錐定理

同義語:cone theorem森の錐定理Mori's cone theorem

概要

錐定理(cone theorem)とは、複素数体上の滑らかな射影多様体 $X$ の曲線の錐の閉包 $\overline{NE}(X)$ が、標準因子 $K_X$ との交点数が $0$ 以上の部分と、高々可算個の $K_X$ 負の端射線の和に分かれ、各端射線が $0<-K_X\cdot C\le2\dim X$ をみたす有理曲線 $C$ で張られるという定理である。森重文が発見し、端射線ごとの収縮とともに極小モデル理論の出発点になった。曲面では、自己交点数が負の曲線は端射線を張り、$K_X$ 負のものは $(-1)$ 曲線に限られる。$K_X$ 負でない側の錐は、アーベル曲面のように丸くなりうる。

$$\newcommand{C}[0]{\mathbb{C}} \newcommand{div}[0]{\mathbin{÷}} \newcommand{N}[0]{\mathbb{N}} \newcommand{Q}[0]{\mathbb{Q}} \newcommand{R}[0]{\mathbb{R}} \newcommand{Z}[0]{\mathbb{Z}} $$

前提知識: 双有理幾何学, 数値的同値, 豊富な可逆層, 代数曲面

錐定理(cone theorem)は、複素数体上の滑らかな射影多様体 $X$ の上の曲線の類が張る凸錐(曲線の錐)のうち、標準因子 $K_X$ との交点数が負になる部分が、有理曲線で張られる高々可算個の半直線(端射線)で局所的に多面体的に生成されることを述べる定理である。森重文(Shigefumi Mori)が滑らかな射影多様体について 1982 年の論文で発見し、極小モデル理論(森理論)の出発点になった。$K_X$ 負の端射線のそれぞれには、その方向の曲線だけを潰す射(収縮)が対応する(収縮定理)。錐定理は、曲面の $(-1)$ 曲線を潰して極小曲面をつくる操作を、高次元で「どの曲線を潰せばよいか」を数値的に指定する形に一般化したものである。
一般の場合の証明は研究水準で、この記事では定理の主張と所在を示すにとどめる。代わりに、曲面の上で錐定理が何を言っているかを具体的に確かめる。自己交点数が負の曲線が端射線を張ることを証明し、$\mathbb{P}^1$ 束の曲線の錐を完全に決定し、さらに $K_X=0$ のアーベル曲面 $E\times E$ では曲線の錐が「丸い」こと、すなわち $K_X$ 負でない部分については錐定理が何も主張できないことを示す。

曲線の錐

この節では $k$ を代数閉体、$X$ を $k$ 上の射影多様体とする。$X$ の整な 1 次元閉部分スキームを 曲線 という。

曲線の錐

$X$ の曲線の実係数の形式和(実 1 サイクル)を、すべての Cartier 因子との交点数が等しいとき同一視した実ベクトル空間を $N_1(X)$ と書き、曲線 $C$ の類を $[C]\in N_1(X)$ と書く。
$$ NE(X):=\Bigl\{\sum_i a_i[C_i]\ \Bigm|\ a_i\in\mathbb{R}_{\ge0},\ C_i\text{ は曲線(有限和)}\Bigr\}\subset N_1(X) $$
を 曲線の錐 といい、その閉包を $\overline{NE}(X)$ と書く。Cartier 因子 $D$ について $\overline{NE}(X)_{D\ge0}:=\{z\in\overline{NE}(X)\mid D\cdot z\ge0\}$ とおき、$D_{<0}$ なども同様に定める。

$N_1(X)$ は有限次元で、Cartier 因子の数値的同値類の実ベクトル空間 $N^1(X)_{\mathbb{R}}$ と交点数で双対になる(数値的同値。次元が Picard 数 $\rho(X)$ である)。$X$ が滑らかな射影曲面なら、曲線は因子でもあり、$N_1(X)$ と $N^1(X)_{\mathbb{R}}$ は同じ空間で、その上の交点形式が 曲面の交点形式とRiemann–Rochの定理 の交点形式である(数値的同値 の命題「曲面での 2 つの定義の一致」)。

