交流回路と複素数(高校数学)

同義語:インピーダンス(高校数学)AC circuits and complex numbers (high school mathematics)

概要

交流回路と複素数(AC circuits and complex numbers)とは、抵抗 $R$、コイル $L$、コンデンサ $C$ の直列回路に電圧 $V_0\cos\omega t$ をかけたときの電流を、$e^{i\omega t}$ の微分が $i\omega$ 倍になることで求める方法である。インピーダンス $Z=R+i\omega L+\frac1{i\omega C}$ が $0$ でなければ、電荷 $q$ の方程式の解で $\cos\omega t$ と $\sin\omega t$ の 1 次結合のもの(定常な解)はただ 1 つで、電流は $\frac{V_0}{\lvert Z\rvert}\cos(\omega t-\arg Z)$ である。$R>0$ なら振幅は $\omega=\frac1{\sqrt{LC}}$ で最大 $\frac{V_0}R$ になる。

$$\newcommand{C}[0]{\mathbb{C}} \newcommand{div}[0]{\mathbin{÷}} \newcommand{N}[0]{\mathbb{N}} \newcommand{Q}[0]{\mathbb{Q}} \newcommand{R}[0]{\mathbb{R}} \newcommand{Z}[0]{\mathbb{Z}} $$

前提知識: 複素数の掛け算は回転と拡大, 強制振動と共振(高校数学), 加法定理から積和・和積・合成・正接の公式を導く

高校での出発点:抵抗・コイル・コンデンサに交流をかける

家庭のコンセントの電圧は、時間 $t$ とともに $V_0\cos\omega t$ の形で向きを変える(交流)。$V_0$ を電圧の振幅、$\omega$ を角周波数という。この電圧を、抵抗・コイル・コンデンサにかけたときに流れる電流 $I(t)$ を求めたい。
高校の物理では、電流 $I$ が流れているとき、それぞれの素子の両端の電圧は次のようになることを学ぶ($q$ はコンデンサにたまった電荷で、$I=q'$ である)。

素子定数両端の電圧
抵抗抵抗値 $R$$RI$
コイルインダクタンス $L$$LI'$
コンデンサ電気容量 $C$$\dfrac qC$

素子を 1 本の輪につないだ回路(直列回路)では、各素子の電圧の和が、かけた電圧に等しい。この記事では、これらを物理の法則として認め、そこから出てくる微分方程式を数学として扱う。まず素子を 1 つずつつないでみる。

素子を 1 つだけつなぐ

電圧を $V=10\cos100t$ とする($V_0=10$、$\omega=100$。単位はボルトと秒)。
(1) 抵抗 $R=5$ だけ。$5I=10\cos100t$ から $I=2\cos100t$ である。電流は電圧と同じ時刻に山になる。
(2) コイル $L=0.05$ だけ。$0.05I'=10\cos100t$ から $I'=200\cos100t$ で、$I=2\sin100t+K$($K$ は定数)である。電流も交流で、電圧と同じ角周波数で振動するものを探すので $K=0$ とする。$\sin\theta=\cos\left(\theta-\dfrac\pi2\right)$ なので
$$ I=2\cos\left(100t-\frac\pi2\right) $$
で、電流の山は電圧の山より $\dfrac\pi2$、つまり $90^\circ$ に当たる時間だけ遅れる。
(3) コンデンサ $C=0.002$ だけ。$\dfrac q{0.002}=10\cos100t$ から $q=0.02\cos100t$ で、$I=q'=-2\sin100t$ である。$-\sin\theta=\cos\left(\theta+\dfrac\pi2\right)$ なので
$$ I=2\cos\left(100t+\frac\pi2\right) $$
で、電流の山は電圧の山より $90^\circ$ 進む。

電圧(実線、見やすいように 1/5 にした)と電流(破線)。抵抗では山がそろい、コイルでは電流が 90° 遅れ、コンデンサでは 90° 進む 電圧(実線、見やすいように 1/5 にした)と電流(破線)。抵抗では山がそろい、コイルでは電流が 90° 遅れ、コンデンサでは 90° 進む
3 つとも電流の振幅は $2$ だが、山の時刻がずれる(図 1)。では、3 つを直列につなぐとどうなるか。電圧の和が $V$ に等しいので
$$ LI'+RI+\frac qC=V_0\cos\omega t,\qquad\text{つまり}\qquad Lq''+Rq'+\frac qC=V_0\cos\omega t $$
である。これは 強制振動と共振(高校数学) の減衰のある振動の方程式と同じ形で、そこでは $a\cos\omega t+b\sin\omega t$ とおいて係数の連立方程式を解いた。この記事では、複素数を使うとこの計算が 1 行になり、しかも答えの振幅と位相のずれが 1 つの複素数から読めることを示す。この記事で答える問いは次の 3 つである。

