群環

同義語:group ring群代数group algebra

概要

群環(group ring)とは、群 $G$ と可換環 $R$ に対し、$G$ を基底とする自由 $R$ 加群に群の積を双線形に延ばした積を入れた環 $R[G]$ である(係数が体なら群代数ともいう)。$R[G]$ 加群は $G$ の $R$ 上の表現と同じものである。$R\neq0$ のとき、$G$ に位数 $n\ge2$ の元があれば $R[G]$ は零因子をもち、$G$ が非可換なら $R[G]$ も非可換である。有限群 $G$ と体 $k$ について、$k[G]$ が半単純であることは $k$ の標数が $|G|$ を割らないことと同値であり(Maschke の定理)、例として $\mathbb{C}[S_3]\cong\mathbb{C}\times\mathbb{C}\times M_2(\mathbb{C})$ である。

$$\newcommand{C}[0]{\mathbb{C}} \newcommand{N}[0]{\mathbb{N}} \newcommand{Q}[0]{\mathbb{Q}} \newcommand{R}[0]{\mathbb{R}} \newcommand{Z}[0]{\mathbb{Z}} $$

前提知識: 群, 可換環, 自由加群, 加群
群環は、群の元を「変数」のように使って係数付きの和を作り、群の積で掛け算をする環である。いちばん小さい例で見てみる。$G=\{1,\sigma\}$ を $\sigma^2=1$ を満たす位数 $2$ の群とすると、有理数係数の群環 $\mathbb{Q}[G]$ の元は $a+b\sigma$($a,b\in\mathbb{Q}$)の形の式であり、積は $\sigma^2=1$ を使って
$$ (a+b\sigma)(c+d\sigma)=ac+ad\sigma+bc\sigma+bd\sigma^2=(ac+bd)+(ad+bc)\sigma $$
と計算する。たとえば $(1+\sigma)(1-\sigma)=1-\sigma^2=0$ であり、$0$ でない 2 つの元の積が $0$ になる。また $e=\frac{1+\sigma}2$、$f=\frac{1-\sigma}2$ とおくと $e^2=\frac{1+2\sigma+\sigma^2}4=\frac{2+2\sigma}4=e$、同様に $f^2=f$、$ef=0$、$e+f=1$ であり、$\mathbb{Q}[G]$ は $\mathbb{Q}e$ と $\mathbb{Q}f$ という 2 つの「成分」に分かれる(実際 $\mathbb{Q}[G]\cong\mathbb{Q}\times\mathbb{Q}$)。群の性質(位数 $2$)が、環の性質(零因子や冪等元の存在)として現れている。群環の上の加群は、群がベクトル空間などに線形に作用する様子、すなわち群の表現と同じものであり、群環は群の表現論の舞台である。
本記事では、特に断らない限り $R$ は可換環(単位元 $1$ をもつ)、$G$ は群とし、$G$ は有限とは限らない。$G$ の単位元も $1$ と書く。

定義

群環

$R$ を可換環、$G$ を群とする。$G$ の元を基底とする自由 $R$ 加群
$$ R[G]:=\Bigl\{\sum_{g\in G}a_gg\ \Bigm|\ a_g\in R,\ \text{有限個の } g \text{ を除いて } a_g=0\Bigr\} $$
に、積
$$ \Bigl(\sum_{g\in G}a_gg\Bigr)\Bigl(\sum_{h\in G}b_hh\Bigr):=\sum_{g,h\in G}a_gb_h\,(gh)=\sum_{x\in G}\Bigl(\sum_{gh=x}a_gb_h\Bigr)x $$
を入れたものを、$G$ の $R$ 上の群環(group ring)という。$R$ が体 $k$ のときは $k[G]$ を $G$ の $k$ 上の群代数(group algebra)ともいう。$R[G]$ を $RG$ と書く文献もある(DF04 §7.2)。群環の定義は Lan02 Chapter II §3 にもある(そこでは $A[G]$ と書かれる)。

右辺の和は有限和である($a_g\neq0$ かつ $b_h\neq0$ となる組 $(g,h)$ は有限個)。定義の積は、基底の元どうしの積を群の積 $g\cdot h:=gh$ で定め、それを $R$ 双線形に延ばしたものである。$R[G]$ が $R$ 加群として自由であり $G$ がその基底であることは、自由加群 の記事の定義「自由加群」の $R^{(G)}$ そのものであることによる。$r\in R$ を $r\cdot1\in R[G]$ と、$g\in G$ を $1\cdot g\in R[G]$ と同一視する。

