完全二部グラフ(complete bipartite graph)とは、頂点を大きさ $m$ と $n$ の 2 つの組に分け、異なる組の頂点どうしをすべて辺で結び、同じ組の中には辺を置かないグラフのことで、$K_{m,n}$ と書く。グラフが完全二部グラフであることは、三角形を含まず、辺がちょうど 1 本の 3 頂点の誘導部分グラフも含まないことと同値である。自己同型は部集合を保つか入れ替える置換で、個数は $m\neq n$ なら $m!\,n!$、$m=n$ なら $2(n!)^2$ である。辺彩色数は $\max\{m,n\}$、全域木の個数は $m^{n-1}n^{m-1}$ である。完全グラフ $K_n$ の辺を完全二部グラフに重なりなく分けるには $n-1$ 個が必要である(Graham–Pollak の定理)。
頂点を 2 つの組に分け、異なる組の頂点どうしをすべて辺で結び、同じ組の中には辺を置かないグラフを完全二部グラフといい、組の大きさが $m$ と $n$ のものを $K_{m,n}$ と書く。星形のグラフ $K_{1,n}$、四角形 $K_{2,2}$、平面に交差なしで描けないグラフの代表 $K_{3,3}$ はいずれも完全二部グラフである。完全グラフ $K_n$ と並んで、辺の本数・彩色・全域木・対称性のどれを調べても答えが明示的に求まる基本的な例である。この記事では、完全二部グラフを「三角形を含まず、1 本の辺と 1 個の孤立点からなる 3 頂点の誘導部分グラフも含まないグラフ」として特徴づけ、自己同型群、辺彩色数、全域木の個数 $m^{n-1}n^{m-1}$ を求める。最後に、完全グラフ $K_n$ の辺を完全二部グラフに分けるには $n-1$ 個が必要だという Graham–Pollak の定理を、線形代数で証明する。
この記事のグラフは、グラフ の記事の定義「グラフの定義」の意味の有限な単純グラフ $G=(V,E)$ である。辺 $\{u,v\}$ を $uv$ と書く。
$m,n\ge0$ を整数とする。互いに交わらない集合 $X,Y$($\lvert X\rvert=m$、$\lvert Y\rvert=n$)について、頂点集合を $X\cup Y$、辺集合を
$$E=\{xy\mid x\in X,\ y\in Y\}$$
とするグラフを、部集合 $X,Y$ の完全二部グラフ(complete bipartite graph)という。これは同型を除いて $m,n$ だけで決まり、$K_{m,n}$ と書く。$K_{1,n}$($n\ge1$)を星グラフ(star)という。グラフ $G$ が完全二部グラフであるとは、ある $m,n$ について $G\cong K_{m,n}$ となることをいう。
$X,Y$ の元に番号を付けた 2 つの完全二部グラフの間では、番号の順に対応させる全単射が同型になるので、$K_{m,n}$ は同型を除いて一意である。部集合の役割を入れ替えれば $K_{m,n}\cong K_{n,m}$ である。$K_{m,n}$ は 二部グラフ の記事の定義「二部グラフと二部分割」の意味で二部分割 $\{X,Y\}$ を持つ二部グラフであり、同じ記事の定義「完全二部グラフの定義」と同じものである。$K_{0,n}$ は辺を持たない $n$ 頂点のグラフであり、以下の定理の多くでは $m,n\ge1$ を仮定する。
$m,n\ge1$ とし、$K_{m,n}$ の部集合を $X,Y$($\lvert X\rvert=m$、$\lvert Y\rvert=n$)とする。
1:$x\in X$ の隣接頂点はちょうど $Y$ の元なので次数は $n$、同様に $Y$ の頂点の次数は $m$ である。辺は $X\times Y$ の元と 1 対 1 に対応するので $mn$ 本ある。次数が $m$ と $n$ の 2 種類なので、正則であることは $m=n$ と同値である。
2:異なる部集合の 2 頂点は定義により隣接し、同じ部集合の 2 頂点を結ぶ辺はない。