  1. 直列回路に流れる、電圧と同じ角周波数で振動する電流はただ 1 つか。その振幅と位相のずれは何で決まるか。→ thm-acc-main
  2. 角周波数 $\omega$ をいくつにすると、電流がいちばん大きくなるか。→ cor-acc-resonance
  3. 図 1 の $90^\circ$ の遅れと進みは、複素数の何にあたるか。→ def-acc-impedance、ex-acc-compare
    高校の計算この記事の言葉大学の言葉
    三角関数の合成 $a\cos\theta+b\sin\theta=r\cos(\theta-\varphi)$複素数 $a-bi$ の絶対値 $r$ と偏角 $-\varphi$極形式
    微分すると $\cos\to-\sin$、$\sin\to\cos$$e^{i\omega t}$ を微分すると $i\omega$ 倍微分作用素の固有関数
    係数を比べる連立 1 次方程式インピーダンス $Z$ で割る伝達関数
    直列の抵抗の和インピーダンスの和複素数のオームの法則

取り出す構造:$e^{i\omega t}$ とインピーダンス

複素数の値をとる関数

Euler の公式 $e^{i\theta}=\cos\theta+i\sin\theta$ は、複素数の掛け算は回転と拡大 の節「Euler の公式:$e^{i\theta}$ をどう定義し、何を証明するか」で、右辺の略記として定めた。この記事でもその定義を使う。

複素数の値をとる関数の微分と実部

実数 $t$ に複素数 $f(t)=u(t)+iv(t)$($u$、$v$ は実数の値をとる関数)を対応させる関数を考える。$u$、$v$ が微分可能なとき
$$ f'(t)=u'(t)+iv'(t) $$
と定める。$u(t)$ を $f(t)$ の 実部 といい、$\mathrm{Re}\,f(t)$ と書く。

微分と実部の性質

$f$、$g$ を複素数の値をとる微分可能な関数、$Q$ を複素数の定数、$k$ を実数の定数とする。
(1) $(e^{i\omega t})'=i\omega e^{i\omega t}$($\omega$ は実数の定数)。
(2) $(f+g)'=f'+g'$、$(Qf)'=Qf'$。
(3) $\mathrm{Re}(f+g)=\mathrm{Re}\,f+\mathrm{Re}\,g$、$\mathrm{Re}(kf)=k\,\mathrm{Re}\,f$、$(\mathrm{Re}\,f)'=\mathrm{Re}(f')$。

  1. $e^{i\omega t}=\cos\omega t+i\sin\omega t$ なので、定義により
    $$ (e^{i\omega t})'=-\omega\sin\omega t+i\omega\cos\omega t=i\omega(\cos\omega t+i\sin\omega t)=i\omega e^{i\omega t} $$
    である($i\omega\cdot i\sin\omega t=-\omega\sin\omega t$ を使った)。
    (2)(3) は、実部と虚部に分けて書けば実数の関数の微分の性質から出る。
    (2)(3) の証明を開く

    (2) $f=u+iv$、$g=p+ir$ とすると $(f+g)'=(u+p)'+i(v+r)'=f'+g'$ である。$Q=\alpha+i\beta$ とすると $Qf=(\alpha u-\beta v)+i(\alpha v+\beta u)$ で、微分すると $(\alpha u'-\beta v')+i(\alpha v'+\beta u')=Q(u'+iv')=Qf'$ である。

    (3) 実部は $u+iv\mapsto u$ なので、足し算と実数倍は実部ごとに行われる。また $\mathrm{Re}\,f=u$ の導関数は $u'$ で、これは $f'=u'+iv'$ の実部である。$\square$

  1. は、$e^{i\omega t}$ が「微分すると $i\omega$ 倍になる関数」であることを言っている。実数の $e^{kt}$ が微分すると $k$ 倍になるのと同じ形である。$\cos\omega t$ や $\sin\omega t$ は微分すると互いに入れかわるが、2 つをまとめた $e^{i\omega t}$ は、微分しても自分の定数倍にしかならない。
    もう 1 つの鍵は、$a\cos\omega t+b\sin\omega t$ の形の関数が、複素数 1 つで表せることである。
三角関数の合成と極形式

$a$、$b$ を実数とし、$W=a-bi$ とおく。このとき
$$ a\cos\omega t+b\sin\omega t=\mathrm{Re}\bigl(We^{i\omega t}\bigr) $$
である。さらに、$W\ne0$ のとき $W$ を極形式で $W=re^{-i\varphi}$($r=\lvert W\rvert=\sqrt{a^2+b^2}$)と書くと
$$ \mathrm{Re}\bigl(We^{i\omega t}\bigr)=r\cos(\omega t-\varphi) $$
である。