端射線

凸錐 $V\subset N_1(X)$ の中の半直線 $R=\mathbb{R}_{\ge0}z$($z\neq0$)が 端射線 であるとは、$z_1,z_2\in V$ と $z_1+z_2\in R$ から $z_1,z_2\in R$ が従うことをいう。$\overline{NE}(X)$ の端射線 $R$ で $K_X\cdot R<0$($R$ の $0$ でない元との交点数が負)となるものを $K_X$ 負の端射線 という。

錐の基本的な性質は、豊富な因子が錐の上で正になることである。

Kleiman の判定法

$X$ を射影多様体、$H$ を Cartier 因子とする。$H$ が豊富であるための必要十分条件は、$\overline{NE}(X)\setminus\{0\}$ のすべての元 $z$ で $H\cdot z>0$ となることである。

出典

これは 豊富な可逆層 の定理「Nakai–Moishezon の判定と Kleiman の判定」の 2 であり、この記事では証明しない。

ここから次の補題が従う。

錐の切り口のコンパクト性

$H$ を豊富な因子とすると、$\{z\in\overline{NE}(X)\mid H\cdot z\le1\}$ はコンパクトである。とくに $\overline{NE}(X)$ は直線を含まない。

正規化した点列の極限

集合 $S:=\{z\in\overline{NE}(X)\mid H\cdot z\le1\}$ は閉集合なので、有界であることを示せばよい。$N_1(X)$ にノルムを 1 つ固定する。有界でないとすると $\|z_n\|\to\infty$ となる $z_n\in S$ があり、$z_n/\|z_n\|$ の部分列は単位球面上のある $w$ に収束する。$\overline{NE}(X)$ は閉じた錐なので $w\in\overline{NE}(X)$、$w\ne0$ であり、$0\le H\cdot(z_n/\|z_n\|)\le1/\|z_n\|\to0$ から $H\cdot w=0$ となる。これは thm-cone-kleiman に反する。直線 $\mathbb{R}z$($z\ne0$)が錐に含まれれば $H\cdot z>0$ と $H\cdot(-z)>0$ が同時に成り立つことになり、やはり矛盾する。$\square$

錐定理

錐定理

$X$ を複素数体上の滑らかな射影多様体とする。このとき、高々可算個の $K_X$ 負の端射線 $R_j$ があって次が成り立つ。

  1. $\overline{NE}(X)=\overline{NE}(X)_{K_X\ge0}+\sum_jR_j$。
  2. 任意の豊富な因子 $A$ と実数 $\varepsilon>0$ について、$(K_X+\varepsilon A)\cdot R_j<0$ となる $R_j$ は有限個である。とくに $R_j$ は半空間 $\{K_X<0\}$ の中で集積しない。
  3. 各 $R_j$ はある有理曲線 $C_j$ の類で張られ、$0<-K_X\cdot C_j\le2\dim X$ である。
出典と歴史

上の形は、藤野修(Osamu Fujino)による対 $(X,B)$ の錐定理 Fuj10 Theorem 1.1 の (1)(2)(3)(5)(pp. 2–3)を、$B=0$、底を 1 点として読んだものである(滑らかな $X$ では非対数標準的な部分は空になる)。証明は同論文の §16・§18 にあり、この記事では証明しない。Fuj10 §1(p. 4)によれば、森重文は 1982 年の論文で滑らかな射影多様体の錐定理と、滑らかな 3 次元多様体の収縮定理を示した。その後、特異点をもつ多様体への一般化が、消滅定理を使うまったく別の方法で、川又雄二郎(Yujiro Kawamata)、Kollár、Reid、Shokurov によって与えられた。この方法の中心にあるのが 川又–Viehwegの消滅定理 である。