3:相異なる 2 頂点は、異なる部集合にあれば隣接し、同じ部集合にあれば他方の部集合の頂点($m,n\ge1$ なので存在する)を経由する長さ $2$ の道で結ばれる。よって連結で、距離は $2$ 以下である。$m+n\ge3$ なら一方の部集合に 2 頂点があり、2 によりそれらは隣接しないので距離はちょうど $2$ である。
4:同型なグラフの頂点数と辺数は等しい(グラフ の記事の命題「同型の基本性質」)ので、$m+n=m'+n'$、$mn=m'n'$ である。$\{m,n\}$ と $\{m',n'\}$ はどちらも 2 次方程式 $t^2-(m+n)t+mn=0$ の解の組なので一致する。逆は $K_{m,n}\cong K_{n,m}$ による。$\square$
完全二部グラフは「2 種類のものの間には関係がすべてあり、同じ種類のものの間には関係がない」状況を表す。$m$ 人の労働者と $n$ 件の仕事で、誰でもどの仕事でもできる場合の「可能な割り当て」の全体がその例である。このように対称性が高いので、自己同型群、彩色、全域木の個数などが具体的に計算できる。一方、どの二部グラフも完全二部グラフの部分グラフなので、二部グラフについての問いは「完全二部グラフのどの辺を残すか」という問いに言い換えられる。$K_{3,3}$ が平面グラフでないことは、平面グラフ の理論の出発点の一つである。
$K_{1,1}$ は 1 本の辺、$K_{1,2}$ は 3 頂点の道、$K_{1,3}$ は中心から 3 本の辺が出る星である。$K_{2,2}$ は部集合を $\{x_1,x_2\}$、$\{y_1,y_2\}$ とすると 4 辺を順にたどる閉路 $x_1,y_1,x_2,y_2,x_1$ を持ち、4 角形 $C_4$ と同型である。$K_{1,n}$ は $n$ 本の辺を持つ連結グラフで閉路を持たないので木である。
$K_{3,3}$ は 3 軒の家をガス・水道・電気の 3 施設すべてと交差しない線で結べるかという古いパズルの形で知られる。頂点 6 個、辺 9 本の三角形を持たないグラフなので、平面グラフの辺数の上界に反し、平面グラフでない(平面グラフ の記事の命題「$K_{3,3}$ は平面グラフでない」)。Kuratowski の定理(同記事の定理「Kuratowskiの定理」)により、有限グラフが平面グラフでないことは、$K_5$ か $K_{3,3}$ の細分を部分グラフとして含むことと同値である。$K_{2,n}$ はどの $n$ についても平面グラフである(2 頂点を左右に置き、$Y$ の $n$ 頂点を縦に並べればよい)。
$K_{n,n}$ の部集合を $X=\{x_1,\dots,x_n\}$、$Y=\{y_1,\dots,y_n\}$ とする。どの 2 辺も端点を共有しない $n$ 本の辺の集合(完全マッチング(グラフ理論))は、$\{1,\dots,n\}$ の置換 $\pi$ と $\{x_iy_{\pi(i)}\mid 1\le i\le n\}$ によって 1 対 1 に対応するので、ちょうど $n!$ 個ある。$m\neq n$ なら $K_{m,n}$ に完全マッチングはない(辺は $X$ と $Y$ の頂点を 1 個ずつ使うので、$X$ と $Y$ を同時に覆うには $\lvert X\rvert=\lvert Y\rvert$ が要る)。
辺 $x_iy_j$ に色 $L(i,j)\in\{1,\dots,n\}$ を塗ることは、$n\times n$ の表 $L$ を作ることと同じである。この塗り方が辺彩色であること($x_i$ に集まる辺の色が相異なり、$y_j$ に集まる辺の色も相異なること)は、表 $L$ の各行と各列に $1,\dots,n$ が 1 回ずつ現れること、すなわち $L$ が位数 $n$ のラテン方陣であることと同値である。例えば $L(i,j)\equiv i+j\pmod n$ はラテン方陣であり、次の thm-complete-bipartite-edge-coloring の証明で使う。