$We^{i\omega t}=(a-bi)(\cos\omega t+i\sin\omega t)=(a\cos\omega t+b\sin\omega t)+i(a\sin\omega t-b\cos\omega t)$ なので、実部は $a\cos\omega t+b\sin\omega t$ である。また $W=re^{-i\varphi}$ なら、複素数の掛け算は回転と拡大 の定理「偏角の足し算と加法定理」により $We^{i\omega t}=re^{i(\omega t-\varphi)}=r\cos(\omega t-\varphi)+ir\sin(\omega t-\varphi)$ で、実部は $r\cos(\omega t-\varphi)$ である。$\square$

これは 加法定理から積和・和積・合成・正接の公式を導く の命題「三角関数の合成の公式」を、複素数の極形式で言いなおしたものである。

合成を複素数で行う
  1. $1.2\cos100t+1.6\sin100t$。$W=1.2-1.6i$ で、$\lvert W\rvert=\sqrt{1.44+2.56}=2$ である。$W=2\left(0.6-0.8i\right)$ で、$\cos\varphi=0.6$、$\sin\varphi=0.8$ となる角 $\varphi=0.9272\ldots$($53.13\ldots^\circ$)について $W=2e^{-i\varphi}$ である。よって
    $$ 1.2\cos100t+1.6\sin100t=2\cos(100t-\varphi) $$
    である。
  2. $2\sin100t$。$a=0$、$b=2$ で $W=-2i=2e^{-i\pi/2}$ なので、$2\sin100t=2\cos\left(100t-\dfrac\pi2\right)$ である。ex-acc-single の (2) のコイルの電流で、偏角 $-\dfrac\pi2$ が $90^\circ$ の遅れにあたる。

インピーダンス

インピーダンスと定常な解

$R\ge0$、$L>0$、$C>0$、$\omega>0$ を定数とする。複素数
$$ Z=R+i\omega L+\frac1{i\omega C}=R+i\left(\omega L-\frac1{\omega C}\right) $$
を、抵抗 $R$、コイル $L$、コンデンサ $C$ の直列回路の、角周波数 $\omega$ での インピーダンス という。$R$、$i\omega L$、$\dfrac1{i\omega C}$ をそれぞれ抵抗・コイル・コンデンサのインピーダンスという。
方程式 $Lq''+Rq'+\dfrac qC=V_0\cos\omega t$ の解 $q$ のうち、定数 $a$、$b$ によって $q=a\cos\omega t+b\sin\omega t$ と書けるものを 定常な解 という。

$\dfrac1{i\omega C}=\dfrac{-i}{\omega C}$(分母と分子に $-i$ を掛けた)なので、2 つ目の等号が成り立つ。抵抗のインピーダンスは正の実数、コイルは虚軸の正の向き、コンデンサは虚軸の負の向きにある。図 1 の $0$、$90^\circ$ の遅れ、$90^\circ$ の進みは、この 3 つの向きの偏角 $0$、$\dfrac\pi2$、$-\dfrac\pi2$ にちょうど符号を変えて対応する。これを確かめるのが次の主定理である。

主定理:定常な電流は $\dfrac{V_0}{Z}e^{i\omega t}$ の実部

直列回路の定常な電流

$R\ge0$、$L>0$、$C>0$、$\omega>0$、$V_0>0$ を定数とし、def-acc-impedance のインピーダンス $Z$ が $0$ でないとする。このとき
$$ Lq''+Rq'+\frac qC=V_0\cos\omega t $$
は定常な解をただ 1 つもち、それは $q=\mathrm{Re}\left(\dfrac{V_0}{i\omega Z}e^{i\omega t}\right)$ である。その電流 $I=q'$ は
$$ I(t)=\mathrm{Re}\left(\frac{V_0}{Z}e^{i\omega t}\right)=\frac{V_0}{\lvert Z\rvert}\cos(\omega t-\arg Z) $$
である。つまり、電流の振幅は $\dfrac{V_0}{\lvert Z\rvert}$ で、電流の山は電圧の山より角 $\arg Z$ に当たる時間だけ遅れる($\arg Z<0$ なら進む)。

$R>0$ なら $Z$ の実部が正なので、$Z\ne0$ はいつも成り立つ。$R=0$ のときは、$\omega L=\dfrac1{\omega C}$、つまり $\omega=\dfrac1{\sqrt{LC}}$ のときだけ $Z=0$ になる。偏角 $\arg Z$ は $-\dfrac\pi2\le\arg Z\le\dfrac\pi2$ の範囲にとる($Z$ の実部 $R$ が $0$ 以上なので、この範囲にとれる)。