1 の右辺の和は、$\overline{NE}(X)_{K_X\ge0}$ の元と、有限個の $R_j$ の元の和全体を表す。錐定理が何かを主張するのは $K_X$ 負の側だけである。$K_X\ge0$ の側の錐はいくらでも複雑になりうる(下の ex-cone-abelian)。また 2 は、$K_X$ 負の端射線が無限個あっても、それらが集積できるのは超平面 $K_X^\perp$ の近くだけであることを述べている(ex-cone-nine-points)。各 $K_X$ 負の端射線 $R$ には、$[C]\in R$ となる曲線 $C$ だけを点に潰す射 $\varphi_R\colon X\to Y$(収縮)がある。これが収縮定理で、極小モデル理論の各段階はこの収縮で進む(双有理幾何学 の定理「錐定理と収縮定理」と節「極小モデル理論の手順」)。
3 の長さの上限 $2\dim X$ の例として、$\mathbb{P}^n$ の直線 $\ell$ は $-K\cdot\ell=n+1$ である($K_{\mathbb{P}^n}=-(n+1)H$)。曲面では、下で見るように $(-1)$ 曲線が長さ $1$、$\mathbb{P}^1$ 束のファイバーが長さ $2$、$\mathbb{P}^2$ の直線が長さ $3$ の端射線を張る。

曲面の上の錐定理

この節では $k$ を代数閉体、$X$ を $k$ 上の滑らかな射影曲面とし、$H$ を豊富な因子とする。曲面では $N_1(X)$ に交点形式があるので、曲線の錐を交点数で直接調べられる。

自己交点数が負の曲線

負の曲線は端射線を張る

$C$ を $X$ の曲線で $C^2<0$ をみたすものとする。

  1. $\overline{NE}(X)=\overline{NE}(X)_{C\ge0}+\mathbb{R}_{\ge0}[C]$ である。
  2. $\mathbb{R}_{\ge0}[C]$ は $\overline{NE}(X)$ の端射線である。
$C$ との交点数と $H$ との交点数で挟む

$V:=\overline{NE}(X)_{C\ge0}$ とおく。これは閉じた凸錐である。
1.$C$ と異なる曲線 $D$ は $C$ と共通成分をもたないので $D\cdot C\ge0$、すなわち $[D]\in V$ である。よって $NE(X)$ の元 $\sum a_i[C_i]$ は、$C_i=C$ の項をまとめると $V+\mathbb{R}_{\ge0}[C]$ に入る。次に $V+\mathbb{R}_{\ge0}[C]$ が閉じていることを示す。$v_n\in V$、$t_n\ge0$ で $w_n:=v_n+t_n[C]$ が $w$ に収束するとする。$H\cdot v_n\ge0$、$H\cdot C>0$(thm-cone-kleiman)で、$H\cdot w_n=H\cdot v_n+t_nH\cdot C$ は有界なので、$t_n$ と $H\cdot v_n$ は有界である。lem-cone-compact により $v_n$ も有界で、部分列をとれば $v_n\to v\in V$、$t_n\to t\ge0$、$w=v+t[C]$ となる。よって $\overline{NE}(X)\subset V+\mathbb{R}_{\ge0}[C]$ で、逆の包含は $V\subset\overline{NE}(X)$、$[C]\in NE(X)$ と、$\overline{NE}(X)$ が凸錐であることから明らかである。
2.$H\cdot C>0$ なので $[C]\ne0$ である。$z_1,z_2\in\overline{NE}(X)$、$z_1+z_2=s[C]$($s\ge0$)とする。1 により $z_i=v_i+t_i[C]$($v_i\in V$、$t_i\ge0$)と書けて、
$$ v_1+v_2=(s-t_1-t_2)[C] $$
である。両辺と $C$ との交点数をとると、左辺は $0$ 以上、$C^2<0$ なので $s-t_1-t_2\le0$ である。両辺と $H$ との交点数をとると、左辺は $0$ 以上、$H\cdot C>0$ なので $s-t_1-t_2\ge0$ である。よって $v_1+v_2=0$ で、$H\cdot v_1+H\cdot v_2=0$ と $H\cdot v_i\ge0$ から $H\cdot v_i=0$、thm-cone-kleiman により $v_i=0$ である。したがって $z_i=t_i[C]\in\mathbb{R}_{\ge0}[C]$ である。$\square$

$K_X$ との交点数も負なら、曲線の形が決まる。

$K_X$ 負の負曲線は $(-1)$ 曲線

$X$ の曲線 $C$ について、次の 2 つは同値である。

  1. $C^2<0$ かつ $K_X\cdot C<0$。
  2. $C$ は $(-1)$ 曲線($C\cong\mathbb{P}^1$ かつ $C^2=-1$)である。
    このとき $\mathbb{R}_{\ge0}[C]$ は $K_X$ 負の端射線で、$-K_X\cdot C=1$ である。
随伴公式