$n\ge2$ なら $K_{n,n}$ は Hamilton 閉路 $x_1,y_1,x_2,y_2,\dots,x_n,y_n,x_1$ を持つ。$m\neq n$ なら $K_{m,n}$ は Hamilton 閉路を持たない(Hamilton閉路 の記事の命題「二部グラフのHamilton閉路」)。
次の表は、完全二部グラフの定義の条件を 1 つずつ外した例である。
| 外す条件 | 反例 | 成り立たなくなること |
|---|---|---|
| 異なる部集合の頂点がすべて隣接する | 6 角形 $C_6$(部集合の大きさ $3,3$、辺 $6$ 本) | 辺が $mn=9$ 本、直径 $2$($C_6$ の直径は $3$) |
| 同じ部集合の中に辺がない | 三角形 $K_3=K(1,1,1)$ | 二部グラフである(奇閉路を含む) |
| 部集合が 2 個 | 完全 3 部グラフ $K(1,1,2)$($K_4$ から 1 辺を除いたもの) | 三角形を含まない |
| 部集合が空でない | $K_{0,3}$(辺のない 3 頂点のグラフ) | 連結である |
1 行目の $C_6$ は二部グラフだが、部集合の間の辺が 3 本欠けている。2 行目・3 行目は完全多部グラフ(二部グラフ の記事の例「完全多部グラフとグラフの和」の $K(n_1,\dots,n_r)$)であって二部グラフでない例で、次の thm-complete-bipartite-characterization の条件のうち「三角形を含まない」を破る。
3 頂点のグラフで辺がちょうど 1 本のもの(1 本の辺と 1 個の孤立点)を $K_2\cup K_1$ と書く。$G$ の 3 頂点 $u,v,w$ について、$G$ の辺のうち両端点が $\{u,v,w\}$ に属するものがちょうど 1 本のとき、$\{u,v,w\}$ は $K_2\cup K_1$ を誘導するという(誘導部分グラフ)。
$G=(V,E)$ を $V\neq\emptyset$ のグラフとする。次は同値である。
1 ⇒ 3:部集合を $X,Y$ とする。3 頂点のうち 2 頂点は同じ部集合に属し、隣接しないので、三角形はない。3 頂点 $u,v,w$ で辺が $uv$ だけだとすると、$u,v$ は異なる部集合に属する。$w$ は $u$ か $v$ と同じ部集合にあり、前者なら $w$ は $v$ と、後者なら $u$ と隣接するので、辺は 2 本以上になり矛盾する。
3 ⇒ 2:関係を $\sim$ と書く。反射的かつ対称的であることは明らかである。推移性を示す。$u\sim v$、$v\sim w$ とし、$u,v,w$ のどれか 2 つが等しければ $u\sim w$ は明らかなので、相異なるとする。このとき $uv\notin E$、$vw\notin E$ であり、もし $uw\in E$ なら $\{u,v,w\}$ は辺 $uw$ だけを持ち、$K_2\cup K_1$ を誘導して仮定に反する。よって $uw\notin E$、$u\sim w$ である。相異なる同値類が 3 個あれば、各類から 1 頂点ずつとった 3 頂点は互いに $\sim$ でなく、すなわち互いに隣接して三角形をなすので、仮定に反する。
2 ⇒ 1:同値類を $C_1,C_2$ とする(類が 1 個なら $C_2:=\emptyset$)。同じ類の相異なる 2 頂点は $\sim$ なので隣接せず、異なる類の 2 頂点は $\sim$ でないので隣接する。よって $G$ は部集合 $C_1,C_2$ の完全二部グラフである。$\square$
証明から分かるように、条件 3 から「三角形を含まない」を除くと、$\sim$ が同値関係であることだけが残り、$G$ は同値類を部集合とする完全多部グラフになる。したがって、グラフが完全多部グラフであることは $K_2\cup K_1$ を誘導する 3 頂点を持たないことと同値であり、完全二部グラフはそのうち三角形を含まないものである。この同値は 二部グラフ の記事の例「反例:三部グラフであって二部グラフでないもの」の $K_3=K(1,1,1)$ にも当てはまる。