方針:$e^{i\omega t}$ の定数倍を方程式に代入すると、微分が $i\omega$ 倍になって、方程式が複素数の 1 次方程式になる。実部をとって実数の解を得る。一意性は係数の比較で示す。
段 1(複素数の方程式)。$Q$ を複素数の定数とし、$f(t)=Qe^{i\omega t}$ とおく。lem-acc-rules の (1)(2) により $f'=i\omega f$、$f''=(i\omega)^2f=-\omega^2f$ なので
$$ Lf''+Rf'+\frac fC=\left(-\omega^2L+i\omega R+\frac1C\right)f $$
である。右辺のかっこの中は
$$ -\omega^2L+i\omega R+\frac1C=i\omega\left(R+i\omega L+\frac1{i\omega C}\right)=i\omega Z $$
と書ける(右辺を展開すると $i\omega R+i^2\omega^2L+\dfrac{i\omega}{i\omega C}$ になる)。
段 2(存在)。$Q=\dfrac{V_0}{i\omega Z}$ とおく($\omega>0$、$Z\ne0$ なので分母は $0$ でない)。段 1 から $Lf''+Rf'+\dfrac fC=i\omega ZQe^{i\omega t}=V_0e^{i\omega t}$ である。両辺の実部をとり、$L$、$R$、$\dfrac1C$ が実数であることと lem-acc-rules の (3) を使うと、$q=\mathrm{Re}\,f$ について
$$ Lq''+Rq'+\frac qC=\mathrm{Re}\bigl(V_0e^{i\omega t}\bigr)=V_0\cos\omega t $$
となる。lem-acc-polar により $q=\mathrm{Re}(Qe^{i\omega t})$ は $a\cos\omega t+b\sin\omega t$ の形なので、定常な解である。
段 3(一意性)。$q_1$、$q_2$ を 2 つの定常な解とし、$d=q_1-q_2=a\cos\omega t+b\sin\omega t$ とおく。2 つの方程式を引くと $Ld''+Rd'+\dfrac dC=0$ である。$K=\dfrac1C-\omega^2L$ とおいて左辺を計算すると
$$ Ld''+Rd'+\frac dC=(Ka+\omega Rb)\cos\omega t+(-\omega Ra+Kb)\sin\omega t $$
である。これがすべての $t$ で $0$ なので、$t=0$ を代入して $Ka+\omega Rb=0$、$t=\dfrac\pi{2\omega}$ を代入して $-\omega Ra+Kb=0$ である。この連立 1 次方程式の係数の行列式は $K^2+\omega^2R^2$ で、$K=-\omega\left(\omega L-\dfrac1{\omega C}\right)$ だから
$$ K^2+\omega^2R^2=\omega^2\left(R^2+\left(\omega L-\frac1{\omega C}\right)^2\right)=\omega^2\lvert Z\rvert^2>0 $$
である。よって $a=b=0$、つまり $q_1=q_2$ である。
段 4(電流)。lem-acc-rules の (3) と段 1 の $f'=i\omega f$ により
$$ I=q'=\mathrm{Re}(f')=\mathrm{Re}\bigl(i\omega Qe^{i\omega t}\bigr)=\mathrm{Re}\left(\frac{V_0}Ze^{i\omega t}\right) $$
である。$Z=\lvert Z\rvert e^{i\arg Z}$ なので $\dfrac{V_0}Z=\dfrac{V_0}{\lvert Z\rvert}e^{-i\arg Z}$ で、lem-acc-polar により $I=\dfrac{V_0}{\lvert Z\rvert}\cos(\omega t-\arg Z)$ である。$\square$

段 1 の計算がこの記事の中心である。$a\cos\omega t+b\sin\omega t$ を代入すると $\cos$ と $\sin$ が入れかわって 2 つの式の連立方程式になったが(段 3 の左辺)、$e^{i\omega t}$ を代入すると、微分はどれも $i\omega$ 倍になるだけで、方程式は $i\omega ZQ=V_0$ という 1 つの複素数の等式になる。
複素数平面で、抵抗 3、コイル 7i、コンデンサ −3i のインピーダンスを矢印でつなぐと、和 Z=3+4i になる 複素数平面で、抵抗 3、コイル 7i、コンデンサ −3i のインピーダンスを矢印でつなぐと、和 Z=3+4i になる