群環は環である

$R[G]$ は定義の加法と積について単位元 $1=1_G$ をもつ環であり、次が成り立つ。

  1. $R\to R[G]$、$r\mapsto r\cdot1$ は単射な環準同型であり、その像は $R[G]$ の中心(環の中心、すべての元と可換な元の全体)に含まれる。すなわち $R[G]$ は $R$ 上の代数(多元環)である。
  2. $G$ の各元は $R[G]$ の単元であり、$G\to R[G]^\times$、$g\mapsto g$ は単射な群準同型である($R$ が零環でないとき)。
  3. $R$ が零環でないとき、$R[G]$ が可換環であることと $G$ がアーベル群であることは同値である。
基底の元での確認と双線形性

積は $R$ 双線形なので分配法則が成り立つ。結合法則を示す。$(xy)z$ と $x(yz)$ はどちらも $x,y,z$ のそれぞれについて $R$ 線形であるから($R$ が可換なので、係数はどの位置にあっても前に出せる)、$x=ag$、$y=bh$、$z=ck$($a,b,c\in R$、$g,h,k\in G$)の場合に示せば十分である。このとき
$$ \bigl((ag)(bh)\bigr)(ck)=(ab)c\,(gh)k,\qquad (ag)\bigl((bh)(ck)\bigr)=a(bc)\,g(hk) $$
であり、$R$ と $G$ の結合法則により両者は等しい。$1_G$ が単位元であることは $1_G\cdot g=g=g\cdot1_G$ を双線形に延ばせばよい。
1:$r\mapsto r\cdot1_G$ は加法と積を保ち($(r1_G)(s1_G)=rs\,1_G$)、$r\cdot1_G=0$ なら基底 $1_G$ の係数 $r$ が $0$ なので単射である。$x=\sum_ga_gg$ に対し $(r1_G)x=\sum_gra_gg=\sum_ga_gr\,g=x(r1_G)$ なので、像は中心に含まれる。
2:$g\cdot g^{-1}=1_G=g^{-1}\cdot g$ なので $g$ は単元である。$g\mapsto g$ は $g\cdot h=gh$ より準同型であり、$R\neq0$ なら相異なる $g,h$ は相異なる基底の元なので $R[G]$ で異なる。
3:$G$ がアーベル群なら、基底の元どうしが可換 $gh=hg$ で、積は双線形なので $R[G]$ は可換である。逆に $R[G]$ が可換なら、$g,h\in G$ について $gh=hg$ が $R[G]$ で成り立ち、$R\neq0$ なので 2 により $G$ でも $gh=hg$ である。

係数環 $R$ が可換でない場合も、係数と $G$ の元は互いに可換であると約束して同じ式で環 $R[G]$ が定まる。本記事では可換な場合だけを扱う。

添加写像と添加イデアル

$R$ 線形写像
$$ \varepsilon\colon R[G]\to R,\qquad \sum_ga_gg\longmapsto\sum_ga_g $$
を添加写像(augmentation)といい、その核 $I_G:=\ker\varepsilon$ を添加イデアル(augmentation ideal)という。

$\varepsilon(g)=1$ がすべての $g\in G$ で成り立つので、$\varepsilon$ は基底の元の積を保ち、双線形性により環準同型である(prop-group-ring-universal の、自明な準同型 $G\to R^\times$、$g\mapsto1$ から得られる環準同型でもある)。したがって $I_G$ は $R[G]$ の両側イデアルである。

添加イデアルの基底

添加イデアル $I_G$ は、$g-1$($g\in G$、$g\neq1$)の全体を基底とする自由 $R$ 加群である。

係数の和が 0 の元の書き換え

$x=\sum_ga_gg\in I_G$ なら $\sum_ga_g=0$ なので $x=\sum_ga_gg-\bigl(\sum_ga_g\bigr)1=\sum_{g\neq1}a_g(g-1)$ であり、族 $(g-1)_{g\neq1}$ は $I_G$ を生成する。$\varepsilon(g-1)=0$ なので各 $g-1$ は $I_G$ に属する。$\sum_{g\neq1}c_g(g-1)=0$(有限台)とすると、左辺の基底 $g\neq1$ の係数は $c_g$ なので、すべての $c_g=0$ である。よって一次独立である。