補グラフで言い換えると、$K_{m,n}$ の補グラフは $K_m$ と $K_n$ の非交和である(二部グラフ の記事の例「完全多部グラフとグラフの和」)。thm-complete-bipartite-characterization の 2 は、補グラフの連結成分が高々 2 個の完全グラフであることにあたる。
グラフの自己同型と自己同型群 $\operatorname{Aut}G$ は、自己補グラフ の記事の命題「自己同型群と補グラフ」で定めたものとする。
$m,n\ge1$ とし、$K_{m,n}$ の部集合を $X,Y$ とする。頂点集合の置換 $\pi$ が $K_{m,n}$ の自己同型であることと、$\pi(X)=X$ かつ $\pi(Y)=Y$、または $\pi(X)=Y$ かつ $\pi(Y)=X$ であることは同値である。したがって
$$\lvert\operatorname{Aut}K_{m,n}\rvert=\begin{cases}m!\,n! & (m\neq n),\\ 2\,(n!)^2 & (m=n)\end{cases}$$
であり、$m\neq n$ なら $\operatorname{Aut}K_{m,n}$ は対称群 $S_m$ と $S_n$ の直積に同型である。
$\pi$ を自己同型とする。prop-complete-bipartite-basic の 2 により、相異なる 2 頂点が同じ部集合に属することは隣接しないことと同値であり、$\pi$ は隣接しないことを保つので、同じ部集合に属することも保つ。よって $\pi(X)$ の元はすべて同じ部集合に属し($X$ が 1 元なら明らか)、$\pi(Y)$ の元も同様である。$\pi(X)$ と $\pi(Y)$ が同じ部集合 $P$ に含まれるとすると、$\pi$ の全射性から $X\cup Y\subset P$ となり、もう一方の部集合が空でないことに反する。したがって $\pi(X)$ と $\pi(Y)$ は異なる部集合に含まれ、$\pi$ は全単射なので $\{\pi(X),\pi(Y)\}=\{X,Y\}$ である。
逆に $\{\pi(X),\pi(Y)\}=\{X,Y\}$ なら、$\pi$ は「異なる部集合に属する」という関係を保ち、これは隣接と同値なので $\pi$ は自己同型である。
$\pi(X)=X$、$\pi(Y)=Y$ となる置換は、$X$ の置換と $Y$ の置換の組と 1 対 1 に対応し、$m!\,n!$ 個あり、この対応は群の同型 $S_m\times S_n\to\{\pi\mid\pi(X)=X,\ \pi(Y)=Y\}$ を与える。$\pi(X)=Y$ となる置換は $m=n$ のときに限って存在し、そのとき $X$ と $Y$ を入れ替える 1 つの置換 $\tau$ を固定すれば、それらは $\tau\circ\rho$($\rho(X)=X$、$\rho(Y)=Y$)の形にちょうど 1 通りに書けるので $(n!)^2$ 個ある。$\square$
$m=n$ のとき $\operatorname{Aut}K_{n,n}$ は、$S_n\times S_n$ に部集合の入れ替えを加えた位数 $2(n!)^2$ の群である。$X$ と $Y$ を入れ替える位数 $2$ の置換 $\tau$($x_i\leftrightarrow y_i$)をとり、$\pi(X)=X$、$\pi(Y)=Y$ となる自己同型 $\pi$ を、$X$ 上の置換 $\rho_X$ と $Y$ 上の置換 $\rho_Y$ の組 $(\rho_X,\rho_Y)$ と同一視する。$Y$ の添字の置換を $X$ の添字の置換とみなす($y_i$ を $x_i$ に読み替える)と、$\tau(\rho_X,\rho_Y)\tau^{-1}=(\rho_Y,\rho_X)$ となるので、$\operatorname{Aut}K_{n,n}$ は半直積 $(S_n\times S_n)\rtimes S_2$(輪積 $S_n\wr S_2$)と同型である。この計算は BM76 Exercise 1.2.12 (b)(p. 7)の問題である。