$R=3$、$\omega L=7$、$\dfrac1{\omega C}=3$ の回路

$V=10\cos100t$、$R=3$、$L=0.07$、$C=\dfrac1{300}$ とする。$\omega=100$ なので $\omega L=7$、$\dfrac1{\omega C}=\dfrac{300}{100}=3$ で、
$$ Z=3+i(7-3)=3+4i,\qquad\lvert Z\rvert=\sqrt{9+16}=5 $$
である(図 2)。$\arg Z=\varphi$ は $\cos\varphi=\dfrac35$、$\sin\varphi=\dfrac45$ となる角で、$\varphi=0.9272\ldots$($53.13\ldots^\circ$)である。thm-acc-main により
$$ I=\frac{10}5\cos(100t-\varphi)=2\cos(100t-\varphi) $$
である。$\dfrac{V_0}Z=\dfrac{10}{3+4i}=\dfrac{10(3-4i)}{25}=1.2-1.6i$ なので、lem-acc-polar の形では $I=1.2\cos100t+1.6\sin100t$ である(ex-acc-polar の (1))。電流の山は電圧の山より $\dfrac\varphi{100}=0.00927\ldots$ 秒遅れる(図 3)。

三角関数のまま代入して確かめる計算を開く

$Q=\dfrac{V_0}{i\omega Z}=\dfrac{1.2-1.6i}{100i}=\dfrac{(1.2-1.6i)(-i)}{100}=\dfrac{-1.6-1.2i}{100}$ なので、lem-acc-polar で $a=-0.016$、$b=0.012$、つまり $q=-0.016\cos100t+0.012\sin100t$ である。$q'=1.6\sin100t+1.2\cos100t$、$q''=160\cos100t-120\sin100t$ で、

$$0.07q''+3q'+300q=(11.2+3.6-4.8)\cos100t+(-8.4+4.8+3.6)\sin100t=10\cos100t$$

である。

電圧 10cos100t(青)と電流 2cos(100t−φ)(赤)。電流の山は電圧の山より約 9.27 ミリ秒遅れる 電圧 10cos100t(青)と電流 2cos(100t−φ)(赤)。電流の山は電圧の山より約 9.27 ミリ秒遅れる
素子が 1 つだけの ex-acc-single は主定理の仮定(3 つとも直列にある)にあてはまらないが、その素子のインピーダンスを $Z$ として同じ式 $I=\mathrm{Re}\left(\dfrac{V_0}Ze^{i\omega t}\right)$ が成り立っている。抵抗だけなら $Z=R$ で $\arg Z=0$、コイルだけなら $Z=i\omega L$ で $\arg Z=\dfrac\pi2$($90^\circ$ 遅れる)、コンデンサだけなら $Z=\dfrac1{i\omega C}=-\dfrac i{\omega C}$ で $\arg Z=-\dfrac\pi2$($90^\circ$ 進む)である。どの場合も、振幅 $\dfrac{V_0}{\lvert Z\rvert}$ は $\dfrac{10}5=2$ である($\omega L=5$、$\dfrac1{\omega C}=5$)。

複素数のオームの法則

thm-acc-main の電流を $I=\mathrm{Re}(\mathbf Ie^{i\omega t})$($\mathbf I=\dfrac{V_0}Z$)と書く。各素子の電圧は、lem-acc-rules により
$$ RI=\mathrm{Re}\bigl(R\mathbf Ie^{i\omega t}\bigr),\qquad LI'=\mathrm{Re}\bigl(i\omega L\mathbf Ie^{i\omega t}\bigr),\qquad\frac qC=\mathrm{Re}\left(\frac1{i\omega C}\mathbf Ie^{i\omega t}\right) $$
である($q=\mathrm{Re}\left(\dfrac{\mathbf I}{i\omega}e^{i\omega t}\right)$ を使った)。各素子で「電圧の複素振幅 = インピーダンス × 電流の複素振幅」という、オームの法則 $V=RI$ と同じ形の関係が成り立つ。直列回路ではそれらの和が $V_0$ なので、インピーダンスを足した $Z$ が全体のインピーダンスになる。

図 2 の矢印をつなぐ図は、この足し算を複素数平面で描いたものである。電圧は $Z$ の向き、電流は実軸の向きにあると思えば、電圧の矢印は電流の矢印より $\arg Z$ だけ回っている。

3 つの素子をくらべる

素子ごとのインピーダンスと位相

$V=10\cos100t$ のとき、ex-acc-single と ex-acc-main の素子・回路をくらべる。

素子・回路インピーダンス $Z$$\lvert Z\rvert$$\arg Z$電流
抵抗 $R=5$$5$$5$$0$$2\cos100t$(同じ位相)
コイル $L=0.05$$i\omega L=5i$$5$$\dfrac\pi2$$2\cos\left(100t-\dfrac\pi2\right)$($90^\circ$ 遅れる)
コンデンサ $C=0.002$$\dfrac1{i\omega C}=-5i$$5$$-\dfrac\pi2$$2\cos\left(100t+\dfrac\pi2\right)$($90^\circ$ 進む)
直列 $R=3$、$L=0.07$、$C=\dfrac1{300}$$3+4i$$5$$0.927\ldots$$2\cos(100t-0.927\ldots)$