直感

群 $G$ はそれ自身では掛け算しかできないが、群環に移すと元を足したり係数倍したりできるようになる。これによって、線形代数や環論の道具(部分空間、イデアル、冪等元による分解、加群の直和分解)を群の研究に持ち込める。群環は、群から環を作るいちばん自由な方法である。実際、群から環 $A$ の単元群への準同型は、群環から $A$ への環準同型と一対一に対応する(prop-group-ring-universal)。
表現論の観点では、$G$ が $k$ ベクトル空間 $V$ に線形に作用することは、$V$ が $k[G]$ 加群であることと同じである(prop-group-ring-modules)。群の表現を「分解する」問題は、$k[G]$ 加群を単純な加群の直和に分解する問題になり、$k[G]$ という環の構造(半単純かどうか、行列環の直積に分かれるか)がすべての表現の様子を支配する。冒頭の $\mathbb{Q}[G]\cong\mathbb{Q}\times\mathbb{Q}$ は、位数 $2$ の群の有理数上の表現が、$\sigma$ が $1$ 倍で働く部分と $-1$ 倍で働く部分に分かれることの環の側からの表現である。

例と反例

巡回群の群環
  1. $G=\langle g\rangle$ を位数 $n\geq1$ の巡回群とする。$R[G]\cong R[x]/(x^n-1)$ である。実際、$R[G]$ は可換なので、多項式環の性質により $x\mapsto g$ で定まる $R$ 上の環準同型 $\Phi\colon R[x]\to R[G]$ があり、$\Phi(x^n-1)=g^n-1=0$ なので、$\Phi$ は環準同型 $\bar\Phi\colon R[x]/(x^n-1)\to R[G]$ を誘導する。$R[x]/(x^n-1)$ は $1,\bar x,\dots,\bar x^{\,n-1}$ を基底とする自由 $R$ 加群であり(自由加群 の記事の例「数ベクトル・行列・多項式」の 4)、$\bar\Phi$ はこの基底を $R[G]$ の基底 $1,g,\dots,g^{n-1}$ に移すので同型である。
  2. $G=\langle g\rangle$ が無限巡回群なら、$R[G]$ は $g$ と $g^{-1}$ を変数とするLaurent多項式環 $R[x,x^{-1}]$($x\leftrightarrow g$)と同型である。$R[G]$ の元は $\sum_{m\in\mathbb{Z}}a_mg^m$(有限和)であり、$g^mg^{m'}=g^{m+m'}$ は $x^mx^{m'}=x^{m+m'}$ に対応する。
  3. 位数 $3$ の巡回群 $C_3$ について、$\mathbb{Q}[C_3]\cong\mathbb{Q}[x]/(x^3-1)$ であり、$x^3-1=(x-1)(x^2+x+1)$ の 2 つの因子は $\mathbb{Q}[x]$ で互いに素($x^2+x+1$ は $x=1$ で $3\neq0$)なので、中国剰余定理により
    $$ \mathbb{Q}[C_3]\cong\mathbb{Q}[x]/(x-1)\times\mathbb{Q}[x]/(x^2+x+1)\cong\mathbb{Q}\times\mathbb{Q}(\omega) $$
    である。ここで $\omega$ は $1$ の原始 $3$ 乗根であり、$x^2+x+1$ は $\mathbb{Q}$ 上既約多項式なので $\mathbb{Q}[x]/(x^2+x+1)$ は体 $\mathbb{Q}(\omega)$ である。複素数上では $x^n-1=\prod_{j=0}^{n-1}(x-\zeta^j)$($\zeta=e^{2\pi i/n}$)が相異なる $1$ 次式に分かれるので、同様に $\mathbb{C}[C_n]\cong\mathbb{C}^n$($\mathbb{C}$ の $n$ 個の直積)である。冒頭の $\mathbb{Q}[G]\cong\mathbb{Q}\times\mathbb{Q}$ は $n=2$ の場合である。

係数体を変えると群環の形が変わる。$\mathbb{Q}[C_3]$ は体 $\mathbb{Q}(\omega)$ を成分にもつが、$\mathbb{C}[C_3]$ では $\mathbb{Q}(\omega)$ の部分が $\mathbb{C}\times\mathbb{C}$ に分かれる。