辺彩色と辺彩色数 $\chi'(G)$ は 彩色 の記事の定義「辺彩色」のとおりとする。1 頂点に集まる辺は互いに端点を共有するので相異なる色を持ち、$\chi'(G)$ は最大次数 $\Delta(G)$ 以上である。
$m,n\ge1$ なら $\chi'(K_{m,n})=\max\{m,n\}$ である。
$m\le n$ としてよい。最大次数は $n$ なので $\chi'(K_{m,n})\ge n$ である。部集合を $X=\{x_0,\dots,x_{m-1}\}$、$Y=\{y_0,\dots,y_{n-1}\}$ とし、辺 $x_iy_j$ に色 $c(x_iy_j):=i+j\bmod n\in\mathbb{Z}/n\mathbb{Z}$ を塗る。$x_i$ に集まる辺 $x_iy_j$($0\le j\le n-1$)の色は $j$ ごとに異なる。$y_j$ に集まる辺 $x_iy_j$($0\le i\le m-1$)の色も、$0\le i< i'\le m-1$ なら $0< i'-i< m\le n$ なので $i+j\not\equiv i'+j\pmod n$ となり、互いに異なる。よって $c$ は $n$ 色の辺彩色であり、$\chi'(K_{m,n})\le n$ である。$\square$
より一般に、二部グラフの辺彩色数は最大次数に等しい(多重グラフ の記事の定理「König の辺彩色定理」。BM76 Theorem 6.1、p. 93。BM76 Exercise 6.1.1 は $K_{m,n}$ の場合を問う)。二部でないグラフではこれは成り立たず、三角形 $K_3$ は最大次数 $2$ だが 3 本の辺が互いに端点を共有するので $\chi'(K_3)=3$ である。
グラフ $G$ の全域木の個数を $\tau(G)$ と書く。全域木 の記事の定理「行列木定理」により、ループを持たない連結なグラフ $G$ の頂点を $v_1,\dots,v_N$ とし、Laplace 行列 $L$(対角成分が次数、$(i,j)$ 成分($i\neq j$)が $v_i,v_j$ を結ぶ辺の本数の $-1$ 倍)から第 $i$ 行と第 $i$ 列を除いた行列を $L_0$ とすると、$\tau(G)=\det L_0$ である(この記事では証明しない。所在はその記事にある)。以下、$J_{p\times q}$ はすべての成分が $1$ の $p\times q$ 行列、$J_p:=J_{p\times p}$、$I_p$ は単位行列である。
$A$ を正則な $p\times p$ 行列、$B,C,D$ をそれぞれ $p\times q$、$q\times p$、$q\times q$ 行列とすると
$$\det\begin{pmatrix}A&B\\ C&D\end{pmatrix}=\det A\cdot\det\bigl(D-CA^{-1}B\bigr)$$
である。
行列の積を計算すると
$$\begin{pmatrix}A&B\\ C&D\end{pmatrix}=\begin{pmatrix}I_p&0\\CA^{-1}&I_q\end{pmatrix}\begin{pmatrix}A&B\\0&D-CA^{-1}B\end{pmatrix}$$
である。右辺の第 1 因子は対角成分が $1$ の下三角行列なので行列式は $1$、第 2 因子はブロック上三角行列なので行列式は $\det A\cdot\det(D-CA^{-1}B)$ である(行列式)。$\square$
$m,n\ge1$ なら $\tau(K_{m,n})=m^{n-1}n^{m-1}$ である。
頂点を $x_1,\dots,x_m,y_1,\dots,y_n$ の順に並べると、prop-complete-bipartite-basic の 1 により Laplace 行列は
$$L=\begin{pmatrix}nI_m&-J_{m\times n}\\-J_{n\times m}&mI_n\end{pmatrix}$$