コイルのインピーダンスの大きさ $\omega L$ は $\omega$ に比例し、コンデンサの $\dfrac1{\omega C}$ は $\omega$ に反比例する。速く変わる電流ほどコイルは通しにくく、コンデンサは通しやすい。

系:共振

ex-acc-main の回路で、コイルの $7i$ とコンデンサの $-3i$ は一部が打ち消し合っていた。$\omega$ を変えて完全に打ち消し合うようにすると、$\lvert Z\rvert$ が最小になり、電流が最大になる。

直列回路の共振

$R>0$、$L>0$、$C>0$、$V_0>0$ を定数とし、$\omega_0=\dfrac1{\sqrt{LC}}$ とおく。thm-acc-main の定常な電流の振幅 $\dfrac{V_0}{\lvert Z\rvert}$ を $\omega>0$ の関数とみると、それは $\omega=\omega_0$ のときに限って最大になり、最大値は $\dfrac{V_0}R$ である。そのとき $\arg Z=0$ で、電流は電圧と同じ位相で振動する。$\omega<\omega_0$ では $\arg Z<0$(電流が進む)、$\omega>\omega_0$ では $\arg Z>0$(電流が遅れる)である。

$X(\omega)=\omega L-\dfrac1{\omega C}$ とおくと $\lvert Z\rvert^2=R^2+X(\omega)^2$ である。$\omega L$ も $-\dfrac1{\omega C}$ も $\omega>0$ で増加するので、$X(\omega)$ は増加関数である。$X(\omega_0)=\dfrac1{\sqrt{LC}}\cdot L-\dfrac{\sqrt{LC}}C=\sqrt{\dfrac LC}-\sqrt{\dfrac LC}=0$ なので、$\omega<\omega_0$ で $X<0$、$\omega>\omega_0$ で $X>0$ である。よって $\lvert Z\rvert^2\ge R^2$ で、等号は $\omega=\omega_0$ のときに限る。振幅 $\dfrac{V_0}{\lvert Z\rvert}$ は $\lvert Z\rvert$ が小さいほど大きいので、主張の最大が得られる。偏角は、$Z=R+iX$ の実部 $R$ が正なので、$X$ と同じ符号をもつ。$\square$

共振する角周波数

ex-acc-main の $R=3$、$L=0.07$、$C=\dfrac1{300}$ では
$$ \omega_0=\frac1{\sqrt{0.07\times\frac1{300}}}=\sqrt{\frac{300}{0.07}}=65.46\ldots $$
で、そのとき電流の振幅は $\dfrac{10}3=3.33\ldots$ である。$\omega=100$ での振幅 $2$ よりも大きい。$\omega=100$ では $\omega>\omega_0$ なので $\arg Z>0$ で、電流は遅れていた(ex-acc-main)。

電流の振幅の山がちょうど $\omega_0$ にあるのに対し、強制振動と共振(高校数学) の主定理「減衰があるときの定常解と振幅」では、振幅の山が $\sqrt{\omega_0^2-2\gamma^2}$ と少し左にずれた。これは食い違いではない。あちらの振幅はおもりの位置の振幅で、この記事では電荷 $q$ にあたる。$q$ の振幅は $\lvert Q\rvert=\dfrac{V_0}{\omega\lvert Z\rvert}$ で、電流の振幅を $\omega$ で割ったものである。$\omega$ で割る分だけ、山は小さい $\omega$ の側に寄る。

詳細

$\omega\lvert Z\rvert=\sqrt{\omega^2R^2+\left(\omega^2L-\dfrac1C\right)^2}=L\sqrt{\left(\omega_0^2-\omega^2\right)^2+\left(\dfrac RL\right)^2\omega^2}$ なので、$F=\dfrac{V_0}L$、$2\gamma=\dfrac RL$ とおくと $\lvert Q\rvert=\dfrac F{\sqrt{(\omega_0^2-\omega^2)^2+4\gamma^2\omega^2}}$ で、強制振動と共振(高校数学) の振幅の式そのものである。上の数値では $\gamma=\dfrac3{0.14}=21.42\ldots$、$\omega_0^2=\dfrac{300}{0.07}=4285.7\ldots$ で、$q$ の振幅の山は $\omega=\sqrt{\omega_0^2-2\gamma^2}=58.02\ldots$ にある($\sqrt{3367.3\ldots}=58.028\ldots$)。