反例:体上の群環は整域とは限らない

$R$ を零環でない可換環とし、$g\in G$ を位数 $n\geq2$ の元とする。$R[G]$ において
$$ (1-g)(1+g+g^2+\cdots+g^{n-1})=1-g^n=0 $$
であり、$1-g$ と $1+g+\cdots+g^{n-1}$ はどちらも $0$ でない(基底 $g$ の係数がそれぞれ $-1$、$1$ である)。したがって $R[G]$ は零因子をもち、整域でない。$R=k$ が体であっても同じである。この例が満たす性質は「係数環が体である」ことであり、満たさない性質は「整域である」ことである。体上の多項式環は整域だが、この例は含意「体上の群環は整域である」を破る。零因子を生んでいるのは有限位数の元 $g\neq1$ であり、位数 $2$ の場合が冒頭の $(1+\sigma)(1-\sigma)=0$ である。

反例:非可換な群の群環

3 次対称群 $S_3$ は非可換なので、prop-group-ring-ring の 3 により $\mathbb{C}[S_3]$ は非可換環である。たとえば互換 $s=(1\,2)$、$t=(1\,3)$ について $st\neq ts$ なので、$\mathbb{C}[S_3]$ でも $st\neq ts$ である。$\mathbb{C}[S_3]$ は可換環の直積には分解せず、$2$ 次の行列環を成分にもつ(ex-group-ring-s3)。

性質

普遍性

環 $A$ と環準同型 $\varphi_0\colon R\to A$ で、像が $A$ の中心に含まれるものの組を $R$ 代数という。$R$ 代数の間の環準同型で $R$ からの写像と両立するものを $R$ 代数の準同型という。$A^\times$ は $A$ の単元のなす群である。

群環の普遍性

$A$ を $R$ 代数、$\rho\colon G\to A^\times$ を群準同型とする。$R$ 代数の準同型 $\Phi\colon R[G]\to A$ で $\Phi(g)=\rho(g)$($g\in G$)を満たすものがただ 1 つ存在し、それは
$$ \Phi\Bigl(\sum_ga_gg\Bigr)=\sum_g\varphi_0(a_g)\rho(g) $$
で与えられる。

基底の元での乗法性

$\Phi$ を上の式で定めると、$\Phi$ は加法を保ち、$\Phi(1)=\varphi_0(1)\rho(1)=1$ である。$a,b\in R$、$g,h\in G$ について、$\varphi_0(b)$ が $A$ の中心にあることを使うと
$$ \Phi\bigl((ag)(bh)\bigr)=\varphi_0(ab)\rho(gh)=\varphi_0(a)\varphi_0(b)\rho(g)\rho(h)=\varphi_0(a)\rho(g)\varphi_0(b)\rho(h)=\Phi(ag)\Phi(bh) $$
である。$R[G]$ の積は $ag$ の形の元どうしの積を双加法的に延ばしたものであり、$\Phi$ は加法を保つので、$\Phi$ は積を保つ。$\Phi(r\cdot1)=\varphi_0(r)$ なので $R$ 代数の準同型である。一意性:$R$ 代数の準同型 $\Psi$ が $\Psi(g)=\rho(g)$ を満たせば、$\Psi(ag)=\Psi(a\cdot1)\Psi(g)=\varphi_0(a)\rho(g)$ であり、$\Psi$ は加法を保つので $\Psi=\Phi$ である。

この命題は、$G\mapsto R[G]$ が、$R$ 代数にその単元群を対応させる関手の左随伴であることを述べている(随伴関手)。

加群と表現

$R$ 加群 $M$ の $R$ 線形な自己同型全体のなす群を $\operatorname{Aut}_R(M)$ と書く。群準同型 $\rho\colon G\to\operatorname{Aut}_R(M)$ を $G$ の $M$ 上の($R$ 上の)表現といい、$\rho(g)(m)$ を $gm$ と略記する(群の表現)。$R=k$ が体で $M=k^n$ なら、$\operatorname{Aut}_k(k^n)$ は一般線形群 $\mathrm{GL}_n(k)$ である。

