線の中点どうしの距離を $m$ とすると、$a^2+b^2+c^2+d^2=p^2+q^2+4m^2$ が成り立つ。平行四辺形では $m=0$ で、prop-mdn-parallelogram になる(Eulerの四辺形定理)。
  • 大学では、thm-mdn-jvn は実数・複素数上の一般の ノルム空間 で成り立つ(JvN35。複素数の場合は極化恒等式に $i$ を含む項が加わる)。完備なノルム空間のうち、平行四辺形の法則を満たすものが Hilbert空間 である。内積とノルムの一般論は 内積 と 内積空間 にある。

関連項目

参考文献

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