平均の電力

電圧 $V=V_0\cos\omega t$ と電流 $I=I_0\cos(\omega t-\varphi)$($I_0=\dfrac{V_0}{\lvert Z\rvert}$、$\varphi=\arg Z$)の積 $VI$ を、回路が受けとる電力という(高校物理の約束)。1 周期 $T=\dfrac{2\pi}\omega$ の平均は
$$ \frac1T\int_0^TVI\,dt=\frac{V_0I_0}2\cos\varphi $$
である。実際、積和の公式(加法定理から積和・和積・合成・正接の公式を導く の命題「積和の公式」)により
$$ \cos\omega t\cos(\omega t-\varphi)=\frac12\bigl(\cos(2\omega t-\varphi)+\cos\varphi\bigr) $$
で、$\cos(2\omega t-\varphi)$ の 1 周期の積分は $\left[\dfrac{\sin(2\omega t-\varphi)}{2\omega}\right]_0^T=\dfrac{\sin(4\pi-\varphi)-\sin(-\varphi)}{2\omega}=0$ だからである。
ex-acc-main では $\dfrac{10\times2}2\times\dfrac35=6$ である。これは抵抗だけで考えた $\dfrac{RI_0^2}2=\dfrac{3\times4}2=6$ に等しい。$\cos\varphi=\dfrac R{\lvert Z\rvert}$ なので、いつも $\dfrac{V_0I_0}2\cos\varphi=\dfrac{\lvert Z\rvert I_0^2}2\cdot\dfrac R{\lvert Z\rvert}=\dfrac{RI_0^2}2$ となる。コイルとコンデンサは、平均すると電力を受けとらない。

例と反例

thm-acc-main の仮定・結論の範囲を外すと何が崩れるかを並べる。

外す条件反例成り立たなくなること
素子を直列につなぐ抵抗 $3$ とコイル($\omega L=4$)を並列につなぐインピーダンスの和 $3+4i$ で電流が決まる
定常な解だけを見るex-acc-main の回路を $q(0)=0$、$I(0)=0$ から始める電流がはじめから $2\cos(100t-\varphi)$ である
$Z\ne0$$R=0$、$\omega=\dfrac1{\sqrt{LC}}$定常な解がある
反例:並列ではインピーダンスの逆数を足す

電圧 $V_0\cos\omega t$ に、抵抗 $3$ とコイル($\omega L=4$)を並列につなぐ。どちらの素子にも同じ電圧 $V_0\cos\omega t$ がかかり、回路全体の電流は 2 つの枝の電流の和である(高校物理の法則)。ex-acc-single と同じ計算で、抵抗の枝の電流は $\mathrm{Re}\left(\dfrac{V_0}3e^{i\omega t}\right)$、コイルの枝の電流は $\mathrm{Re}\left(\dfrac{V_0}{4i}e^{i\omega t}\right)$ なので、全体の電流は $\mathrm{Re}\left(\dfrac{V_0}{Z_{\mathrm p}}e^{i\omega t}\right)$、ただし
$$ \frac1{Z_{\mathrm p}}=\frac13+\frac1{4i}=\frac13-\frac i4=\frac{4-3i}{12},\qquad Z_{\mathrm p}=\frac{12}{4-3i}=\frac{12(4+3i)}{25}=\frac{48+36i}{25} $$
である。$\lvert Z_{\mathrm p}\rvert=\dfrac{12}5=2.4$ で、直列のときの $\lvert3+4i\rvert=5$ と異なる。$V_0=10$ なら電流の振幅は $\dfrac{10}{2.4}=4.16\ldots$ で、直列の $2$ の 2 倍を超える。偏角は $\arg Z_{\mathrm p}=36.86\ldots^\circ$ で、直列の $53.13\ldots^\circ$ とも異なる。並列では、インピーダンスではなくその逆数を足す。

反例:静止から始めた電流ははじめ定常な電流と違う

ex-acc-main の回路に、$t=0$ で電圧をかけ始める。はじめ電荷も電流もないとして $q(0)=0$、$I(0)=q'(0)=0$ とする。定常な電流 $2\cos(100t-\varphi)=1.2\cos100t+1.6\sin100t$ は $t=0$ で $1.2$ なので、この条件を満たさない。
解 $q$ と定常な解 $q_{\mathrm s}$ の差 $z=q-q_{\mathrm s}$ は、2 つの方程式を引いて $0.07z''+3z'+300z=0$ を満たす。特性方程式 $0.07\lambda^2+3\lambda+300=0$ の解は
$$ \lambda=\frac{-3\pm\sqrt{9-84}}{0.14}=-\frac{150}7\pm\frac{250\sqrt3}7i=-21.42\ldots\pm61.85\ldots i $$
なので、微分方程式としての指数関数・三角関数 の定理「定数係数の 2 階線形微分方程式の一般解」により $z=e^{-\frac{150}7t}(A\cos\beta t+B\sin\beta t)$($\beta=\dfrac{250\sqrt3}7$)である。この項は $e^{-21.4t}$ の速さで $0$ に近づく(強制振動と共振(高校数学) の系「どの解も定常解に近づく」と同じ)。
実際の電流と定常な電流の差は、$t=0.02$ で $-0.68\ldots$、$t=0.1$ で $-0.13\ldots$、$t=0.2$ で $-0.014\ldots$ と小さくなり、$0.1$ 秒ほどで電流は定常な電流とほとんど区別がつかなくなる(図 4)。定常な解は、十分に時間がたった後の電流を表している。