群環上の加群と群の表現

左 $R[G]$ 加群 $M$ は、$R\subset R[G]$ の作用により $R$ 加群であり、$g\in G$ の作用 $m\mapsto gm$ は $R$ 線形な自己同型である。これにより、左 $R[G]$ 加群の構造と、$R$ 加群の構造と $G$ の表現 $G\to\operatorname{Aut}_R(M)$ の組は、一対一に対応する。この対応で、$R[G]$ 加群の準同型は、$G$ の作用と可換な $R$ 線形写像($f(gm)=gf(m)$)にちょうど対応する。

普遍性による延長

$M$ を左 $R[G]$ 加群とする。$R$ の元は $R[G]$ の中心にあるので、$g(am)=(ga)m=(ag)m=a(gm)$($a\in R$)であり、$m\mapsto gm$ は $R$ 線形である。$g^{-1}$ の作用がその逆写像であり、$(gh)m=g(hm)$ なので、$g\mapsto(m\mapsto gm)$ は群準同型 $G\to\operatorname{Aut}_R(M)$ である。
逆に、$R$ 加群 $M$ と表現 $\rho\colon G\to\operatorname{Aut}_R(M)$ が与えられたとする。$A:=\operatorname{End}_R(M)$($R$ 線形写像の環)は、$a\in R$ を $a$ 倍写像に送ることで $R$ 代数である($R$ が可換なので $a$ 倍写像は $R$ 線形であり、どの $R$ 線形写像とも可換)。$\operatorname{Aut}_R(M)=A^\times$ なので、prop-group-ring-universal により環準同型 $\Phi\colon R[G]\to\operatorname{End}_R(M)$ で $\Phi(g)=\rho(g)$、$\Phi(a)=a$ 倍 となるものがただ 1 つある。$\operatorname{End}_R(M)$ はアーベル群 $M$ の加法的自己準同型の環 $\operatorname{End}_{\mathbb{Z}}(M)$ の部分環であり、単位元を保つ環準同型 $R[G]\to\operatorname{End}_{\mathbb{Z}}(M)$ は $M$ 上の左 $R[G]$ 加群の構造と同じものである(加群 の記事の命題「作用と構造準同型の対応」)。こうして得た $R[G]$ 加群の構造は、$R$ への制限がもとの $R$ 加群の構造、$G$ への制限が $\rho$ である。逆に $R[G]$ 加群から作った $R$ 加群の構造と表現にこの構成を施すと、$\Phi$ の一意性によりもとの構造に戻る。よって 2 つの構成は互いに逆である。
最後に、$R$ 線形写像 $f\colon M\to N$ が $R[G]$ 加群の準同型であることは、すべての $x=\sum a_gg$ について $f(xm)=xf(m)$ であることであり、$f$ の $R$ 線形性により、すべての $g\in G$ について $f(gm)=gf(m)$ であることと同値である。

自明な表現・正則表現・置換表現
  1. $R$ 自身に $G$ を自明に作用させた表現($gm=m$)は、添加写像 $\varepsilon$ を通じた $R[G]$ 加群である。
  2. $R[G]$ 自身を左からの積で左 $R[G]$ 加群とみたものは、$G$ が基底 $G$ を左からの積で置換する表現であり、正則表現という。$G$ が有限で $R=k$ が体なら、これは $|G|$ 次元の表現である。
  3. $G$ が集合 $X$ に作用しているとき(群の作用)、$X$ を基底とする自由 $R$ 加群 $R^{(X)}$ に、基底の置換 $x\mapsto gx$ を線形に延ばして $G$ を作用させたものを置換表現という。2 は $X=G$ の場合である。

中心

$G$ の元 $x$ と共役な元の全体 $\{gxg^{-1}\mid g\in G\}$ を $x$ の共役類という。$G$ は共役類に分割される。有限群 $G$ の共役類 $K$ に対し、$K$ の元の和 $z_K:=\sum_{x\in K}x\in R[G]$ を類和という。

群環の中心

$G$ を有限群とし、共役類を $K_1,\dots,K_h$ とする。$R[G]$ の中心は、類和 $z_{K_1},\dots,z_{K_h}$ を基底とする自由 $R$ 加群である。とくに $R=k$ が体なら、$R[G]$ の中心の $k$ 上の次元は $G$ の共役類の個数 $h$ に等しい。