1 から 2 は 双有理幾何学 の定理「$K$ 負で自己交点数が負の曲線」である。2 なら $p_a(C)=0$ なので、随伴公式 $C\cdot(C+K_X)=2p_a(C)-2=-2$ に $C^2=-1$ を代入して $K_X\cdot C=-1<0$ を得る。最後の主張は thm-cone-negative-curve の 2 から従う。$\square$

曲面の極小モデルをつくる操作($(-1)$ 曲線の縮約、Castelnuovoの収縮定理)は、こうして $K_X$ 負の端射線の収縮として読み直せる。$K_X$ 負の端射線が自己交点数 $0$ 以上の曲線で張られる場合もあり、それが次の 2 つの例である。

射影平面

$X=\mathbb{P}^2$ では $N_1(X)=\mathbb{R}[\ell]$($\ell$ は直線)で、$d$ 次の曲線の類は $d[\ell]$ なので $\overline{NE}(X)=NE(X)=\mathbb{R}_{\ge0}[\ell]$ である。$K_X=-3\ell$ なので $K_X\cdot\ell=-3$ で、錐全体が $1$ 本の $K_X$ 負の端射線になる。その収縮は $X$ を 1 点へ潰す射で、長さ $-K_X\cdot\ell=3$ は thm-cone-main の上限 $2\dim X=4$ 以下である。

$\mathbb{P}^1$ 束の曲線の錐

$\pi\colon X\to B$ を種数 $g$ の滑らかな射影曲線 $B$ の上の 幾何的線織曲面(すべてのファイバーが $\mathbb{P}^1$ と同型で切断をもつ射。この節では単に線織曲面という)とし、記号は Har77 V §2 に従う。ファイバーの類を $f$ とし、Har77 V 記法 2.8.1(p. 373)の切断を $C_0$ とする。$e:=-C_0^2$ は $X$ だけで決まる整数である(同 命題 2.8)。このとき $N_1(X)=\mathbb{R}[C_0]\oplus\mathbb{R}[f]$ で、
$$ C_0^2=-e,\qquad C_0\cdot f=1,\qquad f^2=0,\qquad K_X\equiv-2C_0+(2g-2-e)f $$
である(Har77 V 命題 2.3, p. 370、命題 2.9, p. 373、系 2.11, p. 374)。$B=\mathbb{P}^1$ のとき、$e=0$ なら $X\cong\mathbb{P}^1\times\mathbb{P}^1$、$e=1$ なら $X$ は $\mathbb{P}^2$ の 1 点の爆発と同型である(同 例 2.11.1, 2.11.5, 系 2.13, pp. 374–376)。

$e\ge0$ の線織曲面の錐

$e\ge0$ とする。

  1. $\overline{NE}(X)=NE(X)=\mathbb{R}_{\ge0}[C_0]+\mathbb{R}_{\ge0}[f]$ で、$\mathbb{R}_{\ge0}[C_0]$ と $\mathbb{R}_{\ge0}[f]$ はどちらも端射線である。
  2. $K_X\cdot f=-2$、$K_X\cdot C_0=2g-2+e$ である。
  3. $2g-2+e\ge0$ なら $\overline{NE}(X)=\overline{NE}(X)_{K_X\ge0}+\mathbb{R}_{\ge0}[f]$ で、$K_X$ 負の端射線は $\mathbb{R}_{\ge0}[f]$ だけである。この端射線に類が入る曲線はちょうどファイバーで、収縮は $\pi$ である。
2 本の生成元に対する交点数