t=0 に静止の状態から電圧をかけた電流(紫)は、はじめ定常な電流(赤の破線)とずれるが、0.1 秒ほどで重なる t=0 に静止の状態から電圧をかけた電流(紫)は、はじめ定常な電流(赤の破線)とずれるが、0.1 秒ほどで重なる

反例:$Z=0$ なら定常な解はない

$R=0$、$L=0.07$、$C=\dfrac1{300}$、$\omega=\omega_0=\dfrac1{\sqrt{LC}}$ とすると、$\omega^2L=\dfrac1C$ で、$Z=0$ である。$q=a\cos\omega t+b\sin\omega t$ を代入すると $q''=-\omega^2q$ なので
$$ Lq''+\frac qC=\left(\frac1C-\omega^2L\right)q=0 $$
となり、$V_0\cos\omega t$($V_0>0$)に等しくならない。定常な解は 1 つもない。解は 強制振動と共振(高校数学) の主定理「減衰がないときの解」の (2) の形で、$t\sin\omega t$ の項を含み、振幅が限りなく大きくなる。

大学数学で見る:伝達関数

thm-acc-main の段 1 で、方程式の左辺に $e^{i\omega t}$ を入れると、多項式 $L\lambda^2+R\lambda+\dfrac1C$ に $\lambda=i\omega$ を代入した数が掛かって出てきた。これは、この多項式を特性方程式にもつ同次方程式と同じ多項式である(ex-acc-cx-transient)。電流で書くと、電圧 $V_0e^{i\omega t}$ に対する定常な電流は $H(i\omega)V_0e^{i\omega t}$、ただし
$$ H(\lambda)=\frac\lambda{L\lambda^2+R\lambda+\frac1C}=\frac1{R+L\lambda+\frac1{C\lambda}} $$
である。$H$ を回路の 伝達関数 といい、$\dfrac1{H(i\omega)}$ がインピーダンス $Z$ である。

Laplace 変換との関係を開く

Laplace変換の入口(高校数学) では、初期値が $0$ の方程式に Laplace 変換を施すと、微分が $s$ を掛けることに変わった。$q(0)=q'(0)=0$ として $Lq''+Rq'+\dfrac qC=V(t)$ を変換すると $\left(Ls^2+Rs+\dfrac1C\right)\mathcal L[q](s)=\mathcal L[V](s)$ で、電流 $I=q'$ の変換は $\mathcal L[I](s)=s\mathcal L[q](s)=H(s)\mathcal L[V](s)$ となる。Laplace 変換の $s$ を $i\omega$ に置いたものが、この記事の複素数の計算である。「定数係数の線形な方程式に $e^{i\omega t}$ を入れると、定常な出力は伝達関数の値を掛けた $H(i\omega)e^{i\omega t}$ になる」という形は、素子の数が増えても、特性方程式の解の実部がすべて負である限り同じように成り立つ(この記事では証明しない)。

さらに先へ

  • 方程式が線形なので、電圧が 2 つの正弦波の和なら、それぞれの定常な電流を足したものが和に対する定常な電流である(重ね合わせ)。矩形波やのこぎり波のように正弦波でない周期的な電圧も、正弦波の和に分ければ、各項に thm-acc-main を使える。その分け方が 矩形波・のこぎり波のFourier級数(高校数学) の主題である。
  • 2 つの量が互いに影響しあう方程式を固有ベクトルの向きに分けて解く方法は 連立微分方程式と行列の固有値(高校数学) で扱った。そこでも、指数関数が「微分すると定数倍になる」ことが鍵だった。この記事の $e^{i\omega t}$ も同じ役をしている。
  • 複素数の掛け算が回転と拡大であること(複素数の掛け算は回転と拡大)により、$\dfrac{V_0}Z$ で割ることは「振幅を $\dfrac1{\lvert Z\rvert}$ 倍し、角 $\arg Z$ だけ逆に回す」ことである。

関連項目

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