係数が共役類の上で一定であること

$z=\sum_{x\in G}a_xx\in R[G]$ とする。$R[G]$ は $R$ 上 $G$ で張られ、$R$ の元はもともと中心にあるので、$z$ が中心にあることは、すべての $g\in G$ について $gz=zg$、すなわち $gzg^{-1}=z$ であることと同値である。
$$ gzg^{-1}=\sum_{x\in G}a_x\,gxg^{-1}=\sum_{y\in G}a_{g^{-1}yg}\,y $$
($y=gxg^{-1}$ と置き換えた)なので、$gzg^{-1}=z$ は、すべての $y$ について $a_{g^{-1}yg}=a_y$ であることと同値である。これがすべての $g$ で成り立つことは、係数 $a_y$ が $y$ の共役類の上で一定であることにほかならない。よって $z$ が中心にあることは、$z=\sum_{j=1}^hc_jz_{K_j}$($c_j$ は $K_j$ 上の係数の値)と書けることと同値である。共役類は互いに交わらないので、類和 $z_{K_j}$ は異なる基底の元の和であり、$\sum_jc_jz_{K_j}=0$ なら各 $c_j=0$ である。よって類和は中心の基底である。

たとえば $G$ がアーベル群なら共役類はすべて 1 点で、中心は $R[G]$ 全体である(prop-group-ring-ring の 3 と整合する)。$S_3$ の共役類は $\{1\}$、互換 3 個、長さ $3$ の巡回置換 2 個の 3 つなので、$\mathbb{C}[S_3]$ の中心は $3$ 次元である。

半単純性と Wedderburn 分解

有限群の群環がいつ半単純環になるかは、係数体の標数と群の位数の関係で決まる。

Maschke の定理

$G$ を有限群、$k$ を体とする。$k[G]$ が半単純環であることと、$k$ の標数が $G$ の位数 $|G|$ を割らないこと($k$ において $|G|\cdot1\neq0$)は同値である。

Maschke の定理の証明の所在

証明は 半単純環 の記事の定理「Maschke の定理」にある(Lam01 Chapter 3, §6。$k=\mathbb{C}$ の場合は Ser77 §1.3)。標数が $|G|$ を割らない場合は、部分加群への $k$ 線形な射影を $G$ で平均して $G$ の作用と可換な射影を作り、補部分加群を得る。割る場合は、$N=\sum_{g\in G}g$ が $N^2=|G|N=0$ を満たし、$kN$ が $0$ でない冪零な両側イデアルになることを使う。表現の言葉では、標数が $|G|$ を割らなければ、$G$ の有限次元表現はすべて既約表現の直和に分かれる。

標数 $0$ の体、とくに $\mathbb{C}$ の上では、$|G|\cdot1\neq0$ が常に成り立つので、有限群の群環はつねに半単純環である。さらに複素数体上では、半単純環の構造定理(半単純環 の記事の定理「Wedderburn–Artin の構造定理」)から次の形の分解が得られる。

複素群環の Wedderburn 分解

$G$ を有限群とする。正の整数 $n_1,\dots,n_r$ と $\mathbb{C}$ 代数の同型
$$ \mathbb{C}[G]\cong M_{n_1}(\mathbb{C})\times\cdots\times M_{n_r}(\mathbb{C}) $$
が存在する。ここで $r$ は $G$ の既約表現の同型類の個数、$n_i$ はそれらの次元である。$\mathbb{C}$ 上の次元を比べて $|G|=n_1^2+\cdots+n_r^2$ が成り立つ。

Wedderburn 分解の出典

Ser77 第6章(群環の構造)と第2章(正則表現の分解、既約表現の個数と次元の平方和)にわたって証明がある(節番号は版により異なりうるため章にとどめる)。半単純環 の記事の Maschke の定理の後の段落も参照。Wedderburn–Artin の定理の各成分 $M_{n_i}(D_i)$ の斜体 $D_i$ が $\mathbb{C}$ になるのは、$\mathbb{C}$ 上有限次元の斜体が $\mathbb{C}$ だけであること($\mathbb{C}$ が代数閉体であることによる)からである。