1.$Y$ を $C_0$ とも $f$ とも異なる曲線とし、$Y\equiv aC_0+bf$ と書く。$Y$ はファイバーと共通成分をもたないので $a=Y\cdot f\ge0$、$C_0$ とも共通成分をもたないので $Y\cdot C_0=b-ae\ge0$、よって $b\ge ae\ge0$ である。したがって曲線の類はすべて $a,b\ge0$ の $a[C_0]+b[f]$ の形で、$NE(X)$ は 1 次独立な 2 つのベクトル $[C_0]$、$[f]$ が張る錐に等しい。この錐は閉じているので $\overline{NE}(X)=NE(X)$ である。$z_i=a_i[C_0]+b_i[f]$($a_i,b_i\ge0$)で $z_1+z_2\in\mathbb{R}_{\ge0}[C_0]$ なら $b_1+b_2=0$ から $b_1=b_2=0$ となるので、$\mathbb{R}_{\ge0}[C_0]$ は端射線である。$\mathbb{R}_{\ge0}[f]$ も同様である。
2.$K_X\cdot f=-2C_0\cdot f+(2g-2-e)f^2=-2$、$K_X\cdot C_0=-2C_0^2+(2g-2-e)=2e+2g-2-e=2g-2+e$ である。
3.$2g-2+e\ge0$ なら $K_X\cdot C_0\ge0$ なので $\mathbb{R}_{\ge0}[C_0]\subset\overline{NE}(X)_{K_X\ge0}$ で、1 から等式を得る。$K_X$ 負の端射線は $\overline{NE}(X)$ の 2 本の端射線のうち $\mathbb{R}_{\ge0}[f]$ だけである。曲線 $Y$ の類が $\mathbb{R}_{\ge0}[f]$ に入れば $Y\cdot f=0$ である。$\pi(Y)=B$ なら $Y$ はすべてのファイバーと交わり、ファイバーではないので $Y\cdot f>0$ となって矛盾する。よって $\pi(Y)$ は 1 点で、$Y$ はそのファイバー($\mathbb{P}^1$ と同型で整)に一致する。逆にファイバーの類は $[f]$ である。$\square$

$g=0$、$e\ge2$ では $C_0^2=-e<0$ なので $\mathbb{R}_{\ge0}[C_0]$ は thm-cone-negative-curve の端射線だが、$K_X\cdot C_0=e-2\ge0$ なので $K_X$ 負ではない。$C_0$ だけを潰す滑らかな曲面への双有理射はない。あったとすると、それはちょうど 1 回の点の爆発になり(Har77 V 系 5.4, p. 411)、$C_0^2=-1$ となるからである。3 の条件が成り立たないのは $g=0$、$e\in\{0,1\}$ の場合で、$e=0$($\mathbb{P}^1\times\mathbb{P}^1$)では 2 本の端射線がどちらも長さ $2$ の $K_X$ 負の端射線になり、その収縮は 2 つの射影である。$e=1$ では $C_0$ が $(-1)$ 曲線で($K_X\cdot C_0=-1$)、その収縮が $\mathbb{P}^2$ への爆発の射である。

$K_X$ 負でない側と、端射線の集積

アーベル曲面の丸い錐

$k=\mathbb{C}$ とし、$E$ を楕円曲線、$X=E\times E$ とする。$X$ の標準因子は $K_X=0$ である。このとき
$$ \overline{NE}(X)=P:=\{z\in N_1(X)\mid z^2\ge0,\ H\cdot z\ge0\} $$
であり、$P$ の境界の半直線 $\{z^2=0\}$ はすべて端射線である。$\rho(X)\ge3$ なので境界の半直線は無数にあり、$\overline{NE}(X)$ は有限個の半直線で張られる錐(多面体錐)にならず、曲線の類では張られない端射線(方向が有理的でないもの)も含む。$K_X=0$ なので $\overline{NE}(X)=\overline{NE}(X)_{K_X\ge0}$ で、錐定理はこの錐について何も主張しない。

証明を開く

$K_X=0$ と曲線の自己交点数.$\Omega^1_{E\times E}\cong p_1^*\Omega^1_E\oplus p_2^*\Omega^1_E$(アフィン開集合では $\Omega_{A\otimes B}\cong(\Omega_A\otimes B)\oplus(A\otimes\Omega_B)$)なので、最高次の外積をとると $\omega_X\cong p_1^*\omega_E\otimes p_2^*\omega_E\cong\mathcal{O}_X$ である。$C\subset X$ を曲線とする。$C\cong\mathbb{P}^1$ だとすると、射影 $C\to E$ はどちらも定値になる(定値でない射 $\mathbb{P}^1\to E$ は有限分離射で、Hurwitz の公式 $-2=\deg\cdot0+\deg R\ge0$ に反する)ので $C$ は 1 点になり、矛盾する。よって 双有理幾何学 の補題「算術種数 0 の整曲線」により $p_a(C)\ge1$ で、随伴公式から $C^2=2p_a(C)-2-K_X\cdot C\ge0$ である。