である。$K_{m,n}$ はループを持たない連結なグラフなので、行列木定理を $y_n$ の行と列を除いた $L_0$ に使う。
$n=1$ なら $L_0=nI_m=I_m$ なので $\tau=1=m^0\cdot1^{m-1}$ である($K_{m,1}$ は星で、それ自身が唯一の全域木である)。
$n\ge2$ とする。$L_0=\begin{pmatrix}nI_m&-J_{m\times(n-1)}\\-J_{(n-1)\times m}&mI_{n-1}\end{pmatrix}$ に lem-complete-bipartite-block-det を $A=nI_m$ として使う。$J_{(n-1)\times m}J_{m\times(n-1)}=mJ_{n-1}$ なので
$$\det L_0=n^m\det\Bigl(mI_{n-1}-\frac1n\,J_{(n-1)\times m}J_{m\times(n-1)}\Bigr)=n^m\det\Bigl(mI_{n-1}-\frac mn\,J_{n-1}\Bigr)$$
である。$M:=mI_{n-1}-\frac mnJ_{n-1}$ とおく。すべての成分が $1$ のベクトル $\mathbf 1\in\mathbb{R}^{n-1}$ について $J_{n-1}\mathbf 1=(n-1)\mathbf 1$ なので $M\mathbf 1=\bigl(m-\frac mn(n-1)\bigr)\mathbf 1=\frac mn\mathbf 1$ である。成分の和が $0$ のベクトル $w$ では $J_{n-1}w=0$ なので $Mw=mw$ である。$\mathbf 1$ と、成分の和が $0$ のベクトル全体($n-2$ 次元)の基底を合わせると $\mathbb{R}^{n-1}$ の基底になり、この基底で $M$ は対角成分 $\frac mn,m,\dots,m$ の対角行列で表されるので、$\det M=\frac mn\cdot m^{n-2}$ である。よって
$$\tau(K_{m,n})=\det L_0=n^m\cdot\frac{m^{n-1}}{n}=m^{n-1}n^{m-1}$$
である。$\square$
$K_{2,2}=C_4$ では $2\cdot2=4$ で、4 辺から 1 辺を除く 4 通りと一致する。$K_{1,n}$ では $1$、$K_{2,3}$ では $2^2\cdot3=12$、$K_{3,3}$ では $3^2\cdot3^2=81$ である(行列式を計算機でも求めて確かめた)。Laplace 行列の固有値は $0,\ m$(重複度 $n-1$)$,\ n$(重複度 $m-1$)$,\ m+n$ であり(BH11 §1.4.2、p. 8)、全域木の個数を固有値の積で表す式(BH11 Proposition 1.3.4、pp. 5–6)からも $\frac1{m+n}\cdot m^{n-1}n^{m-1}(m+n)=m^{n-1}n^{m-1}$ が得られる。
完全グラフ $K_n$ の頂点集合を $V$ とする。$V$ の空でない互いに交わらない部分集合の組 $(A_1,B_1),\dots,(A_r,B_r)$ が $K_n$ の完全二部グラフへの分解であるとは、相異なる任意の 2 頂点 $u,v$ について、「$u\in A_i$ かつ $v\in B_i$」または「$u\in B_i$ かつ $v\in A_i$」となる $i$ がちょうど 1 つあることをいう。これは、$K_n$ の辺集合を、部集合 $A_i,B_i$ の完全二部グラフの辺集合 $r$ 個に、重なりなく分けることにあたる。
$n\ge1$ とする。$K_n$ の完全二部グラフへの分解 $(A_1,B_1),\dots,(A_r,B_r)$ があれば $r\ge n-1$ である。また $r=n-1$ の分解が存在する。
$V=\{1,\dots,n\}$ とし、$x=(x_1,\dots,x_n)\in\mathbb{R}^n$ を考える。部分集合 $S\subset V$ に対し $s_S(x):=\sum_{u\in S}x_u$ とおく。$A_i\cap B_i=\emptyset$ なので