既約表現の個数と共役類の個数

thm-group-ring-wedderburn の分解の成分の個数 $r$ は、$G$ の共役類の個数 $h$ に等しい。

中心の次元の比較

$\mathbb{C}$ 代数の同型は中心を中心に移し、$\mathbb{C}$ 線形なので中心の次元を保つ。prop-group-ring-center により $\mathbb{C}[G]$ の中心の次元は $h$ である。一方、直積 $\prod_iM_{n_i}(\mathbb{C})$ の中心は各成分の中心の直積である(成分ごとに可換性を調べればよい)。$M_n(\mathbb{C})$ の中心はスカラー行列 $\mathbb{C}I$ である。実際、$A=(a_{pq})$ が行列単位 $E_{ij}$($(i,j)$ 成分だけが $1$)と可換なら、$AE_{ij}$ は第 $j$ 列が $A$ の第 $i$ 列で他が $0$ の行列、$E_{ij}A$ は第 $i$ 行が $A$ の第 $j$ 行で他が $0$ の行列であり、両者の $(p,j)$ 成分($p\neq i$)と $(i,j)$ 成分を比べると $a_{pi}=0$($p\neq i$)と $a_{ii}=a_{jj}$ を得る。逆にスカラー行列はすべての行列と可換である。よって右辺の中心は $\mathbb{C}^r$ で次元 $r$ であり、$r=h$ である。

3 次対称群の複素群環

$G=S_3$ とすると $|G|=6$、共役類の個数は $h=3$ である(prop-group-ring-center の後の段落)。prop-group-ring-number-of-irreducibles により $r=3$ であり、正の整数 $n_1\leq n_2\leq n_3$ で $n_1^2+n_2^2+n_3^2=6$ を満たすものを求めればよい。平方数で $6$ 以下のものは $1,4$ だけで、$3$ 個の和が $6$ になるのは $1+1+4$ だけである。よって
$$ \mathbb{C}[S_3]\cong\mathbb{C}\times\mathbb{C}\times M_2(\mathbb{C}) $$
である。$2$ つの $\mathbb{C}$ は自明な表現と、置換の符号 $\operatorname{sgn}$ による $1$ 次元表現に対応し、$M_2(\mathbb{C})$ は $S_3$ が正三角形の対称性として $\mathbb{C}^2$ に作用する $2$ 次元の既約表現に対応する。

反例:半単純でない群環
  1. 素数 $p$ と位数 $p$ の巡回群 $C_p$ について、ex-group-ring-cyclic により $\mathbb{F}_p[C_p]\cong\mathbb{F}_p[x]/(x^p-1)$ であり、標数 $p$ では $x^p-1=(x-1)^p$ なので、$\bar x-1$ は $0$ でない冪零元である。可換な半単純環は体の有限直積であり冪零元 $0$ しかもたない(半単純環 の記事の命題「可換な半単純環」とその後の段落)ので、$\mathbb{F}_p[C_p]$ は半単純環でない。これは thm-group-ring-maschke の標数の条件が省けないことを示す例であり、満たす性質は「係数が体で群が有限」、満たさない性質は「標数が位数を割らない」ことである。
  2. 無限巡回群 $G$ については、体 $k$ 上で $k[G]\cong k[x,x^{-1}]$ であり(ex-group-ring-cyclic の 2)、これは半単純環でない。$k[x,x^{-1}]$ は整域で体でない。整域であるのは、$0$ でない元に十分大きな $x^N$ を掛けると $0$ でない多項式になり、多項式環 $k[x]$ が整域だからである。体でないのは、$1+x$ が単元でないからである。実際 $(1+x)f=1$ となる $f\in k[x,x^{-1}]$ があれば、$x^Nf$ が多項式になる $N\geq0$ をとって多項式の等式 $(1+x)\cdot x^Nf=x^N$ を得るが、$x=-1$ を代入すると $0=(-1)^N$ となり不可能である。可換な半単純環は体の有限直積であるが、整域が体の直積 $K_1\times\cdots\times K_r$ に同型なら、$r\geq2$ のときは $(1,0,\dots)\cdot(0,1,0,\dots)=0$ が零因子になるので $r=1$ であり、それ自身が体でなければならない。よって $k[x,x^{-1}]$ は半単純環でない。Maschke の定理の「有限群」の仮定は、このように無限群では外せない。

関連項目

参考文献

[1]
Jean-Pierre Serre, Linear Representations of Finite Groups, Graduate Texts in Mathematics 42, Springer, 1977, §1.3(表現の完全可約性)、第2章(正則表現の分解、既約表現の個数と次元の平方和)、第6章(群環の構造)

Mathpediaは寄付と、参考文献の書籍リンク(Amazonアソシエイト)の紹介料で運営されています。 支援について / 寄付する