$\overline{NE}(X)\subset P$.$z=\sum a_i[C_i]$($a_i\ge0$、$C_i$ は相異なる曲線)なら、$C_i^2\ge0$ と $C_i\cdot C_j\ge0$($i\ne j$)から $z^2=\sum_{i,j}a_ia_jC_i\cdot C_j\ge0$、また $H\cdot z\ge0$ である。$P$ は閉集合なので閉包も $P$ に入る。

$P\subset\overline{NE}(X)$.$D$ が因子で $D^2>0$、$D\cdot H>0$ なら、代数曲面 の命題「自己交点数が正の因子の倍数」により $nD$ は有効因子と線形同値で、$[D]\in NE(X)$ である。正の有理数倍をとれば、有理係数の類 $z$ で $z^2>0$、$H\cdot z>0$ をみたすものも $NE(X)$ に入る。そのような $z$ 全体は開集合 $U:=\{z^2>0,\ H\cdot z>0\}$ の中で稠密なので $U\subset\overline{NE}(X)$ である。$z\in P$ なら $\varepsilon>0$ について $(z+\varepsilon H)^2=z^2+2\varepsilon H\cdot z+\varepsilon^2H^2>0$、$H\cdot(z+\varepsilon H)>0$ だから $z+\varepsilon H\in U$ で、$\varepsilon\to0$ として $z\in\overline{NE}(X)$ である。

境界の端射線.Hodge 指数定理(Har77 V 定理 1.9 と注意 1.9.1, p. 364)により、交点形式は $N_1(X)$ の上で符号 $(1,\rho-1)$ をもつ。$e_0:=H/\sqrt{H^2}$ と、$H$ に直交する部分空間(負定値)の正規直交基底をとり、$u=u_0e_0+u'$ と書くと $u^2=u_0^2-|u'|^2$ で、$u\in P$ は $u_0\ge|u'|$ と同値である。$u,v\in P$ なら $u\cdot v=u_0v_0-\langle u',v'\rangle\ge u_0v_0-|u'||v'|\ge0$ である。境界の元 $z\ne0$($z^2=0$)が $z=z_1+z_2$($z_i\in P$)と書けたとすると、$0=z_1^2+2z_1\cdot z_2+z_2^2$ の各項が $0$ 以上なので $z_1^2=z_2^2=z_1\cdot z_2=0$ である。$|z_1'|=z_{1,0}$、$|z_2'|=z_{2,0}$ と $\langle z_1',z_2'\rangle=z_{1,0}z_{2,0}$ から Cauchy–Schwarz の不等式の等号が成り立ち、$z_1,z_2$ は $z$ の $0$ 以上の倍数である。

$\rho\ge3$.$F_1=E\times\{0\}$、$F_2=\{0\}\times E$ と対角線 $\Delta$ はどれも $E$ と同型な曲線で、随伴公式と $K_X=0$ から自己交点数は $0$ である。どの 2 つも点 $(0,0)$ だけで横断的に交わる(接方向が $(1,0)$、$(0,1)$、$(1,1)$ で異なる)ので、交点数は $1$ である。交点行列 $\begin{pmatrix}0&1&1\\1&0&1\\1&1&0\end{pmatrix}$ の行列式は $2\ne0$ なので、3 つの類は 1 次独立である。境界の半直線は、切り口 $\{u_0=1\}$ の上の $\{|u'|=1\}$ の点と 1 対 1 に対応し、これは $\rho\ge3$ なら $\rho-2\ge1$ 次元の球面なので、境界の半直線は非可算個ある。曲線の類は整数係数の格子点なので、それが張る半直線は可算個しかない。