$$s_{A_i}(x)\,s_{B_i}(x)=\sum_{u\in A_i}\sum_{v\in B_i}x_ux_v$$
は、一方が $A_i$、他方が $B_i$ に属する頂点の組 $\{u,v\}$ のそれぞれについて $x_ux_v$ を 1 回ずつ足したものである。分解の条件から、相異なる 2 頂点の組はちょうど 1 つの $i$ で 1 回ずつ現れるので
$$\sum_{i=1}^rs_{A_i}(x)\,s_{B_i}(x)=\sum_{1\le u< v\le n}x_ux_v=\frac12\Bigl(\bigl(x_1+\dots+x_n\bigr)^2-\bigl(x_1^2+\dots+x_n^2\bigr)\Bigr)$$
である。この等式を (1) とよぶ。
$r< n-1$ と仮定する。$x$ についての $r+1$ 個の 1 次方程式
$$x_1+\dots+x_n=0,\qquad s_{A_1}(x)=0,\ \dots,\ s_{A_r}(x)=0$$
は、方程式の個数 $r+1$ が未知数の個数 $n$ より少ないので、$x\neq0$ の解を持つ。この $x$ では (1) の左辺は $0$、右辺は $-\frac12(x_1^2+\dots+x_n^2)<0$ となり、矛盾する。よって $r\ge n-1$ である。
$r=n-1$ の分解は、$i=1,\dots,n-1$ について $A_i:=\{i\}$、$B_i:=\{i+1,\dots,n\}$ とおけば得られる。実際、$u< v$ の組 $\{u,v\}$ は $i=u$ でだけ条件を満たす。$\square$
$r=n-1$ の分解は星 $K_{1,n-i}$ を $n-1$ 個並べたものだが、星でない分解もある。例えば $K_4$ の頂点 $1,2,3,4$ は $(\{1,2\},\{3,4\})$、$(\{1\},\{2\})$、$(\{3\},\{4\})$ の 3 個($K_{2,2}$ と 2 本の辺)に分解できる。一方、辺を重なりなく分ける条件を外し、完全二部グラフで辺を覆うだけなら、$K_n$ は $\lceil\log_2n\rceil$ 個で覆える(頂点の番号を 2 進法で書き、$k$ 桁目が $0$ の頂点と $1$ の頂点を部集合とする完全二部グラフを $k$ ごとにとる)。定理の結論は「重なりなく分ける」ことに本質的に依存している。この定理は Brouwer–Haemers の本で、隣接行列の正と負の固有値の個数で分解の個数を下から抑える形で証明されている(BH11 Proposition 1.5.1、§1.5.2、p. 12)。上の証明は、その議論を $K_n$ の場合に書き下したものである。
完全二部グラフは、多くの極値問題で比較の基準になる。$n$ 頂点の二部グラフの辺の本数は $\lfloor n^2/4\rfloor$ 以下で、等号は $K_{\lfloor n/2\rfloor,\lceil n/2\rceil}$ に限る(二部グラフ の記事の命題「辺数の上界」)。三角形を含まないグラフについても同じ上界が成り立つ(部分グラフ の記事の定理「三角形を含まないグラフの辺数の上界」)。隣接行列の固有値は $\pm\sqrt{mn}$ と $0$(重複度 $m+n-2$)である(隣接行列 の記事の例「完全グラフと完全二部グラフ」)。
完全二部グラフは、二部グラフのマッチング(グラフ理論)・Hallの結婚定理 の背景にある「全体集合」でもある。二部グラフは完全二部グラフから辺を除いたものであり、$K_{n,n}$ の部分グラフと、成分が $0$ か $1$ の $n\times n$ 行列(行が $X$、列が $Y$)とは 1 対 1 に対応する。完全マッチングは、その行列の各行・各列から 1 個ずつ $1$ を選ぶことにあたる。
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