$K_X$ 負の端射線が無限個ある曲面

$k=\mathbb{C}$ とする。$\mathbb{P}^2$ の一般の位置にある $r\ge9$ 点を爆発した曲面 $X$ には $(-1)$ 曲線が無限に多くある(Har77 V 注意 5.8.1, p. 418。この記事では証明しない)。cor-cone-minus-one により、それぞれが相異なる $K_X$ 負の端射線を張る(相異なる $(-1)$ 曲線 $E\ne E'$ は $E\cdot E'\ge0>E^2$ なので類が比例しない)。よって $K_X$ 負の端射線は無限個ある。一方、thm-cone-main の 2 により、豊富な因子 $A$ と $\varepsilon>0$ を固定すると、$(K_X+\varepsilon A)\cdot E=-1+\varepsilon A\cdot E<0$ をみたすもの、すなわち $A\cdot E<1/\varepsilon$ のものは有限個しかない。したがって $(-1)$ 曲線を並べると $A\cdot E\to\infty$ となり、類を $A\cdot E=1$ となるよう正規化した $[E]/(A\cdot E)$ と $K_X$ との交点数 $-1/(A\cdot E)$ は $0$ に近づく。$K_X$ 負の端射線は超平面 $K_X^\perp$ に向かって集積する。

反例:条件を外すと

外す条件反例成り立たなくなること
thm-cone-negative-curve の $C^2<0$$\mathbb{P}^1\times\mathbb{P}^1$ の対角線 $\Delta$($\Delta^2=2$)$\mathbb{R}_{\ge0}[\Delta]$ が端射線であること
thm-cone-main の 2 の $\varepsilon A$ の豊富性($0$ に替える)$\mathbb{P}^2$ の一般の $9$ 点の爆発(ex-cone-nine-points)$K_X$ 負の端射線が有限個であること
thm-cone-ruled の 3 の $2g-2+e\ge0$$\mathbb{P}^1\times\mathbb{P}^1$($g=e=0$)$K_X$ 負の端射線がただ 1 本であること
lem-cone-compact の $H$ の豊富性$\mathbb{P}^1\times\mathbb{P}^1$ の $H=l$(一方の方向のファイバー)切り口 $\{H\cdot z\le1\}$ が有界であること
反例の確かめ

記号 $l,m$ は $\mathbb{P}^1\times\mathbb{P}^1$ の 2 方向のファイバーの類で、$l^2=m^2=0$、$l\cdot m=1$ である。thm-cone-ruled($g=e=0$、$C_0=m$、$f=l$ ととる)により $\overline{NE}=\mathbb{R}_{\ge0}l+\mathbb{R}_{\ge0}m$ である。
1 行目:対角線 $\Delta$ は $(1,1)$ 型で $[\Delta]=l+m$、$\Delta^2=2$ である。$l,m\in\overline{NE}$ の和が $[\Delta]$ だが、$l$ は $[\Delta]$ の倍数でないので、$\mathbb{R}_{\ge0}[\Delta]$ は端射線でない。
2 行目:ex-cone-nine-points のとおりである。
3 行目:$K=-2l-2m$ で $K\cdot l=K\cdot m=-2<0$ なので、$\mathbb{R}_{\ge0}l$ と $\mathbb{R}_{\ge0}m$ の 2 本が $K$ 負の端射線である。
4 行目:$l$ は $l\cdot l=0$ なので豊富でない(thm-cone-kleiman)。$z=tl$($t\ge0$)はすべて $\overline{NE}$ に入り $l\cdot z=0\le1$ をみたすので、切り口は有界でない。

関連項目

参考文献

[1]
Osamu Fujino, Fundamental theorems for the log minimal model program, arXiv:0909.4445v3, 2010, Theorem 1.1(pp. 2–3、錐定理と収縮定理)、§1 p. 4(錐定理の歴史)
[2]
Robin Hartshorne, Algebraic Geometry, Graduate Texts in Mathematics 52, Springer, 1977, V 定理 1.9・注意 1.9.1(p. 364)、V 命題 2.3(p. 370)、V 命題 2.8・記法 2.8.1・命題 2.9(p. 373)、V 系 2.11・例 2.11.1(p. 374)、V 例 2.11.5(p. 375)、V 系 2.13(p. 376)、V 系 5.4(p. 411)、V 注意 5.8.1(p. 418)

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